【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#390 [◆ZPM9124utk]
「どういうこと?」

いつの間にか絢は
悠二の目の前に
しゃがみ込んでいた。

長い沈黙が流れた。
悠二の目はまん丸だ。

「…………え?」

悠二が絢に向かって言った
第一声はそれだった。

「………すみません、
もしかしてあなた、
立架絢さんですか?」

…―これは冗談?

絢の思考は停止する。
悠二は絢を見つめたままだ。

…―もし本当に悠二が
忘れたとしたら、彼の記憶
が丁度消えているのなら…。

⏰:08/09/15 01:57 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#391 [◆ZPM9124utk]
絢はうつむいて、
悠二を見つめた。

「すみません、違います。」

…―これはきっと
彼にとって、私にとって
一番いいのかもしれない。

悠二は、絢の答えを聞くと、
慌ててぺこりと
謝り、立ち上がった。

「そうですよね、すみません。
よくその人に
似ていたもので。」

「…いえ。それより、
さっき、何もかもわからない
って…。」

⏰:08/09/15 01:58 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#392 [◆ZPM9124utk]
絢も立ち上がって悠二
と並び、橋の下を眺める。
鞄を握り跡がついて
しまいそうなくらい
強く掴んだ。

「あ、はい。僕、丁度一年前に
事故で記憶
なくしちゃいまして、」

絢の目の前が真っ暗に
なった。

「事故っていっても
ぶつかった程度なんです
けどね…でも厄介なことに
なかなか記憶が
戻ってくれないんですよ。」

「…………。」

何も言い出せない絢を
お構いなしに悠二は
話を続ける。

⏰:08/09/15 01:59 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#393 [◆ZPM9124utk]
「親や少人数の
親しい友人に大まかな話を
聞いて大体の記憶は
取り戻したんですが、一年前
の数ヶ月のことだけ
誰に教えてもらっても
しっくり来ないんですよ。
ほら、あのパズルで形が
似てるピースが
当てはまらないみたいに。」

「…………はい。」

なんとか絢は頷いた。

「立架絢さんという女性が
僕の大切な人だった、
ということはわかるんですが。」

⏰:08/09/15 02:00 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#394 [◆ZPM9124utk]
同じく絢は頷く。

…―落ち着け私。
彼にとって私を思い出さない
方が幸せなはず。

「記憶って大きいキーワード
を思い出したらあとは
思い出せるらしいんです。
あと少しなんですよね。」

…―そのために早く
私のことを諦めせなくちゃ。

絢の呼吸が荒くなる。

「て、ごめんなさい。
見ず知らずの人にこんな
こと話してしまって…。」

悠二は慌てて絢に
謝った。

⏰:08/09/15 02:01 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#395 [◆ZPM9124utk]
「記憶をなかなか
思い出せないのは、あなたの
どこかで思い出したくない
自分がいるんじゃない?
そんな辛い過去、忘れたまま
の方がいいに決まってる!
こんな先の見えない
記憶探し、馬鹿みたい!!」

絢は悠二に言った。
胸が痛くて今にも
倒れてしまいそうだった。

⏰:08/09/15 02:02 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#396 [◆ZPM9124utk]
絢が歩道橋を引き返そう
とした時、悠二の足元に
見覚えのあるマフラーを
見つけた。

…―私が去年あげた
マフラー。

「これ、落としてる。」

乱暴にそれを悠二に
押し付けると絢は
振り向きもせずに歩道橋の
階段を駆け下りた。

⏰:08/09/15 02:03 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#397 [◆ZPM9124utk]
悠二はマフラーを
受け取りながら絢の
背中を見つめていた。

「さっきの…もしかして……。」

一人暮らししている
マンションの部屋の
鍵を開けてベッドに
倒れ込んだ絢の顔は
涙でぐちゃぐちゃだった。

「…あのマフラー、
まだ使ってた…。」

ふとさっきの情景が
絢の中で思い出された。

「悠二…。」

絢はいつの間にか
眠って夢をみていた。

一年前の話だ。

⏰:08/09/15 02:04 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#398 [◆ZPM9124utk]
絢は7年間片思いしていた
異性に男友達だった
悠二に後押しされながらも
思い切って告白した。

「ごめん、君に興味ないから。」

返ってきたのは、
期待していた言葉より
何倍も何倍も冷たい言葉。

その態度に絢が
傷つかない訳がなかった。

何ヶ月も家に引きこもった
絢を心配した悠二は
見舞いついでに絢に
声をかけた。

⏰:08/09/15 02:05 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#399 [◆ZPM9124utk]
「絢に最高の場所、
教えてやるよ。」

絢がしぶしぶ付いていくと
そこはただの歩道橋だった。

ぼやく絢に悠二は
歩道橋の上から向こうを
指差した。

「絢、ほらあれみて。」

絢の瞳に映ったのは
クリスマス期間限定で
道路の端々の木に付けられた
数え切れない程に
輝いているイルミネーション
だった。

「こんなの、知らなかった…。」

⏰:08/09/15 02:06 📱:F705i 🆔:☆☆☆


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