*柴日記*
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#411 [向日葵]
やがて長いため息が聞こえた。

「やはり苦手だ」

「は……?」

父は椅子から立ち上がり、窓辺に立つ。
ようやく見えた父の姿に、そういえばこんな姿をしていたっけと柴は呑気に思った。

たった数ヶ月の筈なのに、とても長い間会っていなかった気がするのは何故だろう。

「私の会社は、先々代から続くものでな……。常に成績が全ての家系だったんだよ」

何を話したいのかさっぱりな柴だが、首を傾げながらも父の淡々とした口調に耳を傾けた。

「私は、父や祖父の厳しい顔しか思い出せない……」

⏰:08/07/07 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#412 [向日葵]
そんなの自分だって同じだと柴は思った。
厳しい顔か無表情な顔しか自分は見た事はない。

ただ……と柴は思う。

依然父は窓の外を見たままだ。

「私はそんな両親が嫌いでね……。どうして私自身を見てくれないのかと頭を抱えたものだよ」

「それが……なんなの……」

柴が静かな問うと、父はゆっくりと振り向き、柴を真っ直ぐに見つめた。
父とこうして喋るのは、初めてな気がした。

「それが嫌だから、私は繰り返したくないと思ったんだ」

⏰:08/07/10 23:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#413 [向日葵]
嫌だって……。
だけど自分は……と柴は顔を少し険しくした。

その柴の思いに気づいたのか、父が口を開く。

「驚いたんだ。繰り返したくないと言いながら、私はお前が生まれて、いざ行動にうつした時、愛し方が全くわからなかったんだ」

「嘘だ」

反射的に柴はそう答えた。

「自分がしてもらいたい事をすればいいんじゃないのか……?」

⏰:08/07/10 23:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#414 [向日葵]
父は自分の両手を見つめる。
そしてまた柴を見つめた。

「いざとなるとね、自分が何をしてもらいたかったか分からなくなるんだ……。自分はどう愛して欲しかったのか、何をして欲しかったのか……」

そう言われて柴はハッとする。
その言葉に、納得してしまったからだ。

愛情が欲しいと思った。
でも愛情と言うのはどういう風にもらうのか、柴は知らない。
そうしたものをこめて接してもらった事がないからだ。

どうして欲しいか分かったのは早代が現れ、越が現れたからだ。

早代が自分を可愛がり、越はたくさんの笑顔をくれてからだ。

⏰:08/07/10 23:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#415 [向日葵]
自分は誰かから抱き締めてもらいたかったし、抱き締めたかった。

成長する過程で、親が赤ん坊を抱くのを大切とするように。

自分は、抱き締められた記憶すら、小さい頃にはなかった。

「じゃあ、今何をしたいか分かるの?分かるなら、俺が出ていく時、早代に酷い事したの?」

まだ納得してないような態度をとり、父の本当の気持ちを引き出すよう尋問する。

父は苦い顔をして机に寄りかかり、目を伏せた。

「あれは、確かに酷かったと思う……。怒りに任せてしていい事ではない……」

⏰:08/07/10 23:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#416 [向日葵]
伏せた目を覆うように、片手で目元を隠す。
そしてボソリと呟く。

「怖かった……。また去っていくのかもしれないと思うと……」

柴は、実は知っていた。

前の母親が出て行ってしまった日、柴は通りかかったのは父の書斎だった。
少し開いたドアの隙間から見る父は、窓辺に手をつき、肩を落としていた。

それこそが、父の本当の姿ではないのか?と思ったのを、柴は今でも覚えている。

「それでも早代がそばにいてくれたのが嬉しかった。私はこんなだから、それを詫びる事も未だ出来ていないが……本当に申し訳なかったと思ってる……。早代も、大和……、お前も……」

⏰:08/07/10 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#417 [向日葵]
>>319に感想板があるので良ければお願いしますm(__)m

⏰:08/07/10 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#418 [向日葵]
父は柴に歩みよる。
何も言わず、ただじっと柴を見つめたかと思うと、ためらいがちに手を伸ばし、柴の頭を柔らかくくしゃりと撫でた。

「本当は、抱き締めてみたいものだけど、今はこれが精一杯みたいだ……」

父が苦笑いを浮かべる。
柴は目が潤む。

この温かな瞬間を、どれほど自分は待ち望んでいただろうか。
抱き締めてくれなくてもいい。
不器用に撫でてくれる手から、何もかもが伝わってくる。

「大和、うちへ戻ってきなさい……」

柴はうつむいて、ひそかに目をこすった。

⏰:08/07/16 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#419 [向日葵]
「もう少し……考えさせてほしい……」

こちらに戻るというのは、越達と離れなきゃならないということ。
柴はまだ、越や他の皆とは離れたくない気持ちでいっぱいだった。

「分かった……とりあえず、お互いのリハビリもかねて、2、3日ここで泊まるというのはどうだ?」

越や、越達は、心配してるかな……。
ふと柴は思う。
父の問いには答えず、柴は唐突に言う。

「電話を貸してくれる?」

*******************

仕事が休みだった主婦祐子はリビングで雑誌を読みながら軽く茶をしばいていた。

⏰:08/07/16 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#420 [向日葵]
今日の午後の予定をあれやこれや考えていた祐子は越の様子が気になっていた。

いつも通り、朝早く起きて皆の為にご飯を作って、苺や空の面倒を見てから学校へ行く。

それは別にいいのだ。

行動がおかしいのではない。
越が身にまとっているそのいつも通りすぎる雰囲気がおかしいのだ。

ちょうど4日程前。

祐子は残業で遅く帰っていた。
玄関を開ける前にふと気づく。
リビングの明かりがついているのだ。

どうせ消し忘れだろうと、「ったく」と思いながら帰宅した祐子を待っていたのは、ソファに縮こまって座っていた越だった。

⏰:08/07/16 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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