月の裏側

「やだ。眠りたくない…寝ちゃうと…また…ヨースケの夢見ちゃうよ」

子供みたいに泣いている。

もう自分をコントロールできていない。

百合が苦しんでいた。

「見ない。ずっと俺が手ぇ握っててやるから。俺と美優の夢を見ろ」

食欲も酒欲もなくなっていた。

今は百合を落ち着かせてあげたい欲が俺を支配している。

一緒に寝室まで行き、ヒックヒックと泣きじゃくる百合をベットの中で抱きしめてやった。

「もう泣くな。美優が起きるだろ？」

「…うん」

俺の胸の中で小さく縮こまる百合。

「…ごめんね、ミナト」

「もういいから。百合が好きなのは俺だろ？」

「うん。ミナトが１番だから」

「あれ？パパは２番目に好きで美優が１番って、可愛い娘が言ってたけど？」

「…バレたか」

やっと百合が笑った。

小さな声で笑ってた。

よかった。

「ま、いっか。美優の次に好きでいてくれるなら」

「…１番の中の２番目だから」

「意味わかんねーぞ」

百合が笑ってくれるなら何だってできる。

だからもう泣かないでくれ。

泣き顔なんて見たくないから。

正直、かなりショックだった。

ヨースケのことで百合が悩んでたなんて。

しかも今更。

それほど百合とヨースケは凄い恋愛してきたのかな。

ふとした瞬間、昔の恋人を思い出す。

悪い事ではないけど、ヤキモチ妬いてしまう。

明日、また百合を笑わせてあげよう。

休みだから、どこかに出掛けよう。

百合の闇は俺が晴らしてあげよう。

そう決めながら、百合を抱きしめて眠りについた。

アンカーありがとうございます。

翌朝は空腹で目が覚めた。

寒い寒い朝だった。

「ん～…」

俺の腕の中では美優がまだ眠っている。

あれ？

美優が？

夕べのことを思い出す。

違う。

美優じゃない。

俺の腕の中で眠っていたのは、百合だ。

美優を起こさないように寝室から抜け出した。

百合がいない。

時刻は朝の７時前。

玄関を見ると百合の靴がない。

ゴミ出しにでも行ったのか？

ソファーに座り、しばらく待った。