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#201 [◆LOSh2yD9/c]
「ふーん、お前…いや湊君は本当面白いな」

「…何笑ってんだよ。それに「君」はいらないよ」

「…そ?」

そう言って奴は頷くと、意味深な笑みを浮かべた。

んのヤロッ!ニヤつくなあああ


…何でかって?

馬鹿にされてるみたいだから!!

コイツに言われると特になっっ

⏰:09/04/20 02:40 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#202 [◆LOSh2yD9/c]
「……雨宮川慧弥」

「え?」

「俺の名前」

「慧弥…さんね。おっけー!でも珍しい名字だな」

慧弥さんは、「さん」付けされるのは聞き慣れないから呼び捨てで良いと言っていたけど、やっぱ年上だしそれは…ねぇ?



こうして、俺たちは無事?に自己紹介が出来たのだった。

…遅すぎだっつーの!

⏰:09/04/20 02:44 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#203 [◆LOSh2yD9/c]
そしてまた沈黙が続く。

静かなこの公園には、ペンの音だけが聞こえる。

邪魔をしないように、気を散らせないように、俺は只時の流れに身を委ねた。


――暫くして


「…終了」

ふぅ、と大きく息を吐くと奴は、…もとい、慧弥さんは、俺にスケッチブックを差し出した。

「え?」

⏰:09/04/21 21:35 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#204 [◆LOSh2yD9/c]
差し出されたままにスケッチブックに手を伸ばすと、そこには完成されたモノクロの世界が広がっていた。

「うっわ…すげー……」

その絵を前に、鳥肌が立った。

絵が人をこんなに感動させることが出来るなんて知らなかった。


「…それ、気に入ったんならやるよ。いらなかったら捨てて」

「ばっ?!なっ??捨てる訳ねーだろ!額縁に入れて飾るわ!!」

「はは、そりゃどーも」

⏰:09/04/21 21:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#205 [◆LOSh2yD9/c]
慧弥さんは笑ったけど、まじでそうしようと思った。

部屋に飾ってみんなに自慢したいぐらいだ。

「つーか今日見た雑誌の絵も凄かったけど、これも同じぐらい凄すぎだし!プロになれるって絶対!!」

「…あぁ、俺「あ、ごめん電話だ」

慧弥さんが何かを言いかけたみたいだっけど、俺の携帯には"母"という文字が。

母さんは今日残業もなく、家にすぐ帰って来るそうだ。

「ごめん慧弥さん!俺帰ります!」

「…急ぎ?」

⏰:09/04/21 21:50 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#206 [◆LOSh2yD9/c]
「あ、はい!ちょっと料理を…」

「料理?」

「はい…あの、俺明日も此処に来るんで、慧弥さんも来て下さい!」

「…うん?」

「約束ですよ!」

「ああ…」

少し戸惑い気味の慧弥さんを置いて、すまんと思いつつバイクの元へ走って向かう。


母さんに少しでも楽してもらいたい…

そう思うから、俺は自宅へと急いだ。

⏰:09/04/24 04:11 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#207 [◆LOSh2yD9/c]
――次の日


学校に着くと、昨日絵画雑誌を持っていた友人が、昨日とは別の絵画雑誌を見ていた。

「はよ。今日も見てんの?」

「おう!昨日のとはまた違う本だけどな」

「ふーん。なぁ、俺にも見せてくれない?」

慧弥さんの影響もあってか、俺は絵に興味を持ち始めていた。

「何、お前興味沸いたの?!」

「うん、ちょっと気になる」

⏰:09/04/24 04:12 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#208 [◆LOSh2yD9/c]
「まじか!ならこれ貸してやるよ。俺見終わってるし」

そう言って友人は昨日の絵画雑誌を俺に渡した。

「サンキュー。お、これ昨日のか」

「やっぱお前も気に入ったの?その人の絵」

「まぁ、色んな絵も見てみたいなーと」


友人は、"そっかそっか〜"と上機嫌だ。

身近に絵が趣味な奴、いないのかな

俺も慧弥さんと出会ってなかったら、きっと興味が沸くこともなかっただろうな

⏰:09/04/24 04:14 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#209 [◆LOSh2yD9/c]
「雨宮川が気に入ったら言って。まだ家にいくつか雑誌あるから」

「…は?」


……今、コイツは何と??


「あぁ、その人雨宮川慧弥っつーの」

一瞬、俺の思考は停止した。

「………」

「どうした?」

……はは、

どうしたもこーしたもねーよ!!?

⏰:09/04/24 04:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#210 [◆LOSh2yD9/c]
雨宮川慧弥だと?

え、同姓同名ですか?

………んなワケねぇえええだろ??!


そんな珍しい名字早々いるもんじゃないし、名前まで一緒だし、やっば顔似てるし…

それに!!

思えば絵だってプロ並みに上手かった……


…いや落ち着け俺!

そんな偶然ってあるのか?

やっぱり他人の空似だろ、うん。

⏰:09/04/24 04:18 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#211 [◆LOSh2yD9/c]
「湊?」

「…え?あっ!と、兎に角、雑誌ありがとう借りてくな!」

「?ああ」

俺は動揺を何とか隠しながらその場を去った。



―――結局

その日の講義は全く集中出来なかった。

休憩時間の合間に借りた雑誌を見て、改めて俺はパニクっていたからだ。

⏰:09/04/24 04:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#212 [◆LOSh2yD9/c]
「嘘だろ…フランスで活躍中って……」

この"雨宮川慧弥"の作品が載っている最後のページに、簡単な写真付きプロフィールが紹介されていた。

その内容に俺は冷や汗が流れる。



顔も似てて

名前も同じ

所在地も同じ

絵が美味いのも同じ

既婚については書かれていなかったけど…

⏰:09/04/24 04:22 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#213 [◆LOSh2yD9/c]
最早同一人物としか思えない!

