愛の在り処
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#101 [果樹]
顎に手を当てて暫く考え込む慶の横顔は、何だか様になっていてやけに人目を引いた。

「じゃあ・・・モア!」

「モア?」

「そう。モア」

笑いながら言う慶のそのの笑顔はまるであの子猫のように可愛く見えた。

「変わった名前だね」

「だめ・・・?」

⏰:08/09/09 17:20 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#102 [果樹]
私の言葉を否定的に取ったのか、慶はとても不安そうに眉根を下げて聞いてきた。

「いいと思うよ。可愛い」

そう言うと慶の顔がパッと明るくなった。

私は動物みたいだなぁなんて思いながら、猫砂を手に取った。

⏰:08/09/14 22:54 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#103 [果樹]
――――――――――・・・・

「ありがとう。助かった」

家の前に着いた私は慶から猫砂と猫用トイレを受取りお礼を言った。

慶はホームセンターから家まで、ずっと猫砂と猫用トイレを持っていてくれた。

「あの・・・さ。言いにくいんだけど」

⏰:08/09/14 22:54 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#104 [果樹]
私がマンションに入ろうと背中を向けると後ろから慶が話しかけてきた。

何かと思って振り返ると申し訳無さそうにしている慶がいた。

私は首を傾げる。

「今度あの子猫見せて貰ってもいい・・かな?」

「・・・いいよ」

⏰:08/09/14 22:55 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#105 [果樹]
私の言葉に、慶は目を見開いてからへらっと柔らかい笑みを溢した。

――――――――――・・・・

「ただいまー」

玄関を開けて家に入ると子猫がタッタッとこちらに向かって走ってきた。

足下でミャーミャーと子猫が何かを訴えるように鳴く。

⏰:08/09/20 09:41 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#106 [果樹]
「ちょっと待ってね」

私は、子猫を踏まないように気を付けながらリビングに行って、猫のトイレを用意した。

「はい。出来たよ」

猫砂を入れた猫用トイレに子猫を入れるとどこで覚えたのか、そのまま用を足した。

なんとも気持ち良さそうで満足気な顔だ。

⏰:08/09/20 09:43 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#107 [果樹]
「えらいえらい」

優しく子猫の頭を撫でてから私は、ソファに座る。

すると子猫もそれを追うようにソファによじ登って来て、ちょこんと私の膝の上にその小さい体を丸める。

その無邪気さに思わず口元が緩んで笑みが溢れる。

「お前の名前が決まったよ」

⏰:08/10/05 12:31 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#108 [果樹]
子猫の両脇に手を入れて抱き上げ、ゴロゴロと喉を鳴らす子猫に微笑みかける。

「モアだって。いい名前付けてもらったね」

その日は、モアと一緒に暖かい布団にくるまって眠りについた。

――――――――――・・・・

ミャーミャー

⏰:08/10/05 12:36 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#109 [果樹]
よろしければ感想ください!!

果樹の感想板.゚
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3647/

⏰:08/10/05 12:37 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#110 [果樹]
「わかったわかった。今あげるから待ってて」

私は足元で物欲しそうに鳴くモアに話しかけながら、手早く缶詰の中身を皿に盛り付ける。

モアが来てからの一週間は、ほとんど記憶がない。

慣れない一人と一匹暮らしに加えて、手のかかるモアのおかげで一週間はまるで嵐の様に過ぎていった。

⏰:08/10/14 10:48 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#111 [果樹]
「やばっ遅刻する!」

時計を見ると8時15分。

ホームルームが始まるまでにあと25分しかない。

「じゃあねモア。いってきまーす」

私は急いでテーブルにあった鞄を持ち、モアの頭を一撫でして家を出た。

――――・・

「間に合った・・・」

⏰:08/10/14 10:48 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#112 [果樹]
椅子を引き、うなだれるように私は席についた。

ホームルームが始まるまでの暫しの休息だ。

「まーなちゃーんおっはよー!」

軽快な声が聞こえて振り向けば、やっばり声同様に金髪頭の軽い奴がたっていた。

「・・・おはよ」

「暗いよ〜もっと元気よくさっ!ね?」

⏰:08/10/14 11:04 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#113 [果樹]
朝から煩い奴・・・。

