ギンリョウソウ
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#101 [向日葵]
アルバムをさっきから探して写真とにらめっこするも、彼は写真が嫌いなのか写っているものが見つからない。

「んー……」

越を混乱させたくはないし、これは椿が勝手にやっている事だ。

もう諦めようか……。

椿はそう思い、立ち上がる。

「家宅捜査でもやっているのか?」

振り返れば、要がそこらに散乱しているアルバムを踏まないようにしてこちらに来ている。

「葵さま……。いらっしゃいませ」

椿は深々とお辞儀をしてから「あれ?」と思った。

⏰:08/07/10 21:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#102 [向日葵]
「今日は都内で会合とお聞きしたのですが……」

「何だか知らないけどどこかの重役が予定入ったから中止になったらしいよ。まったく、勝手もいい所だよね」

「で」と要は続ける。

「この騒ぎは何?探し物?」

「あ、ハイ……。友人に柴さまと言う方がいらっしゃいまして、気になる事があったんです……」

それを聞き終えると、要は眉を寄せて難しい顔をした。
椿は首を軽く傾げて、どうしたのかと思う。

「……気になる?」

「あ、ハイ……」

⏰:08/07/10 21:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#103 [向日葵]
「何気になるって」

要は椿に詰め寄る。
椿は目をまんまるくさせてから瞬きを何度か繰り返す。

「え、特には……意味は……」

「婚約者がいると言うのに堂々と浮気する気なの?君は誰のものか分かっているのか?」

そこまで言われ、椿は何故要の機嫌が悪いのかが分かった。
慌てて弁解する。

「そういう事ではありません……っ。恋愛感情って事ではなく、どこかで見た事があるから気になるって意味です」

要は椿をジーッと見つめる。
前のめりに見つめてくるので、徐々に椿の体がのけ反っていく。

「本当に?」

「は、はい……本当です……」

⏰:08/07/10 22:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#104 [向日葵]
「なんだか……返事が曖昧だ……」

それは要のせいだろう。

「そんな事は……」

「無い」と言いかけると、少しずらした足に、散らかしていたアルバムが当たる。
と同時に、のけ反っていた椿の体が更にのけ反った。

「キャッ……!」

「あぶ……っ」

ドスンと大きな音を立てて倒れる。
椿は目をギュッと瞑り、衝撃が来るのを待った。
しかし、いつまでたっても衝撃どころか、痛みすらこない。

⏰:08/07/10 22:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#105 [向日葵]
そっと目を開けると、まず天井が見え、そして……。

「ちょっと、大丈夫……?」

要の顔が間近にあった。

そして気づけば、自分の頭が床にぶつけないように、要の大きな掌がかばっていた。

しかし……。
先ほどといい今といい……。
さっきから要と近くで見つめあいすぎではないだろうかと椿は思った。
しかもこの格好だ。
椿の白い頬が赤く染まる。

「ちょ、ちょっと……!こんなお約束な格好になっただけで赤くならないでよ……っ!」

珍しく慌てて要は椿の腕を引っ張って起こす。

⏰:08/07/10 22:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#106 [向日葵]
2人して座り、気まずい雰囲気になる。

要はポリポリと頭をかく。

「椿ってさ……恋とかした事ないの?」

「そういうの、あまり分からなくて……。憧れの人ならいましたけど……」

「ふーん。どんな奴?」

椿は散らばっていた中にあるアルバムを1つ手にした。
パラパラとページをめくり、ある写真を指差す。

「こちらの方です。早乙女聖史さんと言う方で、小さい頃から仲良くしてもらってるんです……」

要は写真を覗き込む。

⏰:08/07/14 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#107 [向日葵]
写っているのは、柔らかな雰囲気をまとった10歳くらいの少年が、まだ3歳ほどの小さな椿を抱き締めて微笑んでいるものだった。

「兄のようになついていましたわ……。この頃は、聖史さまが忙しくて、会ってはいませんが……」

憧れと言うわりに、どこかうっっりしてその写真を見る椿に、要はムッとした。

「好きなの?」

また同じ事を言う要に椿は首を傾げる。

「明らかに、憧れって思ってない顔してるよ、椿」

それを言われ、椿の頬はまた赤くなった。
要はさらにムッとする。

⏰:08/07/14 00:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#108 [向日葵]
「つまんない……。僕は一旦帰るよ」

「あ、じゃあお見送りを……」

「いい。他の奴にうっとりしてる君に見送られたくなんかないねっ」

ズカズカと進んで行き、乱暴にドアを閉めた。
椿は片目を瞑ってそれをやり過ごす。

そして椿はまた写真に目を落とした。

本当に憧れだ。
物腰が柔らかく、優しく、頭の機転がいい聖史は、椿の良き兄的存在。
久しぶりに会いたいな、などと思えば、こんな自分の浮わついた心が要を不機嫌にさせたのかと少し落ち込む。

⏰:08/07/14 00:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#109 [向日葵]
自分は、要を怒らせてばかりだ。

それなのに、要は自分を気遣う一面を見せてくれたりもする。

体育祭の事は例え要の作戦だとしても、さっきのような突然の事態に作戦として素早く助ける事はきっと出来ない。

そんな所が、少しずつ椿の要に対する警戒心を解きつつあるのであった。

――――――――……

おかしい。
と要は帰っている車の中で思っていた。

前にせよ今にせよ、何故か椿にドンドンハマっているのでは?と感じる自分がいる。

⏰:08/07/14 00:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#110 [向日葵]
心を開いてくれない彼女にイライラしたり、自分以外の誰かをときめいた目線で見ていれば妬きもちを妬いたり……。

好きに慣れそうにないと思ったのに、彼女の何が自分を惹き付けるのだろうか……。

「大久保」

年若い運転手の従者に声をかける。

「ハイ」

「お前は椿嬢をどう思う?」

「椿さまですか……」

「客観的に見て彼女は可愛い部類なのか?」

モデルを見慣れている彼にはあと1歩椿のどの部分が可愛いのかを見抜けていない。

⏰:08/07/14 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#111 [向日葵]
「私は可愛いらしいと思いますよ。儚げで綺麗で……まるで桜のようじゃありませんか」

「フッ……桜か……。僕はギンリョウソウだと思うけどね……」

「ギンリョウソウ……ですか……?」

どうやら従者はギンリョウソウを知らないらしい。
それならそれでいいと、要は腕を組んで目を瞑る。

白く、ひかえめな存在である椿。
彼女こそ、ひっそりと小さく咲くギンリョウソウと称するにあった少女だ。

ただ、ギンリョウソウなどと名前も知られていたい花に例えるのはきっと失礼だろうと要は分かっていた。
それでも、従者が言うような桜などのポピュラーな名前の花は、彼には思いつかないのであった

⏰:08/07/14 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#112 [向日葵]
「要さま。一旦帰ると申しますが、帰ってからはもう外には行かない方がいいかと思われます」

「なんで?」

「天気がこれから雷雨になりますし、風も強まるみたいです。何かあっては大変ですから」

「んー……」

ん?
そう言えば、今日野々垣社長はあの屋敷にはいないのではなかったか?
確か店舗の視察で、先週から関西の方へ行っているとか……。

椿は……大丈夫なのだろうか……。

ハッとして首を振る。

⏰:08/07/14 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#113 [向日葵]
>>107

誤]うっっり
正]うっとり

⏰:08/07/14 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#114 [向日葵]
>>110
誤]好きに慣れそう
正]好きになれそう

