【コラボ企画】秋のラノベ祭り投下スレ【withイラスト板】
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#1 [◆vzApYZDoz6]
:08/10/04 01:48 :P903i :pZXk7L.U
#2 [◆vzApYZDoz6]
小説投下の際の注意!
・投下は11月3日(月)、12:00〜26:00を予定しています
・投下の前に、必ず『今から投下します』という投下宣言をしてください!
宣言は早かった方が先になります。同時に2人が宣言したら、先に宣言した方がまず投下、それが終わってから次に宣言した方が投下、という感じになります。
また、誰かが投下中の場合は宣言は控えてください。
:08/10/04 01:49 :P903i :pZXk7L.U
#3 [◆vzApYZDoz6]
・投下が終わったら、アンカーで自分の作品をまとめて下さい。それが投下終了の合図にもなるのでお願いします
・2作品以上投下する作家さんは、宣言は1回でおkです。1度宣言したら続けて全ての作品を投下しましょう
・やむを得ず投下ストップする際は、必ず「投下ストップします」とレスしてください。
戻ってきたら再び投下宣言をして(もちろん誰かが投下中の場合は終わってから)、投下再開してください。
この場合は順番に関わらず、再投下する作家さん優先で投下します
:08/10/04 01:49 :P903i :pZXk7L.U
#4 [◆vzApYZDoz6]
:08/10/04 01:50 :P903i :pZXk7L.U
#5 [◆vzApYZDoz6]
:08/10/04 01:50 :P903i :pZXk7L.U
#6 [@斜線]
この絵で描かせて貰います。ではstart
:08/10/15 14:20 :PC :Ez2gXYgU
#7 [@斜線]
はりわすれたory
jpg 23KB
:08/10/15 14:21 :PC :Ez2gXYgU
#8 [@斜線]
簡単に登場人物紹介
画像むかって堰Fユウキ、:マサヤ
:08/10/15 14:23 :PC :Ez2gXYgU
#9 [@斜線]
二十一歳童貞。
好きで童貞をやってるわけじゃないけど、この年までリアルに女とやったことがない。
別にもてないわけでもない。
それなりに告白とかされたりして、普通の成人男性並に欲求だってある。
だけどどうしてか一度も本番を迎えたことがない。
:08/10/15 14:26 :PC :Ez2gXYgU
#10 [@斜線]
同性愛に興味があるわけでもない。
今日もマサヤは嘆いている。
『なんで俺たちって彼女いないんだろう』
何度となく聞かされたこの言葉。
双子の兄のユウキはうんざりしながらも、弟を宥めないわけにはいかなかった。
『まーいつか出来るって』
ユウキが煙草を燻らせながら答える。
『聞き飽きたよその言葉。俺らもう21だぞ』
:08/10/15 14:31 :PC :Ez2gXYgU
#11 [@斜線]
マサヤは激しい口調でユウキに怒鳴った。
『年なんか関係ないでしょ…』
残りが僅かになった煙草を空き缶に落とすとユウキは立ち上がった。
『世の中には童貞のまま死ぬ奴だっているだろーよ』
ケケッと笑いかけるが
マサヤはとんでもない、といった表情だ。
『…ユウキは童貞で死んでも良いかも知れないけど、俺はイヤだね』
:08/10/15 14:35 :PC :Ez2gXYgU
#12 [@斜線]
一卵性双生児なのに、ユウキとマサヤの思考は全く噛み合わない。
二本目の煙草に火をつけながら
ユウキはぼんやりと空を眺めた。
屋上から見る秋の空は高く澄んでいて
童貞とかそういう俗物的なことを考えているのが阿呆らしくなる。
『そんなことよりさ〜…職安行く方が先じゃん』
平日の真っ昼間にマンションの屋上に上がって煙草を吹かす…
兄弟揃ってニート生活を続けて行くには
そろそろ金が尽きてきていた。
:08/10/15 14:40 :PC :Ez2gXYgU
#13 [@斜線]
『職探しより女探すほうが先』
マサヤは相変わらずの口調のまま愚痴を言っている。
そんなに女に餓えているなら尚更仕事を探すべきだろうが…のど元まで込み上げてきた言葉を飲み込み
ユウキは笑って流した。
『お前のグチに付き合ってたら頭いたいわ…俺ハローワーク行ってくる』
『…ご自由にー』
:08/10/15 14:46 :PC :Ez2gXYgU
#14 [@斜線]
ユウキは履き物だけ変えて、近所の職業紹介所に向かった。
(あーかったりー…なんか面白いことでも起きないもんかね)
チャリに跨り、車道を走る。
『あのー…仕事探しに来たんですけど』
会社の玄関で受付嬢らしき女に声をかけた。
『今日は履歴書はお持ちですかぁ?』
女はにこやかに答える。
『無いです』
ユウキの返答を聞き、女の顔が引きつった。
:08/10/15 14:52 :PC :Ez2gXYgU
#15 [@斜線]
『でしたら―…また明日、履歴書をご持参の上こちらに来ていただけますか?』
要するに今日は帰れという意味なのだ。
ユウキは居心地が悪くなり、そのまま何も言わず職安所を後にした。
家に帰るとマサヤに何を言われるか分からないので
あてもなく川縁をチャリを押しながら歩いた。
:08/10/15 14:56 :PC :Ez2gXYgU
#16 [@斜線]
(だりー…)
川沿いの道で一人黄昏れていると、いきなり背後で甲高い声が上がった。
『助けてー!』
何事かと振り返ると、女と二人組の男が揉み合っている。
どうやら女のバッグを引ったくるつもりのようだった。
『ナンなんですか!!やめてください!!』
女は喚き散らしている。
:08/10/15 15:00 :PC :Ez2gXYgU
#17 [@斜線]
ユウキは立ち上がり、三人の間に入った。
『何やってんだよ』
『うるせぇ!!!!お前はすっこんでろ』
一人の男がユウキにつかみかかる。
『二対一は卑怯だろ』
『うっせーな!!!!』
ユウキと男達が言い合いになっているうちに、野次馬が集まってきた。
『喧嘩か?』『警察呼ぶか』等々声があがり、
男達も面倒になったのか
そのままバッグも取らずにその場から逃げた。
:08/10/15 15:06 :PC :Ez2gXYgU
#18 [@斜線]
男達も野次馬も去り、残ったユウキと女は誰かが呼んだらしい警察のパトカーに乗せられ、事情聴取を受けた。
『大変な目に遭いましたね』
調書を取り終え解放された時には、外は真っ暗だった。
『本当に…ご迷惑おかけしました』
女はユウキに頭を下げた。
『いえ、気にしないでください。じゃ…』
『あの…お名前伺ってもいいですか?お礼がしたいので…』
『あーお礼とかいいですよ。気にしないで。ではこれで』
ユウキは派出所前で女と別れた。
:08/10/15 15:14 :PC :Ez2gXYgU
#19 [@斜線]
家に帰ると案の定、マサヤからの「どうだった」の質問攻めだった。
どうもこうも言いようがないので
ユウキは「疲れたから先に休む」とだけ言い風呂に入った。
…翌朝
『今日も職安行くのかよ?』
朝飯を頬張りながら、マサヤは聞いた。
『…まーな』
『じゃ俺も行くわ』
:08/10/15 15:18 :PC :Ez2gXYgU
#20 [@斜線]
『珍しいな』
『まじで金ないからさ。リアルにあと二万円しかない』
『…』
ニートも金がなけりゃできない。
働きだしても給料が入るまで
二万で食いつないでいくのは不可能だ。
『この際ドカタでいいか。日給のところさがそう』
:08/10/15 15:21 :PC :Ez2gXYgU
#21 [@斜線]
その日のうちに日当八千円の建築の仕事(バイト)が見つかった。
今日からの採用と言われ、二人はTシャツに着替えてチャリで職場に向かった。
力仕事のきつさは半端無い。
しかもモノがどこにあるかわからないから
ぱしりにも使えない。
ニート歴三年の二人はすぐにばてた。
『座ってんじゃねー!』
先輩に怒鳴られながら、何とか終業時刻まで働いた。
ミーティングが終わると親方らしき人物がその日の給料を支払ってくれた。
:08/10/15 15:28 :PC :Ez2gXYgU
#22 [@斜線]
収入は二人合わせて一万円とちょっと。
初日だから色々さっ引かれた。
家に帰るなりマサヤは不機嫌をぶちまけた。
『ちっ!!!!疲れ果ててこんだけかよ!!』
マサヤは当たり散らした。
いつものようにユウキが宥めても聞く気配はない
『仕方ないだろ…明日も頑張ろーや』
『俺はイヤだね!!!!ユウキが働いて金入れろよ!!!!』
:08/10/15 15:30 :PC :Ez2gXYgU
#23 [@斜線]
『ざけんな!なんで俺がお前の分まで働かなきゃいけないんだよ!!』
『兄貴なんだから、当然だろ』
『双子で兄弟も糞もあるか』
二人は口論の末殴り合いになった。
いつものように喧嘩が始まった。手加減などない。
疲れているのに殴り合った。
:08/10/15 15:33 :PC :Ez2gXYgU
#24 [@斜線]
お互い鼻血と汗と切り傷で、顔面血だらけだった。
それでも喧嘩が収まるには時間がかかる。
『…ハァ…ハァ…』
息切れしながらも睨み付け合う。
そこに、まるで空気を読まずに“ピーンポーン”というチャイムオンが鳴り響いた。
:08/10/15 15:37 :PC :Ez2gXYgU
#25 [@斜線]
チャイム音で一気に冷静には慣れた二人だったが、
この容姿で出ていっていいものか、顔を見合わせた。
『ユウキが出ろよな!』
『…わかったよ…』
ユウキは近くにあった雑巾で顔を拭いながら
玄関のドアを開けた。
『はーい…どちらさまー』
:08/10/15 15:40 :PC :Ez2gXYgU
#26 [@斜線]
『…あ』
そこには、あの女が立っていた。
『あんた―』
女はユウキの血みどろの顔を見て相当驚いたらしい。
『スイマセン!間違えました』
そう言って帰ろうとした。
『待てって!間違えてないよ、多分。今俺こんなんですけど…』
女の細い手首を掴む。
『あー…じゃああの昨日の…?』
女が確認するように覗き込んでくる。
:08/10/15 15:45 :PC :Ez2gXYgU
#27 [@斜線]
『そーです。でもよく家が分かりましたね』
『あ、いえ…あの…迷惑かと思ったんですがどうしてもお礼がしたくて。あの後刑事さんにお聞きしたんです』
『…そうですか。えっと…取り敢えず上がってってください。
男二人でむさ苦しい家ですけど』
ユウキは頭を掻きながら
女を促した。
『え、いえ!ここで結構です…』
:08/10/15 15:48 :PC :Ez2gXYgU
#28 [@斜線]
疲れたから落ち
:08/10/15 18:25 :PC :Ez2gXYgU
#29 [◆vzApYZDoz6]
乙です…と言いたいところですが
>>2見ましたか?
投下は11月3日です
フライングですよw
:08/10/15 23:28 :P903i :9qc7j1.2
#30 [紫陽花→渚坂 さいめ]
あげまーす(・∀・)
投下開始です!!!!!
:08/11/03 00:05 :F905i :WY17HTaw
#31 [あんみつ]
今から投下します!
使わせてもらうイラストは、
NO、003
NO、010
NO、032
の3つです!
:08/11/03 12:57 :D904i :3PH3.VE6
#32 [あんみつ]
あ、タイトルは
「受け継がれし者」です。
:08/11/03 12:59 :D904i :3PH3.VE6
#33 [あんみつ]
はるか昔、もう一つの世界の国々で大規模な争いが起きた。
人々の寂しさ、憎しみ・・・それらが合わさって、いつしか大きな闇が生まれた。
その闇の暴走を止めるべく、国々は、それぞれの土地にまつわる神の協力の下、闇を封印することに成功した。
しかし、それは一時的なもので、闇が暴走しようとした時、再び封印の儀式を行う必要がある。
.
:08/11/03 13:01 :D904i :3PH3.VE6
#34 [あんみつ]
封印するためには、一人の神につき、一人の選ばれた他の世界の人間の力が必要であった。
それぞれの国からの神と、それに選ばれた人間たちが集まった時、真の力を発揮する。
そうして、神々と人間たちは、協力しあって生きてきたのだ。
.
:08/11/03 13:02 :D904i :3PH3.VE6
#35 [あんみつ]
――――――――
手作りのパンと乳製品の香りが立ち込め、棚に色とりどりの果物が並ぶ店内。
売り場の椅子に座って、自分の胸にかかったペンダントを手に取り、それを懐かしそうに見つめる一人の男がいた。
透明な石のはめ込まれたそれは、窓から差し込む光に当たってキラキラと輝く。
男は目をつむっては開き、再びそれを見つめては、また目を閉じる。
.
:08/11/03 13:03 :D904i :3PH3.VE6
#36 [あんみつ]
しばらくそれを繰り返して、男はそっと微笑んだ。
まるで、懐かしい思い出の蓋を開けて楽しむように。
男が仕事に戻ろうと立ち上がろうとする。
その時、ペンダントの中央にはめ込まれた石が赤く光った。
それに気付いた男は、目を見開いた後、何度もまばたきを繰り返す。
そして呟く。
「・・・とうとうきたか」
.
:08/11/03 13:04 :D904i :3PH3.VE6
#37 [あんみつ]
カランカランッ
「アーク!牛乳一本」
店のドアが勢いよく開いて、一人の少年が入ってきた。
アークと呼ばれた男は、一気に現実に引き戻される。
少年は慣れたように棚から牛乳を取り出し、男の前に置いた。
.
:08/11/03 13:06 :D904i :3PH3.VE6
#38 [あんみつ]
男は自分の首に下げたペンダントを外しながら、少年をじっと見つめる。
「・・・?なんだよ?」
訳が分からないといった様子の少年。
「・・・ん、何でもないよ」
そんな少年を見て、アークは納得したようににっこりと微笑んだ。
.
:08/11/03 13:06 :D904i :3PH3.VE6
#39 [あんみつ]
「ほら、牛乳。・・・と、これはおまけ」
言いながらアークは、小さな包みを取り出し、牛乳の横に置く。
「まじで?何それ?」
「んー・・・開けてからのお楽しみ」
少年の質問に、アークは意味深な笑みを浮かべて言った。
また飴かなんかだろ、そう思った少年は、その笑みを気にもとめない。
「ふーん、サンキュ」
それだけ言って、財布の中を覗く。
.
:08/11/03 13:07 :D904i :3PH3.VE6
#40 [あんみつ]
少し小銭をチャラチャラ言わせた後、お札を1枚取り出した。
アークはそれをちらりと見て、また少年に視線を戻す。
そして、口を開いた。
「・・・なぁ、ルキ。封印された闇の話知ってるか?」
「・・・?神と人間が協力して・・・ってやつ?」
ルキと呼ばれた少年が答えると、アークはその通りといった風に頷いた。
ルキは、それが何だよといった風な顔でアークを見る。
.
:08/11/03 13:08 :D904i :3PH3.VE6
#41 [あんみつ]
アークはそれが分かったのか、
「いや、知ってるならいいんだ」
それだけ言うと、ルキからお札を受け取って、おつりを取り出す。
おつりを受け取りながらも、どうも納得のいかない顔のルキに、アークは少し考えた後口を開いた。
「・・・俺の昔の話をしようか」
「アークの?」
ルキは聞きたい聞きたいと、台の上に身を乗り出す。
そんなルキを見て、アークは満足げにほほえんだ後、話し始めた。
.
店内 [jpg/15KB]
:08/11/03 13:11 :D904i :3PH3.VE6
#42 [あんみつ]
「もう十年前だから・・・俺が十六の時。ちょうど今のルキと同い年だな」
「うんうん」
ルキは相槌を打ちながら、今まで一度も聞いたことのないアークの昔話に耳を傾ける。
アークは少しためた後、
「俺は、もう一つの世界に行った」
そう、言った。
.
:08/11/03 13:12 :D904i :3PH3.VE6
#43 [あんみつ]
――――――――
「・・・なぁ、さっきもここ通ったよな?」
「・・・」
「・・・なぁってば」
「・・・」
「なぁ、アーク!」
「だぁーもう!うるさいな!」
「・・・」
俺たちは、深い森の中にいた。
背の高い木々に囲まれて、右も左も分からない。
.
:08/11/03 13:14 :D904i :3PH3.VE6
#44 [あんみつ]
俺が怒鳴り気味で言うと、後ろにいたそいつは黙り込んでしまった。
こっちが後ろめたい気分になってくる。
(あーくそ・・・もとはといえばこれが・・・)
俺は、自分の首にぶら下がっているペンダントを睨んだ。
赤い石のはめ込まれたそれは、俺の気持ちとは正反対にキラキラと輝く。
・・・話は数時間前にさかのぼる。
.
:08/11/03 13:15 :D904i :3PH3.VE6
#45 [あんみつ]
「これ、あげるよ」
親が買い出しに行っている間店番をしていた俺に、見慣れない客が牛乳と一緒にペンダントを台の上に置いた。
そう、それがこれ。
「・・・え?」
急なことに戸惑っていると、そいつは牛乳の分のお金を置いて、さっさと店を出て行ってしまった。
慌てて追いかけようと席を立った瞬間、ペンダントが輝きを増して、あまりの眩しさに俺は思わず目を閉じる。
.
:08/11/03 13:16 :D904i :3PH3.VE6
#46 [あんみつ]
そして、再び目を開けたら・・・
「・・・ここ、どこだ?」
森の中にいた。
初めは夢だと思った。
けど、肌を撫でる風の感触。
鼻をかすめる森のにおい。
耳に届く鳥のさえずり。
それらのすべてが夢にしてはあまりにリアルで、俺は何度も瞬きした後、自分の頬をつねる。
「・・・痛い」
.
:08/11/03 13:17 :D904i :3PH3.VE6
#47 [あんみつ]
俺は呟き、そして認識した。
・・・これは夢じゃない。
俺は、ここにいるんだ。
「夢じゃないって分かったか?」
突然後ろから声がして、振り向いた。
そこにいたのは、俺の肩の高さぐらいの背の男の子。
赤いな髪は短く、額に小さな傷がある。
そいつは驚く俺を見て、生意気そうな顔でにっと笑った。
.
:08/11/03 13:18 :D904i :3PH3.VE6
#48 [あんみつ]
「ま、軽く自己紹介でもしようか」
そう言って、少し大きめの石に腰掛ける。
そいつは、立ち尽くす俺をよそに口を開いた。
「封印された闇の話知ってるか?」
.
:08/11/03 13:19 :D904i :3PH3.VE6
#49 [あんみつ]
そいつの名前はレジー。
ここの近くにある国にまつわる火の神。
・・・とてもそうは見えないが。
封印された闇の話は、言い伝えなんかじゃなくすべて本当で、俺は、再び暴走し始めた闇を封印するべく選ばれた人間の一人。
・・・以上、レジーの話。
.
レジー [jpg/36KB]
:08/11/03 13:21 :D904i :3PH3.VE6
#50 [あんみつ]
が、こんなこといきなり言われて、はいそうですか、なんて言えるわけがない。
「な、分かったか?とりあえず俺の国に行こう。力使うの久々だからこんな所に出ちゃって」
「・・・」
「どした?」
「・・・冗談じゃねぇ!俺は帰る!」
・・・そして、今に至る。
止めるレジーの言葉も聞かずに、当てもなく歩き続けた結果がこれ。
(こんなペンダントのせいで・・・)
.
:08/11/03 13:22 :D904i :3PH3.VE6
#51 [あんみつ]
ガッ!
俺はペンダントを勢いよく取ると、遠くの茂みに向かって投げた。
「あっ!」
レジーが叫ぶ。
ペンダントは、キレイな弧を描いて、茂みに消えた。
「おい!アーク!」
レジーが後ろから俺の腕を掴んだ。
俺は、その手を振り払って言う。
「何なんだよ!急にんなこと言われて納得できるわけねーだろ!選ばれたって・・・何で俺なんだよ!」
.
:08/11/03 13:23 :D904i :3PH3.VE6
#52 [あんみつ]
言った瞬間、レジーの顔が歪んだ。
振り払われた手を力なくおろして、唇を噛む。
が、すぐに拳を握りしめ、顔をキッと引き締めた。
「・・・俺が選んだんだよ!俺は、ずっと・・・」
ガサッ!
レジーの言葉を遮って、ペンダントが消えた茂みから音がした。
俺たちは揃ってそっちを見る。
見ると、茂みはまるで生きているかのように揺れ動いていた。
.
:08/11/03 13:24 :D904i :3PH3.VE6
#53 [あんみつ]
ガサガサという音は、徐々に大きくなっていき、それと共に茂みの揺れも激しさを増す。
(・・・何だ?)
俺たちは無言でそれを見ていた。
が、次の瞬間、レジーが何かを思い出したように急に顔色を変えた。
そして叫んだ。
「アーク!逃げろ!」
「え?」
ドンッ!
地面が揺れた。
俺はバランスを崩して、その場にしりもちをつく。
.
:08/11/03 13:25 :D904i :3PH3.VE6
#54 [あんみつ]
レジーはそんな俺の腕を掴んで、小さな体からは想像も付かない強い力で、俺を引き起こした。
「走れ!」
レジーに引かれるまま走り出す。
その時、
「ギギャー!!」
何かのけたたましい鳴き声がした。
俺は思わず後ろを振り向く。
「なっ・・・何だ、これ」
目の前の信じられない光景に、息をのんだ。
.
:08/11/03 13:26 :D904i :3PH3.VE6
#55 [あんみつ]
あまりの恐怖に足が固まる。
「アーク!」
気付いたレジーが俺の名を呼ぶ。
しかし、俺は固まったまま動けない。
目の前には、見たこともない生き物。
茂みから出てきたそいつは、ライオンの様なたてがみを持ち、それは針金のように固く尖っていた。
銀色の毛皮に覆われ、体の大きさは俺の身長を優に超えている。
そして、この世の悪をすべて集めたような漆黒の目。
.
:08/11/03 13:27 :D904i :3PH3.VE6
#56 [あんみつ]
・・・そう、その姿はまるで魔物。
恐怖と驚きで声が出ない。
「危ない!」
レジーが叫ぶ。
俺目掛けて、鋭い爪が振り下りる。
ドンッ!
間一髪のところで、レジーが俺を突き飛ばした。
爪が地面に刺さって、鈍い音が響く。
その振動で木々が揺れた。
俺は地面に倒れ込む。
.
:08/11/03 13:28 :D904i :3PH3.VE6
#57 [あんみつ]
「・・・いってー」
頭をさすりながら起き上がると、目の前にはレジーの背中。
その向こうには、地面に爪が刺さったままの生き物がいた。
体をうねらしながら爪を引き抜こうともがいている。
爪が抜けるのも時間の問題だろう。
レジーは俺をかばうように、俺と生き物の間に立っていた。
「・・・くそ」
レジーがつぶやく。
.
:08/11/03 13:29 :D904i :3PH3.VE6
#58 [あんみつ]
が、突然意を決したように、生き物の出てきた茂みに向かって走り出した。
そのまま茂みの中に消える。
俺は相変わらず動けなくて、レジーを目で追うだけで精一杯だった。
正直、自分がここまで情けないとは思わなかった。
その時、恐れていたことが起きた。
ザッ!
音ともに爪が地面から抜けて、生き物は自由を取り戻す。
.
:08/11/03 13:30 :D904i :3PH3.VE6
#59 [あんみつ]
そいつはシューシューと息を吐きながら、ゆっくりと俺の方を向いた。
(・・・やばい!)
そう思うのに体は動かない。
だんだんと距離が縮まっていく。
(なんで・・・こんな目に・・・)
.
:08/11/03 13:31 :D904i :3PH3.VE6
#60 [あんみつ]
もとはといえば、あのペンダントのせいだ。
ペンダントを置いていったあの男のせいだ。
選ばれた?
世界を救う?
何なんだよ。
なんで俺なんだよ。
なんで・・・
.
