【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#320 [◆SjNZMOXdWE]
「おい、ひなたぁ‥お前そんなに大胆だったっけ?」

圭太郎の言葉に、俺は自分の耳を疑った。

 ひ‥

 ひ‥‥

「ひな太ぁ!!?」

からかってるとしか思えない。

何て失礼なこと言うんだコイツは!

さてはヤキモチ妬いてるな‥

「圭太郎、何言ってんだよ!ひな太なわけないだろ?ごめんね七川さん、コイツたまに変なんだ!」

⏰:08/09/14 21:30 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#321 [◆SjNZMOXdWE]
笑ってごまかそうにも俺の頭をよぎったのは、さっき呼ばれた「翔ちゃん」の一言‥


 え?


 まさか?


うそ、だって‥‥


「そう、そのまさかだよ。正真正銘、藤堂 ひなた本人だ」

踏ん反り返る圭太郎に目の前の七川さんもコクリと頷く。

⏰:08/09/14 21:30 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#322 [◆SjNZMOXdWE]
 

 は?

 えぇぇ?

有り得ないだろぉ!?

「だってひな太は男だし!一緒に木ぃ登ったし!だいたい名字が違うじゃん!アイツ藤堂!目の前にいるの七川さん!!」

「親が離婚して‥こっちに帰ってきたの」

申し訳なさそうに上目使いでそう言ったのは七川さん。

⏰:08/09/14 21:36 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#323 [◆SjNZMOXdWE]
「あはは、あ、そう‥そうなんだ‥?」

 多分俺今、涙目‥

「改めまして‥七川日向です‥ただいま、翔ちゃん」

ひな太は女で七川さん?


しかも日向って!

 なになに?

いつから間違ってたの?


.

⏰:08/09/14 21:39 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#324 [◆SjNZMOXdWE]
 

遠ざかる意識の中で、日向と圭太郎の手が俺を支えてくれるのがわかった。

いつかもこんなことあったっけ‥

あぁそうだ、あの時‥




――――――‥‥‥

それは俺達がまだ木に登ってじゃれ合っていた日のこと‥

⏰:08/09/14 21:40 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#325 [◆SjNZMOXdWE]
俺が木の枝にひっついてた何かのサナギを取ろうとして、木から落ちそうになったのを二人が支えきれずに三人一緒に落っこちて、仲良く病院送りになった日までさかのぼる。

俺だけ処置が長引き、あとの二人は待合室で俺のことを待っててくれた。

その時、まさかこんな会話がされてたなんて、当時の俺が知るはずもなく‥




「転校‥するんだ‥」

⏰:08/09/14 21:40 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#326 [◆SjNZMOXdWE]
日向のいきなりの告白にうろたえる圭太郎。

「もう会えないの?」

「わかんない‥だけど、次会う時にはちゃんと女の子らしくなってるから‥」

大きな目をさらに大きくして驚く圭太郎。

「翔ちゃんには、そのいつかまで言わないで。今はまだこのサナギにもなれてないけど‥絶対、蝶々みたいに綺麗になって‥綺麗に‥なって‥‥翔ちゃんのとこへ戻ってくるから!」

⏰:08/09/14 21:40 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#327 [◆SjNZMOXdWE]
 



‥‥‥――――――

「てな事があったわけよ!」

なんとか意識を保った俺は、引き続き昼休みの音楽準備室で昔話を聞かされた。

俺の隣にはひな太改め日向がいる‥

もちろん俺と同じくらい顔を真っ赤にして。

⏰:08/09/14 21:45 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#328 [◆SjNZMOXdWE]
「‥何て言うかその‥‥」

まごつく俺を見るに見兼ねた圭太郎が

「ま、そういう事だから!後は二人でごゆっくり!」

また意地悪そうにヒヒヒと笑って俺達を残し準備室から去って行った。

「‥ひ、日向‥?」

ここにいるのがあの、ひな太?

信じられない思いでいっぱいの俺を、日向が笑顔で包んでくれる。

⏰:08/09/14 21:46 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#329 [◆SjNZMOXdWE]
「あの時は‥おてんばだったし‥みんな私のこと男の子だって思ってたから‥でも、騙すつもりはなかったの‥ごめんなさい」

そんな事はどうでもいい!

