【コラボ企画】秋のラノベ祭り投下スレ【withイラスト板】
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#151 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
密かな決意を胸に、俺はバーチャルワールドに入る準備をする。
パソコンに回線を接続して、ブラックカラーのヘルメットを被る。
マウスでゲームを起動させると、俺の意識は薄れていった。

バーチャルワールド作動。
ログイン完了。
ようこそ、バーチャルワールドへ。

ユーザーデータ確認。
プレイデータ読み込み完了。
ようこそ、カオスオブドリームズの世界へ。

⏰:08/11/03 16:03 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#152 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
何度目かのログイン。
リアルと僅かに違う奇妙な感覚にも、もう慣れた。

カイトがゆっくりと目を開ければ、そこにはすでに見慣れた町並みが広がっていた。
マップの最南端に位置するフィズの街だ。
この街には背の高い建物は少なく、城もない。
特徴的なのは建物と建物の間に隙間がないことくらいだろうか。
網目のように建築物が連なっている。

「遅いじゃねーか、カイト」

不意に名前を呼ばれ、カイトは辺りを見渡す暇もなくやけに大きい声の持ち主を目で追う。

⏰:08/11/03 16:04 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#153 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ガイア、ラルティス…。もう来てたのか」

辿り着いた視線の先には十七歳ほどの少年とも言える青年が二人いた。
背に黒い刀身に赤いオーラを放つ剥き出しの太い両刃刀を背負ったガイアと呼ばれた黒服の青年は、不機嫌そうに近付いてきた。
その隣には白い装束に身を包んだ同じくらいの青年が石の階段に座り込んで微笑んでいる。
その青年の腰には白い鞘から綺麗に伸びる細身の片刃刀が収まっていた。

⏰:08/11/03 16:04 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#154 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「もう来てたのかじゃねーよ。遅刻だ馬鹿野郎。いつまで待たせる気だ」

腕を組んで明らかに不機嫌オーラを出すガイアに、すまないと小さく謝った。

「お陰でこんな野郎と何時間も一緒にいる羽目になったじゃねーか」

皮肉を言われてる当の本人であるラルティスは、微かに眉を寄せただけでガイアの傍まで近寄った。

「何時間って、たったの十五分だろう?それに、君も遅刻して来たよね」

「五分遅刻しただけでうるさい奴だな!二十分遅刻してきたカイトに比べれば可愛いもんだ」

食ってかかるガイアを横目に見つつ、ラルティスはカイトに視線を向けた。

⏰:08/11/03 16:05 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#155 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「遅刻は遅刻だ。それよりカイト、僕もこんな奴と一緒にいるのは好きじゃないんだ。早くデータ確認して発とう」

頷いたカイトは片手を肩の高さまで上げ、小さく「データ呼び出し」と呟いた。
するとすぐに手の前に半透明で緑色の画面がいくつか重なって表示された。

「シンクロ率86%か。まぁ問題ないだろう」

ステータス画面を一瞥して呟く。
シンクロ率はバーチャルワールドでの動き安さのようなものだ。
低ければ動きは鈍く、高ければ素早くなる。
体調などで日によってシンクロ率は左右されるので確認は欠かせない。
シンクロ率が低い日は倒され易くなるので無理は出来ないからだ。

⏰:08/11/03 16:06 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#156 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ガイアとラルティスは大丈夫なのか?」

相変わらず仲のよろしくない二人に問えば、同時に頷いた。

「90%。問題無しだ」

「僕は88%。こんな奴と一緒の空気を吸ってなければもう少し好調だったかな」

微笑みを絶やさないラルティスも皮肉を忘れていない。

⏰:08/11/03 16:06 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#157 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
ガイアのレベルは98、ラルティスは97、カイトは95だ。
ガイアとラルティスはこの世界で知らぬ者はいないほどの有名人。
CODにはギルドというチームを結成出来るシステムがある。
今、CODを二分して対立している二大ギルドのギルドマスターがこの二人なのだ。
ギルド構成員の人数は五百人以上、更に傘下ギルドがゴロゴロといる。
そのそれぞれの全ギルドメンバー数千人のトップに立つのがガイアとラルティスだ。

