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#447 [[夏恋(1/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
夏休みに入ってもうすぐ一ヶ月。暑さはちっともましにならない。
ユウスケは今日も朝から遊びに出掛けて行った。学校の宿題なんてそっちのけだ。
多分、八月後半になってから家族を巻き込んで焦るんだろう。毎年のことだ。
十歳の夏休みを、ユウスケは心の底から楽しんでいる。
幼なじみのコウタやタモツと集まるのももちろん楽しいが、今年はいつもの夏と少し違っていた。
転校生の女子、ナツメさんも一緒なのだ。ナツメさんにはいつも世話係のようにおてんば娘のレイコがくっついているけど、お盆の間レイコは田舎に帰省している。ユウスケは邪魔者がいないのが嬉しかった。
「ナツメさん、今日はどこ行く?」
「オレ駄菓子屋でジュース!」
「タモツには聞いてないよ!」
「わたし、駄菓子屋さん行ってみたいな」
「えっナツメさん行ったことないの!?」
「うん、前に住んでたとこには無かったの」
:08/07/12 00:47 :SH903i :ImRIP7KU
#448 [[夏恋(2/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
四人は近所の古ぼけた駄菓子屋にやってきた。何歳なのか想像出来ないくらいしわしわのおばあちゃんが店番の駄菓子屋だ。
「おいコウタ、これ買ってくれよ! オレお金足りないや」
「やだよ〜自分で買ってよ〜」
タモツとコウタはチョコレート菓子を手にして言い合いをしている。
ユウスケはナツメさんに駄菓子屋のルールを教えてあげていた。
「これはあんまりおいしくないし高いからやめた方がいいよ、あ、コレ! このジュースはね、ここを歯でちぎって飲むんだ、それからこれは……」
ナツメさんは頷きながら興味津々といった様子で聞き入っていたが、急に見ていた駄菓子を手に取った。
「ユウスケくん、わたしこれにする」
「え、これ……?」
「うん。一緒に食べよう?」
ナツメさんが選んだのは、きれいな色の四角いグミがたくさん入った駄菓子だった。ユウスケの顔がみるみる笑顔になっていく。
「うん!」
:08/07/12 00:48 :SH903i :ImRIP7KU
#449 [[夏恋(3/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
駄菓子屋の外のベンチに座って、買ったばかりの駄菓子を開ける四人。タモツとコウタはすぐに食べ始めた。
「きれいね、このお菓子」
ナツメさんは爪楊枝に刺したグミを見つめるばかりでなかなか口に入れない。ユウスケもつられてグミを見つめた。
「ナツメさん、駄菓子屋楽しかった?」
「うん! あんなにお菓子があるなんてビックリしちゃった。スーパーより多いのね」
ユウスケの目に映るナツメさんの横顔は、夏の太陽に照らされてキラキラ輝いていた。
「ねぇ、食べよう! これ、まあまあおいしいからさ!」
ユウスケがそう言うと、ナツメさんは素直に頷いてグミを口に含む。
ゆっくりと味わって小さな一粒を飲み込むと、ユウスケに笑顔を見せた。
「ふふ、おいしい」
「でしょ!」
「ユウスケくんも食べて、ほら!」
たくさんのグミを、二人は笑顔で分け合った。残ったグミは、あと二つ。
「わたし……これ持って帰ろうかな」
「食べないの?」
「だって……食べたらなくなっちゃうもん」
ナツメさんは淋しそうに呟く。それを見て、ユウスケも少し淋しい気持ちになった。
「じゃあ僕も一個持って帰る! いい?」
これで二人とも淋しくない、ユウスケはそう思ったのだ。ナツメさんはびっくりしたように目を丸くした後で、「うん!」と満面の笑みを見せた。
暑い暑い夏の日、小さな恋の始まりです。
:08/07/12 00:49 :SH903i :ImRIP7KU
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