よすが
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#1 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
初めまして、蜜月と申します(*´∀`)

更新は大体夜中になります(・ω・*)
どーぞよろしくお願いします★


↓感想板はこちら
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ご意見やアドバイスなんかもいただけると有り難いですっ


↓あらすじはこちら
>>2

⏰:08/04/02 23:45 📱:SH903i 🆔:KU4lIxIQ


#2 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
幼い頃、ある事件に巻き込まれ記憶を失った少女。
十八歳になった彼女は記憶を取り戻す為、幼馴染みの少年を連れて過去へと遡る。
記憶を辿る中で明らかになってゆく事件の全容と彼女の知らない事実。
そして幼馴染みの少年に隠された秘密……。
事件のあった場所で彼女を待ち受ける真実とは――?

⏰:08/04/02 23:50 📱:SH903i 🆔:KU4lIxIQ


#3 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

では、本編スタートです(・∀・)ノ


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⏰:08/04/03 00:07 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#4 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――あの日、季節外れの花火の下で約束したこと、まだ覚えてる?

私の生きる縁(よすが)は、君だよ――

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⏰:08/04/03 00:08 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#5 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
―T―


授業開始のチャイムが校舎に鳴り響く中、冬だというのにあたしは一人屋上で考え事をしていた。


昼休み、いつも通り自分の教室で友達と一緒に弁当を食べた後、一人になりたくて屋上に来た。
昔のことを考えている内に、昼休みが終わってしまっていた。

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⏰:08/04/03 00:10 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#6 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

今まで授業をさぼったことなんて無かったけれど、今日は教室に戻りたくなかった。

授業よりも、自分の過去と向き合うことの方が今のあたしには重要に思えたから。


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⏰:08/04/03 00:12 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#7 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
昨日の夜、夢を見た。
あたしは、小さな女の子と一緒にいた。

長い長い坂道を、あたしたちは手を繋いで登っていた。
登っても登っても、終わらない登り坂。

あたしの口が言葉を発した。

「あなたは……だあれ?」

「私は……」


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⏰:08/04/03 00:14 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#8 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
目が覚めた時には、女の子の顔は忘れてしまっていた。

けれど、あたしはあの子を知っている。
そんな気がする。


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⏰:08/04/03 00:15 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#9 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

八年間。

あたしには、八歳までの記憶が無い。

病院のベッドで目を覚まし、父と母が泣きながらあたしを抱きしめているのが、一番古い記憶。

八年間をどこかに落としたまま、あたしは十八歳になってしまった。

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⏰:08/04/03 00:17 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#10 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
何があったのか思い出そうとしても、何一つ思い出せない。
父や母に何度も聞いてみたけれど、答えは毎回同じ。

「あなたは知らなくていいの。これからは普通に暮らしていこうね」

あたしたちに、何か普通でないことが起きたのだろう。

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⏰:08/04/03 00:20 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#11 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
父や母がその問いに答える時の顔には決まっていつも、悲しみが浮かんでいた。
しかし同時に、あたしへの愛情に満ちていた。

だからあたしは、過去を捨てて今を生きることにした。

父と、母とともに。


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⏰:08/04/03 00:21 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#12 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれど昨日の夢は、あたしに過去を取り戻させようとしている気がした。

今まで考えないようにしてきたけれど、やはりいつかは向き合わなければいけないことをあたしは知っていたのだと思う。

そのいつかが今だと、昨日の夢があたしに知らせていた。

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⏰:08/04/03 00:23 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#13 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そしてあたしは、落としてしまった自分の八年間を、あたしの頭の中に閉じ込められた記憶を、探し出す。そう決心した。



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⏰:08/04/03 00:24 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#14 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

屋上で冷たい風に吹かれながら、十年前のことを考えてみる。

病院で目を覚ました時、あたしの頭や腕には包帯がぐるぐるに巻かれていた。
父と母はその体を抱きしめながら、あたしの名前を呼んでいた。

「ユキ、ユキ! ああ、良かった……ユキ」

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⏰:08/04/03 00:25 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#15 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
それが一番古い記憶。
何度頭を痛めても、やはりそれ以前のことは思い出せない。