間違いばかりですいません

⏰:08/07/14 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#115 [向日葵]
>>111

誤]知られていたい
正]知られていない

本当にすいません

⏰:08/07/14 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#116 [向日葵]
どうして椿の心配をしなくちゃならないんだ。
しかも彼女には、他の心配してくれる人が沢山いる。
自分が心配する必要なんてないのだ。

地面に大きな水たまりが出来はじめる。
要を乗せた車は、その水たまりに勢いよくタイヤを沈ませ、酷くならない内に、家へと帰って行った。

―――――――……

「お嬢様、今よろしいですか?」

アルバムをまた元の位置に戻し、自分の部屋に戻ったばかりだった椿は、自らドアを開ける。

立っていたのは、メイドの中でもよく自分を世話してくれる佐々木だった。

⏰:08/07/15 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#117 [向日葵]
「どうかなさいました……?」

「それが、旦那さまがこの天気のせいで今日は帰れないとおっしゃってるそうです」

「まぁ……」

椿は窓に目をやる。
さっきよりも雨は勢いを増し、ザーッと耳障りな音が響いている。

「大丈夫でしょうか……」

「椿さまには心配しないようにと伝言を預かっています。ですから大丈夫ですよ」

佐々木はにこりと笑う。
それにつられて、椿も微笑んだ。

「そうですね……。無事に帰ってくるよう待っていましょう……」

⏰:08/07/15 01:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#118 [向日葵]
父だけが私の望みだ、と椿は思う。

母が亡くなってから、まだ幼い椿を必死になって育て、愛してくれたのは父だ。
他の使用人達も、自分の事をよく見てくれたけれど、やはり1番は父だ。

父さえ無事でいてくれるなら、他に何もいらないのだ……。

雨足は強くなる。
多分警報くらいは出ているだろう。

「え?本当に?」

部屋の外から、微かに声が聞こえた。
椿と佐々木はその方へ向く。
廊下の向こうから、メイド2人が現れ、椿に気づくと慌てて頭を下げた。

⏰:08/07/17 23:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#119 [向日葵]
「どうかなさったんですか?」

「ええ実は……」

「や、やめて下さい!」

止めたのは、最近入ってきた新人のメイドだ。
椿とそんなに年は変わらなく、いつかじっくり話してみたいなと椿は思っていた。

そのメイドの様子が、おかしかった。

「何かあったのなら、教えて下さい」

心配そうな椿を見て、若いメイドはうつ向きくちごもる。
代わりに、彼女を指導していた少し年上のメイドが口を開く。

「この子、大久保さんと言うんですが……、大久保さんの実家が、山近くにありまして、どうやらこの雨で、実家近くで土砂崩れがあったそうです」

⏰:08/07/17 23:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#120 [向日葵]
「まぁ!大変!」

佐々木が声を上げる。

椿は窓の外を見る。
さっきまで激しく降っていた雨は、今度は少しおさまったようだった。
こくりと頷いて、大久保に歩み寄った。

「雨が今はマシになっています。大久保さんの実家はどちらですか?」

「車で、1時間程の……」

「今すぐお帰りになって下さい。このままじゃ、更に天気は悪くなります。そして佐々木さん、皆さんに、今日はもう帰るようにお伝えして下さい」

「お嬢様……っ!?」

⏰:08/07/17 23:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#121 [向日葵]
椿は佐々木の動揺を無視して、1番使いたくない言葉を吐き出す。

「これは命令です。早く、今の内にお帰りになって下さい」

椿の強い眼差しに、佐々木はもう何も言わなかった。
この言葉を使った彼女が折れる事は無い事を知っているからだ。

―――――――……

30分後。
幸い雨はまだマシなままだった。
使用人達はやはり実家が心配だったのか、次々に帰って行った。

「本当に、大丈夫ですか……?」

最後に出ていく佐々木が、椿を心配そうに見つめる。

⏰:08/07/17 23:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#122 [向日葵]
椿はにこりと笑って1つ頷く。

佐々木はまだ躊躇いながらも、ドアを閉め、野々垣邸を後にした。

残された椿はため息を小さくする。

どうか、大久保さんも、佐々木さんも、皆の家族が無事でありますように……。

椿は静まりかえった屋敷の音を聞いていた。
今は雨の音だけだ……。

彼女は慣れていたのだ。
小さい頃から、こんな事は何度もあった。
きっとこんな雨は明日になればやむだろう。
そうすればまた明日皆に会える。
自分が、この1日を越えればいいだけなのだ……。

⏰:08/07/18 00:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#123 [向日葵]
*******************

要は家で本を読んでいた。

椿の家にまた行こうと思っていたがこの雨だ。
行ける訳がない。
となれば今日1日暇だ。

その時、要の部屋のドアがノックされた。
適当に要が返事をすると、執事が現れた。

「要さま、野々垣家のメイドの方がいらっしゃってます。佐々木さまとおっしゃる方です」

「佐々木……?」

名前を何度も頭の中で繰り返し、ようやく「あぁ……」と思い出す。

確か椿のお付きメイドみたいなので、20代後半くらいの……。

⏰:08/07/18 00:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#124 [向日葵]
「通してもいいよ」

しばらくして、佐々木が戸口に現れた。

「失礼します、要さま」

「いいよ。どうしたの?」

「無礼を承知でお願いを申し上げます……。お嬢様の……椿さまのそばに、いて欲しいんです……」

要は首を傾げる。

どうして自分が?
そばにいるのなら他の使用人や、この佐々木だって、いればいいじゃないか、と思う。

「そばに、と言っても、この雨なんだけど」

「ではせめて、お電話をしてはもらえないでしょうか……?」

⏰:08/07/18 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#125 [向日葵]
「何故する必要が?」

佐々木は悲しい顔をした。
少し目を伏せながら、また口を開く。

「私達使用人は、今日は帰るように命令されました」

命令?あの椿が?
さらに首を傾げたくなったー

「何で?」

「この天候だからです。家に何かあれば大変だからって、この時期にはよくるんですか」

⏰:08/07/18 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#126 [向日葵]
>>125

誤]よくるん
正]よくある

⏰:08/07/22 00:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#127 [向日葵]
あ、間違った

誤]よくるんですか
正]よくあるんですが

すいません

⏰:08/07/22 00:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#128 [向日葵]
「でも急に何故……」

「新人メイドの大久保さんと言う方の実家の近くで、土砂崩れがあったそうです」

「大久保?」

「なんですか要さま」

たまたま部屋の前を通りすぎた、要の運転手である大久保は足を止めた。

「お前兄弟いるのか?」

「いいえ」

「なぁんだ。いいよ、行って」

なんで呼ばれたのか分からない運転手大久保は首を傾げながらも素直にその場を去って行った。

⏰:08/07/22 00:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#129 [向日葵]
「つまり、今椿はあの屋敷に1人ってこと?」

