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#66 [◆LOSh2yD9/c]
"実紗は将来何になりたいの?"


"…わかんない。でも、看護師だけは絶対なんないな!"











『私の理由』

⏰:08/10/02 00:19 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#67 [◆LOSh2yD9/c]
私は森川実紗、二十二歳。
看護師二年目のまだまだ新人ナース。

今日は夜勤明け。
そして今、私は電車の中で程良い揺れに身を任せ、うとうとと船をこいでいる。

今日の申し送りは長くなっちゃったなぁ、と思いながら時計を見た。

11時30分

もうすぐお昼になる。
この時間は電車が空いていて本当に助かる。
朝のラッシュ時みたいに満員だったら、夜勤明けには相当応える。

⏰:08/10/02 01:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#68 [◆LOSh2yD9/c]
意識が遠退く中、駅に着いた事を告げるアナウンスの声に、一気に脳が覚醒する。

やばっ!

私は慌てて立ち上がり、ドアの向こうへと走った。

私が電車から降りると、プシューっと音を立て扉が閉まった。

危ない危ない。
乗り過ごす所だった…。


電車はゆっくり動き出し、次の駅へと走り去って行った。

⏰:08/10/02 01:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#69 [◆LOSh2yD9/c]
私は駅ナカの小さな喫茶店に入った。

此処は私の最寄り駅だけど、滅多に寄らない店だ。

何でかって?
…特に理由はないけどさ。


今日は偶々ままも夜勤明けで、じゃあ久々にお茶でもしようか。って事になって、この場所に決まった。

私は実家住みで、ままもこの駅が最寄りになるから帰り道同じだし、じゃあ此処で良いんじゃん?って事で。

⏰:08/10/02 01:31 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#70 [◆LOSh2yD9/c]
私はアイスコーヒーだけ頼んで、奥のテーブルに座った。

私以外に何人かちらほらと座っているが、本を読んでたり二人でお喋りを楽しんでいたりと、みんな思い思いにそれぞれの一時を過ごしている。

そんな光景をぼけーっと見ながらカップに手を伸ばした。

…っあー

この一杯が堪らん。
私はこのアットホームな空間に、居心地の良さを感じていた。

⏰:08/10/11 16:38 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#71 [リーザ◆I94GMMnlgM]
…にしても。

今日のこうちゃん、可愛かったなぁー。

思わずにやけてしまった。

…いかんいかん、今は一人なんだ。絶対怪しい奴に見えるよな…私。

そうは思っていても、堪えようとすればする程、何か可笑しくなってくる。

別に何が面白い訳ではないけど、自然と笑顔になってしまう。

本当、癒されるなぁ…

⏰:08/11/09 02:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#72 [◆LOSh2yD9/c]
こうちゃんとは、私達の病院に入院している患者様で、皆(スタッフ)のアイドル的存在なのだ。

笑顔の可愛いお爺ちゃんで、いつもニコニコしてる。

どんなに疲れてても、

『ありがとう』

と言う笑顔で、すぐ元気になれちゃうんだよね。



「…あんた、何一人でニヤニヤしてんのよ」

⏰:08/11/09 07:23 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#73 [◆LOSh2yD9/c]
「ぶっ!!?」

口元に運んであったコーヒーカップがカチャッと音をたて、突然降って来た声に、危うく吹く所だった。

慌てて顔を上げると、向かいの席にままが不適な笑みを浮かべて立っていた。

「ちょっ…吐くとこだったじゃん!」

ままはクスクスっと笑うと、ホットコーヒーとサンドイッチを乗せたトレイを置いて、椅子に座った。

「ねぇ、やっぱやばかった?私」

⏰:08/11/09 17:22 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#74 [◆LOSh2yD9/c]
「かなりね」

そう言ってままはコーヒーを一口飲んだ。

「…えーまじどうしよ。てかこうちゃんが悪いんだよっ!」

ちょっとまずかったかな、と思いながら、全部こうちゃんの所為にする私。

…だって、本当だもん。

……………うん。

「またこうちゃん?今日も可愛かったの?」

こうちゃんの名前が出て、ままは呆れたように楽しむように笑った。

⏰:08/11/09 17:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#75 [◆LOSh2yD9/c]
「うん!今日もちょー可愛かったよ。羊羹♪羊羹〜♪♪って」