⏰:08/11/03 16:07 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#158 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
ガイアのギルドは『黒き騎士団』
通称、黒騎士にはその印として腕に両前足を上げた黒い馬の紋章がある。
ラルティスのギルドは『ラファエル聖十字軍』
正義を志す神の使徒を思わせるギルドだ。
対立してる故に、仲は悪い。
カイトの頼みでパーティを組む訳でないなら、とっくに斬り合いが始まっているだろう。

⏰:08/11/03 16:08 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#159 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「お前、今すぐリベリオンの錆にしてやろうか?」

眉を寄せ青筋を浮かべたガイアが背の両刃刀に手を伸ばす。

「面白い。君の魔剣より僕の聖剣ルシファーの方が上だと言うことをはっきりとさせてやろう」

ラルティスは腰を低くして白鞘の聖剣に手を掛けた。

⏰:08/11/03 16:08 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#160 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ちょこまかと逃げ回る臆病者が。少しは俺の太刀を受けてみろよ」

ガイアが鎖の巻き付いた魔剣をゆっくりと引き抜く。

「馬鹿の一つ覚えみたいに刀を振り回すだけの攻撃重視な奴に言われたくないね。速さこそ全てだ。いくら強い一撃でも君の鈍い攻撃に当たらなければ良いだけの話さ」

相変わらず姿勢を崩さないことからして、ラルティスはすでに戦闘の体勢になっているのだろう。

⏰:08/11/03 16:09 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#161 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「速さしか能がねぇのか」

「君も攻撃しか能がないだろう。瞬殺というのを体験してみるかい?」

「攻撃は最大の防御ってのを思い知らせてやるよ」

ピリピリと張り詰めた空気に似合わないため息が一つ落ちた。

「待てお前ら。今日は俺に付き合う約束だろ?」

カイトはやや呆れ顔で二人の間に体を滑り込ませると剣を収めるように促した。

⏰:08/11/03 16:10 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#162 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
ガイアは小さく舌打ちをすると魔剣を元の位置に戻し、ラルティスは大人しく柄から手を離し低い姿勢から立ち上がった。

今日はカイトのために集まったのだ。
CODの中でもまだまだ希少で、全体のユーザーの一割にも満たないLv90超えのトップクラスのメンバーが三人も集っているのだ。
よほどのことでなければ有り得ない光景だ。

「今日こそ行くんだな、バグワールドに」

「あぁ」

⏰:08/11/03 16:10 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#163 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
バグワールド。
カイトが聞き込みを続けて五ヶ月。
ようやく耳にした有力で確かな情報だ。
父と姉はここに二人で向かったという目撃情報を最後に、消息を絶っている。
五ヶ月前の、あの日に。

「何か解るといいな。親父さんのこと」

「…あぁ。わざわざすまないな」

街の入口まで辿り着くと、再び二人に向き直る。

⏰:08/11/03 16:11 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#164 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ガイア、ラルティス。恐らく敵は…強い。話では親父のレベルは上限の100だと聞いた。姉も。だが、二人はやられた。Lv100が二人でも勝てない相手が居る未知の場所だ。無事に帰って来れる保証もなければ、本体の安全さえも保証出来ない。正直、俺の戦いに二人を巻き込んでしまって後悔している。やめるなら止めはしない、本当に一緒に行ってくれるか?」

ガイアは口元を歪めて小さく笑って見せた。

「馬鹿野郎。危険なのは承知済みだ。俺は黒騎士のギルドマスターだぜ?親父さんがLv100でも、俺より強いとは限らないだろ」

横にいたラルティスはわざとらしい大きめの声で「あーあ」と漏らした。

⏰:08/11/03 16:12 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#165 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ここで僕が辞退して、ガイアがやられれば、晴れてこの世界を統一出来るから面白いと思ったんだけどね。でも、ガイアが帰って来ちゃえば僕は臆病者扱いだ。メンバーに会わす顔がないよ。ガイアが行くなら僕も行こう」

ラルティスの理由に思わず頬が緩みそうになった。
しかし、これでメンバーは決定した。

⏰:08/11/03 16:13 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#166 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
体力の温存のために、魔物避けの聖水を持って来たので、魔物に逢うことはまずなかった。
もし逢ったとしても、このメンバーなら息一つ切らさずに一瞬で絶命させられるだろうからあまり意味はないが。