寧ろそうじゃない方がオカシイじゃねーか!!!


「…やばくないか?」

「……絶対やべーだろ?」

「やばすぎるって!!」


俺そんなすげー奴と会話してたの?!

つか、俺あの人に失礼なことばっか言ってたし思ってたよな?!

てゆーかそんな有名な人を知らないこと自体失礼じゃねーか?!

⏰:09/04/24 04:25 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#214 [◆LOSh2yD9/c]
しかも"今日公園来てくれ"とか俺命令(←違う)してなかったか?!!

あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙〜〜〜っっ!!

「マ゙ズイ゙ってえ゙え゙ぇ゙〜〜〜」


「……あのさ、お前さっきから何ブツブツ言ってんの?」

「俺もうあの人に合わせる顔がない……」

「は?」

「そうゆー訳だ!俺はもう帰る!!」

「はあ?!」

「じゃあな玲司!!」

「ちょっ…湊っ?!」

⏰:09/04/24 04:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#215 [◆LOSh2yD9/c]
俺は全力疾走した。

全力で駅に向かい、全力でチャリを漕ぎ、全力で家に帰った。

すれ違う人達はみんな怪訝な顔で俺を見ていたけど、そんなこと知ったこっちゃねぇ!!

俺は自室に着くとベッドにダイブして、乱れた息を整えるまで顔を伏せたままでいた。

「…忘れよう。そうだ、あれは夢だ……夢なんだ…」



気付くと俺は、意識を手放していた。

⏰:09/04/24 04:39 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#216 [◆LOSh2yD9/c]
……ん、

………眩しい…?


「……げっ!朝かよ?!」

俺は勢い良く起き上がった。

昨日あのまま爆睡してしまったらしい。

「……腹減った」

俺は眠たい目を擦り、リビングへ向かった。


そこには人の気配がなく、しんとしていた。

⏰:09/04/24 04:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#217 [◆LOSh2yD9/c]
テーブルを見ると、ラップがかかった皿とメモ用紙が置いてあった。

母さんは一度家に戻って来て、夕飯を作った後また仕事に行ったらしい。

そこには、"悪いけど朝は自分で作ってね"と書いてあった。


母さんが夜いないのはたまにあること。

仕方ない。

でも愛情を感じなかった時なんて一度もない。


「いただきます」

⏰:09/04/24 05:04 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#218 [◆LOSh2yD9/c]
昨日夜爆睡してて食べてなかったから、これを朝食にさせてもらった。

朝食を済まし、軽くシャワーを浴びて支度をした。

残念なことに今日も講義はあるからだ。



――…今日の講義は割と集中出来た。

やっぱり、今までのことは夢だったんだ!

そうに違いない!!


そして今俺と玲司はカラオケに来ている。

⏰:09/04/24 07:42 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#219 [◆LOSh2yD9/c]
今日は二人とも昼で講義が終わるから、そのまま直行した。

もちろん玲司のおごり。


「なぁ、そういや昨日お前どうした?」

玲司が笑いながら聞いてきたので、俺も若干引きつりながら答えた。

「あぁ、忘れてくれ。あれは夢だ」

「ははっ意味不明〜」

俺は未那のことや慧弥さんのことを忘れるように、熱唱しまくった。

「何か燃えてんな〜」

⏰:09/04/24 07:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#220 [◆LOSh2yD9/c]
「パアッとストレス発散しろって言ったのは玲司だ」

「そうだけどよ。まぁ、実際どーなの?」

「…わかんね。何か色々あって、まだ整理つかない感じ?」

未那のことも未練がないって言ったら嘘になるし、慧弥さんのことだって、本当は気になっている。

約束…すっぽかした訳だし。

全てが夢だったらどんなに楽か…

「そっか。…ま、焦るなってことだ」

ふざけてるようで、こいつはこいつなりに気を使ってくれているのが良くわかる。

⏰:09/04/27 00:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#221 [◆LOSh2yD9/c]
「そうだな。バイトもそろそろ再開するかな〜」

俺は未那にふられたショックでやる気が失せていた為、"テストが近い"という嘘の理由で二週間くらい休みを貰っていた。

「もう?二週間休み貰ったんだろ?」

「んー、金銭的精神的にそろそろ始めた方がいいかなって。何かやってた方が気が紛れるし」

「確かにな」


――四時間歌いまくって店を出ると、外は薄暗くなっていた。

⏰:09/04/27 00:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#222 [◆LOSh2yD9/c]
「じゃ、また来週な」

「ああ、ありがとな」

俺と玲司は家が反対方向なので駅で別れた。


週末使って、気持ちの整理をしよう

電車に揺られながらそう考えていた。


駅から降りてチャリ置き場へ向かおうと歩いていると、何かを叫ぶ声が聞こえた。



「湊!」

⏰:09/05/10 05:52 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#223 [◆LOSh2yD9/c]
振り向くと、そこには見覚えのあるニット帽をかぶった伊達眼鏡が、物凄い形相で立っていた。

「げっ?!な、何でっ……??!」

「何ではこっちの台詞だ。お前、一体どういうつもりだ?」

「えっ?!いや…あのっ……」

ぎいやあああ〜〜〜!!
鬼が!鬼が見えるううぅぅぅっ

「とにかくこっち来い!」

「え゙?!!ちょっ、ま、待ってく「問答無用」

い゙や゙あ゙あ゙あ゙ー!!!