私の机の周りで煩いくらいに騒ぐこの男は、佐々木逞(ささきたくま)。

一週間前にうちのクラス転校してきた奴で、転校初日から何故か私に付きまとっている。

「・・・佐々木くん」

「佐々木ってなんて堅苦しい呼び方じゃなくて逞でいいよ。まなちゃん!」

⏰:08/10/14 11:05 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#114 [果樹]
逞のこの軽いノリが私をイラつかせるのだ。

「じゃあ逞。あのね・・・煩い」

私はにっこりと最上級の笑顔で逞に文句を言う。

そして私はそのまま机に突っ伏した。

それでも逞は相変わらずで、「まなちゃんのいけず〜」とかほざいていたが、あえて放っておいた。

⏰:08/10/21 09:56 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#115 [我輩は匿名である]
おもろいな

更新待っとるし

⏰:08/10/21 16:26 📱:SH903i 🆔:jDCAaFqs


#116 [果樹]
匿名さん
ありがとうございます!
話がまとまり次第更新します☆

⏰:08/10/26 08:25 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#117 [果樹]
「席につけー。ホームルームやるぞー」

丁度いいタイミングで、先生が教室に入ってきたので逞は渋々自分の席に戻って行った。


「えー今日は大学の方から教育実習生がきてるから紹介するぞ」

間伸びした声の担任の衝撃発言。

⏰:08/10/30 02:31 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#118 [果樹]
「キャアアアァ!!」

教室中に女子の甲高い叫び声にも似た声が木霊する。

机に突っ伏していた私は、何が起きたのか分からずただただその甲高い声に驚く。

「静かにー!」


担任はもううんざりした様子で、声を張り上げる。

⏰:08/10/30 02:32 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#119 [果樹]
「今日から英語を教えてもらう一ノ瀬慶先生だ。みんな仲良くするように」


軽い睡魔に襲われていた私は、教育実習生の名前を聞いて思わず椅子から立ち上がる。


「ん?何だ?どーかしたのか武藤」

音に反応した担任が首を傾げてこちらを見る。

⏰:08/10/30 02:33 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#120 [果樹]
「へ?あ・・・いえ何でもないです」

私は、ドクドク鳴る心臓を抑えながら静かに腰を下ろす。

その間も私は教育実習生から目がそらせないでいた。


あの目、あの髪、あの声。
間違いない。

⏰:08/10/30 02:34 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#121 [果樹]
――――・・

「先生!一ノ瀬先生!」

「はい?」

私が呼ぶと一ノ瀬慶は首を傾げて振り向いた。


「えっと・・・A組の?」

「武藤愛実です」

⏰:08/10/30 02:35 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#122 [果樹]
私が名前を名乗ると一ノ瀬慶はふわりと優しい顔をする。

「じゃあ武藤さん。ちょっとお手伝いしてもらってもいいですか?」

「へ?あの・・・」

「早く早く。授業に遅れちゃう」

⏰:08/10/30 02:37 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#123 [果樹]
一旦キリます
果樹の感想板.゚
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⏰:08/10/30 05:08 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#124 [果樹]
私は一ノ瀬慶のペースに乗せられたまま英語科準備室に連れていかれた。

――――・・・

「これを運べばいいんですか?」

私は目の前にある数十冊のノートの指していう。

⏰:08/11/04 04:31 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#125 [果樹]
「うん。ちょっと重いかもしれないけどお願いします」

「わかりました」
とだけ言って英語科準備室を出ようとしたら後ろから名前を呼ばれた

なんだろう?

と思い振り向いて首を傾げると一ノ瀬慶は優しく柔らかい笑顔を見せた。

⏰:08/11/04 04:31 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#126 [果樹]
「モアは元気ですか?」

急にモアの名前を出されて少しびっくりしたが、覚えていてくれたことに私は嬉しさを覚えた。

「うん。元気。食べ過ぎっていうくらい食べてるからね」

「そっか。よかった」

⏰:08/11/04 04:32 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#127 [果樹]
ほっとしたような優しい笑みで言う一ノ瀬慶。

「名前・・・気に入った。ありがとう」

私がいい忘れていたお礼をすると一ノ瀬慶は満面の笑みで微笑んだ。

――――・・・

「慶ちゃんおはよー」

⏰:08/11/04 04:33 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#128 [果樹]
「おはようございます」