⏰:08/11/03 16:14 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#167 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
この世界は不思議だ。
レベルと強さは比例の関係ではなく、時には反比例する。
つまり、レベルの低い者が高い者に勝つというのも有り得るのだ。
レベルが高いから強いとは限らない。
ステータスの上昇にはその人の内面が反映させるのだという。
ラルティスのように速さや瞬殺を目指してる者は素早さが成長し、ガイアのようにとにかく攻撃を求めている者は破壊力が成長する。
逆に、特に何も考えないでゲームを楽しんでる者は、悪戯にステータスが上がり、特に秀でた能力値がなく全てが平均値なので弱くなる。
だからレベルが低い者でも高い者に勝つ場合があるのだ。

⏰:08/11/03 16:14 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#168 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
しかしカイトは珍しいタイプだった。
ラルティスを速さタイプ、ガイアを攻撃タイプとすると、カイトは的確タイプのようなものだ。
楽しむためにやってきた訳ではなく、父と姉のためだけに戦ってきたカイトは、とにかく確実に敵を仕留めることにこだわった。
ゲームなのに楽しむためではなく、ただ真剣にまるで復讐するかのようにひたすら戦うカイトだからこそ特化した能力なのだろう。
この戦いも後少しで転換点があるかもしれない。
そう考えるとカイトの胸は高鳴った。
腰の紅い日本刀が揺れている。
もう少しで目的地に辿り着く。

⏰:08/11/03 16:15 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#169 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「それにしても妙だな」

歩きながら突然ラルティスが悩ましげな声を上げる。

「普通は倒されたらゲームオーバーになって近くの街で復活するだろう?でも、カイトのお父さんたちは意識不明らしいじゃないか。もし何者かに倒されたなら、キャラは復活するはずだろ?」

カイトがラルティスの疑問に静かに頷くと次にガイアが声を上げる。

⏰:08/11/03 16:16 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#170 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「それがどうしたんだよ。お前、まさかカイトの話を信じてないのか?」

「そうじゃない。ただ、キャラが復活してないってことは誰かに倒された訳じゃなくて、他に何か問題が発生した可能性はないのかな」

「…それも有り得る」

頷くカイトにガイアが小首を傾げて尋ねる。

⏰:08/11/03 16:16 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#171 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「問題ってなんだよ?」

「つまりだ。バグワールドには敵なんかいなくて、カイトのお父さんたちはバグの影響で意識不明になったんじゃないかってこと」

ラルティスは馬鹿を見るように呆れた様子で眉を寄せた。

「医者はそんなことは有り得ないと否定していたが…どうだかな。電気信号を送り出すような代物だ。逆流があっても不思議じゃない」

カイトが答えると二人は怪訝そうな表情を浮かべる。

「おいおい…。もしそうだったらプロの仕事じゃねーか。俺らみたいなプレイヤーが出る幕じゃねーよ」

⏰:08/11/03 16:17 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#172 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「確かにプログラマーの仕事だ。それが本当だったら俺らはあえなくジ・エンドだろうよ。それでも、俺は行くけどな。親父たちがわざわざプレイヤーとしてバグを破壊しにバグワールドに行ったってことは、バグワールドには外からじゃ直接破壊出来ないような強力なプロテクトが掛かってるってことだ。何かが解るかもしれない」

それを聞いたガイアは途端に空を仰いで無気力な声を出した。

「あーあ。やる気失ってきたぜ」

⏰:08/11/03 16:18 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#173 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
その時だった。
三人がほぼ同時に立ち止まった。

「ガイア、カイト」

ラルティスは後方に目を凝らしながら見つめている。

「わかってる」

カイトも同じく後方を見遣った。

「モンスターではないな。…二人か」

ガイアが人数を口にすると二人も同意するように目を合わせた。
三人には先程の緩んだ雰囲気はなく、それぞれ眼光に鋭さを持っていた。
誰一人として剣を構えないが、恐らくいつでも戦える状態なのだろう。

⏰:08/11/03 16:18 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#174 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「なかなか速いな。両方共腕利きのプレイヤーだ」

ラルティスが言えばカイトとガイアが前に出る。
同時に、ぴたりと世界が止まった。

「俺ら相手に二人で挑む命知らずなんているのかよ」

息を殺してガイアが言う。
誰一人ぴくりとも動かないまま、ただ前方に目を向けている。
相手も気付いたのだろうか、特に動きは見られない。
先に動き出したのはガイアだった。

⏰:08/11/03 16:19 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#175 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「誰だか知らないが出てこいよ。草影に身を潜めるなんざ、腕利きのやることじゃないぜ?」