⏰:09/05/10 05:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#224 [◆LOSh2yD9/c]
しどろもどろになっている俺の腕を掴み、強制的に連れて行かれる。

慧弥さんは俺の手を引きズンズン進む。


「けっ慧弥さん!どこ行くんですかっ?!」

「車」

ぎやああああ〜〜〜
俺拉致られる!!



…本気でそう思った。

⏰:09/05/10 05:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#225 [◆LOSh2yD9/c]
「…で?」

「いやぁ……あのですねぇ……」

「何だ。言い訳ぐらいは聞いてやる」

「そのぉ……」


俺は今、慧弥さんの愛車であろう全面スモークガラスの外車の中で、取り調べ(紛い)を受けている。

「えっと…、その前に、質問いいですか?」

「質問してるのはこっち」

ギロッと睨み付けて言い放つ。
…こ、怖いんですけどぉぉおお!!

⏰:09/05/10 07:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#226 [◆LOSh2yD9/c]
「…はぁ。とりあえず移動する」

「え?」

「流石に一日中停車しているのはまずいし怪しまれる」

「………」


そう言ってエンジンをかけると、慣れた手付きで車を走らせた。

流石、外車は違うと思った。

走りが全然違うし、乗り心地も一般車とは比べ物にならないくらい快適だ。

⏰:09/05/27 14:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#227 [◆LOSh2yD9/c]
沈黙が続く。

慧弥さんは只真っ直ぐ前を見つめている。

その瞳には、さっきまでの怒りの色をもう映してはいなかった。


「慧弥さん、あの…すみませんでした」

「………」

「昨日、行けなくて……」

「…"行けなかった"んじゃなくて"行かなかった"んじゃないの?」

「え?」

俯いていた俺は顔を上げると、前を見ていた筈の慧弥さんが、俺の方を向いていた。

⏰:09/05/27 14:44 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#228 [◆LOSh2yD9/c]
その表情は俺を咎める訳でもなく、悲しそうに微笑んでいるようだった。

慧弥さんは再び視線を前に戻すと、唐突に口を開いた。

「お前を待っている間、一度警察に職務質問された」

「ええっ?!」

「まぁ怪しむのも当然か。で、俺はどうしようか迷った訳。」

そうだろうね!
こんな高級車、この場所には似合わないよ!!

…と、心の中でツッこんだ。

⏰:09/06/01 04:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#229 [◆LOSh2yD9/c]
「で、そのおっさんは俺と握手をして去って行った」

「はあ?」

「何で昨日来なかったの?」

「…それは……」

「お前も、"俺を見て"判断する奴なの?」


慧弥さんが何を言いたいのか良くわからなかった。

でも、もう誤魔化せない。

これは夢じゃない。

慧弥さんと俺はもう、"出会って"いるのだから……

⏰:09/06/01 04:48 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#230 [◆LOSh2yD9/c]
「慧弥さん…あなたは、"画家"の雨宮川慧弥なんですか?」

赤信号になり、車がキキッと音を立てて止まった。

ゆっくりと俺を見て答える。

「…ああ」

その言葉に、何故かホッとしたのと、やっぱり、と言う思いが交差した。

「…そっ、それならそうとちゃんと言って下さいよ!!俺全然知りま…っ!」

「ああ、いいよ。その方がいいし」

「へ?」

⏰:09/06/01 05:46 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#231 [◆LOSh2yD9/c]
「知らなかったからこそお前は…少なくとも、素に近い自分を曝け出していただろう?」

「あ、あぁ…」

少なくとも、ってゆーか…素でした!!(おい!)

「それに、俺は"絵は趣味だ"って言ったし、画家だって言おうとしたらお前は電話に出た」

「え!?趣味だけじゃそれが職業なんてわかんないし電話は仕様がないんですけどっ」

「俺は画家が趣味なんだよ」

「…!!」

⏰:09/06/01 05:48 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#232 [◆LOSh2yD9/c]
そう言って楽しそうに笑う慧弥さんを見て、この人はなんて凄いんだろうと思った…


「……昨日、たまたま知っちゃったんです。友人に借りた雑誌に慧弥さんに超似た人が載ってて、名前も同じだし絵も上手いしフランスで活躍中って書いてあるし…もしかして、って思って…」

「…そんなことだろうと思った。約束破る奴には見えないし、さっき逢った時の態度でわかった」

「どっ、どーゆー意味ですかっ!??」

「……だからこそ、もう失いたくないんだよ」

「え……?」

⏰:09/06/01 05:51 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#233 [◆LOSh2yD9/c]
そう言う慧弥さんの横顔は少し憂いを帯びていて、あまりにも真剣だった。

だから、俺はそれ以上何も聞けなかった。


「あとはそのおっさんの反応だな。あれでやっぱり確信した」

「警察?」

「ああ。そのおっさん、俺のこと知ってたみたいで、"プライベートで人を待っているので…"的なことを言ったら"そーかそーか"で終わった」

「はは…だから握手を求められたんですね」

⏰:09/06/01 05:59 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#234 [◆LOSh2yD9/c]
「だから、俺のことを知っていれば変装してても気付く奴は気付くんだなって」

「ああ、成る程…ですね」

「……その喋り方やめろ。変」

「え、でも……」

「いつも通りでいい」

「……わかった」


そういえば慧弥さん、前言ってたっけ

"俺だって好きでしてんじゃねぇよ、煩わしいのが嫌ならバレないようにすればいいってエリサが……"

⏰:09/06/01 09:21 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#235 [◆LOSh2yD9/c]
あれは、こういう意味だったのか…
有名人?も大変なんだなー

でも本当申し訳ないけど、全く知らなかった……


「…てゆーか慧弥さん、もしかして昨日も今日も一日中待ってたの?」

「………それが?」

ぎゃ〜!!
また鬼の形相になってるーっっ!!!