:08/11/03 13:32 :D904i :3PH3.VE6
#61 [あんみつ]
生き物が前足を振り上げて、鋭い爪が光る。
俺にはそれが、まるでスローモーションのように見えた。
その時、
「アーク!受け取れ!」
茂みの中からレジーが飛び出した。
そして、俺に向かって何かを投げる。
それは・・・あのペンダント。
.
:08/11/03 13:33 :D904i :3PH3.VE6
#62 [あんみつ]
『・・・俺が選んだんだよ!俺は、ずっと・・・』
あの時のレジーの言葉が、必死な目が、頭に浮かんだ。
冷たく突き放した俺を、命がけで助けれくれた。
俺よりも小さな背中は、たくましかった。
なのに、俺は・・・。
.
:08/11/03 13:34 :D904i :3PH3.VE6
#63 [あんみつ]
座った状態のまま、できる限り手を伸ばして、ペンダントを受け取った。
爪が俺に向かって振り下りる。
もし、もしも俺が、
なんで俺を選んだんだ?
そう聞いたら、レジーはどう答えるだろう。
『んー・・・なんとなく!』
いたずらっぽく笑って、そんな風に言うかもしれない。
.
:08/11/03 13:35 :D904i :3PH3.VE6
#64 [あんみつ]
けど・・・
・・・そんなことは、どうでもいい。
俺は、助けたい。
俺を必死で助けようとするレジーを。
「アーク!」
レジーが叫ぶ。
その瞬間、ペンダントが輝きを増した。
それに驚いた生き物が動きを止める。
赤い光が、辺りを包み込んだ。
.
:08/11/03 13:36 :D904i :3PH3.VE6
#65 [あんみつ]
ドクンッ
俺は、自分の中の血液が熱くなるのを感じた。
ドクドクする。
光が収まり、俺は目を開けた。
目の前には、もとの光景が広がる。
ただ一つ違うのは、レジーの姿が見当たらないこと。
レジーがどこに行ったか考える暇もなく、地面を震わす低いうなり声によって、俺の意識は生き物の方へと引き戻された。
.
:08/11/03 13:37 :D904i :3PH3.VE6
#66 [あんみつ]
再び振り下ろされる爪。
俺は思わず目をつむる。
その時、
『逃げろ!』
頭の中で、レジーの声がした。
その瞬間、俺の体は素早くその場を飛び退く。
生き物の爪は俺の代わりに、背の高い木を一本なぎ倒した。
その五メートルほど後ろで、急に信じられないほど軽くなった自分の体に、俺は状況を把握できずにいた。
.
:08/11/03 13:38 :D904i :3PH3.VE6
#67 [あんみつ]
動いたのは、確かに自分の体。
だけど、自分だけのものじゃない。
そんな不思議な感覚。
その時、俺は自分の髪が伸びていることに気付いた。
少しじゃない。
短かったはずの金色の髪は、レジーのように赤く染まり、胸の辺りまである。
.
:08/11/03 13:39 :D904i :3PH3.VE6
#68 [あんみつ]
(・・・なんで)
『アーク!聞こえるか?』
また頭の中でレジーの声がした。
「レジー!お前、どこにいるんだよ!?」
俺は、見えないレジーに向かって話しかける。
その間に生き物の目は、再び俺に向けられた。
レジーの小さい舌打ちが聞こえた。
『詳しい説明はあとだ。アーク、右手に神経を集中させるんだ』
.
:08/11/03 13:41 :D904i :3PH3.VE6
#69 [あんみつ]
なんで?
そんなこと聞いている暇はない。
そう、今はレジーを信じるしかない。
持っていたペンダントを首にかけて、言われた通り全神経を右手に集中させる。
すると、だんだん手のひらが熱くなり、気が付くと右手には剣が握られていた。
「・・・これって」
『くるぞ!アーク!』
レジーの声に、俺は反射的に剣を構える。
.
:08/11/03 13:42 :D904i :3PH3.VE6
#70 [あんみつ]
振り下ろされた爪が剣にあたって、鈍い金属音が響いた。
その反動で、俺は後ろにのけぞる。
『右だ!』
体勢を立て直してすぐに次の攻撃。
剣を構える暇もなく、俺は左に飛び退く。
『おい、戦えよ!』
「無茶言うな!剣術なんかやったことねーのに!」
不満げなレジーに俺は怒鳴った。
その時、怒りが頂点に達したのだろう生き物が、うなり声をあげた。
.
:08/11/03 13:43 :D904i :3PH3.VE6
#71 [あんみつ]
そして、爪がものすごいスピードで俺の頭上に向かってくる。
(・・・やばいっ)
とっさに剣を構え、目をつむる。
次の瞬間、
「ウェリアス!」
女の子の声が聞こえた。
ほぼ同時に、高い金属音が鳴り響く。
生き物の爪は下りてこない。
俺は恐る恐る目を開けた。
.
:08/11/03 13:44 :D904i :3PH3.VE6
#72 [あんみつ]
そこには、青い光に包まれる生き物とその前で剣を構える青い髪の女の子の後ろ姿。
キギャー!
生き物は叫びながら砂になり、風に流されて、消えた。
女の子は青い光に包まれる。
光が消えた時、そこには、茶色の髪の女の子と、その子より少し背の低い青い髪の女の子が立っていた。
俺は、どこから現れたか分からないその二人を交互に見て、まばたきを繰り返す。
.
:08/11/03 13:45 :D904i :3PH3.VE6
#73 [あんみつ]
森はもとの静けさを取り戻していた。
二人がゆっくりと俺の方を振り向く。
そして、
「大丈夫だった?」
茶色の髪の女の子が言った。
俺に向かってだろう。
「あ・・・あぁ」
俺がたどたどしくも答えると、同い年ぐらいであろうその子は、小さい子供のように笑った。
頬に小さなえくぼができている。
.
:08/11/03 13:46 :D904i :3PH3.VE6
#74 [あんみつ]
「フィン!」
俺がその笑顔に見とれていると、男の声がした。
声の主は、俺の視界の右端の木の上から飛び降りてきた。
緑の短い髪をした背の高い男。
俺より少し年上だろうか。
走ってこっちにやって来る。
「フィン!大丈夫か!?」
近づくなり男が言った。
.
:08/11/03 13:48 :D904i :3PH3.VE6
#75 [あんみつ]
フィンと呼ばれた茶髪の女の子は、ふぅと息を吐く。
「大丈夫。一匹だけだったから」
フィンが冷静に言うと、男は安心したのか、胸をなで下ろした。
次の瞬間、男が緑の光に包まれる。
光が消えた時、そこには、黒髪の男と緑の髪をした小柄な男の子がいた。
女の子の時と同じように。
(・・・なんなんだ)
.
:08/11/03 13:49 :D904i :3PH3.VE6
#76 [あんみつ]
俺が呆気にとられていると、小柄な男の子が、地面にへたり込んだままの俺に気づいた。
「あー!」
そして、俺の胸にぶら下がるペンダントを指差して叫ぶ。
その声で、フィンも男も女の子も、一斉にこっちを見た。
「え!?こいつもしかして・・・」
男が、驚きを隠せない表情でフィンを見る。
フィンはコクリとうなずくと、自分の胸元から青い石がはめ込まれたペンダントを取り出して、俺に見せた。
.
:08/11/03 13:50 :D904i :3PH3.VE6
#77 [あんみつ]
続いて、男も緑の石がはめ込まれたペンダントを取り出す。
俺は、自分の赤い石がはめ込まれたペンダントとそれらを見比べた。
「レジー!さっさと出てこいよ!」
そうしていると、男の子が俺に近づいてきて、いないはずのレジーに向かって言った。
その時、俺は赤い光に包まれる。
光が消えると、俺の隣には、まるで当然のような顔をしてレジーが立っていた。
俺の髪は、もとの短髪に戻っている。
.
:08/11/03 13:51 :D904i :3PH3.VE6
#78 [あんみつ]
「久しぶりだな。ウェリアス、カルジャ」
言いながらレジーは、女の子と男の子の顔を見て嬉しそうに笑う。
「針獣一匹に手間取るなんて、レジーらしくないんじゃない?」
ウェリアスと呼ばれた青髪の女の子が、いたずらっぽく言った。
「なんか久しぶりだと感覚が鈍っちゃってさ」
腕をぶんぶんと振って見せるレジー。
俺は状況が飲み込めずに、楽しそうに話す三人を見ていた。
.
:08/11/03 13:53 :D904i :3PH3.VE6
#79 [あんみつ]
そんな俺に気づいたレジーが、今度は全員を見渡しながら言う。
「こちらアーク、俺のパートナー」
俺は反射的に頭を下げた。
全員の視線が俺に集まる。
「私は水の神のウェリアス。こっちはパートナーのフィン。よろしくね」
「俺は森の神のカルジャ。こいつはパートナーのリク」
ウェリアスとカルジャが、順番に言った。
.
:08/11/03 13:54 :D904i :3PH3.VE6
#80 [あんみつ]
フィンは笑顔で頭を下げ、リクは、「こいつって何だよ」とカルジャを小突く。
(・・・水の神と、森の神?)
他にも理解できないことはたくさんある。
俺は必死で頭を回転させる。
そこで、リクが口を開いた。
「俺たちも、もとはアークと同じ世界にいたんだ。でも、このペンダントが光って・・・」
「・・・気づいたらこっちの世界にいた?」
俺が言うとリクは、その通りとうなずいた。
.
:08/11/03 13:55 :D904i :3PH3.VE6
#81 [あんみつ]
自分と同じ世界にいた、それだけなのに、親近感がわいてくる。
そこで俺は、ペンダントを置いていった男のことを思い出した。
「このペンダント、知らない男が俺の所に置いてったんだよ。あの男は?何か関係あんの?」
胸にぶら下がったペンダントに触れながら言うと、今度はレジーが口を開いた。
「そいつは、以前闇が暴走した時の俺のパートナー。俺がアークを選んだから、そいつが代わりにペンダントを渡してくれたんだ。そのペンダントは、俺たち神の分身みたいなもんだからな」
.
:08/11/03 13:56 :D904i :3PH3.VE6
#82 [あんみつ]
言った後レジーは、あいつらしいなと静かに笑った。
風が吹いて木々が揺れる。
俺の頭の中に、小さい頃に聞いた物語が浮かんだ。
.
:08/11/03 13:57 :D904i :3PH3.VE6
#83 [あんみつ]
『闇の暴走を止めるべく、国々は、それぞれの土地にまつわる神の協力の下、闇を封印することに成功した。
しかし、それは一時的なもので、闇が暴走しようとした時、再び封印の儀式を行う必要がある。
封印するためには、一人の神につき、一人の選ばれた他の世界の人間の力が必要であった。
それぞれの国からの神と、それに選ばれた人間たちが集まった時、真の力を発揮する。
そうして、神々と人間たちは、協力しあって生きてきたのだ』
.
:08/11/03 13:58 :D904i :3PH3.VE6
#84 [あんみつ]
ずっと作り話だと思っていたものが、今、俺の目の前にある。
不思議な感覚。
「俺たちは闇を封印するために、残り五人の人間と、その神を探さなきゃいけない。だから・・・アーク、一緒に来て欲しい」
レジーが俺に向かって手を差し出す。
.
:08/11/03 13:59 :D904i :3PH3.VE6
#85 [あんみつ]
初めは逃げ出したかった。
けど、あの時、助けたいと思ったんだ。
レジーを、いや、この世界を。
俺はレジーの手をつかんだ。
レジーは俺の手を引き、その勢いで俺は立ち上がる。
俺が照れくさそうにしていると、レジーがにかっと笑って言った。
「よろしくな、アーク!」
.
:08/11/03 14:00 :D904i :3PH3.VE6
#86 [あんみつ]
「よし!じゃ、とりあえず火の国にでも向かいますか!」
リクが言って歩き出す。
リクと、その隣にカルジャ。
二人の後ろに、フィンとウェリアスが続く。
俺とレジーは、どちらかともなく手を離して、一番後ろについて歩き出した。
.
:08/11/03 14:01 :D904i :3PH3.VE6
#87 [あんみつ]
怖くないわけじゃない。
けど、なんとかしたい。
なんとかなりそうな気がするんだ。
「・・・なぁ、レジー」
「ん?」
「なんで、俺を選んだんだ?」
気になっていたことを聞いてみた。
レジーは少し考えた後、笑って言う。
「んー・・・なんとなく!」
.
:08/11/03 14:02 :D904i :3PH3.VE6
#88 [あんみつ]
あまりに予想通りの答えで、俺は思わず吹き出した。
そんな俺を見て不思議そうな顔をした後、レジーは付け足す。
「アークなら、分かってくれる気がした。直感みたいなもんだよ。俺は、ずっとアークを待ってたんだ」
言った後レジーは、照れくさそうに笑った。
レジーの言葉は、俺の中にすんなりと入ってきて、俺の心を熱くした。
.
:08/11/03 14:03 :D904i :3PH3.VE6
#89 [あんみつ]
今となっては、これが運命なような気さえしてくる。
上を見上げると、木々の隙間から青い空が見えた。
.
:08/11/03 14:04 :D904i :3PH3.VE6
#90 [あんみつ]
――――――――
「・・・」
手作りのパンと乳製品の香りが立ち込め、棚に色とりどりの果物が並ぶ店内。
アークの長い話が終わり、アーク自身は満足げだが、ルキは何か言いたそうな顔でアークを見る。
「どーせ作り話だろって?」
アークは、そんなルキの心を読んだかのように言った。
「だってそうだろ?」
ルキが言い返すと、アークは意味深な笑みを浮かべる。
.
:08/11/03 14:06 :D904i :3PH3.VE6
#91 [あんみつ]
カランカランッ
店のドアが開いて、新しい客が入ってきた。
それに気づいたルキは、包みをポケットに入れて牛乳を抱えると、「またな!」と言って店を後にした。
アークはそんなルキの姿を見送った後、入ってきた客に向かって言った。
「久しぶりだな、リク」
アークの言葉に、黒髪の背の高い客は手をあげて笑った。
.
:08/11/03 14:10 :D904i :3PH3.VE6
#92 [あんみつ]
――――――――
家に帰ったルキは、牛乳を机に置いて、ポケットから包みを取り出す。
包みを机に置くと、カチャリと小さく音がした。
不思議に思ったルキは、包みを開け、中のものを取り出す。
「・・・これって」
.
:08/11/03 14:11 :D904i :3PH3.VE6
#93 [あんみつ]
それは、赤い石のはめ込まれたペンダントだった。
ペンダントは、当然のような顔でルキの手のひらにある。
そして、急に輝きを増したと思うと、辺りを赤い光で包み込んだ。
・・・今、新しい物語が始まる。
.
ルキ [jpg/18KB]
:08/11/03 14:14 :D904i :3PH3.VE6
#94 [あんみつ]
>>33-93 受け継がれし者
以上です。
続き・・・が出てしまいましたが、無視して読んでもらって大丈夫です。
次の方どうぞ!
:08/11/03 14:16 :D904i :3PH3.VE6
#95 [紫陽花→渚坂 さいめ]
投下します
使用イラスト
001 002 003
010 030 032
053 002追加分
:08/11/03 14:49 :F905i :WY17HTaw
#96 [紫陽花→渚坂 さいめ]
:08/11/03 14:50 :F905i :WY17HTaw
#97 [紫陽花→渚坂 さいめ]
時は20XX年。
幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。
そんな風景が当たり前の世界で、一人の少年が一つの運命と出会う。
この物語は、私たちの知らないもう一つの世界の物語である。
:08/11/03 14:51 :F905i :WY17HTaw
#98 [紫陽花→渚坂 さいめ]
―――――――…………
―――――………
ある、どんよりとした曇りの日の正午。
憂鬱に広がる曇り空と、その下に一面に広がる草むらが奏でるコントラストは、名もないドラゴン使いの少年の心を分けもなく曇らせていた。
「うぇー。今日も曇りかぁ……」
口をとがらせながらも、少年は思いっきり背伸びをする。
「疲れたなぁー。さぼちゃおっかなぁー……」
このまま倒れ込んで一日中、雲を眺めていたい。
そんな衝動に駆られるが、仕事を放棄するわけにはいかない。
:08/11/03 14:51 :F905i :WY17HTaw
#99 [紫陽花→渚坂 さいめ]
ドラゴン使いと言っても彼は鑑賞用の小さなドラゴンの仕付け役。
ペットのようにドラゴンを飼うことが流行したこの世界では、彼のようなドラゴン使いが需要のあるものとなっていた。
何十匹の赤い小さなドラゴンたちが逃げないように注意しながら、少年は曇り空を見上げる。
「おい、お前!!」
湿っぽい風がゆったりと辺りを流れた時、空を眺めていた少年は一人の青年に呼び止められた。
:08/11/03 14:52 :F905i :WY17HTaw
#100 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇ!?オイラのこと?」
不意に呼び止められた少年は不思議そうに首を右に傾ける。
それもそのはず。
さっきまでこの草原には自分とドラゴン達しかいなかったのだから。
首を傾げたときに茶色の髪の毛がふわりと揺れ、ビー玉のような澄んだ碧い目をパチパチさせる少年は森を駆け回る小動物のよう。
「そうだ。ここにお前以外に誰がいる」
少年より、はるかに背の高い青年は少年を見下ろしながら話す。
:08/11/03 14:53 :F905i :WY17HTaw
#101 [紫陽花→渚坂 さいめ]
だが不思議なことに、服とも言えぬようなボロ布を身に纏っている少年とは打って変わって、背の高い青年はエプロン姿。
さらに左手には鍋つかみに、お玉。
奇妙な格好をした青年は一歩ずつ、少年の近くまで歩み寄る。
「あの……オイラになんのようですか?」
「うむ。特に用はないのだが、お前 名はなんと申す?」
青年 [jpg/24KB]
:08/11/03 14:54 :F905i :WY17HTaw
#102 [紫陽花→渚坂 さいめ]
チラチラとドラゴンが逃げていないかを気にする少年を無視して、青年は左手に持っていたお玉を少年の目の前に突き出して問う。
「名前?オイラに名前なんて……。オイラはただの、しがないドラゴン使いですから」
困ったように笑う少年を見ながら青年は腕を組み、小さく“そうか”と呟いた。
「名が無いのならば、私がつけてやろう!!そうだなぁ……」
「うぇ!?そんな、オイラに名前なんてもったいないです!!」
慌ててあたふたと手を動かし、精一杯の遠慮を見せたものの、青年の思考は止まることを知らない。
:08/11/03 14:55 :F905i :WY17HTaw
#103 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うーむ……レイン……よし!!今日からお前の名は『ブルー・レインウェル』だ!!」
“ブルー”とはお前の瞳の色から、“レインウェル”は『レイン』つまり、雨のように全てのモノを洗い流せるように、という意味だ。
そう言い切った後、青年は満足そうに鼻を鳴らす。
「ブルー・レインウェル……」
「なんだ、雨は嫌いか?」
自分に与えられた名前を噛みしめるように呟く少年に対し、不服でもあるのか、と言いたさげに青年は眉をひそめる。
:08/11/03 14:56 :F905i :WY17HTaw
#104 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「い、いや!!雨は嫌いじゃないです。むしろ好きです!!」
「ならばレインよ、受け取るがいい。我ながら素晴らしいネーミングセンスだ」
またも満足げに鼻を鳴らし、青年は微笑んだ。
そして、最後に一言。
「神である俺様が名を与えたんだからな!!その名に恥じぬように生きるのだぞ」
「はい!!……って、え?」
:08/11/03 14:57 :F905i :WY17HTaw
#105 [紫陽花→渚坂 さいめ]
勢いよく返事をしたレインだったが、一つ彼の頭には疑問が生まれた。
「あなたって神様なんですか?」
「うむ。言ってなかったか?」
たとえドラゴンが轟こうとも、不死鳥が舞おうとも、神がこの地に降りたったというのは前代未聞の事態。
:08/11/03 14:57 :F905i :WY17HTaw
#106 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇ!!初めて神様見ちゃった……」
レインは碧い瞳をより一層大きく見開き、エプロン姿の青年を食い入るように見つめる。
「そう驚くでない。神などそこら辺にゴロゴロいる」
青年はフンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。
「さて、無断で神界を抜けてきたからギードルの奴が怒って迎えにくるだろうな……」
曇り空を見上げフーっとため息吐き、お玉で頭を掻く青年の表情はその若さに似つかわしくないほど疲れ切ったものだった。
神とはそれほど神経を浪費する役割なのだろう。
:08/11/03 14:58 :F905i :WY17HTaw
#107 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「あの、ギードルとは……?」
差し出がましくないように、言葉を選びながらレインは恐る恐る『神』に問う。
「あぁ、俺の秘書だ。まだ学生なんだが、なかなかキレる奴でな。ほら 生意気にもう俺の居場所を見つけやがった」
青年は曇り空の一点を見つめる。つられてレインも空を仰ぐ。
と、同時に雲の切れ間から人影が。
人影はどんどん高度を下げ、先程まで肉眼では確認できなかった格好や容姿も理解できるほどに近づいてきた。
:08/11/03 14:58 :F905i :WY17HTaw
#108 [紫陽花→渚坂 さいめ]
そして黒い学生服の下に着込んだトレーナーのフードを揺らしながら、青年の秘書役であるギードルはこの地に降り立った。
「神様ここにいらしたのですか!!すぐにお戻りください!!城が城が……!!」
ギードルは蒼白な顔をして青年に話しかける。
レインの存在も気付かないほど焦っている様子を見ると、余程の緊急事態なのだろう。
「落ち着け。なにがあったのだ?」
青年はギードルの肩をつかみ、揺さぶるようにして詳細を問う。
:08/11/03 14:59 :F905i :WY17HTaw
#109 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「申し上げます……城が賊に襲われました。怪我人はおりませんが、神界の安定を司る宝玉“亜神の命”が盗まれました」
それだけ言うと下唇をギリギリと噛み、目を伏せた。
「なるほど、お前が焦るのも無理はない。亜神の命を盗むとは……小賢しい賊め。で、その賊の行方は?」
青年はギードルの肩から手を離し、そのまま右手を顎の下に持っていく。
まるで探偵のようなポーズで考え込む姿は、少なくともレインの目に立派な大人の姿に見えた。
:08/11/03 15:00 :F905i :WY17HTaw
#110 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「正確な位置は掴めませんが、居合わせた燕弥(エンビ)に賊の臭いを覚えさせました」
「よし、でかした。燕弥!!そこに隠れているのだろう?出てこい」
そう言って青年はギードルに向かって叫ぶ。
「あぁーもう!!分かってるよ」
青年が叫ぶのと同時にギードルの後ろからひょっこりと少年が飛び出した。
背格好こそレインと変わらないものの、彼の目は少しつり上がり額に小さな傷。
燕弥 [jpg/36KB]
:08/11/03 15:02 :F905i :WY17HTaw
#111 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「何!?ギードルと賊を追いかければいいの!?」
腕を組み、ギードルを顎で指しながら青年と話す燕弥。
態度こそ大きいものの、それを青年が許しているところを見てみれば、互いの信頼が厚いと言うことだろう。
二人の会話を聞きながらレインはそんなことを考えていた。
「いや、お前はここにいるレインと行ってもらう」
:08/11/03 15:02 :F905i :WY17HTaw
#112 [紫陽花→渚坂 さいめ]
ぼーっとしていた頭を一気に覚ますような青年の思いもかけない言葉に、レインは一瞬言葉を失った。
「うぇ!?ななななんでオイラが……」
わたわたと首を振ってみるものの青年は怪しい笑みを浮かべるばかり。
:08/11/03 15:03 :F905i :WY17HTaw
#113 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「すいません……本来、僕が行くべきなんでしょうけど、僕の全てをかけた事件が時効になりそうなんです……」
申し訳なさそうにギードルは頭を下げた。
「事件?時効?ギードルさんは秘書なんじゃ……」
不思議そうにレインは首を傾げる。
「ギードルは18歳にして、学年トップ、秘書役、警視総監、弁護士とか、色んな肩書きを持ってらっしゃるんですよー」
イヤミったらしく、吐き捨てるように燕弥が説明する。
:08/11/03 15:04 :F905i :WY17HTaw
#114 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇー、スゴい……だからってオイラが行かなくても」
「つべこべ言うな。時は一刻の猶予もないのだ。ギードル!!こいつに服と地図を!!」
レインの抗議も無視して話を進める。
こんな独裁主義者がこの世界の神様だなんて、大丈夫なのだろうか。
レインが青年にそんな不安を感じているとはつゆ知らず、ギードルはレインの着ていたボロ布の服を素早くひっぺかし、どこからか現れた新しい服を着せていく。
:08/11/03 15:04 :F905i :WY17HTaw
#115 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うむ、流石コーディネーターの資格を持つギードルだ。なかなか良いではないか」
青年は自分が仕立てたかのように満足げに鼻を鳴らした。
レインの碧い瞳と同じ色の宝石が埋め込まれたベルトに、ボロ布とは違う上等な布で作られた服。
さっきまでのしがないドラゴン使いとは誰も思うまい。
そして、これもどこから取り出したのか青年は一枚の茶色く変色した地図をレインに差し出す。
レイン [jpg/19KB]
:08/11/03 15:06 :F905i :WY17HTaw
#116 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「これがこの世界の地図だ。レイン。“亜神の命”を取り戻してきてくれ」
初めて見せた青年の誠実な態度に驚きながらもレインは地図を受け取った。
「うぅ……。分かりました……」
「よし、それじゃあ出発だ!!なぁに、この燕弥様が付いてんだ。しっかり案内してやんよ!!」
燕弥はケラケラと笑いながら、バシバシとレインの背中を叩く。
こうして、大きな碧い目を持つ少年の長い長い旅は始まった。
:08/11/03 15:07 :F905i :WY17HTaw
#117 [紫陽花→渚坂 さいめ]
―――――――…………
―――――………
時は20XX年。
幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。
そんな風景が当たり前の世界で、一人の少年が仲間とともに歩き出した。
この物語は、私たちの知らないもう一つの世界の物語。
:08/11/03 15:07 :F905i :WY17HTaw
#118 [紫陽花→渚坂 さいめ]
:08/11/03 15:08 :F905i :WY17HTaw
#119 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「犯人はあなたです。大人しく捕まってください」
嗚呼……
そんなに驚いた顔をしないでください。真実なんですよ。
氷のように研ぎ澄まされた時間の中、僕はゆっくりと犯人を指差す。
なぜ指差すのかって?
