*柴日記*
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#201 [向日葵]
そんな美嘉に、私はなんだか元気を貰った。
足を気にしてる場合じゃない。
良い思い出を作る為には多少のアクシデントだってつきものだ。
傷が開こうが、そこからばい菌が入ろうが、そんなの知ったこっちゃないのだ。
「ぃよし!皆円陣組もう!」
私が呼び掛けると、皆集まって来てくれた。
1つの大きな輪が出来る。
「学年種目、これが最後なので、悔いの残らないように力発揮しましょー!」
:08/04/11 00:50
:SO903i
:☆☆☆
#202 [向日葵]
「お――っ!!」
騒いでから、選手入場のアナウンス。
しっかり決まった順に並び、私達は綱が横たわっている場所へ駆けて行った。
先生が「用意!」と言えば、皆綱を持ち、笛が鳴るのを今か今かと神経を集中させた。
そして高らかに笛の音が鳴れば、一斉に力一杯綱を引いた。
力が1つになるよう、「オーエス!」と皆で声を出す。
段々と、綱がこちらに来るのが分かる。
B組優勢のようだ。
:08/04/11 00:56
:SO903i
:☆☆☆
#203 [向日葵]
お願い……っ!
そう願った時、ピストルの音が2回鳴り、皆で地面に倒れこんだ。
「やったー!」
誰かの叫び声にハッとし、喜びが込み上げて来て飛びはねる。
近くにいた美嘉やクラスメイトの子とハイタッチしあった。
でも綱引きは2回ある。
喜びは次に勝った時こそ本物になる。
場所変えをして、同じように笛の音を待った。
そして鳴った瞬間、また一気に引く。
:08/04/11 01:01
:SO903i
:☆☆☆
#204 [向日葵]
歯を食い縛って最後の力を振り絞る。
疲れているのはお互い様なので勝負は互角になってしまった。
長時間の引き合い。
腕が千切れてしまうのではと思った。
その時、グッと少しこちらに綱が動いた。
手応えを感じたか、それから足を後ろに動かしながら綱を引く。
最後に「オーエス!」と力んだ瞬間、勝利のピストルの音を聞いた。
「やったぁぁぁ!!」
今度は皆抱き合った。
腕がダルイし手はヒリヒリしているけどそんな事どうでも良かった。
:08/04/11 01:07
:SO903i
:☆☆☆
#205 [向日葵]
席に帰っても興奮はおさまらず、遂にはイスの上に立ってタオルを振り回す人までいた。
「あぁー良かったよぉぉ……っ!」
伸びをしながら言う美嘉に、椿がにこりと微笑む。
私も喜んだ。
……さっきまでは……。
「ん?越、顔青いけどどうかした?」
「え?青い?そんな事ないよ……っ」
実は席に戻って来た時、足の事をすっかり忘れていた私は油断していていきなり訪れた痛みに疲れを感じていた。
:08/04/11 01:15
:SO903i
:☆☆☆
#206 [向日葵]
やっと全部終わった安堵感も手伝ってか、立ち上がる事すら億劫に思った。
本当はジュースでも買いにいきたいのに……。
「……わ、越!」
「え……うわぁっ!」
疲れて地面を見つめていた私の視界は、突然空と柴に変わる。
「し、柴!ちょっと何してんの!」
「いいから来て」
どうやら私はお姫様抱っこされてるみたい。
……ってそんな呑気な事考えてる場合じゃない。
:08/04/11 01:20
:SO903i
:☆☆☆
#207 [向日葵]
頭の中がぐるぐるとおかしくなりそうだった。
「柴!今は学校行事中!」
疲れや足の痛みなんてなんのその。私は柴に叫び続ける。
周りの視線が痛い程私に集まるのが分かった。
一方の柴は、うるさい私を無視して黙々と丁寧にどこかへ運んで行く。
ヤケになって降りようとすると、肩を掴んでいる柴の手が力を増した。
「じっとしてっ」
まるで子供扱い。
仕方なく渋々大人しくした。
:08/04/11 01:25
:SO903i
:☆☆☆
#208 [向日葵]
しばらく歩いて、中庭の日陰にあるベンチに座らされた。
幸い人はあまりいないので注目を浴びることはない。
そんな私の心配をよそに、柴は勝手に私の靴を脱がす。
驚いて、足をベンチの上に急いで上げた。
「な、何してるの!」
「足痛いんでしょ」
そうだけど……。
炎天下で最早足の中はサウナ状態。
当然と言うか、絶対にと言うか、足が蒸れて臭いと思う!
:08/04/13 02:06
:SO903i
:☆☆☆
#209 [向日葵]
それなのに勝手に靴を脱がすだなんて……!
「いい!柴に見てもらわなくても自分で保健室とか行けるから!」
強く拒否すると、柴は悲しそうに目を細めた。
日光と風に揺れる葉の陰の具合いで、灰色の瞳がいつもより綺麗に見える。
「俺は心配しちゃダメ?」
「え?」
「同じクラスのあの男にはよくて、俺は越の心配するのはダメなの?」
私の靴を持っていた柴は、ゆっくりとそれを地面に置いてうなだれた。
:08/04/13 02:12
:SO903i
:☆☆☆
#210 [向日葵]
そんな柴を見て、どうしようとオロオロしてしまう。
私はただ心配かけたくないだけで、誰に心配してもらってもいいとかそんなの考えてない。
でも今の私の態度は、確実に柴を傷つけてしまったみたいだ。
「……柴……、あの」
と言いかけた時だった。
「あ、さっきのお兄さん!」
3人程の女の子が、柴を指差していた。
見たところ1つ下の子達みたいだ。
:08/04/13 02:16
:SO903i
:☆☆☆
#211 [向日葵]
私は靴を履いて立ち上がる。
柴は軽く首を傾げながら立ち上がった。
女の子達はこちらに遠慮なく寄ってきて、頬を染めていた。
「あ、あの、リレー見ました!」
「良かったら握手して下さい!あと、名前も教えて下さい!」
柴を囲む女の子達。
明らかにこの子達は柴が好きなんだろう。
でもこの子達はただあのリレー1回で柴を狙おうとしている。
私はこの子達より柴をずっとずっと前から知ってるのに……。
軽々しく、柴を見ないで欲しい……。
:08/04/13 02:20
:SO903i
:☆☆☆
#212 [向日葵]
気がつけば、私は柴と女の子達の間に入っていた。
柴の表情は見えないけど、女の子達は驚いて、握手しようて出していた手をゆっくり引っ込めた。
「柴は、私の家族なんだからっ!」
そう言って柴の腕を掴み、中庭の更に奥へ早足で行った。
何で自分がこんな事言ったか理解出来ないまま私は足を進める。
なんだか嫌だったんだ。
あの子達が、柴にベタベタするのが許せなかったんだ。
:08/04/13 02:23
:SO903i
:☆☆☆
#213 [向日葵]
だって柴は……私の大切な人だもん……。
「越」
静かに柴に呼ばれて、足を止めた。
「……ごめん。勝手に引っ張ったりして」
大切な大切な家族。
馬鹿みたい。嫉妬するだなんて……。
柴に向き直る。
怒ってると思った。
勝手に傷つけて、勝手に引っ張って。
私に振り回されて嫌な思いしてると思った。
でも彼は、とても優しく柔らかく、笑っていた。
:08/04/13 02:28
:SO903i
:☆☆☆
