よすが
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#90 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
今、先生は、きっと一番大事なことを言おうとしている。

真っ直ぐこちらに向けられた先生の眼から、あたしはそれを感じ取り、自分の気持ちを精一杯落ち着かせた。
目を閉じて、呼吸を整える。


「はい、先生」
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⏰:08/04/06 23:29 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#91 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしが答えると、先生の口元に少しだけ笑みが戻った。
先生は、少し微笑んだその優しい表情のまま、あたしに告げた。


「あなたには、――――」


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⏰:08/04/06 23:32 📱:SH903i 🆔:Q83A9i1s


#92 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

それを聞いた瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受け、目の前が真っ白になった。
先生の言葉が頭の中で何度も何度も再生される。
その後ろで、まるで耳元で鳴っているのかと思うほど、心臓の音が大きく響く。
だんだん息がし辛くなって、あたしの喉が音を立て始めた。
座っているのか、立っているのかさえわからない。

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⏰:08/04/07 21:56 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#93 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ぼやけた視界に映った先生とサトルの口が動いているけれど、一向に声は聞こえてこない。
あたしは世界から断絶された。




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⏰:08/04/07 21:57 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#94 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
帰りの電車の中。ちょうど帰宅ラッシュに重なってしまい、車内はかなり混雑している。
先生の口から知らされた事実は、あたしの予想を遥かに越えたものであり、それと同時に、あたしが知っているはずの事実だった。
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⏰:08/04/07 21:58 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#95 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ドアの横にもたれかかっていたあたしは、サトルが一緒なのも忘れて、先生の言葉を思い返すという行為に没頭していた。
その言葉は、容易にあたしを混乱させるものだった。

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⏰:08/04/07 22:00 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#96 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
先生から知らされた事実、それは――。


『あなたには、妹さんがいたらしいの』


――まさか?
そんなこと、お母さんもお父さんも一言も言わなかった!

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⏰:08/04/07 22:02 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#97 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
先生は、パニックを起こしたあたしの肩をしっかりと支えながら説明してくれた。

先生も何があったか詳しくは聞いていなかったみたいだけれど、あたしとあたしの妹は何か事件に巻き込まれたらしい。
それがあたしの記憶喪失を引き起こした原因のようだ。

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⏰:08/04/07 22:04 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#98 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そして、あたしだけが父と母の元に帰って来た。

……あたし一人だけが。


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⏰:08/04/07 22:05 📱:SH903i 🆔:H4NZ7Jvc


#99 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの怪我の程度から見ても、妹の生存の可能性は低いとされ、捜索はすぐに打ち切られたらしい。
父と母は、あたしに妹がいたことは本人には言わないでくれ、と先生方にお願いした。
そして両親は妹に関する全てを封印し、三人家族として暮らしていくことにしたのだという。

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⏰:08/04/08 00:19 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#100 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――妹……あたしに妹がいたなんて?
信じられない……。


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⏰:08/04/08 00:19 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#101 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしが意識を取り戻した時、それまでの記憶は失っていたけれど、両親のことはしっかり覚えていた。
父と母とどうやって暮らしてきたかは忘れてしまっていたが、目の前にいる二人は間違いなく自分の両親だと認識していた。
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⏰:08/04/08 00:21 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#102 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
もし、妹と四人で生活していたのなら、何故あたしの頭から妹だけがすっぽりと抜け落ちているのか。
それを考えると、何か不思議な力の存在を感じた。

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⏰:08/04/08 00:23 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#103 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――一体何が……?
あたしと妹に何があったの?
妹は……? 妹はどうして戻らなかったの?

ああ……思い出せない。


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⏰:08/04/08 00:23 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#104 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
先生はあたしたち家族について話し終えると、自分が知っていることはこれだけだと言って、あたしを落ち着かせる為に温かいお茶を煎れなおしてくれた。
気持ちが十分に落ち着く前に空が暗くなって来たので、あたしは呆然としたまま小学校を後にした。
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⏰:08/04/08 23:11 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#105 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
帰りがけ、先生がサトルに「ユキちゃんをお願いね」と言っているのが聞こえたが、あたしの頭の中を通り過ぎていった。

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⏰:08/04/08 23:12 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#106 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
電車の揺れに身を任せていると、急にサトルに手を引っ張っられて、降りるべき駅に着いたことに気付いた。

駅構内の人込みの中、サトルに手を引かれて歩く。
サトルの背中しか見ていなかったあたしは、すれ違う人に何度もぶつかり、その度にあたしの腕を掴むサトルの手に力が入る。
昔、ショッピングセンターで迷子になった時のことを思い出した。

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⏰:08/04/08 23:13 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#107 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――あの時と同じだ。
あたしはあの時のまま……一人では何も出来ない、弱いままだ。


でもサトルは違う。
前を向いてずんずん進んでいくサトルの表情は見えないけれど、後ろ姿だけで解る。

サトルは……逞しくなった。
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⏰:08/04/08 23:14 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#108 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あの時も強いと思ったけれど、今のサトルには“強い”よりも、“逞しい”という言葉が似合う。


こんな面倒なことに巻き込んだあたしを、サトルは気遣い、支え、信じてくれる。
それを無駄にはしたくない。

サトルが信じていてくれる間は、あたしは何も諦めない。

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⏰:08/04/08 23:14 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#109 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――でも……サトルは今、何を考えているんだろう?