しかし八歳のあたしは、意識が戻ってもすぐには退院出来なかった。
体の傷がかなりひどかったらしく、目を覚ますまでにかなり回復していたけれど、それでもその後三ヶ月は治療が続いた。

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⏰:08/04/03 00:26 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#16 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
病院では、いつも父か母が一緒にいてくれた。
一度、偶然二人とも傍にいない時に、他の入院患者に聞いてみたことがある。

「あたし、いつからここにいるの?」

「半年くらい前からかしらね。あなたのお父さんとお母さんは、その間毎日来てらっしゃったのよ。感謝しなくちゃね」

同じ病室のおばさんは、穏やかな笑顔でそう教えてくれた。


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⏰:08/04/03 00:31 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#17 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

傷が治って退院した後、あたしは新しい学校に転入した。
そもそも、前の学校のことも友達のことも何も覚えていないのだから、あたしにとっては同じことだった。

後になって父から聞いたのだが、あたしたちはもともと田舎の方に住んでいたらしい。
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⏰:08/04/03 00:34 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#18 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
父も母も、あたしの記憶が無い頃の話を未だにしようとしないが、その話をした時の父はひどく酔っていた。
田舎から、同じ県内の中心部であるこの街に引っ越して来たのだと言ったきり、父は黙ってしまった。

その時あたしは、父が普段なら絶対に口にしない過去の話をしたことと、いつもとは違う父の雰囲気に驚き、何も言えなかった。

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⏰:08/04/03 00:34 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#19 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
それからは元通り、父も母も過去の話には触れなかった。


転校してからは特に不自由なこともなく、中学に上がり、受験戦争を乗り越え高校に入学、と普通の毎日を過ごしてきた。

両親が望んだ通り、普通の生活。

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⏰:08/04/03 00:36 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#20 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

あたしは今、その普通から飛び出そうとしているのかもしれない。
自分の記憶を取り戻すことによって、今の普通で幸せな生活が壊れてしまうかもしれない。
そうなった時、あたしはどうすればいいのだろうか。

――怖い。

傷だらけになり記憶をなくした幼い自分が蘇る。またあんな風になってしまうのか……。

恐怖、その感情があたしを支配しそうになる。
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⏰:08/04/03 00:38 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#21 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれど、あたしは過去を受け入れる。そう決めたのだ。
ぎゅっと目をつむり、恐怖を向こう側へ押しやる。

しかし、父と母にはもう心配をかけたくなかった。悲しませたくなかった。
何があったのか、二人には聞けない。

でも、他に手掛かりは無い。

――あたしの過去に続く道は何処……?


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⏰:08/04/03 00:39 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#22 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

騒がしい声が聞こえてきて、思考を中断させられた。
屋上を囲っている柵越しに校庭を見下ろすと、家に帰ろうとする者や部活の準備をしている生徒が大勢歩いている。

とりあえず家に帰ろうと教室に戻ると、一人の男子生徒があたしを待っていた。

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⏰:08/04/03 00:42 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#23 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ユキー、どこ行ってたんだよー? 保健室行ってもいないし。鞄置きっぱなしだし。午後の授業出なかったんだってー?」

この男子生徒、サトルは、あたしが転校した小学校で出会った、一つ年下の幼なじみのようなもの。
彼とは家が近く、学校の行き帰りを共にすることも多かった。

「ごめんごめん、ちょっと考え事してたらこんな時間になってた。帰ろうか?」
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⏰:08/04/03 00:43 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#24 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは笑って答えながら鞄を手に取った。

「うん!」

サトルを見ていると、人懐っこい子犬みたいだといつも思う。
眩しいくらいの笑顔で返事をするサトルを見て、なんだか安心してしまった。

――あたしは変わらない。
例え何があろうと、あたしには大切な人たちがいるから。


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⏰:08/04/03 00:44 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#25 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

学校を出て、サトルと並んで歩いていた。
そうしていても、昨日の夢のことが頭を巡ってしまう。

「ユキ、ユキ!」

サトルがあたしの顔の前で片手を振っている。
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⏰:08/04/03 00:46 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#26 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「どうしたの? なんか今日変だよ、ユキ。何かあった? 誰かに虐められた?」

