月の裏側
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#301 [我輩は匿名である]
「二人揃って暴力主義かよ、んっとにもー。百合のほうが痛いし」

「CDまた今度持ってくから、今日は帰って」

「あー、はいはい」

ヨースケはめんどくさそうに頭を縦に振り、帰って行った。

⏰:08/09/05 13:56 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#302 [我輩は匿名である]
ヨースケは帰って行き、俺は部屋に戻った。

「…百合」

真っ白い背中を丸め、俯いている。

俺は、そっと上着をかけた。

「寒いだろ?服、着なよ。な?」

「…ミナト…ごめん」

⏰:08/09/05 13:57 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#303 [我輩は匿名である]
百合は声を枯らして謝っている。

「何が?」

「…全部。こんな姿で元カレの前に立った事、殴った事、泣いた事」

「気にしてないから。ビックリはしたけどね」

⏰:08/09/05 13:57 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#304 [我輩は匿名である]
「ミナトぉ」

百合は俺に抱き着いて、こう言った。

「ヨースケと友達だなんて…神様、いじわるだよ」

「そうだな」

「私、泣いちゃったけど…未練とかないからね」

「わかってるよ」

⏰:08/09/05 13:57 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#305 [我輩は匿名である]
「ヨースケは忘れたの。今はミナトだけだよ。ミナトが好き」

百合の力が強くなった。

「俺も百合だけだから。離れてくなよ?」

「ミナトこそ」

涙に濡れた唇はしょっぱくて、俺の涙まで流させる気なのかって思った。

あの時、電話に出なければこんなことにならなかった。

百合を泣かさずに済んだのに。

⏰:08/09/05 13:58 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#306 [我輩は匿名である]
百合を泣かせた元カレがヨースケだった事。

事実は変えられないのだから受け入れよう。

俺はきっとこれからもヨースケとは友達なんだろう。

ヨースケとどう接していくかは俺の心の広さ次第。

⏰:08/09/05 13:58 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#307 [我輩は匿名である]
決めた。

ヨースケとは、明日からも友達でいる。

俺も男なんだし、一発殴ったから水に流す!

百合とは、明日からも恋人。

ずっとずっと好きな人。

離れてやるもんか。

そう思いながら百合と何度もキスした。

⏰:08/09/05 13:59 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#308 [我輩は匿名である]
次の日の朝。

百合は名残惜しみながら自分の家に帰った。

「もしもし、ミナト?」

電話口のヨースケの声はいつもと変わらない

「今どこ」

「家にいる」

「行くから待ってろ」

徒歩5分圏内にあるヨースケの家に、返しそびれたCDを持って向かう。

⏰:08/09/05 14:00 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#309 [我輩は匿名である]
ヨースケの部屋に入り、腰を下ろした。

「おいおい、何で本格的にくつろいでんだよ」

「ん?だって今日ひまだしー」

「変な奴」

ヨースケの顔は腫れたりしてなかった。

いつもの顔。

なんかちょっとムカつく。

もう少し強く殴っとくんだった。

⏰:08/09/05 14:00 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#310 [我輩は匿名である]
CDをケースに直し、煙草を吸い始めたヨースケ。

「あ、俺も」

ついでに俺の火も付けてもらう。

「ミナト」

「ん?」

「何なの、これ」

⏰:08/09/05 14:01 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#311 [我輩は匿名である]
「あ?」

「昨日の今日だっつーのに、いつもと変わんねーし。新手の嫌がらせか?」

苦笑いしたヨースケ。

「別に。百合の元カレなのはウゼーけど、もう関係ないんだろ?」

「…ん」

「お前は二度と百合にちょっかい出さないって誓うか?」

「…うん、誓う誓う」

「じゃあもういい。俺らはこれからも変わらないウザイ幼なじみってやつだ」

「…あぁ」

⏰:08/09/05 14:01 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#312 [我輩は匿名である]
ヨースケは誓ったんだ。

二度と百合に手を出さないって。

だから信じた。

もう、心配なんていらない。

だから俺らはこれからも変わらず、友達であるんだ。

そう思った冬。

もうすぐクリスマスだ。

⏰:08/09/05 14:02 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#313 [我輩は匿名である]
待ちわびたクリスマス。