「本当に羊羹が好きなのねー」

私達は一斉に笑った。

「何かさぁ、どんなに忙しくても、こうちゃんのおやつの時間はちゃんと守りたいんだよね」

「あら、贔屓は駄目よ〜」

「わかってるけどさぁー…。やっぱ、こうちゃんが一番可愛いや!」

「ふふ。こっちにも、こうちゃんみたいな人がいたらいいのに」

⏰:08/11/09 23:48 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#76 [◆LOSh2yD9/c]
「本当だね。癒されるよ〜」

「相変わらず楽しい職場だこと。ね?」

そう言って意地悪く笑い、サンドイッチに手を伸ばした。


―そう。

私のままも看護師。

だから、私もままのような看護師になることが、小さい頃からの夢だった。

…なんて、そんなの大きな間違い。寧ろその逆。

看護師なんて、絶対なりたくなかった―

⏰:08/11/10 00:20 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#77 [◆LOSh2yD9/c]
「うん。楽しいよ」

私は何の迷いもなく即答した。

ままは一瞬きょとんとした後、ふっと鼻で笑った。

恐らく予想外の反応だったのだろう。

「…もう二年目だものねぇ」

「早いよね」

「……実紗が看護師になるって言い出した時は、流石に驚いたけどね」

「あはは…そうだよね。まぁ自分自身が一番びっくり、みたいな」

⏰:08/11/10 17:11 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#78 [◆LOSh2yD9/c]
私は苦笑いしながら夜勤用の余りのお菓子を口に放り込んだ。

「…しかも私さ、ままにハッキリ断言してたもんね。"私は看護師にはならないからね"って」

「しかも随分昔からね」

「…う、うん」

最早苦笑いしか浮かべられない。

そう。

あの時の私は、将来看護師になりたいなんてこれっぽっちも思ってなかった。

⏰:08/11/13 01:21 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#79 [◆LOSh2yD9/c]
「でも今じゃ立派な、でもないか?看護師さんね」

ままはまたクスリと笑う。

「ちょっとー!それ誉めてないよねー?」

私も笑いながらまたコーヒーを飲む。


―――いつからだろう。

私が看護師になろうと決意したのは…

―――あぁ、高校最後の夏か…

我ながらふざけてるよなぁ。
それまで本当に何も考えてなかったんだから…

⏰:08/11/13 01:29 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#80 [◆LOSh2yD9/c]
中学…高校って、将来のことを聞かれた時、特別夢がなかった私は、いつも"え〜まだ良くわかんないよ〜"って答えてた。

興味のあることや好きなことは勿論あったけど、それを仕事にしたいとか思えなかったし、私自身、将来について真剣じゃなかったんだよね。きっと。
てかそうか。

でも昔から"看護師にはなりたくない"って考えはハッキリあった。

"何で?"って言われたらハッキリ答えられなかったけどさ。
自分でも良くわからなかった。

⏰:08/11/13 01:41 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#81 [◆LOSh2yD9/c]
今でも何でそう思ってたんだろう、って思う。

でも、高校3年にもなればみんな将来のこととかちゃんと決まってる時期だし、それに向けて動き出して一生懸命になっている友達を見て、流石に私も焦った。
それじゃ遅いんだけどね。

何となく漠然と考えてはいたけど、"まぁ何とかなる"って現実から目を反らしてた。

成績はそんな悪くはなかったし、やっぱり遊んでる時の方が楽しいもんね。

⏰:08/11/13 01:51 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#82 [◆LOSh2yD9/c]
馬鹿な私は高校最後の夏、やっと真剣に自分の将来について考えた。


「………まま、私、……看護師になる」


色んな学校を見て回って、沢山悩んで沢山考えた結果、辿り着いた答えは私が"絶対なりたくない"と断言したものだった。

私の答えに、ままは一瞬だけ驚いた顔をした後、"……そう。頑張りなさい"と、只優しく微笑みながらそう言うだけで、理由は聞かなかった。

⏰:08/11/13 02:09 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#83 [◆LOSh2yD9/c]
それから私はひたすら勉強をした。

遅い決断だったし、今の私の学力じゃ厳しいってわかってる。

最悪、浪人するかもしれない。

そう覚悟はしてた。


でも努力して努力して…
最後の最後まで諦めなかった。


そして、その努力が実ったのか、私は晴れて看護学生になることが出来た。

⏰:08/11/13 02:24 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#84 [◆LOSh2yD9/c]
…嬉しかった。