「すっすみません!本当申し訳ないっす!!」

「…別に」

⏰:09/06/01 09:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#236 [◆LOSh2yD9/c]
慧弥さんはそう言って、少し不貞腐れながら窓の外に目をやった。

「でも俺のこと良くわかりましたね!」

「そんな阿呆面が歩いてたらすぐわかる」

っんのヤロー!!

「てか、どこ行くんですか?」

「俺んち」

「えっ?!」

「散々待たされて疲れたし、外にいてバレたら面倒」

「ゔっ…」

そうして俺は、有無を言わさず雨宮川宅に連行されたのだった。

⏰:09/06/01 09:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#237 [◆LOSh2yD9/c]
「でっかあー…」

俺が呆然と見上げる先には、高層マンションが聳え立っていた。

「そうか?」

……もういちいちツッコミを入れるのはやめようか、身が持たないぜ

あれだよ
コイツがなんかおかしいのは、芸術家だからだ!

だって良く言うだろ?

芸術家は変な奴が多いって!
(もちろんイイ意味で!)

だからか〜納得!
なんかスッキリしたぜ!!

⏰:09/06/01 12:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#238 [◆LOSh2yD9/c]
「何ニヤニヤしてんの?」

「いや!!」


俺は促されてマンションの中へと進む。

「なっ…んだこれ?!」

…最早マンションじゃねーし!
どー見ても此処ホテルだろ!!?
しかもセレブ級のっ!!

「……れ、レベルが違いすぎる……ってゆーか俺場違い…ってゆーか有り得ない……」

「…何一人でブツブツ言ってんだ?」

「こっこんな所、テレビでしか見たことないですよっ!?」

⏰:09/06/01 13:06 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#239 [◆LOSh2yD9/c]
やっぱりこの人ホンモノだ!!
画家ってそんなに儲かるのか?!

「…普通だろ?」

言った俺が馬鹿でしたああああ!!!


「最上階だから」

そう言ってエレベーターのボタンを押す慧弥さん。

光る先を見ると、"60"の数字が。

「っろくじゅうううう?!!」

「ん?ああ、すぐ着く」

いやいやそーゆー問題じゃねぇっつの!!

⏰:09/06/01 13:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#240 [◆LOSh2yD9/c]
「…ってまじではっや!!」

慧弥さんの言う通り、どんどん階が上がっていくエレベーターに俺は騒ぎ出す。

「……お前、いちいち煩い」

「だ、だってさ…慧弥さんにとっては当たり前なことでも、俺にとっては非日常的な訳で…」

「……わからん」

だろうね!!


「ちょっと待ってて」

ドアの前で何やら操作をしてる。

⏰:09/06/01 13:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#241 [◆LOSh2yD9/c]
こんなセキュリティー万全な高級マンションなんて俺には無縁な世界だ。

「どーぞ」

「お邪魔しまーす…」


俺は妙に緊張して、恐る恐る靴を脱ぐ。

普段やらないが、靴なんかも揃えてみちゃったりした。ついでに慧弥さんのも。

振り向くと慧弥さんの姿はなかった。

ええっ?!
ちょっ…どこ行った??!

広すぎる廊下と無数のドアに囲まれ焦り出す俺。

⏰:09/06/01 13:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#242 [◆LOSh2yD9/c]
か、勝手にドア開けたらマズいよなぁ…
そもそもどこの部屋に行ったかわかんねぇし…

「何してんの」

後ろから声がして振り返ると、若干イラついた表情の慧弥さんがいた。

「ひ…広すぎなんですよっ!」

「お前が方向音痴なんだろ」


家で方向音痴って何だよっ!!

思わず叫びたくなる。
最早言うまい…

⏰:09/07/06 15:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#243 [我輩は匿名である]
そして俺はリビングに通されてテーブルに座った。

「はい」

カチャッと音をたて、俺の前に上品なティーカップが置かれ、香ばしい香りが広がった。

「…うまっ!」

「そ?気に入ったのなら持って帰って良いぜ」

そう言って小洒落た管を俺に渡して来たが、…どうみても高そうだ。

⏰:10/08/29 04:54 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#244 [我輩は匿名である]
「いや!これ高級品でしょう?!受け取れませんよ…」

「そんな大した物じゃない。まだあるし、俺一人じゃ飲みきれない」

「え…エリサさんは?」

「……たぶん、この"家"には帰って来ない」

「ええっ?!」

「実家か…或はあっちの家か…」

「あっち?!」

「ああ、もう一つの家」

「………」

⏰:10/08/29 04:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#245 [我輩は匿名である]
あーそうだった。
この人には俺たち一般人の常識で考えちゃいけなかったああ。

「どうした、黙りこくって」

「え?いや…はは。えと、じゃあ頂いてもいいですか?」

「ああ」

俺は高級茶を飲み終えて、ティーカップを洗おうと席を立とうとしたら、それを慧弥さんに制止されてしまった。

他にやることもなく暇なので、辺りを見回した俺は写真立てに目が止まった。

⏰:10/08/29 04:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#246 [我輩は匿名である]
「慧弥さん、この人がエリサさん?」