俺らはドライブや食事をして楽しんだ。

年が明けた1月。

冬休みが終わる前に旅行をしようと言うことで、ボードをするために北海道に行った。

楽しくて幸せで、とてもいい思い出だ。

⏰:08/09/05 14:02 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#314 [我輩は匿名である]
それからの俺たちは、喧嘩だってした。

だけどそのたび絆は深まっていた。

何も問題なんてなかった。

俺らは、問題なんてない。

そう思わずにいられない関係だった。

⏰:08/09/05 14:03 📱:PC 🆔:CbnYZWUc


#315 [オ]
頑張って下さいx!

⏰:08/09/06 22:50 📱:W43H 🆔:S0fIkIms


#316 [N]
続き読みたいです!

⏰:08/09/11 13:34 📱:W43H 🆔:TwPo2VoU


#317 [我輩は匿名である]
遅くなってすみません;

今から更新します

⏰:08/09/14 20:54 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#318 [我輩は匿名である]
20歳になった大学2年。

21、22歳と月日が過ぎ、無事に卒業もした。

俺はおきまりのコース。

両親に頼ってコネ入社し、就職した。

百合も事務職という、決して派手ではないが大手企業に就職した。

⏰:08/09/14 20:54 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#319 [我輩は匿名である]
付き合って5年目の夏に、同棲を始めた。

俺の親は、賛成も反対もしない。

好きにしろ。

そういった感じ。

⏰:08/09/14 20:55 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#320 [我輩は匿名である]
百合の親は、最初は反対したものの、俺が頭を下げに行くと快く了承してくれた。

仕事ですれ違い、会えなくなるということもなくなった俺たち。

同棲生活は楽しくて新鮮で、早く自分で稼いだ金を貯めて、百合と結婚したかった。

⏰:08/09/14 20:55 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#321 [我輩は匿名である]
付き合って6年目。

上司と同僚と一緒にキャバクラに行った事がバレて、百合を泣かした。

実家に帰る、といい玄関を飛び出したぐらいだ。

俺は細い腕を掴み、何度も謝った。

土下座もした。

仕事だから仕方ない。

そんな言葉はいいわけでしかない。

百合が嫌がっていたことをした俺が悪いんだから。

⏰:08/09/14 20:56 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#322 [我輩は匿名である]
頭を4発殴られた。

だけど、それで百合が許してくれるなら何発だって殴られてもいい。

俺は百合がいないとダメなんだ。

百合しかいないんだ。

本当にごめん。

⏰:08/09/14 20:57 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#323 [我輩は匿名である]
付き合って7年目。

俺の仕事が忙しくて旅行に行けなかった。

19歳の冬、初めてボードに行った旅行から、毎年冬にはどこかに旅行していた。

だけど、今年ばっかりは連休が取れなくて、百合は不機嫌そうだった。

お詫びに来年は海外に行く約束をした。

すると百合は簡単に許したくれた。

⏰:08/09/14 20:58 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#324 [我輩は匿名である]
だけど、その翌年、俺らは旅行に行けなくなった。

俺、百合、共に26歳。

小さな命を授かったんだ。

⏰:08/09/14 20:58 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#325 [我輩は匿名である]
「赤ちゃんできたの」

「…ブッ!…マ…ジで…すか?」

百合が照れながらそう言った時、俺は食べていたコロッケを吹き出したっけ。

嬉しくて嬉しくて、泣くのを我慢したせいで鼻の奥が痛かった。

「生んでもいいよね?」

⏰:08/09/14 21:01 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#326 [我輩は匿名である]
答えは1つしかないじゃんね。

「俺と百合の子供…」

「うん」

「産んでください。よろしくお願いします」

「はい」

百合は笑った。

もう母親の顔だった。

「百合」

「ん?あ、ご飯おかわり?」

そう言って立ち上がった百合の手を掴んで言った。

「結婚しよう」

⏰:08/09/14 21:01 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#327 [我輩は匿名である]
百合は、さっきより何倍もの可愛い笑顔で「はい」と言った。