サトルが本気で心配してくれているのが解る。

「サトル、今日時間ある?」

「あるけど、何?」

あたしはサトルを連れて学校の近くのコーヒーショップに入った。

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⏰:08/04/03 01:09 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#27 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルはちょっとバカだけど、いざという時は頼りになるし、心の底から信じられる友達だ。

出会ってすぐの頃、サトルとあたしとあたしの母と、三人で大型のショッピングセンターに出掛けたことがあった。
あたしとサトルは楽しくて、母の言うことを聞かずに走り回って遊んでいたら、いつの間にか母とはぐれてしまった。

複雑な構造のショッピングセンターの中で、あたしとサトルは母を探してあちこち歩き回ったけれど、母の姿はどこにもない。
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⏰:08/04/03 01:10 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#28 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは心細くなって、泣き出してしまった。
するとサトルは、そんなあたしの手を引っ張って、近くにいた店員さんに話しかけた。

「迷子になっちゃったんですけど、どこに行ったらいいですかっ」

サトルの顔は真っ赤だった。きっとサトルも心細かったに違いない。
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⏰:08/04/03 02:11 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#29 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
迷子の放送をしてもらい、母が迎えに来てくれたとき、サトルも泣き出してしまった。
あたしが不安にならないように、我慢していたのだろう。

それがすごく嬉しかったし、あたしには一つ年下のサトルがとても強く見えた。

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⏰:08/04/03 02:11 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#30 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

大通りに面したコーヒーショップの窓際の席に座り、あたしはサトルに夢のこと、過去のことを全て話した。

サトルは何も知らない。
今まで、あたしの中で過去の話はタブーだったから。

初めて聞くあたしの話に、サトルは一生懸命耳を傾けてくれた。
たまに理解出来ないところを聞き返してくることもあったけれど、それ以外は黙って聞いてくれた。
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⏰:08/04/03 02:14 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#31 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
全てを話し終えて、あたしは最後にこう付け加えた。

「あたし、思い出したいの」

サトルは、あたしの顔を真っ直ぐ見つめて黙っていた。
何と答えようか、考えているのだろう。

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⏰:08/04/03 02:15 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#32 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
たっぷり五分は沈黙が続いた後、サトルが口を開いた。

「もし、ユキが辛くなったら、僕がいるから。何があっても僕がユキを守るからね!」

嬉しかった。サトルはいつも、あたしを安心させてくれる。
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⏰:08/04/03 02:18 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#33 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うん、ありがとう」

サトルは、自分に手伝えることは無いか、と言ってくれた。
あたしはその言葉に甘えることにした。

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⏰:08/04/03 02:18 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#34 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

あたしたちはコーヒーショップを出て、昔一緒に通っていた小学校に向かった。

「久しぶりだよね、小学校なんて。高校入学の報告に行ったきりだなあ、僕」

「あたしもだよ。中山先生、まだいたよね?」

中山先生とは、あたしが小学校に転入した年の担任教師だ。
記憶を失って精神的に不安定だったあたしを、いつも気遣ってくれる、良い先生だった。
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⏰:08/04/03 12:55 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#35 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
学校に着き、事務室の窓口で中山先生を呼んでもらおうとした。

「中山先生は去年、T町の学校に転任されましたけど」

あたしとサトルは顔を見合わせた。

「しかたないね」

サトルがそういって悲しそうな顔を見せる。
サトルにそうだね、と返し、窓口の事務員に尋ねた。
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⏰:08/04/03 12:56 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#36 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「あたし、十年前にここに転校してきたんですけど、その前にいた学校がどこか調べてもらえませんか?」

そう言うと、事務員の女性はあからさまに不審な目を向けてくる。あたしは慌てて説明した。

「あの、あたし、八歳の時に記憶喪失になって、ここに転校してきたんです。それより前のことは覚えてなくて……」

「……身分証明できるものあります?」
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⏰:08/04/03 12:57 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#37 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
女性がまだ信用しきっていない様子なので、あたしは急いで学生証を出した。
それを受け取った女性は、窓口の向こう側にあるパソコンに何やらカチャカチャと打ち込んでいく。