そうすると、大抵の奴は成し遂げた罪の罪悪感に耐えられず、膝から崩れ落ちるってことを僕は知っているからさ。
――This boy is almighty――
:08/11/03 15:09 :F905i :WY17HTaw
#120 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「ギードルー!!また財布落としちゃったぁー」
もう呆れて、ものも言えない。
「ギードルったらぁー。いつもみたいにサクッと見つけてきてよ」
ルカは自身の小さな身長に似合う、少し甘えた口調で僕の側に寄ってくる。
ルカと僕は同い年なのに、こんなにも身長に差があるのは何故だろうといつも疑問に思うのだが答えはまだ見つかってない。
疑問と言えば、この前の事件の犯人自殺したって……
ギードル [jpg/8KB]
:08/11/03 15:10 :F905i :WY17HTaw
#121 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「ちょっと!!私の話聞いてる?」
「ん、あぁ……ごめんごめん。ちゃんと聞いてるよー」
彼女の話を聞いていなかったわけではない、ただそれと同時に別のことを考えていただけ。
「今忙しいってこともよく分かるけど、もう少しかまってくれたっていいじゃない……」
「……ごめん」
そう、僕は謝ってばかり。
僕とルカは付き合っているとは言っても一度もデートに行ったことがない。
そしてこれからも出来るかどうか……。
二人 [jpg/10KB]
:08/11/03 15:12 :F905i :WY17HTaw
#122 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「ごめん。今週中にレポート6つまとめて、3つの裁判に同伴して、第153回神宮殿ファッションショーにもエントリーして、秘書官昇級試験も受けなきゃいけないんだ」
僕が言い終えない内にルカの口がどんどん開いていくのが目に入る。
そりゃそうだ。
たったこれだけの仕事でデートをすっぽかしているのだから。
「ご、ごめん!!こんの大した用事じゃないのに……全然ルカにかまってあげられなくて……」
:08/11/03 15:13 :F905i :WY17HTaw
#123 [紫陽花→渚坂 さいめ]
たかが3〜4の仕事にかまけてルカと遊びにも行けないなんて彼氏失格だ……。
「……忙しそうとは思ったけどまさかここまで多忙だったなんて……。私の方が謝るわ」
ルカはあんぐりと開けた口を急いで塞いで僕を見つめた。
……だから僕は彼女が好きなんだよね。
自分が悪いと思ったら即、謝罪してくれる。明るくて素直な彼女。
そうして僕らはお互いを許し合うように見つめ合う。
それは一種の儀式のように繊細で誰にもじゃまされない異空間。
:08/11/03 15:14 :F905i :WY17HTaw
#124 [紫陽花→渚坂 さいめ]
こんな時、いつも胸に熱い何かがこみ上げてくるが僕は気づかないふりをする。
なぜかって?
これ以上ルカを好きになってしまわないように。
「あっ!!もしかして僕に会う前靴ひも結びなおした?」
「あれ!?何で知ってるの!?」
ルカは不思議そうに履いているスニーカーと僕の顔を交互に見る。
:08/11/03 15:15 :F905i :WY17HTaw
#125 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「見てごらん。右足だけ紐の結び目がきつくて、左は緩いまんまだ。てことは……」
「右だけ靴紐を結んだってこと?」
「ご明察!!しかも財布をポケットに入れてれば……」
「そのときに落としたのかも!!ちょっと見てくる」
そう言って彼女は走り出した。
その小さな背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた僕は、少しストーカーチックだな、と自分自身に呆れてからその場を後にした。
「さて、今日中にレポート3つは書かなくちゃ……」
:08/11/03 15:16 :F905i :WY17HTaw
#126 [紫陽花→渚坂 さいめ]
:08/11/03 15:17 :F905i :WY17HTaw
#127 [紫陽花→渚坂 さいめ]
ねぇ!!ベラトリスさん家のドラゴン使いが行方不明になったらしいわよ
ドラゴン使いって……あの碧い目のちっこい奴?
そうそう。私、年近いし結構仲良くやってたんだけどなー
お前のこと嫌いになったんじゃねーの?
あっ、ひどーい!!でもあの子『捨てられたオイラを育ててくれたベラトリスさんには感謝してる』って言ってたのに……
ふーん……。
で、お客さん何にします?
二人 [jpg/15KB]
:08/11/03 15:18 :F905i :WY17HTaw
#128 [紫陽花→渚坂 さいめ]
あ!!チーズ300グラムにミルク2リットルください
はいよ……。
ドラゴン使いが何を考えてたか知らんが、お前は急にいなくなるなよ
……なんで?
ばっか!!
惚れた女が消えちまったら悲しいからに決まってんだろ!!
:08/11/03 15:19 :F905i :WY17HTaw
#129 [紫陽花→渚坂 さいめ]
:08/11/03 15:20 :F905i :WY17HTaw
#130 [紫陽花→渚坂 さいめ]
その日はとても曇っていた。
これから俺らが成し遂げる犯罪に目をつむってくれるかのように。
金や名誉が欲しいんじゃない。
欲しかったのは、狂った世界。
――They are daredevil――
:08/11/03 15:20 :F905i :WY17HTaw
#131 [紫陽花→渚坂 さいめ]
アルバートから次の獲物が知らされたのは、月の全く見えない朔の日の夜だった。
「次は“亜神の命”を盗むぞ」
彼は豊かな顎髭を撫でるように触りながら、あたかも「明日遊園地に行こう」と軽々しくデートに誘うような口ぶりで俺を驚かせた。
「んな!?亜神の命じゃて!?」
思わずなまりがでてしまった。
:08/11/03 15:21 :F905i :WY17HTaw
#132 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「亜神の命と言えば……この世界の最大級の宝と言われる宝玉じゃ!!そ、それを盗むんか?」
「嫌なら儂一人で行くが……」
「誰が行かんと言った!!アルバートはいっつも急なんじゃ。パートナーの俺のことも少しは考えんか!!」
落ち着き払ったアルバートは一見大人の態度に見えるが、俺に言わせればただの頑固ジジイ。
それに亜神の命を盗むなんて……
:08/11/03 15:22 :F905i :WY17HTaw
#133 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「どうやって盗むんじゃ?あの城の警備は世界一じゃよ」
俺は酒樽の上に座っているアルバートに近付く。
「もう策はある。明日の昼に城へ潜り込むぞ。ひと暴れするから武器の準備しとけよ」
どうやらこのじいさんは俺を驚かすのが大好きらしい。
「昼って……
白昼堂々と盗みにはいるなんて大胆不敵とゆーか、前代未聞とゆーか……」
驚きを通り越して呆れに近いものを感じているのだが、どうしても体の芯がうずく。
そう、新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせ、美味しそうなデザートを目にした時のように口元は緩みっぱなし。
:08/11/03 15:23 :F905i :WY17HTaw
#134 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「分かった。俺はあんたについて行く」
俺がそう言うとアルバートは満足そうに笑みをこぼした。
俺はこのくそジジイに一生頭が上がらないだろう。
アルバートの言葉に俺の好奇心に探求心は騒ぎっぱなし。
「へへへ、明日が楽しみだ。おら、アルバート!!荷物運ぶから退いてくれ」
二人 [jpg/12KB]
:08/11/03 15:24 :F905i :WY17HTaw
#135 [紫陽花→渚坂 さいめ]
―――――――…………
――――――………
時は20XX年。
幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。
そんな風景が当たり前の世界で、その地を揺るがす事件が起きる。
そして、その世界一の宝玉を盗んだ二人組と、碧い瞳を持つ少年が出会うのはもう少し先の話。
:08/11/03 15:25 :F905i :WY17HTaw
#136 [紫陽花→渚坂 さいめ]
:08/11/03 15:26 :F905i :WY17HTaw
#137 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「どうか神様、もしいらっしゃるのならこの娘に私の命を……」
粉雪が舞い始めた聖なる夜。
俺は小さな教会の中で、途方もないほど小さな神に祈りを捧げる哀れな化け物を見つけた。
その姿は俺は今まで見たことがないぐらいの清らかな空気を作り上げ、信じられないぐらい神々しく、そして儚くて。
教会の一つしかないドアから覗くようにしてその祈りを目にした俺は、無性に神の存在を確かなものへとしたくなった。
:08/11/03 15:26 :F905i :WY17HTaw
#138 [紫陽花→渚坂 さいめ]
彼の祈りを確かなものへ。
ドアの影から見守るようにして自分の胸に十字架をきる。
化け物ののとは違った、俺の自己満足な祈りは果たして神に届いたのだろうか?
そんなことを思っていると、急に化け物は懇願の声を止め何かを閃いたように瞳を見開いていた。
声が小さすぎて何を言っているのかよく聞き取れない。
:08/11/03 15:27 :F905i :WY17HTaw
#139 [紫陽花→渚坂 さいめ]
俺は知らず知らずのうちに身を乗り出してしまっていた。
そうして聞こえた言葉は、
「亜神の命さえあれば……この娘は生き返るかもしれない……」
“亜神の命”それはこの世界の一番の宝。
それ故にその宝には不思議な力が備わっているという。
そう、人を生き返らせるくらい造作もないことだと。
祈り [jpg/13KB]
:08/11/03 15:29 :F905i :WY17HTaw
#140 [紫陽花→渚坂 さいめ]
――――――………
―――――……
時は20XX年。
幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。
そんな風景が当たり前の世界で、一人の化け物が一つの禁忌を犯す。
この化け物が碧い目の少年を裏切るのはもう少し先の話。
:08/11/03 15:30 :F905i :WY17HTaw
#141 [紫陽花→渚坂 さいめ]
:08/11/03 15:33 :F905i :WY17HTaw
#142 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
タイトルは
『バーチャルワールド』
ジャンル:ファンタジー
使うイラストは以下の通りです
No.5
No.18
No.20
No.47
:08/11/03 15:56 :SH905i :☆☆☆
#143 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
システムオールグリーン。
ユーザーデータ読み込み開始。
アクセス完了。
ログイン。
俺の右手の中で活発にマウスが走る。
リズムを刻むように時折指先が沈み、クリックを促す。
ようこそバーチャルワールドへ。
薄暗い室内とは対照的に明るいパソコンのディスプレイには、壮大な草原の画像の上に歓迎の文字。
ロールプレイングゲームを思わせる音楽と一緒に、俺を迎えてくれた。
:08/11/03 15:57 :SH905i :☆☆☆
#144 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
バーチャルワールド。
今から数年前に発売された新ジャンルのゲーム機だ。
ゲーム機とは言ったものの、その形はまるでヘルメットそのもの。
用途も同じく、頭に被るというものだ。
違うのは、ヘルメットよりも多少深くなっており、実際に被ると目の下の辺りまで隠れてしまう。
この機械で精神をゲーム内に送り、リアルと同じようにゲーム内でも自由に体を動かせるというユニークなもの。
過去に類を見ない新製品に、世界は釘付けになった。
勿論、開発した会社は大儲け。
続々とパソコン用オンラインゲームソフトを作成し、日本は世界へ進出していった。
ゲーム機革命。
コントローラーを持つ時代は終わったのだ。
このゲーム機の登場は、ゲーム界の歴史を変えるには十分過ぎるものだった。
だけど、正直原価十二万円は高い。
:08/11/03 15:58 :SH905i :☆☆☆
#145 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
しかし、実際は本当に精神を送っている訳ではない。
正確には、体を動かす時に脳が出す指令、つまり電気信号というものを受信する機械なのだ。
言わば、高性能受信機。
脳から送られた電気信号は受信機となるヘルメットを通じてパソコン内に送られ、ゲームのキャラを動かす指令となる。
本来、体を動かすための電気信号は受信機に横取りされるため、本体は動かない。
世界が注目するのも無理はない。
実に大発明に相応しい代物だった。
:08/11/03 15:59 :SH905i :☆☆☆
#146 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
だが、ディスプレイを見つめる俺のテンションは素晴らしく低い。
これからゲームをするというのに、気分は滅入る一方だった。
少なくとも、俺はこのゲームをしたい訳ではない。
しなければならないのだ。
今や世界最大の人気を誇るロールプレイングゲーム。
バーチャルワールド専用オンラインゲームソフト。
『カオス・オブ・ドリームズ』
通称、COD。
俺はダウンロード済みで用無しとなったソフトを手に取り、溜め息を吐く。
世界中にいる他のユーザーと仲間になって魔物を討伐したり、時には敵としてプレイヤー同士が戦ったりなど、やりこむ要素はかなり濃い。
:08/11/03 15:59 :SH905i :☆☆☆
#147 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
だが、そんなものには少しの興奮も抱いていない。
俺は楽しむためにゲームをやっているのではない。
もう一度溜め息を落とした俺はソフトを乱暴に放り投げ、パソコンの横の写真に視線を送った。
父と姉。
写真立てに行儀良く収まっている二人の笑顔。
bbs1.ryne.jp/d.php/illust/1144/19この写真を撮るとき、俺は記念撮影でもないのにと恥ずかしがって断った。
海斗も一緒に写ればいいのにと、俺を肘で突いた姉の姿が目に浮かぶ。
「父さん…姉ちゃん…」
二人の元気な姿は五ヶ月前に失われてしまった。
:08/11/03 16:00 :SH905i :☆☆☆
#148 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
一人暮らしをしていた俺に母からの突然の電話。
意識不明の重体。
検査結果は異常無し。
外傷は無く、眠ったまま目を覚まさないのだと聞かされた。
俺は呆然として受話器を耳に押し付けていた。
血の気と共に、世界の色が失われていくのがわかった。
教えられた病院に着くと、力無く今にも倒れそうな母が待っていてくれた。
頼りなく病室に案内された俺が見たのは、あまりにも信じがたい現実だった。
:08/11/03 16:01 :SH905i :☆☆☆
#149 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
俺は徹底的に原因を探した。
原因不明なんて、納得出来る訳がない。
異常無しなんて、納得出来る訳がない。
俺は二人の行動をごみ箱に捨てたゴミの中身からご飯のメニューの材料に至るまで、完璧に調べあげた。
そして一つの共通点を見つけることに成功した。
意識不明になる数分前までバーチャルワールドをプレイしていた事実が発覚したのだ。
:08/11/03 16:02 :SH905i :☆☆☆
#150 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
父はバーチャルワールド制作会社の社員で、オンラインゲームのイベント管理やバグの対処などをしていた。
姉も父のサポート役として会社に勤めていたのでプレイしていた理由も頷ける。
俺はバーチャルワールドに原因があると睨んだ。
それも、二人共やっていた同じゲーム、カオスオブドリームズに。
信憑性は極めて低い。
たかがゲームだ。
だが、手掛かりはこれしかない。
やらなければならない。
真実を突き止めるのだ、俺が。
:08/11/03 16:03 :SH905i :☆☆☆
#151 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
密かな決意を胸に、俺はバーチャルワールドに入る準備をする。
パソコンに回線を接続して、ブラックカラーのヘルメットを被る。
マウスでゲームを起動させると、俺の意識は薄れていった。
バーチャルワールド作動。
ログイン完了。
ようこそ、バーチャルワールドへ。
ユーザーデータ確認。
プレイデータ読み込み完了。
ようこそ、カオスオブドリームズの世界へ。
:08/11/03 16:03 :SH905i :☆☆☆
#152 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
何度目かのログイン。
リアルと僅かに違う奇妙な感覚にも、もう慣れた。
カイトがゆっくりと目を開ければ、そこにはすでに見慣れた町並みが広がっていた。
マップの最南端に位置するフィズの街だ。
この街には背の高い建物は少なく、城もない。
特徴的なのは建物と建物の間に隙間がないことくらいだろうか。
網目のように建築物が連なっている。
「遅いじゃねーか、カイト」
不意に名前を呼ばれ、カイトは辺りを見渡す暇もなくやけに大きい声の持ち主を目で追う。
:08/11/03 16:04 :SH905i :☆☆☆
#153 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ガイア、ラルティス…。もう来てたのか」
辿り着いた視線の先には十七歳ほどの少年とも言える青年が二人いた。
背に黒い刀身に赤いオーラを放つ剥き出しの太い両刃刀を背負ったガイアと呼ばれた黒服の青年は、不機嫌そうに近付いてきた。
その隣には白い装束に身を包んだ同じくらいの青年が石の階段に座り込んで微笑んでいる。
その青年の腰には白い鞘から綺麗に伸びる細身の片刃刀が収まっていた。
:08/11/03 16:04 :SH905i :☆☆☆
#154 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「もう来てたのかじゃねーよ。遅刻だ馬鹿野郎。いつまで待たせる気だ」
腕を組んで明らかに不機嫌オーラを出すガイアに、すまないと小さく謝った。
「お陰でこんな野郎と何時間も一緒にいる羽目になったじゃねーか」
皮肉を言われてる当の本人であるラルティスは、微かに眉を寄せただけでガイアの傍まで近寄った。
「何時間って、たったの十五分だろう?それに、君も遅刻して来たよね」
「五分遅刻しただけでうるさい奴だな!二十分遅刻してきたカイトに比べれば可愛いもんだ」
食ってかかるガイアを横目に見つつ、ラルティスはカイトに視線を向けた。
:08/11/03 16:05 :SH905i :☆☆☆
#155 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「遅刻は遅刻だ。それよりカイト、僕もこんな奴と一緒にいるのは好きじゃないんだ。早くデータ確認して発とう」
頷いたカイトは片手を肩の高さまで上げ、小さく「データ呼び出し」と呟いた。
するとすぐに手の前に半透明で緑色の画面がいくつか重なって表示された。
「シンクロ率86%か。まぁ問題ないだろう」
ステータス画面を一瞥して呟く。
シンクロ率はバーチャルワールドでの動き安さのようなものだ。
低ければ動きは鈍く、高ければ素早くなる。
体調などで日によってシンクロ率は左右されるので確認は欠かせない。
シンクロ率が低い日は倒され易くなるので無理は出来ないからだ。
:08/11/03 16:06 :SH905i :☆☆☆
#156 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ガイアとラルティスは大丈夫なのか?」
相変わらず仲のよろしくない二人に問えば、同時に頷いた。
「90%。問題無しだ」
「僕は88%。こんな奴と一緒の空気を吸ってなければもう少し好調だったかな」
微笑みを絶やさないラルティスも皮肉を忘れていない。
:08/11/03 16:06 :SH905i :☆☆☆
#157 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
ガイアのレベルは98、ラルティスは97、カイトは95だ。
ガイアとラルティスはこの世界で知らぬ者はいないほどの有名人。
CODにはギルドというチームを結成出来るシステムがある。
今、CODを二分して対立している二大ギルドのギルドマスターがこの二人なのだ。
ギルド構成員の人数は五百人以上、更に傘下ギルドがゴロゴロといる。
そのそれぞれの全ギルドメンバー数千人のトップに立つのがガイアとラルティスだ。
:08/11/03 16:07 :SH905i :☆☆☆
#158 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
ガイアのギルドは『黒き騎士団』
通称、黒騎士にはその印として腕に両前足を上げた黒い馬の紋章がある。
ラルティスのギルドは『ラファエル聖十字軍』
正義を志す神の使徒を思わせるギルドだ。
対立してる故に、仲は悪い。
カイトの頼みでパーティを組む訳でないなら、とっくに斬り合いが始まっているだろう。
:08/11/03 16:08 :SH905i :☆☆☆
#159 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「お前、今すぐリベリオンの錆にしてやろうか?」
眉を寄せ青筋を浮かべたガイアが背の両刃刀に手を伸ばす。
「面白い。君の魔剣より僕の聖剣ルシファーの方が上だと言うことをはっきりとさせてやろう」
ラルティスは腰を低くして白鞘の聖剣に手を掛けた。
:08/11/03 16:08 :SH905i :☆☆☆
#160 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ちょこまかと逃げ回る臆病者が。少しは俺の太刀を受けてみろよ」
ガイアが鎖の巻き付いた魔剣をゆっくりと引き抜く。
「馬鹿の一つ覚えみたいに刀を振り回すだけの攻撃重視な奴に言われたくないね。速さこそ全てだ。いくら強い一撃でも君の鈍い攻撃に当たらなければ良いだけの話さ」
相変わらず姿勢を崩さないことからして、ラルティスはすでに戦闘の体勢になっているのだろう。
:08/11/03 16:09 :SH905i :☆☆☆
#161 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「速さしか能がねぇのか」
「君も攻撃しか能がないだろう。瞬殺というのを体験してみるかい?」
「攻撃は最大の防御ってのを思い知らせてやるよ」
ピリピリと張り詰めた空気に似合わないため息が一つ落ちた。
「待てお前ら。今日は俺に付き合う約束だろ?」
カイトはやや呆れ顔で二人の間に体を滑り込ませると剣を収めるように促した。
:08/11/03 16:10 :SH905i :☆☆☆
#162 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
ガイアは小さく舌打ちをすると魔剣を元の位置に戻し、ラルティスは大人しく柄から手を離し低い姿勢から立ち上がった。
今日はカイトのために集まったのだ。
CODの中でもまだまだ希少で、全体のユーザーの一割にも満たないLv90超えのトップクラスのメンバーが三人も集っているのだ。
よほどのことでなければ有り得ない光景だ。
「今日こそ行くんだな、バグワールドに」
「あぁ」
:08/11/03 16:10 :SH905i :☆☆☆
#163 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
バグワールド。
カイトが聞き込みを続けて五ヶ月。
ようやく耳にした有力で確かな情報だ。
父と姉はここに二人で向かったという目撃情報を最後に、消息を絶っている。
五ヶ月前の、あの日に。
「何か解るといいな。親父さんのこと」
「…あぁ。わざわざすまないな」
街の入口まで辿り着くと、再び二人に向き直る。
:08/11/03 16:11 :SH905i :☆☆☆
#164 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ガイア、ラルティス。恐らく敵は…強い。話では親父のレベルは上限の100だと聞いた。姉も。だが、二人はやられた。Lv100が二人でも勝てない相手が居る未知の場所だ。無事に帰って来れる保証もなければ、本体の安全さえも保証出来ない。正直、俺の戦いに二人を巻き込んでしまって後悔している。やめるなら止めはしない、本当に一緒に行ってくれるか?」
ガイアは口元を歪めて小さく笑って見せた。
「馬鹿野郎。危険なのは承知済みだ。俺は黒騎士のギルドマスターだぜ?親父さんがLv100でも、俺より強いとは限らないだろ」
横にいたラルティスはわざとらしい大きめの声で「あーあ」と漏らした。
:08/11/03 16:12 :SH905i :☆☆☆
#165 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ここで僕が辞退して、ガイアがやられれば、晴れてこの世界を統一出来るから面白いと思ったんだけどね。でも、ガイアが帰って来ちゃえば僕は臆病者扱いだ。メンバーに会わす顔がないよ。ガイアが行くなら僕も行こう」
ラルティスの理由に思わず頬が緩みそうになった。
しかし、これでメンバーは決定した。
:08/11/03 16:13 :SH905i :☆☆☆
#166 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
体力の温存のために、魔物避けの聖水を持って来たので、魔物に逢うことはまずなかった。
もし逢ったとしても、このメンバーなら息一つ切らさずに一瞬で絶命させられるだろうからあまり意味はないが。
:08/11/03 16:14 :SH905i :☆☆☆
#167 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
この世界は不思議だ。
レベルと強さは比例の関係ではなく、時には反比例する。
つまり、レベルの低い者が高い者に勝つというのも有り得るのだ。
レベルが高いから強いとは限らない。
ステータスの上昇にはその人の内面が反映させるのだという。
ラルティスのように速さや瞬殺を目指してる者は素早さが成長し、ガイアのようにとにかく攻撃を求めている者は破壊力が成長する。
逆に、特に何も考えないでゲームを楽しんでる者は、悪戯にステータスが上がり、特に秀でた能力値がなく全てが平均値なので弱くなる。
だからレベルが低い者でも高い者に勝つ場合があるのだ。
:08/11/03 16:14 :SH905i :☆☆☆
#168 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
しかしカイトは珍しいタイプだった。
ラルティスを速さタイプ、ガイアを攻撃タイプとすると、カイトは的確タイプのようなものだ。
楽しむためにやってきた訳ではなく、父と姉のためだけに戦ってきたカイトは、とにかく確実に敵を仕留めることにこだわった。
ゲームなのに楽しむためではなく、ただ真剣にまるで復讐するかのようにひたすら戦うカイトだからこそ特化した能力なのだろう。
この戦いも後少しで転換点があるかもしれない。