「俺んとこに戻ってくるって‥どういう意味?」

ヤベっ、圭太郎の意地悪がうつっちゃったかな‥

「えっ」と小さく呟くと、さらに顔を赤くしてうつむく日向。

「こっこういう意味って思っても、いい?」

⏰:08/09/14 21:46 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#330 [◆SjNZMOXdWE]
そんな日向がめちゃくちゃ可愛い過ぎて、思わず日向を抱き寄せる。

コクンとわずかに首が揺れて、日向の甘い香りが俺達を包む。


人ってこんなにあったかいんだ‥

窓から漏れる光に反射して、日向の髪がキラキラ光る。

そういえば‥ひな太の髪も、柔らかかったっけ‥

だけどこんなにいい匂いはしなかったな‥

なんて、幼い頃のひな太の面影を、俺の傍らで小さくなってる日向の姿に重ねてみる。

⏰:08/09/14 21:47 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#331 [◆SjNZMOXdWE]
するとわずかに白い息を吐きながら、日向がぽつりと呟いた。

「‥翔ちゃん、知ってる?」

その声が少しかすれてて、思わず耳を傾けると同時に、日向の肩をもう一度強く引き寄せた。

「知ってる?青虫はね、空に恋い焦がれて一生懸命綺麗になるの。少しでも空に近づきたくて、羽まで伸ばして空を翔けるの‥」

俺の胸にうずくまりながら、日向が窓の外を見る。

「ねぇ翔ちゃん‥私、蝶々になれた?」

⏰:08/09/14 21:47 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#332 [◆SjNZMOXdWE]
「あぁ、俺にはもったいないくらい‥綺麗‥に‥なったよ‥」

自分で自分が恥ずかしい。


俺ってこんなセリフ言えるんだ‥

「まっまさか蝶に帰省本能があるとは知らなかったけどな!」

照れ臭いのを隠すように、わざとおどけて話してみる。

その勢いで日向の頭に俺のこめかみがコツンとぶつかる。

⏰:08/09/14 21:52 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#333 [◆SjNZMOXdWE]
「‥‥‥‥‥‥」

顔を見合わせるとお互い耳まで真っ赤っか。

俺と日向の笑い声が、甘い香りと共に準備室をいっぱいにする。

俺が空だと笑う日向。

どうせ翔けるなら青空がいい。

空にたどり着いた蝶には、一体どんなご褒美が待ってるんだろう?




「日向‥」

⏰:08/09/14 21:52 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#334 [◆SjNZMOXdWE]
きっと空だって蝶が可愛くて仕方ないから、優しく見守るだけじゃ済まないだろ。

そんなこじつけを考えながら、日向のおでこにキスをする。

顔を見合わせるとまたも笑顔がこぼれてしまう。

「こんな‥俺でいいの?」


おでこをくっつけて、日向にだけ聞こえるくらいの声で話す。

まばゆい程の甘い笑顔で頷く日向は可愛過ぎて‥‥




時が止まったんじゃないかと思えるくらい、長い長いキスを交わした。

⏰:08/09/14 21:53 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#335 [◆SjNZMOXdWE]
いつも見上げればそこにあるあの空ように‥

永遠に君を見守り続ける。


‥甘ったるいこの感覚は、さしずめ花の蜜ってとこかな‥‥?




  □■■■■■■■■   HAPPY END
  ■■■■■■■■□

⏰:08/09/14 21:53 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#336 [◆SjNZMOXdWE]
【投下終了】

青虫は空に恋をし蝶になる

>>294-335

次の方どうぞ‥

⏰:08/09/14 21:55 📱:SH706i 🆔:☆☆☆


#337 [◆8HAMY6FOAU]
今から投下します!