数日後に百合の両親に、妊娠と結婚の報告に行った。

「順番が逆だ!もっと早くに籍を入れとかんから、こんなことになる!」

そう言ってお父さんに叱られた二人。

「まぁまぁいいじゃないの。私たちに孫ができるのよ?おめでたいじゃない」

お母さんは喜んでくれた

⏰:08/09/14 21:02 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#328 [我輩は匿名である]
「百合さんを幸せにします」

こんなありきたりの言葉しか言えない俺だけど、最後にはお父さんも許してくれた。

なんだかんだ言って、お父さんが1番喜んでくれていたらしい。

名前を考えたり、ベビーグッズを探したり…。

両親に愛されながら育った百合が羨ましかった

⏰:08/09/14 21:02 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#329 [我輩は匿名である]
俺の両親は、「そうか」「よかったわね、おめでとう」と軽い返事だった。

結婚や孫ができることになっても無関心なのか。

こんな両親にはなりたくない。

そう決めた。

⏰:08/09/14 21:03 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#330 [我輩は匿名である]
その翌年、元気な女の子が生まれた。

俺は泣いた。

27歳にして、周りの目も気にせずに泣いた。

百合はそんな俺を見て笑ってた。

⏰:08/09/14 21:03 📱:PC 🆔:kf/llK9E


#331 [我輩は匿名である]
画数とかバランスとか、結局は関係なく俺ら2人の名前をとって「美優」と、素晴らしい名前を付けてくれたお父さん。

お父さんも病室で孫の顔を見て泣いた。

「美優、おじいちゃんだよー。泣き虫だね」

百合はまた笑ってた。

「可愛い子だな。じいちゃんに目元が似てるなぁ!」

⏰:08/09/18 14:38 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#332 [我輩は匿名である]
お父さんは美優を抱きながら目尻を下げっぱなしていた。

小さいけれど大きな命。

その誕生によって誰もが幸せになる。

俺が生まれたとき、親父やお袋も喜んでくれたのかな。

⏰:08/09/18 14:38 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#333 [我輩は匿名である]
百合と美優が退院し、仕事から家に帰る楽しみができた。

つい数週間前までは家に帰っても百合は入院して、ひとりぼっちだった。

この年になってもひとりぼっちは寂しくて…。

だから今、家族3人で過ごしているなんて「幸せ」以上の言葉があったら教えて欲しいくらいだ。

⏰:08/09/18 14:39 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#334 [我輩は匿名である]
28歳になった。

結婚して2年だが、付き合い始めて、なんと10年がたったのだ。

美優も1歳になり、百合は専業主婦として頑張ってくれている。

守るものが2つある。

仕事は前にも増して頑張った。

⏰:08/09/18 14:39 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#335 [我輩は匿名である]
29歳。

三十路1歩手前。

このまま親子3人、のらりくらり生きていくんだと思っていた。

だけど違った。

結婚3年目の真実は、頭を抱える物だった。

⏰:08/09/18 14:40 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#336 [我輩は匿名である]
「ぱぱ〜」

「ん?」

「ままとみゆ、どっちがすき?」

仕事が休みの俺に美優は甘えてくる。

「どっちも好き」

「えぇ〜。ままは、みゆが1ばんすきって、いってたよ」

「パパは?」

「2ばんめだって」

⏰:08/09/18 14:40 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#337 [我輩は匿名である]
「パパ、美優に負けたの?ショックー」

「キャハハハッ」

ムンクの叫びみたいな顔をしてやると美優は可愛い顔で笑った。

幸せ。

娘の笑顔見てると仕事の疲れなんて吹っ飛ぶな。

⏰:08/09/18 14:40 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#338 [我輩は匿名である]
「おなかすいたー」

「ん、パパも。ママまだ起きて来ないね」

時刻は朝の9時。

いつも8時には朝食を済ませる3人なのに、今日は百合がまだ起きて来ない。

⏰:08/09/18 14:41 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#339 [我輩は匿名である]
「パパが起こしてくるから美優テレビ見ててお利口にしててねー」

