*柴日記*
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#336 [向日葵]
扉が静かに閉まる。
立川君がいなくなって少しホッとすると思ってしまっては失礼だろうか。
でもなんとなく落ち着かない気分でいた。
「そういえば美嘉、どうして椿の婚約者は最低なの?」
「話せば長くなるのよ」
腕を組んでウンウンと頷く美嘉を見ながら、「最低」の烙印を婚約者に押された椿は苦笑いしていた。
同い年の椿ですら、既に決断して、自分の運命を受け止めようとしている。
自分を信じようとしている。
:08/06/04 23:48
:SO903i
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#337 [向日葵]
私もいい加減くよくよしてないで、しっかり決めた事を実行しないと……。
深呼吸を静かにして、決意を固める。
そこへ立川君が帰ってきた。
「ケーキを食べ終えたら、そろそろお邪魔させて頂きましょうか」
立川君が言った。
「あ、私なら気にしないで。重病って訳でもないんだから」
「でも、休息をとられた方が、お体もよくなるのが早いですよ……」
椿の言葉に一同が頷く。
3対1ならば勝てる筈もなく、それ以上は何も言わなかった。
:08/06/04 23:52
:SO903i
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#338 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・
「じゃあ、早く良くなってね」
「ウン。ありがとう」
美嘉と椿は迎えの車で一緒に帰って行っていった。
車が見えなくなるまで手を振ってから、まだそばにいる立川君を振り返る。
「立川君も、わざわざありがとう。もうちゃんと学校行けるから」
そう言っても、立川君の表情は、はれなかった。
心配してくれているのか、私の言葉を信用してないか分からない。
ただ眉を寄せて私をじっと見つめる。
:08/06/06 23:38
:SO903i
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#339 [向日葵]
居心地が悪くなって、微妙に後退りし始めた時、手首を掴まれた。
びくりと体が震える。
何事かと立川君を見ても、先ほどと表情は変わっていなかった。
「な……何……?」
恐る恐る尋ねる。
「……神田さんにとって、神田さんの好きな人は本当に必要なのですか?」
さっきの椿との話だ。
その事なら、私も話があった。
唇をキュッとしめて、姿勢を正した。
「立川君……。私は柴が好きなのを勘違いだなんて思えない」
:08/06/06 23:42
:SO903i
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#340 [向日葵]
立川君は眉間のしわを更に深めた。
「柴が好き。普通女の子って守ってもらうのが憧れかもしれない。でも私は、柴が抱えている闇や悲しみをまるごと包んで守ってあげたいの。……家族以外で、そう思った人は、初めてなの……」
「ならそれは、家族愛ではないので……」
「違うのっ」
立川君の言葉を遮り、否定する。
家族みたいな、親愛の情だけで、ここまで柴を想う事はない。
:08/06/06 23:48
:SO903i
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#341 [向日葵]
さらさらの綺麗な茶色い髪や、神秘的で魅惑的なグレーの瞳。
甘える仕草、無邪気な笑顔、時々見せる苦しそうな、寂しそうな顔。
泣いたあの時の弱々しさ。
全てが、いとおしい……。
「私は立川君を好きにはなれない……。だって立川君を見ても、胸が苦しくなるような痛みは伴わないもの……っ」
手首を握る立川君の手の力が強まる。
あまりの力に顔をしかめた。
「ずっと……貴方だけだったのに……」
:08/06/06 23:53
:SO903i
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#342 [向日葵]
「立川君……?」
「どうしても……僕は駄目なのですか……っ!」
背中に痛みが走る。
壁に押し付けられたのだ。
目の前にいるのは誰……?あのクールな立川君はどこに?優しい立川君は?
この人は……誰……?
「ずっとずっと好きだったのに、どうして僕じゃいけないんですかっ!」
恐い……っ。
「ご、ごめんなさ……」
「何故選んでくれないんですっ!」
そう言われた時、小さい頃の自分を思い出した。
:08/06/06 23:57
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#343 [向日葵]
育てられなくて、私を捨てた両親。
どうして……。
どうして他の何よりも、私を選んでくれないの……?
どうして皆……私から離れてしまうの……?
足がガクガク震えだした時だった。
立川君が突き飛ばされて、私の前には長身の影が現れた。
「柴……」
「越になにすんだ」
私をかばって、立川君を睨みつける。
立川君も負けじと睨み返す。
:08/06/07 00:01
:SO903i
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#344 [向日葵]
「邪魔しないで頂きたい。これは僕らの問題です」
「ふーん。怯えさせながらの話し合いで何が解決するの?」
立川君はギリッと歯を食い縛る。
「なかなか、いい根性してるみたいで」
「ありがとう。でもお互い様だよ」
立川君はしばらく柴を睨むと、落ちたカバンを拾った。
「神田さん、失礼します」
こちらの返事も聞かず、足早に立川君は帰ってしまった。
:08/06/07 00:05
:SO903i
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#345 [向日葵]
いや、気付いたのだろう。
柴の背中で隠れるようにしながら、震えている私を。
柴の服の裾を、ギュッと掴む。
「越?」
優しい声で呼ばれたかと思えば、掴んでいた手を包むように握り、服から放させた。
依然、手は握ったままだ。
「ご……ごめ……」
フラッシュバックと、普段と違う立川君とで、頭がごちゃごちゃになっている。
震えがまだおさまらない。
:08/06/07 00:09
:SO903i
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