【コラボ企画】秋のラノベ祭り投下スレ【withイラスト板】
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#33 [あんみつ]
 

はるか昔、もう一つの世界の国々で大規模な争いが起きた。

人々の寂しさ、憎しみ・・・それらが合わさって、いつしか大きな闇が生まれた。

その闇の暴走を止めるべく、国々は、それぞれの土地にまつわる神の協力の下、闇を封印することに成功した。

しかし、それは一時的なもので、闇が暴走しようとした時、再び封印の儀式を行う必要がある。
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#34 [あんみつ]
 
封印するためには、一人の神につき、一人の選ばれた他の世界の人間の力が必要であった。

それぞれの国からの神と、それに選ばれた人間たちが集まった時、真の力を発揮する。

そうして、神々と人間たちは、協力しあって生きてきたのだ。

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#35 [あんみつ]
――――――――


手作りのパンと乳製品の香りが立ち込め、棚に色とりどりの果物が並ぶ店内。

売り場の椅子に座って、自分の胸にかかったペンダントを手に取り、それを懐かしそうに見つめる一人の男がいた。

透明な石のはめ込まれたそれは、窓から差し込む光に当たってキラキラと輝く。

男は目をつむっては開き、再びそれを見つめては、また目を閉じる。
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#36 [あんみつ]
 
しばらくそれを繰り返して、男はそっと微笑んだ。

まるで、懐かしい思い出の蓋を開けて楽しむように。

男が仕事に戻ろうと立ち上がろうとする。

その時、ペンダントの中央にはめ込まれた石が赤く光った。

それに気付いた男は、目を見開いた後、何度もまばたきを繰り返す。

そして呟く。

「・・・とうとうきたか」

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#37 [あんみつ]
 

カランカランッ

「アーク!牛乳一本」

店のドアが勢いよく開いて、一人の少年が入ってきた。

アークと呼ばれた男は、一気に現実に引き戻される。

少年は慣れたように棚から牛乳を取り出し、男の前に置いた。
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#38 [あんみつ]
 
男は自分の首に下げたペンダントを外しながら、少年をじっと見つめる。

「・・・?なんだよ?」

訳が分からないといった様子の少年。

「・・・ん、何でもないよ」

そんな少年を見て、アークは納得したようににっこりと微笑んだ。

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#39 [あんみつ]
 

「ほら、牛乳。・・・と、これはおまけ」

言いながらアークは、小さな包みを取り出し、牛乳の横に置く。

「まじで?何それ?」

「んー・・・開けてからのお楽しみ」

少年の質問に、アークは意味深な笑みを浮かべて言った。

また飴かなんかだろ、そう思った少年は、その笑みを気にもとめない。

「ふーん、サンキュ」

それだけ言って、財布の中を覗く。
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#40 [あんみつ]
 
少し小銭をチャラチャラ言わせた後、お札を1枚取り出した。

アークはそれをちらりと見て、また少年に視線を戻す。

そして、口を開いた。

「・・・なぁ、ルキ。封印された闇の話知ってるか?」

「・・・?神と人間が協力して・・・ってやつ?」

ルキと呼ばれた少年が答えると、アークはその通りといった風に頷いた。

ルキは、それが何だよといった風な顔でアークを見る。
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#41 [あんみつ]
 
アークはそれが分かったのか、

「いや、知ってるならいいんだ」

それだけ言うと、ルキからお札を受け取って、おつりを取り出す。

おつりを受け取りながらも、どうも納得のいかない顔のルキに、アークは少し考えた後口を開いた。

「・・・俺の昔の話をしようか」

「アークの?」

ルキは聞きたい聞きたいと、台の上に身を乗り出す。

そんなルキを見て、アークは満足げにほほえんだ後、話し始めた。
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店内 [jpg/15KB]
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#42 [あんみつ]
 
「もう十年前だから・・・俺が十六の時。ちょうど今のルキと同い年だな」

「うんうん」

ルキは相槌を打ちながら、今まで一度も聞いたことのないアークの昔話に耳を傾ける。

アークは少しためた後、

「俺は、もう一つの世界に行った」

そう、言った。

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#43 [あんみつ]
――――――――


「・・・なぁ、さっきもここ通ったよな?」

「・・・」

「・・・なぁってば」

「・・・」

「なぁ、アーク!」

「だぁーもう!うるさいな!」

「・・・」

俺たちは、深い森の中にいた。

背の高い木々に囲まれて、右も左も分からない。
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#44 [あんみつ]
 
