ギンリョウソウ
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#239 [向日葵]
ハッとして、携帯を慌てて閉じ、越に向き直る。
「ハ、ハイ。なんでしょう?」
「なんかぼんやりしてるから、どうしたのかなぁって思って」
「……ごめんなさい、今日はいい天気だなと思ってただけですから」
と椿は微笑む。
そこで椿は「あれ?」と思った。
笑顔が、上手く作れていない気がする。
ちらりと窓に視線を向けて、自分の顔を確かめてみる。
窓に映る自分は、いつも通り、ちゃんと笑えている。
:08/08/18 00:56
:SO906i
:☆☆☆
#240 [向日葵]
…………なのに、どうして……?
これは、本当に自分の顔?
窓に映る完璧な微笑みをたたえている自分の顔が、気持ち悪く感じる。
私の……私の本当の顔は、表情は、……気持ちは……どれ……?
視界が揺らぐ。
まるで蜃気楼のように。
そう思うと、冷たい床が近づいた。
視界はすでに闇の包まれた。
そして意識すら遠退く。
「きゃあっ!椿っ!」
越が悲鳴を上げる。
「大丈夫だ」と言いたいのに、口が思うように動いてくれない。
:08/08/18 01:04
:SO906i
:☆☆☆
#241 [向日葵]
[笑うな]
誰かの声が聞こえた気がした。
不思議な人。
他の誰も、父や美嘉だって、笑わせないよう強制した事はない。
なのに何故貴方だけは……。
椿はこの声が誰のものか知っているような気がした。
でも知らない気もした。
どうしてこの人に振り回されているのだろうと、自分自身不思議で仕方ない椿だ。
動じないフリは、椿の得意技だったのに、彼は容易く打ち砕く。
暗闇の中、椿の口が動く。
しかし、音にはならない。
:08/08/18 01:09
:SO906i
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#242 [向日葵]
もどかしい。
声が届くなら、どうかお願い。
あの人へ……。
椿は息を吸い込む。
要さま。
音にはならなくても、耳の奥では聞こえていた。
その不思議な空間から抜け出したくて、闇の中、目をこらして光を探す。
そして小さな光を見つける。
遠くの方に。
椿はそちらへ歩いて行く。
「――……きっ!」
誰かが、呼んでる。
行かなきゃ……心配かけてはいけない。
:08/08/18 01:14
:SO906i
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#243 [向日葵]
―――――――…………
瞼を開けようとした椿は、急な光の眩しさになかなか開くことは出来なかった。
ようやく慣れてきたと思い、うっすら開きながら誰かの声を聞く。
「椿、目が覚めた?」
意識をはっきりさせようと、声の主の分析をする。
誰か分かったと、椿の瞼が開ききるのとは同時だった。
「……聖史、さま……」
聖史は安堵の表情を浮かべ、優しく微笑むと、優しく椿の頭を撫でた。
ここは椿の部屋のベッドの上。
なかなか目を覚まさないら椿はどうやら家に運ばれたらしい。
:08/08/18 01:20
:SO906i
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#244 [向日葵]
ゆっくりと上体を起こす。
「良かった。この頃顔色悪かったから心配したんだ」
「ごめんなさい……迷惑をおかけしました……」
目を伏せると、聖史は大事そうに椿を包んだ。
「迷惑だなんて思わない。もっと僕を頼ってくれたらいいんだ」
「…………ごめんなさい」
「謝らなくていいから」
「そうじゃない」と椿は思う。
自分を起こしてくれたのは、要だと思っていたのだ。
しかし、目を覚ましてそこにいたのは聖史。
:08/08/18 01:24
:SO906i
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#245 [向日葵]
こんなに心配してくれているのに、聖史だったのかとがっかりしてしまった自分がいたから、「ごめんなさい」なのだ。
自分には、誰かを選ぶ権利なんてないのに……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
椿の部屋の前に、2つの影があった。
2つの影は、少し開かれたドアから、椿の部屋の中をじっと見ていた。
「今……行かなくてもいいの?」
美嘉は訊いた。
「やっぱり、アンタにとって椿は、ビジネスの道具?」
:08/08/18 01:28
:SO906i
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#246 [向日葵]
包帯を巻いた手で、要はギュッ握り拳を作る。
無表情ながら、寂しげな雰囲気を漂わせる彼に、美嘉は少し戸惑う。
「み、美嘉の思い違いなら訂正するなり、椿の部屋に入るなりしなさいよっ!」
要は黙ったまま部屋の中を見る。
今更ながら、椿は自分に好意を向けてくれるのか心配になっていた。
自分勝手な要だ。
優しく包みこむような存在の方が、彼女にとっていいのかもしれない。
勝ちたい。
勝ちたいけれど、それを椿は望んでいるのだろうか……。
:08/08/18 01:34
:SO906i
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#247 [向日葵]
「君がどう思おうと自由だよ。ただ……今は椿の元に行かない」
「どうして?」
「倒れた椿を混乱させたくないから」
そう言うと要は踵をかえす。
「ま、待って……っ!」
美嘉の呼びかけに、要は歩く速度を緩め、停止する。
「椿、この頃元気ないの。……分からないけど、もしかして、アンタに会いたがってる気がする……っ!」
要は美嘉に背中を向けたまま無言でいる。
美嘉の頭が混乱していた。
:08/08/18 01:38
:SO906i
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#248 [向日葵]
最低な奴を、何故自分は庇おうとしているのか。
だって椿が真剣に要を心配してるから……。
でも、今見せてる、今にも泣き出してしまいそうな要が、本当の要じゃなかったら?
でも、椿の願いは叶えてやりたいから……。
要はゆっくりと歩き出した。
「そんなのある訳ない」
きっぱりと、冷たくも感じるその言葉に、美嘉は更に言う事は出来なかった。
黙って、要が小さくなり、家から出ていくのを見ていた。
「あ……美嘉ちゃん……?」
美嘉はバッと部屋の方へ顔を向ける。
:08/08/18 01:42
:SO906i
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