短編集
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#1 [◆LOSh2yD9/c]
気ままな短編集

⏰:08/09/21 01:51 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#2 [◆LOSh2yD9/c]
『君とあたしとあんたの赤い糸』



〜♪〜♪〜♪〜


突然携帯が鳴りだした。

誰からの着信か、画面を見なくてもあたしにはわかる。
このメロディーは一人しかいない。

あたしは大好きなお笑い番組から視線を外し、いつもの調子で電話に出た。

⏰:08/09/21 02:12 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#3 [◆LOSh2yD9/c]
「もしもぉ〜し!」

「…あ、ゆっきー?」

「うん!陽菜、どぉしたの〜?」

「あはは、急にごめんねぇー」

「全然だよ!どしたぁ」

いつもと変わらない口調。
あたしたちは大の仲良し。
要するに、親友だ。

また他愛のないお喋りが始まるのだと思い、陽菜の言葉を待ちながら視線をTVに戻した。

⏰:08/09/21 02:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#4 [◆LOSh2yD9/c]
丁度、あたしの好きな芸人のコントが始まった。

「………もぉ、嫌」

「…え?」


あたしはTVに意識がいき、陽菜が何を言ったのか一瞬わからなかった。

そして次の瞬間、もうTVの声はあたしに届くことはなかった。

「ゆっきー、もう陽菜限界!嫌だよぉ…!」

⏰:08/09/21 02:39 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#5 [◆LOSh2yD9/c]
突然切羽詰まった陽菜の声が、受話器越しにあたしに訴える。

「え?何、どうしたの??」

あたしはまるで状況が掴めない。

電話に出た時、陽菜はいつも通りだったよね…?

「…今、直人と一緒にいるの。もうこいつ、許せないよ…!」

陽菜、泣いてるの…?
良く聞けば、微かに声が震えているのがわかった。

⏰:08/09/21 02:46 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#6 [◆LOSh2yD9/c]
「え?直くんと一緒にいるの?」

直くんとは陽菜の彼氏で、あたし達より一つ年下だ。

もう付き合って一年は経ったと思う。
あたしも何度か逢っていて、一緒に遊んだこともある。


「グスッ………、うん…」

とうとう陽菜は弾かれた様に、声を出して泣き出した。

「え、え?えと、何がどうしたか良くわかんないけどさぁ…」

⏰:08/09/21 02:57 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#7 [◆LOSh2yD9/c]
あたしはあたふたする。

え、どぉーしよ…
喧嘩、だよねぇ…
てか陽菜がこんな泣いてあたしに電話してくるなんて初めてじゃあ…?

あたしはどうしたもんかと考えていると、受話器の遠くの方で、直くんであろう声が聞こえた。その後直ぐ、声を荒げた陽菜の叫びが響く。


「…ッ、煩いなぁ!謝って済むもんじゃないんだよっ…!!」

⏰:08/09/21 03:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#8 [◆LOSh2yD9/c]
「陽菜っ!!…」

今度は直くんが声を荒げ、何かを叫んでいた。


ちょっ…話が聞こえん!
てか、そもそもこの喧嘩の原因は何だよ!!
と、陽菜に聞こうと口を開きかけた瞬間…

「別れる!!もう終わりだよっ陽菜たちは…!!」

ちょっちょっ、ちょっと待てー!!
おい話を勝手に進めるなぁー!

⏰:08/09/21 03:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#9 [◆LOSh2yD9/c]
てか何、あたしに電話して来たこと覚える?陽菜ちゃん。
別れ話をあたしに聞かせる為じゃないでしょ?
そうだよね?
てか昔から君はそーゆー所があるんだよね、まぁそこが好きだったりする訳で…
いや今はそんな場合じゃないだろ!

あたしは陽菜の突然の別れ宣言を受け、この一瞬の内にそりゃあもう様々なツッコミと言うか何というかをした。

そして今度はあたしが弾かれた様に声を荒げた。

⏰:08/09/21 03:31 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#10 [◆LOSh2yD9/c]
「ちょっと待ってよ!そんな簡単に決めていいの?!今から行くから、そこで待ってて!二人で!!」

「…う、うん」

突然のあたしの大声に、陽菜は少し驚いたようだった。

「で、今どこにいんの?」

「………ラブホ」

「………どこの」

「……ゲーセンの裏にある路地を曲がった所…」

⏰:08/09/21 03:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#11 [◆LOSh2yD9/c]
「…あぁ、あそこね」

「うん…今は、外にいるから…」

「わかった。じゃあ今から飛ばして行くから、道路も空いてるだろうし、十分弱ってとこかな。」

「うん…ごめんね」

「何で謝るの。いいから、そこで待っててね」

「うん…」

陽菜は落ち着きを取り戻した様だ。

⏰:08/09/21 03:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#12 [◆LOSh2yD9/c]
あたしは電話を切り、TVを消し、そのまま玄関へと向かった。

今日は仕事も休みで一日中家でゴロゴロしてたから、化粧もしてないし服も超寛ぎスタイルだったが、親友の一大事だし夜だし、まぁいいかと気にしないことにした。


歩きながらヘルメットと被り、キーを用意して足早にバイクへと向かった。

⏰:08/09/21 04:08 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#13 [◆LOSh2yD9/c]
―――――
――――


頬に当たる風が冷たい。

バイクに乗っているから余計そう感じるのか、あたしは何か羽織ってくれば良かったと思った。

信号が赤に変わる。
止まっても尚、風は冷たかった。

「…もう冬、かぁ」

あたしはポツリと呟いた。

⏰:08/09/21 07:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#14 [◆LOSh2yD9/c]
不意に、不安があたしを襲った。

あたしが行った所で、あの二人は仲直りするのだろうか。
あたしが行った所で、何が出来るのだろうか。


そんな不安は、信号が青に変わったことで、風と共に吹き抜けた。

…急ごう。

⏰:08/09/21 07:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#15 [◆LOSh2yD9/c]
思った通り道路は空いていて、ゲーセンまで思ったより時間がかからなかった。

そりゃそうだよな、真夜中だもん。

このゲーセンも結構古い付き合いで、良く暇潰しに遊んだもんだ。陽菜と。
最近はその中に直くんも加わっている時がある。

あたしはその時が一番好き。

…別に場所はゲーセンじゃなくても良いんだけどね。

⏰:08/09/21 07:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#16 [◆LOSh2yD9/c]
とにかく、陽菜とは絶対一緒が良い訳で。
あたしは陽菜と笑っている時が一番好き。


約一年前、陽菜に彼氏が出来たと聞かされた時は一緒に喜んだし、心から祝福した。
と同時に、少し寂しかった。

だって、陽菜はあたしの親友で、もう二十年近くの付き合いだもん。

だから、陽菜を泣かせる奴は許さない。
陽菜には、幸せになって欲しいから…

⏰:08/09/21 12:17 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#17 [◆LOSh2yD9/c]
そんなことを思っている内に、あたしは裏路地を抜けていた。

角を曲がった先には、ピンクの光に照らされた二人がぎこちなく立っていた。

陽菜と直くんだ。
二人に近付くにつれ、何とも言えない微妙な空気が嫌でも伝わってくる。

「おーい」

でもあたしはそんなのお構いなしに、呼びかけと共に大きく手を振った。

⏰:08/09/22 16:53 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#18 [◆LOSh2yD9/c]
…だって気まずいじゃん!

もっと良い登場の仕方があったかなぁ…

うー、でもこれがあたしの精一杯だよぉー



あたしの声に気づき、陽菜がパッとこっちを向いた。
一瞬ニコッと笑って、悲しそうに微笑んだ。

直くんは、ちらっとこっちを向くと、すぐにそっぽを向いてしまった。

⏰:08/09/22 17:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#19 [◆LOSh2yD9/c]
あたしはバイクから降りた。

辺りはひっそりとしていて、只この微妙な雰囲気に似合わない程の明るい光が、ピカピカ照らしているだけだった。

時折直ぐ隣にある道路で走り去る車の音が響いている。


「…陽菜、大丈夫?直くんも…。どうしたの?」

「………ごめんねゆっきー、来てもらっちゃって…」

⏰:08/09/23 23:46 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#20 [◆LOSh2yD9/c]
目が赤い。
鼻声だし、化粧も崩れてるみたい。
相当泣いたのかな…


「いいんだって!てかビックリしたよー。慌てて飛び出したから、こんな姿でごめんねっ」

あはは、と陽菜が笑う。
あたしは少しほっとした。

横目でちらっと直くんを見ると、相変わらずそっぽを向いていた。

「…で、何があったの?」

⏰:08/09/23 23:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#21 [◆LOSh2yD9/c]
「………」

陽菜は黙ったまま鼻を啜っている。

あたしは陽菜が話し出すまで待った。まずは落ち着かないとね。

「…………あのね、」

「うん」

「……直人が、」

「うん」

「…また裏切ったの!」

⏰:08/09/24 00:01 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#22 [◆LOSh2yD9/c]
「は?」

「っ、だから違うんだって!!」

陽菜が言い終わったと同時、それまで黙っていた直くんが抗議の声をあげた。

「え?」

「何が違うって言うのよ!同じ事ばっか繰り返してっ」

あー、もしかしてあれかなぁ…

段々、何となく話が見えてきたあたし。

⏰:08/09/24 00:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#23 [◆LOSh2yD9/c]
「…何あれ…ヒソヒソ…」

「ヒソヒソ…あはは…」


何やら声が聞こえた。
振り返ると若いカップル(だと思う)が、こっちを見て(明らかに)笑っている。


そりゃそうだよね。
ラブホの前で男女三人で突っ立ってんだもん…
うん、怪しいよね。

⏰:08/09/24 00:25 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#24 [◆LOSh2yD9/c]
そしてそのカップルは暗闇に消えて行った。

何かちょっと笑えてきた。
客観的になるあたし。


「…場所変えよっか」

すると陽菜が苦笑しながら言った。

「そうだね」

あたしも笑いながら答えた。

あたしはバイクを押し、直くんが自転車を押しながら、あたし達はその場を去った。

⏰:08/09/24 02:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#25 [◆LOSh2yD9/c]
少し歩いた所に、小さな公園を見つけた。

「此処でいっか?」

「うん」


あたしと陽菜はブランコに跨り、直くんはあたし達から見て正面のブランコを囲んでいる棒に腰掛けた。

「ゆっきー、直人がね、また女と逢ってたんだよ」

公園にはあたし達以外誰もいない。道路からも離れているので、陽菜の声だけが重く響く。

⏰:08/09/24 02:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#26 [◆LOSh2yD9/c]
「…ふーん……」

内心やっぱりか、と思った。

最近、「直人が他の女とメールしてるみたいなの。嫌だっていってるのに」みたいな事、良く聞いてたし。
とにかく陽菜は嫉妬深い。
いくら只の友達でも、嫌な人なのだ。

「…それは、直くんが悪いよねぇ…?本当なの?」

若干言いにくかったが、ズバッと言ってやった。
直くんも言い訳したいだろうし。

⏰:08/09/24 02:30 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#27 [◆LOSh2yD9/c]
恐らく陽菜は、聞き耳を持たなかっただろう…
それに、我慢の限界だったんだろうな…

「本当だよっ」

隣で陽菜が小さく吐いたけれど、直くんの言葉を待った。

「…それは、本当だけど…買い物に付き合って欲しいって言われたからで…別に何もないし…」

直くんは言いにくそうに、区切りを付けて話し出した。

⏰:08/09/24 02:42 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#28 [◆LOSh2yD9/c]
「何もなくたって何で二人で買い物なんか行くんだよ!それを隠してたのも許せないし!!」

「そいつ彼氏いるよ!隠してたのは悪いと思ったけど…だって、陽菜知ったら怒るじゃん…」

「当たり前じゃん!それに彼氏いるから何だって言うのよ!?逆に怪しいだろっ」

陽菜は凄い剣幕で直くんを見上げている。

「………」

直くんは黙ってしまった。

⏰:08/09/24 02:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#29 [◆LOSh2yD9/c]
「…直くん、隠すから余計陽菜が怒るんだよ?何も疚しい事ないんだったら、陽菜に話すべきだよ。」

まぁこんな事言わなくたってわかってるだろうけどさ…
陽菜は他の女の事になると、直ぐ頭に血が上っちゃうから言い辛いって言うのもあるかもしれないけどね。

「………」

再び黙り込む直くん。

「大体、今に始まった事じゃないじゃん!陽菜はずっと嫌だって言ってるのに!!」

⏰:08/09/24 03:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#30 [◆LOSh2yD9/c]
陽菜の目には再び涙が溢れていた。

「前だって他の女とメールしてたしね」

足だけを使ってゆらゆらとブランコを動かしながら、陽菜は冷たく言い放った。

「だからっ…それも、只陽菜の事とかで相談に乗ってもらおうとしただけだし、高校でずっと同じクラスだったから単に仲良かっただけで…」

声が弱々しい。
段々直くんも涙ぐんできたみたいだ。

⏰:08/09/24 19:37 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#31 [◆LOSh2yD9/c]
てか、あたしがいる事による微妙な気まずさもあるんだろうな…

カップルのいざこざに、いくら彼女の親友だからって首を挟まれたくないよね…

二人の問題だし、ね?
しかも格好悪い所なんて、彼女以外見せたくないよね?
あ、彼女だからこそ見せたくないのか?

あれ?どうしよう、あたしめちゃくちゃ気まずいんですけど。

⏰:08/09/24 19:48 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#32 [◆LOSh2yD9/c]
もしかして、いや、もしかしなくても、来ない方が良かった?

あたし場違いじゃね?
空気読めてない?

ぎゃーどうしよう!



「女に相談したいならゆっきーがいるじゃん!陽菜の事一番良く理解してくれてるし」

一人悶々としていると、あたしの名が上がった事で、ハッと我に返った。

⏰:08/09/24 19:57 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#33 [◆LOSh2yD9/c]
「…え?あ、そうだよね」

落ち着けあたし。

「……ゆっきーは、陽菜の味方じゃん」

直くんが拗ねたように口を尖らす。

え?そりゃあ…まぁ、味方と言うか、もし相談メールが来たら、あたしはきっとダメ出し一杯するだろうな…

「…そりゃあ、味方?かもしんないけど、あたしは二人がうまくいく為なら何でもするし、相談に乗れると思うよ?」

⏰:08/09/24 23:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#34 [◆LOSh2yD9/c]
あたしはニコッと笑った。
…そりゃあ、陽菜の味方だけどさ、陽菜は直くんが好きなんだよ。
話を、顔を見ていればわかる。本当に直くんが大切なんだなぁって、そう思える。
一年付き合ってるんだから、そんな事くらい直くんだってわかってる筈だよ。

だから、あたしはこんな事で(って言ったら二人は怒るか)二人が終わって欲しくないの。

…もっと、素直になりなよ。
初めの頃の気持ちを思い出してさ。
正直に、自分の気持ちを…

⏰:08/09/25 00:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#35 [◆LOSh2yD9/c]
言葉に出来ない思いを巡らせる。
どうやって伝えよう。
考えが上手くまとまらない…


「もう………耐えらんない。」

少しの沈黙の後、陽菜が声を振るわせて言った。

「……もう、疲れたよ」

「どうしていつも……陽菜は他の男とメールしないのに…ツ」

「直人…、もう別れよう。」

あぁ…まずいぞこれ…!!