そう考えるとカイトの胸は高鳴った。
腰の紅い日本刀が揺れている。
もう少しで目的地に辿り着く。
:08/11/03 16:15 :SH905i :☆☆☆
#169 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「それにしても妙だな」
歩きながら突然ラルティスが悩ましげな声を上げる。
「普通は倒されたらゲームオーバーになって近くの街で復活するだろう?でも、カイトのお父さんたちは意識不明らしいじゃないか。もし何者かに倒されたなら、キャラは復活するはずだろ?」
カイトがラルティスの疑問に静かに頷くと次にガイアが声を上げる。
:08/11/03 16:16 :SH905i :☆☆☆
#170 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「それがどうしたんだよ。お前、まさかカイトの話を信じてないのか?」
「そうじゃない。ただ、キャラが復活してないってことは誰かに倒された訳じゃなくて、他に何か問題が発生した可能性はないのかな」
「…それも有り得る」
頷くカイトにガイアが小首を傾げて尋ねる。
:08/11/03 16:16 :SH905i :☆☆☆
#171 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「問題ってなんだよ?」
「つまりだ。バグワールドには敵なんかいなくて、カイトのお父さんたちはバグの影響で意識不明になったんじゃないかってこと」
ラルティスは馬鹿を見るように呆れた様子で眉を寄せた。
「医者はそんなことは有り得ないと否定していたが…どうだかな。電気信号を送り出すような代物だ。逆流があっても不思議じゃない」
カイトが答えると二人は怪訝そうな表情を浮かべる。
「おいおい…。もしそうだったらプロの仕事じゃねーか。俺らみたいなプレイヤーが出る幕じゃねーよ」
:08/11/03 16:17 :SH905i :☆☆☆
#172 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「確かにプログラマーの仕事だ。それが本当だったら俺らはあえなくジ・エンドだろうよ。それでも、俺は行くけどな。親父たちがわざわざプレイヤーとしてバグを破壊しにバグワールドに行ったってことは、バグワールドには外からじゃ直接破壊出来ないような強力なプロテクトが掛かってるってことだ。何かが解るかもしれない」
それを聞いたガイアは途端に空を仰いで無気力な声を出した。
「あーあ。やる気失ってきたぜ」
:08/11/03 16:18 :SH905i :☆☆☆
#173 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
その時だった。
三人がほぼ同時に立ち止まった。
「ガイア、カイト」
ラルティスは後方に目を凝らしながら見つめている。
「わかってる」
カイトも同じく後方を見遣った。
「モンスターではないな。…二人か」
ガイアが人数を口にすると二人も同意するように目を合わせた。
三人には先程の緩んだ雰囲気はなく、それぞれ眼光に鋭さを持っていた。
誰一人として剣を構えないが、恐らくいつでも戦える状態なのだろう。
:08/11/03 16:18 :SH905i :☆☆☆
#174 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「なかなか速いな。両方共腕利きのプレイヤーだ」
ラルティスが言えばカイトとガイアが前に出る。
同時に、ぴたりと世界が止まった。
「俺ら相手に二人で挑む命知らずなんているのかよ」
息を殺してガイアが言う。
誰一人ぴくりとも動かないまま、ただ前方に目を向けている。
相手も気付いたのだろうか、特に動きは見られない。
先に動き出したのはガイアだった。
:08/11/03 16:19 :SH905i :☆☆☆
#175 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「誰だか知らないが出てこいよ。草影に身を潜めるなんざ、腕利きのやることじゃないぜ?」
低い声色ではっきりと言うと、前に歩を進める。
ゆっくりと背の高い草木に近付いていった。
「ガイア、油断するな」
カイトがそう言った直後であった。
小さなスパークが見えたかと思うと、次の瞬間にはガイアを囲うようにガイアの周囲にいくつかの雷光の輪が出現した。
:08/11/03 16:20 :SH905i :☆☆☆
#176 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「…攻撃魔法か!」
小さく舌打ちをしたガイアは大きく後ろへ跳躍する。
片手を地に付き体勢を立て直してすぐ、先程ガイアがいた場所に雷光が集結し、地面を吹き飛ばすような強い爆発が起きた。
焦げた地面が土煙を上げてカイトたちの視界を妨げた。
爆発の至近距離にいたガイアは先程の爆発音で鼓膜が揺さ振られ激しい耳鳴りが残る。
再び静けさが戻ってくる。
ラルティスとカイトが抜刀すると同時に、草むらから一つ影が飛び出してきた。
:08/11/03 16:20 :SH905i :☆☆☆
#177 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ラルティスさん!」
変わった掛け声と共に姿を現したのは、白のローブを羽織った短髪の少年だった。
「…シン?」
シンと呼ばれた少年は「そうです」と答えると、ラルティスに駆け寄った。
「何でラルティスんとこの馬鹿サブマスターがこんなところに居るんだよ」
明らかに嫌そうな表情をしているガイアに十六歳ほどの少年、シンは不機嫌そうに口を釣り上げた。
「ふん…仕留め損なった」
惜しいと言わんばかりにラルティスの影からガイアを睨み付ける。
:08/11/03 16:21 :SH905i :☆☆☆
#178 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「てめぇまさか…さっきの魔法はお前のかよ!?そういえばお前魔法使いだったもんな!」
「待て、じゃあ後一人は誰だ?」
ラルティスがシンに聞くと、シンはガイアの更に後ろを指差した。
「お前、クーロン…か?」
ガイアが珍しそうな声を出しながら見つめる先には、クーロンと呼ばれた十八歳ほどの黒服の青年が立っていた。
腰には紫色の鞘に収まった片刃刀が下がっている。
「すみません、ガイア様。そいつが突然立ち止まったかと思うといきなり呪文の詠唱を始めて…止めるのが遅れてしまいました」
紳士を思わせる物腰が柔らかそうな青年は申し訳なさそうに言うものの、その顔は無表情を続けていた。
:08/11/03 16:22 :SH905i :☆☆☆
#179 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「黒騎士のサブマスターか」
ラルティスの言葉に反応せずに、クーロンはガイアの傍まで歩み寄った。
「何でクーロンがラルティスのサブマスターと一緒にこんな所に?」
ガイアが聞くとラルティスの横で「シンだし!」と喚いている少年を無視してクーロンが口を開く。
「仕える者が主の行く所に付いていくのに理由などありませんよ。それがそいつも同じだっただけです」
そいつ呼ばわりされたシンはまたもや「シンだし!」と抗議しつつも今度はラルティスに抑え込まれた。
:08/11/03 16:23 :SH905i :☆☆☆
#180 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「待て。君たちも行くというのか?」
ラルティスが聞くと、クーロンは明らかに不機嫌そうな表情をして今度は口を開いた。
「文句がありますか?安心してください。私が安ずるのはガイア様のみであって貴方には興味はない」
苦笑するカイトの横で、クーロンに食いかかるような目を向けるシン。
「ふざけんな馬鹿!この中で一番レベル低いくせに!」
喚き散らすシンにクーロンはやれやれといった様子でため息を吐く。
「レベルなど大した差ではない。貴様は91、私は89。たったの二つしか変わらないじゃないか」
:08/11/03 16:24 :SH905i :☆☆☆
#181 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
相手によって接し方を変えるクーロンと、喧嘩っぱやいシンとのやり取りはどこかで見たことがある感じだった。
「ガイア…。僕、出会い方次第では君の所のサブマスターとなら気が合いそうだよ」
「奇遇だな。俺もお前の所のサブとなら上手くやっていけそうだと思っていた」
:08/11/03 16:24 :SH905i :☆☆☆
#182 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
フィズの街を出て南に山を一つ越え、更に谷に沿って進んだ荒野に、バグワールドはあった。
「着いたぞ、ここだ」
四人は言葉が見つからないといった様子だった。
バグワールドの入口と思われる場所は、何もない空間に亀裂が入ったように空中にぽっかりと穴が空いており、中は真っ暗で何も見えない。
周囲の川の水は紫色をしていて、バグワールドの上空の空だけが薄暗くて、やけに黒い。
更に地面は血に染まったかのように赤い。
どんなダンジョンとも違う、異様な空間だった。
:08/11/03 16:25 :SH905i :☆☆☆
#183 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「この裂け目が…入り口か?」
ガイアがやっとといった感じで口を開く。
「恐らく、そうだ」
「カイトのお父さんとお姉さんは二人で入ったんだろ?僕達は五人だし大丈夫だろう」
その言葉は自分に言い聞かせているのだろうか。
ラルティスの声色は重々しかった。
:08/11/03 16:26 :SH905i :☆☆☆
#184 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「こんな場所なら最大の六人でパーティ組めば良かったのに…」
「何だ貴様。怖いのか?」
愚痴るシンにこんな場所ですら表情を変えないクーロンは正面を向いたまま受け答えをする。
「馬鹿か!怖くなんかないし!」
「どうでも良いが、足手まといだけは勘弁だぞ」
ギャーギャーと喚き始めたシンに場の空気は僅かに和んだ。
カイトがちらりと見遣ればクーロンの口元に少しだけ笑みが浮かんでいるようにも見えた。
:08/11/03 16:26 :SH905i :☆☆☆
#185 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「それじゃ…行くぞ」
意を決したかのように呟くと、カイトは裂け目に飛び込んでいった。
ラルティスたちが後に続いた。
:08/11/03 16:27 :SH905i :☆☆☆
#186 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「中は案外明るいな…」
ガイアが小さく呟けば、声が反響するように空間内に響いた。
薄暗い世界は洞窟内のような作りをしていて、一本道になっている。
「よくこのバグワールドに一般ユーザーが紛れ込みませんでしたね」
クーロンがぽつりと疑問を零せばカイトがすぐに答える。
「ここはアクセスコードを持ってないと入れない場所だからな。アクセスコードは俺がダウンロード済みだ」
クーロンはまさか独り言に返事が来るとは思ってなかったのか、なるほどと呟いて正面を向き直した。
:08/11/03 16:28 :SH905i :☆☆☆
#187 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「…待て、カイト」
ラルティスが手を上げて制止を促した。
「どうした?特に何かの気配はないが…」
怪訝そうに眉を潜めればラルティスは人差し指を口元に当て、耳を澄ませばように指示した。
「確かに気配はない。だが…何かいる」
耳を澄ませば、確かに無音ではない。
何かがひしめくような音がする。
いや、声が。
:08/11/03 16:28 :SH905i :☆☆☆
#188 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「もしかして俺ら…囲まれてる?」
ラルティスの後ろでシンが言った直後、突然内部が明るくなった。
「うわぁ!」
シンの叫び声が聞こえたかと思えば、カイトたちが振り向くとそこにはもうシンの姿はなかった。
「シンがいないぞ!」
「…いや、それどころじゃねーぜ」
慌てた様子のラルティスにガイアは冷静に言うと、魔剣を構えた。
:08/11/03 16:29 :SH905i :☆☆☆
#189 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
変に明るくなった広い空間には、無数の魔物がこちらを伺っていた。
それも、見たこともない異形のものたちが。
全ての魔物が黒い体に赤い目を持っていた。
「こいつは穏便に通してくれそうもないな」
「くっ…」
相変わらず落ち着いたガイアにシンが気になるのか腰の片刃刀に手を掛けながらも落ち着きのないラルティス。
カイトも日本刀を抜刀していた。
:08/11/03 16:30 :SH905i :☆☆☆
#190 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ラルティス、シンなら大丈夫だ。多分クーロンが一緒のはずだ」
ラルティスは我に返ったように辺りを見渡す。
確かにクーロンの姿もない。
部下を気にするあまり状況判断も鈍るとは…。
ラルティスは姿勢を低くした。
「すまない。もう大丈夫だ」
ガイアとカイトは顔を見合わせると頷いて深呼吸をする。
:08/11/03 16:31 :SH905i :☆☆☆
#191 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「さて…と、やりますか」
ガイアは口元に笑みを含みながら、黒い刀身に赤いオーラを纏う両刃刀…魔剣リベリオンを構える。
「見たことないモンスターだが、手応えだけはありそうだぜ」
その横で鋭い眼光を放つラルティスは体勢を維持したまま、素早く抜刀した。
細身で白い刀身に蒼いオーラが纏う片刃刀…聖剣ルシファーを。
「部下を探してるんだ。容赦はしない!」
:08/11/03 16:32 :SH905i :☆☆☆
#192 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
二人に背を向けたまま、カイトも紅い刀身に紅いオーラを放つ日本刀を構える。
「妖刀、鬼斬り極文字…」
カイトが小さく呟くと、三人は地面を強く蹴った。
魔物も三人が動きを見せると一斉に臨戦体勢を作る。
背筋に響くような咆哮を上げながら、魔物が襲い掛かった。
:08/11/03 16:33 :SH905i :☆☆☆
#193 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
低い姿勢のままラルティスは疾走した。
黒い残像を残しながら地面を駆る。
斬撃を繰り出せば、勢いの乗った強烈な一撃は魔物の胴体を難無く貫いた。
そのまま素早く身を返し、剣を引き抜くと同時に第二撃が別の魔物に狙いを定める。
円を描くように体を捻って一閃を決めれば、周囲にいた三体の魔物の体が同時に真っ二つになった。
背後から牙を持った黒い狼が襲い掛かる。
「四体。そして…」
:08/11/03 16:33 :SH905i :☆☆☆
#194 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
一瞬で狼の背後に回り込めば、後ろから首元を一突きにした。
「…五体目」
圧勝ではなかった。
手が僅かに痺れている。
魔物の体が異様に硬いのだ。
斬れないことはない。
素早さでは自分が勝っている。
だが、防御力が遥かに高い。
「畜生め…」
ラルティスは舌打ちを落とした。
:08/11/03 16:35 :SH905i :☆☆☆
#195 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「おらぁ!」
ガイアが横薙ぎの一撃を払えば、四体の魔物の体が綺麗に真っ二つにされた。
思ったよりも硬度がある。
こんなに防御力が高いモンスターはなかなかいない。
だが、ガイアの攻撃の前では大した問題ではない。
「ちょこまかと…動くんじゃねぇ!」
跳飛しながら体重を乗せて剣を振り下ろせば、地面に亀裂が入り岩盤が飛び散った。
破壊された地面からは土煙を上がり、全包囲の敵が消し飛んだ。
:08/11/03 16:35 :SH905i :☆☆☆
#196 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「タフな野郎だ…」
腕を失っても立ち上がってくる魔物を見て脱力感を覚える。
硬さは大した問題じゃない。
だが、油断したらやられる。
ガイアは自嘲気味に小さく笑った。
「上等じゃねーか馬鹿野郎っ!」
:08/11/03 16:36 :SH905i :☆☆☆
#197 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「…ふん、大したことないな」
カイトに喉元を一突きにされた魔物の喉から、血飛沫が舞う。
こいつらは硬い。
それに素早いし、攻撃力も相当なもんだ。
下手に剣で受け止めようとすれば力負けしそうになる。
おまけに体力も桁違いにあるときた。
少しでも隙を見せればやられるだろう。
だが、いくら素早くても捕らえられる。
後は簡単な話だ。切っ先を急所に突き立てて、絶命させればいい。
「…何匹いるんだ?」
:08/11/03 16:37 :SH905i :☆☆☆
#198 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
両足を切り落とされた魔物が地に落ちると同時に、刀を額に突き立てた。
噴水のように鮮血が舞う。
「…強いな」
不意に声を聞いた。
カイトが視線を送れば、灰色のローブを身に纏った男がいた。
魔物たちが一斉に道を開ける。
:08/11/03 16:37 :SH905i :☆☆☆
#199 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
眉をしかめるカイトに、男は続けた。
「長谷川啓一の息子か」
カイトは驚きの表情を隠せなかった。
父の名を知っているということはやはりここに来たのだろうか。
「お前、何でそれを…!」
男は笑った。
「残念だが、君のお父さんとお姉さんはここで倒れた。私の造り出したバグモンスターにやられてね」
「…どうりで強い訳だ。さて、まだあるんだろ?続きを聞かせてくれよ」
カイトは男を睨み付ける。
:08/11/03 16:38 :SH905i :☆☆☆
#200 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
カイトの言葉を聞いた男は喉を鳴らしてほくそ笑んだ。
「強い?…なら、良いことを教えてやろう。君たちが今相手にしてるのはまだまだ弱いモンスター共だよ。この奥にはオーガ級の中型モンスターからドラゴン級の大型モンスターまで、大軍勢が棲みついている」
「ドラゴンだと?…お前は何を企んでいる?」
「滅亡さ。いや、破壊と言ってもいい。私は、バーチャルワールドを崩壊させるためにバグを引き起こしてるのだよ」
:08/11/03 16:39 :SH905i :☆☆☆
#201 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「…何のためにだ」
「…バーチャルワールド。確かにすごい発明だ。だが、それが開発されたことによってどれだけのゲーム会社が潰れたか。貴様にわかるか?貴様の親父もそうだ。このCOD開発部の責任者、開発部長だそうじゃないか。偉い身分になったものだ。あれ以来ここには侵入して来ないが、今頃は何をやっているのだろうなぁ」
この男はどうやら父の実状を知らないらしい。
そう思うとカイトの怒りは増してきた。
:08/11/03 16:40 :SH905i :☆☆☆
#202 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「そんなのは逆恨みじゃないか!」
「だが事実だ!だから私は誓った!復讐してやろうと!だが流石はバーチャルワールドと造った会社だけある。有能な人材が多いらしくてね。私が開発したプロテクトでバグワールド自体を破壊することは阻止出来たが、その他の所で思わぬ反撃を喰らってしまった。奴らの反撃で、体力や戦闘能力は高められても無敵のバグモンスターは造れなかった」
:08/11/03 16:41 :SH905i :☆☆☆
#203 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「バグモンスターを造って…どうする気だ?」
「放つのさ。この世界にね。君も身を持って体験しただろう?こいつらの強さを!このバグモンスターの軍勢、約五百万体があればいくら君たちでもどうすることも出来まい!さぁ、どうする?君達に決定権はない。戦ってやられるか、戦わずしてやられるかだ。全面戦争と行こうじゃないか!」
男は両手を仰いで叫んだ。
:08/11/03 16:42 :SH905i :☆☆☆
#204 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
:08/11/03 16:42 :SH905i :☆☆☆
#205 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「さて、どうするか…」
「見渡す限り魔物魔物…万事休すだな」
ガイアはまだ余裕があるのか、笑みを絶やさない。
ラルティスは体力的に疲労があるのか、歯を食いしばる。
「ライトニング!」
内部に轟音が響くと、光の束がいくつも地面に突き刺さっていく。
魔物たちを串刺しにしながら光は止まらずに降り注ぐ。
:08/11/03 16:43 :SH905i :☆☆☆
#206 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「クロスファイアストーム!」
再び聞き覚えのある声がすると、今度は巨大な炎の竜巻が追い撃ちを掛けるかのように魔物を一掃していった。
唖然としている二人の元に、苦もなく魔物を斬り捨てながら無表情の青年がやってきた。
「ガイア様、シンが足止めをしている間にお退きください」
:08/11/03 16:44 :SH905i :☆☆☆
#207 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「クーロン、おまえよく無事だったなぁ」
傷一つ負っていない部下を見て、感心の声を上げた。
「私はともかく。正直、シンは厳しい所でしたが増援が参りましたので」
「増援だと?」
ラルティスが訝しげに眉を寄せる。
「えぇ、あのお二方です」
クーロンが振り向くと同時に走り去る二つの影。
「…え?今の、まさか…」
見覚えのある姿。
ガイアとラルティスは顔を見合わせた。
:08/11/03 16:45 :SH905i :☆☆☆
#208 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
強く弾かれたカイトの体は軽々と宙を舞い上がった。
空中で体を捻って体勢を立て直し何とか着地する。
体には致命傷といえるほどの傷はないが、ダメージは結構ある。
「…ちっ」
カイトの正面には巨大な魔獣が待ち構えていた。
人間の数倍はある巨体に、鋭い牙と爪。
特別な剣でなくては傷すら付かない強靭な鱗。
暗闇で光る赤い眼光は常人ならば怯むだろう。
太く長い尾に、大きな双翼持つドラゴンであった。
:08/11/03 16:46 :SH905i :☆☆☆
#209 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「さすがはドラゴン…といったところか」
カイトの感想に男は楽しげに笑った。
「その程度か?このドラゴンは四種類いるうちの最弱のドラゴンだぞ」
「馬鹿か。よく見ろよ」
カイトは小さく笑って皮肉を込めた。
指差す先にはドラゴンが。
「ご自慢の鱗が切り裂かれて、喉元から血が出てるぜ?」
:08/11/03 16:46 :SH905i :☆☆☆
#210 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
言ってる間に、ドラゴンの傷はみるみるうちに癒えていった。
「最弱でも一応はドラゴンの眷属か。オート・リカバリーかよ…。それに…」
カイトは片膝を突いたまま、ダメージの回復を待つ。
カイトを囲うようにいくつもの巨大な影が揺らめく。
「いくら最弱のリトルドラゴンとはいえ、五体相手はきついっての…」
:08/11/03 16:47 :SH905i :☆☆☆
#211 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
立ち上がろうとしたのもつかの間、けたたましい咆哮の次にドラゴンのブレスが五方向から襲う。
「くそっ…そりゃ怪我もするっつーの!」
大きく上に跳躍すると、岩を蹴りドラゴンとの間合いを取る、低い姿勢のまま着地して第二撃に備えた。
しかし次にきたのは攻撃ではなく、男性の声だった。
「カイト、交代の時間だ」
突然カイトとドラゴンの間に二つの影が立ち塞がった。
:08/11/03 16:48 :SH905i :☆☆☆
#212 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
慌てて顔を上げると、そこには見たことのない二人がこちらに背を向けて立っていた。
bbs1.ryne.jp/d.php/illust/1144/35「な、何で…」
見たことはない。
だが、知っている。
聞き覚えのある懐かしい声。
「久しぶり…だな」
「助けにきたよ海斗」
五ヶ月前に失った…。
「本当に…父さんと姉ちゃん…?」
「そうだよ」と笑う姉の声をした女剣士。
信じられないが事実だ。
:08/11/03 16:49 :SH905i :☆☆☆
#213 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「話は後だ」
「後は任せて!」
再び正面を向いた二人は剣を抜く。
「レイナ、アイテムで移動魔法エクステレポートの用意を。私がドラゴンを引き付けよう」
「了解、ケイ」
言うと、男がすぐに駆け出した。
ケイと呼ばれた父は、ドラゴンのブレスをぎりぎりだが素早い身こなしで避け、ドラゴンの体から体へ飛び移っていく。
装備が普通の剣だからか、決して攻撃はしない。
:08/11/03 16:50 :SH905i :☆☆☆
#214 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
:08/11/03 16:50 :SH905i :☆☆☆
#215 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
人差し指を突き付けて更に声を張り上げる。
「全面戦争だ!カオス・オブ・ドリームズの全ユーザー総勢二千五百万人が、貴様らバグワールドの軍勢に宣戦を布告する!」
発動した移動魔法の効果で、カイトの体は光の柱に包まれる。
ケイの声が聞こえた。
「カイト、強くなったな。だが、これからが正念場だな」
「わかってる」
:08/11/03 16:51 :SH905i :☆☆☆
#216 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
ここは戦場だ。
俺は今まで人のために戦ってきた。
だから最後まで、人のために戦おう。
ただ今までと違うことが一つだけある。
今からは、人ためだけではなく、自分のためにも戦うのだ。
ここからは、俺の戦いだ。
:08/11/03 16:52 :SH905i :☆☆☆
#217 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
:08/11/03 16:53 :SH905i :☆☆☆
#218 [◆vzApYZDoz6]
乙!