「ん?ああ、そうだが」

「まじかよっすんげー美人!!」

慧弥さんの隣で笑っているエリサさんは、誰が見ても美人だと思う程綺麗だった。

「そうか?」

慧弥さんは興味ない感じで答えてたけど、少し照れたようだった。

「エリサさんってハーフ?」

「ああ、日本とフランスのな」

「…ふーん、出会いはフランス?」

⏰:10/08/29 05:01 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#247 [我輩は匿名である]
俺はニヤけながら聞いてみた。
一瞬慧弥さんは顔を歪めた気がしたけど、"まーな"って言って、含みのある笑みを向けた。

「でもさぁ、何で此処には帰って来ないの?」

「只の憶測だけどな。あいつが帰って来た形跡がないからそう思っただけだ。家がいくつもあるのも面倒なものだな」

「…普通、家は一軒だけです!!」

「ん?」

しまった!つい口が…!!

⏰:10/08/29 05:03 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#248 [我輩は匿名である]
「はぁー。どんだけ坊ちゃんなんですか!有名人はやっぱり稼ぎが違うのかなー…それに比べてうちは……ブツブツ」

「…くく」

俺が軽くへこんでいると、奴は小さく笑い出した。

「ちょっと!何笑ってんですか!!俺は真剣にっ…」

「はは、悪い悪い。いや…ね」

「もう!何なんっすか!!」


クソ〜ニヤニヤしやがって!!

⏰:10/08/29 05:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#249 [我輩は匿名である]
悔しいから言いたくないけど)慧弥さんはイケメンだし、奥さんは超美人だし、有名(らしい)な画家だし、金持ち?だし、本当ムカつく!!

…八つ当たりです、はい。

だってー、羨ましいじゃん?
つーか憧れんじゃん?


何となく自分が恥かしくなって慧弥さんにそっぽ向いていると、真剣な声が部屋に響いた。

慧弥さんはさっきの写真を手に取り、それを静かに見つめている。

⏰:10/08/29 05:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#250 [我輩は匿名である]
「……最近俺、絵を描くのに行き詰まっててさ、その上企画もあったり他にやらなきゃいけない仕事もあったりして…全然余裕、なかった」

何となく、あの夜話していたことと関係ありそうで、俺は黙って慧弥さんの話に耳を傾けた。

「エリサはとても心配してくれて、あいつも忙しい筈なのに、少しでも俺の負担を減らそうとしてくれていた。」

「なのに俺は……記念日も、約束も……」

慧弥さんは言葉を詰まらせながら話し続ける。

⏰:10/08/29 05:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#251 [我輩は匿名である]
「……俺は最低な旦那だよ。何一つあいつにしてやれなかった」

自嘲気味に息を吐くと、写真を置いた。

そして、俺と慧弥さんの間に沈黙が続く。


「…何ですかその過去形は!」

「え?」

「してやれなかった。って、まるでもう別れたみたいじゃないですか!詳しい事情はわかんねーけど、少なくとも慧弥さんはそれが嫌だからあの日あの場所にいたんだろ?それにエリサさんと、ちゃんと話し合ったんですか!?」

⏰:10/08/29 05:11 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#252 [我輩は匿名である]
「…………」


…!!
しまった!
つい勢いに身を任せて叫んじまった!

「…あの、す、すいません、偉そうなこと…」

「……いや、お前の言う通りだな」

「え…」

「俺はエリサ以外、考えられない」

そう言って、真っ直ぐ俺を見つめる慧弥さん。

⏰:10/08/29 05:13 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#253 [我輩は匿名である]
……まただ

また、あの感じだ

どうしてこの人は、こんなにも真っ直ぐなんだろう


俺はあの時のように、慧弥さんの澄んだ闇色から眼が離せないでいた。

「……そんなに、そんなに大切なら離しちゃ駄目です!ちゃんと逢って、慧弥さんの気持ちを伝えるべきだよ!」


あークソ何か腹立ってきた!

⏰:10/08/29 05:15 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#254 [我輩は匿名である]
「つーかあんたが直接逢いに行けばいいじゃん!エリサさん、待ってるかもしれませんよ?!」

「……待ってる…?」

「大体、本当にエリサさんが離婚したいと思っているならシュレッターになんかかけてませんよ!」

「ここは一つ、エリサさんが喜びそうな物でも持って行って、仲直りしてくれば良いじゃないっすか!きっと気持ちは、伝わる筈ですよ!」

「……!!」

⏰:10/08/29 05:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#255 [我輩は匿名である]
俺が言うや否や、慧弥さんは部屋を飛び出した。

「え?!ちょっ…慧弥さんっ??」

俺は慌てて奴の後を追う。

今度は迷子にならずに済んだ。

リビングの隣の部屋のドアが開けっ放しだったから。


「すげー…」

その部屋は沢山の絵画で埋め尽くされていたので、此処が慧弥さんの仕事場(アトリエ)なんだとすぐにわかった。

⏰:10/08/29 05:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#256 [我輩は匿名である]
綺麗で高級感溢れるこのマンションには似合わない程、此処だけ別の空間みたいな、そんな不思議な気持ちになった。

描き掛けの物や完成品であろう物、絵画に関する雑誌など様々な物で溢れている。

俺は絵画とか美術なんかはまるで無知だけど、此処にある数々の作品は"ホンモノ"だと思った。
それだけはすぐにわかった。
それ程までに、凄すぎる。

俺はこの空間に圧倒されて、つい不注意になっていた。
何かに躓き、その拍子に仕事道具であろう物品たちをぶちまけてしまった。

大きな音を立て床に散らばる筆やその他諸々。

⏰:10/08/29 05:26 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#257 [我輩は匿名である]
「すっすみませんっっ!!」

