ギンリョウソウ
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#177 [向日葵]
また熱が上がり出したのかと心配になった椿は要の額に手を当てようとした。
その時、要の呟きが聞こえた。

「ゆ……いこ……」

「え……」

ユイコ?

額に触れようとしていた手を、静かに引っ込める。

ユイコじゃない。
要さま、私は、椿です……っ。

そう思いながら椿は口唇を噛んだ。

するとタイミング良く、要が目を開く。

「椿……?帰るのか……?」

⏰:08/08/04 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#178 [向日葵]
今の要から見る椿はぼんやりとしか見えない。
しかし、椿から送られてくる雰囲気に異変を感じた。

「椿……どうしたんだ……?」

椿は何も言わず、頭を下げると、足早に要の部屋を出て行った。

ドアを閉める瞬間、彼がもう1度椿の名を呼ぶのが聞こえたが、それを遮るかのように椿はドアを閉めた。

…………危ない……。
もう少しで本気にしてしまいそうだった。

彼の心に、自分がいる訳がない。
最近の優しさだって、彼の本質的なものであっても、恋から生じる気持ちではないだろう。

⏰:08/08/04 02:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#179 [向日葵]
それに彼はこの世界でのし上がる為に色々なものを捨て、色々なものを利用する人だ。

好きな人がいても、その気持ちを捨てざるを得ない事があっただろう。
それがもしかしたら、彼が呟いた「ユイコ」なのかもしれない。

未だ忘れられず、彼の心にいるのは椿ではないのだ。

この頃、優しくされてばかりだから、勘違いを起こしそうになった。
反省しなくちゃ……。

そう思ってても、胸に突き抜けた痛みは、簡単に病むことはなかった。

ズキズキズキズキ……。
要を思えば思うほど、何故かその痛みは大きくなるのであった。

⏰:08/08/04 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#180 [向日葵]
――――――――……

それから、椿は要を避けはじめた。

要もちょうど仕事が重なったのか、椿宅には来ない日が続いた。

それでも、1日1回は必ずメールや電話が来た。
でも椿は、電話には出なかった。
電話に出ないと次はメールが来て、必ず文面に「なんで電話にでないの?」と不機嫌な文が綴られていた。

椿はその事には触れず、「今日もお疲れさまでした。ゆっくり休んで下さい」としか送らなかった。

許そうとしていた、椿の要に対する心の領域侵入は、また椿によって拒まれ始めた。

⏰:08/08/04 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#181 [向日葵]
あれから1週間が経とうとしていた。

要にはこの1週間、やっばり会わなかった。
聞くところによると、現在フランスで開かれる小さなファッションショーの為に服のデザインをあれこれ考えているらしい。

どこか胸が重い椿は、うつむきながら玄関に入る。

「ただいま帰り……」

「椿」

穏やかな声だった。
ハッとして顔を上げた椿は、目を見開く。

「聖史……さま……」

そう呼ばれる人物は、穏やかな笑みを口元にたたえたまま椿に近づく。

⏰:08/08/05 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#182 [向日葵]
すらりした身長に細身の体格。
スーツが体にそって、よく似合う。

目は細めだが、それがまた彼の色気を醸し出している。
黒い長めの髪はサラサラだ。

聖史は椿に手を伸ばし、優しく頭を撫でた。

「久しぶりだね。元気だった?」

久しぶりの聖史に、椿はじわじわと嬉しさが込み上げ、胸が重い事を吹き飛ばし、笑顔になる。

「ハイ……っ!聖史さまも、お元気そうで……っ!」

「うん。久しぶりの休暇で、こちらに帰って来たんだ」

⏰:08/08/05 02:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#183 [向日葵]
「いつまでいられるんですか?」

「そうだね……。多分2週間ほど」

「じゃあ、沢山お話が出来ますね……っ!」

満面の笑みの椿を、聖史はふわりと抱き締めた。
驚く椿。
でも突き放す事は出来なかった。
特に他意はなく、親愛の意味で抱き締められてるのならば、突き放すなんて失礼な事はしてはいけないと思ったからだ。

「何してんの」

冷ややかな声が、玄関ホールに響いた。

⏰:08/08/05 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#184 [向日葵]
びくりと震え、振り向くと、そこに立っているのは、紛れもなく要だった。

要の目は、椿から、彼女を抱き締めている聖史に向けられた。

「君は誰かな。椿は僕のなんだけど。なに勝手に抱き締めてくれちゃってんの?」

「君は確か……葵 要君……?って事は椿、婚約者候補って、まさか彼の事?」

いつまでも放さない聖史にしびれを切らした要はズカズカと歩みより、力づくで椿を放させた。

そして今度は要がギュッと抱き締める。

そうされるだけで、椿は聖史に抱き締められた時よりも胸が高鳴っているのを知らないフリした。

⏰:08/08/05 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#185 [向日葵]
「“候補”なんかじゃない!僕はれっきとした“婚約者”だ!」

それだけ言うと、要は椿を引っ張って外へ連れ出そうとした。
が、椿がそれを拒む。

「か、要さま……っ。待ってください……っ!」

「待たない。君はどうも意識が薄いらしいから思いしらすべきだと思うね。だから僕の言う事を聞いてもらう」

「で……でも……っ」

「椿は誰のものなのか分かってるのか!」

そう言われても、例え要のものであっても、要は椿のものにはならないじゃないか。

⏰:08/08/05 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#186 [向日葵]
―――――ユイコ

知らない名を……椿じゃない名を、呼んだくせに……っ。

悔しい思いとは裏腹に、椿は脱力した。

言う事を聞かなければ。
最初からそう決めていたではないか。
何も感じないフリをしよう。
ただ笑顔でいよう。
そうすれば、何も辛い事なんてない……。

「……要さまの、ものです……」

静かに笑う椿を見て、要は目を見開く。
まただ……と。
また彼女は、自分に嘘をついていると……。

⏰:08/08/05 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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