ギンリョウソウ
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#610 [向日葵]
要がいる部屋にたどり着き、ノックをすれば、中から返事が帰ってきた。

「失礼します」

「ん?ああ、椿か。どうかした?」

仕事用の椅子ではなく、机に座って、何かの資料を見ていた要は、椿に気づくと彼女の元まで足を運ぶ。

「え、ええと……、要さまは、何色がお好きでしょうか……。ドレスが多すぎて、決まらないんです……」

そんな事、自分でさっさと決めろと言われてしまうだろうか?

言ってしまってから、椿は不安になった。

⏰:09/02/15 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#611 [向日葵]
「そうなの?じゃあ、僕も一緒に選ぼうか?」

ただでさえ忙しい要に、そんな事までさせてしまうのが悪い気がしてきた椿は首を横に振った。

「い、いえ、いいんです……」

何故か落ち込んだように首をうなだれる椿に困惑した要は、長く綺麗な椿の黒髪を避けて、髪とは対照的な白い頬にそっと触れる。

温かな手に、ゆっくりと顔を上げた椿を、心配そうに覗き込む。

「疲れてない?ここのところ、ずっと忙しくしてたから、ロクに休んでないんじゃないの?」

「……大丈夫です。ちょっと、戸惑ってるだけで、疲れては……」

⏰:09/02/15 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#612 [向日葵]
「疲れたなら疲れたって言って。椿が倒れる方が、僕は嫌なんだからね」

頭を優しく撫でられる。
それだけで、疲れた心が癒される。ふんわりと温かくなる。

「本当に、大丈夫です。要さまのお姿を見て、元気になりました」

不意の椿の言葉に、要は少し顔を赤くした。
照れ隠しのように、撫でていた手に力をいれて、椿の髪を乱す。

――――――――…………

ある日の午後。
式準備で忙しい要宅に、二つの影があった。

「で、美嘉たちが?」

美嘉と越だ。
大久保が、要に頼まれて呼んだのだ。

⏰:09/02/15 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#613 [向日葵]
「椿が、ドレス選びに一人で困ってるのは分かりましたけど、私達が選んじゃってもいいんですか?」

大久保の説明を聞いていた越が、質問した。

「はい。友達なら、見る目は確かだと、要さまもおっしゃっていましたから。なにより、慣れない事を、椿さま一人でなさっているので、少しでも安らげるようにという意図もおありだと思います」

ならわざわざジューンブライドにこだわるなよ、と美嘉は思ってしまったが、要が意外とロマンチックだと言う面白さの方が勝ってしまって口を閉ざした。

それにここで愚痴っているより早く椿の元へ行ってあげた方がいいと思った。

⏰:09/02/15 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#614 [向日葵]
「じゃあ大久保さん、案内お願いします」

「かしこまりました」

一礼して、大久保は歩き出した。



ちょうどドレスを着た時、部屋のドアをノックされた。
と思ったら、返事をする間もなく美嘉が部屋へ入ってきた。

「美嘉ちゃんっ!越ちゃんっ!」

「やっほー椿っ!来たよっ!」

「椿キレイ!」

少し肩を出した淡いグリーンのドレスを着ている椿は、美嘉や越にとって別世界の人に見えた。

⏰:09/02/15 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#615 [向日葵]
しかし、美嘉はもう一つの変化に気づいていた。
椿に近づき、声を落として問う。

「椿……なんか痩せてない?」

椿は目を見開く。

休日以外、毎日会ってるから小さな変化に気づかなかったが、肌を少し露出し、体のラインが分かるドレスは、その小さな変化を表すものだった。

キュッと唇をしめた椿は、ゆっくりと口を開く。

「最近、食欲があまりなくて……。でも、調子が悪い訳ではないので……っ」

じっと椿を見つめるが、彼女は柔らかく微笑むだけ。
諦めた美嘉は、数あるドレスの山に目を向けた。

⏰:09/02/22 12:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#616 [向日葵]
「さ、選びましょうかねっ」

そうやってなんともないフリをすれば、椿はホッとしたように息を吐いた。

美嘉が諦めたのは椿を困らせたくない為じゃない。
もちろん心配は心配だ。
この頃は、体の調子もよく、あまり気にせず過ごしていたが、本来はか弱い椿なのだ。
ただでさえ細い椿がまた細くなったとなれば、やはり気になってしまう。

だが、どうやったって、椿が自分の事を素直に話す相手は、もうただ一人だけなのだ。

…………という訳で。

「かぁなめぇーっ!」

⏰:09/02/22 12:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#617 [向日葵]
ノックもせず、大久保が教えてくれた要の作業部屋に、美嘉は乗り込む。

本人が駄目なら本人以上に椿の性格を分かっている要に直談判。
行動派の美嘉はそう考えた。

なんの前触れなしに乗り込んできた美嘉に、要は慣れたのか「ああ君か」と呟き、また資料に目をとおす。

「ちょっとちょっと!紙なんか読んでる場合じゃないの!」

「椿の事なら分かんないよ」

先に訊きたい事の答えを言われた美嘉は、要に向けて歩いていた足をぴたりと止めた。

「え、そうなの?」

⏰:09/02/22 12:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#618 [向日葵]
紙を机に置いた要は、ため息をついた。

「当たり前だろ。分かってるなら何かしてる」

「じゃあ、なんで何もしないの」

「美嘉も知ってるだろ?彼女は大丈夫だと言えば頑なにその意思を貫く。僕にだって出来ない事はあるんだ」

意気込んで来た美嘉は、すっかりその気合いを削がれてしまったので、お構い無しに要の机に腰かける。

「アンタなら何か知ってると思ったんだけどなぁ……」

要は瞬きを数回する。

⏰:09/02/22 12:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#619 [向日葵]
「君の方が分かるだろ?僕はそういうのも込めて君達を呼んだんだよ?」

今度は美嘉が瞬きを数回した。

なんだ、お互いがお互いそう思っていたのか。

最初は絶対こんな奴認めるかと思っていたが、いつの間にか椿の事に関しては頼りにしてる自分に、美嘉は少しおかしくてクスクス笑った。

「要、頼むから、あの子大切にしてやってね……」

間があって、静かだが、力強い返事が返ってきた。

「もちろん」

――――――――…………

⏰:09/02/22 12:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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