ギンリョウソウ
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#391 [向日葵]
誰の傷を癒す事も出来ない。
傷つけてしまうだけの自分。
足を引っ張ってしまうだけの自分。
こんな役立たずな自分なんて、要に好きでいてもらう資格はない……。
顔をあげて、袖でもう1度口を拭く。
赤くなろうが、痛くなろうがどうでもいい。
ただあの瞬間の出来事、感触。
全てを無かった事にしてしまいたい……っ。
椿はひたすら口を拭く。
しかしその手は止められた。
手首を掴む手に、椿はビクリと肩を震わして小さく「ひ……っ」と悲鳴を漏らす。
:08/09/04 02:21
:SO906i
:☆☆☆
#392 [向日葵]
「僕だよ椿」
要の声だった。
もう暗くなってしまった庭園には、彼の姿はあまり見えないけれど、柔らかな声音は彼のものだった。
それでも、椿の震えは治まらない。
「ご……めなさ……。ただ、寒い……だけです……」
寒さなんて感じない。
いや、感じれない。
椿の頭の中は、もう破裂寸前だった。
そんな椿の前に、要は片膝をつく。
彼女の姿は、彼女が要の姿を見えないように見えないが、何かに怯えているのだけは、掴んでいる華奢な手首から伝わってきた。
:08/09/04 02:26
:SO906i
:☆☆☆
#393 [向日葵]
「ちゃんと呼吸出来てる?なんか息が荒いよ?」
「大丈……夫……です……」
「落ち着いて。大丈夫、僕はここにいるから。椿、落ち着くんだ」
促されるように、椿は落ち着こうとする。
何回も深呼吸して、荒い息を穏やかにしようとする。
要は手首から手を移動させ、椿の指先を包むようにして握る。
指先は、驚く程冷たくなっていた。
椿が段々落ち着いてきたらしい。
耳だけで聞く彼女の息遣いがゆっくりになった。
手を握っていない方の手で、そっと彼女の肩に触れれば、また大きくビクリと震えた。
:08/09/04 02:31
:SO906i
:☆☆☆
#394 [向日葵]
彼女が何に怯えているのかは要には分からない。
だがとりあえず、聖史から聞いた事を話す。
「あの人から聞いたよ。椿……君、あの人とキスしたんだってね」
椿は息を吸って止まる。
夢の中の要が目の奥に映し出される。
我慢出来なくて、椿は声を押し殺して涙を流す。
「椿……」
「違うんです……っ、私、すご、く嫌で、逃げたくても逃げれなくて……っ」
望んだんじゃない。
好きな訳でもない。
:08/09/04 02:36
:SO906i
:☆☆☆
#395 [向日葵]
いやらしい女だなんて思わないで。
嫌いにならないで。
「私はしたくてしたんじゃないんですっ!私はそんな事したくなかったっ!そんな……要さまを裏切るような事……っ」
椿は声を荒げて要に訴える。
それに要は驚いた。
椿の本気の否定。
どんな言葉を受けても、笑顔で堪え、全て受け入れていたあの椿が、自分の過ちを全て否定した。
思いをどうにか聞き入れて欲しくて、声をあげてしまった椿はもう声を押し殺して泣く事が出来なくなった。
嗚咽を漏らし、鼻をすする。
そんな椿の両手を、優しく、しかし強く、要は握りしめ、自分の胸元に持っていく。
:08/09/04 02:43
:SO906i
:☆☆☆
#396 [向日葵]
「椿、大丈夫だよ……。僕は君を責めたりしない」
椿がこちらを見つめるのが分かる。
多分そこにあるだろうと微かな光に見える椿の目をまっすぐ見つめ、要は続ける。
「僕はちゃんと分かってるから。君がそういう子じゃないって知ってるから。……だから、幻滅なんてしない。嫌いになんか、ならないよ」
要は握っている椿の手に力が入るのを感じた。
椿は目をギュッと瞑ってうつむいた。
「信じれない?それじゃ言うよ。僕は君が好きだ」
椿の手が、ピクリと固まる。
彼女は少し身じろぎする。
:08/09/04 02:48
:SO906i
:☆☆☆
#397 [向日葵]
「椿が好きだよ。信じてくれないなら信じてくれるまで何度でも言う。好きだから、嫌いになんかならないから。ずっと、そばにいるから……」
椿の中に棲んでいた悪夢の塊が、次々に流れ去っていく。
嘘なんて感じない彼の言葉に、椿は自分から要の胸に飛び込む。
急にやって来た重みに、一瞬ぐらついたが、すぐにその細い体を自分の腕で包む。
椿は腕だけで、彼が自分を好きなのが分かった気がした。
だから椿も伝えたかった。
だから思いきりその胸にしがみついた。
どれくらい時間が経っただろう。
:08/09/04 02:54
:SO906i
:☆☆☆
#398 [向日葵]
寒さをようやく感じる余裕の出来た椿の肩には、要の上着がかかっている。
2人は座りながら天高く昇っていく三日月を見上げていた。
手は、強く握られたまま……。
「そうだ。君の友達を今から呼ぶ事は出来ないかな?」
唐突に要が言った。
要は椿にかけている上着の内ポケットから携帯を取り出し時間を確認する。
「8時……、かぁ。別に来れない時間でもないし」
「どうして呼ぶのですか?」
「君を僕の代わりに守ってもらう為」
:08/09/04 02:59
:SO906i
:☆☆☆
#399 [向日葵]
「え……」と呟く椿の頬に、要は触れる。
すると椿は小さくびくりとしてしまって、申し訳なさそうにうつむく。
「まだ恐い?」
「……すいません」
「いいよ。それだけ君が嫌がってたって事さ」
要は自分の携帯を椿に差し出す。
椿はそれを黙って受け取る。
「今からあの人に勝利を告げにいく。1人で僕のそばにいるのは心細いだろうから、友達に君のそばにいてもらう。その方がきっといいよ」
:08/09/04 03:05
:SO906i
:☆☆☆
#400 [向日葵]
「電話しろと、言う事でしょうか」
「正解」
椿は携帯を開き、美嘉の家の電話番号を押す。
押してから携帯を耳に当てて呼び出し音を聞きながら、なんとなく要の方を見た。
要は椿の視線に気づくと、柔らかく微笑む。
月明かりに照らされた彼の顔はいつもより素敵に見えた。
だから椿はドキドキ高鳴る胸を抑えねばならなかった。
しばらくして、美嘉が電話に出る。
訳を話せば「すぐ行く!」となんだか張り切っていた。
「自転車でとばして10分ぐらいで着いてみせると意気込んでました」
:08/09/04 03:09
:SO906i
:☆☆☆
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