よすが
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#330 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「友達?」
「そう、あたしの、……ユウコの友達。だからやめて」
地面に倒されたまま、あたしは目だけを動かしてハナの姿を探した。
世界が赤い。流れてくる血が眼球にまとわりついて視界が赤くぼやけている。
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:08/05/12 22:17
:SH903i
:58D7rq3M
#331 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「友達……ユウコの……」
「そうだよ、もう帰らないといけないの」
涙が血を洗い、少しずつ周りの様子が見えてくる。
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:08/05/13 21:48
:SH903i
:ih.RNmQk
#332 [蜜月◆oycAM.aIfI]
暮れ始めた薄赤い空の下に男が立っていて、その顔は向こう側に向けられている。
男の視線の先には、ハナが立っていた。拳を握りしめ、強張った表情でじっと男を見つめている。
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:08/05/13 21:48
:SH903i
:ih.RNmQk
#333 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは体を支えようと腕に力を入れた。
ズキン、と右肩が痛む。
それでも歯を食いしばり、なんとか上半身を起こした。
まだハナと男は見つめ合っている。
あたしの荒い呼吸だけが、静かな森の中に響いていた。
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:08/05/13 21:49
:SH903i
:ih.RNmQk
#334 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「……友達?」
男が同じ言葉を繰り返す。今度はあたしの方をチラリと見た。
「そう、友達」
ハナは男から目を離さない。ほとんど睨みつけるようにしながら震える声で呟いた。
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:08/05/13 21:50
:SH903i
:ih.RNmQk
#335 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「帰らなきゃいけない……?」
焦点の合わない目で男はあたしを見る。
あたしは祈るような気持ちで男を見上げていた。
――お願い……お願い!
あたしの呼吸が冷たい空気に響く。
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:08/05/14 01:38
:SH903i
:GAsvctc6
#336 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「……そうか。じゃあ近くまで送ってあげなさい、ユウコ」
男の目があたしからハナに移る。
それを追ってあたしもハナの方を見遣ったけれど、何だか視界がぼやけている。でも赤くはない。
安堵からか、痛みからか。意識が遠のく。
体を支えていた腕の力が抜けていく。
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:08/05/14 01:39
:SH903i
:GAsvctc6
#337 [蜜月◆oycAM.aIfI]
倒れる――その瞬間、細い腕があたしの体を抱いた。
ハナだ。
「帰ろう?」
――うん。
あたしは小さく頷いた。
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:08/05/14 01:40
:SH903i
:GAsvctc6
#338 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナの細く白い腕があたしの体を持ち上げる。
力を入れているのに、入らない。自分の体じゃないように感じる。
ハナの腕の力だけであたしは立ち上がった。
「早く帰ってくるんだよ」
男の声がした。感情を失ってしまったように抑揚の無い声が。
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:08/05/14 01:41
:SH903i
:GAsvctc6
#339 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「必ず戻るから……待ってて、パパ」
そう言ったハナの声に、男への憐れみを感じた。
ハナの肩に腕を回し体重を乗せ、足を引きずるようにしてあたしは進む。
あの忌ま忌ましいコンクリートの箱から離れられる。男の呪縛から逃れられる。
その想いがあたしの足を動かしていた。
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:08/05/14 01:41
:SH903i
:GAsvctc6
#340 [蜜月◆oycAM.aIfI]
コンクリートの箱に背を向け、あたしたちはゆっくりと土の道を歩む。
はっきりしない意識の中で、木々の向こうから背中に虚しい視線を感じていた。
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:08/05/14 01:42
:SH903i
:GAsvctc6
#341 [蜜月◆oycAM.aIfI]
途中何度か転びながらも、あたしたちは歩みを止めなかった。
コンクリートの箱から離れるに連れて、後ろから男が追ってくるんじゃないかという恐怖に襲われた。
覚束ない足取りで歩くあたしの意識はかなり前から朦朧とし始めていて、体を密着させているハナの温かみだけが頼りだ。
頭の中は空っぽで、あたしはただ足を動かすことだけに集中していた。
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:08/05/15 00:13
:SH903i
:vyDNGB6.