「ねえ、サトル」

駅から家に向かう道の途中で、あたしは声をかけた。
あたしの手を引いて前を歩いていたサトルが、立ち止まると同時にくるっと振り向いた。
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⏰:08/04/08 23:15 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#110 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
振り向いたサトルの表情は、……笑顔だった。
いつもの、人懐っこい子犬のような笑顔。

「なあに?」

見慣れた笑顔が目の前にあった。

きっとサトルは、心配そうな、困ったような顔をしているんだろうと、あたしは思っていたのに。
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⏰:08/04/08 23:16 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#111 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ふふっ、……あっはっははは!」

急におかしくなってきて、あたしは吹き出してしまった。
あたしは何を心配してたんだろう?
何も心配することなんか無いじゃない!

まだ笑っているあたしを、サトルは不思議そうな顔をして見ている。
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⏰:08/04/08 23:17 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#112 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「何でもない!」

あたしはそう言って、今度は逆にサトルの手を引っ張って歩き出した。

「なにー? 一人で笑ってずるーい! 何が面白いの? 僕にも教えてよ!」

サトルがいつものようにギャーギャーと騒ぎ始めた。
あたしはそれがなんだか嬉しくて、「秘密だよ」とだけ言って歩き続けた。

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⏰:08/04/08 23:17 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#113 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
家に着く頃には太陽は沈み切って、立ち並ぶ街灯や看板の明かりが道を照らしていた。
あたしは別れ際、帰り道の間に考えていたことをサトルに伝えた。

「明日ね、図書館に行こうと思ってるんだけど。……一緒に来てくれないかな?」

街灯の光で、二つの影が地面に伸びている。
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⏰:08/04/09 01:01 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#114 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
明日は土曜で学校は休みだ。
あたしは、記憶喪失の原因になった事件のことを調べようと思っていた。

「珍しいね!」

目を真ん丸にして、嬉しそうにサトルがそう言ったけれど、あたしは何のことか解らない。

「ユキが僕についてきてなんて、今まで言ったことないよね」
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⏰:08/04/09 01:01 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#115 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――そうか、あたしが頼まなくてもサトルがいつもついてきてくれるからだ。

気がつかなかった。
あたしが一緒に居て欲しい時、何も言わなくてもサトルは来てくれてたんだ。

サトルは、どうしてあたしの気持ちが解るんだろう?
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⏰:08/04/09 01:02 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#116 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「え、ユキ? ちょっとっ……どうしたの? ごめん、何か嫌だった?」

気がつくと、あたしの目から涙が一筋流れていた。

「ち、違うのっ……ごめんね、サトル。嫌なことなんか無いんだけど……」

自分でも驚きながら、溢れる涙を拭い、サトルに無理矢理作った笑顔を見せた。
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⏰:08/04/09 01:03 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#117 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
多分この涙は、自分の不甲斐なさに対するものだと思う。
サトルがいつでもあたしを見てくれていたことに今更気付いた自分が、情けなかった。

「図書館一緒に行くから、だから泣かないで?」

そんなことで泣かないよ。
サトルの心配そうな顔がおかしくて、あたしは自然と笑顔になっていた。
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⏰:08/04/09 01:04 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#118 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うん、ごめんね。ありがと! じゃあ、明日ね」

あたしの笑った顔を見て安心したのか、サトルも笑顔で手をブンブンと振りながら帰って行った。



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⏰:08/04/09 01:04 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#119 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

―V―

次の日、あたしたちは約束通り街にある図書館に来た。

さすが大都市の市立図書館だけあって、建物は古いけれど大きくて立派だ。入り口を抜けてすぐの大階段などは、古い映画に出てきそうな雰囲気を持っている。
もちろん、書物の量もかなりのものである。
ここなら、昔の新聞なんかも閲覧出来るはずだ。
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⏰:08/04/09 01:05 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#120 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
十年前の新聞に、八歳の女の子が大怪我を負って意識不明になった、という記事があれば、きっとあたしのことだ。

「サトル、ここからここまで探して。あたしこっち探すから」

「はーい」

ちゃんと解ってるのかな、と不安になりつつ、新聞を一枚一枚めくって文字を眼で追う。
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⏰:08/04/09 01:06 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


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