よすが
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#700 [○○&◆.x/9qDRof2]
チャイムがなり、先生が教室に入ってくると奥村くんは気だるそうに自分の席に戻っていった。机には先程の落書きが残されていた。


“ころされる”


特に気にもとめず、消しゴムで文字を消した。



 永原愛から返事がきたのはその一ヶ月後のことだった。

⏰:22/10/25 18:30 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#701 [○○&◆.x/9qDRof2]
 梨菜さんへ

 心のこもったお手紙ありがとうございます。永原愛です。私は昔樫ノ宮町に住んでいたことがあります。父の日になにか手作りのものをプレゼントをしたいだなんて、仲が良いのですね。私は小学生の頃、庭で育てていた朝顔を押し花にしてしおりを作り父にプレゼントしました。

⏰:22/10/25 18:30 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#702 [○○&◆.x/9qDRof2]
とても喜んでくれたのを覚えています。梨菜さんの気持ちがこもっていれば、お父さんは何を貰っても喜んでくれると思いますよ。

永原愛


 その後、何通かやりとりは続き、奥村くんにはそのことを話さないまま樫ノ宮中学校では夏休みに突入した。

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#703 [○○&◆.x/9qDRof2]
その日は夜遅くまで漫画を読んでいたせいか、目が覚めたころには十三時を回っていた。階段を下ると父がリビングのソファーに腰掛け読書をしている。わたしに気がつくと、父は読書を中断し、立ち上がった。

「今日は随分遅いな。お腹空いたろ。ご飯どうする?」
「適当に食べるよ、それよりお父さん今日は仕事休みなの?」

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#704 [○○&◆.x/9qDRof2]
「あぁ、急に休みになったんだ」

きれいに掃除されたテーブルの上には、コバルトブルーの本とボロボロのしおりだけが置かれている。

「ねぇお父さん、私がまだ小学校にあがるまえ勝手にお父さんの部屋にはいった事があったよね。本を積み上げて遊んでいたらその朝顔のしおりを折っちゃって酷く叱られた。普段怒らないお父さんが、あの時はすごく怖かったんだ」

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#705 [○○&◆.x/9qDRof2]
「そんなこともあったかな。覚えていないよ」

窓から生ぬるい風が入ってきて、風鈴が、チリンと涼しげな音をたてた。

「ねえお父さん.......その朝顔のしおり、どうしたの?」

蝉のなきこえがやけに煩く感じた。.......永原愛から手紙が届いた。

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#706 [○○&◆.x/9qDRof2]
しかし永原愛というのは単なるペンネームであり、本名は別にある。はじめてその名前を聞いたのは、本を買った翌日の放課後だった。奥村くんが永原愛は男性なのだと教えてくれた。女性の名前で本を出す男性作家は少なくないらしい。

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#707 [○○&◆.x/9qDRof2]
手紙には、自分は男なのだということと、八月二十日に仕事の取材でこの樫ノ宮町に三日ほど滞在するので、もしよければ会いませんか、とのことだった。

.......断る理由などなかった。当日、駅の改札で彼が出てくるのを待った。彼がのっている新幹線が到着し、たくさんの人が改札口を出てわたしの横を通り過ぎていく。

⏰:22/10/25 18:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#708 [○○&◆.x/9qDRof2]
そんな中、ひとりの男性と目が合う。身長は、百八十近くありそうだ。細身で若干眠そうではあるが整った顔立ちをしている。左手には黒いアタッシュケース、右手にはココアの缶を握っていた。わたしはまっすぐ彼のもとへ歩み寄り、彼もまたわたしに歩み寄ってきた。


「夏生さんですよね」

⏰:22/10/25 18:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#709 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼は一瞬眠そうな目を大きく見開きびっくりしたような表情をした。

「.......はは、まいったな」

俯き加減に頭をポリポリとかくと、ココアの缶を捨てアタッシュケースを指差した。

「一旦、荷物をホテルに起きにいきたいんだが、どこか喫茶店で待っててくれないか」
「付いていきます。ビジネスホテルだろうが、ラブホテルだろうがどこへでも」

⏰:22/10/25 18:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#710 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......やめてくれよ、シャレにならない」

 彼は和やかな風を装っているが、どこか謎めいた雰囲気を持っていて、わたしには彼がそれを懸命に隠そうとしているように思えた。そうしてわたしたちは駅を出て、タクシー乗り場に出た。

「本当にくるの?」
「勿論行きますよ」

⏰:22/10/25 18:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#711 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼は困った様子だった。それでもわたしは、どうしても彼と二人きりになりたかった。

「.......まぁいいか」

タクシーで彼の宿泊するホテルへ向かう。カウンターで受け付けを済ませ、自販機でココアを買ってくれた。あったかい。部屋につき、直ぐにわたしたちは並んでソファーに座った。