「ハイ……」

「でも昔からよくある事なんだろ?じゃあ椿は慣れっこじゃないのか?」

佐々木はお腹の前辺りで指を組み合わせてうつ向くと、悲しそうに微笑んでゆっくりと首を横に振った。

「あの方は、決して寂しくても寂しいと言いません。辛くても辛いと言いません。誰よりも自分を呪っている方ですから……」

「呪い……?」

要の脳裏に、儚げに笑う椿の姿が一瞬浮かんだ。
佐々木は腕時計をちらりと見てから、口を開いた。

「自分のせいで、お母さま、つまり、奥さまが亡くなったと思っているからです」

⏰:08/07/22 00:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#130 [向日葵]
要は軽く目を見開いた。

「どうして……」

「これ以上は私から言えません。いえ、言いません……。続きは是非、椿さまの口からお聞きになって下さいませ……」

それから佐々木は「失礼します」と言って要の部屋を後にした。

1人部屋にとり残された要は、読みかけの本を手に取り、またすぐに机に置いた。
窓の外はまだ昼を過ぎたところだと言うのに暗く、電気をつけるほどだ。

こんな暗い中、あの広い屋敷に、しかもたった1人で椿がいるのかと思うと、さっきの脳裏に浮かんだ儚げな微笑みが、寂しげに思うのだった。

⏰:08/07/22 00:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#131 [向日葵]
*****************

突然ピカッっ光ったと思えば、しばらくして轟音が遠くの方で鳴り響く。

「光ってから何秒数えれば距離が分かるんでしたっけ……」

自室の窓辺に、雷を恐る事もせず椿は外を眺めていた。

先程から、使用人達から無事に家についたと連絡があり、椿はホッと胸を撫で下ろしていた。

そこで椿はてるてる坊主でも作ろうかと思いつき、ティッシュ箱とペンを用意した。

明日がカラリと晴れますようにと、願いを込めて。

すると広い屋敷に電話の音が響きだす。

⏰:08/07/22 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#132 [向日葵]
父だろうかと胸踊らせ、椿は急ぎ足で電話がある所へと向かった。

「ハイ、野々垣でございます」

{あのさ君、携帯の電源くらいいれといてくんない?}

「え……要さま……?」

椿は驚きに少し声を上げる。

{何度も電話したのに出ないんだから……}

「すいません……」

⏰:08/07/22 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#133 [向日葵]
戸惑う椿の耳に、要のため息が聞こえた。

{……別に謝って欲しい訳じゃないんだ……}

なんだか慎重な様子の要に、椿は首を少し傾げた。
どうかしたのだろうかと口を開きかけた時、要が口を開いた。

{今、君は1人なのか?}

「え……あ、ハイ……。皆さんおうちへ帰られましたんで……。あの、それが何か……?」

{……寂しくは、ないか……}

「え……」

どうしてそんな事を聞くかわからなかった。
椿がどうなろうと知らないと言いそうなのが要だ。

⏰:08/07/24 00:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#134 [向日葵]
なのにどうして自分の事を、しかも心の底から心配してる風に聞くのだろうか……。

……でも。

「寂しくなんてないです……。雨の音はわりと好きなので……」

{なんでっ……!}

と要が声を荒らげた時、ブツッと声が途切れ、さっきまでついていた電気までもがプツリと切れてしまった。

どうやら雷が落ちたらしい。

しばらく受話器を見つめて、椿は受話器を置いた。

要は、何を言いたかったのだろうと考える。

⏰:08/07/24 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#135 [向日葵]
何が、「なんで」だったのだろう。自分は何か間違えた事を言っただろうか。

自分の部屋に戻り、ドアを閉めた途端物凄い音で雷が鳴った。
これには椿も驚く。

「キャ……ッ」

耳元を手で塞いで、ドアによりかかるようにしてしゃがむ。

瞑っていた目をゆっくりと開ければ、薄暗い部屋が広がっていた。

急に心臓がドクリと跳ねるのが分かった。

今日の限って、こんなにも広い部屋が怖く感じてしまうのだろう……。

⏰:08/07/24 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#136 [向日葵]
[寂しくは、ないか]

「……寂しい……か……ですか……」

ずっと、見て見ぬフリをしていた。
雨の音しか響かないこの屋敷は不気味で、少しの物音ですら過剰に反応してしまう。

「あ……」

動けない……。

しっかりして、と、微かに震えてしまう手で足を叩く。
赤ん坊みたいにハイハイするような形で、なんとか自分の大きなベッドまで辿り着いた。

ベッドに這い上がり、薄いシーツを頭から体に巻きつける。

⏰:08/07/24 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#137 [向日葵]
恐怖と自分の間に、薄いシーツが挟んだおかげで、少しだけ怖くなくなった。
そんな事を思いながら、ぼんやりと窓の外を見る。

相変わらず雷も雨も止まない。

そういえば1度、台風の目に入った事があって、驚く程静かだったのを覚えている。
まるで世界で自分1人しかいないんじゃないかと思った。

その時の事を思えば、まだ音が聞こえてる方がマシなのかもしれない。

シーツを握りしめて、椿はこてんとベッドに横たわった。
静かに目を閉じれば、自然と夢の世界へと旅立っていった。

――――――――……

ピチャ……と音が聞こえた気がした。
うっすらと目を開けた椿は、寝ていたのかと、まだ眠い目を擦る。

⏰:08/07/24 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#138 [向日葵]
窓がガタガタ揺れる。
風も出てきたらしい。

先程より空は暗くなり、それと同時に椿の部屋も暗さが増した。

蝋燭か、懐中電灯は無かっただろうか、とシーツを巻いたまま床に降りようとした時だった。

キュッ……と、何かが擦れる音がした。

椿はハッとして、床に降りる足を止める。
そういえば、自分は水が滴る音のようなもので目が覚めたのだ。
でも水気があるのは窓だけで、しかもその窓はしっかりと閉めてあるから雨水がこちらへ漏れてくる事はまず無いのだ。

「じゃあ……?」と思った時、またキュッ……と音がした。

⏰:08/07/24 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#139 [向日葵]
椿は息をのむ。

「な……何……?」

キュッ……という音は、段々と近づいてくる……。
ベッドの上で、椿は後退り、枕元に辿り着く。

その間にも、音は止まず、大きくなっていく。

全神経を集中させて、ドアを見つめる。
するとキュッ……という音は、椿の部屋の前で消えた。

いや消えたのではない……。

椿の部屋の前で止まったのだ……。

「どうして……」

⏰:08/07/24 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#140 [向日葵]
>>135

誤]今日の限って、こんなにも
正]今日に限って、何故こんなにも

⏰:08/07/24 11:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#141 [向日葵]
ガタガタ震えだす体をシーツと一緒に巻き付けるようにして自分の腕で抱く。

ギュッと目を瞑り、うつむく。

ゆっくりとドアが開けられた時、椿の恐怖はピークに達した。

「――っ!」

息を吸い込んで、音にならない悲鳴を上げる。

「何をやっているんだ君は……」

この声は……。と椿は固く閉ざしていた目をゆっくりと開く。
うつむいていた体も同じように起こして、暗さが増した室内を見渡し、ドアの方に目をこらした。

「まったく……呼び鈴を鳴らしても出てこないし……携帯に連絡してもやっぱり出ないし……」

⏰:08/07/27 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#142 [向日葵]
キュッと音を鳴らしながら要は椿の部屋へ入ってくる。
その音と共に水の滴る音も聞こえる。