⏰:08/09/25 00:19 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#36 [◆LOSh2yD9/c]
「…………嫌だ……グスッ」

これまで涙を必死に堪えていたであろう直くんは、ついに声に出して泣き出した。(大泣きじゃないけど)

…あちゃー…。
泣いちゃったよね、これ。
本当ごめんね直くん。
あたしいてごめんね。

「……ツ…何で泣くんだよ…グスッ…泣きたいのは、…こっちだし…」

陽菜もつられてか、直くんと同じように泣き出す。

⏰:08/09/25 00:35 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#37 [◆LOSh2yD9/c]
…あのさぁ、泣く程お互い好きなんだよねぇ?
それわかってる?
それもうはっきり証明してるから。
後は…

あたしが今思った事を二人に訴えようとしたその時。


「…ツ俺は陽菜が好きなんだよ!陽菜以外考えられない!別れるなんて絶対嫌だ!!」

ちょっ…
うぎゃー!恥ずかしい!!
あたしが恥ずかしい!!!
そーゆーのは余所でやれっ

⏰:08/09/25 00:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#38 [◆LOSh2yD9/c]
…と、内心パニクっていたが、普段顔に出ないあたしは冷静に陽菜に向き直り、優しく尋ねた。

「直くんはあー言ってるけど、陽菜はどうなの?本当に、別れたいの?」

「……ツ…」

「………グスッ…」

静寂な闇に、二人の涙音だけが響いている。

「……陽菜だって…、本当は、別れたくないよぉ…」

⏰:08/09/25 00:50 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#39 [◆LOSh2yD9/c]
…やっぱりそうなんじゃん。
じゃあ、やるべき事は一つだね。

あたしは隣で泣きじゃくる陽菜を宥めるように、ポンポン…っと軽く頭を叩いた。

直くんに目をやると、予想だにしていなかったのだろうか、驚いた表情をして陽菜を見ていた。

「…ねぇ直くん。どうして直くんは、あんなに陽菜が嫌がる事をしちゃうの?」

「………」

⏰:08/09/26 00:15 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#40 [◆LOSh2yD9/c]
「直人は女好きだもんね。誘われればほいほいついて行っちゃうような奴だよ」

あたしは陽菜の発言には何も触れず、直くんに再度問い掛ける。

「そんなに直くんは、女友達と遊びたい訳?」

直くんの反応はないままだ。

「それならそれで陽菜に言うべきだよ。隠して女と逢うなんて、浮気と変わんないんじゃない?逆にされたらどう思う?」

「……ごめん」

⏰:08/09/26 07:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#41 [◆LOSh2yD9/c]
「誘いを受けたなら受けたで、陽菜にちゃんと言う。陽菜も頭ごなしに怒んないで、直くんの話をちゃんと聞く。」


相手が知らなければ、誰と逢おうがなかったこと。
秘密が増える。
例え何もなかったとしても、普通誰だって怒るし、悲しいよね。
陽菜みたいな人は特に。

だから余計言いづらくなって、ずるずる引きずってしまう。
悪循環。

⏰:08/09/27 13:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#42 [◆LOSh2yD9/c]
【直人はさ、優しすぎるんだよ…。陽菜にも、周りにも。あんまり断れない性格だし、陽菜の我が儘も何だかんだで聞いてくれて…。】

いつかの陽菜の言葉が再生される。
あぁ、そんな事良く言ってたよね。
胸の内を話す時の陽菜は、いつも苦しそうに笑ってたっけ…






……わかってるんだ。

⏰:08/09/27 22:40 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#43 [◆LOSh2yD9/c]
本当は、全部わかってるんだ。

陽菜は。

だけど、独占欲が、意地が、プライドが、色んなものが邪魔してしまうんだろう。

だから…わかってしまった時、爆発する。

あくまであたしの推測だけど、近いんじゃないかな。

⏰:08/09/27 22:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#44 [◆LOSh2yD9/c]
…あー


何か焦れったくなって来た。

何であたしがあれこれ考えてんだ。

二人は相変わらず無言のまま。

そろそろまとめちゃっても良いかな?

この公園に来てから気付いた事がある。

…結構寒いんだよね。

君達は、寒くないの?

⏰:08/09/28 07:32 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#45 [◆LOSh2yD9/c]
…まぁ、それどころではないか。

「………仲直り、する?」

あたしは静かに聞いた。

「………」

「………」

「…………俺は、仲直りしたい。陽菜と別れたくない」

「………………これで最後だよ。次やったら本当に別れるから」

「…うん。ごめん……」

⏰:08/09/28 16:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#46 [◆LOSh2yD9/c]
「……それからっ、もう隠し事はしないで!陽菜も、少しは大人になれるよう努力するから…」

陽菜は拗ねたように言葉を続ける。

「…陽菜だって、直人と別れたくないし」

途端、直くんの顔がパッと華やいだ気がした。



「クスッ…」

あたしは思わず小さく笑った。

⏰:08/09/29 23:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#47 [◆LOSh2yD9/c]
何か可愛いなぁって。
良かったなぁって。

そう、思ったから…


やっぱりあたしが来なくても、この二人は大丈夫だったかな…。

「…良かったよ。これで一件落着って事で、いいんだよね?」
あたしは満面の笑みで問い掛ける。

「うん…。ゆっきー、ありがとう。…本当に、来てくれてありがとう。」

⏰:08/09/29 23:38 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#48 [◆LOSh2yD9/c]
「え、そんな、全然だよっ!てか寧ろごめんね、何か勝手に来ちゃって…」

陽菜にありがとうって言われて焦るあたし。
だってあたし何もしてないしさ、少しでしゃばった感あるし…。

「ううん!謝るのはこっちだよ…。巻き込んじゃってごめんね。でもゆっきーのお陰で仲直り出来たよ…」

「あたしは大丈夫だよ。でも、本当に良かったよ。電話来た時はまじびびったかんね!どーしようかと思った。こんなの初めてだしさ」

⏰:08/09/29 23:51 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#49 [◆LOSh2yD9/c]
「あはは…陽菜もう頭に血がのぼりまくっててさ、気付いたらゆっきーに電話してた」

そう言ってえへっと照れ笑いをする陽菜。
あたしもつられて笑う。

そして直くんが若干気まずそうにあたしを見る。

「…ゆっきー、俺もごめんな。ありがとう」

「あたしはいいから、陽菜を大事にしてあげてね。今度泣かしたら許さないよ?」

「おう…!」

⏰:08/09/30 00:02 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#50 [◆LOSh2yD9/c]
「あたしの許可があって付き合えている事、忘れないでよ?」

あたしは意地悪く直くんを指差しながら言った。

「そうだよ直人っ!!」

「え?そうなの?!…あ、はい」

あたし達は一斉に笑った。
空は未だ暗く、肌寒いままだ。
けれどさっきとは違い、暖かい空気があたし達を包んでいるようだった。

「てかさ、ちょっと寒いよね?」

⏰:08/09/30 00:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#51 [◆LOSh2yD9/c]
「陽菜も思ってたぁー」

「…確かに」


「あたし達笑えるね。何時間此処にいんだ?」

「てか今何時?」

「3時過ぎだ」

「まじかよ〜4時間近くはいるのか」


さっきの張り詰めていた空気はどこへやら。
談笑を始めるあたし達。

⏰:08/09/30 00:18 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#52 [◆LOSh2yD9/c]
「よし。じゃあ…ずっと此処にいるのも何だし、行くか!」

「え?何処に?」

「あたしんち!こーなったら三人で朝まで遊ぶよっ」

「えっ?!」

「心配するな。ゲームなら家に一杯ある」

「いやそーじゃなくて…」

「つべこべ言わずにさぁ立った立った!あ〜何か気が抜けたら腹減って来ちゃったよ〜。あ、食べ物もあるから安心してね」

⏰:08/09/30 00:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#53 [◆LOSh2yD9/c]
「えー、ちょっとゆっき〜…」


後ろで何か聞こえたけど、そんなのは知らない。

だって何か嬉しいじゃない?
まるで自分の事のように嬉しいの。

君はあたしの親友。
あんたはあたしの親友の彼氏。

二人共、大切だし大好きだよ。

これからも、この先も、この思いは変わらない。

⏰:08/09/30 00:34 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#54 [◆LOSh2yD9/c]
あたしはブランコから立ち上がり、お尻をパンパンッと払った。
そしてくるりと後ろを振り返り、陽菜に左手を差し出す。

初めは頭にハテナを浮かべていたが、直ぐにニコッと笑って陽菜は右手を伸ばした。

「はい。直くんも」

陽菜が立ち上がったのを確認して、次は直くんにあたしの右手を差し出した。

「え…?」

「ほらっ…」

⏰:08/09/30 00:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#55 [◆LOSh2yD9/c]
直くんは少し戸惑っているようだったが、おずおずと左手を伸ばして来たので、あたしはそれをパシッと勢い良く取った。

「え、な、何だよ…」

動揺の声が聞こえてきた。

「だから帰んの!」

「このままぁ?!」

素っ頓狂な声が聞こえた。

「そう、このまま」

「はあぁ?!!」

絶句と共に笑い声が混じる。

⏰:08/09/30 00:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#56 [◆LOSh2yD9/c]
「良いじゃん。誰も見やしないよ、こんな時間だし」

「そりゃ、そーだけど…。でも何だこれっ」

直くんも笑い出す。

「…たまには、良いんじゃない?」

あたしも自分でやってて、この異様な光景に客観視して笑えてきた。

「仲直りした、記念?」

「何だそれっ」

⏰:08/09/30 01:02 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#57 [◆LOSh2yD9/c]
「なら俺は陽菜と手繋ぎたいよー」

「あはは確かに。でも今日はこれで良いの〜っ」

「陽菜はこれで全然良いけどね!」

寒い公園に笑い声が響く。
あたしは寒いけど、これなら暫く此処にいても良いかな、なんて思った。
違う意味で温かいから。

「じゃあ行こっか!」

「うん!」

あたし達は出口の方へと向かう。

⏰:08/09/30 01:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#58 [◆LOSh2yD9/c]
ねぇ陽菜。

あたしはね、陽菜が笑ってくれれば嬉しい。

悲しんでる姿は見たくないの。

涙を流して、傷付いている陽菜を見るのはあたしも辛いの。


だからね、陽菜が笑ってくれるなら、あたしは何処にでもいくし、何でもするよ。(出来る範囲であれば)

⏰:08/09/30 16:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#59 [◆LOSh2yD9/c]
だって陽菜はあたしの唯一無二の親友だもん。

陽菜もあたしと同じ気持ちだって自信、あるよ。


そして、ちょっと我が儘で自己中な、寂しがり屋で優しい陽菜の事が、直くんに負けないくらい大好きだよ。

百歩譲って任せるけどさ!

⏰:08/09/30 17:02 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#60 [◆LOSh2yD9/c]
だからどうか笑っていて。

陽菜が幸せならあたしも幸せ。


この赤い糸が解けそうになったら、あたしがいくらだって繋きとめるよ。

あたしは手で繋がれた見えない赤い糸を、もう二度と切れないようにしっかりと握り締めた。

⏰:08/09/30 17:15 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#61 [◆LOSh2yD9/c]
…そう。

これは、陽菜とあたしと直くんの赤い糸。









*END*















「…あ!そいや俺達、バイクとチャリだったよな……?」

「ああぁーっっ!!」

「ちょー忘れてたぁ〜!」

「あはは…」

⏰:08/09/30 17:44 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#62 [◆LOSh2yD9/c]
>>2-61
君とあたしとあんたの赤い糸

⏰:08/09/30 18:54 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#63 [◆LOSh2yD9/c]
"実紗は将来何になりたいの?"


"…わかんない。でも、看護師だけは絶対なんないな!"











『私の理由』

⏰:08/10/01 00:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#64 [かな]
ぁあげ

⏰:08/10/01 01:44 📱:D705i 🆔:n4XOR9RA


#65 [◆LOSh2yD9/c]
あれ、orderしていたつもりでしたが…
でもあげありがとうございます

⏰:08/10/02 00:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#66 [◆LOSh2yD9/c]
"実紗は将来何になりたいの?"


"…わかんない。でも、看護師だけは絶対なんないな!"











『私の理由』

⏰:08/10/02 00:19 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#67 [◆LOSh2yD9/c]
私は森川実紗、二十二歳。
看護師二年目のまだまだ新人ナース。

今日は夜勤明け。
そして今、私は電車の中で程良い揺れに身を任せ、うとうとと船をこいでいる。

今日の申し送りは長くなっちゃったなぁ、と思いながら時計を見た。

11時30分

もうすぐお昼になる。
この時間は電車が空いていて本当に助かる。
朝のラッシュ時みたいに満員だったら、夜勤明けには相当応える。

⏰:08/10/02 01:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#68 [◆LOSh2yD9/c]
意識が遠退く中、駅に着いた事を告げるアナウンスの声に、一気に脳が覚醒する。

やばっ!

私は慌てて立ち上がり、ドアの向こうへと走った。

私が電車から降りると、プシューっと音を立て扉が閉まった。

危ない危ない。
乗り過ごす所だった…。


電車はゆっくり動き出し、次の駅へと走り去って行った。

⏰:08/10/02 01:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#69 [◆LOSh2yD9/c]
私は駅ナカの小さな喫茶店に入った。

此処は私の最寄り駅だけど、滅多に寄らない店だ。

何でかって?
…特に理由はないけどさ。


今日は偶々ままも夜勤明けで、じゃあ久々にお茶でもしようか。って事になって、この場所に決まった。

私は実家住みで、ままもこの駅が最寄りになるから帰り道同じだし、じゃあ此処で良いんじゃん?って事で。

⏰:08/10/02 01:31 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#70 [◆LOSh2yD9/c]
私はアイスコーヒーだけ頼んで、奥のテーブルに座った。

私以外に何人かちらほらと座っているが、本を読んでたり二人でお喋りを楽しんでいたりと、みんな思い思いにそれぞれの一時を過ごしている。

そんな光景をぼけーっと見ながらカップに手を伸ばした。

…っあー

この一杯が堪らん。
私はこのアットホームな空間に、居心地の良さを感じていた。

⏰:08/10/11 16:38 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#71 [リーザ◆I94GMMnlgM]
…にしても。

今日のこうちゃん、可愛かったなぁー。

思わずにやけてしまった。

…いかんいかん、今は一人なんだ。絶対怪しい奴に見えるよな…私。

そうは思っていても、堪えようとすればする程、何か可笑しくなってくる。

別に何が面白い訳ではないけど、自然と笑顔になってしまう。

本当、癒されるなぁ…

⏰:08/11/09 02:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#72 [◆LOSh2yD9/c]
こうちゃんとは、私達の病院に入院している患者様で、皆(スタッフ)のアイドル的存在なのだ。

笑顔の可愛いお爺ちゃんで、いつもニコニコしてる。

どんなに疲れてても、

『ありがとう』

と言う笑顔で、すぐ元気になれちゃうんだよね。



「…あんた、何一人でニヤニヤしてんのよ」

⏰:08/11/09 07:23 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#73 [◆LOSh2yD9/c]
「ぶっ!!?」

口元に運んであったコーヒーカップがカチャッと音をたて、突然降って来た声に、危うく吹く所だった。

慌てて顔を上げると、向かいの席にままが不適な笑みを浮かべて立っていた。

「ちょっ…吐くとこだったじゃん!」

ままはクスクスっと笑うと、ホットコーヒーとサンドイッチを乗せたトレイを置いて、椅子に座った。

「ねぇ、やっぱやばかった?私」

⏰:08/11/09 17:22 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#74 [◆LOSh2yD9/c]
「かなりね」

そう言ってままはコーヒーを一口飲んだ。

「…えーまじどうしよ。てかこうちゃんが悪いんだよっ!」

ちょっとまずかったかな、と思いながら、全部こうちゃんの所為にする私。

…だって、本当だもん。

……………うん。

「またこうちゃん?今日も可愛かったの?」

こうちゃんの名前が出て、ままは呆れたように楽しむように笑った。

⏰:08/11/09 17:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#75 [◆LOSh2yD9/c]
「うん!今日もちょー可愛かったよ。羊羹♪羊羹〜♪♪って」

「本当に羊羹が好きなのねー」

私達は一斉に笑った。

「何かさぁ、どんなに忙しくても、こうちゃんのおやつの時間はちゃんと守りたいんだよね」

「あら、贔屓は駄目よ〜」

「わかってるけどさぁー…。やっぱ、こうちゃんが一番可愛いや!」

「ふふ。こっちにも、こうちゃんみたいな人がいたらいいのに」

⏰:08/11/09 23:48 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#76 [◆LOSh2yD9/c]
「本当だね。癒されるよ〜」

「相変わらず楽しい職場だこと。ね?」

そう言って意地悪く笑い、サンドイッチに手を伸ばした。


―そう。

私のままも看護師。

だから、私もままのような看護師になることが、小さい頃からの夢だった。

…なんて、そんなの大きな間違い。寧ろその逆。

看護師なんて、絶対なりたくなかった―

⏰:08/11/10 00:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#77 [◆LOSh2yD9/c]
「うん。楽しいよ」

私は何の迷いもなく即答した。

ままは一瞬きょとんとした後、ふっと鼻で笑った。

恐らく予想外の反応だったのだろう。

「…もう二年目だものねぇ」

「早いよね」

「……実紗が看護師になるって言い出した時は、流石に驚いたけどね」

「あはは…そうだよね。まぁ自分自身が一番びっくり、みたいな」

⏰:08/11/10 17:11 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#78 [◆LOSh2yD9/c]
私は苦笑いしながら夜勤用の余りのお菓子を口に放り込んだ。

「…しかも私さ、ままにハッキリ断言してたもんね。"私は看護師にはならないからね"って」

「しかも随分昔からね」

「…う、うん」

最早苦笑いしか浮かべられない。

そう。

あの時の私は、将来看護師になりたいなんてこれっぽっちも思ってなかった。

⏰:08/11/13 01:21 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#79 [◆LOSh2yD9/c]
「でも今じゃ立派な、でもないか?看護師さんね」

ままはまたクスリと笑う。

「ちょっとー!それ誉めてないよねー?」

私も笑いながらまたコーヒーを飲む。


―――いつからだろう。

私が看護師になろうと決意したのは…

―――あぁ、高校最後の夏か…

我ながらふざけてるよなぁ。
それまで本当に何も考えてなかったんだから…

⏰:08/11/13 01:29 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#80 [◆LOSh2yD9/c]
中学…高校って、将来のことを聞かれた時、特別夢がなかった私は、いつも"え〜まだ良くわかんないよ〜"って答えてた。