「確かに十年前に転入されてますね。その前の小学校は、T町のT小学校です」

「ありがとうございます!」

学生証を返してもらい、サトルを連れて校舎を出た。

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⏰:08/04/03 12:58 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#38 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「中山先生、ユキの前の学校にいるんだ!」

サトルはブランコをこぎながら嬉しそうに笑った。

あたしが中山先生に担任してもらった次の年、先生はサトルのクラスを受け持っていたから、サトルも中山先生が好きなのだ。

「ユキ、行くよね? 僕も一緒に行く! いいでしょ?」
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⏰:08/04/03 16:35 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#39 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うん、もちろん。でも今日はもう遅いから行けないよ。T町まで電車で一時間はかかるし」

もう辺りは夕暮れに染まり、あたしたちのいる校庭は夕日に照らされて眩しかった。

「明日、学校終わってから行こう」
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⏰:08/04/03 16:37 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#40 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしはサトルにそう言いながら、自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
家に帰って父と母の顔を見たら、過去を知るのがもっと怖くなってしまうような気がした。


だから、自分の決心が鈍らないように。

もし心が揺らいだとしても、きっとサトルが背中を押してくれると信じて。

――明日、行こう。


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⏰:08/04/03 16:38 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#41 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

家に帰ると、母が夕飯を用意しているところだった。

「おかえり、ユキ。遅かったじゃない」

「ただいま。サトルとちょっと話してたんだ。着替えたら手伝うね」

あたしはなるべくいつも通りに振る舞おうとした。
でも、母の顔を真っ直ぐ見られない。
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⏰:08/04/03 16:38 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#42 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――ごめん、お母さん。あたし、過去を知りたいんだ。

けれどそれは、今が大切じゃないということではない。
今あるこの家族や友達は何があろうとなくしたくない。

――でもあたしは、あたし自身をもっと理解したい。全てを知りたいんだ。
あたしには、その権利があるはず。

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⏰:08/04/03 16:40 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#43 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「いいわよ、もう出来上がってるから。手洗ってきなさい」

その優しい母の声に、決意がほどけそうになる。
うん、とだけ答えて、自分の部屋へ向かう。

――決めたんだから。決めたんでしょ。

自分に言い聞かせる。

――迷わないって決めたんだから。
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⏰:08/04/03 16:41 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#44 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしのために、父と母は二人で創ってきた人生の一部を捨ててくれた。
大切な思い出や、毎年祝いたい記念日もあっただろう。
それを、あたしは潰してしまったのだ。

そんな二人に逆らうように、あたしは過去に縋(すが)りつく。
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⏰:08/04/03 16:42 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#45 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれど、あたしが八年間の記憶を思い出せば、父と母の八年間も取り戻せるのだ。
二人には、人生に影をつくって欲しくない。最初から最後まで、輝くほど幸せな人生を送って欲しい。

そのためにも、あたしはどんなに無様(ぶざま)だろうと、どれだけ辛い思いをしようと、なりふり構わず過去に縋りつこう。

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⏰:08/04/03 16:44 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#46 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
着替えながら、ほどけそうになった決意をきつく結び直していると、父の声がした。

「あれ、ユキは? まだ帰ってないのか?」

部屋を出て父に声をかける。

「いるよー! おかえり、お父さん」

父と母、二人の顔を見て、改めて思った。
絶対に二人には、心配も迷惑もかけない。

自分で自分の過去にけりをつけるんだ。


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⏰:08/04/03 16:45 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#47 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
―U―


次の日、全ての授業が終わると、あたしは走って屋上に向かった。

昨日の夜は、あの女の子の夢を見なかった。
もしかしたら、夢が何か過去につながるヒントを示してくれるかもしれないと期待していたけれど、現実はそう上手くいかないものだ。

屋上に来たのは、自分を戒めるため。
最初に過去と向き合うと決めた場所に来れば、心を強く持てると思ったから。
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⏰:08/04/03 16:48 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#48 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
マフラーもコートも教室に置いてきてしまったから、屋上に出た途端体が震えた。

それでもあたしは足を進め、柵の手前に立った。
あたしが過去を置いてきてしまった、あの町の方を眺めてみる。

――あの女の子は誰? あたしはどうして記憶を閉じ込めたの?