微かな光のおかげで、椿の近くまで来た要の姿が見えた。
その姿はびしょ濡れになっていた。

驚いて要に見いる椿の視線に要は気づく。

「ちょっとした手違いで濡れただけだよ……。気にしなくてもこんな事で風邪をひく程、僕の体は柔じゃないから」

手違いでそんなに濡れる訳が無い。
もしかして、急いで駆けつけてくれたのだろうか……。
……まさか、そんな訳……。

⏰:08/07/27 02:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#143 [向日葵]
「あの……何か拭くものをご用意しますね……」

「いいよ。すぐ乾く」

「でも……」

「言ったでしょ?そんな柔じゃないって」

言いながらドスンとベッドに腰を下ろす。
そして椿をじっと見つめる。

「そんなの巻いて……やっばり寂しかったんじゃないか」

ドキリとして、椿は口ごもり、顔を赤らめる。
暗くて良かった。

「寂しくは……ないですわ……。少し寒い気がしたので……」

暗くなければ、こんな強がり言えない。

⏰:08/07/27 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#144 [向日葵]
しかし要は何もかもお見通しだと言うようにクスリと笑った。

「寒いのなら頭から被る必要はないと思うよ?いい加減素直に恐かったと言ったらどう?」

確かに恐かったけれど、いつもはそんな風には思わなかった。
要が「寂しいか?」等と訊くから、隠し通していた形のないものがはっきりとしてしまったみたいで……。

だが結局、椿は寂しかったのは事実なのだ。
それが恐怖を呼び、今に至った。
それでも椿は言った。

「……大丈夫です……」

椿がそう言った後、沈黙が少しの間2人を包んだ。
聞こえるのは、雨と、風と、風に揺れる窓の音だけ……。

⏰:08/07/27 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#145 [向日葵]
そして要がため息をついた。

「何なんだ……君は……」

「え……」

ぐいっと腕を引っ張られ、間近で要と見つめあう形になった。
微かな明かりで見える要の顔は、機嫌が悪いと言うよりは怒っているように見えた。

「僕は君の婚約者なんだ。君が誰にどんな強がりを言おうとそれは勝手だ。だけど、こんな時くらい弱みを僕に見せる事すらしてくれないのかっ!」

椿は目を見開く。

もう要は自分の気持ちに気づいていた。

可愛いとか可愛くないとかどうでもいい。

⏰:08/07/27 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#146 [向日葵]
他人の為なら、何もかも諦めてしまいそうなこの少女を守るのは自分しかいないと感じている。

何が……好きになれそうにないだ……。
痛々しくて、驚く程健気な椿に、徐々に惹かれていたくせに……。

認めたくなかったのは、「好きになれそうにない」と言った彼自身の言葉に意地になっていたからだ。
でも……もう隠す必要はない。
隠そうとしても、椿のする事なす事に、こうして首を突っ込んでしまうのだから……。

「君の本音は僕だけが聞く。他の誰にも打ち明ける事が出来ないのなら、僕だけは君の為に耳を傾ける」

⏰:08/07/27 02:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#147 [向日葵]
椿の華奢な両肩を、腕を引っ張った力より優しく柔らかく掴む。

「だから、無理して笑うな。これは命令だ。君が使用人達に、無理矢理言うことを聞かそうと、この“命令”と言う言葉を使うなら、僕だって無理矢理にでも聞いてもらう」

椿は未だ驚いたように要を見る。

そんな椿の頭には疑問しか浮かばなかった。

どうして?
要は、自分の利益の為に婚約者を名乗っているだけなのに……。
どうしてそんな事が言えてしまうのだろう……。
しかも、そんな真剣に……。

「……しい……」

そして自分もどうしてしまったのだろう。
呟くように、椿が言葉を紡ぐ。

⏰:08/07/27 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#148 [向日葵]
「何……?」

「……い…………」

「はっきり言え!」

少し椿の肩を揺らす。
その肩が、小さく震えだす。

「怒らない。迷惑だなんて思わない……。だから言うんだ」

椿の呼吸が乱れだすのを、要は耳で感じていた。
それでも、言わせなきゃならない。
こうでもしないと、彼女の本音はずっと閉じこもってしまったままで、代わりに嘘の笑顔と言葉が出てくるのがクセになってしまう。

「さ……寂しい……です……っ」

吐息のように、でもはっきりと、彼女の声が聞こえた。
窓からの明かりが、椿の頬を流れる滴を、幻想的に光らせる。

⏰:08/07/27 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#149 [向日葵]
「ずっと……寂しかったんです……。でも私はこんな体で、小さな頃から皆さんに迷惑かけてて……」

溢れ出す涙と共に、何年も閉じ込めていただろう椿の心の言葉がポロポロとこぼれていく。
それん要は黙って受け止めていた。

「せめてワガママだけは言わないで……いい子でいようと……思ってました……。寂しいなんて言っては、また皆さんを困らせるって……こんな日はずっと……朝が来るのが待ち遠しかった……」

「うん……」

「私はこんな事でしか皆さんの為にする事は出来ないんです…………。だから……だか……」

⏰:08/07/27 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#150 [向日葵]
椿は両手で顔を覆って静かに泣く。

それを見ながら要は、過去椿に言った酷い言葉の数々を思い出し、自己嫌悪に陥っていた。

彼女は、要の言葉のトゲを刺したまま過ごしていたのだろうか……。

ぎこちなく手を伸ばし、椿の頭にかかっているシーツを取る。
そして改めて体に巻き付けてやる。

「そんなに自分を責めなくていい……。そんな事をしなくても、皆君が好きだよ……」

椿は首をゆっくり横に振った。
「そんな訳がない」とでも言いたいのだろうか……。

⏰:08/07/27 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#151 [向日葵]
「その証拠に、君のとこのメイドさんが、君のそばにいてやってくれと僕の所へ来たよ」

まだ濡れている目で、椿は要を見る。
要は椿の頬に流れた涙を拭うようにして、そっと触れた。
涙で濡れた頬は、少し冷たい。

「皆君を大事にしてくれる。だから、迷惑だなんて、思わなくていいんだ……」

椿はまた顔を歪めて両手で覆った。

そんな椿を、ふわりと空気を抱くかのように要は包みこんだ。

少しだけ、椿の体がハッと硬直する。

「君は、いらない存在なんかじゃないから……」

⏰:08/07/29 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#152 [向日葵]
優しく包みこまれ、優しい言葉を向けられたら、椿はまた一段と泣いた。

心のどこかでは、簡単に許してはいけない、この人に弱い自分を見せてはいけないと思っているのに、温かい腕からは逃げる事は出来ず、逆にすがりついてしまう。

せめて今だけは、要の気持ちを信じたいと感じる椿は、そう思う反面でこれが本当の要のような気もしていたのだった。

「明日になるまで……ずっとそばにいるよ……」

次から次へと流れてくる涙を止めようとは思わなかった。
要なら、受け止めてくれるように思った。

この寂しかった日々も。
この形容しがたい温かな嬉しさも……。

⏰:08/07/29 01:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#153 [向日葵]
[第4話]