そして俺も書ききったので投下するぜ
今回使うイラストは全部です!
といっても短編ではなく、1〜3レスの場面切り取り形式となっております
自分でもよく分からんやつがあるので、軽い解説も交えていきます
使用イラストは名前欄参照!
たぶん150レスぐらいありますw
今夜中に投下できるかな、しかし
場合によっては誰か2次投下スレを立ててくだされw
では投下スタート
:08/11/03 19:03 :P903i :LUmIhgZI
#219 [No.001◆vzApYZDoz6]
「君には世界を救う指名がある」
数年前のある日突然、学校帰りの駅のホームでそう言われた。
あぁ、そういやそろそろ総選挙だったか。こういう勧誘は迷惑極まりないな。
なんて思いながら無視して歩く俺の前に、話しかけてきた男はご丁寧に回り込んだ。
「君にしかできないことなんだ。拒否権は存在しない」
そう言って手にしていた小包を、半ば無理矢理押しつけてきた。
そのまま踵を返しながら、俺を睨むように一瞥した。
「それが世界を救う鍵となる」
山程ある聞きたい事を口にする前に、男は雑踏の中に消えた。
仕方なく家に帰って小包を開けると、『鍵』とやらが入っていた。
お玉とエプロンと鍋つかみ。意味が分からない。
だから、とりあえず味噌汁を作ってみた。
美味かった。
そして今、俺は世界の恵まれない子供達に味噌汁を配ってまわっている。
:08/11/03 19:04 :P903i :LUmIhgZI
#220 [◆vzApYZDoz6]
>>219『救済者』
味噌汁で世界を救った男のお話。
この時期の層化は厄介
:08/11/03 19:06 :P903i :LUmIhgZI
#221 [No.002◆vzApYZDoz6]
閉めきった教室。
窓側の一番後ろの席が、彼の探偵事務所だった。
彼は依頼が来た時以外はいつも決まって、眼下に広がるグラウンドを腑抜けた顔で眺めていた。
人はそれを見れば頼りない印象を持つだろう。
だが一度依頼が来れば彼は豹変する。
冷静沈着に物事を見つめ、どんな難事件であろうとたちどころに解決してしまう名探偵となる。
彼の噂は方々に広がり、毎日依頼が絶えなかった。
そして今日も、難題を抱えた一人の少女が教室のドアを開ける。
「まだいたの? あなたも毎日よくやるわね。あたしもう帰るから、最後鍵かけてよね」
そう言って少女は手にしていた鍵を放り投げ、そのまま帰ってしまった。
ちなみにこの教室のドアは立て付けが悪く、鍵をかけづらい。
「これは難題だ」
独り言にツッコミを入れてくれる相方はいなかった。
:08/11/03 19:07 :P903i :LUmIhgZI
#222 [◆vzApYZDoz6]
>>221『高校生探偵の苦悩』
立て付け悪いとイライラするよね。
:08/11/03 19:08 :P903i :LUmIhgZI
#223 [No.003◆vzApYZDoz6]
ジンベエ の こうげき!
マシンガントーク!
「ちゃーっす! 俺ァ巷で流離のジンベエってぇ呼ばれてる現代に生きる武士(もののふ)よ! ん? このデコの傷? こりゃ昔だな、市政を苦しめる流れモンを懲らしめた時に一発食らっちまってな! ま、最終的には俺が勝ったんだけどよ! まぁいわゆる男の勲章ってやつよ! え? なんで他に傷がないかって? いやさ、戦った連中はたくさんいるけどよ、どいつもこいつも弱いのなんのって! 打ち出す拳にハエが止まるんじゃねーかってぐらい遅い遅い! いや本当にさぁ…ん? 便所で転んだんじゃねーか、ってあるわきゃねーだろんなこと! …色白なのは体質だよ体質! ほら舞い散る落葉に映えるだろ? 俺って秋生まれだからさ、そこら辺は意識しとかねーと! カッコいいだろ? そうそう、近くにいい場所知ってるんだけどよければ行かない? 俺の手にかかれば3分で絶頂n」
「行くかボケ」
こうげきは しっぱいに おわった!
:08/11/03 19:08 :P903i :LUmIhgZI
#224 [◆vzApYZDoz6]
>>223『ポケモン的なシュール』
ジンベエ は ハートブレイク に なった!
:08/11/03 19:09 :P903i :LUmIhgZI
#225 [No.004◆vzApYZDoz6]
暑い。冬なのに暑い。
とにもかくにも暑い。
ふと室温計を見ると、35℃を示していた。暑い。
隣の湿度計は80%の位置に針が振れている。蒸し暑い。
優勝者には海外旅行が貰えるらしいけど、これ以上絶えられそうにない。暑い。
奥からデブの男がお盆を持って現れた。暑苦しい。ついでに見苦しい。
お盆の上に乗っているのは湿度80%の環境でも湯気が出ちゃうくらい熱々のうどん。あれ絶対熱いよ。舌火傷するよ。
とりあえずふうふうしてみるが、果たして意味があるのだろうか。なんにせよ熱い。
とりあえず啜ってみた。案の定熱い。
もうやめよう。バカらしい。体調も悪くなってきた。大体暑い。当然だけど暑い。
「暑いですねぇ」
そりゃそうでしょ、誰よそんな素っ頓狂なこと口に出して言ってんのは…ん?
「この大会にはダイエット目的で参加したの。あなたも?」
何でだっけ?
なんか海外旅行目当てで軽いノリで来たような気がする。
「まぁ、お互い頑張りましょう」
うーん。
まぁこの際ダイエットもアリか。
とかって考えたら心なしか気分が優れた気がする。暑いけど。
:08/11/03 19:10 :P903i :LUmIhgZI
#226 [◆vzApYZDoz6]
>>225『我慢大会にて』
我慢大会に参加して、友達みつけました
:08/11/03 19:11 :P903i :LUmIhgZI
#227 [No.005◆vzApYZDoz6]
「…ねぇパパ」
「どうした?」
「腕、組んでもいい?」
「ああ、いいぞ」
「…ねぇパパ」
「どうした?」
「進路決まったよ」
「そうか。勉強頑張れよ」
「…ねぇパパ」
「どうした?」
「こないだ彼氏できたんだ」
「そうか。今度きっちり紹介しろよ」
「…ねぇパパ」
「どうした?」
「だし巻き玉子、ちゃんと作れるようになったよ」
「そうか。今度作ってくれよな」
:08/11/03 19:13 :P903i :LUmIhgZI
#228 [No.005◆vzApYZDoz6]
「…ねぇパパ」
「どうした?」
「こないだ、おばあちゃんに『お母さんに似てきた』って言われたんだ」
「そうか。それならお前は美人になるぞ」
「…ねぇパパ」
「どうした?」
「本当はね、ちょっと寂しかったんだ」
「そうか。俺は悲しかったけど寂しくはなかったぞ。お前がいるからな」
「…ねぇパパ」
「どうした?」
「今日はこのまま一緒にいてもいい?」
「ああ、いいぞ」
「…ねぇパパ」
「どうした?」
「……ありがと」
:08/11/03 19:13 :P903i :LUmIhgZI
#229 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:15 :P903i :LUmIhgZI
#230 [No.006◆vzApYZDoz6]
「なあ」
「なぁにー?」
「水銀燈って何だ?」
「えっとぉ、ローゼンメイデンっていうアニメの登場人物なの。小馬鹿にしたような猫なで声で喋る子(Wiki情報)なんだって」
「それ+甘い感じがお前か…そんな感じで合ってんの?」
「そんなの分からないよ。私は、あなたに動かされているもの」
「いや、だって甘い感じの女なんて書いた事ねーしローゼンメイデンなんて見た事ねーし…まぁ大食いでもしてりゃ──」
「あっ、このシュウマイあと10人分おねがいしますぅ」
「あいよ! お嬢ちゃんよく食べるねぇ!」
「だぁって、おいしんだもん、このシュウマイ。生きててよかったぁ」
「あら嬉しいこと言うねぇ!ほら10人前だよ、たんとお食べ!」
「やったぁ♪ いただきまーすっ」
「──って、もう大食いやってたね。しかしカオスだなこりゃ、地の文が無いから誰が喋ってるのか分かりゃしねぇ」
「あれぇ?食べないの?」
「見てるだけでお腹一杯になりました」
「かわいそかわいそなのです☆」
「それはまた別のキャラだろ!」
:08/11/03 19:16 :P903i :LUmIhgZI
#231 [◆vzApYZDoz6]
>>230『中の人と対話、その1』
要するに作者が力量不足でノータリンなだけです。ごめんなさい。
:08/11/03 19:17 :P903i :LUmIhgZI
#232 [No.007◆vzApYZDoz6]
体が沈む。
さっきから何度も何度も手を掻き回しもがいているが、浮き上がる気がしない。
確実に沈んでいる。
ここは何処だろうか。
遥か頭上で、小さく弱々しい光源が靄を湛えて揺れている。
体は無重力の最中にいるかのように浮わついていた。
見えない圧力が微かに全身の肌に伝わる。感触は酷く冷たく、水のそれに近い。
だが息苦しさはなかった。むしろ気持ちよくすらある。
脳は頭上の光を追えとしきりに叫んでいるが、体が底へ底へと導かれているようだった。
次第に脳も叫び疲れ、沈んでいく体に身を預けていく。
目がまどろみ、瞼が重くなり、意識が薄れていく。
「ねぇ」
透き通った女性の声。
閉じかけていた瞼を開くと、沈んでいく先の底に女が立っていた。
白装束を身にまとい、後ろ手に巨大な刀のようなものを持っており、異様な雰囲気を感じる。
何より肌が極端に白い。白すぎて青緑色に見えるくらい白い。
長い前髪で顔はよく分からないが、薄く微笑む口元も色がなく、生気が感じられない女だ。
:08/11/03 19:18 :P903i :LUmIhgZI
#233 [No.007◆vzApYZDoz6]
「抗わなくていいの?」
数メートル先に見えている底から俺を見上げ、無感情に聞いてきた。
「ここは意識の大海。底まで沈むことは、意識の底辺に辿り着いた事…つまり『死』を意味するの」
ふふふ、と不気味に笑いながら、女は後ろ手の刀を担ぎ面にふりかぶる。
「そして私の役目は、底辺に辿り着いた人間の命を刈り取る事」
女との距離はすでに1メートルもない。
切迫する死を避けようにも、すでに俺の体が脳の拘束を振りほどいていた。
女は足を広げ、柄を握る手を静かに引き絞る。
俺の体はその所作に導かれるままに、女の正面に向かっていった。
「さようなら。罪深き人間」
意識の海底に足がつく。
同時に、女が俺の体を肩から袈裟懸けに斬り裂いた。
:08/11/03 19:19 :P903i :LUmIhgZI
#234 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:21 :P903i :LUmIhgZI
#235 [No.008(1/2)◆vzApYZDoz6]
「よぉ」
「……誰? どこにいるの?」
「お前の後ろだ」
「後ろ…? 誰もいないじゃないか」
「当たり前だろ。俺は、お前の『影』だ」
「影…?」
「ここはお前の精神世界だ。お前は青く、俺は真っ黒で長い。お前は今、心に深い闇を抱えている。だがそれは不変的なものではなく、変えようと思えば変えられるものだ」
「……つまりは僕次第、か……」
「言ってみろよ。俺にはお前が何を抱えているかまでは判らない」
:08/11/03 19:22 :P903i :LUmIhgZI
#236 [No.008(2/2)◆vzApYZDoz6]
「……話したところで…君に何かできるのかい? この寂しさを救えるのかい?」
「甘ったれるなよ。さっきも言っただろう、変わるかどうかは他ならぬお前次第だ」
「判っているさ。でも、僕は君ほど強くなれそうにない」
「んなこたぁねーよ。俺はお前の影だぞ? 俺は、お前だ。俺にできることはお前にもできるんだよ。全てはお前次第だ」
「………」
「立ち上がれ。でなきゃ俺は…ひいてお前はいつまでも小さいままだ。前進しなくちゃ始まらないんだ。それでも不安なら一度後ろを向けよ。俺は、いつだってそこにいる」
「……そうだね。全ては僕次第なんだ…」
「たまに落ち込んだって誰も何も責めやしねーよ。だが、ずっとそのままじゃできることもできないんだぜ?」
「うん…思い出したよ。僕にはまだやることがあるんだ」
「1人でいたくなったらまた来な。ここにいるのはお前1人だが、独りぼっちじゃない」
「……ありがとう。もう起きるよ」
「そうしとけ。精々気張れよ」
「それじゃ」
「ああ。達者でな」
:08/11/03 19:23 :P903i :LUmIhgZI
#237 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:25 :P903i :LUmIhgZI
#238 [No.009◆vzApYZDoz6]
白い雲のはるか上、おとぎ話でよく見る空に浮かぶお城の庭に、2人はいた。
肩を並べて庭の端から足を投げ出して、今日も下界を眺めていた。
向かって右の気だるそうな男が悪態をつく。
「ひでぇよなー、神様にしてくれるっつーもんだからお願いしたら、その代償が『一生童貞』だもんな」
「ひどい…」
「神様つっても童貞卒業する権利くらいあるよな?」
「あると思う…」
「待てよ、神様なんだから何でもできるだろ? 女の子を作ればいいじゃん」
「試したけど無理だった…」
「試したのかよ…まぁでも、地上の女の子を拐えば問題ないよな?」
「拐ったけど無理だった…」
「拐ったのかよ…つうか何で神様を童貞にできるの? この話、誰に持ちかけられたんだっけ?」
「知らない…」
「あれ? あれは確か俺が女子更衣室に行こうとしたときに…あれ?」
「デジャヴ…」
2人は今日も童貞。
明日も明後日もその次も、2人はずっと童貞だ。
:08/11/03 19:26 :P903i :LUmIhgZI
#239 [◆vzApYZDoz6]
>>238『the・童貞』
童貞はどこまで行っても童貞でした。
:08/11/03 19:27 :P903i :LUmIhgZI
#240 [No.010◆vzApYZDoz6]
日射しが強い。
見渡す限りの砂漠。渇いた砂粒が吹き荒ぶ中、幾重にもうねる砂丘の中腹に彼女はいた。
焼き付くように照りつける太陽の光を背に受けて、彼女はうずくまっている。
やがて小さなため息をつき、目の前にある中身のない宝箱の蓋を静かに閉じた。
「これもハズレかぁ……」
手にしていた巻き紙を広げ、目を細めて繁々とそれを眺めた。
1人の男が残した置き手紙。
祖国の英雄であり、実の父親でもあるその男が彼女の前から姿を消したのは、およそ2年前。
早朝、彼女が男を起こすために向かった時には、すでにもぬけの殻と化していた部屋。
その中央に置かれた羊皮紙には、ある大陸の地図に加えて男の筆跡で一文が記されていた。
『近く蛻と成るその日までここにいる。願わくば捜し当てよ』
当時は祖国から捜索隊が編成されもしたが、消えた目的すら不明なために暫くして捜索は打ち切られた。
だが彼女は捜し続けた。
『蛻』とは死者の事。つまりそれは、男の死期が近い事を示唆する手紙だった。
彼女は手紙が自分宛であると思っていた。
俗世を嫌った父親の最初で最後の我儘に、自分を付き合わせたのだろう、と。
「……次は何処だっけ」
物思いに耽る思考を振り払い、紙を丸めて立ち上がる。
コンパスを取り出して目指す指針を確認した。
次は、北だ。
「絶対に見つけてやるんだから」
果てなく続く砂漠の道を、彼女は1歩踏み出した。
:08/11/03 19:28 :P903i :LUmIhgZI
#241 [◆vzApYZDoz6]
>>240『父を求めて三千里』
これは作者の中で設定が浮かびまくって、泣く泣くSSSにしました
なんか親父の手紙の暗号を考えたりしたなー
:08/11/03 19:30 :P903i :LUmIhgZI
#242 [No.011◆vzApYZDoz6]
先日、中学の同窓会があった。
僕は出席したけど、同じクラスのサラは諸事情で行けなかった。
「また机に座って…胸見えてるぞ」
「いいじゃねーか。触りたきゃ触ってもいいんだぜ?」
「馬鹿。…ほら、写真。みんなサラに会いたがってたよ」
「おおー、みんな元気そうだな…誰だこれ? え、岸田? すごい変わりようだな…やっぱ女は変わるもんだなぁ」
「あとは、水嶋と黒崎が付き合ってるんだってさ」
「そういや卒業前に告ってたなアイツ! そうか、うまくやってんだなぁ…」
「それで、今度サラんちに遊びに行きたいって言ってたんだけど…」
「あー…まぁ無理だな。ばーちゃんの事もあるし」
「様子は? どうなんだい?」
「あいっかわらず。俺が誰なのかもわかってねぇよ」
「……良くなるといいね。そしたら今度はサラも……」
「いや、いいんだ。良くならない病気だしな。
……俺さ、働くまでばーちゃんに恩返しなんてできやしねーとか思ってて、早く大人になりたいとか思ってたじゃん?
でも今さ、高校生のままで恩返しできてるわけじゃん? 超ラッキーじゃね?」
その言葉が強がりなのは痛い程に判っていて、僕は何も答えられなかった。
いくらか本心が混ざっていたとしても、掛ける言葉が見つからなかっただろう。
僕はこの粗野で乱暴で愛に溢れる口の悪い少女を、今のクラスメイトと同じように嫌うなど、考えられなかった。
いつまでも一緒にいたいと、そう強く願った。
:08/11/03 19:31 :P903i :LUmIhgZI
#243 [◆vzApYZDoz6]
>>243『クラスメート』
仲良くなるには、何だかんだで時間がいる
高校の友達だって、最初はそういうもんだと思う
:08/11/03 19:33 :P903i :LUmIhgZI
#244 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:34 :P903i :LUmIhgZI
#245 [No.012◆vzApYZDoz6]
ξ゚听)ξ「あら、中の人じゃない。あんた傘もささずに何やってんのよ」
(;^ω^)「……おっ!? 僕なんでブーンになってるお!? ってなんか喋り言葉も変わってるお!」
ξ゚听)ξ「知らないわよ。にしても携帯でブーン小説は厳しいものがあるわねー、AAが行の半分埋めてるじゃない」
( ^ω^)「確かにせまっ苦しいお。『イラストがツンとブーンみたい』って言われたからやってみたけど、どうにも携帯には向いてないお…タグ使えば大丈夫かお?」
ξ゚听)ξ「一応知らない人のために説明すると、ブーン小説ってのは2chはニュー速VIP板で投下されてる小説よ。会話が多いのと、AAが会話の頭にくる以外は普通の小説と変わんないけど。まぁこんな感じだと思えばいいわよ」
( ^ω^)「3行で」
ξ゚听)ξ「VIPで投下
AAあり
あとは一緒
……なんか産業説明も端っこすぎてしまらないわね…っていうか産業するほど難しいこと言った?」
(;^ω^)「ところであまり2ch用語は使わない方が…」
ξ゚听)ξ「って、じゃあなんでこんなテイストなわけ?」
( ^ω^)「僕が投下したイラストだからやりたい放題だおwww読者の期待?知らねーおwww」
ξ#゚听)ξ ビキビキ
(;^ω^)サーセン
:08/11/03 19:35 :P903i :LUmIhgZI
#246 [◆vzApYZDoz6]
>>245『中の人と対話、その2』
『ツンとブーンっぽい』って言われたからやってみた。後悔はしていない。反省はしてる。
ブーン系は容量も食うなぁ…
:08/11/03 19:37 :P903i :LUmIhgZI
#247 [No.013◆vzApYZDoz6]
どれくらい時間が経ったか。
夜中の河川敷。真ん中に立っている木刀を持つ男の周囲には、少なくとも50人は倒れている。
「ちっ…いい加減諦めろよ!」
それでもなお、100人近い人間が男を囲っていた。
男への攻撃がないわけではないが、殆んど当たっていなかった。
当たっても致命傷にすらなっていない。
この抗争が終わるには、群がる人間がごめんなさいもうしませんと謝って帰るか、もしくは男に全員倒されるか、その2つしかなかった。
「俺は途中でやめる気はない。抜かれるわけにはいかないからな」
男は1人ではなかった。だが、戦えるのは男1人しかいなかった。
背後には、絶対に抜かれてはならない場所がある。
「俺は死なないぜ。いつか俺が俺を殺すまでな!」
体当たりしてきた相手の頭を木刀で叩き割り、男は再び前進した。
:08/11/03 19:37 :P903i :LUmIhgZI
#248 [◆vzApYZDoz6]
>>247『殺し屋さん』
人は大なり小なり護るものを持っています。
:08/11/03 19:39 :P903i :LUmIhgZI
#249 [No.014◆vzApYZDoz6]
「俺はエスプレッソください」
「じゃあ俺は牛乳で。冷たいヤツね」
「はいっ? …あ、かしこまりました、牛乳ですね」
「……おい中の人よ、やる気あんのか?」
「不細工な店員ならあんな注文はしないぜ俺は」
「じゃなくて中の人シリーズやりすぎだろ! まだ14なのに3回目ってさすがに多いぞ!」
「おk、把握したから時に落ち着け。ほら来たぞエスプレッソと牛乳」
「仕方ないな。…お、美味い」
「僕はコーヒー飲まないんですよ。嫌いじゃないんですけどね」
「いきなり敬語になるなよ。読者が困惑するぞ」
「いやどっちがどっちか分かりづらかったからさ。ところで俺には君がDir en grayの京くんにしか見えないんだが」
「また何て言えばいいのかわからんことを言うな…」
「まぁこれが言いたかっただけなんだけどね」
「絶対やる気ねーだろてめぇ!!」
:08/11/03 19:40 :P903i :LUmIhgZI
#250 [◆vzApYZDoz6]
>>249『中の人と対話、その3』
いや……似てない?
