ギンリョウソウ
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#388 [向日葵]
聖史は静かに微笑む。
「さぁ、ただ聞いただけなのにね……」
要は首を傾げる。
「僕のキスがそんなに嫌だった?ってね……」
要は目を見開くと、テーブルを叩くようにして立ち上がった。
聖史はやはり静かに微笑むだけだ。
「お前……っ!」
「前のは刺激が強すぎたからと思って、今日は優しくしたつもりなんだけどなぁ……」
自分の唇をなぞりながら、聖史は楽しそうに呟く。
その聖史を殴りつけるよりも、要は椿の元へ急いだ。
:08/09/03 03:08
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#389 [向日葵]
:08/09/03 03:14
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#390 [向日葵]
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椿は庭の阿舎(アズマヤ)にいた。
柱に寄りかかるようにしてしゃがみ込んでいる。
膝を抱え、その膝に顔を埋めるようにして、荒くなる息を沈めようと頑張っていた。
椿は限界だった。
足枷をつけられて自由を奪われているような気持ちでいた。
好きでもない人と何度も唇を重ね、好きな人には傷つける態度で接するしか出来ない自分にも苛立っていた。
いっその事……消えてしまいたい……。
どう頑張ったって自分は母のようになれないのだと思ってしまえばそれも許せない事実だった。
:08/09/04 02:17
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#391 [向日葵]
誰の傷を癒す事も出来ない。
傷つけてしまうだけの自分。
足を引っ張ってしまうだけの自分。
こんな役立たずな自分なんて、要に好きでいてもらう資格はない……。
顔をあげて、袖でもう1度口を拭く。
赤くなろうが、痛くなろうがどうでもいい。
ただあの瞬間の出来事、感触。
全てを無かった事にしてしまいたい……っ。
椿はひたすら口を拭く。
しかしその手は止められた。
手首を掴む手に、椿はビクリと肩を震わして小さく「ひ……っ」と悲鳴を漏らす。
:08/09/04 02:21
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#392 [向日葵]
「僕だよ椿」
要の声だった。
もう暗くなってしまった庭園には、彼の姿はあまり見えないけれど、柔らかな声音は彼のものだった。
それでも、椿の震えは治まらない。
「ご……めなさ……。ただ、寒い……だけです……」
寒さなんて感じない。
いや、感じれない。
椿の頭の中は、もう破裂寸前だった。
そんな椿の前に、要は片膝をつく。
彼女の姿は、彼女が要の姿を見えないように見えないが、何かに怯えているのだけは、掴んでいる華奢な手首から伝わってきた。
:08/09/04 02:26
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#393 [向日葵]
「ちゃんと呼吸出来てる?なんか息が荒いよ?」
「大丈……夫……です……」
「落ち着いて。大丈夫、僕はここにいるから。椿、落ち着くんだ」
促されるように、椿は落ち着こうとする。
何回も深呼吸して、荒い息を穏やかにしようとする。
要は手首から手を移動させ、椿の指先を包むようにして握る。
指先は、驚く程冷たくなっていた。
椿が段々落ち着いてきたらしい。
耳だけで聞く彼女の息遣いがゆっくりになった。
手を握っていない方の手で、そっと彼女の肩に触れれば、また大きくビクリと震えた。
:08/09/04 02:31
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#394 [向日葵]
彼女が何に怯えているのかは要には分からない。
だがとりあえず、聖史から聞いた事を話す。
「あの人から聞いたよ。椿……君、あの人とキスしたんだってね」
椿は息を吸って止まる。
夢の中の要が目の奥に映し出される。
我慢出来なくて、椿は声を押し殺して涙を流す。
「椿……」
「違うんです……っ、私、すご、く嫌で、逃げたくても逃げれなくて……っ」
望んだんじゃない。
好きな訳でもない。
:08/09/04 02:36
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#395 [向日葵]
いやらしい女だなんて思わないで。
嫌いにならないで。
「私はしたくてしたんじゃないんですっ!私はそんな事したくなかったっ!そんな……要さまを裏切るような事……っ」
椿は声を荒げて要に訴える。
それに要は驚いた。
椿の本気の否定。
どんな言葉を受けても、笑顔で堪え、全て受け入れていたあの椿が、自分の過ちを全て否定した。
思いをどうにか聞き入れて欲しくて、声をあげてしまった椿はもう声を押し殺して泣く事が出来なくなった。
嗚咽を漏らし、鼻をすする。
そんな椿の両手を、優しく、しかし強く、要は握りしめ、自分の胸元に持っていく。
:08/09/04 02:43
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#396 [向日葵]
「椿、大丈夫だよ……。僕は君を責めたりしない」
椿がこちらを見つめるのが分かる。
多分そこにあるだろうと微かな光に見える椿の目をまっすぐ見つめ、要は続ける。
「僕はちゃんと分かってるから。君がそういう子じゃないって知ってるから。……だから、幻滅なんてしない。嫌いになんか、ならないよ」
要は握っている椿の手に力が入るのを感じた。
椿は目をギュッと瞑ってうつむいた。
「信じれない?それじゃ言うよ。僕は君が好きだ」
椿の手が、ピクリと固まる。
彼女は少し身じろぎする。
:08/09/04 02:48
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#397 [向日葵]
「椿が好きだよ。信じてくれないなら信じてくれるまで何度でも言う。好きだから、嫌いになんかならないから。ずっと、そばにいるから……」
椿の中に棲んでいた悪夢の塊が、次々に流れ去っていく。
嘘なんて感じない彼の言葉に、椿は自分から要の胸に飛び込む。
急にやって来た重みに、一瞬ぐらついたが、すぐにその細い体を自分の腕で包む。
椿は腕だけで、彼が自分を好きなのが分かった気がした。
だから椿も伝えたかった。
だから思いきりその胸にしがみついた。
どれくらい時間が経っただろう。
:08/09/04 02:54
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