「はーい」

寝室に行き、布団に丸まっている百合に声をかけた。

「百合」

「…んんっ」

⏰:08/09/18 14:41 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#340 [我輩は匿名である]
「どうしたの?熱でもある?」

「…んー。何時?」

「9時。美優お腹すいたって」

百合はバッと起き上がったが、どこか力の入っていない顔。

「ごめんね。今から急いで作るよ」

「体調悪いなら無理しなくていいよ?」

「平気。寝坊してごめんね」

⏰:08/09/18 14:42 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#341 [我輩は匿名である]
百合は覚束ない足取りでリビングに向かう。

俺も後ろから追い掛けると美優が嬉しそうに百合に縋り付いている最中だった。

「おはよう!」

「おはよ。お腹空いた?ごめんね、すぐ作るから待ってて」

「うんっ」

⏰:08/09/18 14:42 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#342 [我輩は匿名である]
百合は美優に笑ってみせたけど、いつもと違う。

いつもの笑顔じゃない。

やっぱり体調が悪いのか。

「手伝うよ」

「あ、ありがと」

作り笑顔を俺に見せた百合の隣で、俺は朝食の準備を手伝った。

⏰:08/09/18 14:42 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#343 [我輩は匿名である]
その日からやっぱり百合は少し変だった。

ボーッとしたり、寝坊したり、無口だったり。

どうしたの?と聞いても、何もないよ、と笑顔で答えていた。

何もないわけない。

俺にはわかる。

何か悩み事があるってこと。

⏰:08/09/18 14:46 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#344 [我輩は匿名である]
ある日、突然言われたりもした。

「別れようなんて言ったら、どうする?」

そんな事、普通聞いてくるか?

何を悩んでいるのかわからないけど、そんな質問されるのが辛かった。

「別れない」

⏰:08/09/18 14:46 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#345 [我輩は匿名である]
真剣に聞いてくるから真剣に言い返すと百合は泣きそうな顔に変化した。

「…ごめん。変な事聞いたね。別に意味ないから」

そう言って百合は寝室に行ってしまった。

⏰:08/09/18 14:47 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#346 [我輩は匿名である]
百合が何を悩んでいるのか。

俺といる事が百合にとって苦痛になってきたのだろうか?

夫婦としてのマンネリなんてないし、互いの意見をぶつけ合う喧嘩もする。

冷め切った家庭ではない。

一体、何がどうなっているのか。

⏰:08/09/18 14:47 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#347 [我輩は匿名である]
早く解決させたいのに、仕事が邪魔をして上手くいかなかった。

いや、解決させるのが恐かったのかもしれない。

仕事を理由に、逃げていたのかも。

そんな風に百合の闇から逃げていると、いつの間にかクリスマスにの季節だった。

⏰:08/09/18 14:48 📱:PC 🆔:D6L4N7VY


#348 [.]
>>338-500

⏰:08/09/18 16:55 📱:D904i 🆔:☆☆☆


#349 [我輩は匿名である]
アンカーありがとうございます

⏰:08/09/19 12:08 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#350 [我輩は匿名である]
俺が仕事から帰り、翌日が休みという幸せな夜。

「ただいまー」

「おかえり」

いつも通りの百合の出迎え。

「美優は?」

「もう寝たよ」

「そっか」

「先にお風呂でしょ?」

「おう」

⏰:08/09/19 12:09 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#351 [我輩は匿名である]
温かな風呂に行ってから、お待ちかねの夜ご飯。

お酒なんか飲みながら…なんて楽しみを抱きながら、さっさと風呂を済ませた。

⏰:08/09/19 12:09 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#352 [我輩は匿名である]
風呂から上がり、お楽しみの晩酌を期待してリビングに行くと、その時点で気が付いた。

今日、百合の悩みがわかる。

百合の闇が晴れるのかもしれない、って…。

⏰:08/09/19 12:10 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#353 [我輩は匿名である]
百合の表情でわかるんだ。

何か決心した顔。

「百合、お風呂出たよ」

「…うん。ご飯の前にさ、話したい事あるから座ってくれる?」

首にタオルを巻き、俺は百合の正面の椅子に座った。

⏰:08/09/19 12:10 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#354 [我輩は匿名である]
何を話されるのか。

やっと聞けるんだという安心と、俺らが壊れてしまうんじゃないかという不安。

冷静を装うのに一杯一杯だった。

「どした?」

俺は煙草に火をつけた。

…マズい。

煙草をうまいと感じないほど俺は緊張していた。

⏰:08/09/19 12:11 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#355 [我輩は匿名である]
「夢を…見るの」

「え?」

夢?