とりあえず反省はしてます。ごめんなさい。
:08/11/03 19:41 :P903i :LUmIhgZI
#251 [No.015◆vzApYZDoz6]
「泣いてるの?」
「えっ?」
「それとも笑ってるの?」
「……どうだろ。わかんない」
「そう。でも気にしてない」
「うん……ごめんね」
「どうして僕にあやまるの?」
「……わかんない」
「そう。でも大したことじゃない」
「うん……そうだね」
「泣き止んだね」
「えっ?」
「なんでもない」
:08/11/03 19:41 :P903i :LUmIhgZI
#252 [◆vzApYZDoz6]
>>251『私と涙』
なんか『僕と影』っぽくしようと思ったがネタが全部思い付かなかった。すまん。
:08/11/03 19:42 :P903i :LUmIhgZI
#253 [No.016◆vzApYZDoz6]
「さぁ始まりました恒例の中の人シリーズ! 今回で早くも4回目となったこのシリーズですが、今回のゲストの制服の女の子さん、どうですかお気持ちは?」
「『早くも』って分かってるなら自重したほうがいいんじゃ…」
「これがNo.016だから、ざっと考えて4回に1回。まだ大丈夫…だと思います多分」
「いや大丈夫じゃないと思うんですが…だって私の中の人であるMIさんのイラスト4つ使った内、2回も中の人シリーズってのはさすがに…」
「……正直に言うとネタが思い付かなかっただけなんです。後回しにしまくった結果なんです。ごめんなさい」
「……まぁ、がんばってください…」
:08/11/03 19:43 :P903i :LUmIhgZI
#254 [◆vzApYZDoz6]
>>253『中の人と対話、その4』
なんかもう何言っても言い訳にしかならないので何も言いません。ごめんなさい。
:08/11/03 19:44 :P903i :LUmIhgZI
#255 [No.017(1/2)◆vzApYZDoz6]
これは、とある女の人のお話。
美しい緑野の丘。
暖かい陽気をもたらす太陽の下では、たくさんの色鮮やかな花が咲き誇り、甘い香りに誘われた蝶々がひらひらと舞い遊んでいます。
そんな緑野の片隅で、彼女は1人で住んでいました。
彼女は花を摘んだり蝶々と戯れながら、たった1人で住んでいました。
彼女が1人、周囲の人間から離れるには、理由がありました。
美しく平和な世において、彼女は調和を乱してしまうからです。
彼女の手にかかると、すべては正常に動きませんでした。
水を汲もうと井戸車を回転させれば、それは土を掘りました。
辺りを照らそうと松明を握れば、たちまち火が燻りました。
会話に混ざろうと隣人たちの中に入れば、いつも隣人たちを困惑させました。
だから、彼女は1人でいなければなりませんでした。
それでも丘の住人たちは孤立した彼女を憐れみ、手を引いて調和の中に引き戻そうとします。
でも、それに従った結果はいつも同じでした。
いつしか彼女は、手を引かれる事を拒むようになりました。
そうしても『孤立した存在がある』という事実が丘の住人たちを苛み、調和を乱してしまいました。
彼女と世界の間には、越えがたい隔絶が横たわっていました。
そんな彼女には、双子の妹がいました。
:08/11/03 19:46 :P903i :LUmIhgZI
#256 [No.017(2/2)◆vzApYZDoz6]
世界に受容されない彼女に対し、妹は世界に寵愛されていました。
彼女は妹を介してでしか調和を手にすることができません。
土を掘った桶に妹が触れれば、土はたちまち水へと変わりました。
燻り煙が立つ松明を妹が握れば、みるみるうちに立派な火が灯りました。
妹が彼女の手を引いて隣人たちの中に入れば、そこには笑顔が溢れました。
情深く慈愛に満ちた人格の妹は、関わる全ての人々に幸福をもたらしました。
彼女も妹が側にいるとき、あるいは妹の呼び掛けに手を振るときなどは、気持ちが多く満たされていました。
いつしか彼女は、妹を欲し妹と共にありたいと強く望むようになりました。
それに連なり、彼女が妹の側にいる時間は長くなっていきました。
しかし、美しく平和な世において、彼女が正常者になることを、世界は拒みました。
世界が拒んだその瞬間、天に雷雲が立ち込めます。
雷鳴が轟き、彼女の側にいた妹は稲妻と共に雷に打たれました。
物言わぬ姿となった妹を見た他の住人たちは、とうとう耐えきれず、調和を乱す彼女を罵ります。
彼女は住人たちを拒みました。
住人たちの罵詈雑言に、耳を抑えて悲鳴を上げました。
その瞬間、再び雷鳴が轟き、雷が次々と住人たちを打ち付けていきました。
彼女は妹の亡骸を抱え、一晩中悲哀に暮れました。
いつの間にか眠ってしまった彼女が目を覚ますと、妹はおらず、さらには物言えず耳も聞こえなくなっていました。
代わりに調和を手に入れた事に彼女が気付くのは、彼女が永遠の孤独を認識する直後の事でした。
:08/11/03 19:47 :P903i :LUmIhgZI
#257 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:48 :P903i :LUmIhgZI
#258 [No.018◆vzApYZDoz6]
荒れ果てた大地で、男は限界に刻一刻と近づいていた。
敵は予想外に多い。だが、彼はそれでいいと思っていた。
でなければ自分がここにいる意味がない。
「でも…倒れる訳にはいかない…!」
殿軍とは厳しいものだ。
多勢を相手にしなければならず、決して帰還は許されない。
褒め称えるものがいたとしても、それを見るのは叶わない。
だが、それでもいいと思っていた。
少なくとも仲間を守るための覚悟は背負ってきた。
そしてそれは、彼だけではなかった。
「よう、ボロボロじゃねーか兄さん」
「!?」
:08/11/03 19:50 :P903i :LUmIhgZI
#259 [No.018◆vzApYZDoz6]
目の前に現れたのは、同じ覚悟を背負った者。
己の命と等しく大切な戦友だった。
「お前ら……何しに?」
「何しにってそりゃー、てめーを助けに来たに決まってんだろ」
「さてと。後は私たちがやるけど…どうする?」
「ま、無理はしねー方がいいんじゃねーの?」
「……ふん。これぐらい…どうってことないさ!」
体に力が湧いてくる。
背負ったものが、少しだけ軽くなった気がした。
「そんじゃー、いっちょ暴れてやりますか!」
「2人とも気をつけてね」
「ああ。…生きて帰って、酒でも飲もうぜ!」
頷きあい、3方に別れて敵の元へ駆け出す。
勝ちは見えない殿戦闘。それでも3人は戦った。
例え彼らの望みが叶わなくとも、同じ覚悟を背負っている仲間がいるから。
:08/11/03 19:50 :P903i :LUmIhgZI
#260 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:55 :P903i :LUmIhgZI
#261 [No.019◆vzApYZDoz6]
「うーん……」
「どうしたの女将?」
「僕はなんで女将をやってるんだろう、って思って」
「そりゃあ女顔だからでしょ?」
「いや僕男だよ?女将って女性がやるものじゃないのかなぁ…」
「まぁ先代の女将が病気で引退したはいいけど、代わりがいなかったもんねぇ。あなた次男だしいいんじゃない?」
「いや次男だからといって女将になる必要はない気がするんだけど…」
「気にしないの。さ、お仕事、お仕事っと」
「はぁ…もしかしてずっと女将続けなくちゃいけないのかなぁ…せめて声がもっと低ければ断る理由も──」
「すみません、予約してた鈴木です」
「──はいはい、ありがとうございます。鈴木様ですね、あちらのお部屋ですよ!ご案内致しますね〜」
「……何だかんだでやっぱりサマになってるじゃない。さ、お仕事、お仕事っと」
「……はぁ…僕、本当にこれでいいのかなぁ…」
:08/11/03 19:56 :P903i :LUmIhgZI
#262 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:59 :P903i :LUmIhgZI
#263 [No.020(1/2)◆vzApYZDoz6]
「125、126、127・8・9…130!」
先程から数えているのは、倒した敵の数だった。
倒しても倒しても湧いてくる敵を前に、途中から数を数えて今のでちょうど130人目。
実際はもっと倒しているはずだ。
近くの敵を粗方倒したところで、仲間と背中合わせになった。
「オメー何人やった?」
「さぁ…いちいち数えていない」
「なんだ、つまんねーの」
言いながら、向かってくる敵に銃口を向ける。131人目。
それにしても数が多い。2人合わせて300人以上は倒してる筈だが、一向に減る気配がない。
敵の銃弾はほとんど当たらないが、さすがに集中力は続かない。
こちらの銃は弾装無限のコスモガンだから、弾切れはありえない。
しかし敵は一個大隊なので、向こうのネタ切れもありえない。
敵が弾を撃ち尽くすまでに、こちらの集中力が切れて撃ち殺されることも否めない。
なんとかする必要がある。
:08/11/03 20:01 :P903i :LUmIhgZI
#264 [No.020(2/2)◆vzApYZDoz6]
「オメー何か考えろよ。このままじゃちょっとキツいぜ?」
「君が裸になればいいじゃないか。口調は男でも性別は女だしね」
「んなこと言ってるとオメーを先にブチ殺すぞ!!……チッ、湧いてくるんじゃねーよ!」
次から次へと襲いかかる敵を前に、軽口を叩く仲間を相手にする暇もない。
寄ってくる相手から順に撃ち落とす。135人目。
だが依然として数が減る気配はない。
こうやって確実に倒していくしか方法はないだろう。
135人目が地に臥したのを合図に、軽口な男も銃を構える。
「じゃ、そっちは頼んだよ。いつでも服を脱いでくれ」
「うるせー、大きなお世話だこのド変態が!」
それを口火に、群がる敵の中へ轟音とともに駆け出した。
:08/11/03 20:02 :P903i :LUmIhgZI
#265 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:04 :P903i :LUmIhgZI
#266 [No.021◆vzApYZDoz6]
日もどっぷり浸かった放課後の音楽室。
茜色の夕陽が射し込む部屋の片隅で、フルートを奏でる少女がいた。
軽やかでいて心に響く音色に誘われた1人の青年が、窓からその少女を眺めている。
演奏が終わると、青年は手を叩いて喜んだ。
「すげーすげー、感動しちゃったよ俺」
「ありがとう。…あなたは?」
「ああ、俺? これだよこれ」
そう言って青年は、おもむろに懐から1枚の布切れを取り出した。
否、布切れではない。淡いピンク色で、レースの装飾がついている。
「体育館のロッカー室でこれ盗ってきた帰りにフルートの音色が聞こえてさー、来てみたr」
「キャー!! 下着泥棒よ、誰かー!!」
:08/11/03 20:05 :P903i :LUmIhgZI
#267 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:07 :P903i :LUmIhgZI
#268 [No.022(1/2)◆vzApYZDoz6]
「隊長、敵襲です! 敵の数は1体、夜目の使いすぎによる疲労感が蓄積された充血眼です!」
『よし、疲れ目対応式ビタミン配合目薬を使うぞ。兵隊はリフトの用意、戦車隊は発射口の蓋を外す準備に取りかかれ! 機動隊は対象の瞼とまつ毛の固定だ! 総員、直ちに行動開始!』
「了解!」
「こちら機動隊、大変です隊長! 敵はドライアイも併発しているらしく、まばたきが多すぎて瞼を固定できません!」
『何だと!? 仕方ない、手が空いた隊員をいくらかそちらへ送る! 固定は目薬発射の瞬間だけでいい、俺が合図を出したら全力で固定にかかれ!』
「了解!」
「隊長! こちら兵隊、リフトの準備完了しました!」
「こちら戦車隊、蓋の取り外し完了しました!」
『よし、戦車隊は照準の補正に取りかかれ! 兵隊は5名で発射台の固定、それ以外は直ちに機動隊の援護に向かえ!』
「了解!」
「こちら機動隊! 照準補正完了しました! いつでも発射できます!」
『よし、発射準備! 機動隊総員、瞼の固定に取りかかれ!』
「了解!」
:08/11/03 20:08 :P903i :LUmIhgZI
#269 [No.022(2/2)◆vzApYZDoz6]
「固定完了しました!」
『よくやった。戦車隊、目薬発射!』
「発射!!」
びちゃっ
『バカ、量が多すぎる…まぁいい! 機動隊、瞼の固定を解除! 目の周りを拭われる前に直ちにその場から待避だ! 総員、待避せよ!』
「了解!」
「総員、待避ー!!」
「隊長! 総員待避完了しました! 欠員ありません!」
『よし、よくやった。戦車隊は目薬の格納だ』
「あっ…申し訳ありません隊長!」
『どうした!?』
「蓋を現場に忘れてきてしまいました!」
『馬鹿野郎ー!!』
完…?
:08/11/03 20:09 :P903i :LUmIhgZI
#270 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:10 :P903i :LUmIhgZI
#271 [No.023◆vzApYZDoz6]
「ないてるの?」
「……ちがうもん」
「ねぇ、あるいてもあるいてもおつきさまのいちがかわらないのって、なぜかしってる」
「えっ?」
「きみがさみしくないように、だって」
「……さみしくなんかないもん」
「そうだね、きみにはかえるおうちがある。おかあさんがさみしいよ」
「……うん。じゃあかえるね。ばいばい、くまさん」
「うん、ばいばい」
:08/11/03 20:11 :P903i :LUmIhgZI
#272 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:13 :P903i :LUmIhgZI
#273 [No.024◆vzApYZDoz6]
「おーっし、揃ったな。点呼!!」
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「欠員なし! お前ら、準備はいいか!」
「はいっ!」
「よし、行くぞ野郎共!!」
「おおー!!」
「え、サッカーは11人いないと参加できませんよ」
「なにー!?」
完…?
:08/11/03 20:14 :P903i :LUmIhgZI
#274 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:15 :P903i :LUmIhgZI
#275 [No.025、026、031(1/3)◆vzApYZDoz6]
かつて無力だった人間は、神に祈り力を求めた。
そして神は望むように力を与えた。
しかし、人間はその与えられた力で争いを始めた。
「……出てこい、そこにいる者」
そしてまた今日も、新たな争いが始まろうとしている。
「よく分かったな」
「その手に握られた木刀、見紛うわけがない。『猛虎』画竜点睛、手合わせ願う」
「その呼び名いつも思うけど虎か竜どっちかにしろよ。俺?俄然タイガースwww」
「うるさい! 一瞬で息の根を止めてやる!!」
「やってみな。最強のケチャップ使いの実力、思い知らせてやるよ」
互いに、未開封のケチャップを懐から取り出した。
素早く封を開ける。
「ちゃんと内ブタも剥がさねぇとな」
「遅いッ!! 死神の大釜と言われた実力見せてやる!」
内ブタを剥がしている猛虎なんちゃらさんに死神の大釜が詰め寄る。
「必殺・ケチャップキーック!」
大釜さんの右足がドゴオォォ!とかいうなんか凄い音を立て画竜さんの腹に突き刺さった
いや大釜使えよ大釜
つうかケチャップはどうした!
:08/11/03 20:16 :P903i :LUmIhgZI
#276 [No.025、026、031(2/3)◆vzApYZDoz6]
「おぅふ!!」
崩れ落ちる画竜さん、勝利を確信し笑う大釜さん。
「口ほどにもない…最強のケチャップ使いが聞いて呆れる」
しかし画竜さんは、何事もなかったかのように起き上がった。
「うっそぴょーんwwwwwwww」
「なっ…!?」
「どうした? 夏休みの宿題を7月中に終わらせて9月1日に意気揚々と宿題を提出しようとしたら1教科まるまるやり忘れてる事に気付いた時みたいな顔して」
「うるさい! だがなぜ? 今のケリを食らって立てるはずが…」
「落ち着けよ。自分の足見てみな」
言われるがままに足を見ると、ケチャップがたっぷりと付着していた。
「ケチャップを壁にした。ただそれだけ」
「ケチャップが…服に…貴様アァァ!! よくもこの私の服を汚したn」
「まぁこんなくだらない話にレス数使ってられないしお前死刑でいい? よし分かった」
「待て! まだ何も言ってn」
「奥義・ハイドロケチャップ!!」
思い切りケチャップのボトルを握りしめた。
フタが飛び、大量のケチャップが吹き出す。
大釜さんはケチャップまみれになって死んだ。ケチャップ(笑)
:08/11/03 20:17 :P903i :LUmIhgZI
#277 [No.025、026、031(3/3)◆vzApYZDoz6]
こうして争いは幕を閉じた。
「姉さん!? 姉さん!!」
だが、争いは新たな争いを呼ぶ。
「あっ、おっぱいでかい可愛い子が。そして舌を出している!」
「ケチャップまみれで死んでる…あなた、姉さんに何をしたの!?」
「律儀にやるなぁ。まぁ安心しな、すぐにお姉さんのところへ行かせてやろう」
「許しません…あの世で姉さんに詫びなさい!」
「姉さんよりかは言葉遣いはいいな」
互いにケチャップの封を開ける。
だが互いに動かず、静寂が訪れた。
「……そろそろ帰っていい?」
先に静寂を破ったのは画竜さんだった。
手慣れたように間合いを詰める。
「くっ…!」
大釜さんの妹もケチャップで牽制する。
「うめぇ」
だが画竜さんはケチャップを食べていた。
「そんな…」
:08/11/03 20:21 :P903i :LUmIhgZI
#278 [No.025、026、031(4/3)◆vzApYZDoz6]
「よし、もう2つ以上の意味で面倒だし殺しちゃうぜ!」
画竜さんが一瞬で間合いを詰める。
「秘奥義・木刀ケチャップ!!」
ケチャップが塗りたくられた木刀が振り下ろされ、大釜さんの妹は絶命した。
こうして、争いは幕を閉じた。
「ケチャップうめぇwwww」
最強のケチャップ使い、画画竜さん。
後の弁慶である。
:08/11/03 20:22 :P903i :LUmIhgZI
#279 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:24 :P903i :LUmIhgZI
#280 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:25 :P903i :LUmIhgZI
#281 [No.027、036(1/3)◆vzApYZDoz6]
俺はここのところ毎日、放課後になると理科室に足を運ぶ。
今日も回転椅子に座って、片付け忘れられた試験管に入ったよく分からない液体を、ただただぼんやりと眺めている。
特に目的も意味もない。
人気のない旧校舎の端にある、薬品臭の漂うこの部屋が、何となく落ち着くだけ。
「まーた来てる、この子ったら。いつも私の椅子に座るんだから」
というのは建前で、本当は試験管ごしに俺を覗きこむ科学担当の美人教師に会うためだったりする。
別に好きだとかそんな訳じゃない。
学校嫌いな俺が話していて唯一落ち着くのが、この先生だからだ。
「別にいいだろ。それより何これ、ピンク色だけど」
「アンモニアとフェノールフタレインを混ぜた溶液よ。小学校でやらなかった?」
先生は答えながら近くの実験机からパイプ椅子を引っ張ってきて、俺の隣に腰掛けた。
「さぁ……どうだったかな」
「そんなことより。あなた、今日体育サボってたでしょ? ダメよ、遊んでないでちゃんと授業出なきゃ」
「んー……」
ほら、と先生が俺の手から試験管を取り上げた。
手持ちぶさたになった右手を腹の上に乗せて、今度は天井を眺めた。
先生は試験管立てに試験管を差して、奥の給湯室に向かった。
「今日はコーヒーか紅茶、どっちにする?」
「……コーヒー」
:08/11/03 20:27 :P903i :LUmIhgZI
#282 [No.027、036(1/3)◆vzApYZDoz6]
俺が答えると、返事の代わりに陶器のカップの音がカチャカチャと聞こえてきた。
やがて先生が2人分のコーヒーをお盆に乗せてやって来る。
「はい、コーヒー。確かシロップとミルクは無し、砂糖が1つだったわね」
「サンキュ」
角砂糖を1つ溶かし、カップを口へ運ぶ。
先生がいつも淹れてくれるコーヒーも、俺が理科室に足を運ぶ理由の1つかもしれない。
ちょうどいい苦味が心を落ち着かせてくれる、そんな気がした。
「あなた最近元気ないわね」
先生がコーヒーにミルクを混ぜながら聞いた。
%8
:08/11/03 20:29 :P903i :LUmIhgZI
#283 [No.027、036(2/4)◆vzApYZDoz6]
俺が答えると、返事の代わりに陶器のカップの音がカチャカチャと聞こえてきた。
やがて先生が2人分のコーヒーをお盆に乗せてやって来る。
「はい、コーヒー。確かシロップとミルクは無し、砂糖が1つだったわね」
「サンキュ」
角砂糖を1つ溶かし、カップを口へ運ぶ。
先生がいつも淹れてくれるコーヒーも、俺が理科室に足を運ぶ理由の1つかもしれない。
ちょうどいい苦味が心を落ち着かせてくれる、そんな気がした。
「あなた最近元気ないわね」
先生がコーヒーにミルクを混ぜながら聞いた。
「うーん…」
「授業もサボりがちみたいだし。学校は楽しくない?」
「……どうなんだろ」
つまらない訳じゃない。
友達もそれなりにいるし、放課後の理科室も好きだ。
けど、何か物足りないというか、満たされる事がない。
やりたいことがあるわけでもない。
何もしていないのに疲れていくような感覚がある。
心から楽しいかと言われると、たぶん楽しくない。
:08/11/03 20:30 :P903i :LUmIhgZI
#284 [No.027、036(3/4)◆vzApYZDoz6]
「やっぱりアレね、女よ女。彼女作っちゃいなさい」
「いいよ、彼女なんて。めんどくさいし」
「いい若者が何言ってるの。あなた黙ってればそれなりにカッコいいんだから、彼女ぐらいすぐできるわよ」
「どういう意味だよ…」
「そのままよ。あなたのお守りも楽じゃないんだから」
「…そういう事ね」
コーヒーを一気に飲み干し、カップを置く。
少しだけ口に苦味が残っていた。
彼女ができたところで、俺の気分は晴れないと思う。
曇りの原因は分からないけど、そんな気がする。
「ご馳走さま」
「おかわりはいい?」
「うん」
俺はまた天井を仰いで、目を閉じた。
やっぱり、ここが一番落ち着く。
いつもボーッとしてるか先生と世間話をしてるだけだけれど、それだけで気分が良くなった。
ふと目を開けると、先生がかなり間近で俺を覗きこんでいた。
:08/11/03 20:31 :P903i :LUmIhgZI
#285 [No.027、036(4/4)◆vzApYZDoz6]
「…顔が近いよ、顔が」
「寝られでもしたら困るからね。ドキドキした?」
ふふっ、と笑いながら、カップとお盆を片付けに再び給湯室に向かっていった。
それを目で追っていると壁の時計が視界に入った。
すでに午後5時半を回っている。
俺は少ない荷物を持って立ち上がる。
ちょうど給湯室から先生が出てきた。
「んじゃ、帰るわ」
「うん、おつかれさま。気をつけてね」
そのまま踵を返し、ドアに向かう。
ドアノブに手をかけたところで、また呼び止められた。
「明日の放課後もちゃんと来なさいよ」
見ると、先生がひらひらと手を振っていた。
「……気が向いたらね」
帰り道、理科室の方に目をやると、俺が座っていた回転椅子に先生が座っているのが見えた。
たぶん、明日の放課後も俺はあの椅子に座っているのだろう。
俺は少しだけ笑って、自転車を漕ぎだした。
:08/11/03 20:32 :P903i :LUmIhgZI
#286 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:35 :P903i :LUmIhgZI
#287 [No.028◆vzApYZDoz6]
現代とはまた異なる世界。そこには、半獣と呼ばれる人達が暮らしていました。
ライオンの半獣ライとウサギの半獣ビイは仲良しです。
「ね、ライ。肩車して」
「肩車好きだな、ビイは。ほら」
「わぁ、高い高い!」
無邪気に喜ぶビイを、ライは微笑ましく眺めています。
そこへ、どこからか小鳥がやってきました。
鳥たちは楽しげに囀り、ビイの回りを飛び回ります。
「やっぱりライに肩車してもらうと楽しいね」
「そうか。それならいつでもしてあげるよ」
「やったぁ!」
ビイは喜び、鳥たちと一緒に口ずさみました。
ライは嬉しそうにそれを眺めていました。
:08/11/03 20:37 :P903i :LUmIhgZI
#288 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:39 :P903i :LUmIhgZI
#289 [No.029◆vzApYZDoz6]
(うおー! 待ちに待った初デート! どうしよう何喋っていいか分からないぞ…何の話題がいいんだろう? 趣味とか? いやそれじゃありきたりすぎるよな…いや、こうしてる間にも時間は過ぎていくんだ、何としても彼女が飽きないようにしなければ! 何を喋れば…いや、ここはひとまず行動だな…よし!)
