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#558 [1日(1/2)]
今日も彼女は、とっておきの笑顔を見せながら僕に話し掛けてくる。
「おはよう」
たったこの一言が、僕にとってどれだけ嬉しいことか。
毎朝この言葉で、僕は1日頑張ろうと心から思えるんだ。
はじめはまったく僕になついてくれなくて、本当に困った。
どんな話をしても、どんな動作をとっても反応は皆無と言っていいほど。
当時新米だった僕は、こんな仕事選ぶんじゃなかったかなって苦悩する日々が続いた。
:09/05/25 20:44 :N905i :☆☆☆
#559 [1日(2/2)]
ある日、僕が趣味のトランペットを磨いていたときのこと。
「…それ、なに」
僕はもちろんびっくりして、「こ、これかい?これはトランペットって言うんだよ」とつぶやきながら、マウスピースを取り付けて吹いてみた。
「…!」
その日から、彼女は少しずつ心を開いてくれるようになった。
動かない手足。
細い腕に突き刺さる点滴。彼女はそれでも懸命に、僕のする話に相づちを打ち、笑い、泣き、驚いた。
やがて人工呼吸機が取り付けられるようになってからも、僕は毎日変わらず彼女に様々な話をした。
あとになって僕は彼女の余命を知らされた。
不思議と気分は穏やかだった。
余命があろうとなかろうと、僕にできることはただ一つ。
1日を無駄にしないこと。1日1回、彼女に話を聴かせてあげる、ただそれだけのことがどれほど彼女を助けているのかは分からない。
けれど、自己満足かもしれないけど…
僕は彼女の笑顔が見れることしかやりたくないんだ。逆に言えば、それしか方法がないんだ。
今日も彼女はとっておきの笑顔を見せながら、僕に話し掛けてくる。
「ありがとう」
:09/05/25 21:00 :N905i :☆☆☆
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