・・万華鏡・・
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#832 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは大学を卒業し、なんとなくいまの会社に入り、名前を奪われたのだ。千と千尋の神隠しのように、それはとても忙しい毎日を過ごしていた。しかし、わたしは忙しいということに満足してしまい、自分という個性の存在を求められていないことに気付かなかったのだ。
:22/10/18 13:59
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#833 [○○&◆.x/9qDRof2]
そして、木から葉っぱが散るように、わたしの予定はポツポツと穴が開き、誰もいなくなった教室の扉を閉めるように、スケジュール帳は閉じられた。夕暮れ時の、小雨が降る中を電車は走っている。
:22/10/18 13:59
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#834 [○○&◆.x/9qDRof2]
天井の裏にあるパンタグラフが火花を散らす音がする。大きい駅に着いたとき、大勢の乗客が乗り込んできた。わたしは椅子の端にからだと鞄と傘を寄せ集め、ひとりでも多くの乗客が座れるようにと心がけた。車内は瞬く間に人で埋め尽くされた。
:22/10/18 14:00
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#835 [○○&◆.x/9qDRof2]
しかし、わたしが座る椅子にだけ誰も座ることは無かった。大きい駅から発車するとき、わたしの目の前に立つ乗客たちは慣性(かんせい)の法則にしたがい斜めに傾いた。それはまるでシンクロナイズドスイミングのように統率された動きだった。
:22/10/18 14:00
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#836 [○○&◆.x/9qDRof2]
そして窓の外を見ると、建物までがシンクロしているように傾いて見えた。わたしは、このまま世界に取り残されるのではないかという錯覚がした。わたし以外のすべてのものはこのまま進行方向に走り、ビルや高速道路、地球の自転、そして太陽を回る軌道からも放たれて、宇宙空間にただ座っているだけの自分になってしまうのではないか、そう思うと寒気がした。
:22/10/18 14:00
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#837 [○○&◆.x/9qDRof2]
しかしわたしの運命は、火の鳥に罰せられて無限の彼方を放浪(ほうろう)させられる訳でもなく、ただ電車の時刻通りに進行方向に運ばれて行くだけだった。きっとわたしは、からだが緊張していて慣性の法則を辛うじて防いだだけなのだ。
:22/10/18 14:00
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#838 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは何も特別では無いのだ。ただ楽しそうに音楽を聞いていたり、スマートフォンを指で擦って楽しんでいる人が目の前に立っていたせいで緊張していただけなのだ。鉄道や道路は、都市という巨体を動かすための血管のような物だ。
:22/10/18 14:00
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#839 [○○&◆.x/9qDRof2]
血液である乗客は、それぞれの役割を果たすために毎日運ばれ、同じところをグルグル廻ることでしか生きられないのだ。しかしわたしは、鞄の底に眠っているスケジュール帳の重みを感じれば感じるほど、まるで耳栓をしているように、血液の流れる音が遠くに消えていく気がするのだ。
:22/10/18 14:01
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#840 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは乗客を見渡し、彼らが蝋人形(ろうにんぎょう)のように見えることに気が付いた。他人の表情を読み取れないなんて、自分の感性が錆びてしまったのでは無いかと思い、一瞬ヒヤリとしたのだが、やはり彼らの顔はのっぺらぼうのようになっていた。
:22/10/18 14:01
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#841 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしの椅子の横に、ひとりの男が腰掛けた。静止したように思える車内で、わたしと彼だけが鮮明にそこに存在しているような気がした。彼は声を掛けては来ないが、明確な目的を持ってわたしの横に座ったことに間違いはない。
:22/10/18 14:01
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