(キャー! まさか彼から誘ってもらえるなんて…どうしよう緊張して何すればいいのか分からない…うわっ、いつの間にか変な歩き方してた! 恥ずかしー…彼は見てないっぽい、かな…どうしよう何か変な間ができちゃった、あたしのせい? あたしのせいよね? 謝った方がいいのかな、いやでもいきなり謝るのも何か変だし、でも何か変な空気だし、せっかく誘ってくれたのに…うん、とりあえず謝ってみよう…よし!)
「「…あのっ!」」
「…え? あ、いや…どうしたの?」
「ううんあたしは別に…あなたこそ… ……?」
「? …あっ、雪だ…」
「………ふふっ」
「………あははは」
「…綺麗ねー…」
「そうだね」
「…あの、今日は誘ってくれてありがとう」
「いや…うん。…じゃあ、行こっか」
「……うん!」
完…?
:08/11/03 20:39 :P903i :LUmIhgZI
#290 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:41 :P903i :LUmIhgZI
#291 [No.030◆vzApYZDoz6]
サンタクロース。
クリスマスの前夜に、子供たちへ夢と笑顔を運んでくるお爺さん。
出身地はデンマーク領のグリーンランド。
現在、公認サンタクロースは129人いて、クリスマスイブの夜にトナカイが引くソリに乗って子供たちにプレゼントを配る。
恰幅のよい体型に真っ白でふくよかな口髭、赤と白のサンタ服に身を纏った、夢と希望の象徴だ。
「──っていうのがサンタクロースだと思ってたんだけどな、俺は」
「ハン、そんなもん人間が作り出した偶像じゃろが。実際は赤いブーツと白い口髭以外自由じゃわい」
「口が悪いサンタだな…」
「知っとるか? サンタは良い子にはプレゼントを配るが、悪い子には豚の内臓を配るんじゃよ」
「やめてくれ、気分が悪くなる」
12月24日深夜、イギリスはマンチェスター郊外の小さな酒屋、その裏手。
俺は『本物の』サンタクロースに弟子入りした。
その修行として、今からヨーロッパ地区の子供たちにプレゼントを配るところだ。
:08/11/03 20:42 :P903i :LUmIhgZI
#292 [No.030(2/3)◆vzApYZDoz6]
「0時ちょうどから始めて、5時までには終わらせなきゃいかん。チンタラしとる暇はないぞ」
小さな酒樽の上であぐらをかき、三つ編みの白い口髭をいじっているこのジジイが、本物のサンタクロースらしい。
「移動手段はこのバイクじゃ。ワシの力で排気音は聞こえんし、姿も見えないようにしておる。空も飛べるわい」
「リアリティーがあるのかないのかハッキリしろよ」
「空飛ぶバイクもファンタスティックじゃろ?」
「ファンタスティックの使い方間違えてるだろ…」
気にしたら負けじゃ、とジジイは高らかに笑った。
「今年はヨーロッパをお前さんに任せる。ヨーロッパと言っても、地中海周辺の国も入るから結構広い。回り方を確認するぞい」
ジジイはそう言って、懐から地図を取り出した。
ヨーロッパとその周辺の世界地図だ。
ジジイは言葉に合わせて地図をペンでなぞりながら説明した。
「まずはロンドン経由でフランス北部を迂回し、ベルギーじゃ。
そこからドイツとその周辺を時計回りに回ってスイスからフランス南部へ、今度は地中海沿岸の国を左回りじゃ。ポルトガルを忘れるなよ。
トルコまで来たら黒海を左回りでギリシャまで向かい、海を渡ってイタリアへ。
イタリアを北に抜けたらあとは内陸じゃ。回り方は自由じゃからな。
終わったらモスクワに入って、フィンランドからノルウェーまで経由、そこからアイスランドへ飛んで、最後にアイルランドとイギリス北部を回っておしまいじゃ。
分かったか?」
:08/11/03 20:43 :P903i :LUmIhgZI
#293 [No.030(3/3)◆vzApYZDoz6]
「ちゃんと覚えてるよ」
「ならいい。さぁ、そろそろ0時じゃ、バイクに乗れ」
ジジイが地図をしまいながら、傍らにあるバイクのサドルをポンポンと叩いた。
俺はプレゼントの入った袋を担ぎ上げ、促されるままにバイクに乗り、エンジンをかける。
エンジンはかかったが、驚いた事に排気音はしない。ジジイが言ってたやつだろう。
たぶん、姿も見えていないはずだ。空の飛び方は分からないが何とかなるだろう。
「ワシは他を回らんといかんからついていかんぞ。まぁせいぜい頑張れや」
腕時計で時間を確認し、秒読みを開始する。
23時59分54秒。…5、4、3、2、1──
「──じゃあ、行ってくる!」
「失敗するんじゃないぞ」
0と同時に地面を蹴り、スロットルを回す。
ほとんど間もなく、車輪が地面から離れて車体が浮き上がった。
続いて急激な加速上昇。
こちらを見上げて手を振るジジイに続き、眼下に広がる郊外の街も、みるみる小さくなっていく。
「最初はロンドン経由でフランス北部、だったな」
頭の中で地図を確認し、後ろに目をやる。
プレゼントが詰め込まれた袋についているワッペンが、ニヤニヤといやらしくこちらを見ていた。
これはジジイの趣味らしい。
「ヘマなんかするかよ。さて、と…行くか!」
高度が十分上がったところで、スロットルを回した。
今夜の俺は、サンタクロースだ。
俺が乗ったバイクは、イギリスの上空を静かに駆け抜けていった。
:08/11/03 20:44 :P903i :LUmIhgZI
#294 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:48 :P903i :LUmIhgZI
#295 [No.032(1/2)◆vzApYZDoz6]
「兄ちゃん、ミルクちょうだい」
「瓶1本だね。200セントだよ」
「え、高くない? もうちょっとまけてよ」
「そんな事言われてもねぇ…じゃあ10セントだけなら」
「んなもん消費税にすらならないじゃん! 200セントまけてよ」
「それじゃタダじゃないか…どこの子か知らないけど困ったねぇ」
:08/11/03 20:49 :P903i :LUmIhgZI
#296 [No.032(2/2)◆vzApYZDoz6]
「アメあげるからさ。お願い、母ちゃんに安く買ってこいって言われてるんだよ!」
「すごい母ちゃんだな…仕方ない、じゃあ20セントおまけだ。これ以上は無理だよ」
「実は150セントしか持ってなくて…」
「絶対にそれが理由でしょ。……仕方ない、今回は150セントにしてあげるけど、次からはちゃんと持ってくるんだよ?」
「やりー! 150セントって言ったね!?」
ちゃりちゃりーん
「って200セントあるじゃん!」
「言ったんだから150セントで売ってよ」
「まったく仕方ないな。ほら、売ってあげるよ」
「へへへ、母ちゃん喜ぶぞー。じゃあね、兄ちゃん!」
「次からはちゃんと買うんだぞー!」
「分かってるってー!」
「……ふー、行っちゃったか。…お釣りを渡さなかった事には気付かれなかったな。大人を騙そうなんて20年早いぜ少年!」
完…?
:08/11/03 20:50 :P903i :LUmIhgZI
#297 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:51 :P903i :LUmIhgZI
#298 [No.033◆vzApYZDoz6]
今日も1人の夜がやって来る。
窓から見える月を眺めながら、今日も想う。
あなたはどんな未来を見るのだろうか。
私はどんな未来を見ていたのだろうか。
その未来はもう叶わない。
あなたはどんな未来を望んでいたの?
あなたはどんな未来を築こうとしたの?
「……ねぇ、あなたの──」
私が共に歩むのは駄目だったの?
あなたの未来はそこにしか無かったの?
絶対に、私はあなたの隣を歩けないの?
1人の夜は、もう嫌だから。
「──後を追ってもいいかな?」
:08/11/03 20:52 :P903i :LUmIhgZI
#299 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:53 :P903i :LUmIhgZI
#300 [No.034、039◆vzApYZDoz6]
蝉の鳴き声をBGMに、真っ白な砂浜。
キラキラと光る方に目をやると、そこには波打つガラス。
空にはやたらめったらもこもこした積乱雲。なんか青雲のCMに出てきそうな。
「そう、海!」
「海だな」
「感動が薄いですよ、ワトソン君!」
「それは忝ない、何に感動すればいいか教えてくれんかね」
「だから海に!」
「うん、コンクリ抱えてダイブはきっと気持ちいいぜ姐さんよ」
「いえなんでもありませんアニキ! でもすごいねー、こんなところに海があったなんて」
「いや、でも車停めて見るほどか…?」
「これだから男は…この綺麗な海を堪能しようとは思わないの?」
「水着すら無いのに海で何するんだよ…」
「だから感d「よし帰ろう」
:08/11/03 20:54 :P903i :LUmIhgZI
#301 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:56 :P903i :LUmIhgZI
#302 [No.035◆vzApYZDoz6]
「イタズラとは違うのよ」
そう彼女は言って、今できあがったばかりのたこ焼きを口に運んだ。
ハフハフと口の中でたこ焼きを転がし、ちょうどいい熱さまで冷ましてから口を動かす。
「その気になればあんただってすぐに消せるわ。こんな見た目じゃ分からないでしょうけど」
それを言うなら俺だってそうだ。いやむしろ俺のが強いに決まってる。
だが、可哀想なので口には出さなかった。
かわりに俺もたこ焼きに爪楊枝を突き刺す。
以外と硬い、見た目より肉厚なようだ。
「狐っていう動物は古今東西様々な場面で出てきた。私は特に日本でね」
彼女は頬張っていたものを早々と燕下し、すぐに次のたこ焼きを口に入れる。
狐は猫舌ではないらしい。
「今回は、その連中が全員一堂に会するの」
全員ってことは多少、いや、多くの取材がいりそうだ。
彼女が3つめのたこ焼きに手をつけたので、つられて俺も2つめに口を運んだ。
残るたこ焼きはあと1つ。
「まぁ、メインは私になるんだけど、それもあなた次第ね。……そろそろ時間だ、じゃあ」
俺次第だと空気になってしまいそうな気がするが。
去っていく彼女を見送りながら、最後のたこ焼きを頬張った。
:08/11/03 20:57 :P903i :LUmIhgZI
#303 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:59 :P903i :LUmIhgZI
#304 [No.037(1/2)◆vzApYZDoz6]
子供の頃、何度も同じ夢を見た。
自分と同じくらいの女の子と遊ぶ夢。
知らない公園の砂場で、知らない家の庭で、知らないデパートの屋上で。
夢の中での彼女との遊びは、いつも楽しかった。
しかし、小学校に入って間もない頃を境に、ピタリと見なくなってしまった。
そしていつしかそんな夢を見ていた事も忘れ、何事もなく学生時代を送っていた。
ところが、高2になった最近に、またその夢を毎晩見るようになった。
夢の中の彼女はすっかり成長していた。
おっとりした仕草やセミロングの髪型は変わらないが、背丈も伸びてるし胸も膨らんでいる。
遊びの内容も追いかけっこやままごとなんかから、カラオケだったり買い物に行ったりと大人になっていた。
それを不思議に思いながらも少し楽しんでいたある日、父が転勤する事になった。
「さ、とうとうこの町ともお別れねー。しっかり目に焼き付けておきましょうか…」
「ああ…」
母さんと庭に立って、住み慣れた町並みに別れを告げる。
別に特別何かあるわけでもない、何の変哲もない住宅街だが、やはり自分が生まれ育った町にサヨナラするのは感慨深いものがあった。
:08/11/03 21:00 :P903i :LUmIhgZI
#305 [No.037(2/2)◆vzApYZDoz6]
こうして俺は片田舎から、都心部郊外の住宅街に引っ越した。
引っ越した住宅街は最近できたらしい。
ニュータウンとでも言うのだろうか、できたばかりの家やマンションが数多く建ち並んでいた。
新しい家は思ったよりデカイ。母さんの話では一人部屋を貰えるらしいので楽しみだ。
とりあえず必要最低限の荷物を運び込んでから、近所の挨拶回りをすることにした。
向かって左隣の家から始めて、最後の家、つまりぐるっと回って右隣の家まできた。
インターホンを押して、挨拶に来た旨を伝えると、俺のお隣さんになる人が出てきた。
「はーい、こんにちh」
「どうも、新しく越しt」
「「!!??」」
なんという事だろうか。
間違いない。
出てきたのは、夢で何度も見た彼女だった。
「マジかよ…」
「うそ…」
驚いて2人同時に呟く。
「ああああの、今日からよろしくおおおお願いします!!」
「こここちらこそ、よよよろしくね!!」
そして2人同時にカミカミのご挨拶。
互いに顔を見合わせて、また2人同時に小さく笑った。
やっべー、現物超カワイイ。
俺の人生始まったわ。
:08/11/03 21:11 :P903i :LUmIhgZI
#306 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:13 :P903i :LUmIhgZI
#307 [No.038(1/2)◆vzApYZDoz6]
夕刻の河川敷。
陽は地平線の向こうにどっぷりと浸かり、空は既に青黒くなっている。
つい先程までは橙色を反射し幻想的に光っていた川の水面は、不安感と焦燥感を掻き立てるような夜独特の深く暗い波を漂わせていた。
そんな川を傍目に、1人の少女とその後ろに隠れる少年が、異形の生物と対峙していた。
「我が言の葉を媒し言霊よ、その力を封する言弾となれ…『刺』!」
少女が手にする拳銃の銃口を下唇に当てる。
横笛を吹くかのようにふっと息を吐きかけると、銃口が鈍い光に覆われた。
すかさず銃を構え、引き鉄を引く。
撃ち出された光る銃弾は槍の先端へと姿を変えて、異形の生物の腹あたりに突き刺さった。
「ぎゃああああ!」
「まだ生きているか…言弾となれ、『斬』!」
再び息を吹きかけ、引き鉄を引く。
今度は光る刃となった銃弾が、異形の生物を両断した。
:08/11/03 21:15 :P903i :LUmIhgZI
#308 [No.038(2/2)◆vzApYZDoz6]
断末魔と共に、異形の生物は跡形もなく消えていく。
少女の脇に隠れていた少年が、少女を心配げに見上げた。
「なっちゃん…」
「大丈夫。怪我はない」
少女が小さく笑って頷き、銃を懐にしまい込む。
「まずは1匹、だな」
「本当に大丈夫なの?」
「怪我はない。見ていただろう?」
「じゃなくて…もう1匹倒しちゃったんだから、これから数えきれないくらいの悪魔を倒していかなくちゃならないんだよ?」
少女は少し目を伏せ、歩き出した。
「そうしないと、君は人間に戻れないんだろう?」
「でも…」
「大丈夫。これは私が決めた事だ。必ず、君を人間に戻す」
「なっちゃん…」
「さぁ、家に帰ろう」
少女は少年の頭を優しく撫でて、帰路を歩いた。
:08/11/03 21:15 :P903i :LUmIhgZI
#309 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:21 :P903i :LUmIhgZI
#310 [No.040(1/3)◆vzApYZDoz6]
窓から見える桜の木を見下ろしながら、俺は何本目かも分からない煙草に火を付けた。
煙は吸わない。いや、吸う気にならない。
なら火をつけなければいいだろうと言われそうだが、長年吸ってきたせいで、煙草がないと口が落ち着かない。
「ははっ」
俺は自嘲気味に笑った。
禁煙である病室でも口にする程に依存した煙草が原因で、死を免れぬ病気になってしまうとは。
運命とは皮肉なものだ。
唯一の救いは、今年で5歳になる娘が毎日のように病室に来てくれる事。
いや、母親は事故で死に、父親も自業自得の病に冒され後を追おうとしている。
娘にとっては救いでも何でもないだろう。
本当に馬鹿で間抜けな父親だ。
口に加えた煙草が吸われることなくフィルター近くまで灰になった頃に、病室のドアが開いた。
「パパー!」
開くやいなや、娘が俺のベッドに駆け寄ってくる。
俺は灰を落とさないように注意しながら煙草を灰皿に押し付け、飛び付いてくる娘を抱き止めた。
「パパ、今日も来たよー!」
「ありがとう。お前はいい子だな」
娘をベッドに座らせ、頭を撫でてやる。
娘はへへへ、と無邪気に笑った。
:08/11/03 21:22 :P903i :LUmIhgZI
#311 [No.040(2/3)◆vzApYZDoz6]
俺は娘を一瞥してから、隣の女性に頭を下げた。
「すみません、お義母さん」
「いいのよ。…少しでもこの子との時間を過ごしてちょうだい」
俺の両親はどちらも早くに亡くなっている。
他に兄弟もいないので、嫁の両親に娘を育ててもらえないかとお願いすると、泣きながらに快諾してくれた。
義母も義父も娘を大切に育ててくれるだろうし、俺の気持ちまで案じて、こうして毎日のように娘を連れて病気に来てくれる。
こんな不良上がりな父親に育てられるよりは、娘もいい子に育つだろう。
結果として、良かったと思う。
お義母さんやお義父さんには申し訳ないけど、俺の身内はほとんど死んでしまっているし、悲しむ奴もそんなにいない。
医者に宣告された余命はあと2か月。
思い残す事なんて、何もない。
そう、何もないんだ。
「パパ…?」
ハッと我に帰ると、娘が俺の膝の上で不思議そうに見上げていた。
「どうしたの?」
「……いや……」
娘の顔を見ていると、急に死が怖くなる。
もう思い残す事などないと思っていても、そう思い聞かせても、俺の脳は頑なにそれを拒絶する。
死にたくない、生きていたいと、悲痛の叫びを上げる。
:08/11/03 21:23 :P903i :LUmIhgZI
#312 [No.040(3/3)◆vzApYZDoz6]
うるせぇよ、どうせ何やっても助からないんだ。
希望なんて、持つだけ無駄なんだ。
俺は、2か月後にはこの世にいないんだよ。
「パパ? 泣いてるの?」
娘の顔がちらつくが、視界に霞んで良く見えなかった。
続いて頬を滴が伝っていく。
俺は無意識に娘を抱き締めていた。
「パパ…? どうしたの?」
横でお義母さんがすすり泣く声が聞こえる。
そうだよ。俺はまだ死にたくない、生きていたい。
そんなの当たり前だ。
でも、死ぬんだ。
2か月後には、俺の存在はこの世から消えるんだ。
この世に未練なんて残せないんだ。
「……パパ、早く元気になってね。また一緒に遊ぼうね」
娘が小さな腕で、か弱い力で抱き返してきた。
まだ小学生にもならない娘にまで気を遣わせるなんて、最悪な父親だ。
:08/11/03 21:25 :P903i :LUmIhgZI
#313 [No.040(4/3)◆vzApYZDoz6]
「…ああ…元気になったら、一緒に遊ぼう」
そうして娘の頭を撫でてやりながら、思った。
俺が未練を残そうが残すまいが、死にたがろうが生きたがろうが、2か月後には死ぬ。
俺ができることは、俺自身が死に備えることじゃない。
少しでも他の連中が悲しまないようにすることだ。
俺はもう一度、娘の頭を撫でてやった。
娘が帰った後で、俺は煙草に火をつけた。
今日何本目かも分からない、でも今日初めての煙草は、少しだけ苦かった。
:08/11/03 21:25 :P903i :LUmIhgZI
#314 [No.040(4/3)◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:31 :P903i :LUmIhgZI
#315 [No.041、046(1/3)◆vzApYZDoz6]
どこにでもあるような神社の片隅。
(*゚ー゚)「……なんだろう、これ?」
(*゚∀゚)「きっと洞窟じゃない?」
(*゚ー゚)「それは見ればわかるよ…にしてもこんな場所があっあんだねー。この鈴は…なんだろう?」
(*゚∀゚)「行ってみよ!」
(*゚ー゚)「えっ、ダメだよ…まだ稲刈り終わってないし」
(*゚∀゚)「そんなのあとでやればいいじゃん!」
:08/11/03 21:32 :P903i :LUmIhgZI
#316 [No.041、046(2/3)◆vzApYZDoz6]
(*゚∀゚)「……はい、というわけで洞窟の中!」
(;゚ー゚)「…誰に説明してるの?」
(*゚∀゚)「気にしない気にしない」
( ((( ∵)すす〜っ
(*゚∀゚)「うわっ!」
(;゚ー゚)「だ、誰ですか?」
( ∵)σ「………」
(*゚∀゚)「何、この鈴がどうかしたの?」
(*゚ー゚)「あっ、鈴にこの人の顔が…」
(*゚∀゚)「入口にあった鈴に顔…てことはあなたの家だったり?」
( ∵)「……」
(;゚ー゚)「……みたいだね」
(*゚∀゚)「それはどうも、お邪魔しました〜」
:08/11/03 21:33 :P903i :LUmIhgZI
#317 [No.041、046(3/3)◆vzApYZDoz6]
(*゚∀゚)「はい、ところ変わって再び神社の片隅!」
(;゚ー゚)「だから誰に説明してるの?」
(*゚∀゚)「気にしない気にしない」
(*゚ー゚)「でも、まさか人の家だったなんて…」
(*゚∀゚)「ていうかここって私たちの敷地じゃなかった?」
(*゚ー゚)「………」
(*゚∀゚)「………」
(;゚ー゚)「……あの人、何者なんだろう……」
(*゚∀゚)「気にしない気にしない。さぁ稲刈り再開!」
完…?