「え、風邪ですか……っ」

爽やかな朝。
朝食を取っていた椿の耳に驚く出来事が入ってきた。

「ハイ。どうやら高熱をお出しになったみたいで……」

それを告げているのはいつも椿の面倒を見てくれている佐々木だ。

「大変……」

実は要が風邪で寝込んでいるという。
原因は2日程前の雨が原因と見られる。

椿は私のせいだと落ち込む。

⏰:08/07/29 01:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#154 [向日葵]
それに昨日も雨が降って、嵐程でもないのに要はまた来た。
もしかしてその時から体が辛かったのではないかと思えば、更に落ち込んだ。

膝に敷いていたナプキンをのけて、椿は立ち上がる。

「今日、学校の帰りにお見舞いへ行って参ります。帰りは遅くなると思います」

「かしこまりました」

―――――――…………

「椿椿椿ぃー!今日帰り、アイスでも食べて帰らない!?」

学校が終わる前、美嘉が無邪気に椿に笑いかける。

「あ、えと、ごめんなさい……。今日、要さまのお見舞いに行こうと思っているんです……」

⏰:08/07/29 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#155 [向日葵]
要の名前が出れば、美嘉の顔が険しくなった。
彼女にとって要は椿を苦しめる最低な奴としか認識されていないのだ。

「ほっとけばいいじゃんっ。忘れたの椿。アイツのせいで椿1回倒れたのよ?」

そう言われてしまっては椿も苦笑いするしかない。

でもあの嵐の日、自分がそう仕向けたとは言え、1人ぼっちになった自分を支えてくれたのは要だ。

要がいなければ、今こんなに心が軽くなってはいないだろう。

「それでも……行きます……。今日は、私が率先して行くと言ったので……」

⏰:08/07/29 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#156 [向日葵]
そう言えば、美嘉はため息をついた。
1度決めた椿を止めるのを無理と知っているから諦めの意味もこもっていただろう。

「風邪って言う口実でなんかされそるになったらすぐ報せなさい」

「何か……ですか……?」

「いい!?椿」

美嘉はズズイッと椿に顔を近づけた。
椿はパチパチと瞬きを繰り返し美嘉の話を聞く。

「風邪をひいたらなんでも言うことを聞いてくれるって勘違いする奴がいるの。それを利用して無理難題押しつけてくるんだからね!」

⏰:08/07/29 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#157 [向日葵]
椿は美嘉が言っている事が分からないながら、とりあえず相づちを打つ。

「アイツはその見本品よ……」

今にも口から火を吐きそうな恐ろしい顔をしながら、妙に力を入れて言う美嘉に、椿はやっぱり苦笑いを浮かべるしかなかった。

―――――――――…………

要の屋敷は椿の屋敷より大きい。

デザイン職なだけあって家もデザインされた作りになっている。

例えば玄関なんて床は透明ガラスで出来ていてその下にある空色の床が見えていたり、階段は木で出来ているが色はとてもポップで、段になっている所のみ赤、青、黄色で構成されている

⏰:08/07/29 01:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#158 [向日葵]
男でも女でも楽しめそうなこの空間に、椿は感嘆のため息をもらした。

「いらっしゃいませ、椿さま」

年若い従者が椿を迎える。

「こんにちわ。お忙しい所、押し掛けた形になって申し訳ありません」

「いえ、要さまもお喜びになることでしょう。案内させて頂きます」

柔らかく微笑んだ従者と椿は、要の部屋まで歩き始める。

歩きながら、ふと従者の方を見ると、その人の耳には小さな赤いピアスがされていた。

椿の家では使用人達はアクセサリー類のは禁止されているので、物珍しそうにじっと見つめる。

⏰:08/07/29 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#159 [向日葵]
その視線に気づいた従者は、椿ににこりと微笑む。

「これですか?要さまが似合いそうだからとプレゼントしてくださったんです。それと、私が要さまの友人のようになるようにと言う証でもあるようなのです」

柔らかい雰囲気をまとった彼にそのピアスをする事によって、その柔らかさが良い意味で少し無くなる。

「えと……お名前をお聞きしてもよろしいですか……?」

「もちろんです。大久保と申します」

そう言われれば、この頃入ったあのメイドを思い浮かべた。

「あの大久保さん……兄弟はいらっしゃいますか?」

⏰:08/07/29 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#160 [向日葵]
そう言うと、大久保はクスクス笑った。

「要さまにも言われましたよ。どうやら同姓の方が、椿さまのお屋敷にもいらっしゃるようで……」

「ハイ……そうなんです……」

「後から聞いた話ですが、その方大変だったそうですね……。でも、それを聞いて、要さまが「兄弟がいるのか」と尋ねた理由が分かったんです。私の事を心配して下さったようです」

と、大久保は足を止めた。

「椿さま。要さまは優しいお方です。たまに意地悪をおっしゃったりするかもですが……彼にとっては愛情の裏返しでもあるのですよ」

⏰:08/07/29 02:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#161 [向日葵]
椿は静かに微笑む。

もしかしたらそうなのかもしれない……。
ただ彼は、伝える事に関してはとても下手で、たどたどしい。
それでも、気持ちは入っているのかもしれない……。

「あぁ、申し訳ありません!ベラベラと……。では、こちらが要さまのお部屋でございます」

カチャリとドアを開け、中へ誘導する。

開くと同時に、要の声が聞こえた。

「大久保……?喉が乾いた……。水をくれないか?」

大久保は口に人差し指を当てて、水差しを椿に渡した。
どうやら驚かせたいらしい。
そして静かに部屋を出ていく。

⏰:08/07/29 02:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#162 [向日葵]
一方、水差しを渡された椿は、どうしゃうか悩みながらも、要が喉が渇いていると言う事で、要が寝るベッドまで行った。

要はぐったりと横たわっていて、片腕で目元を隠している。

「要さま、お水です……」

「ああ、ありが……。って!なんで君がここにいるんだ!?」

「あ、あの、風邪をひいたと聞きましたので……」

大きくため息を吐いた要は、とりあえず喉を潤す為水を一気飲みする。
近くにあった小さなテーブルにコップを置いて、ダルそうに起き上がる。

「寝てて下さい……っ。お体を休めませんと……」

「いいよ……。そんな柔じゃない……」

⏰:08/07/29 02:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#163 [向日葵]
>>156

誤]なんかされそるに
正]なんかされそうに

⏰:08/07/29 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#164 [向日葵]
柔じゃないなんて嘘だと椿は思った。現にこうして体を壊しているのだから。

「それより君、やっと僕の名前を呼ぶようになったね」

「え……っ。あ……これはっ、なんと言いますか……大久保さんの言葉が移ってしまって……」

何の不思議もなく、要の事も呼んでいたので、椿は真っ赤になった。

「ごめんなさい……馴れ馴れしくしてしまって……っ」

「何言ってんの。僕はいつも呼ぶように言ってたじゃないか。頑なに呼ばなかったのは椿の方でしょ」

皮肉な言葉は混ざっているけれど、要は嬉しそうに笑う。
本当に嬉しそうに笑う。

⏰:08/08/01 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#165 [向日葵]
だから椿は嬉しかった。
つられて椿も微笑む。
要の前で、何も考えず、無理せず笑うのは、初めてじゃないだろうか。