#214 [向日葵]
「なんで……笑ってるの?」
「越が怒ってくれたから」
それが何故そんなに嬉しく笑う事となったかが私は分からなかった。
私が眉を寄せて理由を考えていると、柴が「違うな……」と呟いた。
「怒ったんじゃないな……拗ねてくれた」
「す、拗ねてって……っ!」
「俺が取られちゃうって思った?」
楽しそうな様子で私の顔を覗き込むから、私は自分のさっきの行動が恥ずかしくて顔を赤らめる。
:08/04/13 02:32
:SO903i
:☆☆☆
#215 [向日葵]
「柴の意地悪!」
「そんな事ないよ」
と笑いながら、私を近くの石のイスに座らせてくれた。
柴はしゃがんで、私と目線を合わせる。
私はさっきの赤くなった余韻を残したまま、まだ恥ずかしくて目をそらす。
「嬉しいんだ。越が俺の事で拗ねてくれるのが。いつも俺ばっかだからなー」
柴はさっきより嬉しそうに笑う。
嬉しくてたまらないのか、歯を見せてにっこり笑っている。
:08/04/13 02:37
:SO903i
:☆☆☆
#216 [向日葵]
それからまた靴に手をかけた。
それを見て私もまた驚く。
でも柴はさっきみたいに強制で脱がさず、靴と私の足首を持って私を下から見る。
「越。越は心配するなって言うけどそんなの無理だよ。だって越が俺の事で拗ねてくれるみたいに、俺だって拗ねる程越が大事だもん」
大事……。
そう言われてしまえば、抵抗しようと力を入れていたのが、一気に抜ける。
「傷、見てもいい?」
:08/04/13 02:41
:SO903i
:☆☆☆
#217 [向日葵]
少し躊躇ってから、ゆっくり頷いた。
柴は微笑んで、靴、靴下と丁寧に脱がしていく。
足の裏に貼っているガーゼに少し血が滲んでいるのを見て、顔を少し険しくする。
「大丈夫なの?保健室より病院行った方がよくない?」
「先生は傷は浅いって言ったから……」
「自分が車出すのめんどくさいから言っただけかもよ」
まるで自分もそんな事を体験したかのような口ぶりだった。
:08/04/13 02:45
:SO903i
:☆☆☆
#218 [向日葵]
過去に柴はそんな体験をした事があるのだろうか。
[どこかであの方見た事が……]
椿の言葉を思い出す。
私が知らない柴が、まだいる。
そう思えば、柴を知りたくなった。
柴は、私に心を開いてくれてるけれど、深い心の扉も開いてはくれるのだろうか……。
:08/04/15 00:05
:SO903i
:☆☆☆
#219 [向日葵]
―*5日目*―
柴は分かりやすいようで分かりにくいんだよね。
ま、ミステリアスな所があの子の売りなのかもしれないけど。
(神田家・主婦・祐子談)
体育祭も無事終わった。
私達B組は残念ながら2位だったけど、とても楽しかったと皆口々に話をした。
私の足も傷は塞がり、もう痛くなくなったし気にならない。
:08/04/15 00:10
:SO903i
:☆☆☆
#220 [向日葵]
どちらかと言えば私の傷よりも柴の方が気になる一方だった。
どんなに考えても、柴の正確な今までの人生は分からない。
だからと言って本人に聞いてもいいのかと考えて、結局いつもやめておこうと引き下がるのだ。
「越、さっきから何……」
「へ?」
知らずの間に、テーブルをはさんで向こう側に座っている柴を睨みつけていたらしい。
只今晩御飯中なのだ。
:08/04/15 00:15
:SO903i
:☆☆☆
#221 [向日葵]
「え……あ、ごめんね」
食べた食器を片付ける為、私は席を立って、そそくさと台所へと向かった。
いけない、いけない。
私ったら直ぐに顔に出ちゃうんだから……。
根掘り葉掘り聞こうなんて気はないけど、聞く事で柴を傷つけるのは嫌だ。
でもやっぱり……っ!
あぁぁぁ!どうしたらいいのぉっ!!
「何悶えてんのお姉ちゃん」
気づけば私と同じように食器を持ってきた桜が後ろにいて、私の様子に引いていた。
:08/04/15 00:19
:SO903i
:☆☆☆
#222 [向日葵]
桜は食器を置いて、水を入れると私の方をじっと見て、耳元で囁く。
「柴の事?」
「え……っ、何で分かったの!」
「分かるよーそれくらい。お姉ちゃん分かりやすすぎるんだから」
あちゃー……。
私はチラリとテーブルにいる柴を見た。
苺についてるご飯粒を取ってあげているところだった。
これなら小さな声で喋れば分からないかと、桜に今気になっている事を話してみた。
:08/04/15 00:23
:SO903i
:☆☆☆
#223 [向日葵]
「……え、椿ちゃんって、あのご令嬢のだよね。見た事あるって……どういう繋がり?」
「分からないの。椿も、はっきりとは柴を覚えてないみたいだし」
もし椿が見た事あると言うなら、ああいうセレブが集まるパーティーみたいなのに柴がいたという事になる。
それはつまり、柴が本当はお金持ちのお坊っちゃまって事になるのだ。
そういえば、柴はうちに来た時焼きそばを知らなかった。
「お姉ちゃん、それってつまり……」
:08/04/15 00:28
:SO903i
:☆☆☆
#224 [向日葵]
「それってつまり?」
いつの間にか柴が近くにいた。
驚きのあまり、私と桜は文字通り飛び跳ねる。
「し、柴、驚かさないで!」
驚いたのと、今の会話が聞かれなかったかという心配とで心臓がドクドクする。
柴自身は驚かすつもりなんてなかったので、過剰なまでの私と桜の反応にきょとんとしていた。
「何の話してたの?」
私にずいっと寄ってくる。
:08/04/15 00:39
:SO903i
:☆☆☆
#225 [向日葵]
今度は違う意味でドクンと心臓が鳴った。
おかしい……。
ついこの間までこの神秘的な灰色の瞳や、透き通るような茶色い髪の毛が近くにあっても、こんな反応した事なかったのに。
……あの体育祭以来、柴に対する接し方を私は少し考えなくてはならないようになったのだった。
柴が一向に答えない私に更に問いつめるように迫ってくるので私は足をじりじり後ろに引いていく。
が、しばらくすれば後ろはシンクだったのでそこでストップがかかってしまった。
:08/04/15 00:43
:SO903i
:☆☆☆
#226 [向日葵]
柴が迫る度、私は顔が暑くなる。
不思議そうに更に覗き込むから、私は目をギュッと瞑るしかなかった。
「あー、あ、あの!あたしの友達の相談にのってもらってただけ!」
桜がなんとか搾りだした答えに、柴は「あっ、そ」と素っ気無く答えて、空のゲームの誘いを受けにリビングへ向かった。
私は目を開けて柴がいない事を確かめると、ズルズルその場に座りこんだ。
「も……やだ……」
「お、お姉ちゃん……?顔真っ赤だよ?」
:08/04/15 00:48
:SO903i
:☆☆☆
#227 [向日葵]
そんなの分かってる。
自分の頬に手を確かめなくったって内側にこもった熱がそれを分からせてくれるからだ。
なんでこんな風になっちゃってるか理解に苦しむ。
こんな事体験した事だってないんだもの。
「お姉ちゃん……もしかして柴が好きなの?」
好き?