低い声色ではっきりと言うと、前に歩を進める。
ゆっくりと背の高い草木に近付いていった。

「ガイア、油断するな」

カイトがそう言った直後であった。
小さなスパークが見えたかと思うと、次の瞬間にはガイアを囲うようにガイアの周囲にいくつかの雷光の輪が出現した。

⏰:08/11/03 16:20 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#176 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「…攻撃魔法か!」

小さく舌打ちをしたガイアは大きく後ろへ跳躍する。
片手を地に付き体勢を立て直してすぐ、先程ガイアがいた場所に雷光が集結し、地面を吹き飛ばすような強い爆発が起きた。
焦げた地面が土煙を上げてカイトたちの視界を妨げた。
爆発の至近距離にいたガイアは先程の爆発音で鼓膜が揺さ振られ激しい耳鳴りが残る。
再び静けさが戻ってくる。
ラルティスとカイトが抜刀すると同時に、草むらから一つ影が飛び出してきた。

⏰:08/11/03 16:20 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#177 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ラルティスさん!」

変わった掛け声と共に姿を現したのは、白のローブを羽織った短髪の少年だった。

「…シン?」

シンと呼ばれた少年は「そうです」と答えると、ラルティスに駆け寄った。

「何でラルティスんとこの馬鹿サブマスターがこんなところに居るんだよ」

明らかに嫌そうな表情をしているガイアに十六歳ほどの少年、シンは不機嫌そうに口を釣り上げた。

「ふん…仕留め損なった」

惜しいと言わんばかりにラルティスの影からガイアを睨み付ける。

⏰:08/11/03 16:21 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#178 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「てめぇまさか…さっきの魔法はお前のかよ!?そういえばお前魔法使いだったもんな!」

「待て、じゃあ後一人は誰だ?」

ラルティスがシンに聞くと、シンはガイアの更に後ろを指差した。

「お前、クーロン…か?」

ガイアが珍しそうな声を出しながら見つめる先には、クーロンと呼ばれた十八歳ほどの黒服の青年が立っていた。
腰には紫色の鞘に収まった片刃刀が下がっている。

「すみません、ガイア様。そいつが突然立ち止まったかと思うといきなり呪文の詠唱を始めて…止めるのが遅れてしまいました」

紳士を思わせる物腰が柔らかそうな青年は申し訳なさそうに言うものの、その顔は無表情を続けていた。

⏰:08/11/03 16:22 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#179 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「黒騎士のサブマスターか」

ラルティスの言葉に反応せずに、クーロンはガイアの傍まで歩み寄った。

「何でクーロンがラルティスのサブマスターと一緒にこんな所に?」

ガイアが聞くとラルティスの横で「シンだし!」と喚いている少年を無視してクーロンが口を開く。

「仕える者が主の行く所に付いていくのに理由などありませんよ。それがそいつも同じだっただけです」

そいつ呼ばわりされたシンはまたもや「シンだし!」と抗議しつつも今度はラルティスに抑え込まれた。

⏰:08/11/03 16:23 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#180 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「待て。君たちも行くというのか?」

ラルティスが聞くと、クーロンは明らかに不機嫌そうな表情をして今度は口を開いた。

「文句がありますか?安心してください。私が安ずるのはガイア様のみであって貴方には興味はない」

苦笑するカイトの横で、クーロンに食いかかるような目を向けるシン。

「ふざけんな馬鹿!この中で一番レベル低いくせに!」

喚き散らすシンにクーロンはやれやれといった様子でため息を吐く。

「レベルなど大した差ではない。貴様は91、私は89。たったの二つしか変わらないじゃないか」

⏰:08/11/03 16:24 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#181 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
相手によって接し方を変えるクーロンと、喧嘩っぱやいシンとのやり取りはどこかで見たことがある感じだった。

「ガイア…。僕、出会い方次第では君の所のサブマスターとなら気が合いそうだよ」

「奇遇だな。俺もお前の所のサブとなら上手くやっていけそうだと思っていた」

⏰:08/11/03 16:24 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#182 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
フィズの街を出て南に山を一つ越え、更に谷に沿って進んだ荒野に、バグワールドはあった。