「それより、早く帰りな。僕の風邪が君の移っては、社長の怒りを買っちゃうかもしれないしね」

体のダルさなんて平気だと言うように振る舞う要だが、こういう時の体の辛さを椿はよく知っている為、要が無理していると分かった。

椿は要の言葉に首を振る。
要はボスッとベッドに突っ伏す。
そして大きくため息を吐いた。

「まあ……君は思ったより頑固だからね……。そういうならいてもいいけど……」

とか言いながら、素直に帰らなかった椿に嬉しいと感じている要は、ニヤけそうになる口元を枕で隠した。

⏰:08/08/01 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#166 [向日葵]
「じゃあ僕が寝つくまで帰るな。この願いならきいてくれる?」

「ハイ、もちろんです……」

要は横向きになって、少し熱い手を椿に差しのべる。
椿はそれをじっと見て、要を見た。

「手、握ってよ……」

「え……」

「お願い、きいてよ」

椿はしばらく戸惑い、ゆっくりと手を伸ばす。
そして指先だけキュッと掴む。

すると要は目を閉じて微笑む。

「君の手、冷たいね……」

⏰:08/08/01 01:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#167 [向日葵]
「い、いつもは……もっと熱い筈なんですが……」

クスリと要が笑う。
椿は胸が高鳴るのを感じていた。

ただ、手を握っただけだ。
それなのに胸の中で疼くこの感情が何か分からない。
でもなんだか苦しくて、切なくて、しまいには泣きたくなるような感覚に、椿は困惑した。

「……でも今日は、冷たくて良かった……。おかげで……」

と言いながら、要は自分の額に椿の手を当てた。

「気持ちいい……」

「あ……っ」

⏰:08/08/01 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#168 [向日葵]
椿は赤くなるしか出来なかった。

すると急に要から寝息が聞こえた。
やっばり体に限界があったらしい。

要が寝つくまで……。そういう約束だったが、握られた手は寝ても尚放す気配がないし、それに椿自身、今要から離れたくないと思った。

だから彼の眠った顔を見る。

苦しそうに寝ておらず、ちゃんと規則正しく寝息をたてている彼は、忘れていたが同い年の男の子だった。

その言動、その態度。
全てが彼を大人びて見させる。

⏰:08/08/01 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#169 [向日葵]
しかし彼はこうなるしかなかったのだろう。
じゃなきゃこの若さで世界へのし上がり、世界中を飛び回り、鬼のような仕事の量をこなせる訳がない。

椿の胸が、チクリと痛む。
そして大久保の言葉を思い出す。

――本当は、優しい人……。

椿は自分の立場を改めて考えた。
ただ黙って、嫁ぐ日を待っているだけの自分。
そんな自分でも、要はもらってやろうと言ってくれた。
その時は、きっと愛など無いと思っていた。

始めの方だってそうだった。
今はどうか分からない。

⏰:08/08/01 01:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#170 [向日葵]
だが以前よりは親しみを持ってくれてるのではないかなと感じる時はある。

もし、要と最初の頃のまま結婚していたとしても、椿は徐々に要に心許せるような気がした。

そう思うのも、子供が不安がるように手を握ってとすがり、握った瞬間安心して眠る要の本質的なものが段々と見えてきたからかもしれなかった。

―――――――――…………

ドアをノックする音が聞こえた。

ハッとした椿は、要のベッドに突っ伏すようにして自分の手を枕にして寝ていたらしい。

ドアの方を向き、進もうとすれば、手が誰かに引っ張られた。

要だ。

⏰:08/08/01 01:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#171 [向日葵]
寝てるのに手をしっかりと握って放さない。
かと言って離れているドアに向かって大きな声で返事をしてしまっては要が起きるのではと心配した椿は要とドアを交互に見ながら焦る。

するとありがたい事に向こうからドアが開いてくれた。

入ってきたのは大久保だ。

「あ、大久保さん……すいません、出られなくて」

そばまでやって来た大久保は状況を把握して椿ににっこり笑いかける。

「気にしないで下さい。水差しに水を足しに来ただけですから。しかし、熟睡してますねぇ」

⏰:08/08/04 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#172 [向日葵]
まるでそれが珍しいかのように、大久保は要の顔を覗き込む。
そして心配そうな椿を見る。

「汗もよくかいてましたから、直に熱も下がるでしょう。椿さまも無理をなさらずお帰りになってもよろしいのですよ」

もう心配ない。

椿もなんとなく分かっている。
それでも、頼りなく、それでいてしっかりと握られている手を見れば、もう少しいた方がいいいような、いたいような……。

「まだ、あと少し、いてもよろしいですか……」

椿の言葉に、大久保は笑みを深くする。

「お帰りの際は、声をおかけになって下さいね。お送りいたします」

⏰:08/08/04 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#173 [向日葵]
そう言うと、大久保は部屋を出て行った。

再び要に視線を戻した椿は、首に少し流れている汗をタオルで拭いてやる。
すると寝巻きのシャツの隙間から、綺麗な鎖骨が見える。

ドキリとした椿は首にタオルをおいたまま赤くなってま固まる。

そういえば、自分はこの人に抱き締められたではないか。

あの時は、溢れ出した気持ちで一杯いっぱいになっていたから、そんなに意識はしなかったけれど、体を完璧要に預けていた。

そうした自分の行動に、恥ずかしさを隠せなかった。

「……ん……っ」

⏰:08/08/04 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#174 [向日葵]
要の声に、椿は我に返った。

首に置いてあったままの手を慌ててのける。

すると要がうっすらと目を開けた。

「何椿……。殺す気……?」

「ち、違っ……!汗を拭いていただけです!ごめんなさい……っ!」

「分かってるよ……からかっただけ……」

クスクス笑う要は、少し元気になったように思う。
ホッとして、椿も頬を緩める。
それを要が眩しそうに見ると、ゆっくりと椿の髪の毛をひとふさ取る。

⏰:08/08/04 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#175 [向日葵]
そしてそれに口づける……。

「か……要さま……?」

先ほどから赤くなってばかりの椿は、次は自分が熱を出して倒れるんじゃないかと心配になった。
そして要はそんな椿を見て、またクスリと笑う。

髪から手を放すと、今度は椿の頬に触れる。
椿はピクリとする。

「今日、来てくれて……ありがとう……。嬉しかった……」

力なくいい終えると、要は手をパタリと落として、また眠りについた。

嬉しかった……?
私が来て……?

⏰:08/08/04 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#176 [向日葵]
椿はなんとも言えない顔で、寝ている要を見つめる。

「要……さま……」

私は、あなたの心の中にいるのですか……?
でも何故?
あなたが言ったのに。

好きになれそうにないって……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ぼんやりと要のそばに座ったままだった椿は、ふと時計を見た。

もう8時。
そろそろ帰って、しっかりと要を休ませた方がいいだろうと思った椿は、腰を上げた。

すると要がまた唸る。

⏰:08/08/04 02:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#177 [向日葵]
また熱が上がり出したのかと心配になった椿は要の額に手を当てようとした。
その時、要の呟きが聞こえた。

「ゆ……いこ……」

「え……」

ユイコ?