俺が怒鳴り気味で言うと、後ろにいたそいつは黙り込んでしまった。

こっちが後ろめたい気分になってくる。

(あーくそ・・・もとはといえばこれが・・・)

俺は、自分の首にぶら下がっているペンダントを睨んだ。

赤い石のはめ込まれたそれは、俺の気持ちとは正反対にキラキラと輝く。

・・・話は数時間前にさかのぼる。

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#45 [あんみつ]
 

「これ、あげるよ」

親が買い出しに行っている間店番をしていた俺に、見慣れない客が牛乳と一緒にペンダントを台の上に置いた。

そう、それがこれ。

「・・・え?」

急なことに戸惑っていると、そいつは牛乳の分のお金を置いて、さっさと店を出て行ってしまった。

慌てて追いかけようと席を立った瞬間、ペンダントが輝きを増して、あまりの眩しさに俺は思わず目を閉じる。
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#46 [あんみつ]
 
そして、再び目を開けたら・・・

「・・・ここ、どこだ?」

森の中にいた。

初めは夢だと思った。

けど、肌を撫でる風の感触。

鼻をかすめる森のにおい。

耳に届く鳥のさえずり。

それらのすべてが夢にしてはあまりにリアルで、俺は何度も瞬きした後、自分の頬をつねる。

「・・・痛い」
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#47 [あんみつ]
 
俺は呟き、そして認識した。

・・・これは夢じゃない。

俺は、ここにいるんだ。

「夢じゃないって分かったか?」

突然後ろから声がして、振り向いた。

そこにいたのは、俺の肩の高さぐらいの背の男の子。

赤いな髪は短く、額に小さな傷がある。

そいつは驚く俺を見て、生意気そうな顔でにっと笑った。
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#48 [あんみつ]
 
「ま、軽く自己紹介でもしようか」

そう言って、少し大きめの石に腰掛ける。

そいつは、立ち尽くす俺をよそに口を開いた。

「封印された闇の話知ってるか?」

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#49 [あんみつ]
 

そいつの名前はレジー。

ここの近くにある国にまつわる火の神。

・・・とてもそうは見えないが。

封印された闇の話は、言い伝えなんかじゃなくすべて本当で、俺は、再び暴走し始めた闇を封印するべく選ばれた人間の一人。

・・・以上、レジーの話。

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レジー [jpg/36KB]
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#50 [あんみつ]
 

が、こんなこといきなり言われて、はいそうですか、なんて言えるわけがない。

「な、分かったか?とりあえず俺の国に行こう。力使うの久々だからこんな所に出ちゃって」

「・・・」

「どした?」

「・・・冗談じゃねぇ!俺は帰る!」


・・・そして、今に至る。

止めるレジーの言葉も聞かずに、当てもなく歩き続けた結果がこれ。

(こんなペンダントのせいで・・・)
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#51 [あんみつ]
 
ガッ!

俺はペンダントを勢いよく取ると、遠くの茂みに向かって投げた。

「あっ!」

レジーが叫ぶ。

ペンダントは、キレイな弧を描いて、茂みに消えた。

「おい!アーク!」

レジーが後ろから俺の腕を掴んだ。

俺は、その手を振り払って言う。

「何なんだよ!急にんなこと言われて納得できるわけねーだろ!選ばれたって・・・何で俺なんだよ!」
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#52 [あんみつ]
 
言った瞬間、レジーの顔が歪んだ。

振り払われた手を力なくおろして、唇を噛む。

が、すぐに拳を握りしめ、顔をキッと引き締めた。

「・・・俺が選んだんだよ!俺は、ずっと・・・」

ガサッ!

レジーの言葉を遮って、ペンダントが消えた茂みから音がした。

俺たちは揃ってそっちを見る。

見ると、茂みはまるで生きているかのように揺れ動いていた。
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#53 [あんみつ]
 
ガサガサという音は、徐々に大きくなっていき、それと共に茂みの揺れも激しさを増す。

(・・・何だ?)

