よすが
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#60 [蜜月◆oycAM.aIfI]
遂にこの時が来てしまった。
思っていたよりも随分と早い。ここで昔の自分との対面を迎えてしまうのか?
正直、あたしはまだ完全に腹をくくり切っていなかった。
――待って、本当にいいの?
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:08/04/04 02:09
:SH903i
:h9h3B4Yg
#61 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ああ、また揺らぎ始めた。
揺れる……揺れる心……ほどける決意……あたし……
頭の中で幾つもの感情がぐるぐると巡る。
ふと目線を上げると、先生の優しい眼差しとぶつかった。
あたしを急かすこともなく、ただその優しい瞳で見つめてくれている。
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:08/04/04 02:10
:SH903i
:h9h3B4Yg
#62 [蜜月◆oycAM.aIfI]
顔を横に向けると、サトルもあたしを見ていた。
サトルの瞳は先生のそれとは違い、不安、心配、疑問、のようなものが入り混じっているかに見えた。
それぞれの顔はもちろん違うが、その表情にはひとつ共通するものがあった。
それは、あたしへの愛情。
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:08/04/04 02:11
:SH903i
:h9h3B4Yg
#63 [蜜月◆oycAM.aIfI]
愛されてると言い切るなんて、自意識過剰だと自分でも思う。
けれど二人の目からは、溢れるくらいの愛が、あたしに向けて注がれていた。
なんて幸せなことだろう。
二人だけじゃない、あたしには両親もいる。
無償の愛を、見返りを求めることのない愛情をくれる人が、こんなにもいるのだ。
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:08/04/04 02:14
:SH903i
:h9h3B4Yg
#64 [蜜月◆oycAM.aIfI]
きっと彼らは、どんなあたしも受け入れてくれるに違いない。
守られている……そう感じた。
――もう大丈夫。
「先生。……教えてください」
あたしの答えを聞くと、先生は穏やかに微笑み、あたしたちを校舎の中へと案内してくれた。
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:08/04/04 02:15
:SH903i
:h9h3B4Yg
#65 [蜜月◆oycAM.aIfI]
通されたのは、社会科準備室。
普段あまり使われていないのだろう、そこら中に散乱している大きな地図やプリントの束には埃が積もっている。
真ん中の机だけは、辛うじてきれいに掃除されているようだ。
先生は、あたしとサトルに折りたたみ式のパイプ椅子に座るように勧め、お茶を煎れてくれた。
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:08/04/04 02:20
:SH903i
:h9h3B4Yg
#66 [蜜月◆oycAM.aIfI]
その間、あたしとサトルは言葉を交わさなかった。
椅子に座ってもサトルはキョロキョロと室内を見回していたが、あたしに気を遣ってくれているのか話し掛けてくることは無かった。
あたしはというと、先生の口から何が話されるのかという不安で頭がいっぱいだった。
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:08/04/04 02:21
:SH903i
:h9h3B4Yg
#67 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしたちの前に煎れたてのお茶が出されると、ようやく先生も椅子に座った。
「さあ、ゆっくり話しましょうか」
そう言って、あたしとサトルの正面に座った先生は自分の前に置いたお茶に口をつける。
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:08/04/05 00:22
:SH903i
:Ltba8Hdw
#68 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは、何をどこから聞けば良いのか解らず、口をつぐんでしまった。
そんなあたしに気付いたのか、先生はゆっくりと話し始めた。
「ユキちゃんが向こうの小学校に転校して来たのは、確か……三年生の時だったかしらね? すぐにサトルくんとも、クラスのみんなとも仲良くなって、先生安心したのよ」
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:08/04/05 00:23
:SH903i
:Ltba8Hdw
#69 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あの頃のことを思い浮かべているような先生の柔らかい表情につられて、あたしも懐かしい気持ちになっていた。
先生やサトルがあたしを気遣ってくれたから、すぐに普通の生活に戻れたのだと、あたしは二人に感謝している。
先生は一旦言葉を切ると、真剣な顔であたしの目を見つめた。
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:08/04/05 00:23
:SH903i
:Ltba8Hdw
#70 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「私は、ユキちゃんの身に起きたことを全て知ってる訳ではないの。それでも、私が知っていることは全て伝えるべきだと思ってる。お母様とお父様は、何も話してくれなかったのね?」
先生の言葉が、核心に触れた。
あたしは思わず目を逸らし、息を一つ吐いて背筋を伸ばす。
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:08/04/05 00:24
:SH903i
:Ltba8Hdw
#71 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「はい。父と母は、……昔の話をしたがらないんです。何年か前まではあたしも知りたかったから、聞いてみたりしてたんですけど……今はもうあたしから聞くこともありません。きっと父と母は、あたしのことが心配なんだと思います。
……あたしが今こうやって昔のことを調べてること、父と母は何も知りません。もうこれ以上心配かけたくないから……黙ってるつもりです」
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:08/04/05 00:25
:SH903i
:Ltba8Hdw
#72 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは途切れ途切れになりながらも、心の内を吐き出した。
伏せていた目を上げて先生の方を見ると、やはりまだ真剣な顔をしている。
いつでも優しく笑っていた中山先生の顔に笑顔が無い。
それだけであたしは、とてつもない不安に襲われた。
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:08/04/05 00:25
:SH903i
:Ltba8Hdw
#73 [蜜月◆oycAM.aIfI]
きっとあたしの顔が強張っていたのだろう。
先生は表情をふっと柔らげて、微笑んでくれた。
「そう……ユキちゃんはすごく大きな決断をしたのね。やっぱり立派になったわ」
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:08/04/05 00:26
:SH903i
:Ltba8Hdw
#74 [蜜月◆oycAM.aIfI]
嬉しそうにそう言ってくれる先生を見て、あたしはなんだかほっとした。と同時に、少し照れ臭くなってサトルの方を見た。
サトルはやっぱり心配そうな瞳でこちらを見ていたので、あたしはにこっと笑いかけた。
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:08/04/05 01:47