百合は家族3人が映されている写真立てを見ながら言った。

「あんな可愛い娘がいて、家族を愛してくれる旦那がいるのに…私、最低だよ」

「…」

何も言えない。

俺は黙って煙草を吸いながら話を聞いた。

⏰:08/09/19 12:11 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#356 [我輩は匿名である]
「いつも、私が追い掛けてるの。泣きながら…待ってよって言いながら追い掛けてるの。なのにどんどん行っちゃうんだ」

百合がおかしくなったのかと思った。

話が統一されていない。

だけど俺は必死に理解しようとした。

⏰:08/09/19 12:12 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#357 [我輩は匿名である]
「追い掛けても追い掛けても届かなくって…私はつまづいて転んじゃうの。すると、やっと立ち止まってくれる。それで振り返って…百合はもういらないから、って言うんだー」

今、百合が泣きそうになりながら話してくれているのは…夢の話だ。

⏰:08/09/19 12:12 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#358 [我輩は匿名である]
百合がいつも見るという夢は、誰かを追い掛けているのに捕まえられない。

百合が転ぶと誰かは立ち止まって、やっと振り返ってくれる。

そしてその誰かは言う。

百合はもういらない、と。

⏰:08/09/19 12:12 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#359 [我輩は匿名である]
「そっか、私いらないんだって自覚して…大泣きするの。苦しくてさ、そこで目が覚めるの。枕びしょびしょになるくらい泣いててさ。夢と現実の境目わかんなくて、ボーッとしてると、隣で寝てる美優とミナトが気持ちよさそうに眠る寝息とか聞こえるの。二人見てると余計に泣けちゃってさ。」

⏰:08/09/19 12:13 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#360 [我輩は匿名である]
百合はそう言って泣き始めた。

もう、バカな俺でもそろそろわかってきた。

「自分が情けない。こんな素敵な家族がいるのに…あんな夢見るなんてさ。ごめんね…ごめんなさい」

「…百合」

俺は煙草の火を灰皿で消した。

⏰:08/09/19 12:13 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#361 [我輩は匿名である]
百合は潤んだ目で俺を見た。

「その追い掛けても追い付かない相手のこと…まだ好きなのか?」

百合は首を横にふった。

「まさか。好きな訳ないじゃん。もう全然会ってないんだから」

⏰:08/09/19 12:14 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#362 [我輩は匿名である]
「でも夢に出てくるって事は…自然に百合はあいつを求めてんじゃねーの?」

「あんな奴…もう忘れたよ。忘れたのに…なんでよ…もうやだ。今更何なんだろ…夢にまで出てきてさ…」

百合は涙をぽろぽろ零して泣いた

⏰:08/09/19 12:14 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#363 [我輩は匿名である]
互いに名前は出さないけど、誰の話をしてるかはわかるだろ?

名前を出すと百合が苦しむから。

「ちょうど今みたいな季節じゃね?クリスマス前でさ、あいついきなり俺の部屋入って来たんだよな」

⏰:08/09/19 12:14 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#364 [我輩は匿名である]
何年前になるだろうか。

百合は懐かしみながら頷いていた。

「あの時の百合カッコよかったよー。俺、それまで不安だったんだ」

今更ながらの俺の本音。

⏰:08/09/19 12:15 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#365 [我輩は匿名である]
「百合を泣かすなんて、どんな男だよってムカついてた反面…俺から離れて行くかもしんねーって、いつもビビってたんだ」

また煙草に手が伸びた。

落ち着け、俺。

美優を妊娠して、産まれてからは、百合と美優の前でほとんど吸わなかったのに…やべぇな。

我慢できねぇ。

つい、煙草に頼ってしまう。

⏰:08/09/19 12:15 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#366 [我輩は匿名である]
「でも百合はあいつにガツンと言ってくれてさぁ。未練はないってちゃんと言ってくれて…あぁ、大丈夫なんだなってやっと安心できた」