俺たちは無言でそれを見ていた。

が、次の瞬間、レジーが何かを思い出したように急に顔色を変えた。

そして叫んだ。

「アーク!逃げろ!」

「え?」

ドンッ!

地面が揺れた。

俺はバランスを崩して、その場にしりもちをつく。
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#54 [あんみつ]
 
レジーはそんな俺の腕を掴んで、小さな体からは想像も付かない強い力で、俺を引き起こした。

「走れ!」

レジーに引かれるまま走り出す。

その時、

「ギギャー!!」

何かのけたたましい鳴き声がした。

俺は思わず後ろを振り向く。

「なっ・・・何だ、これ」

目の前の信じられない光景に、息をのんだ。
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#55 [あんみつ]
 
あまりの恐怖に足が固まる。

「アーク!」

気付いたレジーが俺の名を呼ぶ。

しかし、俺は固まったまま動けない。

目の前には、見たこともない生き物。

茂みから出てきたそいつは、ライオンの様なたてがみを持ち、それは針金のように固く尖っていた。

銀色の毛皮に覆われ、体の大きさは俺の身長を優に超えている。

そして、この世の悪をすべて集めたような漆黒の目。
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#56 [あんみつ]
 
・・・そう、その姿はまるで魔物。

恐怖と驚きで声が出ない。

「危ない!」

レジーが叫ぶ。

俺目掛けて、鋭い爪が振り下りる。

ドンッ!

間一髪のところで、レジーが俺を突き飛ばした。

爪が地面に刺さって、鈍い音が響く。

その振動で木々が揺れた。

俺は地面に倒れ込む。
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#57 [あんみつ]
 
「・・・いってー」

頭をさすりながら起き上がると、目の前にはレジーの背中。

その向こうには、地面に爪が刺さったままの生き物がいた。

体をうねらしながら爪を引き抜こうともがいている。

爪が抜けるのも時間の問題だろう。

レジーは俺をかばうように、俺と生き物の間に立っていた。

「・・・くそ」

レジーがつぶやく。
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#58 [あんみつ]
 
が、突然意を決したように、生き物の出てきた茂みに向かって走り出した。

そのまま茂みの中に消える。

俺は相変わらず動けなくて、レジーを目で追うだけで精一杯だった。

正直、自分がここまで情けないとは思わなかった。

その時、恐れていたことが起きた。

ザッ!

音ともに爪が地面から抜けて、生き物は自由を取り戻す。
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#59 [あんみつ]
 
そいつはシューシューと息を吐きながら、ゆっくりと俺の方を向いた。

(・・・やばい!)

そう思うのに体は動かない。

だんだんと距離が縮まっていく。

(なんで・・・こんな目に・・・)

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#60 [あんみつ]
 

もとはといえば、あのペンダントのせいだ。

ペンダントを置いていったあの男のせいだ。

選ばれた?

世界を救う?

何なんだよ。

なんで俺なんだよ。

なんで・・・

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#61 [あんみつ]
 

生き物が前足を振り上げて、鋭い爪が光る。

俺にはそれが、まるでスローモーションのように見えた。

その時、

「アーク!受け取れ!」

茂みの中からレジーが飛び出した。

そして、俺に向かって何かを投げる。

それは・・・あのペンダント。

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#62 [あんみつ]
 

『・・・俺が選んだんだよ!俺は、ずっと・・・』

あの時のレジーの言葉が、必死な目が、頭に浮かんだ。

冷たく突き放した俺を、命がけで助けれくれた。

俺よりも小さな背中は、たくましかった。

なのに、俺は・・・。

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#63 [あんみつ]
 

座った状態のまま、できる限り手を伸ばして、ペンダントを受け取った。

爪が俺に向かって振り下りる。


もし、もしも俺が、

なんで俺を選んだんだ?