興味のあることや好きなことは勿論あったけど、それを仕事にしたいとか思えなかったし、私自身、将来について真剣じゃなかったんだよね。きっと。
てかそうか。

でも昔から"看護師にはなりたくない"って考えはハッキリあった。

"何で?"って言われたらハッキリ答えられなかったけどさ。
自分でも良くわからなかった。

⏰:08/11/13 01:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#81 [◆LOSh2yD9/c]
今でも何でそう思ってたんだろう、って思う。

でも、高校3年にもなればみんな将来のこととかちゃんと決まってる時期だし、それに向けて動き出して一生懸命になっている友達を見て、流石に私も焦った。
それじゃ遅いんだけどね。

何となく漠然と考えてはいたけど、"まぁ何とかなる"って現実から目を反らしてた。

成績はそんな悪くはなかったし、やっぱり遊んでる時の方が楽しいもんね。

⏰:08/11/13 01:51 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#82 [◆LOSh2yD9/c]
馬鹿な私は高校最後の夏、やっと真剣に自分の将来について考えた。


「………まま、私、……看護師になる」


色んな学校を見て回って、沢山悩んで沢山考えた結果、辿り着いた答えは私が"絶対なりたくない"と断言したものだった。

私の答えに、ままは一瞬だけ驚いた顔をした後、"……そう。頑張りなさい"と、只優しく微笑みながらそう言うだけで、理由は聞かなかった。

⏰:08/11/13 02:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#83 [◆LOSh2yD9/c]
それから私はひたすら勉強をした。

遅い決断だったし、今の私の学力じゃ厳しいってわかってる。

最悪、浪人するかもしれない。

そう覚悟はしてた。


でも努力して努力して…
最後の最後まで諦めなかった。


そして、その努力が実ったのか、私は晴れて看護学生になることが出来た。

⏰:08/11/13 02:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#84 [◆LOSh2yD9/c]
…嬉しかった。

本当に、合格通知が来た時は飛び跳ねて喜んだっけ。

家族も友達も、みんな喜んでくれた。


数日後、教材やらナース服やらの荷物が届き、私は嬉しくなって早速ナース服を着てみた。

ままにそれを見せると、"…実紗も、本当に看護師になるのねぇ……"なんて言ってた。

その時ままが涙ぐんでたのは、私の見間違いじゃなかったと思う。

⏰:08/11/13 02:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#85 [◆LOSh2yD9/c]
その時、"学生じゃなくて、絶対看護師になろう"って、心に誓った。


それからが辛かった。

覚えることは山のようにあって、一つの教科が終わればすぐテストだし、毎日レポートに追われ、常に寝不足状態。

おまけに実習なんかが始まれば、遊ぶ余裕さえなかった。


何度挫けそうになったか。

何度逃げ出したいと思ったか。

⏰:08/11/14 03:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#86 [◆LOSh2yD9/c]
でも一番応援してくれて、支えてくれたのは家族だった。

同じ志を持つクラスメイトの存在が、私を強くし、成長させてくれた。

たまに遊んだ地元の友達が、私に元気を与えてくれた。

私はみんなの支えがなければ、ここまで来れなかったと思う。


ありがとう。
みんな、感謝しているよ…

⏰:08/11/14 03:40 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#87 [◆LOSh2yD9/c]
…あ。

国試が近付くと、それこそ死ぬもの狂いで勉強したっけ。

高3の時とは比にならないくらいに。

それで合格者の中に私の番号を見つけた時は、泣いて喜んだっけ。

同じく、高3の時とは比にならないくらいに。


これで晴れて私も看護師だぁ!って思うと、本当に嬉しかった。

⏰:08/11/14 03:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#88 [◆LOSh2yD9/c]
まぁ実際、なってからが一番大変だったんだけどね…

何しろ改めて覚えることが沢山あって、毎日が慌ただしく過ぎて行って…

でも、凄く充実した日々だった。


あっという間に一年が過ぎて、もうこの病院にも大分慣れた。

そして、教えてもらう立場から、教える立場になった。

⏰:08/11/14 03:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#89 [◆LOSh2yD9/c]
「…ねぇまま、私ね、今でも何で看護師の道を選んだのか、ハッキリ答えられないの。……もしかしたら心のどこかで、ままに憧れてたのかな。」

「……………」

「何で看護師なんか選んだんだろうって辛い時期もあったけど、今は本当になって良かったって思ってる。…これが私の天職だって思える」

「……あんたを見てればわかるわよ」

相変わらずままはクールだ。
でも、ちゃんとわかってるよ。ままはいつだって私を思ってくれている。

⏰:08/11/14 04:29 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#90 [◆LOSh2yD9/c]
「…これからも頑張らなくちゃね!!」

私はままの言葉ににっこり笑顔で答えると、コーヒーを一気に飲み干した。

ままはやれやれといった表情で、残りのサンドイッチを平らげた。


「さっ!帰ったら一緒に一眠りでもしよっ♪」

「帰ったら掃除洗濯、やることは一杯あんのよ」

私の満面の笑みは、冷ややかな顔で却下された。

⏰:08/11/14 04:39 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#91 [◆LOSh2yD9/c]
"行くよ"とだけ言うと、食べ終わったトレイを持って、さっさと行ってしまった。

「ちょっと待ってよー!」

慌てて追い掛ける背中に、私は思った。

こんな中途半端な私だけど、育ててくれて、見守ってくれて、支えてくれてありがとう。

これからも、この仕事に誇りを持って生きていくよ。

そして将来結婚して子供が出来たら、自慢したいな。

⏰:08/11/14 04:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#92 [◆LOSh2yD9/c]
時々思うの。
最初から私は、自分が何になりたいのかわかっていたんじゃないか……って。

…でも、可笑しいけど、やっぱりわかんないや。



―きっと、あの時私は、

"これしかない"

って思ったんだ。


今はそれで良いよね。

それが、『私の理由』―

⏰:08/11/14 05:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#93 [◆LOSh2yD9/c]
>>2-61
君とあたしとあんたの赤い糸

>>66-92
私の理由

⏰:08/11/14 05:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#94 [◆LOSh2yD9/c]
その人との出会いで、自分の人生又は価値観等、何かが変わった時、それは性別関係なく『運命の出会い』と言えるのではないだろうか…。


――と、今なら、俺はそう思う。





俺は『運命の出会い』はあるって信じるよ。

慧弥さんと出会って、俺を取り巻く環境が変わって、俺自身も変わった。


あんたも、そう思うだろ?





『運命の出会い〜俺論〜』

⏰:09/02/23 16:26 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#95 [◆LOSh2yD9/c]
この世は奇妙な事だらけだ。


俺がそうなのか。

周りがそうなのか。

………いや、きっと周りだな。

だって俺は至って普通な男子学生で、至って普通な家庭で育ち、至って普通な恋愛をしていて…

まぁ、要するにどこにでもいそうな18歳の健全な男子ってワケ。




所がどうだ。

俺は今、真夜中に突然彼女に呼び出され胸を高ぶらせながらいつもの場所に着いた途端―――

⏰:09/02/23 16:32 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#96 [◆LOSh2yD9/c]
「遅かったね湊。あのさ、別れよ」

ニッコリと可愛い顔して何言ってやがんだコイツ

「…は?」

当然俺はそう返した。

「だから、別れよ。」

尚も可愛い笑顔でさらりと言い放つ、俺の愛しい人。

「…何で?つか、意味わかんねーし」

そうだ。
意味わかんねーよ

俺たち、何か問題あったか?
…いや、ない。

喧嘩してたか?
……いや、してない。

そうだよ。
昨日だってデートしてラブラブに過ごしたし、先月一年記念日を迎えたばかりじゃねーか!

⏰:09/02/23 16:35 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#97 [◆LOSh2yD9/c]
………これは夢か?
あぁ、俺は夢を見てんだな。


「ごめんね。別にね、湊のこと、嫌いになった訳じゃないんだよ?」

「………」

「湊は顔もいーし、あ、可愛いって言った方が合ってるか。好きなのは変わらないんだけど…」

「………」

「兎に角ねっ最近、未那のバイト先に美形が入ったの!それで、未那、今まであーゆータイプと付き合ったことなかったから、超興味持っちゃってさ〜」

「………」

「だから、ごめんね?」

⏰:09/02/23 16:39 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#98 [◆LOSh2yD9/c]
―――――――――


…………ああ


悪夢だとも。


俺の恋は今さっき終わった。


……あの女は悪女だ。

人の皮を被った悪魔だ

あーゆーのを魔性の女って言うんだな

いや性格に問題がある

…と言うか、人間として間違ってる!!!



「…………っ」

⏰:09/02/23 16:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#99 [◆LOSh2yD9/c]
やべー
眼が潤んで来やがった!

…おいおい、まさかの涙か?!

クソー
あんな女の所為で泣いてたまるかよ


「…………」

そんな俺の気持ちとは裏腹に、一滴の涙が頬を伝った。

「…っはあああぁー」

俺は盛大に溜め息を吐いて、がくりと柵に項垂れた。



―…本気だった。
俺は未那のこと、本当に好きだったんだ。

⏰:09/02/23 16:46 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#100 [◆LOSh2yD9/c]
はああぁー
駄目だ俺、重傷…
……カッコ悪ィー

目の前に広がる夜に染まった川をぼんやりと眺め、どこまでも深いこの闇色に吸い込まれそうだと思った。


あれから俺は、とても家に帰る気になれなくて、友達んちに行こうとも思えなかったし、…兎に角一人になりたくて、気がついたらこの公園に来ていた。

思った通り、人一人いなくて少し安心した。
こんな所、例え知らない奴だとしても見られたくねーし!


「……はぁ」

俺はもう何度目かの溜め息を吐いた。

⏰:09/02/23 16:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#101 [◆LOSh2yD9/c]
明日学校行きたくねーなぁ。
玲司に何言われっかわかんねーし、絶対あいつ馬鹿にするな…


『あはは!ほら見ろよあんな軽そうな女、絶対浮気するって言っただろ〜まぁ一年持っただけでも良しと思えよ』


ぐあ…!!
痛い言葉が突き刺してくるー(想像上で)

俺は頭をガシガシ掻きながら、未那に言われた言葉を思い出していた。



『それにね、未那、一年持ったのって湊が初めてなの!だから未那にしてみれば良く持ったなって感じ♪じゃあ、今までありがと。じゃね〜!』

⏰:09/02/23 16:54 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#102 [◆LOSh2yD9/c]
あんな満面な笑顔で去られて、もう何て言うか、怒りとか悲しさを通り越した何とも言えない感情が、胸にしっかりちゃっかりぽっかりと大穴を開けた感じだった。


クソー
腹立つ!!
また潤んできやがったー
俺の涙腺崩壊っっ
ガアアアアッ情けねぇー
いっそのこと大泣きした方がすっきりするかな…

あーでも絶対目ェ腫れる…
男が失恋で大泣きして目腫らして学校休んで寝込むなんて……

そんな恥ずかしいこと出来るかあああああああっっっ

無理だムリムリ!!
落ち着け俺!
冷静になるんだっ

⏰:09/02/23 16:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#103 [◆LOSh2yD9/c]
「…はぁ。」

………何か疲れた。

アホらし…


ふわっと生暖かい風が吹いた。
木の葉が揺れる音が聞こえる。

今日が真冬じゃなくて良かったな…
と、星空に向かって小さく微笑んだ。

ちょっとベンチにでも座るかと思い後ろを振り返ると、丁度真後ろにベンチがあったので、俺はトボトボトと歩き出した。


「よいしょ…」

……俺はおっさんか!

と、心の中でツッコミを入れた。

⏰:09/02/24 02:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#104 [◆LOSh2yD9/c]
「…はぁー」

駄目だ。
全てにおいてもう、溜め息しか出ないや

「はぁ……」

…そのことにも溜め息が出る。



「………」



どのくらいそうしていたか、俺はずっと地面を見つめていた。
たぶん、ほんの二、三分程度だろう。
でも今の俺にとっては、時間の流れがスローに思える…

⏰:09/02/24 02:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#105 [◆LOSh2yD9/c]
「……はぁー」

もう一度大きく溜め息を吐くと、俺は顔を上げた。

夜空は先程と変わらず、光り輝いている。
とても綺麗で、また泣きそうになった。


俺ってこんな泣き虫だったかな…
あー最悪!
だっせー



「はぁ。」



そんなことを思っていると、隣から俺のではない小さな溜め息が聞こえてきた。

⏰:09/02/24 03:00 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#106 [◆LOSh2yD9/c]
「!!?」


俺は吃驚して、勢い良く声のした方へ顔を向けた。

そこには、長く伸びた脚を組み、頬杖を突いた男が座っていた。

「………」

「…っ???」


……なっ、ななっ?!
ななな何で此処に人がいんだあーっ!!?

開いた口が塞がらないとはこの事かと、声にならない声を上げて、俺は、強く思った…


「……は?なん、で…??」

⏰:09/02/24 03:04 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#107 [◆LOSh2yD9/c]
いつからだ?
いつからコイツは隣にいたんだ??!

つーか!そもそも何なんだ一体!?
此処に着いた時は誰もいなかった筈…
それに、気配とかで普通気付くよな……

俺が隣に突如現れた?男を凝視したまま一人でパニクっていると、そいつは視線だけこちらに向けて、またすぐに戻した。

「…っ?」

な、何なんだっ??
い、意味がわかんねーっっ!!
……あ!コイツは幽霊か?!
いやっ俺霊感ねーし!


「……あ、あのー…?」


俺は勇気を出して、とりあえず話しかけてみた。

⏰:09/02/24 03:06 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#108 [◆LOSh2yD9/c]
…冷静になれ、俺。
本当に幽霊なら溜め息は吐かない!!(筈!)


「…………」

そいつは、まるで俺のことなど眼中にないかのようにぴくりとも動かず、黙ったまま目を伏せた。

「………??」

俺は一瞬戸惑ったが、此処を離れるには今がチャンスだとふと思った。(何の根拠もないが…)

だってそうだろ?
こんなワケわかんねー奴が隣にいてさ。
しかもこんな真夜中に!
怪しすぎるっつの!!
今の世の中何が起こるかわかんねーし、早急にこの場から立ち去らねばっっ

⏰:09/02/24 03:11 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#109 [◆LOSh2yD9/c]
そう思った俺は、奴に気付かれないようそーっと腰を上げかけた。

…その時。


「行くの?」

「え?!!」

俺は驚いて奴の方を見ると、さっきと変わらず頬杖突いたままだが、今度はしっかりと顔を向けていた。

その瞬間、この夜と同じ色をした瞳と眼が合った。
どこまでも深い、吸い込まれそうな闇に……


「…いや……」

俺は慌てて目をそらし、上げかけた腰を戻した後、そう答えた。

⏰:09/02/24 03:15 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#110 [◆LOSh2yD9/c]
「…そ」

奴は小さく呟くと、また目を伏せてしまった。

「………??」

何か良くわかんねーけど、危害を加えるような危ない奴ではない……のかな?
怪しい奴だけど!


「………」

俺は再び夜空を見上げた。
何だか、不思議な気分だな…



「はぁ。」

そんなことを思っていると、再び小さな溜め息が奴から聞こえてきた。

⏰:09/02/24 03:18 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#111 [◆LOSh2yD9/c]
「…げ!!」

振り向くと、そこには負のオーラと言うか、重い空気と言うか…
兎に角、ドス黒いどよーんとした物体がのし掛かるように奴の周りを覆っていた。

そう!
まさにこの夜の公園と一体化しているかのように!!

……て、


「え?!ちょっ…大丈夫ですか??!」

俺は慌てて奴を揺さぶる。

「おいっしっかりしろって…!」

変な汗が出るとはこのことかっ……!!

と、奴の周りの変なオーラを振り払いながら一瞬思った。(変なとこ冷静)

⏰:09/02/24 03:22 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#112 [◆LOSh2yD9/c]
すると、相変わらず無表情のまま視線だけこちらに向けて答えた。


「…安心しろ。お前にもちゃんと憑いている」

「……はあああああっっ??!!」







――そう。


これが、俺と慧弥さんとの出会いだった……―――

⏰:09/02/24 03:25 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#113 [◆LOSh2yD9/c]
……成る程ね。

俺自身も、途轍もない巨大なドス黒い負のオーラを纏っていてこの夜と同化してて、あんたも同じくらいの負のオーラを発していたから、後から来た俺には既に夜の闇と一体化してたあんたに気付かなかったって訳だぁ!