額に触れようとしていた手を、静かに引っ込める。

ユイコじゃない。
要さま、私は、椿です……っ。

そう思いながら椿は口唇を噛んだ。

するとタイミング良く、要が目を開く。

「椿……?帰るのか……?」

⏰:08/08/04 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#178 [向日葵]
今の要から見る椿はぼんやりとしか見えない。
しかし、椿から送られてくる雰囲気に異変を感じた。

「椿……どうしたんだ……?」

椿は何も言わず、頭を下げると、足早に要の部屋を出て行った。

ドアを閉める瞬間、彼がもう1度椿の名を呼ぶのが聞こえたが、それを遮るかのように椿はドアを閉めた。

…………危ない……。
もう少しで本気にしてしまいそうだった。

彼の心に、自分がいる訳がない。
最近の優しさだって、彼の本質的なものであっても、恋から生じる気持ちではないだろう。

⏰:08/08/04 02:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#179 [向日葵]
それに彼はこの世界でのし上がる為に色々なものを捨て、色々なものを利用する人だ。

好きな人がいても、その気持ちを捨てざるを得ない事があっただろう。
それがもしかしたら、彼が呟いた「ユイコ」なのかもしれない。

未だ忘れられず、彼の心にいるのは椿ではないのだ。

この頃、優しくされてばかりだから、勘違いを起こしそうになった。
反省しなくちゃ……。

そう思ってても、胸に突き抜けた痛みは、簡単に病むことはなかった。

ズキズキズキズキ……。
要を思えば思うほど、何故かその痛みは大きくなるのであった。

⏰:08/08/04 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#180 [向日葵]
――――――――……

それから、椿は要を避けはじめた。

要もちょうど仕事が重なったのか、椿宅には来ない日が続いた。

それでも、1日1回は必ずメールや電話が来た。
でも椿は、電話には出なかった。
電話に出ないと次はメールが来て、必ず文面に「なんで電話にでないの?」と不機嫌な文が綴られていた。

椿はその事には触れず、「今日もお疲れさまでした。ゆっくり休んで下さい」としか送らなかった。

許そうとしていた、椿の要に対する心の領域侵入は、また椿によって拒まれ始めた。

⏰:08/08/04 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#181 [向日葵]
あれから1週間が経とうとしていた。

要にはこの1週間、やっばり会わなかった。
聞くところによると、現在フランスで開かれる小さなファッションショーの為に服のデザインをあれこれ考えているらしい。

どこか胸が重い椿は、うつむきながら玄関に入る。

「ただいま帰り……」

「椿」

穏やかな声だった。
ハッとして顔を上げた椿は、目を見開く。

「聖史……さま……」

そう呼ばれる人物は、穏やかな笑みを口元にたたえたまま椿に近づく。

⏰:08/08/05 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#182 [向日葵]
すらりした身長に細身の体格。
スーツが体にそって、よく似合う。

目は細めだが、それがまた彼の色気を醸し出している。
黒い長めの髪はサラサラだ。

聖史は椿に手を伸ばし、優しく頭を撫でた。

「久しぶりだね。元気だった?」

久しぶりの聖史に、椿はじわじわと嬉しさが込み上げ、胸が重い事を吹き飛ばし、笑顔になる。

「ハイ……っ!聖史さまも、お元気そうで……っ!」

「うん。久しぶりの休暇で、こちらに帰って来たんだ」

⏰:08/08/05 02:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#183 [向日葵]
「いつまでいられるんですか?」

「そうだね……。多分2週間ほど」

「じゃあ、沢山お話が出来ますね……っ!」

満面の笑みの椿を、聖史はふわりと抱き締めた。
驚く椿。
でも突き放す事は出来なかった。
特に他意はなく、親愛の意味で抱き締められてるのならば、突き放すなんて失礼な事はしてはいけないと思ったからだ。

「何してんの」

冷ややかな声が、玄関ホールに響いた。

⏰:08/08/05 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#184 [向日葵]
びくりと震え、振り向くと、そこに立っているのは、紛れもなく要だった。

要の目は、椿から、彼女を抱き締めている聖史に向けられた。

「君は誰かな。椿は僕のなんだけど。なに勝手に抱き締めてくれちゃってんの?」

「君は確か……葵 要君……?って事は椿、婚約者候補って、まさか彼の事?」

いつまでも放さない聖史にしびれを切らした要はズカズカと歩みより、力づくで椿を放させた。

そして今度は要がギュッと抱き締める。

そうされるだけで、椿は聖史に抱き締められた時よりも胸が高鳴っているのを知らないフリした。

⏰:08/08/05 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#185 [向日葵]
「“候補”なんかじゃない!僕はれっきとした“婚約者”だ!」

それだけ言うと、要は椿を引っ張って外へ連れ出そうとした。
が、椿がそれを拒む。

「か、要さま……っ。待ってください……っ!」

「待たない。君はどうも意識が薄いらしいから思いしらすべきだと思うね。だから僕の言う事を聞いてもらう」

「で……でも……っ」

「椿は誰のものなのか分かってるのか!」

そう言われても、例え要のものであっても、要は椿のものにはならないじゃないか。

⏰:08/08/05 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#186 [向日葵]
―――――ユイコ

知らない名を……椿じゃない名を、呼んだくせに……っ。

悔しい思いとは裏腹に、椿は脱力した。

言う事を聞かなければ。
最初からそう決めていたではないか。
何も感じないフリをしよう。
ただ笑顔でいよう。
そうすれば、何も辛い事なんてない……。

「……要さまの、ものです……」

静かに笑う椿を見て、要は目を見開く。
まただ……と。
また彼女は、自分に嘘をついていると……。

⏰:08/08/05 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#187 [向日葵]
「笑うな……」

「え?」

椿は笑顔を崩さない。
それにじれったさを感じた要は怒鳴る。

「どうして笑うんだ!無理に笑うなと言った僕の言葉を君はもう忘れたのか!僕の言葉は、君にとってそんな薄っぺらいものなのか!?」

ビクリと怯える椿を、後ろから聖史が引き寄せる。

「椿、彼は本当に婚約者なの?」

「さっきそう言った筈だ」

「それにしては、随分色々と強引だ。要くん。君は本当に椿が好きで婚約者を立候補したのか……」

「やめてください聖史さま……っ」

⏰:08/08/09 22:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#188 [向日葵]
椿が聖史の言葉を遮る。

本当の事を突き詰めても答えは分かっている。
要が自分との結婚を望むのは、利益があるからだ。

そんなの分かってる……。
分かってるのに……今、本人の口からそれを聞くのが嫌だった。

「私は幸せです……。要さまはとてもお優しい……。だから、そんな風に言うのは……やめてください……」

「……説得力ないよ椿。今の君は幸せそうになんか見えない」

「――――っ!」

「それはそちらの考えだろう?椿は幸せだと言ってるんだ」

⏰:08/08/09 22:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#189 [向日葵]
聖史が触れているのが嫌な要は、聖史を睨みながら椿の手をとる。

強引だと言われたので引っ張って椿を自分の所へ持ってきたいが、今は出来ずにいた。
何より聖史に何もかも分かった風に口をきかれるのが、要の癇に障る。

だが、聖史も負けてはいない。

「要くん、君は椿の性格を何1つ分かっちゃいないよ。椿は君の暇つぶしの道具じゃない。もっと大切にしてくれ」

「なんだと……っ!」

「聖史さま……っ」

「椿、まだ正式に婚約発表はしていないのだろ?なら……僕も立候補していいかな?」

⏰:08/08/09 22:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#190 [向日葵]
これには椿も要も驚く。