「着いたぞ、ここだ」

四人は言葉が見つからないといった様子だった。
バグワールドの入口と思われる場所は、何もない空間に亀裂が入ったように空中にぽっかりと穴が空いており、中は真っ暗で何も見えない。
周囲の川の水は紫色をしていて、バグワールドの上空の空だけが薄暗くて、やけに黒い。
更に地面は血に染まったかのように赤い。
どんなダンジョンとも違う、異様な空間だった。

⏰:08/11/03 16:25 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#183 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「この裂け目が…入り口か?」

ガイアがやっとといった感じで口を開く。

「恐らく、そうだ」

「カイトのお父さんとお姉さんは二人で入ったんだろ?僕達は五人だし大丈夫だろう」

その言葉は自分に言い聞かせているのだろうか。
ラルティスの声色は重々しかった。

⏰:08/11/03 16:26 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#184 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「こんな場所なら最大の六人でパーティ組めば良かったのに…」

「何だ貴様。怖いのか?」

愚痴るシンにこんな場所ですら表情を変えないクーロンは正面を向いたまま受け答えをする。

「馬鹿か!怖くなんかないし!」

「どうでも良いが、足手まといだけは勘弁だぞ」

ギャーギャーと喚き始めたシンに場の空気は僅かに和んだ。
カイトがちらりと見遣ればクーロンの口元に少しだけ笑みが浮かんでいるようにも見えた。

⏰:08/11/03 16:26 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#185 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「それじゃ…行くぞ」

意を決したかのように呟くと、カイトは裂け目に飛び込んでいった。
ラルティスたちが後に続いた。

⏰:08/11/03 16:27 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#186 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「中は案外明るいな…」

ガイアが小さく呟けば、声が反響するように空間内に響いた。
薄暗い世界は洞窟内のような作りをしていて、一本道になっている。

「よくこのバグワールドに一般ユーザーが紛れ込みませんでしたね」

クーロンがぽつりと疑問を零せばカイトがすぐに答える。

「ここはアクセスコードを持ってないと入れない場所だからな。アクセスコードは俺がダウンロード済みだ」

クーロンはまさか独り言に返事が来るとは思ってなかったのか、なるほどと呟いて正面を向き直した。

⏰:08/11/03 16:28 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#187 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「…待て、カイト」

ラルティスが手を上げて制止を促した。

「どうした?特に何かの気配はないが…」

怪訝そうに眉を潜めればラルティスは人差し指を口元に当て、耳を澄ませばように指示した。

「確かに気配はない。だが…何かいる」

耳を澄ませば、確かに無音ではない。
何かがひしめくような音がする。
いや、声が。

⏰:08/11/03 16:28 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#188 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「もしかして俺ら…囲まれてる?」

ラルティスの後ろでシンが言った直後、突然内部が明るくなった。

「うわぁ!」

シンの叫び声が聞こえたかと思えば、カイトたちが振り向くとそこにはもうシンの姿はなかった。

「シンがいないぞ!」

「…いや、それどころじゃねーぜ」

慌てた様子のラルティスにガイアは冷静に言うと、魔剣を構えた。

⏰:08/11/03 16:29 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#189 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
変に明るくなった広い空間には、無数の魔物がこちらを伺っていた。
それも、見たこともない異形のものたちが。
全ての魔物が黒い体に赤い目を持っていた。

「こいつは穏便に通してくれそうもないな」

「くっ…」

相変わらず落ち着いたガイアにシンが気になるのか腰の片刃刀に手を掛けながらも落ち着きのないラルティス。
カイトも日本刀を抜刀していた。

⏰:08/11/03 16:30 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#190 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「ラルティス、シンなら大丈夫だ。多分クーロンが一緒のはずだ」

ラルティスは我に返ったように辺りを見渡す。
確かにクーロンの姿もない。
部下を気にするあまり状況判断も鈍るとは…。
ラルティスは姿勢を低くした。

「すまない。もう大丈夫だ」

ガイアとカイトは顔を見合わせると頷いて深呼吸をする。

⏰:08/11/03 16:31 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#191 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「さて…と、やりますか」

ガイアは口元に笑みを含みながら、黒い刀身に赤いオーラを纏う両刃刀…魔剣リベリオンを構える。

「見たことないモンスターだが、手応えだけはありそうだぜ」

その横で鋭い眼光を放つラルティスは体勢を維持したまま、素早く抜刀した。
細身で白い刀身に蒼いオーラが纏う片刃刀…聖剣ルシファーを。

「部下を探してるんだ。容赦はしない!」

⏰:08/11/03 16:32 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#192 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
二人に背を向けたまま、カイトも紅い刀身に紅いオーラを放つ日本刀を構える。

