【コラボ企画】秋のラノベ祭り投下スレ【withイラスト板】
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#101 [紫陽花→渚坂 さいめ]
だが不思議なことに、服とも言えぬようなボロ布を身に纏っている少年とは打って変わって、背の高い青年はエプロン姿。

さらに左手には鍋つかみに、お玉。

奇妙な格好をした青年は一歩ずつ、少年の近くまで歩み寄る。

「あの……オイラになんのようですか?」

「うむ。特に用はないのだが、お前 名はなんと申す?」

青年 [jpg/24KB]
⏰:08/11/03 14:54 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#102 [紫陽花→渚坂 さいめ]
チラチラとドラゴンが逃げていないかを気にする少年を無視して、青年は左手に持っていたお玉を少年の目の前に突き出して問う。

「名前?オイラに名前なんて……。オイラはただの、しがないドラゴン使いですから」

困ったように笑う少年を見ながら青年は腕を組み、小さく“そうか”と呟いた。

「名が無いのならば、私がつけてやろう!!そうだなぁ……」

「うぇ!?そんな、オイラに名前なんてもったいないです!!」

慌ててあたふたと手を動かし、精一杯の遠慮を見せたものの、青年の思考は止まることを知らない。

⏰:08/11/03 14:55 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#103 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うーむ……レイン……よし!!今日からお前の名は『ブルー・レインウェル』だ!!」

“ブルー”とはお前の瞳の色から、“レインウェル”は『レイン』つまり、雨のように全てのモノを洗い流せるように、という意味だ。

そう言い切った後、青年は満足そうに鼻を鳴らす。

「ブルー・レインウェル……」

「なんだ、雨は嫌いか?」

自分に与えられた名前を噛みしめるように呟く少年に対し、不服でもあるのか、と言いたさげに青年は眉をひそめる。

⏰:08/11/03 14:56 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#104 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「い、いや!!雨は嫌いじゃないです。むしろ好きです!!」

「ならばレインよ、受け取るがいい。我ながら素晴らしいネーミングセンスだ」

またも満足げに鼻を鳴らし、青年は微笑んだ。

そして、最後に一言。

「神である俺様が名を与えたんだからな!!その名に恥じぬように生きるのだぞ」

「はい!!……って、え?」

⏰:08/11/03 14:57 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#105 [紫陽花→渚坂 さいめ]
勢いよく返事をしたレインだったが、一つ彼の頭には疑問が生まれた。

「あなたって神様なんですか?」

「うむ。言ってなかったか?」

たとえドラゴンが轟こうとも、不死鳥が舞おうとも、神がこの地に降りたったというのは前代未聞の事態。

⏰:08/11/03 14:57 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#106 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇ!!初めて神様見ちゃった……」

レインは碧い瞳をより一層大きく見開き、エプロン姿の青年を食い入るように見つめる。

「そう驚くでない。神などそこら辺にゴロゴロいる」

青年はフンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。

「さて、無断で神界を抜けてきたからギードルの奴が怒って迎えにくるだろうな……」

曇り空を見上げフーっとため息吐き、お玉で頭を掻く青年の表情はその若さに似つかわしくないほど疲れ切ったものだった。

神とはそれほど神経を浪費する役割なのだろう。

⏰:08/11/03 14:58 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#107 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「あの、ギードルとは……?」

差し出がましくないように、言葉を選びながらレインは恐る恐る『神』に問う。

「あぁ、俺の秘書だ。まだ学生なんだが、なかなかキレる奴でな。ほら 生意気にもう俺の居場所を見つけやがった」

青年は曇り空の一点を見つめる。つられてレインも空を仰ぐ。

と、同時に雲の切れ間から人影が。

人影はどんどん高度を下げ、先程まで肉眼では確認できなかった格好や容姿も理解できるほどに近づいてきた。

⏰:08/11/03 14:58 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#108 [紫陽花→渚坂 さいめ]
そして黒い学生服の下に着込んだトレーナーのフードを揺らしながら、青年の秘書役であるギードルはこの地に降り立った。

「神様ここにいらしたのですか!!すぐにお戻りください!!城が城が……!!」

ギードルは蒼白な顔をして青年に話しかける。

レインの存在も気付かないほど焦っている様子を見ると、余程の緊急事態なのだろう。

「落ち着け。なにがあったのだ?」

青年はギードルの肩をつかみ、揺さぶるようにして詳細を問う。

⏰:08/11/03 14:59 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#109 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「申し上げます……城が賊に襲われました。怪我人はおりませんが、神界の安定を司る宝玉“亜神の命”が盗まれました」