「……絶対に思い出してやる」

一人そう呟いて、あたしは屋上を後にした。


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⏰:08/04/03 16:49 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#49 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
教室に戻ると、昨日と同じようにサトルが待っていた。

「ユキ、行こう」

サトルはあたしの心が読めるのだろうか?
なんて、非現実的なことを考えてしまうほど、サトルはいつでもあたしの求めている言葉をくれる。
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⏰:08/04/03 19:51 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#50 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ありがとう、サトル。行こう」

サトルは、何故感謝されたのか解らない、という様子で首を傾げている。
そんなサトルの手を引いて、あたしは探している何かがあるはずの場所に向かった。


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⏰:08/04/03 19:52 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#51 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
T小学校に一番近い駅まで、あたしたちは電車で約一時間かけてやってきた。
サトルは終始ニコニコしっぱなしで、中山先生との思い出話をたくさんしてくれた。

駅から小学校まで歩いている今も、早く会いたいのだろう、今にも走り出しそうなくらいだ。

「サトルは中山先生がほんとに好きなんだね」
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⏰:08/04/03 19:53 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#52 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルは、あたしがほとんど呆れ気味に発した言葉への返事の代わりに、いきなり走り出した。

「ちょっと、どうしたの?」

慌てて追いかけると、サトルは『T町立T小学校』と書かれた門の前で手を振っている。

――ここが、あたしの通った小学校……?
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⏰:08/04/03 19:53 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#53 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
見たことがあるはずの建物を前にしても、やはりあたしの頭は何の反応も起こさなかった。

「あれ? あそこにいるの、中山先生だよ! ねえ、ユキ!」

あたしがサトルの立っている場所に近づくと、彼はまた走り出した。

「せんせえーーっ! 中山先生! 久しぶりー!」

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⏰:08/04/03 19:54 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#54 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルの走っていく先には、花壇の花に水をやる手を止めてこちらを振り返った人物がいた。
白髪混じりの長い髪を頭の後ろでひっつめて、ベージュのロングスカートをはいたふくよかな女性……中山先生だ。

先生はこちらから走ってくるのがサトルだと気付いたのか、手にしていたホースを地面に置いてあたしたちの方に近づいて来た。
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⏰:08/04/03 23:57 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#55 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「サトルくん……?」

「サトルだよおー! 先生久しぶり! 元気!? ユキも一緒なんだよ、ほら!」

サトルのテンションは最高潮に達してしまったようだった。
身振り手振り全開で、普段から高い声のトーンも一層高くなり、うるさいくらいだ。
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⏰:08/04/03 23:58 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#56 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「中山先生、お久しぶりです」

とあたしがお辞儀すると先生は、驚いた、と言わんばかりにあたしとサトルへ交互に目を向けた。

「サトルくんに、ユキちゃんも……、久しぶりねえ。二人は相変わらず仲良しなのね」

そう言って笑う先生は、昔と変わらず優しい雰囲気をまとっている。
あたしは先生を前にしてなぜか焦ってしまい、普通なら昔の思い出話をしたりするはずなのに、唐突に用件を切り出してしまった。
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⏰:08/04/04 00:06 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#57 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「先生、久しぶりに会っていきなりこんな話するのおかしいんですけど、あたしの昔の話聞かせて欲しいんです」

あたしがそう言い切ると、先生は驚く訳でもなく、あたしの眼をじっと見つめた。
その顔には、悲しみなのか哀(あわ)れみなのか、それとももっと別のものか……あたしには区別が付かない感情が表れている。
.

⏰:08/04/04 00:10 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#58 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしも何も言わず、先生の眼をじっと見つめ返す。
ここで拒否されれば、もう過去につながる道は無いかもしれない。
けれどここは、先生の判断に委ねたかった。

永遠にも思えた一瞬の後、先生の口から予想外の言葉が発せられた。

.

⏰:08/04/04 02:07 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#59 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「待っていたわ、ユキちゃん」

――え……?