⏰:22/10/25 18:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#712 [○○&◆.x/9qDRof2]
「いい部屋ですね。小説家というのは儲かるんでしょうか」
「君も小説家になるか?」
「無理ですよ。わたしにはそんな才能ないです」
「そうかな?同じ父親の血をひいてるんだ。君にも少なからず小説家の才能があるかもしれないぜ」

⏰:22/10/25 18:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#713 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼はココアをずずっと音を立ててすすった。蝉の鳴き声さえ届かないこの部屋に静寂がたちこめる。


「あなたは、最初から知っていたんですね。私が、あなたの父親である大高秋人と再婚相手との間に出来た子供だって」
「.......知っていたよ。だから君からファンレターが届いたときは心底びっくりした」

⏰:22/10/25 18:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#714 [○○&◆.x/9qDRof2]
「父を、大高秋人を恨んでいますか?」
「勿論恨んでいるよ。あの人のせいで母は自殺未遂までした。結局離婚したけど、母はまだあの人を愛していたんだ。そして僕が君と同じ中学二年生のとき、ついに母は自殺した」

⏰:22/10/25 18:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#715 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......父から聞きました。母は、わたしの母は今でも教師として働いています。わたしに会おうと言ってきたのは、わたしの両親への復讐のためなのですか」


「そうだ、と言ったら?」
「煮るなり焼くなり好きにしてください。わたし、殺されてもいい覚悟で今日ここへ来たんです」

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#716 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......ひとつ聞かせてくれよ。君はいつから俺の正体に気付いてた?」
「つい最近です。父は、いまでもあなたから貰った押し花のしおりを大事に使っているんです」


「.......本当は。今日君に僕の正体を明かし、殺してやるつもりだった。俺が、血の繋がるたった一人の母親をなくしたように、あいつらに大事な一人娘を失う悲しみと苦痛を与えてやりたかった」

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#717 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼は泣いていた。わたしは両親を恨んだ。もしもわたしが、大高秋人と早川あゆみの子供じゃなかったら、少しでも彼のこころを癒してあげられたかもしれない。もしもわたしが血を分けた妹じゃなかったら、彼に対して抱いてしまったこの感情も報われることがあったかもしれない。

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#718 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼の細い肩にそっと触れる。その瞬間、揺さぶられるような衝撃を受け、後ろに倒れた。手首を強く握られ、押し倒されていた。


「あの人がまだしおりを持っていたのは予想外だった。復讐なんかしたところでどうにもならないことなんてわかってる。それでも、俺は幸せそうに、のうのうと生きてるあいつらに復讐しないと気がすまないんだ」

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#719 [○○&◆.x/9qDRof2]
 これは彼なりの復讐なのだろう。


 その日、二人は罪に堕ちた。

 彼の熱が、わたしの中で溶けていくのを感じた。



 わたしは三日間彼と行動を共にした。次の作品ではこの樫ノ宮町をモデルとした舞台で小説を書くのだそうだ。

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#720 [○○&◆.x/9qDRof2]
「父に会っていかなくていいんですか」

 わたしたちは、彼が昔、猫を埋めたという場所にいた。途中で買った花を添え、二人で手を合わせる。

「君の貞操を奪ったって言ったらあの人はどんな顔をするんだろうね」
「.......父は、あなたが小説家になったことを知っていると思います。父の部屋には永原愛の小説が全て揃えてありました」

⏰:22/10/25 18:35 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#721 [○○&◆.x/9qDRof2]
「はは、まぁ偶然だろ。俺は、あの人たちに会うつもりはないよ」

 三日という時間はあまりにも短く感じた。駅のホームで、帰りの新幹線がくるのを待ちながら、二人でココアを飲む。駅のなかは蒸し暑く、汗で肌はじっとりとぬれている。.......彼はもう二度とわたしには会ってくれないだろう。

⏰:22/10/25 18:35 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#722 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼にとって、わたしなど憎むべき存在でしかないのだ。やがて新幹線が到着したことを知らせるアナウンスが流れた。



「梨菜、さよなら」



 そう言い残し彼の背中は人混みの中へ消えていった。目頭が熱くなり、涙が溢れてとまらなかった。

⏰:22/10/25 18:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#723 [○○&◆.x/9qDRof2]
「お兄ちゃん!」


 悲痛なわたしの叫び声は駅中に響いても彼のこころにとどくことはなかった。




 お兄ちゃん。
 どうか、幸せになって。

⏰:22/10/25 18:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#724 [○○&◆.x/9qDRof2]
 いつか素敵な女性と結婚し、あなたが子供の頃夢見た理想の家庭を築いてください。家族というのは悪いもんじゃないんだってことをどうかあなたにだけは知ってほしいのです。



BLUE BIRD[完]

⏰:22/10/25 18:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#725 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>690-720

⏰:22/10/25 18:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#726 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>680-730

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#727 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>680-710

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#728 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>710-730

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#729 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>730-760

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#730 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>760-790

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


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