それだけ言うと下唇をギリギリと噛み、目を伏せた。

「なるほど、お前が焦るのも無理はない。亜神の命を盗むとは……小賢しい賊め。で、その賊の行方は?」

青年はギードルの肩から手を離し、そのまま右手を顎の下に持っていく。

まるで探偵のようなポーズで考え込む姿は、少なくともレインの目に立派な大人の姿に見えた。

⏰:08/11/03 15:00 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#110 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「正確な位置は掴めませんが、居合わせた燕弥(エンビ)に賊の臭いを覚えさせました」

「よし、でかした。燕弥!!そこに隠れているのだろう?出てこい」

そう言って青年はギードルに向かって叫ぶ。

「あぁーもう!!分かってるよ」

青年が叫ぶのと同時にギードルの後ろからひょっこりと少年が飛び出した。

背格好こそレインと変わらないものの、彼の目は少しつり上がり額に小さな傷。

燕弥 [jpg/36KB]
⏰:08/11/03 15:02 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#111 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「何!?ギードルと賊を追いかければいいの!?」

腕を組み、ギードルを顎で指しながら青年と話す燕弥。

態度こそ大きいものの、それを青年が許しているところを見てみれば、互いの信頼が厚いと言うことだろう。

二人の会話を聞きながらレインはそんなことを考えていた。

「いや、お前はここにいるレインと行ってもらう」

⏰:08/11/03 15:02 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#112 [紫陽花→渚坂 さいめ]
ぼーっとしていた頭を一気に覚ますような青年の思いもかけない言葉に、レインは一瞬言葉を失った。

「うぇ!?ななななんでオイラが……」

わたわたと首を振ってみるものの青年は怪しい笑みを浮かべるばかり。

⏰:08/11/03 15:03 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#113 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「すいません……本来、僕が行くべきなんでしょうけど、僕の全てをかけた事件が時効になりそうなんです……」

申し訳なさそうにギードルは頭を下げた。

「事件?時効?ギードルさんは秘書なんじゃ……」

不思議そうにレインは首を傾げる。

「ギードルは18歳にして、学年トップ、秘書役、警視総監、弁護士とか、色んな肩書きを持ってらっしゃるんですよー」

イヤミったらしく、吐き捨てるように燕弥が説明する。

⏰:08/11/03 15:04 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#114 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇー、スゴい……だからってオイラが行かなくても」

「つべこべ言うな。時は一刻の猶予もないのだ。ギードル!!こいつに服と地図を!!」

レインの抗議も無視して話を進める。

こんな独裁主義者がこの世界の神様だなんて、大丈夫なのだろうか。

レインが青年にそんな不安を感じているとはつゆ知らず、ギードルはレインの着ていたボロ布の服を素早くひっぺかし、どこからか現れた新しい服を着せていく。

⏰:08/11/03 15:04 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#115 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うむ、流石コーディネーターの資格を持つギードルだ。なかなか良いではないか」

青年は自分が仕立てたかのように満足げに鼻を鳴らした。

レインの碧い瞳と同じ色の宝石が埋め込まれたベルトに、ボロ布とは違う上等な布で作られた服。

さっきまでのしがないドラゴン使いとは誰も思うまい。

そして、これもどこから取り出したのか青年は一枚の茶色く変色した地図をレインに差し出す。

レイン [jpg/19KB]
⏰:08/11/03 15:06 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#116 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「これがこの世界の地図だ。レイン。“亜神の命”を取り戻してきてくれ」

初めて見せた青年の誠実な態度に驚きながらもレインは地図を受け取った。

「うぅ……。分かりました……」

「よし、それじゃあ出発だ!!なぁに、この燕弥様が付いてんだ。しっかり案内してやんよ!!」

燕弥はケラケラと笑いながら、バシバシとレインの背中を叩く。

こうして、大きな碧い目を持つ少年の長い長い旅は始まった。

⏰:08/11/03 15:07 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#117 [紫陽花→渚坂 さいめ]
―――――――…………

―――――………

時は20XX年。

幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。

そんな風景が当たり前の世界で、一人の少年が仲間とともに歩き出した。

この物語は、私たちの知らないもう一つの世界の物語。

⏰:08/11/03 15:07 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#118 [紫陽花→渚坂 さいめ]


This boy is almighty

⏰:08/11/03 15:08 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#119 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「犯人はあなたです。大人しく捕まってください」

嗚呼……
そんなに驚いた顔をしないでください。真実なんですよ。

氷のように研ぎ澄まされた時間の中、僕はゆっくりと犯人を指差す。

なぜ指差すのかって?