そう聞いたら、レジーはどう答えるだろう。

『んー・・・なんとなく!』

いたずらっぽく笑って、そんな風に言うかもしれない。

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#64 [あんみつ]
 

けど・・・

・・・そんなことは、どうでもいい。

俺は、助けたい。

俺を必死で助けようとするレジーを。


「アーク!」

レジーが叫ぶ。

その瞬間、ペンダントが輝きを増した。

それに驚いた生き物が動きを止める。

赤い光が、辺りを包み込んだ。
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#65 [あんみつ]
 
ドクンッ

俺は、自分の中の血液が熱くなるのを感じた。

ドクドクする。

光が収まり、俺は目を開けた。

目の前には、もとの光景が広がる。

ただ一つ違うのは、レジーの姿が見当たらないこと。

レジーがどこに行ったか考える暇もなく、地面を震わす低いうなり声によって、俺の意識は生き物の方へと引き戻された。
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#66 [あんみつ]
 
再び振り下ろされる爪。

俺は思わず目をつむる。

その時、

『逃げろ!』

頭の中で、レジーの声がした。

その瞬間、俺の体は素早くその場を飛び退く。

生き物の爪は俺の代わりに、背の高い木を一本なぎ倒した。

その五メートルほど後ろで、急に信じられないほど軽くなった自分の体に、俺は状況を把握できずにいた。
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#67 [あんみつ]
 
動いたのは、確かに自分の体。

だけど、自分だけのものじゃない。

そんな不思議な感覚。

その時、俺は自分の髪が伸びていることに気付いた。

少しじゃない。

短かったはずの金色の髪は、レジーのように赤く染まり、胸の辺りまである。
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#68 [あんみつ]
 
(・・・なんで)

『アーク!聞こえるか?』

また頭の中でレジーの声がした。

「レジー!お前、どこにいるんだよ!?」

俺は、見えないレジーに向かって話しかける。

その間に生き物の目は、再び俺に向けられた。

レジーの小さい舌打ちが聞こえた。

『詳しい説明はあとだ。アーク、右手に神経を集中させるんだ』

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#69 [あんみつ]
 

なんで?

そんなこと聞いている暇はない。

そう、今はレジーを信じるしかない。


持っていたペンダントを首にかけて、言われた通り全神経を右手に集中させる。

すると、だんだん手のひらが熱くなり、気が付くと右手には剣が握られていた。

「・・・これって」

『くるぞ!アーク!』

レジーの声に、俺は反射的に剣を構える。
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#70 [あんみつ]
 
振り下ろされた爪が剣にあたって、鈍い金属音が響いた。

その反動で、俺は後ろにのけぞる。

『右だ!』

体勢を立て直してすぐに次の攻撃。

剣を構える暇もなく、俺は左に飛び退く。

『おい、戦えよ!』

「無茶言うな!剣術なんかやったことねーのに!」

不満げなレジーに俺は怒鳴った。

その時、怒りが頂点に達したのだろう生き物が、うなり声をあげた。
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#71 [あんみつ]
 
そして、爪がものすごいスピードで俺の頭上に向かってくる。

(・・・やばいっ)

とっさに剣を構え、目をつむる。

次の瞬間、

「ウェリアス!」

女の子の声が聞こえた。

ほぼ同時に、高い金属音が鳴り響く。

生き物の爪は下りてこない。

俺は恐る恐る目を開けた。
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#72 [あんみつ]
 
そこには、青い光に包まれる生き物とその前で剣を構える青い髪の女の子の後ろ姿。

キギャー!

生き物は叫びながら砂になり、風に流されて、消えた。

女の子は青い光に包まれる。

光が消えた時、そこには、茶色の髪の女の子と、その子より少し背の低い青い髪の女の子が立っていた。

俺は、どこから現れたか分からないその二人を交互に見て、まばたきを繰り返す。
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⏰:08/11/03 13:45 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#73 [あんみつ]
 
森はもとの静けさを取り戻していた。

二人がゆっくりと俺の方を振り向く。

そして、

「大丈夫だった?」

茶色の髪の女の子が言った。

俺に向かってだろう。

「あ・・・あぁ」

俺がたどたどしくも答えると、同い年ぐらいであろうその子は、小さい子供のように笑った。

頬に小さなえくぼができている。
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#74 [あんみつ]
 