スーっと俺の息を吐く音がリビング中に響き渡った。

⏰:08/09/19 12:16 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#367 [我輩は匿名である]
「あれから、あいつとは何度か遊んだりもした。百合の話をあえて出したりしてさ。でも最近じゃなかなか会えないな。百合がこんな事言い出すまで、思い出してやるのも忘れてたわ」

俺は笑った。

だけど百合はクスリとも笑わずに涙を流しながら俺を見ている。

⏰:08/09/19 12:16 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#368 [我輩は匿名である]
「あの日から安心して百合と付き合ってきて、結婚して子供もできて…ずーっと幸せに過ごせるんだと思ってた。だけどここ最近、また不安でさ」

あの日と同じ。

またあいつに泣かされる百合。

幼なじみのあいつを憎んでしまう。

⏰:08/09/19 12:16 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#369 [我輩は匿名である]
「やーっと理由わかった。悩んでたんだな、あいつの事で」

「未練はないの。なのに夢に出てくるなんて…自分が許せないよ。ミナトと美優にもどんな態度でいればいいのかわかんない」

⏰:08/09/19 12:17 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#370 [我輩は匿名である]
煙草を消して、テーブルの上に右の手のひらを開いて置いた。

「百合ちゃん」

百合は俺の手に自分の右手を乗せた。

俺はギュッと握ってやる。

⏰:08/09/19 12:17 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#371 [我輩は匿名である]
「いつもごめんね。家事と育児任せっきりで。きっと疲れてんだよ。俺は、百合があいつの夢を見たからって百合を責めたりしない。ちゃんと話してくれて嬉しいし」

本当は強がりなんだ。

責めたりなんかしないけど…本音としては腹が立ってた。

何であいつの夢なんか、って。

⏰:08/09/19 12:18 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#372 [我輩は匿名である]
「会いたいなら、会いなよ。俺は大丈夫だから。怒ったりしないもん。百合も…ヨースケのことも」

百合の手は小さくて冷たい。

その名前を出した途端、急に力強く俺の手を握り返して来た。

同時に大粒の涙が溢れ出した。

⏰:08/09/19 12:18 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#373 [我輩は匿名である]
「…会わないし、会う必要もない」

百合は首を横にふる。

「でもさ…」

「ミナトは優しすぎるよ。もっと叱っていいから、私のこと。嫁失格だって怒鳴っていいよ」

そんなこと、できるわけない。

百合を泣かせたくないし傷つけたくないんだから。

⏰:08/09/19 12:18 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#374 [我輩は匿名である]
俺も首を横にふる。

「最低な女だって叱りなよ。ミナトはいつも私に叱られてばかりじゃん。たまには…私の事叱ってよ…最低だよ私…」

もう限界だったと思う。

百合が壊れてきた。

「叱らないし叱りたくもない。もう今日は寝よう」

⏰:08/09/19 12:19 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#375 [我輩は匿名である]
「やだ。眠りたくない…寝ちゃうと…また…ヨースケの夢見ちゃうよ」

子供みたいに泣いている。

もう自分をコントロールできていない。

百合が苦しんでいた。

「見ない。ずっと俺が手ぇ握っててやるから。俺と美優の夢を見ろ」

⏰:08/09/19 12:19 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#376 [我輩は匿名である]
食欲も酒欲もなくなっていた。

今は百合を落ち着かせてあげたい欲が俺を支配している。

一緒に寝室まで行き、ヒックヒックと泣きじゃくる百合をベットの中で抱きしめてやった。

⏰:08/09/19 12:19 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#377 [我輩は匿名である]
「もう泣くな。美優が起きるだろ?」

「…うん」

俺の胸の中で小さく縮こまる百合。

「…ごめんね、ミナト」

「もういいから。百合が好きなのは俺だろ?」

「うん。ミナトが1番だから」

「あれ?パパは2番目に好きで美優が1番って、可愛い娘が言ってたけど?」

⏰:08/09/19 12:20 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#378 [我輩は匿名である]
「…バレたか」