「…って納得いくかボケェェェッッ!!」

「………」

「ったく何なんだよ。同化とかありえねーだろ……」

俺は自嘲気味に笑った。

「…事実だ」

「っ…あのなぁ……」

⏰:09/03/02 00:57 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#114 [◆LOSh2yD9/c]
相変わらずな態度のコイツは、顔を向けないまま淡々と言葉を発している。

「現に、お前は俺の存在に気付いていなかっただろう…?」

「ぅ゙………」

確かに、全く!気付かなかったけどさ…
だってあの時はそんな余裕なかったし…
しかも、同化とか非現実的だろ。
漫画の世界みたいで、何かもう笑えてくるぜ…


「それ程、気分が滅入っていたんだろう、お前も。…俺も」

「え……」

そう言ってまた目を閉じてしまった。
コイツも…何かあったから、こんな態度になっちゃってんのかな……

⏰:09/03/02 01:02 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#115 [◆LOSh2yD9/c]
「……似た者、同士だね」

無意識に俺は言っていた。
奴は静かに目を開くと、初めてちゃんと俺の方を向いた。


「………」

じぃーっと俺を見下ろす今のコイツの瞳は、今度はしっかりと俺を映していた。

「………何だよ」

淀みのない澄んだ闇色と視線が重なって、一瞬ドキッとした。
全て見透かされそうな気持ちになって、俺はバッと視線をそらした。


「……家出?」

「ばっ…!?ちげーよっ!!」

⏰:09/03/02 01:06 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#116 [◆LOSh2yD9/c]
「成績悪くて親と喧嘩とか?」

「……ちげっつの!」

「大事な物壊したとか?」

「……違う」

「友達と喧嘩?」

「…違う」

「んーじゃあ…」

「つか!俺そんな餓鬼に見えんのかよっ!」

「…高校生ぐらい?」

「大・学・生・だっ!!」

「……変わんねーだろ」

「ムッカー!!」

⏰:09/03/02 01:08 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#117 [◆LOSh2yD9/c]
「………」

「んだよあんただって俺とそんな変わんないんじゃねーの?二、三個上くらい?」

「…………28」

「に゙じゅっ?!!(十個上でしたあ〜!!)」


「……いや、あの、すみ゙ま゙せん゙でした…!!」

「は?」

「いや…何でもないっす……」

「………面白い奴」

⏰:09/03/02 01:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#118 [◆LOSh2yD9/c]
そう言って小さく笑うコイツを見て、この男結構美形かもなと思った。

少し離れた場所にある電灯と、月明かりだけが頼りだから暗くて気付かなかったけど。


それと同時に、未那の言葉を思い出して目の奥がジワッと熱くなった。


「…っ」

マズイ!!
ひじょーにマズイぜこの状況っ!!

穴が有ったら入りたいいぃ

「………」

すると今度は反対に脚を組み直し、そっぽを向きながら奴は言った。

⏰:09/03/02 01:13 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#119 [◆LOSh2yD9/c]
「……ふられたか」

「…!!」

「…まぁ、そんなに気に病むな」

「…………」

「……世の中にはもっと深刻な問題がある」

「…っ俺にとっては大問題なんです!!」



ついムキになって怒鳴ってしまった。
…仕方ねーじゃん?事実だし?


突然俺が声を荒げたので、奴は少し目を見開いて驚いているような顔でこっちを向いた。

⏰:09/03/02 01:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#120 [◆LOSh2yD9/c]
「………そうか」

しかし奴はそう呟くと、小さく微笑んだ。

「…そうだよっっ」

俺は奴の真意が分からず、今度は俺がそっぽを向いて答えた。


隣で、フッという小さな笑みが聞こえた。


クソ〜
馬鹿にしやがってぇー!!

少しの羞恥心と怒りがこみ上げてきて、文句言ってやろうとキッと振り返ってやった。

「っ……!?」

所がどーだ。
何て顔してやがる

⏰:09/03/02 01:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#121 [◆LOSh2yD9/c]
悲しそうに微笑むコイツは、とても人を嘲るような顔をしていなかった。


「そんなに……泣く程好きだった?」


俺の中で電流が走った。
グサッと突き刺さる言葉。

「………別に…あんな奴……」

もう駄目だ……

俺の涙腺は、再び崩壊した。


「……………本気だった。なのに、あいつは…っ…」


俺の中の自制心も、涙腺とともに崩壊し、もう止められなかった。
言葉が次々と溢れてくる。

⏰:09/03/02 03:02 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#122 [◆LOSh2yD9/c]
こんな、赤の他人…
ましてや、今さっき初めて逢った奴なんかに話した所で何もならないのに…


頭では分かっていても、俺は感情のまま奴にぶつけた。
その間、奴は嫌な顔一つせず、真剣に俺の話を聞いてくれていた。



「………」

大体のことを話し終えると、奴は腕を組み、黙り込んでしまった。


「……あのー?」

長い沈黙に耐えきれなくなった俺は、遠慮がちに声をかけた。

⏰:09/03/02 03:04 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#123 [◆LOSh2yD9/c]
やべー!!
やっぱマズかったよな…
急に見ず知らずの奴に、しかも男!から失恋話聞かされた挙げ句、泣かれてみろよ……

あ゙あ゙ぁ゙
ありえねーっ!!
何だコイツって思うよな?!
ぜってー思う!普通思う!!
俺が奴だったら絶対思うね!!!
馬鹿じゃんきめー泣き虫とか色々…

「あのさ……」

「へ?」


突然(俺が思考を張り巡らせている時に)話かけられたので、俺は間抜けな声を出してしまった。

そんなことは気にもとめずに、奴は言葉を続ける。

⏰:09/03/02 03:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#124 [◆LOSh2yD9/c]
「…今は、辛いかもしれないが……いつか、良かったと思える日が来ると思う。」


区切りを付けながら述べる奴は、俺に気を使い言葉を探しながら話しているようだった。


「お互いを想い合ってこその愛だろ?…お前にもきっと現れるよ。運命の人が……」



…心が、揺れ動いた気がした。

奴の瞳は真っ直ぐで、真剣で、とても優しかった。


「………」

⏰:09/03/02 04:26 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#125 [◆LOSh2yD9/c]
俺は暫く何も言わなかった。

いや、言えなかった。

言葉が出てこなかったんだ。


もっと馬鹿にされるかと思ったから…
少し、嬉しかったんだ。


「……あの、…ありがとう」


俺はそれだけ伝えると、一気に今までの恥ずかしさが増して、奴を直視していられなくなり下を向いた。

少しは、楽になった。
話して良かったかもしれない。

……恥ずかしさは半端ないけど!!

⏰:09/03/02 04:30 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#126 [◆LOSh2yD9/c]
隣でまた奴の鼻で笑う音が聞こえた。
今度はきっと、人を小馬鹿にしたような顔でいるに違いない!!


「…でも、少しはすっきりしただろ?あんだけ話して泣けば」

っんのヤロー!!
ぜってー嫌味だっ!!
前言撤回!!!


「はいはいお陰様で!!」

フンッと鼻息をたててそっぽを向いてやった。
ダサいのはもう充分承知だっての!
俺は怒り全開な態度で言った。


「はは……そう怒んなって」

⏰:09/03/03 08:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#127 [◆LOSh2yD9/c]
隣で呟く奴の声は、少し悲しみを帯びていた。

俺はそんな奴のことが少し気になって、わざと戯けたように聞いた。


「じゃー次はあんたの番!あんただって泣いてただろ?」

泣いてはなかったと思うけどね!
ふんっ嫌味返しだ!!


軽くあしらわれるだろうと思いながら奴の方に向き直すと、思いがけない姿があった。

「…………」



ずーん。

⏰:09/03/03 09:03 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#128 [◆LOSh2yD9/c]
…そう


どよーんと、奴の周りはまた負のオーラで覆われていた……。

黒い靄みたいなのがフワフワ浮いてるし…

ああ、これが同化ってやつね〜

…じゃねぇだろおおおおおお!!!


「ちょっ、ちょっとあんた何やってんだよ!?」


俺は思いのまま奴を激しく揺さぶったが、相変わらずどよーんとした物?は消えそうにない。

「………」

⏰:09/03/03 09:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#129 [◆LOSh2yD9/c]
あぁ…
最早コイツに俺の声は届いていない。

闇に押しつぶされているっ!!


おいおい
コイツも俺と同じくらいやべーんじゃないか?
いや、俺以上か?!


「お前も、ふられた…とか?」

恐る恐る聞いてみる。


ん?待てよ
こんな美形ふるなんてどんな女だよ?!
いや、そもそもふられたと決まった訳じゃないか…

でもこの落ち込みようは……

⏰:09/03/13 23:13 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#130 [◆LOSh2yD9/c]
「……言っただろう。もっと深刻な問題があると」

気付けば奴を取り巻く靄は消えていて、ガクッと項垂れていただけだった。


「…???」


「………離婚の危機だ」


「…っええぇ??!」


つか結婚してたのか!
もしや子供いたりすんのか?
まじかよ想像できねぇよ〜〜

⏰:09/03/13 23:51 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#131 [◆LOSh2yD9/c]
あ!思考が脱線したっっ

えと、何だっけ…?

あ、そう!!

ふ、ふられたとか言う以前の問題だよな…
俺なんかよりずっとやばくないか?
精神的ダメージが……


「………」


こ、言葉が出ない…!!

何を言ってあげれば良いんだ?

そもそも、俺に何が言えるんだ?!

⏰:09/03/14 02:28 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#132 [◆LOSh2yD9/c]
アドバイスっつったって俺は結婚の経験なんかないし、大体俺は奴より十個も年下で、人生経験もまだまだな訳で…


『新しい人見つければいーじゃん』


駄目だ。

これは結婚してる人に軽く言える台詞じゃねぇよな…


うわぁー

どーしよ?

この沈黙どーすりゃいい?!!

凄くいたたまれないんですけど!!

⏰:09/03/14 02:44 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#133 [◆LOSh2yD9/c]
………ん?待てよ?

危機?


「危機…ってことは、まだ大丈夫なんだろ?」

俺は言葉の違和感を感じた。
"危機"ということは、まだ離婚はしてないんだよな…?

「………」

奴は俺の問いに答えず、俯いたままだ。


あぁ…
地雷を踏んじまったかな

⏰:09/03/17 01:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#134 [◆LOSh2yD9/c]
馬鹿だ俺
家庭の事情に土足でズカズカ入ったようなもんだ
そんな最悪なことされて…
傷付いて悲しむのは良く知っている筈なのに。


「ご「シュレッダーの中から離婚届が出て来たんだ…」

「は?」

突然何言ってやがんだコイツは!!?
しかも俺が謝ろうとした時にっ
被っただろ!

「判子は押してなかったが、名前は書いてあったんだ…」

奴は俺が言いかけた言葉に気付いていない様子で言葉を続ける。

⏰:09/03/17 01:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#135 [◆LOSh2yD9/c]
まぁ、いいけどさ……


「シュレッダーの中…って、その紙は細断されててわからないんじゃ…?」

「あぁ、見事に細かく切り刻まれててわからなかった。だが気になって繋げた結果…」

「はぁあ??!あんな細かくなったもんを復元したのか?!」

「…職業柄、細かい作業には慣れている」

「いやそーゆー問題じゃね〜!!」

俺が透かさずツッコミを入れると、奴は小さく笑った。

⏰:09/03/17 01:59 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#136 [◆LOSh2yD9/c]
いや笑ってんじゃねーよ!
普通そんなことしないだろおおぉ
何かコイツ危なくないか?!
大丈夫かおいいぃ


そして奴は再び俯くと、悲しそうな顔を俺に向けて微笑んだ。

「…ちょっと最近すれ違い気味でさ。まぁ、俺が悪いんだけどな……」

ズキリと胸が痛んだ。

俺は必死に言葉を探す。

「でも離婚届をシュレッダーにかけたってことは、奥さんは思い留まったってことじゃないですか!?」

「そうだと思うけど…やっぱり、正直ショックだよな」

⏰:09/03/17 02:01 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#137 [◆LOSh2yD9/c]
ああ…

益々何も言えねぇよ


俺は何も言えないまま、奴の顔を盗み見る。

もっと深刻な問題…か

確かに、俺のことなんかと比べられるような問題じゃないよな

そもそも比べること自体間違ってるぜ…


「しかも…暫くは逢えないだろうし、また距離が広がってしまうな…」

⏰:09/03/23 21:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#138 [◆LOSh2yD9/c]
奴はそう言うと、嘲うかのように溜め息を吐いた。

「逢えないんですか…?」

"どうして"か気になったけど、深く聞いて良いものかと躊躇い、一歩引いた。

「うん…仕事の都合でね」

社会人は大変だなぁとぼんやり思った。


…他人事だな俺


「…あの、俺が言うのも何か…アレですけど、その、元気出して下さい。俺も、頑張りますんで!」

⏰:09/03/23 21:51 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#139 [◆LOSh2yD9/c]
ぐっはー!
俺は何意味不明なこと言っちゃってんだ〜

奴は一瞬驚いたような顔をした後、声を出して笑った。


「ははは。そうだな、お互い頑張ろうぜ」
俺はこの時、この人と奥さんが上手くいけばいいなと本当に思った。


「っと、おいもう3時過ぎてるぜ?お前学校あんだろ?」

「あー、最悪だ…」

「はは、大丈夫か?」

⏰:09/03/23 21:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#140 [◆LOSh2yD9/c]
「んー。たぶん」

俺は力無く笑う。

本当は休みたい所だけど、こんなことでサボりたくないし、休んだら何か悔しいじゃん?!


まぁでもそろそろ帰んないとまじでやばいかもな


―…でも何故か

まだ此処にいたいと思っている自分がいた。

この人と一緒にいたいと…

⏰:09/03/23 21:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#141 [◆LOSh2yD9/c]
「じゃあ…俺、帰るわ」

「…そ」

「…あんたは帰んなくていいの?」

「んー、俺もそろそろ帰るよ」

「そっか。じゃあ…」

そう言って俺はベンチから立ち上がった。
何だか、少し寂しい。


「ああ、気をつけて帰れよ未成年」

「はあ?何だそれ」

⏰:09/03/23 22:00 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#142 [◆LOSh2yD9/c]
俺は思わず吹き出すと、奴もつられたのか笑顔になる。


「…あのさ、俺明日フランスに戻るんだ」

「はあ?!」

突然フランスと言う言葉が出てきて、俺の目は点になる。

何こいつフランス人?

確かに悔しいがこいつは美形だけど、日本人以外には見えないぜ?!


「仕事の関係で今はフランスにいるんだよ。でもエリサを…妻を追って来たって訳」

⏰:09/03/23 22:08 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#143 [◆LOSh2yD9/c]
「は、はぁ…」

「でもあいつも忙しい身だからな、逢えなかった…。何も言わずに日本に来ちゃったから、明日には戻らなきゃマズいんだよ色々と」

「へぇー…」

何かややこしくなってきたぞ。

…ん?とゆーことは??


「え、じゃああんた帰る家ないの?」

「いや、家はある」

「そう、なら、いいけど…」

ボンボンか!!

⏰:09/03/23 22:11 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#144 [◆LOSh2yD9/c]
「…さて、俺も少しは頭冷めたし帰るか」

奴は無理矢理思考を遮断するかのようにして、膝をパンッと叩いて立ち上がった。

俺はそんな姿に少したじろぎ、頷くことしか出来なかった。

「あ、あぁ…」


これ以上はもう何も話せないだろう

直感的に、そう思った。


「お前はまだ若いんだし、これからなんだぜ?元気だせよ」

「うん…あんたもな」

⏰:09/03/23 22:14 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#145 [◆LOSh2yD9/c]
「じゃあな…」

「…じゃ」

そう言って俺たちは別れた。



…もう、二度と逢うことはないだろう


明日には奴は日本(此処)にいない訳だし

あー。何か不思議な体験をした気分だ

こんなこともあるんだな、と少し苦笑しながら歩いた。

まぁ…お陰で俺も少しは気が楽になったのは確かだし、奴に出会えて良かったのかもな

⏰:09/03/23 22:21 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#146 [◆LOSh2yD9/c]
名前くらい聞いときゃ良かったか

あ、そーいや俺も名乗ってないか


そんなことを考えながら、公園出入り口付近に停めておいたバイクの元へと向かった。

明日から、いや今日からか。
俺はまた頑張ろう!
あいつの言うように、まだ若いんだしな!

よし!!


―この奇妙な出会いが、俺の人生を大きく変えていく始まりにすぎなかったことを、この時の俺には知る由もなかった…―

⏰:09/03/23 22:46 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#147 [◆LOSh2yD9/c]
「わっははは…!」

「………」

真っ昼間のキャンパス内に、玲司の馬鹿笑いが響く。

他の学生は、何事かという感じで怪訝そうにこっちを見ている。

ヤメロ、そんな目で見ないでくれー

そんな周りの目を、玲司は気付いているのかいないのか、一向に笑うのを止めない。

…いや、前者だ。確実に前者だコイツは!!


「…お前さ、いつまで笑ってんだよ」

俺はイラつきを全面的に出しながら言った。

⏰:09/03/25 04:37 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#148 [◆LOSh2yD9/c]
「ははは、わりーわりー」

「てめぇ!わりーなんて微塵も思ってねーだろ!!」

くっそーケラケラ笑いやがって!!