「そりゃ好きだよ。嫌いな訳ないじゃない」
桜は何か呟いたけど、ここまでは届かなかった。
ただその表情からは、やっぱり前の空のように呆れた顔をしていたのだった。
:08/04/17 00:03
:SO903i
:☆☆☆
#228 [向日葵]
――――――………
昨夜天気予報を見た私は今日が雨と分かっていた。
自転車の為、レインコートを着なくてはならないのだけどあまり好きじゃない私は、早めに起きて歩いて学校へ行く事にした。
布団の上で軽く伸びてから着替えにかかる。
下に降りて少し早めの朝食を作りながら今日の持って行く物を考えていた。
すると、頭にずしっと重みが。
「柴……眠いくせに何で起きるの」
「えつがおきたけはいしたからー……」
眠たそうな声を出す柴に私は「あれ?」と思った。
昨日みたいに恥ずかしい気分にならないからだ。
:08/04/17 00:09
:SO903i
:☆☆☆
#229 [向日葵]
やっぱり私が変だったのだと思って、柴を軽く背負うようにしながら作業を進めた。
「あいたっ」
サラダの為のキュウリを切っていると、指を軽く切ってしまった。
血が滲み出てくる。
洗おうとすれば、自分よりも一回り大きな手が私の手を包んだ。
後ろを軽く見れば、柴が眉を寄せていた。
そしてなんの躊躇いもなく……カポリと口の中へ私の指を入れてしまったのだ。
:08/04/17 00:13
:SO903i
:☆☆☆
#230 [向日葵]
私は目を見開く。
指に柴の口の温度を感じれば、昨日同様、顔そして今度は全身が暑くなる気がした。
「いっ……!いやぁっ!!」
急いで自分の指を抜いた。
そしてすぐに水道へ。
それを見た柴は腕組みしながら少しムッとしていた。
「消毒じゃん。汚くないよ」
「じゃなくて!恥ずかしいでしょっ!」
私の答えに柴のムッとした表情は消えて、今度はキョトンとしていた。
私の答えが意外だったらしい。
:08/04/17 00:18
:SO903i
:☆☆☆
#231 [向日葵]
「越でも恥ずかしい事あるんだ」
私を何だと思ってるんだ……。
微妙な空気が流れて、気まずいと思っていると、これまた眠そうな声が聞こえてきた。
「おねえちゃー……ん」
苺だ。
目を擦りながら私がいる場所まで来て足にピトリとくっついてくる。
「どうしたの苺」
「おそらがゴロゴロいってておめめあいたのー……。」
:08/04/17 00:22
:SO903i
:☆☆☆
#232 [向日葵]
ゴロゴロ?
って事はもしや……。
「雷?」
と言った瞬間、空が明るくなった。
数秒遅れて、耳障りな音が聞こえてくる。
その音に怯えた苺は、足を掴んでた手に更に力を入れて小さく震えている。
「うぅー……」
眠いのと怖いとで苺がグズリだす。
頭を撫でてやっても、怖いせいで足から離れようともしない。
目配せして、柴に頼むと、柴は苺の手をゆっくりはがして抱き上げた。
:08/04/17 00:27
:SO903i
:☆☆☆
#233 [向日葵]
:08/04/20 00:23
:SO903i
:☆☆☆
#234 [向日葵]
苺はしっかりと柴の首にしがみつく。
柴は「寝かしてくる」と言って階段を上がって行った。
私はそれを見届けてから朝御飯の支度を再開しようとした。
……が自分の怪我した指を見てしばし固まった。
大した傷ではないから、血はすぐにおさまっている。しかし問題はそこじゃない。
柴が口に入れた指を洗うか否かで迷っているのだ。
消毒とは言え口に入れた指でこのまま調理していいものか頭をひねる。
:08/04/20 01:52
:SO903i
:☆☆☆
#235 [向日葵]
考えぬいた結果、柴に心の中で謝って手を綺麗に洗ってしまった。
―――――――……
「おっはよう!」
体育祭で小麦色の肌が更に増した美嘉が挨拶をしてきた。
その後ろでは椿が静かに微笑み軽く会釈する。
「おはよう美嘉、椿」
「あれ、怪我したの?」
絆創膏を貼ってる指に気づいた美嘉は私に聞いた。
私は苦笑いしながら「ちょっとね」と言う。
それから教室まで3人で仲良く行った。
:08/04/20 01:57
:SO903i
:☆☆☆
#236 [向日葵]
「そういえば、午後からどしゃぶりらしいけど越帰り大丈夫?」
あれから雷は少々おさまったものの、雨がザーと激しくなり、傘をさしても雨足と水たまりのせいで足がびしょびしょになった。
そして雨は午後からは嵐のようになるかもと、爽やかにお天気お姉さんが告げた。
「多分平気。自転車じゃなく歩きだし」
「なんなら……私の車でお送り致しますわ……」
「ありがとう椿。でも本当に大丈夫だから」
:08/04/20 02:02
:SO903i
:☆☆☆
#237 [向日葵]
すると椿は私の顔をじっと見てから何か考えるように少しうつ向いた。
「椿?」
呼びかけても椿は考え込んだままになってしまった。
席について、カバンを一旦置いてから私は椿の元へと行った。
「椿、どうかした?」
「……。前のおっしゃってた男性、柴さまでしたよね?」
「あ、うん。そうだよ」
返事をすると、椿は自分なカバンをあさり始めた。
:08/04/20 02:06
:SO903i
:☆☆☆
#238 [向日葵]
そして取り出したのは、集合写真のような横長の写真だった。
「勝手に調べたりしてごめんなさい……。でも私、これが先日見た柴さまとしか見えなくて……」
椿はその写真を私に見せた。
沢山の人が一張羅やドレスを着て上品に笑っている。
後ろに大きく掲げている幕のようなものには「60周年記念式」と書いてあった。
なんの記念式かは分からなかったけど、私はその笑っている人達を見た。
「……。柴、どこにいるの?」
:08/04/20 02:12
:SO903i
:☆☆☆
#239 [向日葵]
椿は小さな人を指差した。
そこには、あの柴が確かにいた。
今より少し髪の毛が短く、会ったばかりの頃みたいに、きらびやかな微笑みを皆が浮かべる中で何かを失望した表情をしていた。
「越さん……。柴さまのお名前、本当に柴と仰いますか……?」
「……本当は、知らないんだ。柴は、私がつけたあだ名のようなものだから……」
椿は写真に目を落として、柴の真実を更に教えてくれた。
:08/04/20 02:20
:SO903i
:☆☆☆
#240 [向日葵]
「私が言っていいものかとは思いますが……私が知る限りでは、柴さまは柴と言うお名前ではありません。伊勢屋グループのご子息、伊勢屋 大和さんです」
イセヤ……ヤマト……?