やっと百合が笑った。

小さな声で笑ってた。

よかった。

「ま、いっか。美優の次に好きでいてくれるなら」

「…1番の中の2番目だから」

「意味わかんねーぞ」

百合が笑ってくれるなら何だってできる。

だからもう泣かないでくれ。

泣き顔なんて見たくないから。

⏰:08/09/19 12:20 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#379 [我輩は匿名である]
正直、かなりショックだった。

ヨースケのことで百合が悩んでたなんて。

しかも今更。

それほど百合とヨースケは凄い恋愛してきたのかな。

ふとした瞬間、昔の恋人を思い出す。

悪い事ではないけど、ヤキモチ妬いてしまう。

⏰:08/09/19 12:20 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#380 [我輩は匿名である]
明日、また百合を笑わせてあげよう。

休みだから、どこかに出掛けよう。

百合の闇は俺が晴らしてあげよう。

そう決めながら、百合を抱きしめて眠りについた。

⏰:08/09/19 12:21 📱:PC 🆔:./.2cs2Y


#381 [カラス]
>>1-100
>>100-200
>>200-300
>>300-400
>>400-500
>>500-600
>>600-700
>>700-800
>>800-900
>>900-1000

⏰:08/09/19 13:03 📱:D905i 🆔:0nSaL5is


#382 [我輩は匿名である]
アンカーありがとうございます。

⏰:08/09/22 18:31 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#383 [我輩は匿名である]
翌朝は空腹で目が覚めた。

寒い寒い朝だった。

「ん〜…」

俺の腕の中では美優がまだ眠っている。

あれ?

美優が?

夕べのことを思い出す。

違う。

美優じゃない。

俺の腕の中で眠っていたのは、百合だ。

⏰:08/09/22 18:32 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#384 [我輩は匿名である]
美優を起こさないように寝室から抜け出した。

百合がいない。

時刻は朝の7時前。

玄関を見ると百合の靴がない。

ゴミ出しにでも行ったのか?

ソファーに座り、しばらく待った。

⏰:08/09/22 18:32 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#385 [我輩は匿名である]
だけどなかなか帰ってこない。

おかしい。

嫌な予感がする。

空腹どころではない。

俺は充電が済んだ携帯電話を手に取った。

すると未読メール1件が表示されていた。

送り主は…百合だ。

⏰:08/09/22 18:32 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#386 [我輩は匿名である]
【しばらく頭冷やすね。心配しないで。ごめんなさい】

百合を…探さなきゃ。

だけど焦ってしまい、頭が上手く働かない。

まず何をすればいい?

とにかく…顔を洗おう。

⏰:08/09/22 18:33 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#387 [我輩は匿名である]
洗面所には俺、百合、美優の歯ブラシが並んでいる。

百合の歯ブラシもいつも通り。

俺と美優の歯ブラシは寄り添いながら並んでいるのに対して、百合の歯ブラシはそっぽ向いていた。

今の俺への当て付けのような並び。

泣きそうだった。

⏰:08/09/22 18:34 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#388 [我輩は匿名である]
百合が俺に話をしてくれたことによって余計に苦しめさせたのか。

叱らなかったのがいけなかったのか。

後悔ばかりが浮かんでくる。

顔を洗い、歯も磨き、服も着替えた。

そこでちょうど美優が起きてきた。

⏰:08/09/22 18:34 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#389 [我輩は匿名である]
「おはよ美優」

「おはよう…ままは?」

「ちょっとお出かけしてる。美優はパパとお出かけしよっか」

「うん、いくー」

「じゃあ支度しよ」

美優を着替えさせ、歯磨きをさせて用意完了。

⏰:08/09/22 18:35 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#390 [我輩は匿名である]
いつも綺麗に結ってもらっている髪の毛も今日は降ろしたまま。

美優の髪も結ったことがないんだ。

「ぱぱ、おなかすいたー」

「パパも。コンビニでパン買おうね」

「まま、あさごはん、つくってくれなかったのぉ?」

「うん。時間がなかったんだって」

「ふーん」

⏰:08/09/22 18:35 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#391 [我輩は匿名である]
美優は、車の中で遊ぶ人形を取ってくると言い、子供部屋に走っていった。

