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#488 [イツワリ(2/3)◇東脂ヤ転
「本当にお前は馬鹿だな。何で俺が今このタイミングでその言葉を発したのか分かってないだろ?」

「…分かりたくもないけど」

「例を一つ上げよう」

彼は彼女の言葉を無視して話を続ける。

「さっきから何でお前はここに居るんだ?
図書室は勉強する奴が居る所で、お前みたいな勉強嫌いが居る場所じゃないぞ?」

一見、物凄く冷たく聞こえる彼の言葉に、慣れているのか彼女は真顔で返答する。

「そんなの決まってるじゃん。アンタがあたしと一緒に居たいと思って付き合ってあげてんの」

「俺の為に?」

「そ!アンタの為に」

⏰:08/09/18 11:43 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#489 [イツワリ(3/3)◇東脂ヤ転
「それが"偽り"だって言ってんだよ。誰がいつそんなこと頼んだ?」

「…あ………」

ここで初めて彼女の言葉が途切れた。
一方彼は「勝った」とでも言いたげな笑みを浮かべる。
しかし、

「ナルホド…分かった」

「?」

その時彼女が閃いたように身を乗り出した。

「あたしがココに居るのはアンタの為じゃなくて、あたしの為だ」

「…は?」

思いがけない答えに彼は困惑する。
しかしそれとは逆に彼女は自信たっぷりに言う。

「だってあたしがアンタの側に居たいから、その為に居るんだよ。
これなら"偽り"じゃないでしょ?」

満足げに笑う彼女を見ながら、彼は呟く。

「本当、お前にはかなわねぇよ」

偽りの無い笑顔がそこにあった。

⏰:08/09/18 11:46 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#490 [◆vzApYZDoz6]
勢いが衰えてきたな…

思いついたらなんか書こう

⏰:08/09/22 03:04 📱:P903i 🆔:7iMRmRKM


#491 [梓◇星空(1/3)]
――ねぇ、武志。あたしはあの空の星になるよ。



――…‥


彩奈はいなくなった。



人は死んでも、星になんかならない。

いなくなってしまえば、あの笑顔を見る事も、手を繋ぐ事も、髪を撫でる事も、キスする事も、抱き合う事も、できない。
すねた彼女の機嫌をとるためにラムレーズンのアイスを買ってあげる事も誕生日にサプライズで喜ばせる事もつまらない話を聞いてあげる事も俺の腕の中の寝顔を見る事も寝ている彼女に好きだと囁く事もできないもう俺は彩奈を見れない触れられない聞こえない彩奈はもういないいないいないいない――――



.

⏰:08/09/22 13:03 📱:SO703i 🆔:☆☆☆


#492 [梓◇星空(2/3)]
俺は彼女に生きていて欲しかった。それは彼女がまだ若くて将来があったからではなく、彼女の夢を応援していたからではなく、彼女の周りのみんなを悲しませるからではなく、俺が寂しいからだ。それだけの理由だ。



自分勝手だ。
治療が辛いと泣く彼女の気持ちより、俺は残される俺の事ばかり考えていた。でも、みんなそうだろう?

倒れた彼女を腕に抱いて「助けてください」だなんて叫んだ奴も、彼女を助けて欲しかったんじゃなくて押し潰されそうになる自分を助けて欲しかったんだ。

でも、俺はそんな事できなかった。葬式で彼女にすがりついて泣く事もできなかった。無駄だとわかっていたから。
祈りなんてものは、自分の心の捌け口でしかない。神がいるかどうかは知らないが、それは大抵、何もしてくれない。

⏰:08/09/22 13:25 📱:SO703i 🆔:☆☆☆


#493 [梓◇星空(3/3)]
それでも、もしかしたら、俺はそうするべきだったのかもしれない。すがりついて、泣き叫んで、死んじゃ嫌だ、と。それもまた、祈りなのだろう。
祈るという行為は、その祈りが誰かに向けたものだったとしても、結局は自分のための行為に他ならない。