「ねー慶ちゃんうちらとお喋りしよー」

「まだやることが残ってますから」

一ノ瀬慶がうちの学校に来てからというもの一ノ瀬慶を呼ぶ女子たちの甘ったるい声が嫌でも耳に入る。

⏰:08/11/04 04:33 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#129 [果樹]
あの顔と少し無邪気なところが女子たちの乙女心を掴んだのだろう。

“慶ちゃん”という愛称までつけられて毎日のように一ノ瀬慶には女子軍団が張り付いている。

「イッチーすんごい人気だなー。ねっまなちゃん」

⏰:08/11/04 04:34 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#130 [果樹]
私の側に来て廊下でちやほやされている一ノ瀬慶を見ながら逞が話しかけてきた。

「逞・・・顔近い」

「ありゃ?照れてんの?可愛いー!!」

私の顔との距離がわずか5センチという近さにいる逞に表情を変えずに言うと逞が嬉しそうに笑えない冗談を言ってきた。

⏰:08/11/04 04:34 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#131 [果樹]
「まなちゃん顔怖いってー」

「うるさい」

逞のヘラヘラした笑いに嫌気がさす。

「武藤さん。ちょっといいですか?」

「え?はいっ」

⏰:08/11/04 04:35 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#132 [果樹]
いきなり名前を呼ばれて私は立ち上がる。

見ると一ノ瀬慶がドアの近くでおいでおいでをしている。

「まなちゃんもイッチー信者?」

とアホなことを言う逞を放って私は一ノ瀬の元に行った。

⏰:08/11/04 04:35 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#133 [果樹]
――――・・・

「ついてきてください」

と言われて着いた先は英語科準備室。

またお手伝い?
と思い眉間に皺がよる。

「ちょっと待っててください」

⏰:08/11/04 04:36 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#134 [果樹]
そう言って一ノ瀬慶は一人でなにやら机周りをゴソゴソと探り始めた。

「あった!はいあげます」

そういって手渡されたビニール袋の中には、ねずみのオモチャや猫じゃらしみたいなものが見えた。

なにこれ?
と顔で表す私。

⏰:08/11/04 04:36 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#135 [果樹]
それを察知したのか一ノ瀬慶が言葉を続ける。

「モアのオモチャですよ。ペットグッズを見ていたらモアのことを思い出してつい買ってしまいました」

照れたように一ノ瀬慶が笑う。

⏰:08/11/04 04:37 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#136 [果樹]
それにしてもこんなにたくさん。

自分の猫でもないのに・・・。

「気に入りませんか?」

「ううん。ありがとう」

私はモアの遊び道具が入ったビニール袋を抱える。

⏰:08/11/05 16:54 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#137 [果樹]
それを見た一ノ瀬慶は照れているのか嬉しいのか頭をかきながら笑った。


「それをみている間モアのこと考えていたらモアに会いたくなりましたよ」

そんなに昔のことでもないのに懐かしそうに一ノ瀬慶が言う。

⏰:08/11/05 16:55 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#138 [果樹]
だからだろうか?
あんな言葉がポロリと出てしまったのは。


「会いに来る?」

「いいんですか?!」

すごい食い付きに思わず笑いが溢れる。

⏰:08/11/05 16:55 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#139 [果樹]
「フフッ・・いいよ」

年上なはずの一ノ瀬慶は無邪気すぎて年上には見えなかった。

――――・・・

学校を一緒に出るのはまずいからと電話番号を交換して私は家で待機になった。

⏰:08/11/05 16:56 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#140 [果樹]
モアはさっきから一ノ瀬慶に買ってもらったオモチャに夢中になっている。

「楽しい?モア」

声をかけるがコロコロ転がるボールに夢中になって一向に側に来ない。

諦めて私はソファに横になる。

⏰:08/11/05 16:57 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#141 [果樹]
突然ピルルル―・・とテーブルの上で鳴る携帯の音で飛び起きる。

時計を見ると6時を回っていた。

いつの間にか眠ってしまったのか・・・。

私は相変わらず鳴っている携帯に手を伸ばしそれを耳に当てる。

⏰:08/11/11 06:06 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#142 [果樹]
「はい」

『もしもし?一ノ瀬ですけど・・・武藤さんですか?』

まるで家の電話にかけてきたような応答に少し笑ってしまう。

「はい。そうです」

『えっとマンションの前に着いたのですがどうやって行けば・・・』

⏰:08/11/11 06:06 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#143 [果樹]
「オートロックなんで迎えにいきます」