私は驚きを隠せなかった。
伊勢屋グループと言えば、飲食、服飾、ブランドなど幅広く経営している知らない人はいない程の大きな会社。
その会社の息子が、柴……。
何故それを隠しているのか分からなかった。
[愛情とかそんなもの、受けたことは無かった……]
:08/04/20 02:27
:SO903i
:☆☆☆
#241 [向日葵]
お父さんを……恨んでるとかなのだろうか……。
「越さん……ごめんなさい。柴さまのことベラベラと……」
「あ……。ううん。教えてくれて、ありがとう」
柴……。
私は柴の事を知る権利があるんだろうか……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
柴の事が頭から離れない私は1日中モヤモヤしながら過ごした。
今は掃除をしていて、これが終われば今日はもう帰る予定だ。
:08/04/20 02:31
:SO903i
:☆☆☆
#242 [向日葵]
「神田さん」
箒をしまおうとすると、立川君が声をかけてきた。
立川君は毎日私の足を心配してくれて、私としては何だか申し訳ない気持ちで一杯だった。
「何?」
「何かありましたか……?」
「え……」
「ずっと難しい顔してるもので……気になって」
いつも思うのだけど、立川君はよく私の事を見てくれている。
:08/04/20 02:34
:SO903i
:☆☆☆
#243 [向日葵]
そのせいか、私の事は何でもお見通しだ。
それとも私が分かりやすすぎるのかな……。
「何もないよ。ありがとうっ」
「何もないって……何もないなら俺は声かけませんよ……っ!」
声をあげた立川君に私は驚いた。
決して取り乱したりしない立川君が、いつもクールな立川君が、今正に取り乱し、熱くなっている。
「貴方はどうしてそうなんですっ。俺は……頼ってもらいたい……貴方に……」
「立川君……」
:08/04/20 02:38
:SO903i
:☆☆☆
#244 [向日葵]
本当に友達思いだなー……。こんなに良くしてもらうなんて私は幸せ者だぁ……。
そんな立川君に、私は元気が出た。
「ありがとう!立川君。本当に本当に大丈夫だから!」
にっこり笑えば、立川君は頬を緩めて少し微笑んだ。私は立川君に何かあれば、全力で助けようと心に誓う。
と、その時、教室のドアがいきなり勢いよく開いた。
「越っ!」
「柴ぁ!?ちょ、何勝手に入ってるの!」
:08/04/20 02:43
:SO903i
:☆☆☆
#245 [向日葵]
戸口には、2本の傘を片手に柴が立っている。
傘を持ってきたせいで、床にポタポタと滴を落とし、びしゃびしゃにしてしまっていた。
柴は視界に私にしかいれてなかったらしく、立川君を見ると、失礼なぐらい嫌な顔をする。
「今日は何もしてないよ、?」
それでも柴は機嫌を直してはくれなかった。
眉を寄せたまま私と立川君を交互に見つめる。
「どうしてアイツが?」とでも言ってるみたいに私の目に射るような視線を送る。
:08/04/20 02:56
:SO903i
:☆☆☆
#246 [向日葵]
※訂正
×私にしか
○私しか
×「今日は何もしてないよ、?」
○「今日は柴が心配するような事何もしてないよ?」
スイマセン


間違ってる上セリフ抜けまくりでした


:08/04/20 03:03
:SO903i
:☆☆☆
#247 [向日葵]
体育祭では柴は私を心配してはいけないのかと聞いてきたから安心させるように言っても、柴は何故か立川君が気にくわないらしく、私と一緒にいるのが嫌らしい。
「はぁ……立川君、私帰るね……」
半ば脱力しながら私はカバンを持ち、柴の背中を押しながら立川君に言う。
「ハイ。さようなら。また明日」
「うん。じゃあ」
立川君は柴より大人だと思う……。
ってか柴が子供すぎと言うか……。
:08/04/20 03:07
:SO903i
:☆☆☆
#248 [向日葵]
柴と2人になってしまえば、朝の椿の言った事を思い出した。
雨の降る中、傘をさして、時々ちらりと柴を見る。
柴は雨が傘に落ちる音を楽しんでる。
まるでト○ロ……。
これなら……と、私は話題を持ち出す。
「柴、野々垣 椿ちゃんって知ってる?」
「……。あー、聞いた事あるかも。思い出せないけど」
柴の顔が、少し緊張しているのが分かった。
そんな様子に気づいていながら、私はまた言う。
:08/04/22 00:02
:SO903i
:☆☆☆
#249 [向日葵]
「椿……がね……柴の事知ってるんだ」
柴が歩みを止めた。
それに気づいた私は2、3歩進んでしまってから止まり、柴を振り返った。
柴の、いつもの柔和な空気が無くなっている。
無機質な顔で、私をじっと見つめていた。
灰色のあの瞳が、ひどく冷たく見えた。
「柴……。柴は、柴じゃないんだね……。やま……」
「やめてくれない?」
私の言葉を遮って、柴は言った。
:08/04/22 00:06
:SO903i
:☆☆☆
#250 [向日葵]
「越はそれを知って何か得する?そう思わないなら口には出さないで。今ここにいる間は、俺は“柴”だから」
「損得なんて考えてないよ。ただ、柴の色んな事を知りたいだけで……」
「色んな事?知ってどうするの?俺にあの家から出て行けとでも言うつもり?」
「違う柴……っ!」
言葉を発する度、柴は私の言葉を遮って自分の過去を否定する。
そんな柴を初めて見たから、私は少し怖くなった。
:08/04/22 00:10
:SO903i
:☆☆☆
#251 [向日葵]
「俺は、過去の俺が嫌い。環境が嫌い。だから忘れたい。なのにどうして思い出したくない事をいちいち聞いてくるの?」
「それは……」
「好奇心?家族じゃない人間には何を聞いてもいいと思ってる?」
私はその言葉に鋭い痛みを感じた。
好奇心?
違うよ柴。
家族じゃない?