タイトルは「踊り狂え、愛しきピエロ」です

⏰:08/09/14 22:17 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#338 [◆8HAMY6FOAU]
俺は彼女のことをあまり理解してなかったんだと思う。

「好きな人が出来たの」

そう告げる彼女の眼は、斜め右下を向いていた。
考えもしなかった事態に頭の中が真っ白になって、沈黙のパレードが彼女と俺の間を延々行進する。
いつまで経っても俺は、言葉を返せなかった。

⏰:08/09/14 22:19 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#339 [◆8HAMY6FOAU]
 

一人暮らしのアパートに帰って彼女の言葉を思い返すと、心臓を鷲掴みにされた気分になって情けなくも涙が溢れた。
ゴミや雑誌が散らかり放題の戦場みたいな部屋、その真ん中にだらしなく敷かれた万年床の布団に座り込んで、ただただ泣いた。
四年間恋人として過ごした女(ひと)との思い出が、鳴咽を漏らし泣きじゃくる俺の脳裏に浮かび上がっては消えていく。

⏰:08/09/14 22:20 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#340 [◆8HAMY6FOAU]
 
まだ俺たちが付き合いたての頃、大学の帰り道に寄ったスーパー。
慣れた手つきで夕食の材料を選んでは黄色いかごに入れていく彼女の後ろ姿を、俺は世界で一番の幸せ者だと思いながら眺めていた。

「ねぇ、野菜炒めでいいかな?」

俺がいくら我が儘を言っても、何時間と待ち合わせに遅れても、どれだけバイトの愚痴を零しても、彼女はいつも天使みたいに優しく頷いてくれる。
かわいくて、気が利いて、頭も良くて、その上料理も出来る彼女。
この時、俺はコイツと結婚しようと心に決めたんだった。

⏰:08/09/14 22:21 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#341 [◆8HAMY6FOAU]
 

なのに、どうして俺は。


一年も経つと俺は、彼女を放置するようになっていた。
約束を破るのも、電話に出ないのも、メールを返さないのも、日常茶飯事。
しかも最低なことに、そうやって彼女を放置している間俺は幾度となく他の女たちの嬌声を浴びていた。
映画俳優として有名になるのが夢だった俺は、オーディションに落ちる度に彼女を放置し、小さな役を貰う度に彼女を求める、そんな愚行を繰り返した。
理由はわかっている。
彼女の瞳に映るには、どうしても自信が必要だったんだ。
虚勢やら見栄やらを何もかも食い尽くしてしまうような、あの透明な視線が恐かったのかもしれない。

⏰:08/09/14 22:22 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#342 [◆8HAMY6FOAU]
 
実際、彼女は俺の浮気を見抜いていた。
一度二度バレてからはそれを隠そうともしなくなっていた俺に、彼女は訊く。

「遅かったね。また女の子と一緒だったの?」

そう言われるともう、開き直るしかなかった。
自分が間違っているなんてことは俺の中でも果てしなく明白で。
ただ、彼女の前では何故か自分の非を認めることが出来なかった。

「どうしてそういうことしちゃうの? 他に好きな人が出来たんなら、正直に言うべきだよ」

⏰:08/09/14 22:22 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#343 [◆8HAMY6FOAU]
 
違う、好きなんかじゃない。
俺が好きなのはコイツだけなんだ、信じてはもらえないだろうけど。
言い訳をすると、役者仲間が女癖の悪いやつばかりなのがいけなかった、俺は流されていた。

「自分を持たなきゃダメよ。あなたには才能があるんだから」

彼女は役者としての俺の才能を、絶対的に認めてくれていた。
どんなに小さな役しか貰えなくても今まで続けて来られたのは、その事実があったからだ。
彼女の支えが無かったら、俺は諦めていただろう。
しかしそんな恩を感じながらもどうしてか素直に甘えることは出来なくて、俺はその後も数えきれないほどの禁忌を繰り返す。

⏰:08/09/14 22:24 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#344 [◆8HAMY6FOAU]
滑稽な男の、滑稽なプライドだった。

それなのに、彼女は俺を責めない。
何故そうなるのか、と控え目に訊いてくる以外は、俺の裏切り行為について一切触れなかった。
俺はその理由を、彼女が優しいからだと、俺のことが好きで仕方ないからだと思っていたけれど。
今思えば俺は、彼女のことをマリア様みたいに、或いはロボットみたいに崇めてしまっていたのかもしれない。
宇宙より広い心を持ち、何をしても傷つくことはなく、永遠に俺を好いていてくれる存在だと。
けどそんなはずないんだ。
彼女だって人間であり女性であり、同時に俺の彼女でもある。