:SH903i
:Ltba8Hdw
#75 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしも、先生があたしにしてくれたように、サトルを安心させたかったのだ。
サトルの顔がほころんだのを確認して、あたしは再び先生に目を戻した。
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:08/04/05 01:48
:SH903i
:Ltba8Hdw
#76 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「先生の話をする前に、ユキちゃんが知っていることを話してくれるかしら?」
あたしは先生にそう言われて、悩んでしまった。
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:08/04/05 03:55
:SH903i
:Ltba8Hdw
#77 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「知ってることって言っても……入院してから半年で意識を取り戻して、それから三ヶ月ぐらいで退院して転校した……ぐらいしか解らないんです」
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:08/04/06 00:35
:SH903i
:Q83A9i1s
#78 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは、何か他に思い出せることは無いかと頭をフル回転させたけれど、記憶の壁はやはり厚く、突き破ることは出来なかった。
なんだか、自分で自分が情けなかった。
授業中先生に当てられた時に、簡単な問題で正解はわかっているはずなのに答えられない、そんな気分だった。
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:08/04/06 00:36
:SH903i
:Q83A9i1s
#79 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「そう……あれから何も思い出さなかったのね」
「あれから……?」
先生の言葉の意味が解らなくて、思わず聞き返すあたし。
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:08/04/06 00:36
:SH903i
:Q83A9i1s
#80 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ユキちゃんが転校してくることが決まった時、お父様とお母様から説明を受けたの。九ヶ月ほど入院していて、それまでの記憶が一切無い、って」
言われてみて納得した。
記憶喪失の生徒を、何も聞かずに受け入れる学校などないだろう。
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:08/04/06 00:37
:SH903i
:Q83A9i1s
#81 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「お医者様からは、後々記憶が戻ることがあるかもしれないと言われたそうなの。
ご両親は、ユキちゃんの記憶が戻ることを望んではいなかったようだけど……。思い出してしまうと、ユキちゃんはきっと自分を責めてしまうから。そうおっしゃったの」
――あたしが自分を責める?
あたし……あたしは、何をしてしまったの?
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:08/04/06 00:38
:SH903i
:Q83A9i1s
#82 [蜜月◆oycAM.aIfI]
椅子に座っているはずなのに、あたしの視界がグラグラと揺れ出した。
あたしは被害者だと、今の今までそう思っていたけれど……。
それは間違いだったのだろうか。
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:08/04/06 00:38
:SH903i
:Q83A9i1s
#83 [蜜月◆oycAM.aIfI]
気が付くと、あたしは両手で顔を覆ったままテーブルに伏せていた。
手の平を映しているはずのあたしの目は、しかし、何も見えていなかった。
手の甲に触れている机の表面が、なぜかとても冷たく感じる。
混乱と不安と疑問が押し寄せ、溺れてしまいそうだ。
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:08/04/06 03:15
:SH903i
:Q83A9i1s
#84 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしが溺れまいと感情の波の中であがいていると、何か温かいものがあたしの手に触れた。
「大丈夫? しっかりしてよ。ユキは何にも悪いことしてないよ、絶対」
サトルの手だった。
:08/04/06 03:16
:SH903i
:Q83A9i1s
#85 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの両手を掴んで、顔を上げさせる。
真っ直ぐで澱みのない彼の瞳があたしの目を射る。それに堪えられず、あたしは視線を逸らしてしまった。
「でも……」
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:08/04/06 03:17
:SH903i
:Q83A9i1s
#86 [蜜月◆oycAM.aIfI]
自分で自分が解らないということは、こういうことなのだ。
今初めて気付いた。
もしかしたら、あたしが記憶を無くした八年間の中で、誰かを傷つけていたかもしれないのだ。
急に自分が怖くなった。
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:08/04/06 23:27
:SH903i
:Q83A9i1s
#87 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「大丈夫だよ! ユキは間違ったことなんか絶対しないもん!」
「サトル……」
視界が歪み、ぼやける。
あたしの目に、じわじわと涙が溜まっていた。
自分で自分を信じることさえ出来ないあたしを、サトルはまるごと信じてくれているのだ。
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:08/04/06 23:27
:SH903i
:Q83A9i1s
#88 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ユキちゃん。あなたのお母様とお父様は、ユキちゃんは優し過ぎるから自分を責めてしまう、っておっしゃったのよ」
先生は、サトルが掴んでいるあたしの手の上に、自分の手を置いた。
――温かい……。
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:08/04/06 23:28
:SH903i
:Q83A9i1s
#89 [蜜月◆oycAM.aIfI]
先生の優しさが形になって、あたしの手を包み込んでいるようだった。
「ユキちゃん、よく聞いてね。いい?」
いつの間にか、あたしの腕を掴んでいたサトルの手は離れ、あたしは両手を握られながら先生と向かい合う形になっていた。
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:08/04/06 23:29
:SH903i
:Q83A9i1s
#90 [蜜月◆oycAM.aIfI]
今、先生は、きっと一番大事なことを言おうとしている。
真っ直ぐこちらに向けられた先生の眼から、あたしはそれを感じ取り、自分の気持ちを精一杯落ち着かせた。
目を閉じて、呼吸を整える。
「はい、先生」
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:08/04/06 23:29
:SH903i
:Q83A9i1s
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