それだけ言って私は電話を切り玄関へと急いだ。

――――・・・

マンションの正面玄関を開けてすぐのところに一ノ瀬慶はいた。

「すみません。わざわざ」

⏰:08/11/11 06:07 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#144 [果樹]
そう言いながら私が押さえていた玄関の扉を一ノ瀬慶が何気無く押さえてくれた。

こうゆうので女子は惚れるのか・・・とどこか他人事の私はそのまま一ノ瀬慶を部屋まで案内する。

「はい。どうぞ」

「お邪魔します・・・」

⏰:08/11/11 06:07 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#145 [果樹]
玄関の扉を開けて一ノ瀬慶を家の中に招き入れる。

「あっモアー!!」

靴を脱いでリビングまで招き入れると一ノ瀬は直ぐ様モアに飛び付く。

ビクッとしたモアは逃げようとしたが結局一ノ瀬慶の腕の中に収められグリグリされている。

⏰:08/11/11 06:08 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#146 [果樹]
「相変わらず可愛いなぁ。ちょっと大きくなったか?」

いやいやそんなに変わらないよお兄さんと心の中でツッコミをいれる。

「そんなにグリグリしたらモアがはげちゃいます」

「あっごめん!」

⏰:08/11/13 15:11 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#147 [果樹]
冗談で行ったつもりだったが本気にしたらしい一ノ瀬慶はパッとモアから手を離す。

「冗談ですよ。先生コーヒーと紅茶どちらにしますか?」

私はキッチンに入ってキッチンから一ノ瀬慶に問掛ける。

「コーヒーで。後その先生っていうのやめよ?」

⏰:08/11/13 15:12 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#148 [果樹]
私の方を向きながら一ノ瀬慶が苦笑いで言う。

「じゃあなんて呼べば?」

「慶でいいよ」

「わかった」

そう返事をすると慶は笑ってまたモアと遊び始めた。

「はい」

⏰:08/11/13 15:14 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#149 [果樹]
コトリとテーブルの上にコーヒーが入ったマグカップを置く。

「ありがとう」

慶は私が座っているソファの隣に座る。

「そういえば俺普通に家に上がっちゃったけど親御さん大丈夫?」

いつのまにか丁寧口調じゃなくなった慶は、心配そうに聞いてきた。

⏰:08/11/16 16:51 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#150 [果樹]
「大丈夫だよ。あたし一人暮らしだから」

「そっか・・」

詳しいことを聞かれると思ったがそうではなかったので少し驚く。

「その話し方の方がいい」

「え?」

私の言葉に慶は首を傾げる。

⏰:08/11/16 16:52 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#151 [果樹]
「学校で使ってる丁寧口調だとこっちが疲れる」

「あれじゃなきゃいろいろ面倒くさいんだよ」

私の言葉に慶は困った顔で答える。
そのまま私が何も言わないと慶はふぅと軽く息をはく。

「わかった。武藤さんの前では丁寧口調はやめるよ」

⏰:08/11/16 16:52 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#152 [果樹]
「武藤さんじゃなくて愛実でいい」

「はい」

私の言葉に慶はまるで参りましたとでもいうように膝に手を置いて頭を下げる。

「ふふっ」

私はそんな姿に笑いが溢れ慶もつられて笑いだす。

⏰:08/11/16 16:54 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#153 [果樹]
――――・・・

「今日はありがとう」

正面玄関まで送って行くと慶に笑顔でお礼を言われた。

「約束だったから」

「え?」

「また会わせるって約束だったから」

⏰:08/11/16 16:56 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#154 [果樹]
そう。約束だった。

慶に二度目にあった時。
またモアに会いたいって慶が言った時、私はいいよと言った。

私は約束を果たしただけのこと。

それでも慶は「ありがとう」と言って帰って行った。

⏰:08/11/16 16:57 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#155 [果樹]
――――・・・

それから慶はちょくちょく家に遊びに来るようになった。

ある日、私は前から疑問に思っていたことを慶に聞いてみた。

「ねぇ、どうしてそんなに猫が好きなのに飼えないの?」

すると慶は少し悲しそうな顔をしながら答えた。

⏰:08/11/17 13:30 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#156 [果樹]
「俺の弟が昔猫に引っ掛かれて以来猫が怖くて触れないんだよ。だから俺がどんなに好きでも飼えないんだ」

