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#428 [帰路(1/3)◆vzApYZDoz6]
がたんがたんがたん。
電車が私達2人の前を、音をたてながら通過する。
かんかんかん。
耳障りな警告音は鳴り止まない。
黒と黄色のスプライトポールの前で、次に通過するであろう電車を2人並んで待っている。
隣に立つ彼女が、なんて事ないように話し始める。
透き通ったその声は夜空に吸い上げられていく。
その先では、真冬の星空が燃えんばかりに瞬いていた。
まるで、これが最後の煌めきだと言わんばかりに。
冷たい夜風が吹き抜ける。
散った木葉が夜空に舞う。
かんかんかん。警告音が鳴り響く。
そして彼女は語り出す。
「もう、何年前の話になんのかなァ」
水色のジャンパーを羽織った彼女。
夏はショートだった髪も、今ではセミロング。
さりげなく存在感を放つフチ無しの眼鏡が、燃え上がる星空の光を淡く反射する。
奥の瞳が、踏み切りのランプの赤い光を吸収する。
黒と黄色のスプライトポールの前で、2人並んで立っている。
かんかんかん。電車はまだ通過しないのか。
ふと彼女を見てみる。
桃色のマフラーに、黒い手袋。彼女が寒がりだということは最近知った。
彼女は語る。透き通った声に混じる白い吐息が、乾燥した冬の空気に消えていく。
かんかんかん。乾燥した冬の空気に響き渡る警告音。
そんなものどうでもいいから早く電車を走らせろよJR。
「隣町に女の子が居てさァ。女の子。14歳。ちょうど今のあたしらと同い年」
:08/06/26 16:11 :P903i :yCWejlVo
#429 [帰路(2/3)◆vzApYZDoz6]
吐息は白く、私の頬は赤くなっていた。
彼女の横顔は、どこか黄昏て見えた。
かんかんかん。鳴り響く警告音。赤いランプ。
塾の帰り道。黒と黄色のスプライトポールの前で、2人並んで立っている。
寒空の下、脳内では先程解いた二次関数のグラフが蘇る。
A=√4。対になるB=−√4。
頭上では星空が輝くのをやめない。
それが例え死の直前だったとしても。
彼女の声はあの星空に届いているのだろうか。
揺れるセミロングの髪。
その向こうで、走ってくる電車のヘッドライトが揺れている。
「何でかは分からないけどさ」
寒さで手がかじかむ。彼女は大丈夫なのだろうか。
かんかんかん。鳴り響く警告音。赤いランプ。
吹き抜ける風がまるでノイズのように聞こえる。
それに身を任せて舞い散る木葉。
最後の1枚。終わりはすぐそこ。
そして彼女は語り出す。
「電車につっこんでさ」
かんかんかん。鳴り響く警告音。赤いランプ。
黒と黄色のスプライトポールの前で、2人並んで立っている。
:08/06/26 16:12 :P903i :yCWejlVo
#430 [帰路(2/3)◆vzApYZDoz6]
がたんがたんがたん。電車は音をたてながら、もうすぐそこまで迫っている。
聞き取りが難しくなる彼女の声。
横顔が、どこか遠くを眺めている。
かんかんかん。鳴り響く警告音。赤いランプ。
黒と黄色のスプライトポールの前で、2人並んで立っている。
がたんがたんがたんがたん。電車がもうすぐ目の前にやってくる。
そして彼女は語り出す。
「自殺したんだよね」
がたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたん。
電車が私達2人の前を、凄まじい勢いで通過する。
まるで光のように。
黒と黄色のスプライトポールが上がっていく。赤いランプが消灯する。
彼女が掛けているフチ無し眼鏡が、燃え上がる真冬の星空の光を反射する。
なんて事ないように彼女は進みだす。
私もそれに続く。冷たい風もついてくる。
白い吐息を押しのけて、ノイズのように絡みつく。
頭の中で耳障りなあの音が蘇る。
かんかんかん。それは、終わりへいざなう警告音。
私は彼女の後ろ姿を眺めながら、顔も名前も何も知らないその女の子に、何かを想っていた。
:08/06/26 16:13 :P903i :yCWejlVo
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