本当に、合格通知が来た時は飛び跳ねて喜んだっけ。

家族も友達も、みんな喜んでくれた。


数日後、教材やらナース服やらの荷物が届き、私は嬉しくなって早速ナース服を着てみた。

ままにそれを見せると、"…実紗も、本当に看護師になるのねぇ……"なんて言ってた。

その時ままが涙ぐんでたのは、私の見間違いじゃなかったと思う。

⏰:08/11/13 02:45 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#85 [◆LOSh2yD9/c]
その時、"学生じゃなくて、絶対看護師になろう"って、心に誓った。


それからが辛かった。

覚えることは山のようにあって、一つの教科が終わればすぐテストだし、毎日レポートに追われ、常に寝不足状態。

おまけに実習なんかが始まれば、遊ぶ余裕さえなかった。


何度挫けそうになったか。

何度逃げ出したいと思ったか。

⏰:08/11/14 03:16 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#86 [◆LOSh2yD9/c]
でも一番応援してくれて、支えてくれたのは家族だった。

同じ志を持つクラスメイトの存在が、私を強くし、成長させてくれた。

たまに遊んだ地元の友達が、私に元気を与えてくれた。

私はみんなの支えがなければ、ここまで来れなかったと思う。


ありがとう。
みんな、感謝しているよ…

⏰:08/11/14 03:40 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#87 [◆LOSh2yD9/c]
…あ。

国試が近付くと、それこそ死ぬもの狂いで勉強したっけ。

高3の時とは比にならないくらいに。

それで合格者の中に私の番号を見つけた時は、泣いて喜んだっけ。

同じく、高3の時とは比にならないくらいに。


これで晴れて私も看護師だぁ!って思うと、本当に嬉しかった。

⏰:08/11/14 03:47 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#88 [◆LOSh2yD9/c]
まぁ実際、なってからが一番大変だったんだけどね…

何しろ改めて覚えることが沢山あって、毎日が慌ただしく過ぎて行って…

でも、凄く充実した日々だった。


あっという間に一年が過ぎて、もうこの病院にも大分慣れた。

そして、教えてもらう立場から、教える立場になった。

⏰:08/11/14 03:56 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#89 [◆LOSh2yD9/c]
「…ねぇまま、私ね、今でも何で看護師の道を選んだのか、ハッキリ答えられないの。……もしかしたら心のどこかで、ままに憧れてたのかな。」

「……………」

「何で看護師なんか選んだんだろうって辛い時期もあったけど、今は本当になって良かったって思ってる。…これが私の天職だって思える」

「……あんたを見てればわかるわよ」

相変わらずままはクールだ。
でも、ちゃんとわかってるよ。ままはいつだって私を思ってくれている。

⏰:08/11/14 04:29 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#90 [◆LOSh2yD9/c]
「…これからも頑張らなくちゃね!!」

私はままの言葉ににっこり笑顔で答えると、コーヒーを一気に飲み干した。

ままはやれやれといった表情で、残りのサンドイッチを平らげた。


「さっ!帰ったら一緒に一眠りでもしよっ♪」

「帰ったら掃除洗濯、やることは一杯あんのよ」

私の満面の笑みは、冷ややかな顔で却下された。

⏰:08/11/14 04:39 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#91 [◆LOSh2yD9/c]
"行くよ"とだけ言うと、食べ終わったトレイを持って、さっさと行ってしまった。

「ちょっと待ってよー!」

慌てて追い掛ける背中に、私は思った。

こんな中途半端な私だけど、育ててくれて、見守ってくれて、支えてくれてありがとう。

これからも、この仕事に誇りを持って生きていくよ。

そして将来結婚して子供が出来たら、自慢したいな。

⏰:08/11/14 04:58 📱:F906i 🆔:☆☆☆


#92 [◆LOSh2yD9/c]
時々思うの。
最初から私は、自分が何になりたいのかわかっていたんじゃないか……って。

…でも、可笑しいけど、やっぱりわかんないや。



―きっと、あの時私は、

"これしかない"

って思ったんだ。


今はそれで良いよね。

それが、『私の理由』―

⏰:08/11/14 05:05 📱:F906i 🆔:☆☆☆


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