ギンリョウソウ
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#487 [向日葵]
「要さま……」
抱き締めたままの椿を、要は更にきつく抱き締めた。
力が出ないけれど、その腕に寄りかかり、安心する。
「良かった……早く見つけれて……」
苦しそうに言う要に、椿は心底申し訳ないと思った。
もしあのまま椿にもしもの事があったなら、1番苦しむのは要だっただろう。
「ってか、君は何をしてたんだ。危ないだろ、こんな天気にこんな場所で」
そこで椿はハッとして、要の腕から離れようとするが、要がそれを許さなかった。
:08/09/29 01:30
:SO906i
:☆☆☆
#488 [向日葵]
「なに、どうかした?」
椿の胸が不自然に高鳴る。
要に目を向ければ、真剣な顔で椿を見返してくる。
だから椿は言葉が出てこなかった。
嫌われるかもしれない。
そう思えば思うほど口も動かなくなってきて、小さくパクパクと動かす事しか出来ない。
「椿?」
要が名を呼ぶと、椿の目から涙が溢れる。
「本当に、どうしたの……?」
要は困り果て、椿を抱き締めるしか出来ない。
椿は彼の胸に顔を埋め、覚悟を決めて口を開く。
:08/10/05 00:10
:SO906i
:☆☆☆
#489 [向日葵]
「指輪……」
「指輪?」
「指輪……落とし……」
それを聞いて、要は椿をゆっくりと離してから手をじっと見る。
確かに、今朝まで椿の左手にあった銀色のものが無くなっている。
要は手を無表情で見つめる。
その顔が、怒りだと受け取った椿は、草の上に両手をつき、頭を下げる。
「ごめんなさいっ……!無くすつもりなんてなくって……、もしかしたら湖の中に落としてしまったかもって思ってさっき……っ。ごめんなさいっ!あんな大切なもの、無くしてしまって……ごめんなさい……っ」
:08/10/05 00:14
:SO906i
:☆☆☆
#490 [向日葵]
要は長いこと黙っていた。
その間、雨と風と、椿は椿自身の鼓動が聞こえた。
そして微かに、要のため息が聞こえた。
「それだけ、なんだね……」
「ごめんなさい」
「本当に腹が立つよ」
一際大きく、椿の胸が高鳴る。
草の上についてる手が震え出す。
「ごめ……なさ……」
謝罪の言葉を口にしようとすると、腕を引かれて要の方へ乗り出す形になった。
要を見れば、目に怒りがこもっていた。
:08/10/05 00:19
:SO906i
:☆☆☆
#491 [向日葵]
「僕がなんで怒ってるか分かる?」
「指輪を……無くしたから……」
「違う。君が僕をまだちゃんと理解してないからだ」
椿は分からなくて首を少し傾げる。
すると要の表情がほんの少し和らいだ。
彼の手が、冷えてしまった椿の頬を包む。
「僕が大事なのは指輪でもなんでもない。君なんだ。なのに君は、命を落としてしまったかもしれない事をしたんだ」
椿は目を見開く。
「こんな事、二度としないでくれ。僕はさっき、本当に心臓が止まってしまうほど焦ったんだからね」
:08/10/05 00:26
:SO906i
:☆☆☆
#492 [向日葵]
椿は再びポロポロと涙を流す。
要は頬を緩め、親指で彼女の涙を拭ってやる。
「要さま……私でいいんですか……?」
「え?」
「私は……母のようにもなれず、要さまからもらった指輪を無くしてしまうような者です。ですが要さまは、私に沢山いろんなものを下さいます。しかし私は要さまに何1つ返せるものがありません。そんな私で……本当にいいのですか……っ?」
要は最初驚いたように椿を見ていたが、やがて穏やかに微笑むと、椿の髪をかき上げるようにして髪の奥まで指を滑らせ、そのまま引き寄せる。
:08/10/05 00:32
:SO906i
:☆☆☆
#493 [向日葵]
「椿がそばに、ずっと笑ってそばにいて、僕を好きでいてくれるだけで充分だよ。他に必要なものなんて、何もないんだ……」
それだけ。ただそれだけでいい。
それを聞いて、椿は涙を更に流す。
要の胸元のシャツを握り締めて、しがみつくようにして泣いた。
要はそんな彼女を愛おしそうに抱き締め、なだめるように頭を撫でる。
それなら何もない私にも出来ると椿は思った。
そう思った瞬間、自分がどうしようもなく要が好きだとまた自覚したら、あまい感情が涙となって溢れてきた。
「そろそろ別荘に帰ろう。風邪をひいてしまうよ」
:08/10/05 00:38
:SO906i
:☆☆☆
#494 [向日葵]
「あ、はい……、いた……っ」
どうしたのかと要が椿を見れば、治りかけていた傷が開いたのか、椿の服の腕の部分にうっすらと血が滲んでいた。
それを見て、要は下唇を噛む。
自分のせいだ……。
椿をふわりと抱き上げ、出来るだけ急ぎ足で別荘へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちょっと何事!?」
2人の姿を見るなり、美嘉は驚いた。
しかし事情を聞くよりも2人に拭くものと着替えをと、美嘉と大久保は戸惑いながらタオルを持ってきた。
:08/10/07 00:12
:SO906i
:☆☆☆
#495 [向日葵]
「私、お風呂用意してくるね」
「では私は暖炉を準備して参ります」
椿の別荘には薪で暖める古い暖炉があった。
その準備が整う間、しっかりと水気を取る。
手を使うのを少し難しそうにしている椿を見かねた要は代わりに椿の体を拭いてやる。
「椿、大丈夫?」
「あ、あの、自分で出来ます」
「たまには甘えていいんだよ。お風呂が出来たら君が先に入るといい。あがったら僕が腕の治療をしてあげるから」
こくりと頷いた椿は、ハッとして自分の手を見つめる。
:08/10/07 00:17
:SO906i
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#496 [向日葵]
無くしてしまった。
要は怒らなかったし、嫌いにもならなかった。
むしろ椿が1番大切だとまで言ってくれた。
だけど椿は、初めて好きになった人からの贈り物で、やっと気持ちを重ねた時に貰ったものだから、大切に大切にしておきたかった。
要はああ言ってくれたけれど、椿の心は、あと少し晴れなかった。
その様子に気づいた要は、頭を拭いてやってるついでに椿の目線をグイッと自分の方へ向かせた。
「気にしなくてもいい。気持ちを込めて、また指輪を君に送るから。今は自分の体を心配してくれ」
:08/10/07 00:21
:SO906i
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