ギンリョウソウ
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#366 [向日葵]
返事代わりに椿はおずおずと手に触れる。
控えめに手を握れば、要が代わりにギュッと握り返してくる。
自分より大きな掌や、長い指に、椿はドキドキした。

要の冷たい手が、心地よく感じる程、体温が上昇しているのにも気づく。

「椿が過ごしている学校の中を1度見て見たかったんだ」

少し顔を上げれば、まるで自分の母校に帰って来たかのように要は辺りを見渡していた。

「で、でも、要さまにはやっぱり質素に見えてしまうんでは……」

「確かにね。でも、アットホームな感じでいいじゃないか」

⏰:08/09/02 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#367 [向日葵]
温かい笑顔にホッとする。

要にはそうやって笑っていて欲しい。

椿は心からそう思った。

――――――――…………

「椿さまは何をお飲みになりますか?」

要宅に着いて、部屋に案内されると大久保が訊いてきた。

「仕入れたばかりの紅茶の葉があるだろう。それを出せ」

「それは要さまが飲みたいものでしょう?椿さまのお好みを訊きませんと」

まるで友人のように接する2人に、自然と笑みが溢れる。

⏰:08/09/02 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#368 [向日葵]
まるで自分とメイドの佐々木のようだと思う。
彼女は椿にとって母親のようでもあり姉のようでもある。

「私はじゃあキャンブリックティーをお願いします」

「かしこまりました」

大久保はお茶を淹れに部屋を出ていった。
そして改めて要の部屋の中を見れば、色々な資料の山で一杯だった。

「あ、あの……本当にお忙しくなかったのでしょうか?」

「忙しくないと言ったら嘘になるけど今日の用事は全て済ませたから」

要はスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。
そんな姿にもドキドキする自分がなんだか信じられなくて、椿は要が脱ぎ捨てた上着を拾って上着をかける場所にかける。

⏰:08/09/02 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#369 [向日葵]
その姿を、ソファーに座っている要がジッと見つめる。

「そうしてると、本当に奥さんになったみたいだね」

「え……」

椿は動揺してその場で硬直してしまう。

「そろそろ婚約を正式にしない?それとも、まだ君は迷ってる部分がある?」

椿は答えられずにいた。
要はそれを想定していたのか、ポケットから小さな箱を出す。

「あげる。開けてみて」

椿は指先を使って開けてみた。
開けてみて彼女は驚く。

⏰:08/09/02 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#370 [向日葵]
中には小さな椿がついた指輪が入っていたからだ。

椿は要を見る。
彼は穏やかに微笑むと、その指輪を手に取った。

「つけさせてくれる?」

椿はもちろんと思った。
思った一方で、つけて帰った時の自分を想像しているもう1人の自分がいた。

帰ったら聖史がいる。

要と聖史は正式にはまだ戦っている最中なのだ。
これをつけて帰った時、椿は自分が何をされるのかと恐ろしくなった。
そして要に何を話すのかも、不安になった。

⏰:08/09/02 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#371 [向日葵]
沢山の事を思えば思う程、椿は要の訊ねに首を縦に振る事は出来なかった。

「椿……?嫌なの?」

椿はうつむいた。

要は長いため息を吐く。

「僕の自惚れじゃなかったら、君は少しでも僕に好意を抱いてくれてるんだろ?聖史さんとやらよりも僕を選んでくれるのだろう?」

これには、椿は力強く頷いた。

「じゃあ何がダメなの?」

それはあなたを傷つけてしまうかましれないから。
私が何をされるか分からない恐怖に包まれるから。

⏰:08/09/02 02:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#372 [向日葵]
「……ごめん、なさい……」

「分からない。君は僕に諦めないでほしいと言ったんだ!なのに何故婚約が出来ない!……もしかして、まだ僕の気持ちを疑ってる?」

「ちが……」

「じゃあなんで……っ!」

肩を掴み、椿を揺する。
椿はされるがままになりながら泣きそうになっていた。
聖史にされた事を告げても、要はそばにいてくれるだろうか。
夢のように、去って行ってしまわないだろうか……。

「失礼します」

お茶を持ってきた大久保が部屋に入ってくると、要は部屋を出ていった。

⏰:08/09/02 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#373 [向日葵]
部屋の隅で、椿は震える。
大久保はテーブルにお茶を乗せたトレーを置くと、椿に歩み寄り優しく語りかける。

「何かありましたか?」

椿は大久保を見る。
大久保は優しく椿を見つめる。
堪えきれなくなって、椿は涙を流し始めた。

「き、昨日、聖史さんに、無理矢理キスされました……。怖くてすごく嫌なのに、離してくれなくて……」

椿は昨日あった事を全て大久保に話した。
大久保は何も言わず、ただ黙って椿の話に耳を傾けた。

「こんな事、要さまに知られるのが恐いんです……っ。嫌われたらって……っ。こんな事する人だとは思わなかったって、ショックを与えたくないんです……」

⏰:08/09/02 02:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#374 [向日葵]
顔を覆って泣く椿を、大久保は淑女のようにソファーにエスコートする。

「だから、要さまには告げないのですね……」

「ハイ……言えませんこんな事……」

大久保は上着からハンカチを出し、椿の手に握らせた。
それに気づいた椿は、遠慮がちにハンカチで涙を拭く。

「私が口出しするのもなんですが、要さまは椿さまの事を嫌いになんかなりませんよ。大丈夫です」

口元をハンカチで押さえ、まだ潤む目で大久保を見る。
屈んで目線を合わせてくれている大久保は優しく微笑む。

⏰:08/09/03 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#375 [向日葵]
「それでも、椿さまにまだ告げる勇気がないのであれば、私はもちろん喋りません。椿さまも、勇気が出たら要さまにお話してあげてください」

最後にニコリと微笑むと、大久保はふとドアの方を気にした。

「要さまの機嫌が治ったみたいですね。こちらに向かってきます。では、私はこれで……」

ドアから出た彼は、丁度外で出くわしただろう要に一礼して行ってしまう。
代わりに要が部屋に入って来た。

椿の涙を見た要は、幾分気まずそうだった。

「送るよ。だから今日は帰ろう……」

⏰:08/09/03 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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