そんな訳ないでしょう……。
家族だと思ってるから聞いてるし、過去の事を打ち明けて心を今より開いてくれたら嬉しいって……。
ただそう思っただけ……。
:08/04/22 00:14
:SO903i
:☆☆☆
#252 [向日葵]
でも柴がそう思ってしまったのは、私の自己中心的な考えのせいで……。
でもなんだか……すごく突き離された感じがして……。
辛いよ……柴……。
私は傘で顔を隠した。
じゃないと、泣いてしまいそうだから……。
「ごめんなさい……。もう聞かないから……」
私は回れ右をして足を進めた。
無意識に、足が早くなる。足元をチラッと見れば、いつの間にか隣に柴が歩いていた。
:08/04/22 00:17
:SO903i
:☆☆☆
#253 [向日葵]
柴は、私にとてもなついてくれてたから、勘違いしていたんだ。
好奇心……。
あながち外れてないかも。
柴の事、私だけが全部知っておきたかった。
家族の誰よりも理解してあげたかった。
柴を誰よりも……独占しておきたかったんだ……。
どっちが子供……。
まるっきり子供なのは、他の人の心の傷を無理矢理開こうとし……私だったんだ……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、お姉ちゃんお帰り」
:08/04/22 00:20
:SO903i
:☆☆☆
#254 [向日葵]
帰れば、桜が私と柴を迎えてくれた。
さっきの事は頭から無くそうとして、桜に微笑む。
「ただいま。晩御飯今から作るね」
「あ、それがね、お母さんが久々にピザでも買っちゃいなってなんと……ジャジャーン!」
桜はピッと1万円札を2枚出してきた。
「今日は贅沢な日〜」
ルンルンな桜にもう1度笑いかけて、「着替えてくる」と言ってから柴を肩越しに見る。
普段の柴に、戻っているようだった。
:08/04/22 00:25
:SO903i
:☆☆☆
#255 [向日葵]
だから私も、普段の私に戻らないと……。
「迎えに来てくれてありがとう柴。濡れたとこ、ちゃんと拭くんだよ」
それだけ言って、階段を上がり、部屋に入った。
入ってドアにもたれながら、ズルズルと座りこむ。
スニーカー越しに染み込んできた雨が足を冷やし、私を余計悲しい気分にさせた。
まだ……胸が痛い……。
[本当の家族じゃない人間には何を聞いてもいいって思ってる?]
柴……。
:08/04/22 00:30
:SO903i
:☆☆☆
#256 [向日葵]
涙が流れた。
あとからあとから、とめどなく……。
何粒も頬を流れ、顎をつたい、ブラウスやスカートに染み込んでいく。
ごめん……。
「ごめん柴……っ」
もう聞かない。
何も知ろうとなんてしない。
だから……。
嫌いにならないで……。
*******************
越が階段を上がっていくのを柴と桜は見守っていた。
部屋のドアが閉まると共に桜は大きなため息を吐いて柴を見る。
:08/04/22 00:33
:SO903i
:☆☆☆
#257 [向日葵]
「お姉ちゃんずっとあんな調子?」
柴は答えに詰まる。
多分と言うか絶対、原因は自分なのだから。
歩いている間、越との会話はほとんどなかった。
時々越が「雨の匂い好きなんだ」とか「水たまりって遊びたくなるよね」と呟くように言ってた。
本人は楽しそうな声を出したつもりだろうけど、聞いてるこちらには無理してるのが分かるくらい落ち込んだ声だった。
そして帰ってくるまで、必死に傘で顔を隠して、柴には見せないようにしていた。
:08/04/22 00:41
:SO903i
:☆☆☆
#258 [向日葵]
柴は自分が越につらくあたってしまった事を後悔した。
越にあんな顔をさせるつもりなんてなかったのだ。
ただ、どうしても昔の自分、とりまく環境の事を思い出せば、胸の中に苦い物が込み上げてくる感覚が襲ってきて、とても苦しかったのだ。
正直に言えば、また越は自分を受け入れてくれるとどこかで期待した部分もあった。
八つ当たりでさえ、優しく包み込んでくれるんではないかと。
でも柴は言ってしまったのだ。
:08/04/26 02:00
:SO903i
:☆☆☆
#259 [向日葵]
[家族じゃない人間には]
と。
一番言ってはいけない、卑怯な言葉を使ってしまったのだ。
本当の家族じゃない越達に絶対言ってはいけない事だったのに、頭にきていた芝は、残酷にも彼女にそう言ってしまったのだった。
そして後で激しい後悔の念に襲われる。
無理矢理笑う彼女は、なんて痛々しかっただろうか……。
「越と、少し言い合いしてしまったんだ」
桜の問いに、柴は淡々とそう答える。
:08/04/26 02:04
:SO903i
:☆☆☆
#260 [向日葵]
「言い合い?そんなのいつもの事なのに。……柴、アンタ何かお姉ちゃんの傷つく事言ったんじゃ……」
桜は何でも鋭いから困るといつも柴は思う。
桜のそんな推測に、柴はうつ向いた。
きっと今頃、部屋で落ち込んでる。
でも今行けば、自分がする事なす事どれもダメなような気がして、結局いつも越が自分でなんとか立ち直った時でしかちゃんと振る舞えない。
そんな自分を柴は嘲笑し、リビングにあるソファーに深く身を沈めるのであった。
:08/04/26 02:10
:SO903i
:☆☆☆
#261 [向日葵]
*****************
ノックの音がした私は、目を開けた。
ベッドに寝転んでいたら、泣き疲れて寝てしまっていたらしい。
ゆっくりと体を起こす。
そして「はい」と言った。
入って来たのは苺だった。
ドアからひょっこり顔を出して、私の所までやって来る。
「どうしたの苺」
「さくらおねえちゃんがみんなでたべたいピザきめよーって」
:08/04/26 02:14
:SO903i
:☆☆☆
#262 [向日葵]
そういえば今日ピザなんだっけ……。
まだ起ききっていない頭でぼんやり考える。
するて苺がベッドに上がってきて、私にギュッと抱きついた。
私はどうしたのかと思いつつ、苺を膝に乗せた。
「なぁに苺」
「えつおねえちゃんげんきないからおまじない。だからぎゅーっ」
私はハッとした。