⏰:08/09/14 22:25 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#345 [◆8HAMY6FOAU]
俺の行為に嫉妬もすれば嫌になることだってあるだろう、いや、あって当然だ。
俺はなんて馬鹿なことをしていたんだろう。

つまり、答えが出た。
俺が抱えていた一番大きな問題をたった今解き終えた。
だからだろうか、胃につっかえていた汚物を全て吐き出せたような肩の荷が降りたような不思議な安堵感を得て、俺はその時初めて雨が降り出していたことを知る。
薄い壁を隔てて耳に伝わる静かな雨音が、俺に決断させた。


俺は彼女と付き合ってちゃいけない人間だ。

⏰:08/09/14 22:26 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#346 [◆8HAMY6FOAU]
 

彼女は完璧な女性だ。
俺なんかが汚しちゃいけない、もっとお似合いのヤツがいるんだ。
そうだ、好きな人が出来たって言ってたじゃないか、そいつと幸せになってくれたら、それでいい。

⏰:08/09/14 22:27 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#347 [◆8HAMY6FOAU]
 
思い立ったらすぐに立ち上がった。
まだ顔は溢れ続ける涙でグシャグシャだが、この雨なら気にすることもない。
溜まっている洗濯物の中に混ざり込んでいた黒い上着を引っ掴んで腕を通すが、生地が絡まってなかなか通らないことにイライラする。
腕をグイグイねじ込みつつ、俺の眼は鞄を探していた。
やっと袖に腕が通るとすぐ、ちゃぶ台の下に発見した鞄を肩にかけ、ちゃぶ台の上のタバコとライターと原付の鍵を床にボトボト落としながらジーンズのポケットに突っ込む。
部屋のドアを勢いよく開けるのと同時にサンダルをつっかけてそのまま走り出す。

⏰:08/09/14 22:27 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#348 [◆8HAMY6FOAU]
 
屋根の外に出た瞬間、大粒の雨が体を打つ。空は灰色の絵の具を塗りたくったようにべったりしていて、その透明感のない雲は凄まじいほどに水滴を落とし続けていた。
雨の日は危ないからバイクに乗らないで、と彼女に言われていたが今はそれどころじゃない。
一旦ポケットに入れた鍵を再び引っ張り出しながらバイク置き場に向かって駆け抜ける。
駐輪場の粗末な屋根が見えて、俺はそのままUターンした。
やっぱり彼女との約束は守りたい。
今更だけど、俺はやっぱり彼女が好きだったんだ。裏切りたくなんか、なかったんだ。

⏰:08/09/14 22:28 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#349 [◆8HAMY6FOAU]
 

普段なら原付を飛ばして一瞬で走りぬける道を、惨めに濡れながら息を切らしてメロスの如く走る。
俺は、ひとつのことだけを考えていた。
横を走るでかいトラックが撥ねた水を被ろうと、濡れたコンクリートに滑って転ぼうと、信号無視した車に轢かれそうになろうと、俺は彼女のことだけを脳内に浮かばせていた。

――どう言えば、うまく伝わるだろう。
俺の歪んだ本音を、どんな言葉にすれば理解してもらえるだろう。

赤い光が俺を立ち止まらせる。
降り続ける雨は、だんだんと強さを増していた。
もう俺の耳には、コンクリートと水滴のぶつかる音しか聞こえない。

⏰:08/09/14 22:31 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#350 [◆8HAMY6FOAU]
 
――いや、理解してもらおうなんて俺は……。
彼女はずっと理解してくれていたのに。それを無下にしたのは俺自身なのに。

着てきた上着も、破れたジーンズもその中の下着も伸びた髪も濡れてグチョグチョだ。体に纏わりついて余計に不快感を与える。
それでも、信号が青になるとまた走り出した。

――彼女のところに行っても、会ってくれるかどうかわからない。
今までどんなひどい行為をしても、彼女は俺を突き放さなかった。待っていてくれた。
俺はそんな彼女に甘えて、欺いて、期待して、……振られたんだ。

⏰:08/09/14 22:31 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


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