彼女が残してくれた優しい嘘は、残される人にとって幾らかの救いとなった。

俺は今日も星空を見上げ、彩奈が幸せであるようにと、祈る。

⏰:08/09/22 13:35 📱:SO703i 🆔:☆☆☆


#494 [瞼の憂い(1/3)夕凪]
それは、まだ私が十代だった頃。親戚の居る0県へ電車で行った帰り道に出会った出来事だ。

私は、乗り継ぐ駅を間違え、見も知らぬ土地の小さな駅で、夕日を恨めしく睨んだ。駅の地図によると、故郷の隣のF県の、小さな村のようだった。故郷へは、県境の山を越えるか、大きく迂回するしかない。どちらにしても、その日の内の帰宅は無理だった。乗り継ぎを間違えた自分と、折り返しの電車の無い小さな山村をうらんだ。
仕方なく駅を出ると、古びた木製のベンチに、美しい和装の女性が座っていた。女性は当時の私と同じ位の年頃にみえた。少し虚ろな目で、小さく鼻歌を歌っている。彼女に宿はないかと尋ねた。彼女は、ゆっくりした喋りで、宿はないが、自分の家に空き部屋が有るので家に来ないか、と提案した。十代の私には願ってもない事で、鼻息あらく頷いた。美女の家へ向かう道のりで、彼女が二十歳で伊織と言う名である事、街へ戻る電車は三日後にしか出ないという事を知った。

肩を落とし着いた場所は、大きな洋館で伊織さんは、そこのお嬢様のようだった。大きな扉の前で、姉やさんに訳と私の名前(木村衛)を名乗り中に入った。

⏰:08/09/22 14:35 📱:SH902iS 🆔:☆☆☆


#495 [もう戻らない(1/3)電源]
今日は4月1日。
僕の前に大きなケーキが置かれた。
いつもより豪華な料理が食卓に並ぶ。
お母さんはマッチを握って準備万端だ。お父さんはぶつぶつ言いながらカメラをいじっている。
毎年変わらない風景。

「そろそろ始めようか。お父さん、カメラの準備はいい?」

ろうそくに火が灯った。
いちごにくまにウサギ。その間には僕の名前が書かれたチョコレートものっている。

「待って待って……よし、いいよ。」

⏰:08/09/25 22:20 📱:N903i 🆔:aBurfd3Y


#496 [もう戻らない(2/3)電源]
部屋の電気が消える。
ろうそくの炎がそれぞれの顔を淡く照らし出した。

「ユウちゃん、フーってしていいよ。」

お母さんは心なしか涙声だ。
今年こそは一息で全部消したい。
今、僕を包むのは幸せな少しの緊張感。
僕はふるふると震えた。
口を大きくあけて周りの空気を全部吸い込む。
これくらいの意気込みがなければ一息で消すのは難しい。ろうそくは年々増えるから尚更だ。

身を一度ひいて今度は乗り出す。
僕の身体は風船のようにふくらみ、一瞬でしぼむ。
身体中の空気を口から吐き出す。

フーーーーッ

⏰:08/09/25 22:21 📱:N903i 🆔:aBurfd3Y


#497 [もう戻らない(3/3)電源]
揺らめく炎。
シャッターが鳴った。
炎は消えない。
少し揺らいだだけで変化はなかった。
炎はお父さんとお母さんを照らしている。

―今年も消せなかった。

お母さんが僕の方を見て小さく微笑んだ。

「お母さんね、今でもあれはユウちゃんの嘘だって願ってる。どんな嘘でも怒らないから帰っておいで。」

お父さんは震える肩を抱き寄せた。僕の方を見る。

「ユウタ、18歳おめでとう。」

ろうそくは2人を暖かく照らす。
炎は消えない。
僕は静かに微笑んだ。

―ありがとう。

⏰:08/09/25 22:23 📱:N903i 🆔:aBurfd3Y


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