こんな小さな苺でさえ、私の異変に気づいてしまっている。
:08/04/26 02:17
:SO903i
:☆☆☆
#263 [向日葵]
こんな事ではいけない。
今お母さん達がいない以上、自分が皆の事をちゃんと面倒みなくちゃならないんだから……。
しっかりしないと。
私は苺の頭を撫でて微笑む。
「ありがとう苺。でもお姉ちゃん大丈夫よ。着替えるから、苺は先に下に行ってな」
「うんっ」
もう一度ぎゅーっと抱きついてから、苺は私の部屋を出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
リビングのテーブルの上にはピザのチラシが沢山広げられている。
:08/04/26 02:22
:SO903i
:☆☆☆
#264 [向日葵]
皆で「ここの店がおいしい」やら「これが食べたい」やら話をする中、私は少し疲れた気分でいた。
「越姉、どれがいい?」
空の声に、ピクリと反応して思わず「え?」と聞き返した。
「越姉はどれが食べたい?」
「お姉ちゃんはミックスピザでいいよ。そんなにお腹も減ってないし」
正直食べるのもどうかと思った。
特に食べたいとさえ思わなかった。
そんな私を見つめる視線を感じた。
柴だ。
:08/04/26 02:26
:SO903i
:☆☆☆
#265 [向日葵]
その視線を、受けとめる事が出来なかった。
これじゃますます柴が気をつかってしまう。
しっかりしなきゃ……。
しっかりして、私。
しっかり……しっかり……。
世界が逆になった気がした。
何が起きたか分からない。
誰かの叫び声と、私の体を抱き起こし、揺さぶる力強い腕を感じるのを最後に、私は意識を手放したのだった……。
:08/04/26 02:32
:SO903i
:☆☆☆
#266 [向日葵]
―*6日目*―
頭の中がうまく回転してくれない。
それは柴に嫌われるのが嫌で、前みたいな振る舞い方を忘れてしまったからなのかもしれない。
(神田家・長女・越談)
「寝てなって言ってんだろ」
「いーやっ!」
さっきからこの繰り返し。
昨日倒れた私は、救急で夜病院に行くと過労と判断された。
:08/04/26 02:36
:SO903i
:☆☆☆
#267 [向日葵]
そして今、いつも通り起きようとすれば、部屋に入ってきたお母さんに止められた。
「いっぱい寝たからもう大丈夫なの。私が動かないと皆に迷惑かけちゃうから……っ」
「越」
静かなお母さんの声に、私は黙った。
そしてお母さんは軽く私の両方の頬をつねる。
「アンタばっかり何もかも背負ったって仕方ないのよ。何の為の家族?それに、無理して倒れた方がもっと迷惑かけるのよ」
そこまで言われては、何も言い返す事は出来なかった。
:08/04/26 02:41
:SO903i
:☆☆☆
#268 [向日葵]
私をベッドに寝かせるよう肩に置いたお母さんの手に従うように私はまた布団に入った。
「それに、柴がいるから、今日は思いっきり甘えといたら?」
柴と聞いて、私はドキリとした。
出来れば柴とはあまり喋りたくないと言うか……喋りづらいと言うか……。
お母さんは私の頭をくしゃりと撫でると、「じゃあね」と言って部屋を出て行った。
私は1つ、大きなため息を吐いた。
なんだか……事が前に運ばないような気がして、体調の悪さも手伝い、体が重かった。
:08/04/26 02:46
:SO903i
:☆☆☆
#269 [向日葵]
どうして私あんな事言っちゃったんだろうと何度も後悔する。
後悔すれば後悔する分、また視界が滲んだ。
考えるのが嫌になって、目を閉じれば、いつの間にか眠りについてしまった。
――――――――……
トントンと、ドアを叩く音が聞こえた気がした。
それを合図に、意識が現実に引き戻された。
ゆっくりと目を開く。
「越」
柴だ。
:08/04/27 17:36
:SO903i
:☆☆☆
#270 [向日葵]
心臓が跳ねる。
私は返事をしなかった。
するとまたノックをして、私の名前が呼ばれた。
静かな事を証明する耳鳴りのような音が聞こえた。
しばらくすれば、柴はどこかへ行ってしまった。
足音が消えた所で、私はベッドから降りる。
1日こんな気まずい状態でいれやしない。
遅刻上等で学校へ行こう。
私はさっさと支度を始めた。
鏡を覗けば、少し目が腫れていたけれどそのうち直るだろうとほっておく事にした。
:08/04/27 17:41
:SO903i
:☆☆☆
#271 [向日葵]
支度を全て終えたのはいいけれど、困った事がある。
柴の現在地が分からない。
部屋にいるのか、リビングにいるのか、はたまた別の場所にいるのか……。
深呼吸をしてから、ドアノブに手をかけ、「いざっ!」と自分を奮い起こす。
勢いよくドアを開けた。
「どこに行くつもり?」
私は1歩も部屋から踏み出す事なく硬直する。
なんと柴はドアのすぐ横にいたのだった。
:08/04/27 17:45
:SO903i
:☆☆☆
#272 [向日葵]
「……が、……こう……」
蚊が鳴くような――……とはこの事。
絶対に柴に聞こえてなかったと思うけれど、私の格好を見れば一目瞭然だと思う。
柴は私を押し戻して、また部屋に入れる。
入口は柴が塞いでしまった。
逃げ場所はない。
自分の鼓動だけがやけに早く聞こえた。
柴は腕を組んでドアにもたれる。
私はお腹辺りで指を絡ませて手を組み、うつ向く。
:08/04/27 17:49
:SO903i
:☆☆☆
#273 [向日葵]
「体、良くないんだろ」
「よく寝たから……大丈夫。心配かけてごめん」
必死に、なんでもない風を装う。
でなければ優しい柴はきっと責任を感じてしまうから。
私さえ頑張れば、全ていつも通りに戻る。
そう思い、顔を上げる。
「私、これでも委員長だから、しっかり学校行かなきゃ。柴に迷惑はかけないよ」
「別に迷惑とは思わないよ」
「ううん。私が心苦しいの。だから、大丈夫……」
:08/04/27 17:53
:SO903i
:☆☆☆
#274 [向日葵]
にこっと笑って見せる。
大丈夫だよ。私は平気だよって言うように。
柴はしばらく黙っていた。
時計の音と、私の心音がハモる。