俺の隣で笑っているこの憎たらしい野郎は、

笹峰玲司。

高校時代からの、 一 応 親友。



…それはさておき、

どうして俺が玲司に笑われているかというと、話は今日の明け方に遡る…

⏰:09/03/25 04:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#149 [◆LOSh2yD9/c]
――――――――――――


夜中に出会った、例の"奴"と別れた後、俺はすぐに帰宅し風呂に入った。

そしてそのまま倒れ込むようにして眠りについた。


目が覚めてからが大変だった。

思った以上に目が腫れていて、どうにかこうにか腫れを引かせ、朝飯を済まし、いつも通りに家を出た。


いつもと変わらない日常。

昨日のことが夢のように思えてくる。

⏰:09/03/25 04:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#150 [◆LOSh2yD9/c]
「おーっす!」

ウォークマンを聞いていても、こいつの声は良く通るからすぐわかる。

「…はよ」

俺は極力顔を合わせないようにして答えた。

「ん?何だお前テンション低くないか?」

そう言って顔を覗き込もうとする。

あ゙ーこっち見んなほっとけ

「ぶ!!あっはは何だお前どーしたよその顔っ」

…はいはいわかってましたよ

こうなることぐらい

⏰:09/03/25 04:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#151 [◆LOSh2yD9/c]
俺はウォークマンを片付けて、目だけ玲司の方に向けた。

「…そんなに目立つ?」

「んー、少しな」

「これでも引いたんだぜ…」

「…で、どうしたよ。そんなんでも来たことは褒めてやるよ」

「何だそれ。…まぁ昼にでも話すよ」

本当は、ぜってー馬鹿にするから話したくないけどな!

「…俺、何か想像出来るかも」

そう言ってにやける玲司。

⏰:09/03/25 04:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#152 [◆LOSh2yD9/c]
ふん、お見通しですか。ムカつくぜ!!

「……あっそ」

「おい不貞腐れんなよ〜。まぁ元気だせって」

「ふん」

そんな会話をしながら、俺たちはそれぞれの教室に向かった。




―…あっという間に午前の講義が終わり、俺と玲司は昼食を済ませた後キャンパス内のベンチに腰を下ろした。


そして俺は重い口を開く。

⏰:09/03/26 08:46 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#153 [◆LOSh2yD9/c]
未那にふられたこと

変な奴と出会ったこと


昨日あった出来事を一通り話した。


そして、案の定と言うか、昨日俺が想像していた言葉まんまを言って大笑いしているってワケ。

あったまくるぜホント!

逆に笑えてくるよな

失笑だぜしっしょー


…そんなこんなで、今に至るって訳だ。


――――――――――――

⏰:09/03/26 08:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#154 [◆LOSh2yD9/c]
「クク…まぁー機嫌直せって。これでも俺は心配してたんだぜ?」

「……そんな笑い堪えた顔で言われても説得力ねーよ」

「はは、悪いって〜」

「まぁ、結局はお前が正しかったってことだよなー…。俺が馬鹿だったよ」

「…恋愛に、何が正しい間違いなんてないんじゃね?湊は幸せだったんだろ?」

「………」

「でもさーその公園で逢ったって奴、凄くね?色々と。つかそんな漫画みたいなことってあるんだな」

⏰:09/03/26 09:06 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#155 [◆LOSh2yD9/c]
「あぁ、俺も吃驚だよ」

「これが男じゃなくて女だったら良かったのにな!そしたらまさに運命の出会いじゃね?!」

「ははっそうだな。でももう逢うことはないな。寧ろ逢わなくてホッとするぜ」

「醜態曝しちまったからな」

「………」

揚足取りやがって!!

俺の様子を見て、またクスクスと小さく笑う玲司。

別にいいけどな!もう慣れっこだぜ、ふんっ

⏰:09/03/27 08:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#156 [◆LOSh2yD9/c]
「さ〜て。そろそろ戻るか!」

隣で玲司が大きく伸びをしながら言ったので、俺は腕時計を見た。

「もうこんな時間か」

「本当はさ、学校終わったら慰めパーティーでもやってやりたい所だけど、今日はバイト休めねーんだ、悪いな」

そう言って少し気まずそうに頭を掻く玲司。

「…いいって。でもサンキューな」

「あぁ、じゃあ今度奢ってやるよ」

「おう、期待してるぜ」

⏰:09/03/27 08:46 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#157 [◆LOSh2yD9/c]
何だかんだ言って、色々と気を使ってくれる玲司。

少しだけ泣きそうになったことは、ぜってー言わねぇ!

また馬鹿にするに決まってるからな!!

…でも、感謝してるぜ。


まだ完全には未那のこと吹っ切れそうにないけど、昨日と今日で大分元気出てきたしな。

当分は、彼女とか、そういうのはゴメンだけど。

⏰:09/03/27 23:38 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#158 [◆LOSh2yD9/c]
―放課後


玲司と別れた後、俺は一人帰路を歩む。

ウォークマンからは、未那が良く口ずさんでいた歌が流れ出す。

「…はぁ。」

あーダメだ俺

何か、また泣きそうだ…

……情けねぇ


何となくその歌をずっと聞いていたくなって、リピートに設定した。

⏰:09/03/28 00:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#159 [◆LOSh2yD9/c]
地元の駅へと着き、駐輪場へ向かう。

ガソリン代が勿体無いから、通学時は基本バイクに乗らないようにしてるけど、今日は特別。(自分で決めた)

だって、…ねぇ?

チャリだと何気に時間かかんだよね家まで。

流石にそんな元気と時間に余裕がありませんでしたあああ!!


さーてと、帰ろ。


俺はバイクに跨りエンジンをかける。

⏰:09/03/28 03:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#160 [◆LOSh2yD9/c]
そこでふと思った。

まだ明るいし、昨日の公園に少し寄ろうかな…

駅から自宅に帰るまでの方向と大体同じなので、少し回り道する程度だから支障はない。

つか今日はバイクだから尚更問題ないしな。

よし、気晴らしに行くか!

俺は思い切りアクセルを踏んだ。


――…まさか、

そこでまた"奴"と再会するとは夢にも思わなかった……――

⏰:09/03/28 03:23 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#161 [◆LOSh2yD9/c]
昨日と同じ場所にバイクを停めて、ウォークマンを外す。

とりあえず、奴と出会ったあのベンチに行こうと思い足を進めた。

夜だと暗くて何も見えないけど、あそこは目の前が川なので、静かで落ち着ける場所だから俺は割と好きなんだよね。

…しかし。

相変わらず人のいない公園だ。

昔からそうだけど、この公園が賑わっている光景を俺は見たことがない。

ま、俺も頻繁には来ないけどさ。(こーゆーことがない限り!)

⏰:09/03/29 03:17 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#162 [◆LOSh2yD9/c]
「…ん?」

ブランコや砂遊び場を抜け、あのベンチが見えてきた。

が、そこで俺は気付いた。

ニット帽をかぶった男?が座っているじゃねぇか!?


先客か…、仕方ない

他に空いてるベンチを探すか


そう思い、引き返そうとした瞬間、俺は先客を二度見した。

⏰:09/03/29 03:19 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#163 [◆LOSh2yD9/c]
スケッチブックと何やら睨めっこしている様子。

俺は少し気になって、その先客に気付かれないようそっと近付いてみた。

少し距離を取って、背後から覗き込む。

「……!!」

スケッチブックに描かれている"それ"を見て、余りの上手さに俺は絶句した。

ニット帽は集中しているのか、俺に全く気付く様子もなく筆を進め始めた。


サササッと細かく丁寧に目の前の光景を忠実に描いている。

⏰:09/03/29 03:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#164 [◆LOSh2yD9/c]
それは本当に素晴らしい物で、俺の目は釘付けになっていた。

「すげぇ…!」


俺はそう呟いてしまい、しまったと思った時には遅く、ニット帽は吃驚したように後ろを振り返った。

「…ん?!」


やべっっ

「いやっあのっすいません!たまたま見えて、凄く上手いから吃驚して…」

⏰:09/03/29 03:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#165 [◆LOSh2yD9/c]
があああぁっ

何言ってんの俺〜

やべぇどーしよ勝手に見ちゃったからなぁ

マズかったかな…

でもこれは凄すぎるだろ、プロ級だぜ絶対!

色んな奴が見る価値あるって!!



そんなことを勝手に思っていたら、ニット帽は一瞬目を見開いた。

⏰:09/03/29 03:31 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#166 [◆LOSh2yD9/c]
「…!!お前…」

「え…?」

「……いや」

俺がはてなマークを浮かべていると、ニット帽は眼鏡をクイッと上げて、前へ向き直ってしまった。


…何だ?

どうしたんだ?


俺がそこに立ち尽くしていると、そこへ突風が吹いて筆セットみたいな物が派手にばらまかれた。

⏰:09/03/29 03:33 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#167 [◆LOSh2yD9/c]
とりあえず、俺も拾うのを手伝って、ニット帽に渡す。

「はい。これで全部か?」

「…あぁ、悪いな」


何か、そわそわしている感じで…

俺を見ようとしないって言うか…

何かこいつ、どこかで……?


「っあんた…!!?」

「………」

俺が言葉を発した瞬間、ニット帽はバッと顔を背けた。

⏰:09/03/29 03:34 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#168 [◆LOSh2yD9/c]
「……まさか、」

俺はニット帽の前まで移動する。


「もしかして昨日の?!!」

俺がビシッと指を指して叫ぶと、ゆっくりとこっちを見上げ、一言。


「…………バレた?」

「っ…はああはぁぁ??!!!」


辺り一面、いや公園全体に俺の声は響きわった。

と、思う。

⏰:09/03/29 03:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#169 [◆LOSh2yD9/c]
えええっ?!

な、何なにナニ???

何で、"奴"が此処にいるワケ?!

つか!そもそもフランスに戻ったんじゃ…?!

意味わかんねぇ!!!


俺が一人パニクっていると、奴はやれやれと言った感じで口を開いた。

「…まさか、またお前と逢うなんてな」

「……何であんたが…」

⏰:09/03/29 03:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#170 [◆LOSh2yD9/c]
此処に?

つか、何故ニットに眼鏡?

…昨日のスーツ姿みたいのからは想像出来ない程似合ってないぞ!

しかも何でこんなに絵がクソ上手いんだ!!

コイツに言いたいことや聞きたいことは沢山あったけど、言葉にならない。

俺が呆然と突っ立っていると、奴は周りに散らばしていたスケッチセットを整理して、俺に座るよう促した。

「ま、座りなよ」

「あ、ああ…」

⏰:09/03/29 03:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#171 [◆LOSh2yD9/c]
俺は少し遠慮がちに奴の隣へと腰掛ける。

げ、この位置は、まさに昨日と同じ!!

…ああっ!恥ずっ!!

もう、本当昨日から俺、ツイてない…

軽くイジメだぁぁ………!!


俺は俯く。

奴も黙ったまま動かない。

俺たちの間に、沈黙が流れる。

⏰:09/03/29 03:48 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#172 [◆LOSh2yD9/c]
その沈黙に耐えきれなくなった俺が、先に口を開いた。

「…あの!俺、超気マズイんですけど…」

「そうか?」

「は?」

「どちらかと言えば笑えるな」

「はぁ…?まぁ、わかる気もするよーな…」


やっぱりコイツって、ワケわかんない奴だな

⏰:09/03/29 03:50 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#173 [◆LOSh2yD9/c]
俺はそう思い小さく苦笑した。

奴はそんな俺を見て、不思議そうな顔をしていたけど。


「あれから俺は、朝一の便でフランスに戻ろうと空港に向かったんだ。そしたら、上司っていうのか?ま、社長みたいな人から電話がかかって来て、暫く日本にいていいって言われてさ…」

「ええっ?!それっていいのか?仕事は?」

「あーそれは俺も言ったんだが、問題ないと仕事用具一式速達で送られてきた」

「はあ?!」

⏰:09/03/29 05:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#174 [◆LOSh2yD9/c]
「まぁ大体はこっちにも揃えて置いてあるから困らないんだけどな」

「い、意味がわかんねぇ!!」

「要するに、期限までに終わらせれば問題ないって訳」

「そーじゃなくて内容が!」

「は?」

「つかそれならこんな所で絵なんか描いてていいのかよ?つかアンタ絵上手すぎなんだよ!!」

「ああ、これは慣らしみたいなもん」

「はああ?!」

⏰:09/03/29 05:12 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#175 [◆LOSh2yD9/c]
「…趣味みたいなもん」

「へぇー。でも本当凄いですよ、俺吃驚しましたから!趣味って言うレベルじゃないっつーかプロ並みだし!!」

奴は俺の絶賛に、少し照れた表情で微笑んだ。

「…鉛筆だけで描くのは、久しぶりなんだ」

「久しぶりでもあんなに凄いのが描けるなんてどーゆー腕してんだよ!風景がそのままモノクロの世界になった感じ!!」

俺は興奮したまま喋っていた。

だって俺、絵とか正直良くわかんねぇけど、感動したのは事実だし。

⏰:09/04/10 04:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#176 [◆LOSh2yD9/c]
「…お前って」

「え?」

「いや…」

「…?」

不意に真剣な眼差しに出会い、何だろうと不思議に思った。

でも問いかけるとその瞳はすぐに空に向けられてしまった。

「…でもな、俺は満足していない。やはり眼鏡をしていると視界が遮られて仕様がない」

「は?良く見えるようにかけてんだろ?嫌なら外せばいいじゃん」

⏰:09/04/10 04:28 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#177 [◆LOSh2yD9/c]
「これは伊達だ。俺だって好きでしてんじゃねぇよ、煩わしいのが嫌ならバレないようにすればいいってエリサが……」

「え?」

段々と声が小さくなっていき、奴は俯きだした。

エリサ…?

って確か、奥さん?

ん?ってコイツまたブルーになってやがる!!

「ど、どうしたんだよ?!」

俺が若干焦りながら奴の様子を伺っていると、我に返ってくれたのか奴は真顔を向けてきた。

⏰:09/04/10 04:30 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#178 [◆LOSh2yD9/c]
「…所でお前、学校はちゃんと行ったのか?」

「は?ちゃんと行ったし!お陰で友達に爆笑されたけどな!!」

「ははっだろうな」

「笑い事じゃねーよ」



それから俺たちは小さく笑い合い、お互いの今の心境を少し話した。

流石に昨日の今日だから、そんなに変化はないけどね。

⏰:09/04/10 04:32 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#179 [◆LOSh2yD9/c]
俺は、やっぱりまだ未那のことを引きずっているということを。

奴は、送られてきた荷物の整理をした後ずっとここで絵を描いていたから奥さんとは逢えていないということを。


「そういえば、お前はこの近くなのか?」

「え?あぁ、そうだなバイクで十五分くらい?」

「ふーん」

「あんたも近いの?」

「車で三十分くらい?」

「わ、わざわざ?近くはないんだね」

⏰:09/04/10 04:34 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#180 [◆LOSh2yD9/c]
「…近いんじゃない?」

…車だからだろ!

「じゃあ今日は車?」

「ああ。…と言うか、歩きでも然程変わらないと思う。此処まで来る道が入り組んでるし、昨日がそうだったから」

「ええっ?何で…」

「ふらふら歩いてたら此処に辿り着いた」

「………」

…俺と同じか

そりゃそうか。偶然って恐ろしいぜ…

⏰:09/04/10 04:40 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#181 [◆LOSh2yD9/c]
「ま、こんな荷物持って歩くのはごめんだしな」

「あぁ…」


そんなこんなで俺たちは会話を弾ませ、気がついたら日も暮れていた。

ベンチから見える景色はとても美しい。

オレンジ色の夕日が水面に反射し、ゆらゆらと揺れている。

ちょっとした隠れスポットだと思った。



……に、してもだ。

⏰:09/04/10 04:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#182 [◆LOSh2yD9/c]
こんなロマンチック(と言えるだろう)な場所に男二人肩並べてる俺らって…

あ゙あ゙ぁ゙あ゙〜〜〜

痛すぎる!!!


頭を抱えたくなる衝動に駆られていると、隣からボソッと声が聞こえて来た。

「綺麗だな」

「え?あ、ああ…」

「こういう風景、好きだ。昼間は日の光を浴びてキラキラ輝いていた」

「そうですね。俺地元なのにこんな場所があったなんて知りませんでしたよ」

⏰:09/04/10 04:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#183 [◆LOSh2yD9/c]
「…思えば、もう随分と描いていない…」

「……?」

言葉の意味を理解出来ずに首を傾げていると、奴は心ここに在らずと言ったように遠くを見つめていた。


「…そろそろ帰るか。お前ももう帰れ」

「え?」

少しの沈黙の後、突然奴が発言し、自分の持ち物を片付け始めた。

「一睡もしてない上に時差ボケも加わってんだ、流石に眠いし怠い。お前も似たような物だろう?」

「あ、ああ…」

⏰:09/04/10 05:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#184 [◆LOSh2yD9/c]
「じゃ、またな」

奴は片付けを済ますと早々に立ち上がった。


「ま、待って!!」



げ!

な、何引き止めてんだ俺?!

「…何?」

奴は座っている俺を見下ろす。

いや、奴は立っていて俺は座っているんだからそーなるのは普通なんだけど…

⏰:09/04/10 05:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#185 [◆LOSh2yD9/c]
コレどーしよ俺!

