・・万華鏡・・
最新 最初 🆕
#941 [○○&◆.x/9qDRof2]
「ねえね、きみ、頭いいの?」

 それがおれと彼女の、初めての接触だった。猫みたいなふうに首を傾げながら、それでもすこし高慢な雰囲気を漂わせながら、彼女はおれに話しかけてきた。

「え、ああ、まあ、うん」
「ふうん、勉強すき?」
「う、うん」

⏰:22/10/18 18:30 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#942 [○○&◆.x/9qDRof2]
「じゃ、今度教えて?」

 おれは言葉もなく頷くほかなかった。きらきらした瞳に見つめられると、言葉が恥ずかしがって喉元から出てこなくなってしまうのだ。

 しかしそれきり、彼女と会話を交わすことはなかった。おれは至極ふつうな男子生徒だったし、彼女はクラスメイトとのコミュニケーションで、毎日駆け回っていた。

⏰:22/10/18 18:30 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#943 [○○&◆.x/9qDRof2]
 すこし、寂しい。いや、かなり寂しい。
 彼女がほかの誰かに笑いかけるたびに、おれのなかの焦燥感が鎌首をもたげた。どうしようもなく愛しいその姿に、ただ一度でも触れてみたいと思った。いけないと知りながらも、情欲の炎は燃え上がるばかり。

⏰:22/10/18 18:30 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#944 [○○&◆.x/9qDRof2]
 そしておれは、見てしまった。

 彼女が、泣いている。斜陽を一身に浴びながら、ただただ泣いているのだ。
 音はない。しゃくりあげる様子もない。ただ静かに、口元をかたくつぐんでいる。

「……見ないでよ」

⏰:22/10/18 18:30 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#945 [○○&◆.x/9qDRof2]
 おれの存在は、いつの間にか彼女にバレていたらしい。彼女はおれをねめつけて言った。

「あんたなんかには、ぜったい分かりっこないんだから」

 おれはもうどうすればいいのかわからなかった。いつも愛らしい笑顔を振りまいている彼女が、泣きながら牙を剥いているのだ。

⏰:22/10/18 18:30 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#946 [○○&◆.x/9qDRof2]
 おれは彼女にとって気の許せる人間でないから、触れることなんてできない。当然ながら同情さえも、いまの彼女にとっては余計なお世話といったところか。
 ほんとうは、その涙を拭ってやりたいと思ったし、冷え切った心身を抱き締めてやりたいと思った。行き場を失った衝動が、彼女のうちを食い破るのなら、それがすべておれに向けばいいのにと思った。

⏰:22/10/18 18:31 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#947 [○○&◆.x/9qDRof2]
 それでも、おれは彼女にとって他人であり、さしたる会話を交わしたわけでもない。彼女からすればおれは日常を彩るただの記号で、下手をすれば踏み台にすらならない程度の存在なのだから、今のおれには彼女のためにしてやれることなど、なにひとつないのだ。

⏰:22/10/18 18:31 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#948 [○○&◆.x/9qDRof2]
 どうしようもない沈黙がおれと彼女を包み込む。それでも彼女の涙が止むことはないし、おれの緊張が治まることもない。どうすればいいのだろうと思案したところで、おれにはなにも出来ない。

「出てって」

⏰:22/10/18 18:31 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#949 [○○&◆.x/9qDRof2]
 そのときのおれには、彼女の言葉に従うのが精一杯だった。動揺が喉元でせせら笑って、声すら出せない状況において、むしろなにが出来たというのだろうか。
 おれは彼女を救いたいという衝動に後ろ髪を引かれながら、やむなく背を向けた。

⏰:22/10/18 18:31 📱:Android 🆔:h3l12Mig


#950 [○○&◆.x/9qDRof2]
 彼女の特別になりたい。もう二度と泣くことのないよう、おれの胸で暖めてやれるよう。彼女がおれだけを、見てくれるように。

⏰:22/10/18 18:32 📱:Android 🆔:h3l12Mig


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194