そして柴は口を開いた。
「大丈夫なら……何で俺の事見ないの?」
私は目を見開いた。
そうなのだ。
顔を上げたものの、私は柴を見れないでいた。
それはこの前の柴の冷たい顔が目に焼き付いてしまって、怖くて見れなかったのだ。
:08/04/27 17:57
:SO903i
:☆☆☆
#275 [向日葵]
「嫌いになった?」
「……そんなんじゃない」
「じゃあ何?」
胸か苦しくなって、強行突破で柴に近づき押し退けて出て行こうとした。
でもこの作戦は有効じゃなかった。
柴は私の腕を掴んで反転すると、壁に私をドアに押し付けた。
私は息を飲んだ。
動揺していると、柴の顔が近づいてきた。
おでこがぶつかりそうな距離だ。
:08/04/27 18:01
:SO903i
:☆☆☆
#276 [向日葵]
「怖がらないで」
低く穏やかに柴が言う。
私はまだ柴に目を向けられないでいる。
「前の態度は良くなかった。謝るよ。でも俺だって、思い出したくもない過去の1つや2つある。越だって、あるでしょ……?」
「……ある」
「だったら分かって?越は知らなくていいんだ」
違う……。
そんなんじゃない。
「知らなくていいって……私は柴に必要ない?」
口をついて出たのはそんな言葉だった。
:08/04/27 18:05
:SO903i
:☆☆☆
#277 [向日葵]
「私、柴が好きだもん。大好きだもん……柴の悲しい嫌な思い出消し去るくらい、幸せになって欲しいだけなの……っ」
私達は家族。
色々な形はあると思うけど、私達家族は、悲しみを分かちあって支えあってる。
だから柴にも、打ち明けて欲しかっただけ。
でも柴は「知らなくていい」と言った。
それは柴だけが私達家族に加わっていないように私は思った。
「それでも……柴が傷つくなら聞いちゃダメって思った。これは、私のワガママだから……だからっ」
:08/04/27 18:10
:SO903i
:☆☆☆
#278 [向日葵]
「もう何も聞かないって決めてたのに」と言おうとしたら、柴の腕に包まれた。
力強く抱き締められて、私の心臓はさっきとは違う意味の脈を打った。
柴の体が密着して、体温を感じれば、更に加速していく。
「越……」
柴が耳元で呟く。
自分の名前がこんなに甘い響きを持っているなんて知らなかった。
恥ずかしさのあまり、私は目をギュッと瞑った。
「違うよ越……。俺は越が、越達家族が大切なんだ。わざわざ俺の闇に手を触れて、光を失う必要なんて無いって言いたいんだ」
:08/04/27 18:17
:SO903i
:☆☆☆
#279 [向日葵]
柴の声は、苦しそうだった。
私は瞑っていた目をゆっくり開いて、視線だけ動かす。
柴の綺麗な茶色い髪の毛しか見えない。
「分かって越。大切だから傷つけるのが怖いだけなんだ。でも言える時が来たなら、きっと言うから」
そう言って、少し距離を取った柴をようやく見つめる事が出来た。
「それまで待って欲しいんだ」
昨日見たあの冷たい印象を持った灰色の瞳は、温かさを取り戻していた。
それを見ただけで、ホッと安心して、頬を緩める。
「分かった」
:08/04/27 18:24
:SO903i
:☆☆☆
#280 [向日葵]
すると柴の瞳が小さく変化したような気がした。
それを感じた私は、「ん?」と思うと同時に柴の手に顔を包まれた。
和解するかのように、顔を変形させて盛大に笑うのかと思ったけどそうじゃなかった。
柴は徐々に私に顔を近づけてきた。
灰色のあの瞳に私が写っていると分かるくらい。
鈍感と言う判子をデカデカと押されている私でもさすがに今から何をされるか予想してしまった。
「わ、わぁぁっ!」
:08/04/27 18:28
:SO903i
:☆☆☆
#281 [向日葵]
ザッと勢いよくしゃがみ込んだ。
そして近くに落ちていたカバンを持ってドアを押し開ける。
「い、いいいってくるっ!!」
階段を一気に駆け下りて、外へ出れば自転車を動かして一心不乱に漕ぎだした。
何……っ!今の……っ!
ど、どどどうして柴、私にキッ……!!
そこまで思って、更に頭はヒートアップした。
「わぁぁぁぁっ!」
意味もなく叫ぶ。
明らかにおかしな子に認定されただろう。
:08/04/27 18:33
:SO903i
:☆☆☆
#282 [向日葵]
結局私が学校に着いたのは、2時間目が始まった時だった。
教室に来れば、皆がいなくておかしいと思った私は、机の上や床に置いてある沢山の荷物を見て、2時間目が体育である事を思い出す。
途中で行くのもなんなので、そのままサボる事にした。
幸い自分の席は空いていたので座った。
「はぁ……」
ため息をついて机に突っ伏す。
柴と仲直り出来たのはいいけれど、今度は違う意味で気まずくなってしまった。
:08/05/02 00:16
:SO903i
:☆☆☆
#283 [向日葵]
「家に帰りずらいよぉ……」
どうして柴は私にキ……キ、キスしようとしたんだろう……。
そして私はどうしてこんなにドキドキしてるんだろう……。
今まで柴が抱きついたり、抱き締めたりしても何も思わなかったし、キスなんてされてももしかしたら平気だったと思う……まぁ口は別だと思うけど。
そこで桜の言った言葉を思い出す。
[お姉ちゃん、柴が好きなの?]
す……好き……?
:08/05/02 00:19
:SO903i
:☆☆☆
#284 [向日葵]
好きって……そりゃ好きだけど……。
桜の言ってる“好き”は、私と違う意味を持ってるのだろうか。
頭を抱えていれば、柴がどんな人なのかを思い出す。
透き通るような茶髪。
細身で、だけどほど良く筋肉がついていて。
神秘的で魅惑的な灰色の目は、人の心を惑わす。
性格は甘えん坊。少し毒舌。とても妬きもちやき。誰よりも愛情を欲していて、優しい……。
これだけ柴の事を分かっていても、私はまだ足りないって思っちゃったんだ……。
:08/05/02 00:26
:SO903i
:☆☆☆
#285 [向日葵]
それは……。
「好きだから……?」
口にしてしまえば、それは形となって、胸の奥に甘い衝撃をもたらした。
そうだったんだ……。
私……柴が好きだったんだ……。
じゃあ柴は?