この状況はキマズイぜ俺!!

『考えるよりも先に行動しちゃったぜ』

的な状態だぜオイイイイ!!!



「あ…あのさ、アンタ、明日も此処に来るの?」

「………」

「絵の続き、描きに…とか?」

「あー…、たぶんな」

⏰:09/04/10 05:13 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#186 [◆LOSh2yD9/c]
「俺も来てもいい…ですか?」

「…ああ」

「そ、そっか…わかった。じゃあ、また」

「…じゃーな」

そう言って薄ら笑いを浮かべると、奴は去って行った。


……アイツ、また俺を馬鹿にしやがったな

まぁ、確かに俺は変だった。うん

キョドりすぎ

⏰:09/04/10 07:52 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#187 [◆LOSh2yD9/c]
…だってよ、なんか、このまままた別れるのは嫌だと思ったから

もっと色んな話をしてみたいと思ったから

もう二度と逢わないだろうと思っていた人間にまた逢ったんだ

なんか、興味がある
"奴"と言う一人の人間に
そしてあの絵に、何故か…引き込まれるんだ


「あ!!名前聞きそびれた…」

一人残ったベンチで、(結構)重要なことを聞き忘れていたことに気付いた俺だった。

⏰:09/04/10 17:40 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#188 [◆LOSh2yD9/c]
―――翌朝



あれから俺は、帰宅して夢の世界に直行したので今日の目覚めは頗る良いのだが、隣で歩いているコイツは頗る機嫌が悪いようだ。

「あーだりぃー」

「お疲れ。まぁ、お前にしては偉いじゃん?褒めてやるよ」

「てめぇ…!!」

ギロリと玲司が睨み付けてくる。

ふん、昨日のお返しだ!

⏰:09/04/18 07:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#189 [◆LOSh2yD9/c]
さて…

どうして玲司の機嫌が悪いのかって言うと、昨日バイトで残業があったらしく、殆ど寝られなかったらしい。

まさに昨日の俺状態。


「んでよりによって寝れねー講義なんだ」

「玲司は午後で帰れるんだから耐えろ」

「あ〜あ。今日は帰ったら即行寝よ」


頭をガシガシ掻いて怠そうに伸びをする玲司とは逆に、俺はまた"奴"に逢えるかもしれないという思いで、何故かわくわくしていた。

⏰:09/04/18 17:00 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#190 [◆LOSh2yD9/c]
そして玲司と別れ、教室に入る。


「はよー」

すれ違う奴に挨拶しながら席へと向かっていると、俺の鞄が引っかかり何かを落としてしまった。

「悪い!」

俺は慌てて拾い上げる。

「あぁ、いいよ」

拾い上げた雑誌を見て手が止まる。

全て英語の文字が並んでいたからだ。

うわーすげぇなコイツ。俺はこんなん読めないや

⏰:09/04/18 23:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#191 [◆LOSh2yD9/c]
そう思って表紙に写っている人物に目をやった。

「…ん?」

その時、何かの違和感を感じた。

「どうした?」

「いや…」

何だ?

何かひっかかる……気がする

「…っ!!コイツ昨日の!!?」

「はあ?!」

「コイツ何で雑誌なんかに載ってんだ?」

⏰:09/04/19 02:31 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#192 [◆LOSh2yD9/c]
「…お前何言ってんの?」

「俺昨日コイツと逢ったぜ?!」

俺が興奮気味に話していると、友人は若干呆れ顔で言った。

「…な訳ねーだろ、有名人だぜ?第一この人今日本にいないし。どーせ似てただけだろ」

「……だよなーははは」

そりゃそうか

良く見れば髪型とか違うし、似てるだけだよな〜

しかもそんな有名な奴が、ふらふらあんな所にいる訳ないしな!

⏰:09/04/19 03:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#193 [◆LOSh2yD9/c]
「でも俺この人の描く絵、何気好きなんだよね」

「絵?」

「ああ、この人外国では結構名の知れた画家だぜ」

「画家あ?」

「うん、ほら見てみろよ」

そう言って雑誌を開き、作品が載っているページを捲り俺に見せてきた。

「うわっすげー…」


俺はまじまじと雑誌を眺めた。

⏰:09/04/20 00:18 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#194 [◆LOSh2yD9/c]
色鮮やかに描かれている"それ"は、絵心を知らない俺でも、その人が何故有名であるか充分理解出来た。

流石、雑誌に取り上げられることはある。

「だろ?只、日本ではあんま知名度がないのが残念なんだよなー。まぁ外国で活動してるみたいだから仕方ないんだけど」

「へぇー、全然知らねーや」

「てかお前は他の画家も知らねーだろ!」

「ははっ確かに!」

「絵とか好きな奴なら日本人でも知ってる奴多いと思うぜ」

⏰:09/04/20 00:26 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#195 [◆LOSh2yD9/c]
――そして今日の全ての講義が終わった。

帰り支度を済ませ、学校を出る。

自然と俺の足取りは速くなった。

今日は学校が終わるの早いけど、アイツはもういるのだろうか。



―俺が公園に着くと

昨日と同じ場所に、同じニットと眼鏡をかけた"奴"が、もう其処にいた。

俺の気配に気付いたのか、奴が振り返る。

⏰:09/04/20 00:30 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#196 [◆LOSh2yD9/c]
「よう、今日は早いんだな」

「…どうも。アンタこそ、昨日はちゃんと寝られたのか?」

「ああ、もうバッチリだ。久々の長い睡眠だった」

心なしか、表情が少し明るくなったような気がして安心した。


俺は奴の隣に座り、スケッチブックを覗く。

「うお!」

「何だ」

そこにはほぼ完成した、昨日まで書きかけだった風景画があった。

⏰:09/04/20 00:32 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#197 [◆LOSh2yD9/c]
「すげー!もう完成ですね!」

「まだだ。ここからが重要なんだよ」

「え〜完成じゃないの?」

「細かい作業があんの。仕上げが大切」

「ふーん」

そうして、奴は丁寧にペンを走らせ始めた。

時折見えずらい、と言ったように眼鏡をずらしたりしている。

「…なぁ、そいやそれ伊達なんだろ?作業しにくいなら、描く時ぐらい外せばいいじゃん」

⏰:09/04/20 02:08 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#198 [◆LOSh2yD9/c]
「……この公園は、人があまり来ないのか?」

「は?」

またコイツは突拍子もないことを…

「んー、昔からあんま賑わうような場所じゃなかったし、最近じゃ子供も少なくなったから遊びに来る奴も減ったと思うぜ」

「…通りでな」

「え?」

「いや、昨日から思っていたんだが、昼間からずっといても、犬の散歩してる人やジョギングしてる人ぐらいしか見かけなかったから」

⏰:09/04/20 02:31 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#199 [◆LOSh2yD9/c]
「だろうね。此処に公園がある場所が場所だし」

「そうか」

奴はそう言うと、ニット帽と眼鏡を外した。

「こーゆーの、煩わしくて嫌い」

「だから!嫌ならやんなきゃいーだろ!」


俺たちは笑い合う。

何だろうな、玲司とはまた違った安心感。

コイツと一緒にいるのは居心地がいい。

⏰:09/04/20 02:33 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#200 [◆LOSh2yD9/c]
「その絵さ、今日中に終わるの?」

「お前、俺を誰だと思っている」

「っああー!!」

「突然何だ」

「何だかんだで言い忘れてたけど、俺、霧咲湊って言います宜しく!」


コイツに「お前」って言われて思い出した。

俺まだ名乗ってないし聞いてない!

でも俺が急に勢い良く自己紹介したもんだから、奴には可笑しかったようで急に笑い出した。

⏰:09/04/20 02:38 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#201 [◆LOSh2yD9/c]
「ふーん、お前…いや湊君は本当面白いな」

「…何笑ってんだよ。それに「君」はいらないよ」

「…そ?」

そう言って奴は頷くと、意味深な笑みを浮かべた。

んのヤロッ!ニヤつくなあああ


…何でかって?

馬鹿にされてるみたいだから!!

コイツに言われると特になっっ

⏰:09/04/20 02:40 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#202 [◆LOSh2yD9/c]
「……雨宮川慧弥」

「え?」

「俺の名前」

「慧弥…さんね。おっけー!でも珍しい名字だな」

慧弥さんは、「さん」付けされるのは聞き慣れないから呼び捨てで良いと言っていたけど、やっぱ年上だしそれは…ねぇ?



こうして、俺たちは無事?に自己紹介が出来たのだった。

…遅すぎだっつーの!

⏰:09/04/20 02:44 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#203 [◆LOSh2yD9/c]
そしてまた沈黙が続く。

静かなこの公園には、ペンの音だけが聞こえる。

邪魔をしないように、気を散らせないように、俺は只時の流れに身を委ねた。


――暫くして


「…終了」

ふぅ、と大きく息を吐くと奴は、…もとい、慧弥さんは、俺にスケッチブックを差し出した。

「え?」

⏰:09/04/21 21:35 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#204 [◆LOSh2yD9/c]
差し出されたままにスケッチブックに手を伸ばすと、そこには完成されたモノクロの世界が広がっていた。

「うっわ…すげー……」

その絵を前に、鳥肌が立った。

絵が人をこんなに感動させることが出来るなんて知らなかった。


「…それ、気に入ったんならやるよ。いらなかったら捨てて」

「ばっ?!なっ??捨てる訳ねーだろ!額縁に入れて飾るわ!!」

「はは、そりゃどーも」

⏰:09/04/21 21:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#205 [◆LOSh2yD9/c]
慧弥さんは笑ったけど、まじでそうしようと思った。

部屋に飾ってみんなに自慢したいぐらいだ。

「つーか今日見た雑誌の絵も凄かったけど、これも同じぐらい凄すぎだし!プロになれるって絶対!!」

「…あぁ、俺「あ、ごめん電話だ」

慧弥さんが何かを言いかけたみたいだっけど、俺の携帯には"母"という文字が。

母さんは今日残業もなく、家にすぐ帰って来るそうだ。

「ごめん慧弥さん!俺帰ります!」

「…急ぎ?」

⏰:09/04/21 21:50 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#206 [◆LOSh2yD9/c]
「あ、はい!ちょっと料理を…」

「料理?」

「はい…あの、俺明日も此処に来るんで、慧弥さんも来て下さい!」

「…うん?」

「約束ですよ!」

「ああ…」

少し戸惑い気味の慧弥さんを置いて、すまんと思いつつバイクの元へ走って向かう。


母さんに少しでも楽してもらいたい…

そう思うから、俺は自宅へと急いだ。

⏰:09/04/24 04:11 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#207 [◆LOSh2yD9/c]
――次の日


学校に着くと、昨日絵画雑誌を持っていた友人が、昨日とは別の絵画雑誌を見ていた。

「はよ。今日も見てんの?」

「おう!昨日のとはまた違う本だけどな」

「ふーん。なぁ、俺にも見せてくれない?」

慧弥さんの影響もあってか、俺は絵に興味を持ち始めていた。

「何、お前興味沸いたの?!」

「うん、ちょっと気になる」

⏰:09/04/24 04:12 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#208 [◆LOSh2yD9/c]
「まじか!ならこれ貸してやるよ。俺見終わってるし」

そう言って友人は昨日の絵画雑誌を俺に渡した。

「サンキュー。お、これ昨日のか」

「やっぱお前も気に入ったの?その人の絵」

「まぁ、色んな絵も見てみたいなーと」


友人は、"そっかそっか〜"と上機嫌だ。

身近に絵が趣味な奴、いないのかな

俺も慧弥さんと出会ってなかったら、きっと興味が沸くこともなかっただろうな

⏰:09/04/24 04:14 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#209 [◆LOSh2yD9/c]
「雨宮川が気に入ったら言って。まだ家にいくつか雑誌あるから」

「…は?」


……今、コイツは何と??


「あぁ、その人雨宮川慧弥っつーの」

一瞬、俺の思考は停止した。

「………」

「どうした?」

……はは、

どうしたもこーしたもねーよ!!?

⏰:09/04/24 04:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#210 [◆LOSh2yD9/c]
雨宮川慧弥だと?

え、同姓同名ですか?

………んなワケねぇえええだろ??!


そんな珍しい名字早々いるもんじゃないし、名前まで一緒だし、やっば顔似てるし…

それに!!

思えば絵だってプロ並みに上手かった……


…いや落ち着け俺!

そんな偶然ってあるのか?

やっぱり他人の空似だろ、うん。

⏰:09/04/24 04:18 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#211 [◆LOSh2yD9/c]
「湊?」

「…え?あっ!と、兎に角、雑誌ありがとう借りてくな!」

「?ああ」

俺は動揺を何とか隠しながらその場を去った。



―――結局

その日の講義は全く集中出来なかった。

休憩時間の合間に借りた雑誌を見て、改めて俺はパニクっていたからだ。

⏰:09/04/24 04:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#212 [◆LOSh2yD9/c]
「嘘だろ…フランスで活躍中って……」

この"雨宮川慧弥"の作品が載っている最後のページに、簡単な写真付きプロフィールが紹介されていた。

その内容に俺は冷や汗が流れる。



顔も似てて

名前も同じ

所在地も同じ

絵が美味いのも同じ

既婚については書かれていなかったけど…

⏰:09/04/24 04:22 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#213 [◆LOSh2yD9/c]
最早同一人物としか思えない!

寧ろそうじゃない方がオカシイじゃねーか!!!


「…やばくないか?」

「……絶対やべーだろ?」

「やばすぎるって!!」


俺そんなすげー奴と会話してたの?!

つか、俺あの人に失礼なことばっか言ってたし思ってたよな?!

てゆーかそんな有名な人を知らないこと自体失礼じゃねーか?!

⏰:09/04/24 04:25 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#214 [◆LOSh2yD9/c]
しかも"今日公園来てくれ"とか俺命令(←違う)してなかったか?!!

あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙〜〜〜っっ!!

「マ゙ズイ゙ってえ゙え゙ぇ゙〜〜〜」


「……あのさ、お前さっきから何ブツブツ言ってんの?」

「俺もうあの人に合わせる顔がない……」

「は?」

「そうゆー訳だ!俺はもう帰る!!」

「はあ?!」

「じゃあな玲司!!」

「ちょっ…湊っ?!」

⏰:09/04/24 04:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#215 [◆LOSh2yD9/c]
俺は全力疾走した。

全力で駅に向かい、全力でチャリを漕ぎ、全力で家に帰った。

すれ違う人達はみんな怪訝な顔で俺を見ていたけど、そんなこと知ったこっちゃねぇ!!

俺は自室に着くとベッドにダイブして、乱れた息を整えるまで顔を伏せたままでいた。

「…忘れよう。そうだ、あれは夢だ……夢なんだ…」



気付くと俺は、意識を手放していた。

⏰:09/04/24 04:39 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#216 [◆LOSh2yD9/c]
……ん、

………眩しい…?


「……げっ!朝かよ?!」

俺は勢い良く起き上がった。

昨日あのまま爆睡してしまったらしい。

「……腹減った」

俺は眠たい目を擦り、リビングへ向かった。


そこには人の気配がなく、しんとしていた。

⏰:09/04/24 04:43 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#217 [◆LOSh2yD9/c]
テーブルを見ると、ラップがかかった皿とメモ用紙が置いてあった。

母さんは一度家に戻って来て、夕飯を作った後また仕事に行ったらしい。

そこには、"悪いけど朝は自分で作ってね"と書いてあった。


母さんが夜いないのはたまにあること。

仕方ない。

でも愛情を感じなかった時なんて一度もない。


「いただきます」

⏰:09/04/24 05:04 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#218 [◆LOSh2yD9/c]
昨日夜爆睡してて食べてなかったから、これを朝食にさせてもらった。

朝食を済まし、軽くシャワーを浴びて支度をした。

残念なことに今日も講義はあるからだ。



――…今日の講義は割と集中出来た。

やっぱり、今までのことは夢だったんだ!

そうに違いない!!