#342 [蜜月◆oycAM.aIfI]
気がつけば頭の上に覆いかぶさる木の葉はなく、一面オレンジの空が拡がっていた。
歩みを止めてしまうと立っていることが辛くなってきて、あたしはハナの肩から滑り落ちた。
「ユキ!」
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:08/05/15 00:14
:SH903i
:vyDNGB6.
#343 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ユキがあたしの腕を掴んで、そのままゆっくり降ろしてくれる。
ここは、二週間前に連れて来られた駐車場だ。
あたしは黒い地面に体重を預け、空を見上げていた。
休まず歩いてきたせいかあたしの呼吸はさらに早くなり、体中が脈打っている。
「ハナ……ありがと……」
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:08/05/15 00:14
:SH903i
:vyDNGB6.
#344 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ハナ……ありがと……」
呼吸の隙間に呟いた。
「ユキ、大丈夫? しっかりして、もう少し下まで行かないと――」
「ちょっとだけ……休憩……させて……」
ハナの言葉を遮ってそう言うと、彼女は「うん」とだけ答えてあたしの左手を握りしめた。
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:08/05/16 03:36
:SH903i
:kSaLjsmM
#345 [蜜月◆oycAM.aIfI]
冷たい北風があたしの頬を撫でる。頭から流れていた血は止まったけれど、涙と混じって顔中にこびりついていた。
脇腹と左腕が激しい痛みとともに熱を帯びて痺れている。
けれどそんな体の状態に反してあたしの気持ちは晴々としていた。
たった一つの悲しみを除いては。
「ねぇ……ハナ」
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:08/05/16 03:36
:SH903i
:kSaLjsmM
#346 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「なあに?」
「一緒に……帰れない……かな? ……このまま……逃げられないかな……?」
声を出すのも辛いけれど、どうしてもハナを置き去りにしたくなかった。
あたしの言葉を聞いたハナは悲しげに目を伏せて黙り込んでしまった。
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:08/05/16 03:37
:SH903i
:kSaLjsmM
#347 [蜜月◆oycAM.aIfI]
>>344
コピペミスです
レス頭の
「ハナ……ありがと……」
↑この部分スルーして下さい(;´д`)
:08/05/16 04:35
:SH903i
:kSaLjsmM
#348 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「……ハナは……帰りたくない……?」
弾かれたように彼女はブンブンと首を横に振る。
「じゃ……帰ろう? ……一緒に……お父さんと……お母さんのとこに……」
俯いたハナの目に迷いが浮かぶ。けれどすぐには頷いてくれなかった。
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:08/05/16 23:12
:SH903i
:kSaLjsmM
#349 [蜜月◆oycAM.aIfI]
下から見上げたハナの頭の向こうに広がる空は、オレンジと紺色が混じり合ってところどころ紫色を滲ませていた。
あたしはどんどん増してくる痛みに耐えながら、ハナの答えを待つ。
沈黙が寒さを募らせる。
あたしが口を開こうとした時、一瞬早くハナが言葉を発した。
「あたし帰らない」
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:08/05/16 23:12
:SH903i
:kSaLjsmM
#350 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナの苦しげな表情があたしにのしかかる。
頭の中に疑問が渦巻いた。
あたしはそれを解くために重い口を開く。
「……どうして……ねぇ? ……今なら……帰れる……のに……ハナ……お父さんと……お母さん……安心……させたいんでしょ……?」
「あの人が……」
――あの人?
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:08/05/16 23:13
:SH903i
:kSaLjsmM
#351 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「あたしを必要としてるから」
ハナのいうあの人、それはあの男のこととしか考えられない。
必要としてる? ただ殴ったり蹴ったりするだけじゃないの?