「椿、僕はね、幼い頃から君が大好きだったんだ……。なのにその君が、婚約したと聞いて胸が潰れそうだったよ。……けど」

聖史は要を睨む。
それも静かに怒りを含んだ目つきで。

「相手がこんな人なら、僕は納得しないよ」

「納得しようがしまいが僕が椿の婚約者だ。今更出てきても遅い」

「そうかな?見たところ椿の心は揺れ動いてるみたいだし……まだはっきりとしないなら、僕にだってチャンスはあると思うよ」

聖史は余裕なのか、微笑みを浮かべる。
それが挑発しているように見えて、要はこめかみの青筋を更に1つ増やした。

⏰:08/08/09 22:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#191 [向日葵]
そして行き場のない怒りは、椿へぶつけられた。

「椿、君もなんで否定しないの?そんなに僕じゃ不満って事かっ!?」

いきなり怒鳴りつけられた椿は驚き、目を見開いた。

「ふ、不満なんて……感じた事は……っ!」

あるけれど言うべきことではないし、今言っては火に油だ。
椿はそれ以上何を言っていいか分からず、口を閉じた。

「君は……僕じゃなくてもいいのか……?」

眉を寄せて、泣きそうな顔をする要に、椿は戸惑う。

⏰:08/08/09 22:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#192 [向日葵]
「要さま……」

「僕は……君が……」

言いかけて、要は口を閉ざす。

そして聖史を睨みつける。

本人にしか言いたくない事を、コイツの前で言う必要はないと思ったようだ。

「言っておくけど、売られたケンカは倍額で買う。こちらだってプライドがあるからね。でも、椿の事は、フェアで戦おうとは思わない。もともと椿は僕のものなのだから」

「プライドがあるのにフェアで戦わないなんておかしいよ」

「どうせフェアで無くなるのは分かってる。それとも何かい?君は椿の事を反則を犯してまで欲しいとは思わないのか?」

⏰:08/08/09 22:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#193 [向日葵]
これには、冷静を装っていた聖史もムカッときたのだろう。
眉を寄せて、怒りを露にする。

「そこまで言われると、心外だな。いいだろう。フェアに戦わないと言った言葉を後悔するといい」

フッと笑うと、要は踵をかえして玄関ホールを去って行った。

「あ……」と思った椿は、追いかけようとする。
が、聖史に腕を引かれた。

「追いかけてどうするの?あんな人だよ?椿が気を遣う必要なんてないよ」

「……放して……くださいませ……」

しばらく腕を掴んでいた聖史は、ゆるりと椿の腕を放した。

⏰:08/08/09 23:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#194 [向日葵]
そして椿は要を追った。

要は門までまっすぐ続く道を歩いている。

「か、要さま……っ!」

どうして追ってるか分からない。
ただ足が進むままに、椿は要の元まで走る。

「要さま……っ!」

さっきより少し大きな声で要を呼ぶと、要は足を止めてこちらを見た。

「……何……?」

少し冷たい要の言葉が、椿の胸に突き刺さる。
切なげに彼を見れば、彼も椿を見る目が切なく変化した。

⏰:08/08/10 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#195 [向日葵]
「私……私……」

「……椿は、さっきの人が好き?」

「え……?ち、違っ……!」

すると要がふわりと椿を抱き締める。
空気を抱くように抱き締められてると、その力は段々と強くなり、細い椿の体は少し痛みを感じた。

けれど椿は戸惑う事なく、要を受け入れていた。

「例えそうでも、争う事をやめろなんて言わないで。僕は戦う。そして完璧に君を僕のものにする」

「要……さま……」

⏰:08/08/10 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#196 [向日葵]
要は椿を放すと、近くで見つめる。
椿は胸が高鳴る。

「僕は…………。なんでもない……。とにかく僕は勝つつもりだから」

椿はどちらを応援するなんて考えていない。
ただ少し、ほんの少し、揺れ動いている自分の心が、聖史を好きになったらどうしようと思っている。

……でも、その方がいいのかもしれないとも思っている。

―――――ユイコ……。

切なげな声で、呼ばれたその名……。
まだ頭から離れない……。

⏰:08/08/10 00:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#197 [向日葵]
「……じゃあ、また明日……」

椿はゆっくりと頷く。

しかしそう言いながらも、要は動こうとしない。
どうしてだろうと要を見つめれば、要もじっと椿を見つめていた。

そしてゆっくりとこちらに身を乗り出し、椿の頬に唇を寄せた。

そうして踵をかえして、要はまた歩き出した。

椿はその後ろ姿を見つめながら、さっき唇が触れた場所にそっと触れる。

好きになっても、仕方ないのに…………。

⏰:08/08/10 00:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#198 [向日葵]
[第5話]

「おはよう椿」

朝食にと、部屋へ来た椿に、聖史は笑いかけた。

一方椿は、そこに聖史がいると知らなかったので、出かけた欠伸を止めた。

「お、おはようございま……。聖史さま、如何なさったんですか?」

「今日は僕が君を学校まで送ろうと思って」

昨日から椿を争う戦いは始まっているのだ。
どうやら聖史は先制攻撃を仕掛けてきたらしい。

しかし、椿の頭は要の事で一杯だった。

それはきっと、遠慮がちに触れた彼の唇のせいだろう。

⏰:08/08/10 01:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#199 [向日葵]
「椿、早く座りなよ」

「あ、ハイ……」

席に座り、椿は聖史と一緒に朝食を取り始めた。

―――――――――…………

「椿っ!聖史兄ちゃん帰って来たって!?」

学校に着くと、美嘉が椿に言った。

「ハイ、昨日から……」

「ひっさしぶりじゃぁん!美嘉も会いたい!!今日会いに行っちゃダメ!?」

「いいえ、いいですよ」

「聖史さんって?」

聖史を知らない越はまったく話についていけない。

⏰:08/08/10 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#200 [向日葵]
なので美嘉が越の方を向いて説明しだす。

「椿のお兄ちゃんみたいなので、財閥の跡取りなんだけど、めちゃくちゃ優しくていい人なんだ!美嘉にも優しくしてくれて、まさに理想の旦那さまって感じ!」

“旦那さま”というワードに、椿は密かにビクリとしていた。

今日も要はきっと来るだろう。

昨日の、あの要の悲しそうな顔……。
あんな顔にさせたのは自分だ。
……けれど、椿にはあの「ユイコ」という呟きがどうしても気になり、要に悪い事をしたと思う一方、要を責めている自分がどこかにいた。

「そういえば椿、アイツこの頃大人しく感じるけど、何もされてない!?」

⏰:08/08/10 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#201 [向日葵]
そう言われて、ポンと昨日頬にキスされたのを思い出した椿は、ほのかに顔を桃色に変えた。

それにショックを受けた美嘉は、逆に青い顔をした。

「ア、アイツ……っ!美嘉の椿にぃぃぃっ!!」

「ち、違います……っ!えと、そんな、美嘉ちゃんが思ってるような事は……っ」

「じゃあ、どうしたの?」

今度は越が訊いてきた。

椿は昨日触れられた場所に指先を触れながら、更に顔を赤くさせた。

「ほ……頬に……キ、キ、キスをされまして……」

⏰:08/08/10 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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