俺はそれを慌てて拾い集めるが、慧弥さんの反応はない。

不思議に思い、慧弥さんへ振り返る。


慧弥さんは只ひたすら筆を動かしていた。


あんなデカイ音を立ててしまったのに、この人の耳には何も聞こえていないんだ

…なんて凄い集中力なんだ

きっと、今この人の世界には誰も入れない。

⏰:10/08/29 05:28 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#258 [我輩は匿名である]
俺はそっとアトリエから出た

何か、慧弥さんのこと段々わかってきた気がする

何を描いてるのか全く見当もつかないけど、たぶん、あの絵を書き終えるまで奴はあの部屋に籠もるな

何の根拠もないが、慧弥さんはその手のタイプの人間だと思う

それに、"その時感じたインスピレーションが大事だ!"とか、芸術家なんか良く言うじゃん?

たぶん。

⏰:10/08/29 05:29 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#259 [我輩は匿名である]
何だか少しワクワクした気分になる


俺も何か手伝えること…

そう思い、真っ先に向かったのはリビングだった

俺が今出来ることは料理だけ
冷蔵庫の中を少し拝借して、簡単に栄養のある物を作った


作り終えてアトリエを覗いてみるが、案の定奴はまだ睨めっこ中だ


俺は置き手紙を書いて帰ることにした。

⏰:10/08/29 05:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#260 [我輩は匿名である]
…何かあったら連絡が来るだろう


俺たちはさっき連絡先を交換している。

"また何かあった時とんずらされるのは御免だ"とか言って半ば強引に聞き出されたんだけどね!

つか俺は別に構わないけど慧弥さんは良いのかよって感じだよな

一応有名人なんだろ?

…まぁ、誰にも言うつもりはないけどさ

⏰:10/08/29 05:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#261 [我輩は匿名である]
あ〜あ

俺も慧弥さんみたく夢中になれるモノ、見つけてーなー

慧弥さんみたく…

そんなことを思いながら家路へ就いた。



―翌日の昼

家に帰ってからというものの、昨日からずっと慧弥さんから連絡がない。

俺はずっと気が気でならなかった。

何かあの人ほっといたら食事とか睡眠そっち退けでずっと絵に没頭してそう…

⏰:10/08/29 05:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#262 [我輩は匿名である]
あああああっっ

心配だ。

でも俺なんかが連絡していいものなのか…

あのマンションに行くのも気が引ける…


そんなことばっかが頭を駆け巡る。


様子のおかしい俺を見て隣でパンにかじり付いていた怜司が口を開く。

「……お前さぁ、朝から何ソワソワしてんの?携帯気にしてるみたいだけど、もしかしてまだあの子のこと引きずってんの?」

「ちょっ何馬鹿なこと言ってんだよ?!んな訳ねーだろ!!」

⏰:10/08/29 05:52 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#263 [我輩は匿名である]
寧ろ未那のことなんてすっかり忘れてたし!

「本当かよ?なーんか怪しいな」

「はあ?!つか、未那のことはこれで良かったって思ってる。気付くのが遅かったけどな」

「…?ま、早く飯食えよ次に遅れちまうぜ?じゃあ俺はあっちだから。またな〜」

「げっっ」

俺は急いで昼食を済ませ講義室へと向かった。

⏰:10/08/29 05:53 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#264 [我輩は匿名である]
「あー何か今日は疲れたなー」


今日最後の講義を終え、俺は机にぐてっと両手と顔を預けた。

その拍子に机の中から何か物が落ちてしまった。

何かと思い拾い上げると、それは先日友人から借りた慧弥さんが表紙の絵画雑誌だった。

「ああ、読み終わったんだった。返さなきゃな」

そう思った俺は友人の元へと向かった。

⏰:10/08/29 05:57 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#265 [我輩は匿名である]
「これ、さんきゅーな」

「おお!どうだった?」

「ああ、何かすげーよな。この人に惹かれて行くってゆーか、尊敬するってゆーか…」

「お前もそう思う?!!」

俺の言葉に友人は興奮したかのように身を乗り出した。

「やっぱ只のお坊ちゃんじゃないよな?周りは親の七光りだとか何だかんだ言ってる奴いるけど俺はこの人かなり努力したんじゃないかなぁって思う。同じ芸術でも音楽と絵画じゃ違いすぎるもんな!」

⏰:10/08/29 05:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#266 [我輩は匿名である]
うんうんと頷き、友人は満足げに語る。

しかし、俺にはまるでちんぷんかんぷんだった。

「え?どゆ意味?」




――――それから数時間後


俺の足取りは重かった。


………………………知らなかった。


慧弥さんが正真正銘のボンボンだったなんて……

⏰:10/08/29 05:59 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#267 [我輩は匿名である]
要約するとこうだ

雨宮川家は代々音楽家で、名家である。
慧弥さんのお爺様はその業界では名を知らぬ者はいないんじゃないかって言うぐらい有名な元世界トップの指揮者でお婆様は元トップモデル兼バレリーナ。
で、慧弥さんのお父様は………


ああ……、思い出しただけでも頭が痛い

お、俺はとんでもない人と知り合い?になっちまったのか!!?

し、しかもだ!

妻であるエリサさんもフランスでは有名な名家のお嬢様らしいじゃねーか!!

⏰:10/08/29 06:01 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#268 [我輩は匿名である]
"画家"の雨宮川慧弥を知らなかったまでは、まぁ目を瞑れるとしよう。

けど、世界的に有名な"雨宮川家"を知らないなんて、俺はとんだ世間知らず?!