「フィン!」

俺がその笑顔に見とれていると、男の声がした。

声の主は、俺の視界の右端の木の上から飛び降りてきた。

緑の短い髪をした背の高い男。

俺より少し年上だろうか。

走ってこっちにやって来る。

「フィン!大丈夫か!?」

近づくなり男が言った。
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⏰:08/11/03 13:48 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#75 [あんみつ]
 
フィンと呼ばれた茶髪の女の子は、ふぅと息を吐く。

「大丈夫。一匹だけだったから」

フィンが冷静に言うと、男は安心したのか、胸をなで下ろした。

次の瞬間、男が緑の光に包まれる。

光が消えた時、そこには、黒髪の男と緑の髪をした小柄な男の子がいた。

女の子の時と同じように。

(・・・なんなんだ)
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#76 [あんみつ]
 
俺が呆気にとられていると、小柄な男の子が、地面にへたり込んだままの俺に気づいた。

「あー!」

そして、俺の胸にぶら下がるペンダントを指差して叫ぶ。

その声で、フィンも男も女の子も、一斉にこっちを見た。

「え!?こいつもしかして・・・」

男が、驚きを隠せない表情でフィンを見る。

フィンはコクリとうなずくと、自分の胸元から青い石がはめ込まれたペンダントを取り出して、俺に見せた。
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#77 [あんみつ]
 
続いて、男も緑の石がはめ込まれたペンダントを取り出す。

俺は、自分の赤い石がはめ込まれたペンダントとそれらを見比べた。

「レジー!さっさと出てこいよ!」

そうしていると、男の子が俺に近づいてきて、いないはずのレジーに向かって言った。

その時、俺は赤い光に包まれる。

光が消えると、俺の隣には、まるで当然のような顔をしてレジーが立っていた。

俺の髪は、もとの短髪に戻っている。
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#78 [あんみつ]
 
「久しぶりだな。ウェリアス、カルジャ」

言いながらレジーは、女の子と男の子の顔を見て嬉しそうに笑う。

「針獣一匹に手間取るなんて、レジーらしくないんじゃない?」

ウェリアスと呼ばれた青髪の女の子が、いたずらっぽく言った。

「なんか久しぶりだと感覚が鈍っちゃってさ」

腕をぶんぶんと振って見せるレジー。

俺は状況が飲み込めずに、楽しそうに話す三人を見ていた。
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#79 [あんみつ]
 
そんな俺に気づいたレジーが、今度は全員を見渡しながら言う。

「こちらアーク、俺のパートナー」

俺は反射的に頭を下げた。

全員の視線が俺に集まる。

「私は水の神のウェリアス。こっちはパートナーのフィン。よろしくね」

「俺は森の神のカルジャ。こいつはパートナーのリク」

ウェリアスとカルジャが、順番に言った。
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#80 [あんみつ]
 
フィンは笑顔で頭を下げ、リクは、「こいつって何だよ」とカルジャを小突く。

(・・・水の神と、森の神?)

他にも理解できないことはたくさんある。

俺は必死で頭を回転させる。

そこで、リクが口を開いた。

「俺たちも、もとはアークと同じ世界にいたんだ。でも、このペンダントが光って・・・」

「・・・気づいたらこっちの世界にいた?」

俺が言うとリクは、その通りとうなずいた。
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#81 [あんみつ]
 
自分と同じ世界にいた、それだけなのに、親近感がわいてくる。

そこで俺は、ペンダントを置いていった男のことを思い出した。

「このペンダント、知らない男が俺の所に置いてったんだよ。あの男は?何か関係あんの?」

胸にぶら下がったペンダントに触れながら言うと、今度はレジーが口を開いた。

「そいつは、以前闇が暴走した時の俺のパートナー。俺がアークを選んだから、そいつが代わりにペンダントを渡してくれたんだ。そのペンダントは、俺たち神の分身みたいなもんだからな」
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⏰:08/11/03 13:56 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#82 [あんみつ]
 
言った後レジーは、あいつらしいなと静かに笑った。

風が吹いて木々が揺れる。

俺の頭の中に、小さい頃に聞いた物語が浮かんだ。

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⏰:08/11/03 13:57 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#83 [あんみつ]
 