「あなたがいつか来るだろうと思っていたの。ユキちゃんの聞きたいこと……私が話さなきゃいけないと思っていたことと同じはずよ」

――そうか。先生は知っていたんだ。
あたしの知らないあたしの過去を。

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⏰:08/04/04 02:08 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#60 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

遂にこの時が来てしまった。
思っていたよりも随分と早い。ここで昔の自分との対面を迎えてしまうのか?

正直、あたしはまだ完全に腹をくくり切っていなかった。


――待って、本当にいいの?

.

⏰:08/04/04 02:09 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#61 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

ああ、また揺らぎ始めた。

揺れる……揺れる心……ほどける決意……あたし……

頭の中で幾つもの感情がぐるぐると巡る。

ふと目線を上げると、先生の優しい眼差しとぶつかった。
あたしを急かすこともなく、ただその優しい瞳で見つめてくれている。
.

⏰:08/04/04 02:10 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#62 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
顔を横に向けると、サトルもあたしを見ていた。
サトルの瞳は先生のそれとは違い、不安、心配、疑問、のようなものが入り混じっているかに見えた。

それぞれの顔はもちろん違うが、その表情にはひとつ共通するものがあった。
それは、あたしへの愛情。

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⏰:08/04/04 02:11 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#63 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
愛されてると言い切るなんて、自意識過剰だと自分でも思う。
けれど二人の目からは、溢れるくらいの愛が、あたしに向けて注がれていた。

なんて幸せなことだろう。

二人だけじゃない、あたしには両親もいる。
無償の愛を、見返りを求めることのない愛情をくれる人が、こんなにもいるのだ。
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⏰:08/04/04 02:14 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#64 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
きっと彼らは、どんなあたしも受け入れてくれるに違いない。
守られている……そう感じた。

――もう大丈夫。


「先生。……教えてください」

あたしの答えを聞くと、先生は穏やかに微笑み、あたしたちを校舎の中へと案内してくれた。


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⏰:08/04/04 02:15 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#65 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

通されたのは、社会科準備室。
普段あまり使われていないのだろう、そこら中に散乱している大きな地図やプリントの束には埃が積もっている。
真ん中の机だけは、辛うじてきれいに掃除されているようだ。

先生は、あたしとサトルに折りたたみ式のパイプ椅子に座るように勧め、お茶を煎れてくれた。
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⏰:08/04/04 02:20 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#66 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
その間、あたしとサトルは言葉を交わさなかった。
椅子に座ってもサトルはキョロキョロと室内を見回していたが、あたしに気を遣ってくれているのか話し掛けてくることは無かった。
あたしはというと、先生の口から何が話されるのかという不安で頭がいっぱいだった。

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⏰:08/04/04 02:21 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#67 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしたちの前に煎れたてのお茶が出されると、ようやく先生も椅子に座った。

「さあ、ゆっくり話しましょうか」

そう言って、あたしとサトルの正面に座った先生は自分の前に置いたお茶に口をつける。
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⏰:08/04/05 00:22 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#68 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは、何をどこから聞けば良いのか解らず、口をつぐんでしまった。
そんなあたしに気付いたのか、先生はゆっくりと話し始めた。

「ユキちゃんが向こうの小学校に転校して来たのは、確か……三年生の時だったかしらね? すぐにサトルくんとも、クラスのみんなとも仲良くなって、先生安心したのよ」
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⏰:08/04/05 00:23 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#69 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あの頃のことを思い浮かべているような先生の柔らかい表情につられて、あたしも懐かしい気持ちになっていた。
先生やサトルがあたしを気遣ってくれたから、すぐに普通の生活に戻れたのだと、あたしは二人に感謝している。
先生は一旦言葉を切ると、真剣な顔であたしの目を見つめた。

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⏰:08/04/05 00:23 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#70 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「私は、ユキちゃんの身に起きたことを全て知ってる訳ではないの。それでも、私が知っていることは全て伝えるべきだと思ってる。お母様とお父様は、何も話してくれなかったのね?」