そして今俺と玲司はカラオケに来ている。

⏰:09/04/24 07:42 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#219 [◆LOSh2yD9/c]
今日は二人とも昼で講義が終わるから、そのまま直行した。

もちろん玲司のおごり。


「なぁ、そういや昨日お前どうした?」

玲司が笑いながら聞いてきたので、俺も若干引きつりながら答えた。

「あぁ、忘れてくれ。あれは夢だ」

「ははっ意味不明〜」

俺は未那のことや慧弥さんのことを忘れるように、熱唱しまくった。

「何か燃えてんな〜」

⏰:09/04/24 07:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#220 [◆LOSh2yD9/c]
「パアッとストレス発散しろって言ったのは玲司だ」

「そうだけどよ。まぁ、実際どーなの?」

「…わかんね。何か色々あって、まだ整理つかない感じ?」

未那のことも未練がないって言ったら嘘になるし、慧弥さんのことだって、本当は気になっている。

約束…すっぽかした訳だし。

全てが夢だったらどんなに楽か…

「そっか。…ま、焦るなってことだ」

ふざけてるようで、こいつはこいつなりに気を使ってくれているのが良くわかる。

⏰:09/04/27 00:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#221 [◆LOSh2yD9/c]
「そうだな。バイトもそろそろ再開するかな〜」

俺は未那にふられたショックでやる気が失せていた為、"テストが近い"という嘘の理由で二週間くらい休みを貰っていた。

「もう?二週間休み貰ったんだろ?」

「んー、金銭的精神的にそろそろ始めた方がいいかなって。何かやってた方が気が紛れるし」

「確かにな」


――四時間歌いまくって店を出ると、外は薄暗くなっていた。

⏰:09/04/27 00:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#222 [◆LOSh2yD9/c]
「じゃ、また来週な」

「ああ、ありがとな」

俺と玲司は家が反対方向なので駅で別れた。


週末使って、気持ちの整理をしよう

電車に揺られながらそう考えていた。


駅から降りてチャリ置き場へ向かおうと歩いていると、何かを叫ぶ声が聞こえた。



「湊!」

⏰:09/05/10 05:52 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#223 [◆LOSh2yD9/c]
振り向くと、そこには見覚えのあるニット帽をかぶった伊達眼鏡が、物凄い形相で立っていた。

「げっ?!な、何でっ……??!」

「何ではこっちの台詞だ。お前、一体どういうつもりだ?」

「えっ?!いや…あのっ……」

ぎいやあああ〜〜〜!!
鬼が!鬼が見えるううぅぅぅっ

「とにかくこっち来い!」

「え゙?!!ちょっ、ま、待ってく「問答無用」

い゙や゙あ゙あ゙あ゙ー!!!

⏰:09/05/10 05:55 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#224 [◆LOSh2yD9/c]
しどろもどろになっている俺の腕を掴み、強制的に連れて行かれる。

慧弥さんは俺の手を引きズンズン進む。


「けっ慧弥さん!どこ行くんですかっ?!」

「車」

ぎやああああ〜〜〜
俺拉致られる!!



…本気でそう思った。

⏰:09/05/10 05:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#225 [◆LOSh2yD9/c]
「…で?」

「いやぁ……あのですねぇ……」

「何だ。言い訳ぐらいは聞いてやる」

「そのぉ……」


俺は今、慧弥さんの愛車であろう全面スモークガラスの外車の中で、取り調べ(紛い)を受けている。

「えっと…、その前に、質問いいですか?」

「質問してるのはこっち」

ギロッと睨み付けて言い放つ。
…こ、怖いんですけどぉぉおお!!

⏰:09/05/10 07:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#226 [◆LOSh2yD9/c]
「…はぁ。とりあえず移動する」

「え?」

「流石に一日中停車しているのはまずいし怪しまれる」

「………」


そう言ってエンジンをかけると、慣れた手付きで車を走らせた。

流石、外車は違うと思った。

走りが全然違うし、乗り心地も一般車とは比べ物にならないくらい快適だ。

⏰:09/05/27 14:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#227 [◆LOSh2yD9/c]
沈黙が続く。

慧弥さんは只真っ直ぐ前を見つめている。

その瞳には、さっきまでの怒りの色をもう映してはいなかった。


「慧弥さん、あの…すみませんでした」

「………」

「昨日、行けなくて……」

「…"行けなかった"んじゃなくて"行かなかった"んじゃないの?」

「え?」

俯いていた俺は顔を上げると、前を見ていた筈の慧弥さんが、俺の方を向いていた。

⏰:09/05/27 14:44 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#228 [◆LOSh2yD9/c]
その表情は俺を咎める訳でもなく、悲しそうに微笑んでいるようだった。

慧弥さんは再び視線を前に戻すと、唐突に口を開いた。

「お前を待っている間、一度警察に職務質問された」

「ええっ?!」

「まぁ怪しむのも当然か。で、俺はどうしようか迷った訳。」

そうだろうね!
こんな高級車、この場所には似合わないよ!!

…と、心の中でツッこんだ。

⏰:09/06/01 04:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#229 [◆LOSh2yD9/c]
「で、そのおっさんは俺と握手をして去って行った」

「はあ?」

「何で昨日来なかったの?」

「…それは……」

「お前も、"俺を見て"判断する奴なの?」


慧弥さんが何を言いたいのか良くわからなかった。

でも、もう誤魔化せない。

これは夢じゃない。

慧弥さんと俺はもう、"出会って"いるのだから……

⏰:09/06/01 04:48 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#230 [◆LOSh2yD9/c]
「慧弥さん…あなたは、"画家"の雨宮川慧弥なんですか?」

赤信号になり、車がキキッと音を立てて止まった。

ゆっくりと俺を見て答える。

「…ああ」

その言葉に、何故かホッとしたのと、やっぱり、と言う思いが交差した。

「…そっ、それならそうとちゃんと言って下さいよ!!俺全然知りま…っ!」

「ああ、いいよ。その方がいいし」

「へ?」

⏰:09/06/01 05:46 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#231 [◆LOSh2yD9/c]
「知らなかったからこそお前は…少なくとも、素に近い自分を曝け出していただろう?」

「あ、あぁ…」

少なくとも、ってゆーか…素でした!!(おい!)

「それに、俺は"絵は趣味だ"って言ったし、画家だって言おうとしたらお前は電話に出た」

「え!?趣味だけじゃそれが職業なんてわかんないし電話は仕様がないんですけどっ」

「俺は画家が趣味なんだよ」

「…!!」

⏰:09/06/01 05:48 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#232 [◆LOSh2yD9/c]
そう言って楽しそうに笑う慧弥さんを見て、この人はなんて凄いんだろうと思った…


「……昨日、たまたま知っちゃったんです。友人に借りた雑誌に慧弥さんに超似た人が載ってて、名前も同じだし絵も上手いしフランスで活躍中って書いてあるし…もしかして、って思って…」

「…そんなことだろうと思った。約束破る奴には見えないし、さっき逢った時の態度でわかった」

「どっ、どーゆー意味ですかっ!??」

「……だからこそ、もう失いたくないんだよ」

「え……?」

⏰:09/06/01 05:51 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#233 [◆LOSh2yD9/c]
そう言う慧弥さんの横顔は少し憂いを帯びていて、あまりにも真剣だった。

だから、俺はそれ以上何も聞けなかった。


「あとはそのおっさんの反応だな。あれでやっぱり確信した」

「警察?」

「ああ。そのおっさん、俺のこと知ってたみたいで、"プライベートで人を待っているので…"的なことを言ったら"そーかそーか"で終わった」

「はは…だから握手を求められたんですね」

⏰:09/06/01 05:59 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#234 [◆LOSh2yD9/c]
「だから、俺のことを知っていれば変装してても気付く奴は気付くんだなって」

「ああ、成る程…ですね」

「……その喋り方やめろ。変」

「え、でも……」

「いつも通りでいい」

「……わかった」


そういえば慧弥さん、前言ってたっけ

"俺だって好きでしてんじゃねぇよ、煩わしいのが嫌ならバレないようにすればいいってエリサが……"

⏰:09/06/01 09:21 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#235 [◆LOSh2yD9/c]
あれは、こういう意味だったのか…
有名人?も大変なんだなー

でも本当申し訳ないけど、全く知らなかった……


「…てゆーか慧弥さん、もしかして昨日も今日も一日中待ってたの?」

「………それが?」

ぎゃ〜!!
また鬼の形相になってるーっっ!!!

「すっすみません!本当申し訳ないっす!!」

「…別に」

⏰:09/06/01 09:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#236 [◆LOSh2yD9/c]
慧弥さんはそう言って、少し不貞腐れながら窓の外に目をやった。

「でも俺のこと良くわかりましたね!」

「そんな阿呆面が歩いてたらすぐわかる」

っんのヤロー!!

「てか、どこ行くんですか?」

「俺んち」

「えっ?!」

「散々待たされて疲れたし、外にいてバレたら面倒」

「ゔっ…」

そうして俺は、有無を言わさず雨宮川宅に連行されたのだった。

⏰:09/06/01 09:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#237 [◆LOSh2yD9/c]
「でっかあー…」

俺が呆然と見上げる先には、高層マンションが聳え立っていた。

「そうか?」

……もういちいちツッコミを入れるのはやめようか、身が持たないぜ

あれだよ
コイツがなんかおかしいのは、芸術家だからだ!

だって良く言うだろ?

芸術家は変な奴が多いって!
(もちろんイイ意味で!)

だからか〜納得!
なんかスッキリしたぜ!!

⏰:09/06/01 12:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#238 [◆LOSh2yD9/c]
「何ニヤニヤしてんの?」

「いや!!」


俺は促されてマンションの中へと進む。

「なっ…んだこれ?!」

…最早マンションじゃねーし!
どー見ても此処ホテルだろ!!?
しかもセレブ級のっ!!

「……れ、レベルが違いすぎる……ってゆーか俺場違い…ってゆーか有り得ない……」

「…何一人でブツブツ言ってんだ?」

「こっこんな所、テレビでしか見たことないですよっ!?」

⏰:09/06/01 13:06 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#239 [◆LOSh2yD9/c]
やっぱりこの人ホンモノだ!!
画家ってそんなに儲かるのか?!

「…普通だろ?」

言った俺が馬鹿でしたああああ!!!


「最上階だから」

そう言ってエレベーターのボタンを押す慧弥さん。

光る先を見ると、"60"の数字が。

「っろくじゅうううう?!!」

「ん?ああ、すぐ着く」

いやいやそーゆー問題じゃねぇっつの!!

⏰:09/06/01 13:07 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#240 [◆LOSh2yD9/c]
「…ってまじではっや!!」

慧弥さんの言う通り、どんどん階が上がっていくエレベーターに俺は騒ぎ出す。

「……お前、いちいち煩い」

「だ、だってさ…慧弥さんにとっては当たり前なことでも、俺にとっては非日常的な訳で…」

「……わからん」

だろうね!!


「ちょっと待ってて」

ドアの前で何やら操作をしてる。

⏰:09/06/01 13:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#241 [◆LOSh2yD9/c]
こんなセキュリティー万全な高級マンションなんて俺には無縁な世界だ。

「どーぞ」

「お邪魔しまーす…」


俺は妙に緊張して、恐る恐る靴を脱ぐ。

普段やらないが、靴なんかも揃えてみちゃったりした。ついでに慧弥さんのも。

振り向くと慧弥さんの姿はなかった。

ええっ?!
ちょっ…どこ行った??!

広すぎる廊下と無数のドアに囲まれ焦り出す俺。

⏰:09/06/01 13:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#242 [◆LOSh2yD9/c]
か、勝手にドア開けたらマズいよなぁ…
そもそもどこの部屋に行ったかわかんねぇし…

「何してんの」

後ろから声がして振り返ると、若干イラついた表情の慧弥さんがいた。

「ひ…広すぎなんですよっ!」

「お前が方向音痴なんだろ」


家で方向音痴って何だよっ!!

思わず叫びたくなる。
最早言うまい…

⏰:09/07/06 15:27 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#243 [我輩は匿名である]
そして俺はリビングに通されてテーブルに座った。

「はい」

カチャッと音をたて、俺の前に上品なティーカップが置かれ、香ばしい香りが広がった。

「…うまっ!」

「そ?気に入ったのなら持って帰って良いぜ」

そう言って小洒落た管を俺に渡して来たが、…どうみても高そうだ。

⏰:10/08/29 04:54 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#244 [我輩は匿名である]
「いや!これ高級品でしょう?!受け取れませんよ…」

「そんな大した物じゃない。まだあるし、俺一人じゃ飲みきれない」

「え…エリサさんは?」

「……たぶん、この"家"には帰って来ない」

「ええっ?!」

「実家か…或はあっちの家か…」

「あっち?!」

「ああ、もう一つの家」

「………」

⏰:10/08/29 04:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#245 [我輩は匿名である]
あーそうだった。
この人には俺たち一般人の常識で考えちゃいけなかったああ。

「どうした、黙りこくって」

「え?いや…はは。えと、じゃあ頂いてもいいですか?」

「ああ」

俺は高級茶を飲み終えて、ティーカップを洗おうと席を立とうとしたら、それを慧弥さんに制止されてしまった。

他にやることもなく暇なので、辺りを見回した俺は写真立てに目が止まった。

⏰:10/08/29 04:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#246 [我輩は匿名である]
「慧弥さん、この人がエリサさん?」

「ん?ああ、そうだが」

「まじかよっすんげー美人!!」

慧弥さんの隣で笑っているエリサさんは、誰が見ても美人だと思う程綺麗だった。

「そうか?」

慧弥さんは興味ない感じで答えてたけど、少し照れたようだった。

「エリサさんってハーフ?」

「ああ、日本とフランスのな」

「…ふーん、出会いはフランス?」

⏰:10/08/29 05:01 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#247 [我輩は匿名である]
俺はニヤけながら聞いてみた。
一瞬慧弥さんは顔を歪めた気がしたけど、"まーな"って言って、含みのある笑みを向けた。

「でもさぁ、何で此処には帰って来ないの?」

「只の憶測だけどな。あいつが帰って来た形跡がないからそう思っただけだ。家がいくつもあるのも面倒なものだな」

「…普通、家は一軒だけです!!」

「ん?」

しまった!つい口が…!!

⏰:10/08/29 05:03 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#248 [我輩は匿名である]
「はぁー。どんだけ坊ちゃんなんですか!有名人はやっぱり稼ぎが違うのかなー…それに比べてうちは……ブツブツ」

「…くく」

俺が軽くへこんでいると、奴は小さく笑い出した。

「ちょっと!何笑ってんですか!!俺は真剣にっ…」

「はは、悪い悪い。いや…ね」

「もう!何なんっすか!!」


クソ〜ニヤニヤしやがって!!

⏰:10/08/29 05:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#249 [我輩は匿名である]
悔しいから言いたくないけど)慧弥さんはイケメンだし、奥さんは超美人だし、有名(らしい)な画家だし、金持ち?だし、本当ムカつく!!

…八つ当たりです、はい。

だってー、羨ましいじゃん?
つーか憧れんじゃん?


何となく自分が恥かしくなって慧弥さんにそっぽ向いていると、真剣な声が部屋に響いた。

慧弥さんはさっきの写真を手に取り、それを静かに見つめている。

⏰:10/08/29 05:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#250 [我輩は匿名である]
「……最近俺、絵を描くのに行き詰まっててさ、その上企画もあったり他にやらなきゃいけない仕事もあったりして…全然余裕、なかった」

何となく、あの夜話していたことと関係ありそうで、俺は黙って慧弥さんの話に耳を傾けた。

「エリサはとても心配してくれて、あいつも忙しい筈なのに、少しでも俺の負担を減らそうとしてくれていた。」

「なのに俺は……記念日も、約束も……」

慧弥さんは言葉を詰まらせながら話し続ける。

⏰:10/08/29 05:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#251 [我輩は匿名である]
「……俺は最低な旦那だよ。何一つあいつにしてやれなかった」

自嘲気味に息を吐くと、写真を置いた。

そして、俺と慧弥さんの間に沈黙が続く。


「…何ですかその過去形は!」

「え?」

「してやれなかった。って、まるでもう別れたみたいじゃないですか!詳しい事情はわかんねーけど、少なくとも慧弥さんはそれが嫌だからあの日あの場所にいたんだろ?それにエリサさんと、ちゃんと話し合ったんですか!?」

⏰:10/08/29 05:11 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#252 [我輩は匿名である]
「…………」


…!!
しまった!
つい勢いに身を任せて叫んじまった!

「…あの、す、すいません、偉そうなこと…」

「……いや、お前の言う通りだな」

「え…」

「俺はエリサ以外、考えられない」

そう言って、真っ直ぐ俺を見つめる慧弥さん。

⏰:10/08/29 05:13 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#253 [我輩は匿名である]
……まただ

また、あの感じだ

どうしてこの人は、こんなにも真っ直ぐなんだろう


俺はあの時のように、慧弥さんの澄んだ闇色から眼が離せないでいた。

「……そんなに、そんなに大切なら離しちゃ駄目です!ちゃんと逢って、慧弥さんの気持ちを伝えるべきだよ!」


あークソ何か腹立ってきた!

