鬼が哭くよるに
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#30 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

「さあ、お宮、髪をといてやろうぞ」

そう言うと、秋吉は、懐(ふところ)から赤い漆塗りの櫛を取り出した。

それは、桐箱を拾った時、お宮の傍らに置かれていた櫛であった。

⏰:08/08/14 12:37 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#31 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

今にも砕け散らんとする天鵞絨(ビロード)であるかのように、ひどく優しくお宮を抱えあげた。

お宮の長く伸びた髪が秋吉の顔を簾(すだれ)のように覆った。

⏰:08/08/14 12:59 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#32 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

秋吉の緊迫を孕んだ手を伝い、重点の定まらない、まるで膓(はらわた)のつまった生き物のような重さを感じる。

秋吉は思わず息を呑んだ。

⏰:08/08/14 13:47 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#33 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

「お宮、お主の美しさときたら、もはや感嘆の溜息しか出ぬわ」

秋吉の瞳に、人形の美しい顔が映った。

⏰:08/08/14 14:15 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#34 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

睫毛は黒炭のように黒ぐろしく艶めき、こちらを見る瞳は底無しの湖のような深く、透き通った輝きがある。

肌は雪の如しである。

なんとまあ、この世にこのような艶かしさを兼ね備えた人形があろうとは思わなんだ。

⏰:08/08/14 14:16 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#35 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

誰がお宮を造り、お宮を捨てたのかは知らぬ。

しかし、その因果にわしは感謝するしかあるまい。

秋吉は思った。

⏰:08/08/14 14:19 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#36 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

「そうだ、お宮、今日はお主に伝えたいことがあるのだ」

お宮を抱き寄せて膝に乗せ、秋吉は言った。

「お主と出会ってからというもの、仕事に精が出てな。幾らか金に余裕が出来たゆえ、住(すまい)を都に移すことにしたのだ。どうだ? 嬉しかろう?」

「…………」

⏰:08/08/14 20:47 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#37 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

秋吉は内気な男だった。
それゆえに仕事場では仕事をこなす力量はあるが同僚に愛想の悪い者として避けずまれてきた。

⏰:08/08/14 21:40 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#38 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

しかし、お宮を拾ってからというもの、お宮に幾度となく自身を持たれよと励まされ続けた。

結果、お宮の必死の呼び掛けが実を結び、秋吉は「他人を労れる類い稀なる優男」に見事変貌したのである。

⏰:08/08/14 21:42 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


#39 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

「京の都には腕利きの人形職人がおるでな。お主の手入れもより一層と磨きがかかろうぞ」

それから間もなくして、秋吉はお宮と共に京の都へと住を移した。

⏰:08/08/14 21:46 📱:L704i 🆔:djKd2ZK.


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