先生の言葉が、核心に触れた。
あたしは思わず目を逸らし、息を一つ吐いて背筋を伸ばす。

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⏰:08/04/05 00:24 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#71 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「はい。父と母は、……昔の話をしたがらないんです。何年か前まではあたしも知りたかったから、聞いてみたりしてたんですけど……今はもうあたしから聞くこともありません。きっと父と母は、あたしのことが心配なんだと思います。
……あたしが今こうやって昔のことを調べてること、父と母は何も知りません。もうこれ以上心配かけたくないから……黙ってるつもりです」
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⏰:08/04/05 00:25 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#72 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは途切れ途切れになりながらも、心の内を吐き出した。
伏せていた目を上げて先生の方を見ると、やはりまだ真剣な顔をしている。
いつでも優しく笑っていた中山先生の顔に笑顔が無い。

それだけであたしは、とてつもない不安に襲われた。
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⏰:08/04/05 00:25 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#73 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
きっとあたしの顔が強張っていたのだろう。
先生は表情をふっと柔らげて、微笑んでくれた。

「そう……ユキちゃんはすごく大きな決断をしたのね。やっぱり立派になったわ」
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⏰:08/04/05 00:26 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#74 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
嬉しそうにそう言ってくれる先生を見て、あたしはなんだかほっとした。と同時に、少し照れ臭くなってサトルの方を見た。
サトルはやっぱり心配そうな瞳でこちらを見ていたので、あたしはにこっと笑いかけた。
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⏰:08/04/05 01:47 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#75 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしも、先生があたしにしてくれたように、サトルを安心させたかったのだ。
サトルの顔がほころんだのを確認して、あたしは再び先生に目を戻した。

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⏰:08/04/05 01:48 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#76 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「先生の話をする前に、ユキちゃんが知っていることを話してくれるかしら?」

あたしは先生にそう言われて、悩んでしまった。
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⏰:08/04/05 03:55 📱:SH903i 🆔:Ltba8Hdw


#77 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「知ってることって言っても……入院してから半年で意識を取り戻して、それから三ヶ月ぐらいで退院して転校した……ぐらいしか解らないんです」
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⏰:08/04/06 00:35 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#78 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは、何か他に思い出せることは無いかと頭をフル回転させたけれど、記憶の壁はやはり厚く、突き破ることは出来なかった。
なんだか、自分で自分が情けなかった。
授業中先生に当てられた時に、簡単な問題で正解はわかっているはずなのに答えられない、そんな気分だった。

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⏰:08/04/06 00:36 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#79 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「そう……あれから何も思い出さなかったのね」

「あれから……?」

先生の言葉の意味が解らなくて、思わず聞き返すあたし。
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⏰:08/04/06 00:36 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#80 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ユキちゃんが転校してくることが決まった時、お父様とお母様から説明を受けたの。九ヶ月ほど入院していて、それまでの記憶が一切無い、って」

言われてみて納得した。
記憶喪失の生徒を、何も聞かずに受け入れる学校などないだろう。

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⏰:08/04/06 00:37 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#81 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「お医者様からは、後々記憶が戻ることがあるかもしれないと言われたそうなの。
ご両親は、ユキちゃんの記憶が戻ることを望んではいなかったようだけど……。思い出してしまうと、ユキちゃんはきっと自分を責めてしまうから。そうおっしゃったの」

――あたしが自分を責める?
あたし……あたしは、何をしてしまったの?

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⏰:08/04/06 00:38 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#82 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
椅子に座っているはずなのに、あたしの視界がグラグラと揺れ出した。

あたしは被害者だと、今の今までそう思っていたけれど……。
それは間違いだったのだろうか。
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⏰:08/04/06 00:38 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#83 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
気が付くと、あたしは両手で顔を覆ったままテーブルに伏せていた。
手の平を映しているはずのあたしの目は、しかし、何も見えていなかった。

手の甲に触れている机の表面が、なぜかとても冷たく感じる。
混乱と不安と疑問が押し寄せ、溺れてしまいそうだ。
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⏰:08/04/06 03:15 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#84 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしが溺れまいと感情の波の中であがいていると、何か温かいものがあたしの手に触れた。

「大丈夫? しっかりしてよ。ユキは何にも悪いことしてないよ、絶対」

サトルの手だった。

⏰:08/04/06 03:16 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#85 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの両手を掴んで、顔を上げさせる。
真っ直ぐで澱みのない彼の瞳があたしの目を射る。それに堪えられず、あたしは視線を逸らしてしまった。