『闇の暴走を止めるべく、国々は、それぞれの土地にまつわる神の協力の下、闇を封印することに成功した。

しかし、それは一時的なもので、闇が暴走しようとした時、再び封印の儀式を行う必要がある。

封印するためには、一人の神につき、一人の選ばれた他の世界の人間の力が必要であった。

それぞれの国からの神と、それに選ばれた人間たちが集まった時、真の力を発揮する。

そうして、神々と人間たちは、協力しあって生きてきたのだ』

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⏰:08/11/03 13:58 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#84 [あんみつ]
 

ずっと作り話だと思っていたものが、今、俺の目の前にある。

不思議な感覚。

「俺たちは闇を封印するために、残り五人の人間と、その神を探さなきゃいけない。だから・・・アーク、一緒に来て欲しい」

レジーが俺に向かって手を差し出す。

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⏰:08/11/03 13:59 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#85 [あんみつ]
 

初めは逃げ出したかった。

けど、あの時、助けたいと思ったんだ。

レジーを、いや、この世界を。


俺はレジーの手をつかんだ。

レジーは俺の手を引き、その勢いで俺は立ち上がる。

俺が照れくさそうにしていると、レジーがにかっと笑って言った。

「よろしくな、アーク!」
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⏰:08/11/03 14:00 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#86 [あんみつ]
 
「よし!じゃ、とりあえず火の国にでも向かいますか!」

リクが言って歩き出す。

リクと、その隣にカルジャ。

二人の後ろに、フィンとウェリアスが続く。

俺とレジーは、どちらかともなく手を離して、一番後ろについて歩き出した。

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⏰:08/11/03 14:01 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#87 [あんみつ]
 

怖くないわけじゃない。

けど、なんとかしたい。

なんとかなりそうな気がするんだ。


「・・・なぁ、レジー」

「ん?」

「なんで、俺を選んだんだ?」

気になっていたことを聞いてみた。

レジーは少し考えた後、笑って言う。

「んー・・・なんとなく!」
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⏰:08/11/03 14:02 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#88 [あんみつ]
 
あまりに予想通りの答えで、俺は思わず吹き出した。

そんな俺を見て不思議そうな顔をした後、レジーは付け足す。

「アークなら、分かってくれる気がした。直感みたいなもんだよ。俺は、ずっとアークを待ってたんだ」

言った後レジーは、照れくさそうに笑った。

レジーの言葉は、俺の中にすんなりと入ってきて、俺の心を熱くした。
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⏰:08/11/03 14:03 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#89 [あんみつ]
 
今となっては、これが運命なような気さえしてくる。

上を見上げると、木々の隙間から青い空が見えた。

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⏰:08/11/03 14:04 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#90 [あんみつ]
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「・・・」

手作りのパンと乳製品の香りが立ち込め、棚に色とりどりの果物が並ぶ店内。

アークの長い話が終わり、アーク自身は満足げだが、ルキは何か言いたそうな顔でアークを見る。

「どーせ作り話だろって?」

アークは、そんなルキの心を読んだかのように言った。

「だってそうだろ?」

ルキが言い返すと、アークは意味深な笑みを浮かべる。
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⏰:08/11/03 14:06 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#91 [あんみつ]
 
カランカランッ

店のドアが開いて、新しい客が入ってきた。

それに気づいたルキは、包みをポケットに入れて牛乳を抱えると、「またな!」と言って店を後にした。

アークはそんなルキの姿を見送った後、入ってきた客に向かって言った。

「久しぶりだな、リク」

アークの言葉に、黒髪の背の高い客は手をあげて笑った。

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⏰:08/11/03 14:10 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#92 [あんみつ]
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家に帰ったルキは、牛乳を机に置いて、ポケットから包みを取り出す。

包みを机に置くと、カチャリと小さく音がした。

不思議に思ったルキは、包みを開け、中のものを取り出す。

「・・・これって」
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⏰:08/11/03 14:11 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


#93 [あんみつ]
 
それは、赤い石のはめ込まれたペンダントだった。

ペンダントは、当然のような顔でルキの手のひらにある。

そして、急に輝きを増したと思うと、辺りを赤い光で包み込んだ。


・・・今、新しい物語が始まる。

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ルキ [jpg/18KB]
⏰:08/11/03 14:14 📱:D904i 🆔:3PH3.VE6


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