よすが
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#337 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
倒れる――その瞬間、細い腕があたしの体を抱いた。
ハナだ。

「帰ろう?」

――うん。

あたしは小さく頷いた。
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⏰:08/05/14 01:40 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#338 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナの細く白い腕があたしの体を持ち上げる。
力を入れているのに、入らない。自分の体じゃないように感じる。
ハナの腕の力だけであたしは立ち上がった。

「早く帰ってくるんだよ」

男の声がした。感情を失ってしまったように抑揚の無い声が。
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⏰:08/05/14 01:41 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#339 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「必ず戻るから……待ってて、パパ」

そう言ったハナの声に、男への憐れみを感じた。

ハナの肩に腕を回し体重を乗せ、足を引きずるようにしてあたしは進む。
あの忌ま忌ましいコンクリートの箱から離れられる。男の呪縛から逃れられる。
その想いがあたしの足を動かしていた。
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⏰:08/05/14 01:41 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#340 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
コンクリートの箱に背を向け、あたしたちはゆっくりと土の道を歩む。
はっきりしない意識の中で、木々の向こうから背中に虚しい視線を感じていた。


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⏰:08/05/14 01:42 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#341 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
途中何度か転びながらも、あたしたちは歩みを止めなかった。
コンクリートの箱から離れるに連れて、後ろから男が追ってくるんじゃないかという恐怖に襲われた。

覚束ない足取りで歩くあたしの意識はかなり前から朦朧とし始めていて、体を密着させているハナの温かみだけが頼りだ。
頭の中は空っぽで、あたしはただ足を動かすことだけに集中していた。
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⏰:08/05/15 00:13 📱:SH903i 🆔:vyDNGB6.


#342 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
気がつけば頭の上に覆いかぶさる木の葉はなく、一面オレンジの空が拡がっていた。
歩みを止めてしまうと立っていることが辛くなってきて、あたしはハナの肩から滑り落ちた。

「ユキ!」
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⏰:08/05/15 00:14 📱:SH903i 🆔:vyDNGB6.


#343 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ユキがあたしの腕を掴んで、そのままゆっくり降ろしてくれる。
ここは、二週間前に連れて来られた駐車場だ。
あたしは黒い地面に体重を預け、空を見上げていた。
休まず歩いてきたせいかあたしの呼吸はさらに早くなり、体中が脈打っている。

「ハナ……ありがと……」
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⏰:08/05/15 00:14 📱:SH903i 🆔:vyDNGB6.


#344 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ハナ……ありがと……」

呼吸の隙間に呟いた。

「ユキ、大丈夫? しっかりして、もう少し下まで行かないと――」

「ちょっとだけ……休憩……させて……」

ハナの言葉を遮ってそう言うと、彼女は「うん」とだけ答えてあたしの左手を握りしめた。

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⏰:08/05/16 03:36 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#345 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
冷たい北風があたしの頬を撫でる。頭から流れていた血は止まったけれど、涙と混じって顔中にこびりついていた。
脇腹と左腕が激しい痛みとともに熱を帯びて痺れている。
けれどそんな体の状態に反してあたしの気持ちは晴々としていた。
たった一つの悲しみを除いては。

「ねぇ……ハナ」
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⏰:08/05/16 03:36 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#346 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「なあに?」

「一緒に……帰れない……かな? ……このまま……逃げられないかな……?」

声を出すのも辛いけれど、どうしてもハナを置き去りにしたくなかった。
あたしの言葉を聞いたハナは悲しげに目を伏せて黙り込んでしまった。
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⏰:08/05/16 03:37 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


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