「でも……」
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⏰:08/04/06 03:17 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#86 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
自分で自分が解らないということは、こういうことなのだ。
今初めて気付いた。
もしかしたら、あたしが記憶を無くした八年間の中で、誰かを傷つけていたかもしれないのだ。

急に自分が怖くなった。
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⏰:08/04/06 23:27 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#87 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「大丈夫だよ! ユキは間違ったことなんか絶対しないもん!」

「サトル……」

視界が歪み、ぼやける。
あたしの目に、じわじわと涙が溜まっていた。

自分で自分を信じることさえ出来ないあたしを、サトルはまるごと信じてくれているのだ。
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⏰:08/04/06 23:27 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#88 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ユキちゃん。あなたのお母様とお父様は、ユキちゃんは優し過ぎるから自分を責めてしまう、っておっしゃったのよ」

先生は、サトルが掴んでいるあたしの手の上に、自分の手を置いた。

――温かい……。
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⏰:08/04/06 23:28 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#89 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
先生の優しさが形になって、あたしの手を包み込んでいるようだった。

「ユキちゃん、よく聞いてね。いい?」

いつの間にか、あたしの腕を掴んでいたサトルの手は離れ、あたしは両手を握られながら先生と向かい合う形になっていた。
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⏰:08/04/06 23:29 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#90 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
今、先生は、きっと一番大事なことを言おうとしている。

真っ直ぐこちらに向けられた先生の眼から、あたしはそれを感じ取り、自分の気持ちを精一杯落ち着かせた。
目を閉じて、呼吸を整える。


「はい、先生」
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⏰:08/04/06 23:29 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#91 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしが答えると、先生の口元に少しだけ笑みが戻った。
先生は、少し微笑んだその優しい表情のまま、あたしに告げた。


「あなたには、――――」


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⏰:08/04/06 23:32 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#92 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

それを聞いた瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受け、目の前が真っ白になった。
先生の言葉が頭の中で何度も何度も再生される。
その後ろで、まるで耳元で鳴っているのかと思うほど、心臓の音が大きく響く。
だんだん息がし辛くなって、あたしの喉が音を立て始めた。
座っているのか、立っているのかさえわからない。

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⏰:08/04/07 21:56 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#93 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ぼやけた視界に映った先生とサトルの口が動いているけれど、一向に声は聞こえてこない。
あたしは世界から断絶された。




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⏰:08/04/07 21:57 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#94 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
帰りの電車の中。ちょうど帰宅ラッシュに重なってしまい、車内はかなり混雑している。
先生の口から知らされた事実は、あたしの予想を遥かに越えたものであり、それと同時に、あたしが知っているはずの事実だった。
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⏰:08/04/07 21:58 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#95 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ドアの横にもたれかかっていたあたしは、サトルが一緒なのも忘れて、先生の言葉を思い返すという行為に没頭していた。
その言葉は、容易にあたしを混乱させるものだった。

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⏰:08/04/07 22:00 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#96 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
先生から知らされた事実、それは――。


『あなたには、妹さんがいたらしいの』


――まさか?
そんなこと、お母さんもお父さんも一言も言わなかった!

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⏰:08/04/07 22:02 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#97 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
先生は、パニックを起こしたあたしの肩をしっかりと支えながら説明してくれた。

先生も何があったか詳しくは聞いていなかったみたいだけれど、あたしとあたしの妹は何か事件に巻き込まれたらしい。
それがあたしの記憶喪失を引き起こした原因のようだ。

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⏰:08/04/07 22:04 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#98 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そして、あたしだけが父と母の元に帰って来た。

……あたし一人だけが。


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⏰:08/04/07 22:05 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#99 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの怪我の程度から見ても、妹の生存の可能性は低いとされ、捜索はすぐに打ち切られたらしい。
父と母は、あたしに妹がいたことは本人には言わないでくれ、と先生方にお願いした。
そして両親は妹に関する全てを封印し、三人家族として暮らしていくことにしたのだという。

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⏰:08/04/08 00:19 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#100 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――妹……あたしに妹がいたなんて?
信じられない……。


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⏰:08/04/08 00:19 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


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