【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#380 [◆ZPM9124utk]
…―今更あの人が
いる訳ないよね、うん。
だって一年も前の話だし…。
絢はそんなことを思いながら
大学を出て外の冷たい
風を受けコートの襟を
少し立てた。
『カランコロン』
絢は数ヶ月ぶりに聞くドアに
取り付けられたベルの音色
を少し懐かしく思った。
「いらっしゃいませ…
絢ちゃん!久しぶり!!」
コーヒーを淹れていた
短髪の青年の
店員が嬉しそうに絢に
声をかけた。
:08/09/15 01:45 :F705i :☆☆☆
#381 [◆ZPM9124utk]
「久しぶり、元気してた?」
絢も微笑みながら、
店員の近くのカウンター席
に腰を下ろした。
「元気元気!あの頃は
店に慣れなかったけど、
今はこの通り副店長だよ!!」
店長は誇らしげに
制服の胸ポケットに
付けていたネームプレートを
指した。
確かに「副店長」と印刷
されている。
:08/09/15 01:47 :F705i :☆☆☆
#382 [◆ZPM9124utk]
「たった一年で!
…変わるもんなんだね。」
「うん、一年は大きいよ。
あ、絢ちゃん何頼む?」
「それじゃあ紅茶を。」
メニューも見ずに即答した
絢に副店長は頷き、
淹れたコーヒーを他の店員に
渡すと、今度は紅茶を
淹れ始めた。
「絢ちゃんは、アイツが
いなくなった、ってだけで
何にも変わらないね。」
「…アイツって、」
「峰原悠二のこと。」
:08/09/15 01:48 :F705i :☆☆☆
#383 [◆ZPM9124utk]
副店長は少し寂しそうな
表情をした。
「…一年前はよくここに
2人で来たしね。そういえば
…悠二と友達だったよね、
最近元気なの?」
絢は少しざわついている
店内の中でひっそり言った。
:08/09/15 01:49 :F705i :☆☆☆
#384 [◆ZPM9124utk]
「それが、一年前から連絡
取れなくてさ…。
他の峰原の友達も連絡
取れないって言ってて…。」
副店長は悲しげな面持ち
で言い、カウンター越しに
絢に紅茶を渡した。
「それっていつから?」
絢はとても嫌な予感がした。
興奮して少し声が大きくなる。
「12月20日、去年のちょうど
今頃だよ。あ、明日だね。」
:08/09/15 01:51 :F705i :☆☆☆
#385 [◆ZPM9124utk]
…―間違いない。
彼と別れた日だ。
絢は紅茶に手もつけず
鞄に入れていた財布から
千円札を乱暴に抜き取り、
副店長に渡した。
「え!?絢ちゃん!??」
副店長が驚いている間に
絢は鞄をつかみ、勢い良く
店を出た。
…―もしかして、
歩道橋にいるのは…
:08/09/15 01:52 :F705i :☆☆☆
#386 [◆ZPM9124utk]
絢は雑踏をかき分けて
例の歩道橋まで急いだ。
人にぶつかったって
コートがめくれたって
気にもしなかった。
ただ、絢は歩道橋にいる
女性を見ているイケメンが
誰なのか確信していた。
緑色の急な階段を
一気に駆け上がる。
男性はいた。
歩道橋の真ん中で
悲しい目で通る人々を
眺めている。
…―一年前の翌日に
この場所で別れた
元彼、悠二だ。
:08/09/15 01:53 :F705i :☆☆☆
#387 [◆ZPM9124utk]
「ゆう…」
そう言って伸びた手を
絢はふと我に返って
制した。
…―今更悠二に声
かけるものじゃ
ないかもしれない…。
まして、あんな別れ方
だったんだから…。
絢は悠二を見つめながら
制した手を強く握った。
…―でもみんな心配してた
し、私が一声かけるくらい…。
:08/09/15 01:54 :F705i :☆☆☆
#388 [◆ZPM9124utk]
絢が脳内で悶々と
悩んでいると、
歩道橋を通った子どもが一人
悠二に近づいた。
「お兄ちゃん何してるの?」
不思議そうな顔をして
その子どもは悠二に聞いた。
悠二はしゃがみ込むと、
子どもに微笑み、答えた。
「大切な人、待ってるんだ。」
「大切な人?それって
お兄ちゃんの彼女なの?」
「……たぶん。」
:08/09/15 01:55 :F705i :☆☆☆
#389 [◆ZPM9124utk]
悠二は少し困ったように
言った。そんな悠二に子どもは
へんなのー、と言って、
歩道橋を駆けていった。
「…だよな。」
絢には悠二がぼそりと
つぶやいたのがわかった。
人ごみに混ざったざわめき
なんてもう聞こえなかった。
悠二にスピーカーが
ついているかのように
彼の声だけ聞こえた。
「…何もかもわかんない
なんて変だよな…。」
:08/09/15 01:56 :F705i :☆☆☆
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