"名家"の雨宮川慧弥を知らなかったとは言え、そんなお坊ちゃんに向かってあんなことやそんなことまで………

一気に血の気が引くのがわかる。

無礼過ぎるのにも程がある……

俺、今度こそあの人に顔向け出来ねぇよっ!!

どーしよ?!

うぇええ??!

どぉーすんだよおおおお〜〜〜〜〜

⏰:10/08/29 21:12 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#269 [我輩は匿名である]
その日の夜

慧弥さんから着信があった

少し迷ったけど、もち出られる筈もなく俺は放置した


次の日もその次の日も着信はあった

メールも一件だけあった

俺がこんな風になってるなんてまるで思ってもないような内容だった

…当たり前か。


『どうした?忙しいのか?とりあえず飯、さんきゅーな。連絡くれ』

⏰:10/08/29 21:21 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#270 [我輩は匿名である]
俺は少し罪悪感にかられた


…ごめん慧弥さん

俺、どう接したら良いのかわかんねーよ




―それから一週間が過ぎようとしていたある日の帰り道

大学から駅に向かっていると、不意にバイクに横切られあぶねーなと思っていたら目の前に止まりやがった。

俺は何だと不審に思っていると、そいつはメットを無造作に外した。

…見慣れた顔が、そこにあった。

⏰:10/08/29 21:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#271 [我輩は匿名である]
「よう、湊。元気そうじゃねぇか」

「……慧弥さん………」


そこにいる慧弥さんは、いつかの鬼の形相みたいな顔をしている訳でもなく、不気味に微笑んでいるだけだった。

それが、余計に怖い。


「話は後だ。乗れ」

そう言って俺にメットを投げ渡す

「でっでも」

「いいから」

⏰:10/08/29 21:26 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#272 [我輩は匿名である]
有無を言わさないかのように無言の視線が痛い。

俺は仕方なく慧弥さんの後ろに跨る。

「んじゃ、しっかり捕まっとけよ」

「…はい」

慧弥さんは俺の返事を確認すると勢い良くエンジンをかけた。

行き先は、勿論知らない。




―…結局慧弥さんち(マンション)に戻って来ちまった。

⏰:10/08/29 21:28 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#273 [我輩は匿名である]
慧弥さんはずっと無言だった。

何度かチラ見したけど、その表情からは何も感じ取れない。

はぁ。いたたまれないなぁ…

一度ならず二度もすっぽかした訳だもんな


家に上がり、テーブルに促され、前も煎れてくれたあの高級茶を二人分用意すると、漸く慧弥さんは座った。


と、とりあえず謝らないと…!

⏰:10/08/29 21:31 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#274 [我輩は匿名である]
「あ…、あの、」

「で、今度は何だ?」

「は?」


慧弥さんは何故か笑っているようだった。

俺は意味わかんなかったけど、とりあえず謝ろうと思った。

「……すみませんでした。連絡、しなくて……」

「今度は素直に言ったな」

「……?」

⏰:10/08/29 21:33 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#275 [◆LOSh2yD9/c]
言葉の意味をまたもや理解出来ずにいると、慧弥さんは更に笑みを浮かべ、補足した。

「"出来なかった"んじゃなくて"しなかった"んだろ?」

「……!!」


「いや、あの……。俺、慧弥さんにどう接したら良いのか、わかんなくて…」

「……………」

「すっ…すみません!俺、慧弥さんが名家の人だったなんて知りませんでした!!」

「……………」

⏰:10/08/31 01:50 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#276 [◆LOSh2yD9/c]
俺は意を決し頭を下げて叫んだ。

……だがしかし慧弥さんの反応はない。

俺は恐る恐る顔を上げて見ると、慧弥さんは俯き、肩を震わせているようだった。


え!?
やばい、もしかして怒ってる?!

「け、慧…」

「……く、駄目だ。堪えらんねー、ははは…」

「は?!!」

慧弥さんは顔を上げると腹を抱えて笑い出した。

⏰:10/08/31 01:52 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#277 [◆LOSh2yD9/c]
ま、まじで意味がわかんね〜〜

何がどーなってんだ?!


「……お前はな、俺の親友だった奴に似てるんだよ」

「え?」

慧弥さんは少し落ち着き、一息吐いた後唐突に告げた。


「この間のことといい、今回のことといい…、何でだろうな。顔や雰囲気も全然違うのに」

そう言ってまた小さく笑い出す慧弥さん。

⏰:10/08/31 01:54 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#278 [◆LOSh2yD9/c]
…勝手に盛り上がってる所悪いんだけど、全く理解出来ないんですけど!!


「親友"だった"……?」

そう。俺が引っかかっていたのはそこだった。

過去形なのはどうしてだ?


「…ああ。あいつは、もうこの世にはいない」

急に慧弥さんから笑みが消えた。


「あの、慧弥さん?全然話が見えないんですけど…」

⏰:10/08/31 01:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#279 [◆LOSh2yD9/c]
俺の言葉に奴は大きな溜め息を吐いた後、淡々と喋り出した。

「お前が"画家の俺"も"名家の俺"も知らないなら知らないで別に良かった。それに、お前の行動の意味は大体予想はついていた。」

俺は今だに状況が理解出来ていないままだったが、とりあえず黙って話を聞いた。

「俺は、普通の人間として接してくれた方が良い。俺を特別視しないでくれたのは、お前とエリサと、亡くなった親友だけだ。だから、俺はもう大事な人を失いたくないんだよ…」

「……慧弥さんの言いたいことは、何となくわかりました。でも、そもそも俺とは次元が違うって言うか、住む世界が全然違うんですよ!だから俺みたいな一般庶民が関われる人じゃないし、あり得ないんです!!」

⏰:10/08/31 02:02 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#280 [◆LOSh2yD9/c]
「もう遅い。お前は俺に関わっちまった。只で帰れると思うなよ」

「はいいいいっ??!!!」

「冗談だ」


…〜〜っテンメーッッッ!!!


