*柴日記*
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#638 [向日葵]
「……誰が誰に何で」

訊きたい事をいっぺんに詰め込み訊く。

「祐子さんが、僕に。食べたいからっ。なんかそりゃ好きな人の手料理って食べたいし」

恥ずかし気もなく“好きな人”だなんて言うから祐子は背筋がゾワッとしながらも耳が熱くなるのを感じる。

「めんどくさいっつったろっ!」

「そう言いながら作ってくれるんだよね祐子さんは。前だって調理実習のカップケーキくれたしっ」

くれ、とせがまれていたが、祐子は嫌だと言っていた。
しかし本当にくれないと分かればしょんぼりするのが一朗なので、可哀想だと思って前はやったが……。

⏰:08/09/25 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#639 [向日葵]
「あれはあまりがあったからだ!そうでなきゃなんでお前にやらなきゃならんっ!」

「分かったよ。そこまで否定しなくてもいいじゃない」

苦笑いを浮かべて、一朗は祐子の持っているカゴを持つ。

取り返そうとするも、また手を握られる。
思わず固まる。
これではまるで恋人同士。
顔が熱いのなんて気づかないフリをする。
一朗は何とも思わないみたいに歩く。
それを見るとなんだか腹が立ってくる。

どうしてここまで振り回されなきゃならない……。

祐子に反発心が芽生える。
主導権を握られるのは好きじゃない。

手だってなんだか汗をかいてるみたいだし……。

⏰:08/09/28 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#640 [向日葵]
買い物を終え、自転車のカゴに荷物を入れて、ハンドルを握ると、その上から長い指をそなえた手が被さる。

「――っ、なにっ!」

「暗くなるから送るよ。毎日送らせてくれずに自転車で逃げるように帰っちゃうからちょっと不愉快だったんだよね」

不愉快って……。

にっこりと、トゲを刺してくる一朗に、苦虫を噛み潰したような顔をする祐子。
有無を言わさず、後ろに乗せられ、一朗と2人乗りで帰る事になった。

沈みかけの夕日が、なんとも幻想的で綺麗だった。

⏰:08/09/28 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#641 [向日葵]
それも、今までで1番綺麗な気がする。

そう思うのは、どうしてだろう……。

握られたり、重ねられたりする自分の手をそっと撫でる。
自分の手が、彼の手のように綺麗になったように感じる。
自転車で進む度ふわりと吹いてくる風が心地よい。
その度、祐子の少しウェーブがかった髪もふわりとする。

ぼんやりと過ぎ行く景色を見ていたら、一朗から口笛が聞こえてくる。

「さて、なんでしょう」

その問いに、祐子は口の中でさっきのメロディを繰り返す。

⏰:08/09/28 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#642 [向日葵]
「……赤とんぼ?」

「正解っ」

そう言うと一朗は今度は口ずさむ。
その声に、祐子は耳を傾ける。

「その歌って、寂しい感じがする……」

ぼんやりと祐子は言う。
一朗は「そう?」と訊き返し、祐子の返事を待つ為に歌うのを止めた。

「夕焼けって寂しいイメージがする。そこに1匹だけ赤とんぼが飛んでる気がする。それってなんだかすごく……切ない」

夕日が嫌いなんじゃない。
さっきも思ったように綺麗だと感じるし、むしろ好きだ。

⏰:08/09/28 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#643 [向日葵]
ただ、祐子は教室で1人ぼっちでいる自分と、赤とんぼのイメージを重ねていた。
どこか、孤独な、その様を……。

「……祐子さん、僕がいるよ」

「は……?」

「寂しくないよ。僕がいるから」

「だ、誰が寂しいなんて言った……っ。あ、あたしはただ、そんなイメージがって……」

「うん……」

納得したのか、それとも適当に頷いたかは分からない。
ただ、彼は祐子の思いを感じ取ったようだった。

⏰:08/09/28 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#644 [向日葵]
心に、無遠慮に侵入してくる……。
居心地が悪くないのがまた困る。言うんじゃなかった……。

「なぁ神田」

「一朗でいいよ」

「かーんーだ」

意地でも呼びたくないと思い、一朗の言葉を無視する。
クスクス笑う一朗は「何?」と言う。

「手を握ったりするをやめてくれないか?」

「どうして?」

「…………手汗をかくから」

大した理由が浮かばない。
本当は恥ずかしいなんて絶対に言いたくない。
何故か、一朗の好きだと言う態度には反抗したくなる。

⏰:08/09/28 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#645 [向日葵]
「緊張するって事?」

「じゃない」

一朗はただクスクス笑う。
こっちの考えを見透かされているみたいで、祐子は居心地が悪くなる。

「やめてくれない?そうやって何でも分かった風に振る舞うの」

「だって祐子さんは分かりやすいから」

「何それ。単純馬鹿って言いたいのかよ」

「素直で可愛いって事」

そんな風に言う一朗ね背中を拳で叩く。
「痛い痛い」と、さほど痛くなさそうな声を出して、また笑う一朗。

⏰:08/10/04 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#646 [向日葵]
居心地が悪い。
ムカつく。
寒いやつ。

そう思うのに、そばにいる事を許している自分はなんなのだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あらあらあら!まぁまぁまぁ!」

翠がたまたま外へ出てくるのと、祐子を乗せた一朗が家に着くのとは同時だった。

祐子は頭を抱えてうなだれる。

この事態だけは避けておきたかった……。

案の定、翠は興奮に頬を紅潮させ目をキラキラさせる。

⏰:08/10/04 00:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#647 [向日葵]
一朗は祐子が怪我しないようゆっくりとブレーキをかけて止まる。祐子をおろし、自分もおりると、翠に向き直りにっこり笑う。

「初めまして。神田一朗です。祐子さんをお送りさせて頂きたくて、やって来ました」

「あらあらご丁寧に。祐子ちゃんのママの翠です」

「挨拶しなくていいからっ!ホラママ」

「翠ちゃんっ!」

「……翠ちゃん、家に入ろう」

翠は口を尖らせて祐子のそばをすり抜けると、一朗の前に行く。
そして一朗に負けないくらいにっこり笑う。

⏰:08/10/04 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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