柴はどう思ってるんだろう。
もしかすれば、柴はさっきキスしようとしたんじゃないのかもしれない。
私の早とちりだったのかもしれない。
甘えたい時にはいつもやるみたいに、肩や頭に自分の頭を乗せたかっただけかもしれない。
:08/05/02 00:29
:SO903i
:☆☆☆
#286 [向日葵]
なら柴は、ただ私の事を飼い主程度にしか思ってないかもしれない。
なら、完全に私の片思いか……。
……でもこれが分かったからって自分が何をしなきゃならないかなんて分からない。
恋愛の基礎なんて自分は知らない。教科書があればそれを買いたいくらい。
いや……それよりもっと重要なのは、帰ったらどうすればいいかだ。
慣れない事で頭をフル回転していれば、次第にどこかに支障が出る。
私の考えはどうどう巡りしだした。
:08/05/02 00:34
:SO903i
:☆☆☆
#287 [向日葵]
そんな時、誰かがドアを開けた。
頭を抱えながらその方を見れば、そこに立っていたのは体操服姿の立川君だった。
立川君はこちらに気づくと、目を軽く見開いて驚いていた。
「神田さん?どうして……。だって今日休みじゃ……」
「体調も良くなったから来ちゃったよ。家にいてもしょうがないし」
と言って、またさっきの出来事を思い出した。
「しょうが……ないし……ウン……」
:08/05/02 00:37
:SO903i
:☆☆☆
#288 [向日葵]
そういえばと立川君を見る。
彼はどうして授業の最中に教室にいるのだろう。
「立川君はどうかした?まだ授業やってるよね」
「あ……はい。そうですが……。幻かと思ったんです」
立川君はなんだか眩しそうに私を見る。
私は首を傾げながら「幻?」と言った。
立川君は前髪に指を埋めて、困ったような表情を見せる。
「貴方が……グラウンドから見えたので、休みの筈なのにおかしい。自分は幻を見てるんじゃ……と思ったもので」
:08/05/02 00:41
:SO903i
:☆☆☆
#289 [向日葵]
「やだ立川君。私がいなくても別になんともでしょ?そりゃ委員長としては、仕事しっかりやらなきゃいけないけど」
立川君は今度は真っ直ぐに私を見る。
私の席は窓際だけれど、教室の端と端でも立川君の眼光は届いた。
「なんともない?」
呟いたその声は怒っているようにも聞こえた。
なので私は何か悪い事言ったかと不安になった。
「貴方は何も分かっていない」
立川君はそう言って、ゆっくり私との距離を詰めて来る。
その威圧感に、後退りしたくても後ろはもちろん窓なので無理だった。
:08/05/02 00:46
:SO903i
:☆☆☆
#290 [向日葵]
「た……立川君?」
名前を呼ぶと同時に、立川君はぴたりと止まる。
私との距離は1メートルほど。
「僕は、貴方が必要です。貴方ては毎日でも会いたい」
「必要って……。私は立川君みたいにしっかり仕事も出来ないし……あ、そりゃ頑張ってるつもりだよ!?でも必要って言われるほど大事な役割を担ってる感じは……」
「だから分かってないと言うのです」
立川君は手を伸ばし、私の腕を掴んだ。
:08/05/02 00:50
:SO903i
:☆☆☆
#291 [向日葵]
そして次の瞬間、私は立川君の腕の中にいた。
「ここまで言っても分かりませんか……。いや、前に言っても分かっていなかった。だからもう1度言います」
柴のような、細く力強い感じではなく、たくましい立川君の体に抱き締められた私は動揺を隠せないでいた。
「僕は貴方が好きです。友人としてではなく、異性として貴方が好きなんです。神田越さん……」
「……っ!」
驚いて、体が硬直した。
立川君が私を……っ!?
:08/05/02 00:54
:SO903i
:☆☆☆
#292 [向日葵]
:08/05/04 01:29
:SO903i
:☆☆☆
#293 [向日葵]
「神田さんの悩みや辛い事は僕に打ち明けてもらいたい……。貴方は無茶をしすぎるから、僕は助けてあげたいんで……」
立川君の言葉を聞き終える前に、両手を突っ張った。
頭が混乱した。
そして何より……柴じゃない腕に抱き締められるのが嫌だと感じてしまった。
別に立川君が嫌いな訳じゃない。
ただいつもと違う腕の感触が違和感を覚えてしまったのだ。
私はうつ向いて言葉を無くす。
なんて言えばいいのか、どうすれば立川君を傷つけないだろうか。
傷つけないと結論が出ているのならば、私はやっぱり立川君の告白を受け止める事が出来ないと言う事だ。
:08/05/04 01:34
:SO903i
:☆☆☆
#294 [向日葵]
たまらず出て行こうとすると、腕を掴まれた。
「待って下さいっ!」
私は立川君を見た。
いつもクールで冷静沈着な立川君が、困った顔をして焦っていた。
何故か荒くなる息を、私は静めようとする。
耳の奥では、ドクドクと鼓動が聞こえた。
「こんな事してすいません……でも、嘘偽りはありません。これが自分の気持ちですから……。でも、だからと言って、気まずくなるのだけはやめて下さい……」
「う……うん……分かった……」
:08/05/04 01:38
:SO903i
:☆☆☆
#295 [向日葵]
「でも」と私は続けた。
「きっと……立川君の気持ちを、受け止める事は出来ない……」
立川君は軽く目を見開く。
「それは、体育祭に来ていた男性ですか?」
思えばその時からだった。
私が柴を意識し始めたのは。
初めて柴をかっこいいと思った。
知らない一面を見れば本当の柴を知りたくてドンドンのめり込みそうになる自分に驚いた。
本当は知っていたのかもしれない。
この気持ちが何なのかを……。
:08/05/04 01:43
:SO903i
:☆☆☆
#296 [向日葵]
でもその気持ちを拒否された時、私はどうすればいいか分からない。
ならば今のままでいいじゃないか。
心の底では、そう感じていたかもしれない。
だから分からないフリをし続けていたのだろうか……。
「柴は……守ってあげたいと思った人だから……」
大切に、大切にしてあげたい……。
「そう自覚したのはいつですか?」
「えっと……分からないのだけれど、気づいたのはさっきで……」
「ならチャンスはあります」
:08/05/04 01:46
:SO903i
:☆☆☆
#297 [向日葵]
え?
するりと立川君の手が私の腕を離した。
「その気持ちが、実は勘違いかも……となれば、俺にもまだ挽回のチャンスはありますよね」
「あ、いや、それは……」
そんな事を言われれば更に困ってしまう。
勘違い?
そんな筈ないと思う。
だって柴を思い出す度に胸が苦しくなるんだもの……。
「とにかく……まだ決定打を打たれるまでは、俺は諦めませんから」
:08/05/04 01:50
:SO903i
:☆☆☆
#298 [向日葵]
それだけ言って、立川君は行ってしまった。
力が抜けて、その場に座りこむ。
なんなんだ今日は……。
柴にキスされそうになるし、立川君には好きだとか言われるし……。
いっぺんに言いたい放題言わないで!したい放題しないで!
一番困っているのは……私だよ……。
と、急にクラリときた私は、そのまま床に倒れてしまった。
そういえば過労とか言われてたっけ……。
:08/05/04 01:54
:SO903i
:☆☆☆
#299 [向日葵]
―――――――……
ヒヤリとした物が、額に当たるのを感じた。
優しく髪の毛を撫でる指は、なんて長いのだろう。
誰……?
・・・・・・・・・・・・・・・・
「おねえちゃん。だいじょうぶぅ?」
「苺……?」
目をうっすら開けて周りを見れば、見慣れた景色だった。
私の部屋だ。
「もう、心配かけないでよね!」
「あれ、桜……」
:08/05/04 01:57
:SO903i
:☆☆☆
#300 [向日葵]
「学校から電話があって、お姉ちゃんが倒れたって言うから、柴が迎えに行って家まで連れて帰ってきたの!過労ならちゃんと休んでなよねぇっ!」
じゃあ……。
頭にそっと触れる。
さっき寝ている自分の髪を撫でたのは、柴なのだろうか……。
「おねえちゃん、しばちゃんにありがとうしなきゃメッよ?」
「……そうねぇ」
と苺の頭を撫でた。
苺はされるがままになっている。
「今何時?」
:08/05/04 02:01
:SO903i
:☆☆☆
#301 [向日葵]
:08/05/05 12:36
:SO903i
:☆☆☆
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