「そう・・だったんだ・・。猫恐怖症治るといいね」

そう言うと慶は笑って「ありがとう」と言った。

なんであんな優しい笑顔ができるのだろうと慶を見てると不思議になる。

⏰:08/11/17 13:30 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#157 [果樹]
心が優しい人は笑顔も優しくなる。

いつかどこかで誰かが行っていた。
慶を見ているとそれが本当な気がする。

あたしにはあんな温かい優しい笑顔はできない。

――――・・・

「まーなちゃんっ」

学校に来るといつものように逞が近付いてきた。

⏰:08/11/17 13:31 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#158 [果樹]
「うるさい逞」

「まだ何にも言ってないよ!?」

一喝すると逞は悲しそうな顔をする。
なんでこうも顔で気持ちが表せるのか不思議でしょうがない。

「そんなことより俺昨日見ちゃったんだ」

「へぇーよかったね」

⏰:08/11/17 13:32 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#159 [果樹]
逞がうざいくらい楽しそうに言うのを私は軽くあしらう。

「だから最後まで聞いてって」

またしょぼんとなる逞。

「まなちゃんイッチーと付き合ってんの?」

「は?」

唐突にそんなおかしなことを言われて私は思わず反応してしまう。

⏰:08/11/17 13:33 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#160 [果樹]
「だって昨日まなちゃんの家から出てくるイッチーみちゃったんだもん」

しれっと言うものだから私は慌てて、逞を教室から引きずり出す。

「ちょっ逞こっち来て!」

――――・・・

「その話誰にも言ってないよね!?」

⏰:08/11/18 06:33 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#161 [果樹]
階段脇まで連れてきた逞に詰め寄る。

「うん」

「誰にも言わないで!」

「言わないよ?」

けろっとした顔で逞が言うものだから呆気にとられてしまう。

「ぜ、絶対に?」

⏰:08/11/18 06:34 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#162 [果樹]
「誓います」

少し不安気に聞くと逞は珍しく真面目な顔で答えた。

「俺はただ真実が知りたいの。まなちゃんはイッチーと付き合ってんの?」

「・・付き合ってない」

「そっか!」

⏰:08/11/18 06:35 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#163 [果樹]
ニカッと笑うと逞は教室の方へ戻っていった。

「はぁぁ」

私は頭を抱えて階段に座り込んだ。

付き合っているわけではないがさすがに知れたのはまずい。

逞本当に言わないかな・・?

⏰:08/11/18 06:35 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#164 [果樹]
――――・・・

教室に行くと見せかけて俺は全く別の場所に来ていた。

「おしっ!」

ある部屋のドアの前で俺は意気込みいきおいよくドアを開ける。

ガラガラッ

「失礼しまーす。一ノ瀬先生いますか?」

⏰:08/11/19 07:46 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#165 [果樹]
「はい?何ですか?」

入り口で大声で叫ぶと奥の方からイッチーが顔を覗かせた。

俺はそのままイッチーの側まで行く。

「ちょっと相談したいことがあるんすけどいいですか?」

「はい」

俺はイッチーを廊下まで連れ出す。

⏰:08/11/19 07:47 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#166 [果樹]
「相談ていうのは何ですか?」

イッチーの言葉を合図に俺はキッとイッチーを睨みつける。

「もうこれ以上まなちゃんに近付くな」

イッチーは少しの沈黙の後、間の抜けた声を出す。

「えーと・・まなちゃんとは・・?」

⏰:08/11/19 07:47 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#167 [果樹]
俺はその言葉にイラッとしてつい声を荒げる。

「武藤愛実!家に行ったり。あんた仮にも教師だろ?教師が生徒誘惑してんじゃねぇ。言いたいことはそんだけだ」

それだけ言って俺はイッチーをもう一睨みしてからその場を去る。

⏰:08/11/19 07:48 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#168 [果樹]
――――・・・

「あれ・・・?」

教室に行くと逞がいなかった。


不思議に思いながらも私は席に座る。

そわそわしながらも待っているとチャイムが鳴るギリギリで逞は教室に入ってきた。

⏰:08/11/19 07:49 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#169 [果樹]
逞が席につく前何故かバチンとウインクされた。

意味がわからない。

私は不安なままその日一日を過ごすこととなった。

――――・・・

今日も慶は来るんだろうか?

