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#28 [[天の邪鬼]ふむ(2/3)◆s8/1o/v/Vc]
草木を掻き分けて森を進む。
今年齢六十七を迎える老人には厳しいものがあった。
しかし、それが山菜のためとなると、それすら楽しみに変わる。
手の松明の明かりを頼りに歩を進めていった。
山の中腹辺りまで来ただろうか。
もうそろそろ目的地が見えてくると心躍らされた時、頭上から声が下りてきた。

「ここを通りたいか…」

低い男のような声であった。
はて、誰ぞおるのか。
老人は小さく呟くと頭上を見上げた。
しかし暗い木々が不気味に風に靡いてるだけで、人の姿は見当たらない。
空耳かえ…。
老人は正面に顔を戻すと、溜め息を一つ吐いて再び歩を進める。
するとどうしたことか、また同じ声がする。
これはもはや空耳ではない。
老人は急に恐ろしくなった。
夜に森なんぞに入ったもんじゃから鬼に出くわしたのやも知れん…。もしくは夜道で良く見えなんだから、道を反れて鬼の巣窟に迷い込んでしまったか…。
老人は山に入ったことを後悔した。
これでは山菜採りどころではない。
引き返そうとすると、また声が問う。
ここを通りたいか…。
進もうとすれば、またまた声が問う。
これは答えねば帰して貰えぬやも知れぬ。
そう考えた老人は震える声で答えた。
通りたい。
声はすぐに返ってきた。
通らせない。
老人は絶望に打ちひしがれて尚も問う。
俺を帰らしてはくれぬのか。
帰らして欲しいのか。
帰りたいとも。
帰らしてやらぬ。
老人はそこで不思議に思った。
ある考えを思い付いた老人は声の主に再び問いた。

⏰:08/03/03 12:54 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#29 [[天の邪鬼]ふむ(3/3)◆s8/1o/v/Vc]
この先には何があるのか。
何があると思う。
山菜じゃ。
何もない。
老人は確信した。
ここぞとばかりに最後の質問をする。
やはり帰してくれぬのかのぅ。
帰して欲しいか。
声の主が答えるとしばらくの沈黙の後、老人が返す。
いや、帰りとうない。
ならば帰れ。
あっさり承諾を得た老人は足早に山を下りていった。
そういう話であった。
さて…、
男はどのくらい歩いたのであろうか。
山の中腹に差し掛かった辺りであった。
不意に頭上から声が降り注がれた。

「ここを通りたいか…」

男は落ち着いた口調で答えた。
通りたくない。
声の主の答えが返ってくる。
ならば通れ。
声の主が言い終えるとすぐに男は問い掛ける。
俺を喰らうか。
喰らって欲しいのか。
喰らって欲しいさ。
喰らわぬ。
男は会話を楽しんでいるようにさえ伺えた。
口元に微笑を浮かべつつ、男はゆっくりと最後の質問のために口を開く。

俺の…使い魔にならぬか。

男は依然として微笑を含めたまま、静かに次の言葉を待った…。

⏰:08/03/03 13:10 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


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