⏰:10/08/29 05:15 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#254 [我輩は匿名である]
「つーかあんたが直接逢いに行けばいいじゃん!エリサさん、待ってるかもしれませんよ?!」

「……待ってる…?」

「大体、本当にエリサさんが離婚したいと思っているならシュレッターになんかかけてませんよ!」

「ここは一つ、エリサさんが喜びそうな物でも持って行って、仲直りしてくれば良いじゃないっすか!きっと気持ちは、伝わる筈ですよ!」

「……!!」

⏰:10/08/29 05:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#255 [我輩は匿名である]
俺が言うや否や、慧弥さんは部屋を飛び出した。

「え?!ちょっ…慧弥さんっ??」

俺は慌てて奴の後を追う。

今度は迷子にならずに済んだ。

リビングの隣の部屋のドアが開けっ放しだったから。


「すげー…」

その部屋は沢山の絵画で埋め尽くされていたので、此処が慧弥さんの仕事場(アトリエ)なんだとすぐにわかった。

⏰:10/08/29 05:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#256 [我輩は匿名である]
綺麗で高級感溢れるこのマンションには似合わない程、此処だけ別の空間みたいな、そんな不思議な気持ちになった。

描き掛けの物や完成品であろう物、絵画に関する雑誌など様々な物で溢れている。

俺は絵画とか美術なんかはまるで無知だけど、此処にある数々の作品は"ホンモノ"だと思った。
それだけはすぐにわかった。
それ程までに、凄すぎる。

俺はこの空間に圧倒されて、つい不注意になっていた。
何かに躓き、その拍子に仕事道具であろう物品たちをぶちまけてしまった。

大きな音を立て床に散らばる筆やその他諸々。

⏰:10/08/29 05:26 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#257 [我輩は匿名である]
「すっすみませんっっ!!」

俺はそれを慌てて拾い集めるが、慧弥さんの反応はない。

不思議に思い、慧弥さんへ振り返る。


慧弥さんは只ひたすら筆を動かしていた。


あんなデカイ音を立ててしまったのに、この人の耳には何も聞こえていないんだ

…なんて凄い集中力なんだ

きっと、今この人の世界には誰も入れない。

⏰:10/08/29 05:28 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#258 [我輩は匿名である]
俺はそっとアトリエから出た

何か、慧弥さんのこと段々わかってきた気がする

何を描いてるのか全く見当もつかないけど、たぶん、あの絵を書き終えるまで奴はあの部屋に籠もるな

何の根拠もないが、慧弥さんはその手のタイプの人間だと思う

それに、"その時感じたインスピレーションが大事だ!"とか、芸術家なんか良く言うじゃん?

たぶん。

⏰:10/08/29 05:29 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#259 [我輩は匿名である]
何だか少しワクワクした気分になる


俺も何か手伝えること…

そう思い、真っ先に向かったのはリビングだった

俺が今出来ることは料理だけ
冷蔵庫の中を少し拝借して、簡単に栄養のある物を作った


作り終えてアトリエを覗いてみるが、案の定奴はまだ睨めっこ中だ


俺は置き手紙を書いて帰ることにした。

⏰:10/08/29 05:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#260 [我輩は匿名である]
…何かあったら連絡が来るだろう


俺たちはさっき連絡先を交換している。

"また何かあった時とんずらされるのは御免だ"とか言って半ば強引に聞き出されたんだけどね!

つか俺は別に構わないけど慧弥さんは良いのかよって感じだよな

一応有名人なんだろ?

…まぁ、誰にも言うつもりはないけどさ

⏰:10/08/29 05:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#261 [我輩は匿名である]
あ〜あ

俺も慧弥さんみたく夢中になれるモノ、見つけてーなー

慧弥さんみたく…

そんなことを思いながら家路へ就いた。



―翌日の昼

家に帰ってからというものの、昨日からずっと慧弥さんから連絡がない。

俺はずっと気が気でならなかった。

何かあの人ほっといたら食事とか睡眠そっち退けでずっと絵に没頭してそう…

⏰:10/08/29 05:49 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#262 [我輩は匿名である]
あああああっっ

心配だ。

でも俺なんかが連絡していいものなのか…

あのマンションに行くのも気が引ける…


そんなことばっかが頭を駆け巡る。


様子のおかしい俺を見て隣でパンにかじり付いていた怜司が口を開く。

「……お前さぁ、朝から何ソワソワしてんの?携帯気にしてるみたいだけど、もしかしてまだあの子のこと引きずってんの?」

「ちょっ何馬鹿なこと言ってんだよ?!んな訳ねーだろ!!」

⏰:10/08/29 05:52 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#263 [我輩は匿名である]
寧ろ未那のことなんてすっかり忘れてたし!

「本当かよ?なーんか怪しいな」

「はあ?!つか、未那のことはこれで良かったって思ってる。気付くのが遅かったけどな」

「…?ま、早く飯食えよ次に遅れちまうぜ?じゃあ俺はあっちだから。またな〜」

「げっっ」

俺は急いで昼食を済ませ講義室へと向かった。

⏰:10/08/29 05:53 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#264 [我輩は匿名である]
「あー何か今日は疲れたなー」


今日最後の講義を終え、俺は机にぐてっと両手と顔を預けた。

その拍子に机の中から何か物が落ちてしまった。

何かと思い拾い上げると、それは先日友人から借りた慧弥さんが表紙の絵画雑誌だった。

「ああ、読み終わったんだった。返さなきゃな」

そう思った俺は友人の元へと向かった。

⏰:10/08/29 05:57 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#265 [我輩は匿名である]
「これ、さんきゅーな」

「おお!どうだった?」

「ああ、何かすげーよな。この人に惹かれて行くってゆーか、尊敬するってゆーか…」

「お前もそう思う?!!」

俺の言葉に友人は興奮したかのように身を乗り出した。

「やっぱ只のお坊ちゃんじゃないよな?周りは親の七光りだとか何だかんだ言ってる奴いるけど俺はこの人かなり努力したんじゃないかなぁって思う。同じ芸術でも音楽と絵画じゃ違いすぎるもんな!」

⏰:10/08/29 05:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#266 [我輩は匿名である]
うんうんと頷き、友人は満足げに語る。

しかし、俺にはまるでちんぷんかんぷんだった。

「え?どゆ意味?」




――――それから数時間後


俺の足取りは重かった。


………………………知らなかった。


慧弥さんが正真正銘のボンボンだったなんて……

⏰:10/08/29 05:59 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#267 [我輩は匿名である]
要約するとこうだ

雨宮川家は代々音楽家で、名家である。
慧弥さんのお爺様はその業界では名を知らぬ者はいないんじゃないかって言うぐらい有名な元世界トップの指揮者でお婆様は元トップモデル兼バレリーナ。
で、慧弥さんのお父様は………


ああ……、思い出しただけでも頭が痛い

お、俺はとんでもない人と知り合い?になっちまったのか!!?

し、しかもだ!

妻であるエリサさんもフランスでは有名な名家のお嬢様らしいじゃねーか!!

⏰:10/08/29 06:01 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#268 [我輩は匿名である]
"画家"の雨宮川慧弥を知らなかったまでは、まぁ目を瞑れるとしよう。

けど、世界的に有名な"雨宮川家"を知らないなんて、俺はとんだ世間知らず?!

"名家"の雨宮川慧弥を知らなかったとは言え、そんなお坊ちゃんに向かってあんなことやそんなことまで………

一気に血の気が引くのがわかる。

無礼過ぎるのにも程がある……

俺、今度こそあの人に顔向け出来ねぇよっ!!

どーしよ?!

うぇええ??!

どぉーすんだよおおおお〜〜〜〜〜

⏰:10/08/29 21:12 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#269 [我輩は匿名である]
その日の夜

慧弥さんから着信があった

少し迷ったけど、もち出られる筈もなく俺は放置した


次の日もその次の日も着信はあった

メールも一件だけあった

俺がこんな風になってるなんてまるで思ってもないような内容だった

…当たり前か。


『どうした?忙しいのか?とりあえず飯、さんきゅーな。連絡くれ』

⏰:10/08/29 21:21 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#270 [我輩は匿名である]
俺は少し罪悪感にかられた


…ごめん慧弥さん

俺、どう接したら良いのかわかんねーよ




―それから一週間が過ぎようとしていたある日の帰り道

大学から駅に向かっていると、不意にバイクに横切られあぶねーなと思っていたら目の前に止まりやがった。

俺は何だと不審に思っていると、そいつはメットを無造作に外した。

…見慣れた顔が、そこにあった。

⏰:10/08/29 21:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#271 [我輩は匿名である]
「よう、湊。元気そうじゃねぇか」

「……慧弥さん………」


そこにいる慧弥さんは、いつかの鬼の形相みたいな顔をしている訳でもなく、不気味に微笑んでいるだけだった。

それが、余計に怖い。


「話は後だ。乗れ」

そう言って俺にメットを投げ渡す

「でっでも」

「いいから」

⏰:10/08/29 21:26 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#272 [我輩は匿名である]
有無を言わさないかのように無言の視線が痛い。

俺は仕方なく慧弥さんの後ろに跨る。

「んじゃ、しっかり捕まっとけよ」

「…はい」

慧弥さんは俺の返事を確認すると勢い良くエンジンをかけた。

行き先は、勿論知らない。




―…結局慧弥さんち(マンション)に戻って来ちまった。

⏰:10/08/29 21:28 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#273 [我輩は匿名である]
慧弥さんはずっと無言だった。

何度かチラ見したけど、その表情からは何も感じ取れない。

はぁ。いたたまれないなぁ…

一度ならず二度もすっぽかした訳だもんな


家に上がり、テーブルに促され、前も煎れてくれたあの高級茶を二人分用意すると、漸く慧弥さんは座った。


と、とりあえず謝らないと…!

⏰:10/08/29 21:31 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#274 [我輩は匿名である]
「あ…、あの、」

「で、今度は何だ?」

「は?」


慧弥さんは何故か笑っているようだった。

俺は意味わかんなかったけど、とりあえず謝ろうと思った。

「……すみませんでした。連絡、しなくて……」

「今度は素直に言ったな」

「……?」

⏰:10/08/29 21:33 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#275 [◆LOSh2yD9/c]
言葉の意味をまたもや理解出来ずにいると、慧弥さんは更に笑みを浮かべ、補足した。

「"出来なかった"んじゃなくて"しなかった"んだろ?」

「……!!」


「いや、あの……。俺、慧弥さんにどう接したら良いのか、わかんなくて…」

「……………」

「すっ…すみません!俺、慧弥さんが名家の人だったなんて知りませんでした!!」

「……………」

⏰:10/08/31 01:50 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#276 [◆LOSh2yD9/c]
俺は意を決し頭を下げて叫んだ。

……だがしかし慧弥さんの反応はない。

俺は恐る恐る顔を上げて見ると、慧弥さんは俯き、肩を震わせているようだった。


え!?
やばい、もしかして怒ってる?!

「け、慧…」

「……く、駄目だ。堪えらんねー、ははは…」

「は?!!」

慧弥さんは顔を上げると腹を抱えて笑い出した。

⏰:10/08/31 01:52 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#277 [◆LOSh2yD9/c]
ま、まじで意味がわかんね〜〜

何がどーなってんだ?!


「……お前はな、俺の親友だった奴に似てるんだよ」

「え?」

慧弥さんは少し落ち着き、一息吐いた後唐突に告げた。


「この間のことといい、今回のことといい…、何でだろうな。顔や雰囲気も全然違うのに」

そう言ってまた小さく笑い出す慧弥さん。

⏰:10/08/31 01:54 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#278 [◆LOSh2yD9/c]
…勝手に盛り上がってる所悪いんだけど、全く理解出来ないんですけど!!


「親友"だった"……?」

そう。俺が引っかかっていたのはそこだった。

過去形なのはどうしてだ?


「…ああ。あいつは、もうこの世にはいない」

急に慧弥さんから笑みが消えた。


「あの、慧弥さん?全然話が見えないんですけど…」

⏰:10/08/31 01:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#279 [◆LOSh2yD9/c]
俺の言葉に奴は大きな溜め息を吐いた後、淡々と喋り出した。

「お前が"画家の俺"も"名家の俺"も知らないなら知らないで別に良かった。それに、お前の行動の意味は大体予想はついていた。」

俺は今だに状況が理解出来ていないままだったが、とりあえず黙って話を聞いた。

「俺は、普通の人間として接してくれた方が良い。俺を特別視しないでくれたのは、お前とエリサと、亡くなった親友だけだ。だから、俺はもう大事な人を失いたくないんだよ…」

「……慧弥さんの言いたいことは、何となくわかりました。でも、そもそも俺とは次元が違うって言うか、住む世界が全然違うんですよ!だから俺みたいな一般庶民が関われる人じゃないし、あり得ないんです!!」

⏰:10/08/31 02:02 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#280 [◆LOSh2yD9/c]
「もう遅い。お前は俺に関わっちまった。只で帰れると思うなよ」

「はいいいいっ??!!!」

「冗談だ」


…〜〜っテンメーッッッ!!!


「まぁ冗談はさて置き、此処まで乗りかかっちまったんだ、全部話すから最後まで付き合ってくれよ」

「はぁ…?」

俺は曖昧な返事をした。

相変わらずこいつは訳わからん奴だ。

⏰:10/08/31 02:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#281 [◆LOSh2yD9/c]
―――――――――



俺の父は指揮者で指導者。母はバイオリニスト。姉はピアニストで旦那もピアニスト。
ちなみに祖父たちも元指揮者とか、みんな音楽関係な訳。

そんな音楽一家に生まれた俺の下には、もちろん音楽家へのレールが引かれていた。

音楽に関することは勿論、色んなスキルを身に付けさせられた。

物心ついた頃にはもう音楽は俺の一部だったな

⏰:10/08/31 23:57 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#282 [◆LOSh2yD9/c]
毎日毎日ピアノやバイオリンの練習…
でもそんな生活は嫌いじゃなかった。
姉の影響もあってか、ピアノは好きだったから

ああ、勿論学校も音楽学校だった
小から高校まで一貫の

でも、ある時気付いたんだ。
俺は絵を描くことが好きなんだって。

最初は只の暇潰しから
段々ピアノよりも何よりも楽しくなっていたんだ。

……思えば寂しかったのかもな
両親は多忙で、使用人はいたが広い家に独りきり
姉とは8つ離れていたから、俺がまだ餓鬼の頃にはもう世界中を飛び回っていて、姉が二十歳になったら結婚したからな

⏰:10/09/01 00:00 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#283 [◆LOSh2yD9/c]
いつも窓の景色をぼけーっと見てた。
次第にその風景を描いてみたいと思った。

…ははっ
初めはすげー下手くそでさ、自分で描いてて苛々したよ。
全然上手くいかねーの

習い事においてこんな挫折感?っての味わったことなかったから、余計熱中しちゃったって言うかさ、そんな感じでどんどん嵌っていった。

でも当然親はそれを許さなくて、特に父は大激怒してさ。スケッチブックとか一式全部没収されたこともあった

初めはすげーショックだったけど、仕様がないって言い聞かせた。
俺は音楽の道で頑張ろうって…

⏰:10/09/01 00:04 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#284 [◆LOSh2yD9/c]
……でもやっぱり、どうしても絵を諦めることが出来なかった。

俺は音楽の勉強をする傍ら、親の目を盗んで絵の勉強もした。
誰にも教えを請う訳にもいかなかったから本当、独学だったなー…

まぁ姉にはすぐバレたんだけどね
でも姉は俺の絵を褒めてくれた
それがすげー嬉しかった


高3になって進路の話が浮上した頃には、俺の心はもう決まっていた。

画家になりたいと。


反対されることはわかっていた。

⏰:10/09/01 00:08 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#285 [◆LOSh2yD9/c]
それを話したら、やっぱり父は猛反対していたよ。
ついでに周りの大人もね

でも母は俺の気持ちに薄々気付いていたみたいで、助け舟を出してくれた。

夏にある絵画のコンクールで最優秀賞を取ること。そうしたら考え直すと。

父は渋々承諾した。
音楽コンクールは勿論のこと、全国模試一位もと付け加えたがな


それからが大変だったな
俺の人生の中で一番頑張った時だと思うぜ

本当必死だったなー…

今だから笑えるけど。

⏰:10/09/01 00:10 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#286 [◆LOSh2yD9/c]
でまー結局俺の才能と努力の結果、全てクリアした訳だが父は最後まで認めなかったな

今でこそ少しは認めてくれているとは思うけどさ


―――――――――

「ここまでが前置き。長かったろ?これからもっと長くなるけど、何か不明な点は」

慧弥さんはそこまで話すと紅茶を一口飲み、ふっと小さく息をついた。

「…………えと、壮絶な幼少期を過ごされたんで「感想じゃねー質問だ質問!」

ひぃ〜

⏰:10/09/01 00:14 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#287 [◆LOSh2yD9/c]
「いやあの正直、ツッコミ所満載で……」

「は?」

「坊ちゃんは坊ちゃんでも、俺たちみたいな一般人にはわからない所で色々苦労してるんだなぁって…」

「………」

「ってすみません感想になってますよね?!」

「…ばーか」

そう言って慧弥さんははにかんだ。

⏰:10/09/01 00:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#288 [◆LOSh2yD9/c]
生まれながらの才能があったのに、慧弥さんは自分が好きな道を選んだんだ

そして努力と言う名のもう一つの才能で、未来を切り開いたんだ…

今は笑ってるけど俺には想像出来ないような努力や苦労があったんだろうな

音楽一家の名家に生まれた慧弥さんにとって、画家を目指すには障害が多かったことぐらい、一般庶民の俺にだって容易に想像が出来る。

「じゃ、続きな」

俺の思考は慧弥さんの言葉によって遮られた。

そして俺は、再び慧弥さんの話に耳を傾ける。

⏰:10/09/01 00:19 📱:F906i 🆔:☆☆☆


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