でももう少し用心しないと・・・。

⏰:08/11/19 07:49 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#170 [果樹]
まさか見られてるなんて思わなかったし、しかも逞。

本当に最悪だ。

ガチャリと玄関の鍵を開け私は暗い気分のまま中に入る。

「ただいまー・・・」

ニャーン

私が帰って来たのに気付いたモアが一目散にすっとんできた。

⏰:08/11/20 13:51 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#171 [果樹]
私はモアを抱き上げて部屋に向かう。

「お父さんお母さんただいま」

写真の中で笑う父と母にいつものを言って、着替えて部屋を出る。

キッチンに入り冷蔵庫から夕飯の食材を取り出す。

最近は慶が夕食も食べて行くため私は二人分の夕飯を用意する。

⏰:08/11/20 13:52 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#172 [果樹]
トントントン
カシャカシャ
ジュウゥ・・・

夕飯の準備をしながらたまに携帯を覗くが慶からの連絡はない。

もう6時を回っているのに・・・。

――――・・・

「はぁ」

テーブルの上に並んだ料理を見ながら私は溜め息をつく。

⏰:08/11/20 13:52 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#173 [果樹]
時間は夜の9時。

結局慶は来なかった。

何やってるんだろう私。
馬鹿みたい。

私は冷えきった料理をタッパーに移して冷蔵庫にしまう。

ソファに寝転び片腕をだらりと垂らし指先でモアと遊ぶ。

⏰:08/11/20 13:53 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#174 [果樹]
「モアは慶が好き?」

ミャーン

モアの鳴き声はなんだか肯定しているように聞こえた。

「ふふっそっか。明日は来るといいね」

私はモアを抱き締めて眠りについた。

⏰:08/11/21 04:13 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#175 [果樹]
――――・・・

それから慶はぱったりと家にこなくなった。

学校で話しかけてもかわされ、電話をしても忙しいからと切られた。

心当たりが何もないまま1週間が過ぎ、また1週間が過ぎた。

そして慶は教育実習期間を終えて学校を去っていった。

⏰:08/11/21 04:13 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#176 [果樹]
――――・・・

家に帰った私はソファでモアを抱き締めながら話しかける。

「ごめんねモア。もう慶は来ないんだ・・」

ニャーン

「ごはん。たくさん残ってるから冷凍しなきゃね」

ンニャー

⏰:08/11/21 16:33 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#177 [果樹]
冷蔵庫には慶がいつ来てもいいようにと少し多めに作ったごはんがところ狭しと並んでいた。

「たくさん遊んで貰えてよかったね」

ニャン

「でも少し寂しくなっちゃったね・・」

私の言葉はシーンとした部屋の中で嫌になるくらい響いた。

⏰:08/11/21 16:33 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#178 [果樹]
――――・・・

最近まなちゃんの元気がない。
学校に来ても溜め息ばっか。
原因はなんとなくわかる。


「はぁ・・・」

ほらまた溜め息。

「まーなちゃんっ」

無視ですか・・・。

⏰:08/11/21 16:34 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#179 [果樹]
笑顔がみたくて笑いかけてほしくて声をかけてもまなちゃんは一回も俺に笑ってくれたことはない。

イッチーにはあんな笑顔で笑うのに・・・。

転校してきたその日に俺はまなちゃんを好きになった。

無愛想で言葉がきつくて、なのに綺麗でどこか弱そうで俺はまなちゃんに惹かれていた。

⏰:08/11/21 16:45 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#180 [果樹]
俺がぼけーっとまなちゃんを見ているとガタンとまなちゃんが席を立つ。

「あれ?どこ行くの?」

「・・・帰る」

「え!?な、なんで?」

驚いて目を丸くする俺にまなちゃんは

「つまんないから」

と言ってスタスタと教室を出ていってしまった。

⏰:08/11/21 16:46 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#181 [果樹]
俺はその後ろ姿を口を開けて見ていた。