依然として苦しげな表情をしたハナの向こうの空はオレンジ色を失いつつある。
あたしが険しい顔をしていたからか、ハナは言葉を続けた。
「うちの家族は……幸せだよね? ユキも幸せだったよね?」
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:08/05/16 23:14
:SH903i
:kSaLjsmM
#352 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナが何を言いたいのか解らず、あたしは戸惑いを隠せなかった。何も言えずにハナの顔を見つめる。
すると、ハナはふっと表情を柔らげてあたしに微笑みかけた。
「あたしは……幸せだって思い込んでただけみたい。ユキとかお父さんお母さんを嫌いなんじゃないよ、大好きなんだけど……大好きだから……」
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:08/05/16 23:15
:SH903i
:kSaLjsmM
#353 [蜜月◆oycAM.aIfI]
微笑んだまま、ハナの目に涙が溢れ出す。一筋流れた涙が、ポツリ、あたしの頬を濡らした。
「……ハナ……?」
「辛かったの。お父さんとお母さんがユキを可愛がるのも。ユキがお父さんとお母さんに甘えるのも。あたしには無かったから」
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:08/05/17 23:05
:SH903i
:r2FaV5hA
#354 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナの顔にはさっきまでと同じ微笑みが浮かんでいたけれど、そこには苦しみが混じって見えた。
優しい顔。だけど、恐ろしくもある。
ハナにそんな苦しみがあったなんて、考えもしなかった。
あたしは我が儘な子どもだったと思う。父と母はいつもそれを許してくれた。
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:08/05/17 23:06
:SH903i
:r2FaV5hA
#355 [蜜月◆oycAM.aIfI]
でもハナはいつもいい子だった。両親の言うことをよく聞く真面目な子どもだった。
おもちゃが欲しくてあたしが駄々をこねても、ハナは何も言わずに下を向いていた。
結局父や母が折れておもちゃを買ってくれることになり、ハナに何がいいかと聞いてもハナは首を横に降って「あたし、いらない」と言うのだった。
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:08/05/17 23:07
:SH903i
:r2FaV5hA
#356 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしはそれがハナだと思っていた。普段から真面目で親に迷惑をかけることのない、しっかりした妹だと。そう思っていた。
それにあたしはハナが羨ましかった。あたしより成績もよかったし、親戚が集まった時なんかに褒められるのは決まってハナだったから。
父や母が親戚からハナを褒められて嬉しそうにしているのがすごく羨ましかった。
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:08/05/17 23:08
:SH903i
:r2FaV5hA
#357 [蜜月◆oycAM.aIfI]
でもハナは、親戚から褒められることよりも父と母の愛情を欲していたのだ。
両親がハナよりもあたしに多くの愛を注いでいたとは思わない。
けれどハナにはそう思えてしまったのか。
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:08/05/18 22:09
:SH903i
:eMAjbdcw
#358 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「家族四人でいても、真ん中にはいつもユキがいた。あたしが何か言っても、すぐユキの話になっちゃうでしょ?
お父さんもお母さんもユキの話に夢中だったしあたしの話なんていつも聞いてくれなかった。
あたしがテストで毎回百点とるより、ユキがとった一回の八十点の方がお母さんは喜んでた」
ハナの微笑みは消えない。でもあたしの顔は崩れる一方だった。
呼吸はさらに激しくなり、胸の上下運動は速度を増していく。
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:08/05/18 22:10
:SH903i
:eMAjbdcw
#359 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「あの人にここへ連れてこられるまで気付かなかったの……あたしはあの家にいても独りぼっちだった。誰も必要としてくれなかった」
――違う、そんなことない!
そう言おうとしたけどあたしの声は出なかった。寒さと痛みで唇が動かない。
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:08/05/19 23:06
:SH903i
:t3uEDHYM
#360 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「……でもあの人は、あたしのことだけ考えてくれる。あたしを必要としてくれてる。
あたしがいなくなっちゃうとあの人死んじゃいそうなの」
辺りは真っ暗で、駐車場を照らす街灯が遠くにいくつか見える。
その光はここまで届かず、ハナの表情はよくわからなかった。
でも一定の間隔を置いてあたしの頬に落ちる雫が、ハナが泣いているということを教えてくれる。
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:08/05/19 23:06
:SH903i
:t3uEDHYM
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