「妖刀、鬼斬り極文字…」

カイトが小さく呟くと、三人は地面を強く蹴った。
魔物も三人が動きを見せると一斉に臨戦体勢を作る。
背筋に響くような咆哮を上げながら、魔物が襲い掛かった。

⏰:08/11/03 16:33 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#193 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
低い姿勢のままラルティスは疾走した。
黒い残像を残しながら地面を駆る。
斬撃を繰り出せば、勢いの乗った強烈な一撃は魔物の胴体を難無く貫いた。
そのまま素早く身を返し、剣を引き抜くと同時に第二撃が別の魔物に狙いを定める。
円を描くように体を捻って一閃を決めれば、周囲にいた三体の魔物の体が同時に真っ二つになった。
背後から牙を持った黒い狼が襲い掛かる。

「四体。そして…」

⏰:08/11/03 16:33 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#194 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
一瞬で狼の背後に回り込めば、後ろから首元を一突きにした。

「…五体目」

圧勝ではなかった。
手が僅かに痺れている。
魔物の体が異様に硬いのだ。
斬れないことはない。
素早さでは自分が勝っている。
だが、防御力が遥かに高い。

「畜生め…」

ラルティスは舌打ちを落とした。

⏰:08/11/03 16:35 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#195 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「おらぁ!」

ガイアが横薙ぎの一撃を払えば、四体の魔物の体が綺麗に真っ二つにされた。
思ったよりも硬度がある。
こんなに防御力が高いモンスターはなかなかいない。
だが、ガイアの攻撃の前では大した問題ではない。

「ちょこまかと…動くんじゃねぇ!」

跳飛しながら体重を乗せて剣を振り下ろせば、地面に亀裂が入り岩盤が飛び散った。
破壊された地面からは土煙を上がり、全包囲の敵が消し飛んだ。

⏰:08/11/03 16:35 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#196 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「タフな野郎だ…」

腕を失っても立ち上がってくる魔物を見て脱力感を覚える。
硬さは大した問題じゃない。
だが、油断したらやられる。
ガイアは自嘲気味に小さく笑った。

「上等じゃねーか馬鹿野郎っ!」

⏰:08/11/03 16:36 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#197 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
「…ふん、大したことないな」

カイトに喉元を一突きにされた魔物の喉から、血飛沫が舞う。
こいつらは硬い。
それに素早いし、攻撃力も相当なもんだ。
下手に剣で受け止めようとすれば力負けしそうになる。
おまけに体力も桁違いにあるときた。
少しでも隙を見せればやられるだろう。
だが、いくら素早くても捕らえられる。
後は簡単な話だ。切っ先を急所に突き立てて、絶命させればいい。

「…何匹いるんだ?」

⏰:08/11/03 16:37 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#198 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
両足を切り落とされた魔物が地に落ちると同時に、刀を額に突き立てた。
噴水のように鮮血が舞う。

「…強いな」

不意に声を聞いた。
カイトが視線を送れば、灰色のローブを身に纏った男がいた。
魔物たちが一斉に道を開ける。

⏰:08/11/03 16:37 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#199 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
眉をしかめるカイトに、男は続けた。

「長谷川啓一の息子か」

カイトは驚きの表情を隠せなかった。
父の名を知っているということはやはりここに来たのだろうか。

「お前、何でそれを…!」

男は笑った。

「残念だが、君のお父さんとお姉さんはここで倒れた。私の造り出したバグモンスターにやられてね」

「…どうりで強い訳だ。さて、まだあるんだろ?続きを聞かせてくれよ」

カイトは男を睨み付ける。

⏰:08/11/03 16:38 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#200 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
カイトの言葉を聞いた男は喉を鳴らしてほくそ笑んだ。

「強い?…なら、良いことを教えてやろう。君たちが今相手にしてるのはまだまだ弱いモンスター共だよ。この奥にはオーガ級の中型モンスターからドラゴン級の大型モンスターまで、大軍勢が棲みついている」

「ドラゴンだと?…お前は何を企んでいる?」

「滅亡さ。いや、破壊と言ってもいい。私は、バーチャルワールドを崩壊させるためにバグを引き起こしてるのだよ」

⏰:08/11/03 16:39 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


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