――――・・・

私の生活は元に戻るだけ。
ただそれだけ。
慶が来る前の生活に・・・。

なのに胸にぽっかりと穴が空いたような空虚感はなんなんだろう。

⏰:08/11/22 23:59 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#182 [果樹]
ぼーっと歩いているとモアを拾った道、そして初めて慶と会った道に出た。

あの時の慶の笑顔が頭から離れない。


二度目に会ったのはその次の日。
警戒心のない少年のような無邪気な笑顔だった。


三度目は学校に教育実習生として来た慶に会った。

⏰:08/11/22 23:59 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#183 [果樹]
驚いたけど優しい笑顔は変わってなかった。


一緒にご飯を食べてモアと遊んで慶が笑っていたあの日々がなんだか懐かしくて・・・。

私は慶との思い出を振り払うように走って家に帰った。

――――・・・

慶が学校を去ってから一週間が過ぎ。
一ヶ月が過ぎ。
二ヶ月が過ぎていった。

⏰:08/11/23 00:00 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#184 [果樹]
私の生活は前に戻った。

何にも関心を持たず干渉せず、過ごしていた。


「暇だなぁ・・・」

今日は日曜日。
出掛ける場所もなく、私は家でソファに寝転びながら呟く。

洗濯も終わって掃除もしてしまいやることが無い私はただぼーっと天井を見つめた。

⏰:08/11/23 00:00 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#185 [果樹]
ピーンポーン

そんな時、部屋の中に人が来たことを告げるチャイムが鳴り響いた。

私はむくっと起き上がりインターホンの受話器を取る。

「はい」

『あの・・・武藤さんですか?』

私は受話器から聞こえた声に驚いて受話器を落としそうになった。

⏰:08/11/23 00:02 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#186 [果樹]
うそ・・・でしょ。

『あの・・武藤さん?』

返事をしない私を不思議に思ってか受話器からは、しきりに私を呼ぶ声が聞こえる。

私はガチャンッと受話器をインターホンに戻し、玄関に走った。

――――・・・

エレベーターを待っている時間も惜しくて私は下に行くボタンを何度も押した。

⏰:08/11/23 00:03 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#187 [果樹]
早くっ早く・・・っ

――――・・・

ガチャとマンションの正面玄関を開けるとそこには私の求めていた人・・・慶がいた。

正面玄関を開けるボタンキーの前で何度も通じることのない部屋の番号を押していた。

「あ・・・」

私に気付くと気まずそうに目線を下に向ける。

⏰:08/11/27 04:09 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#188 [果樹]
私はその態度が頭にきて慶に詰め寄った。

「なんで・・っ。何で今まで来なかったの?学校では避けるし電話はすぐ切るし。今更になって何で・・」

「すみません・・」

慶の胸ぐらを掴み揺さぶる私に慶は謝る。

「すみませんじゃない!学校はさっさと辞めて大学に帰るし。あんたの為に作ったご飯は無駄になっちゃうしモアは寂しがるし。今頃になっていきなり何よ・・!」

⏰:08/11/27 04:11 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#189 [果樹]
一気に巻くし立てたせいで私は息が荒くなる。

「あの・・怒るのは最もなんだけどとりあえず場所変えない?」

「え?!」

慶の言葉で周りを見て私は硬直する。
ここはマンションの真ん前。
目の前には多くの通行人。

⏰:08/11/27 04:11 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#190 [果樹]
公道に面するこのマンションの前であんな大声を張り上げたものだから私達はいつのまにか注目の的となっていた。

流石にこの場での言い争いはまずいと判断した私は慶を部屋にあげることにした。

――――・・・

「はいどーぞ」

コトンとコーヒーが入ったマグカップを置くと慶がペコっと頭をさげる。

⏰:08/11/27 04:12 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#191 [果樹]
長らく放置して本当にすみませんでした
実は愛の在り処を諸事情で打ち切りにしたいと思います(>_<)
というか新しく改訂版として書き直したいんです!!
愛の在り処を読んで下さっていた皆様には大変申し訳ないです
話を少し変えて再び愛の在り処を書くつもりなのでその時、もしお付き合いいただけるのであればまた読んで下さいm(__)m
とりあえずこのスレは削除依頼出しておきます。

⏰:08/12/19 07:00 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#192 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age

⏰:22/10/08 20:22 📱:Android 🆔:xK0uSzd2


#193 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑a

⏰:22/10/08 21:12 📱:Android 🆔:xK0uSzd2


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