その間、俺は懐かしい人に電話をかけた。

「…はーい」

「ごめん、寝てた?」

「夜勤明けで今から寝るとこー。どしたの、こんな時間に」

「ごめんな。あのさ…百合行ってない?」

⏰:08/09/22 18:36 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#392 [我輩は匿名である]
夜勤明けだと言ってるのに、百合がいるわけない。

だけど、百合が家事や育児でわからないことがあると1番に駆け寄っていたのがこいつ、真子だった。

「来てないけど…何かあったの?」

真子の声色が変わった。

「いなくなったんだ。百合から何か相談とかされてなかった?」

「うそ…何も聞いてないけど。喧嘩でもした?」

⏰:08/09/22 18:43 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#393 [我輩は匿名である]
「いや、喧嘩じゃなくて。百合、ヨースケのことで悩んでたみたいだから」

「ヨースケって…なんでそんな懐かしい名前出てくるわけ?」

「知るか!俺だって知りてーよ!どこ行ったんだよ、百合…」

苛立ちから真子を責めてしまった

真子に怒鳴ったって百合が見つかるってわけじゃねーのに。

⏰:08/09/22 18:44 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#394 [我輩は匿名である]
「とにかく落ち着きな。美優は?」

「家にいる。一人で出てったんだ」

「もしかしたらフラっと買い物から帰ってく‥」

「んなわけねーだろ!こんな時間に。メールだって来たんだよ。心配するな、ごめん…って。何だよコレ!意味わかんねーし」

溜め息が零れる

⏰:08/09/22 18:45 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#395 [我輩は匿名である]
俺とは違い、真子は冷静だった

「実家に連絡は?」

「…まだ」

「じゃあ実家かもしんない。実家じゃなかったら…ヨースケのとこ」

真子の遠慮しがちな最後の言葉を聞いて、頭が痛くなった。

「とりあえず探してみる。悪かったな、寝てるのに」

「ううん…ミナト、大丈夫?」

「もう崩壊寸前」

⏰:08/09/22 18:46 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#396 [我輩は匿名である]
「がんばりな。ミナトには美優がいるんだから。逃げ出しちゃだめだよ」

「あぁ…」

「なんかあったらすぐ電話して。私も行くから」

「わかった。じゃあ」

電話を切って、後ろを振り向くと、怯えた顔の美優がいた。

⏰:08/09/22 18:46 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#397 [我輩は匿名である]
「美優、支度できた?」

「ぱぱ、こわいよ」

「え?」

「なにおこってんの?」

「別に何も」

真子に怒鳴ってしまった時、きっと美優は聞いていたんだ。

普段の俺は、美優に怒鳴ったこともなければ大声を出すこともない。

⏰:08/09/22 18:47 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#398 [我輩は匿名である]
だからさっきの俺が別人のように怖かったのだろう。

「美優、ごめん。びっくりしちゃったな」

しゃがんで美優に目線の高さに合わせた

「みゆにも、おっきなこえ、だすの?」

「出さないよ。美優にもママにも出さない。ごめんね」

「ほんと?」

「ほんと。もう支度できた?行ける?」

「うん」

「じゃあ行こっか」

⏰:08/09/22 18:47 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#399 [我輩は匿名である]
美優にも許してもらい、俺らは家を出た。

コンビニでパンとジュースを買い、簡単な朝ご飯を済ませた。

車内は陽気な子供のうた。

美優は楽しそうに歌っている。

向かうはヨースケの家。

何も連絡を入れなかった。

⏰:08/09/22 18:48 📱:PC 🆔:NBujLwf2


#400 [我輩は匿名である]
もし百合がいて、俺らが迎えに来ることを知ったら…きっと逃げられる。

何も責めてないんだから、帰って来て欲しい。

30分後にはヨースケの家に着いた。

駐車場に車を止め、俺はヨースケの携帯に電話をかけた。

⏰:08/09/22 19:20 📱:PC 🆔:NBujLwf2


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