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#466 [8月のおしまい(3/3)◆vzApYZDoz6]
季節は夏、うだるような暑さの8月の午後。
自転車の前かごには、俺と彼女の黒い鞄が2つ。
途中で漕ぐ気力も無くなった自転車を押しながら、蝉の鳴き声が響く帰り道を歩いていた。
不意に、彼女の足が止まる。
「あ、飛行機雲」
「ん?」
汗を拭いながら、彼女が指差す空を見上げる。
高く、遠くまで突き抜けていく青空に、おもわず片目を瞑ってしまう程に強く輝く太陽。
彼女の指の先には、その太陽の光を受けて白さを増した一筋の雲があった。
「あぁ、俺目ぇ悪いから」
「見えねーのかよ」
まぁそれは嘘で、本当は飛行機雲とそれを吐き出し視界の端まで突き進む銀色の飛行機まで、ばっちりと見えていた。
「ああー…クソ暑い」
彼女は舌打ちをして悪態をつきながら、熱せられた道を再び歩き出す。
しかしこの言葉遣いはどうにかならないものだろうか。
「帰ったら麦茶でも飲むか…」
:08/08/27 10:00 :P903i :EWTxTBzE
#467 [8月のおしまい(2/3)◆vzApYZDoz6]
言ってしまえばド田舎のこの町は道のほとんどが装されておらず、また水をたっぷり湛えた田んぼのど真中を突っ切っているので、舗装された道路よりは暑くない。
ただ、それでも直射日光が、Yシャツに学ランのズボンという格好の俺に容赦なく襲いかかる。
「うへぇ…ズボンの中ぐしょぐしょだ」
「キモいこと言うなよ」
彼女はセーラー服。歩くたびに股下を風が通る。
「男子は冬が暖かいじゃん」なんて言う女子が多いが、夏の長ズボンよりかは冬のスカートの方が絶対にマシだと俺は思う。
なぜこのクソ暑い日にクソ暑い格好をしなければいけないのか。
登校日なんて、なくなればいいのに。
遠くから蝉の鳴き声が響く。
お馴染みのミンミンゼミに、シャーシャーと鳴くアブラゼミ。
それに混じって時折、つくつくぼーし、と別の鳴き声が聞こえてくる。
「夏もそろそろ終わりかぁ」
田んぼを抜けて、小さな交差点で進行方向を変える。
:08/08/27 10:01 :P903i :EWTxTBzE
#468 [8月のおしまい(3/3)◆vzApYZDoz6]
土造りの用水路から、ポチャン、とかわいい音がした。
「切ないなぁ、夏の終わりって」
用水路から目だけを覗かせるトノサマガエルを一瞥して、彼女はそう応えた。
「部活も引退したしな…これから高校受験かぁ……」
俺は今にもこちらに倒れてきそうな入道雲を眺めながら、ぽつりと呟く。
前を歩く彼女が立ち止まり、振り返った。
「…ねぇ」
「なに?」
「高校行ってもさぁ、またこんな夏に会えるかな」
「……えー……?」
柄にもなくセンチな事を言い出したので驚いたが、彼女の目は真剣だった。
ので、至極簡単に答えてみせた。
「…俺らなら大丈夫だろ」
「そっか…そうだよな!!」
彼女は嬉しそうに、きれいな顔で笑ってみせた。
ああ畜生。
そんな顔するからますます夏の終わりが恋しくなるんじゃねぇか。
:08/08/27 10:02 :P903i :EWTxTBzE
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