:08/11/03 21:33 :P903i :LUmIhgZI
#318 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:36 :P903i :LUmIhgZI
#319 [No.042◆vzApYZDoz6]
「原因を究明しようか」
明け方に近い深夜のファミレス。
店主とみられる男と、バイトか何かであろう少女が、店を閉めた後の静かな2人掛けのテーブルを挟んでいた。
「まずは情報を整理しよう。事が起きたのは何時頃だ?」
「午前1時過ぎだと思います…」
「確か16番テーブルだったな?」
「はい、1時前までは確かにお客様がいました…」
「そして君が少し目を離した、間にお客様が消え失せていた、と」
「はい、すみません……」
「これは誘拐か、それとも殺人か…何れにせよ数分の間にお客様を連れて消えたことになる。だが窓は破られていないし、入り口を通れば気付くはずだ…一体どうやって……」
(ただの食い逃げだと思うけどなぁ……)
:08/11/03 21:37 :P903i :LUmIhgZI
#320 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:38 :P903i :LUmIhgZI
#321 [No.043◆vzApYZDoz6]
気が付くと俺は屋根に登っていた。
辺りがやけに明るい。
見上げてみると、きれいな満月があった。
「くっ…」
月は太陽の光を反射して光っているのは有名だが、月が反射した太陽光にはブリーツ波が含まれる。
そして、満月の時だけブリーツ波が170万ゼノという数値を超えるのだ。
宇宙には大小様々な月が数多くあるが、不思議なことにどの月も満月にならないと170万ゼノを超えない。
ブリーツ波は目から吸収でき、170万ゼノ以上を吸収すると体に変化が起きる。
「左手が疼く……」
:08/11/03 21:38 :P903i :LUmIhgZI
#322 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:39 :P903i :LUmIhgZI
#323 [No.044◆vzApYZDoz6]
「喉渇いた。ねぇあんた、飲み物買ってきて」
「自分でなんとかしろよ…『へそが茶を沸かす』」
彼が言葉を発した瞬間、彼女のへそからみるみる熱いお茶が溢れでてきた。
「はい、湯飲み」
「ありがと」
「おいお前ら、すげー情報仕入れたぞ! これ聞いたら『目玉が飛び出る』ぞ!」
「ちょっと…」
今来た彼の言葉に反応し、2人の目玉が飛び出る。
「急に変なこと言わないでよ! あーびっくりした…」
「『びっくりする』って意味だからな」
「言ってる場合か!」
:08/11/03 21:40 :P903i :LUmIhgZI
#324 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:42 :P903i :LUmIhgZI
#325 [No.045◆vzApYZDoz6]
「さて、そろそろネタも尽きてきた訳だが」
「私が知るわけないでしょ。なんとかしなさいよ」
「なんかミクに似てるからそっち系でなんとかしようかと思ったけど、どーにもなー」
「銃持ってるし無理?」
「ミクはもっと髪長いしな」
「ただの逃亡の言い訳でしょ」
「屁理屈は通れば理屈になるんだよ!」
「あらこんなところに45口径が。試しに死んでみる?」
「ごめんなさい」
:08/11/03 21:42 :P903i :LUmIhgZI
#326 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:44 :P903i :LUmIhgZI
#327 [No.047、048◆vzApYZDoz6]
「来たわ」
「あら、結構カッコいい人…じゃ、行くわね」
「頑張って!」
「魔泡使いの腕を見せてあげるんだから。いっけー、モコモコクリーム!」
ボボボボボ…
「よーし、モコモコクリーム設置完了!」
「オッケー。この両刃剃刀の威力は凄いわよ! 食らえ、シェイビングスラッシュ!!」
シュババババッ
「……髭剃り、完了!」
「最後よ、パワーズリキッド!」
バッシャー
「クリーム洗浄、完了!」
「お仕事、終わりっと」
:08/11/03 21:44 :P903i :LUmIhgZI
#328 [No.047、048◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:46 :P903i :LUmIhgZI
#329 [No.049◆vzApYZDoz6]
「うーん…」
若い男が、鏡に向かって唸っていた。
顎や頬、鼻、額など、あらゆるところを手で擦っている。
そこへ、若い女がやって来た。
「どうしたの?」
「いや…肌がちょっとざらついてる気がして」
「いいんじゃないかな…男の子なんだし」
「男だって肌荒れには気を使うもんだぜ。…あっ、そうだ」
「なに?」
「顔用パック貸してくれね?」
:08/11/03 21:47 :P903i :LUmIhgZI
#330 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:48 :P903i :LUmIhgZI
#331 [No.050◆vzApYZDoz6]
気が付けば辺りはすっかり暗くなっていた。
今もやまない雨が降りだしてからどれくらい経っただろうか。
既にびしょ濡れで、重くなった服のせいで動く気力も湧かない。
だが、それでも彼は待ち続けた。
彼女と交わした約束を、果たすために。
(急病なんだろうな。きっとそうだ)
だが彼は彼女に連絡はしなかった。
:08/11/03 21:48 :P903i :LUmIhgZI
#332 [No.050◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:49 :P903i :LUmIhgZI
#333 [No.051(1/2)◆vzApYZDoz6]
D−34:Δ
本日、未確認の惑星が発見された。
惑星の大気、地質、水質等を調査した結果、良好な環境を持つ惑星だったと推察される。
また惑星の7割ほどが水に覆われており、生命が現存する可能性は極めて高い。
惑星をTE01と名付け、慎重に調査を進めていく。
D−41:γ
TE01惑星の調査の結果、これまでに確認された生命体はおよそ300種類。
だが依然として新種の生命体は発見され続けており、この数字はほんの一部に過ぎないとみられている。
高知能生命体はまだ確認されていない。
しかし、多様な文明機器が発見されている事から、高度な知能を有した生命体が存在した可能性は高い。
何らかの原因により絶滅してしまったのかもしれない。
それにしても、文明が発展していたと思われる地域ほど、大気・地質・水質ともに汚染度が高いのが気になる。
:08/11/03 21:51 :P903i :LUmIhgZI
#334 [No.051(2/2)◆vzApYZDoz6]
L−08:Σ
高い知能を持つ生命個体が発見された。
我々には理解できなかったが、どうやら言葉を話せるようだ。
同行していた宇宙語学者によると、FK38星の言語とほぼ同じとの事。
我々はすぐさま同惑星に調査団の派遣を依頼した。10日後に到着する。
その間に簡単な質問をした。
その結果、やはり高知能生命体は絶滅してしまった事が判明した。
今回発見された個体はその生き残りらしい。
彼女(性別は雌性らしい。以降はこの個体をこう呼ぶ)によると、絶滅を免れた生き残りは他にもいるようだ。
とりあえず、これらの生命体にはTE−xと名付ける。
それにしても、TE−xと我々は外見が非常に酷似しているのが気になる。
もしかすると、我々と似たような進化をたどってきたのかもしれない。
L−18:Δ
調査団が到着した。
早速、生き残り達に質疑応答をしてもらった。
結果、絶滅の要因は、TE−x同士の大規模な争いによるものらしい。
彼女は、こう言ったそうだ。
『私達は、同じ種族で争うことでしか発展できない』と。
その結果絶滅する事になろうとは、皮肉なものである。
ところで、TE−xについて気になる事がある。
私は一度故郷に帰り、太古の文献から調べてみるつもりだ。
その事を明日、隊長に報告する。
(調査手記はここで終わっている)
:08/11/03 21:52 :P903i :LUmIhgZI
#335 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:54 :P903i :LUmIhgZI
#336 [No.052◆vzApYZDoz6]
彼女は自分の運命を呪った。
今日は彼との待ち合わせがあるのに、なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか。
窓から見える雨の勢いは依然として衰えず、やむ気配すら見せない。
この降り頻る雨の中、彼はまだあの場所で待っているのだ。
彼のためにも、何としてもこの状況を打破する必要があった。
周囲には武器になりそうな物もあるが、壁の向こうにいる者と自分とでは素早さが違いすぎる。
いや、恐怖に手がすくんで武器を握ることすらままならないだろう。
幸いは、向こうは恐らくまだ自分の存在に気付いていない事。
こちら側に出口は無いので、向こうが去っていくまで息を潜めて待つしかなかった。
(あーもう! なんでドアノブにゴキブリがいるのよ!)
殺虫剤を買っておけばよかったと後悔する彼女だった。
:08/11/03 21:55 :P903i :LUmIhgZI
#337 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:56 :P903i :LUmIhgZI
#338 [No.053◆vzApYZDoz6]
俺はどれくらいの時間、こうしていただろうか。
いつまで待っても手に抱える彼女が息を吹き返すことはない。それは分かっている。
既に敵も味方もいないこんな場所でじっとしていた所で何もない。それも分かっている。
だが、立ち上がる気力が湧いてこなかった。
立ち上がり、今も戦っている仲間の元へ一刻も早く駆けつけなければならない。
頭ではそれを理解していても、最愛の女の変わり果てた姿を目の当たりにした俺の体は、言うことを聞こうとしなかった。
流れ出る涙は止まらない。
いくら流した所で意味はないというのに。
見上げると、壮大なステンドグラスが目に入った。
天使を模した女性が、色とりどりの光を透過して輝いている。
その向こうからは、地鳴りの音が響いていた。
俺は背中に生える翼に手を掛けた。
竜族の血を半分引く俺には、翼が片方だけ生えている。
両方ともに翼がある他の竜族には劣るが、翔ぶことはできる。
その翼を、渾身の力を込めて引きちぎった。
激痛に思わず声を上げたが、歯を食いしばって耐えた。
彼女を寝かせ、俺の翼を捧げる。
ステンドグラスに映る女性のように、光ある場所へ飛び立つために。
翼を無くした苦痛によがろうとする体を押さえつけて立ち上がる。
戦いの音はまだ響いている。
翼が無くても、俺はまだ戦わなければならない。
最後に彼女を一瞥し、俺は仲間の元へ駆けていった。
:08/11/03 21:57 :P903i :LUmIhgZI
#339 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:59 :P903i :LUmIhgZI
#340 [No.054◆vzApYZDoz6]
田園に囲まれた長閑かな田舎町。
陽の傾いた散歩道を、彼は歩いていた。
今までに歩いた距離は計り知れない。
だが彼が歩くのには意味も目的もなく、ただただ土地を渡るのみ。
終着点はない。
時には道端の草を眺めたり、時には野良猫と遊んで引っ掛かれたり、時には街の人と世間話を交わしたり。
流浪の旅人ではあったが、旅をする目的は特にない。
しかし楽しければいいものと、彼はそう思っていた。
今もまた、摘み取った花の蜜に誘われた蝶々を、花に止まらせまいと遊んでいる。
彼は明日も明後日も、歩き続ける。
:08/11/03 21:59 :P903i :LUmIhgZI
#341 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 22:01 :P903i :LUmIhgZI
#342 [No.055、057◆vzApYZDoz6]
彼が持つサブバッグは、未知の能力が詰まっている。
物を小さくしたり大きくしたり、違う場所へ瞬間移動したり。
天気を操るのも思いのまま。
彼は青空が好きで、雨が降るといつも青空に変えてしまった。
今日も、ほら。
サブバッグから何かを取り出して、それを空に向ける。
すると、空は爽やかな青空へ姿を変えた。
でも彼の表情は浮かばれない。どうやら悩みがあるらしい。
彼は小さく呟いた。
「どこに行ったのかなぁ、のび太くん…」
:08/11/03 22:01 :P903i :LUmIhgZI
#343 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 22:02 :P903i :LUmIhgZI
#344 [No.056◆vzApYZDoz6]
「君、俺はとうとうやったぞ!」
「あら、どうしたんですか博士?」
「見ろ! この光輝く左手を!」
「それは…! とうとう凝を使えるようになったのですね!」
「ああ。よし、早速水見式だ!」
「水見式…ですか? 博士の系統は判明しているのに一体なぜ?」
「『念のため』だよ!」
「……あっ、そう」
「………冗談だ。すまん」
:08/11/03 22:03 :P903i :LUmIhgZI
#345 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 22:04 :P903i :LUmIhgZI
#346 [◆vzApYZDoz6]
>>219-345『SSS外伝・コラボ企画だ!怒濤の超短レス編57連発inラノベ祭り』
投下終了です
時間かけすぎてすまんw
ウラル貼ってなかったり失敗したりしてるけど、後程まとめスレにまとめるときに訂正します
つうか絵師の皆様、中途半端すぎてもうごめんなさいとしか…
イラスト提供&企画参加ありがとうです
次の方ドゾー
:08/11/03 22:09 :P903i :LUmIhgZI
#347 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
空き時間を使って書き上げたので投下します
使うイラストはNo.55
タイトルは『青空』です
:08/11/03 23:54 :SH905i :☆☆☆
#348 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「今日の空は百点っ!」
私は早朝の冷たい空気で肺を満たしつつ、空を仰いだ。
bbs1.ryne.jp/d.php/illust/1144/130私はこの空が好きだ。
曇り空でも快晴でもない、この空が。
透き通るような青さの中に水でぼかしたように白く霞む朝日の色。
絶妙な青空と雲の比率。
私の中ではなかなか巡り会うことの出来ない、文句なしで百点満点の澄み切った空。
:08/11/03 23:55 :SH905i :☆☆☆
#349 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「今日は何だか良いことがありそうな気がするなぁ」
鼻歌などを鳴らしながら上機嫌な私は、たぶん周りから見たら「良いことがあったのかな」と思わせるほどの笑顔に違いない。
いや、もしかしたら本当に良いことがあったのかもしれない。
この空に出会ったこと自体が幸福なのではないか?
だとしたら私は幸せ者に違いない。
依然として鼻歌混じりに軽い足取りのまま歩く私の遥か前方に、一人の男性の姿が映る。
:08/11/03 23:56 :SH905i :☆☆☆
#350 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「あっ!もしかしてあの後ろ姿は…うん、先輩だ!」
愛しい片想いの相手を見つけ、私は駆け出す。
不思議と、やはり足は軽くて、高揚した気分からかスキップになりそうなほどの感覚に包まれる。
空が運んできた幸福だろうか。
先輩の後ろ姿が大きくなっていく。
私は躊躇うことなく先輩の肩を叩いた。
:08/11/03 23:57 :SH905i :☆☆☆
#351 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
元気よく挨拶をすると、驚いたようにこちらを振り向く大好きな顔。
途端に輝くような笑顔に変わり、私の気分をより一層高揚させた。
恐らく先輩には訳がわからないだろうが、私は何の前触れもなく突然『青空』を語り始める。
「青空と雲の比率がポイントなんですっ!」
私の元気な声が早朝の冷たい空気に溶けていった。
…何か、良いことがあったような気がする。
そう、
私はこの空が好きだ。
:08/11/03 23:59 :SH905i :☆☆☆
#352 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
>>347-351イラストNo.55
『青空』です
訳のわからない話でごめんなさい!
次の方どうぞっ
:08/11/04 00:00 :SH905i :☆☆☆
#353 [向日葵]
Y005のイラストを使わせて頂きます。
タイトル「時間のぬくもり」
:08/11/04 00:02 :SO906i :1uZDS5G2
#354 [向日葵]
:08/11/04 00:03 :SO906i :1uZDS5G2
#355 [向日葵]
ねぇ、ほんの少しでいいの。
思い出して笑ってくれれば、それだけで嬉しいわ……。
―――――――――…………
「こんの……クソ親父ぃーっ!!」
どうして!?
私にその疑問がつきまとった。
私はすぐそばにあったクッションを親父に投げつける。
親父はそんなもの痛くもかゆくもないという風に大あくびをする。そんなだから、私の憤りの炎は大きくなる。
「今日がなんの日か忘れたってどういうことよ!」
「あのなぁサキ、人っていうのはどんどん老いぼれていくんだよ。それに比例して物忘れも激しくなる。オーケー?」
:08/11/04 00:04 :SO906i :1uZDS5G2
#356 [向日葵]
ぼりぼりと散髪に行かず伸ばしっぱなしの髪の毛をかき回す。
今日は珍しく親父の仕事が休みだし、丁度いいと思った私が馬鹿だった。
とどめとばかりに、持っていた学校鞄を親父のスネめがけて当ててやる。
これは効いたのか、親父はその場に声にならない悲鳴を上げてうずくまる。
「いってきますっ!!」
力任せに玄関の戸を閉めて、アパート階段をかけ降りる。
私のお母さんは、1年前に亡くなった。
もともと心臓が悪かったお母さんだけど、ニコニコ笑っていて大好きだった。
そんなお母さんが亡くなる前に言ったお願いがある。
:08/11/04 00:04 :SO906i :1uZDS5G2
#357 [向日葵]
それを……あの馬鹿クソ親父はぁーっ!!
―――――――――…………
学校が終わって、夕食の材料を入れたスーパーの袋を持った私は帰宅した。
居間から入ってくる風に気づいて覗いてみれば、ベランダに続く戸の戸口に親父が夕日を眺めていた。
「……ただいま」
「んー……」
私に背を向けたまま、親父はそう言った。
親父は確かに面倒くさがりだし、のんびり屋だし、根性曲がってる部分だってある。
:08/11/04 00:06 :SO906i :1uZDS5G2
#358 [向日葵]
それでも、お母さんが大好きだった事は知ってる。
なのに、そんなお母さんの最期の言葉すら、たった1年という短い間に忘れてしまえるのだろうか。
それが分からないから、私は憤りと共に不安にも似た気持ちを胸中につのらせる。
「親父の……馬鹿……」
気づけば涙で頬を濡らしていた。
「どうして……?本当に分からないの?お母さんの言葉は、親父にとってそんな簡単なものだったの!?」
親父は黙っている。
その背中からは、今どんな気持ちでいるのかは分からなかった。
「……分かった。もういい」
:08/11/04 00:06 :SO906i :1uZDS5G2
#359 [向日葵]
私は自分の部屋に行こうとした。
「忘れるわけないだろう」
私は足を止める。
目を見開いて親父を見るが、さっきと体勢は変わっていなかった。
ただ、さっき見た背中よりも悲しそうに感じた。
そして私にはなった言葉も、微かに震えている気がした。
「思い出したら……失ってしまった事に耐えれないと思った。当たり前だろ……、生涯愛すると誓った相手なんだからよ……」
私は知っていた……。
お母さんが亡くなった日、泣きじゃくる私を慰める為、自分は泣くまいと頑張っていた親父を。
:08/11/04 00:07 :SO906i :1uZDS5G2
#360 [向日葵]
通夜の後、皆が寝静まってしまった頃、もう冷たいお母さんの手を握り締めて、「ありがとう」と涙ながらに呟いていたことを。
でも、お母さんは言った。
「命日には、お母さんとの思い出を笑って話してねって約束したんだからさ、悲しむんじゃなくわらおうよ。そしたらさ、お母さんだって、きっと……」
「……そうだな」
亡くなった人の思い出は、年月と共に悲しくも薄れていく。
だからせめて1年に1度は思い出そう。
大好きな人と過ごした、愛しい時間達を……。
―fin―
:08/11/04 00:08 :SO906i :1uZDS5G2
#361 [向日葵]
>>353-360「時間のぬくもり」
ご協力頂いた絵師の皆様、ありがとうございました
次の方どうぞー
:08/11/04 00:09 :SO906i :1uZDS5G2
#362 [8]
遅くなりました。
投下します(^O^)
:08/11/04 00:55 :W52SA :xpWYpMNU
#363 [8]
画像No.54
一輪の花
:08/11/04 00:56 :W52SA :xpWYpMNU
#364 [8]
昔、鎖国から解かれ文明の進歩した国のとある屋敷から始まるこの物語
「手は尽くしましたがお嬢さんはもう…」
真也は走った
病に伏せている揚羽(アゲハ)様のため崖に咲く一輪の花を摘む為に…
:08/11/04 00:57 :W52SA :xpWYpMNU
#365 [8]
時はさかのぼり、屋敷より二里ほど先の海岸
「波の音が素敵ですね、真也さん。」
『そうですね、お嬢様。』
お嬢様と呼ばれた少女を乗せた車イスを押す少年がキラキラと光る波を見ながら答えた。
:08/11/04 00:58 :W52SA :xpWYpMNU
#366 [8]
「この海の向こうにはこの国とは違う言葉、文化が栄えているのですよ。
その中に私の病を治す方法もあるかもしれないとお父様が言ってました。」
『そうなのですか?』
「ええ、今その文化、風習がこの海を渡って来て私達の国をさらに豊かにしているそうです。」
揚羽は目を輝かせながら言った。
:08/11/04 00:59 :W52SA :xpWYpMNU
#367 [8]
真也は少し息を吐き、
『私は屋敷で生まれ、ずっと使用人として生きてきたので難しい事はあまりよくわかりません。
でもこの場所にお嬢様をお連れするとお嬢様が嬉しそうになさるので私も嬉しいです。』
「フフッ、ありがとう真也さ… あっ!ここで止めてください」
:08/11/04 01:00 :W52SA :xpWYpMNU
#368 [8]
真也は崖の下で車イスを止めた。
見上げてみると数十メートルはあろうかという切り立った崖の中程には屋敷の周りには咲かない名も知らぬ一輪の花が咲いていた
海岸に散歩に出かけると二人はいつもこの場所で花を見上げるのであった。
:08/11/04 01:01 :W52SA :xpWYpMNU
#369 [8]
「素敵…」
揚羽は花を見上げながら呟いた。
『お嬢様はあの花がとてもお好きなのですね。』
「ええ。もっと近くで見てみたい。」
『ならば私が取って参ります。』
真也は胸を張りつつ言った
:08/11/04 01:02 :W52SA :xpWYpMNU
#370 [8]
「…いいえ、あの崖を登って万が一真也さんの身に何かあったら私は…
ごめんなさい、ワガママばっかりで、」
揚羽の瞳が涙の膜でうっすらと滲んでいた
『お嬢様…』
「アゲハって呼んでくれませんか?」
『え?…』
:08/11/04 01:03 :W52SA :xpWYpMNU
#371 [8]
それから数日とたたぬ内に揚羽様の容体は急変し今に至る
真也はあの花を揚羽様に届ける為、崖の僅かなくぼみに指をかけ登っていた
下は真っ暗闇で地面を見ることはできない
ただ波の音だけが闇の中に響き渡っていた。
:08/11/04 01:04 :W52SA :xpWYpMNU
#372 [8]
花まであと数メートル、
登っていくにつれ体がどんどん重くなっていく。
腕がもう吊りそうだ
だが俺は諦めない。
俺はまだ揚羽様に、いやアゲハに想いを伝えていないんだ!
例えこの身に何かあろうと花をアゲハに!!
:08/11/04 01:05 :W52SA :xpWYpMNU
#373 [8]
腕に力を込め再び登りだした真也
先程までの体の痛みは気にはならなくなっていた。
そして遂に花に手を伸ばし、真也は花を手に入れたのだ。
『やった…やったぞ!!』
歓喜にわく真也
と、その刹那!
:08/11/04 01:06 :W52SA :xpWYpMNU
#374 [8]
ガラッ…
『う、うわぁぁぁぁぁ!!』
突如手を掛けていたくぼみが崩れ、真也は闇の中に落ちていく…
この高さから落ちれば間違いなく待っているのは死、
真也はその現実に身をゆだねる事しか出来なかった。
だがその時、
真也の周りを白い光が包んだ
「シン…ヤ…サン」
:08/11/04 01:08 :W52SA :xpWYpMNU
#375 [8]
「午前1時24分…
ご臨終です…」
『そ、そんな…揚羽、
アゲハァァァァ!!』
揚羽の両親はその夜まだほのかに暖かい娘を抱きしめ泣き続けた。
:08/11/04 01:09 :W52SA :xpWYpMNU
#376 [8]
夜が明け水平線から太陽が出てきた
『ん、ここは…』
真也は崖の下に倒れていた。
『そうか、俺は崖から落ちて…しかも助かったどころか怪我ひとつしていない。
それにあの光は…』
そう考えてる時に真也は手元にある花に触れた。
『! 急がなくては!!』
:08/11/04 01:10 :W52SA :xpWYpMNU
#377 [8]
:08/11/04 01:12 :W52SA :xpWYpMNU
#378 [8]
鮮やかな極彩色の羽が今日はなぜか狂おしい程に愛しかった。
真也の瞳から流れる一筋の涙
全てを悟ったかのように、真也は道の脇に花を挿し、一言
『ありがとう』と言い屋敷へと去っていった。
「アリガトウ…シンヤサン」
:08/11/04 01:14 :W52SA :xpWYpMNU
#379 [8]
>>363-378ありがとうございました!
短編初挑戦でダメダメかもしんないけど今を出しきりました。
次の方どうぞo(*´∀`*)o
:08/11/04 01:18 :W52SA :xpWYpMNU
#380 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
こっちも久々あげ
:09/02/02 14:27 :SH905i :☆☆☆
#381 []
:09/09/04 23:14 :SH904i :nVJyS6uk
#382 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑
:22/10/04 08:39 :Android :nH.OoPsQ
#383 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/07 21:01 :Android :GR1soPvw
#384 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/07 21:02 :Android :GR1soPvw
#385 [○○&◆.x/9qDRof2]
↑(*゚∀゚*)↑
:22/10/17 22:01 :Android :We5gljpk
#386 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/17 22:02 :Android :We5gljpk
#387 [わをん◇◇]
:23/01/02 13:18 :Android :jK5SBgKM
#388 [わをん◇◇]
:23/01/02 13:19 :Android :jK5SBgKM
#389 [わをん◇◇]
:23/01/02 13:21 :Android :jK5SBgKM
#390 [わをん◇◇]
:23/01/02 13:21 :Android :jK5SBgKM
#391 [わをん◇◇]
:23/01/02 13:24 :Android :jK5SBgKM
#392 [わをん◇◇]
:23/01/02 13:25 :Android :jK5SBgKM
#393 [我輩は匿名である]
♪( ´θ`)ノ
:24/08/09 17:45 :iPhone :3kM8I1MU
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