「まぁ冗談はさて置き、此処まで乗りかかっちまったんだ、全部話すから最後まで付き合ってくれよ」

「はぁ…?」

俺は曖昧な返事をした。

相変わらずこいつは訳わからん奴だ。

⏰:10/08/31 02:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#281 [◆LOSh2yD9/c]
―――――――――



俺の父は指揮者で指導者。母はバイオリニスト。姉はピアニストで旦那もピアニスト。
ちなみに祖父たちも元指揮者とか、みんな音楽関係な訳。

そんな音楽一家に生まれた俺の下には、もちろん音楽家へのレールが引かれていた。

音楽に関することは勿論、色んなスキルを身に付けさせられた。

物心ついた頃にはもう音楽は俺の一部だったな

⏰:10/08/31 23:57 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#282 [◆LOSh2yD9/c]
毎日毎日ピアノやバイオリンの練習…
でもそんな生活は嫌いじゃなかった。
姉の影響もあってか、ピアノは好きだったから

ああ、勿論学校も音楽学校だった
小から高校まで一貫の

でも、ある時気付いたんだ。
俺は絵を描くことが好きなんだって。

最初は只の暇潰しから
段々ピアノよりも何よりも楽しくなっていたんだ。

……思えば寂しかったのかもな
両親は多忙で、使用人はいたが広い家に独りきり
姉とは8つ離れていたから、俺がまだ餓鬼の頃にはもう世界中を飛び回っていて、姉が二十歳になったら結婚したからな

⏰:10/09/01 00:00 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#283 [◆LOSh2yD9/c]
いつも窓の景色をぼけーっと見てた。
次第にその風景を描いてみたいと思った。

…ははっ
初めはすげー下手くそでさ、自分で描いてて苛々したよ。
全然上手くいかねーの

習い事においてこんな挫折感?っての味わったことなかったから、余計熱中しちゃったって言うかさ、そんな感じでどんどん嵌っていった。

でも当然親はそれを許さなくて、特に父は大激怒してさ。スケッチブックとか一式全部没収されたこともあった

初めはすげーショックだったけど、仕様がないって言い聞かせた。
俺は音楽の道で頑張ろうって…

⏰:10/09/01 00:04 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#284 [◆LOSh2yD9/c]
……でもやっぱり、どうしても絵を諦めることが出来なかった。

俺は音楽の勉強をする傍ら、親の目を盗んで絵の勉強もした。
誰にも教えを請う訳にもいかなかったから本当、独学だったなー…

まぁ姉にはすぐバレたんだけどね
でも姉は俺の絵を褒めてくれた
それがすげー嬉しかった


高3になって進路の話が浮上した頃には、俺の心はもう決まっていた。

画家になりたいと。


反対されることはわかっていた。

⏰:10/09/01 00:08 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#285 [◆LOSh2yD9/c]
それを話したら、やっぱり父は猛反対していたよ。
ついでに周りの大人もね

でも母は俺の気持ちに薄々気付いていたみたいで、助け舟を出してくれた。

夏にある絵画のコンクールで最優秀賞を取ること。そうしたら考え直すと。

父は渋々承諾した。
音楽コンクールは勿論のこと、全国模試一位もと付け加えたがな


それからが大変だったな
俺の人生の中で一番頑張った時だと思うぜ

本当必死だったなー…

今だから笑えるけど。

⏰:10/09/01 00:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#286 [◆LOSh2yD9/c]
でまー結局俺の才能と努力の結果、全てクリアした訳だが父は最後まで認めなかったな

今でこそ少しは認めてくれているとは思うけどさ


―――――――――

「ここまでが前置き。長かったろ?これからもっと長くなるけど、何か不明な点は」

慧弥さんはそこまで話すと紅茶を一口飲み、ふっと小さく息をついた。

「…………えと、壮絶な幼少期を過ごされたんで「感想じゃねー質問だ質問!」

ひぃ〜

⏰:10/09/01 00:14 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#287 [◆LOSh2yD9/c]
「いやあの正直、ツッコミ所満載で……」

「は?」

「坊ちゃんは坊ちゃんでも、俺たちみたいな一般人にはわからない所で色々苦労してるんだなぁって…」

「………」

「ってすみません感想になってますよね?!」

「…ばーか」

そう言って慧弥さんははにかんだ。

⏰:10/09/01 00:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#288 [◆LOSh2yD9/c]
生まれながらの才能があったのに、慧弥さんは自分が好きな道を選んだんだ

そして努力と言う名のもう一つの才能で、未来を切り開いたんだ…

今は笑ってるけど俺には想像出来ないような努力や苦労があったんだろうな

音楽一家の名家に生まれた慧弥さんにとって、画家を目指すには障害が多かったことぐらい、一般庶民の俺にだって容易に想像が出来る。

「じゃ、続きな」

俺の思考は慧弥さんの言葉によって遮られた。

そして俺は、再び慧弥さんの話に耳を傾ける。

⏰:10/09/01 00:19 📱:F906i 🆔:☆☆☆


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