そうすると、大抵の奴は成し遂げた罪の罪悪感に耐えられず、膝から崩れ落ちるってことを僕は知っているからさ。


――This boy is almighty――

⏰:08/11/03 15:09 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#120 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「ギードルー!!また財布落としちゃったぁー」

もう呆れて、ものも言えない。

「ギードルったらぁー。いつもみたいにサクッと見つけてきてよ」

ルカは自身の小さな身長に似合う、少し甘えた口調で僕の側に寄ってくる。

ルカと僕は同い年なのに、こんなにも身長に差があるのは何故だろうといつも疑問に思うのだが答えはまだ見つかってない。

疑問と言えば、この前の事件の犯人自殺したって……

ギードル [jpg/8KB]
⏰:08/11/03 15:10 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#121 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「ちょっと!!私の話聞いてる?」

「ん、あぁ……ごめんごめん。ちゃんと聞いてるよー」

彼女の話を聞いていなかったわけではない、ただそれと同時に別のことを考えていただけ。

「今忙しいってこともよく分かるけど、もう少しかまってくれたっていいじゃない……」

「……ごめん」

そう、僕は謝ってばかり。

僕とルカは付き合っているとは言っても一度もデートに行ったことがない。

そしてこれからも出来るかどうか……。

二人 [jpg/10KB]
⏰:08/11/03 15:12 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#122 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「ごめん。今週中にレポート6つまとめて、3つの裁判に同伴して、第153回神宮殿ファッションショーにもエントリーして、秘書官昇級試験も受けなきゃいけないんだ」

僕が言い終えない内にルカの口がどんどん開いていくのが目に入る。

そりゃそうだ。
たったこれだけの仕事でデートをすっぽかしているのだから。

「ご、ごめん!!こんの大した用事じゃないのに……全然ルカにかまってあげられなくて……」

⏰:08/11/03 15:13 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#123 [紫陽花→渚坂 さいめ]
たかが3〜4の仕事にかまけてルカと遊びにも行けないなんて彼氏失格だ……。

「……忙しそうとは思ったけどまさかここまで多忙だったなんて……。私の方が謝るわ」


ルカはあんぐりと開けた口を急いで塞いで僕を見つめた。


……だから僕は彼女が好きなんだよね。

自分が悪いと思ったら即、謝罪してくれる。明るくて素直な彼女。

そうして僕らはお互いを許し合うように見つめ合う。

それは一種の儀式のように繊細で誰にもじゃまされない異空間。

⏰:08/11/03 15:14 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#124 [紫陽花→渚坂 さいめ]
こんな時、いつも胸に熱い何かがこみ上げてくるが僕は気づかないふりをする。

なぜかって?

これ以上ルカを好きになってしまわないように。



「あっ!!もしかして僕に会う前靴ひも結びなおした?」

「あれ!?何で知ってるの!?」

ルカは不思議そうに履いているスニーカーと僕の顔を交互に見る。

⏰:08/11/03 15:15 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#125 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「見てごらん。右足だけ紐の結び目がきつくて、左は緩いまんまだ。てことは……」

「右だけ靴紐を結んだってこと?」

「ご明察!!しかも財布をポケットに入れてれば……」

「そのときに落としたのかも!!ちょっと見てくる」

そう言って彼女は走り出した。
その小さな背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた僕は、少しストーカーチックだな、と自分自身に呆れてからその場を後にした。


「さて、今日中にレポート3つは書かなくちゃ……」

⏰:08/11/03 15:16 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#126 [紫陽花→渚坂 さいめ]


Enjoy Talking

⏰:08/11/03 15:17 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#127 [紫陽花→渚坂 さいめ]
ねぇ!!ベラトリスさん家のドラゴン使いが行方不明になったらしいわよ

ドラゴン使いって……あの碧い目のちっこい奴?

そうそう。私、年近いし結構仲良くやってたんだけどなー

お前のこと嫌いになったんじゃねーの?

あっ、ひどーい!!でもあの子『捨てられたオイラを育ててくれたベラトリスさんには感謝してる』って言ってたのに……

ふーん……。
で、お客さん何にします?

二人 [jpg/15KB]
⏰:08/11/03 15:18 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#128 [紫陽花→渚坂 さいめ]
あ!!チーズ300グラムにミルク2リットルください

はいよ……。
ドラゴン使いが何を考えてたか知らんが、お前は急にいなくなるなよ




……なんで?

ばっか!!
惚れた女が消えちまったら悲しいからに決まってんだろ!!

⏰:08/11/03 15:19 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#129 [紫陽花→渚坂 さいめ]


They are daredevil

⏰:08/11/03 15:20 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#130 [紫陽花→渚坂 さいめ]
その日はとても曇っていた。

これから俺らが成し遂げる犯罪に目をつむってくれるかのように。

金や名誉が欲しいんじゃない。
欲しかったのは、狂った世界。

――They are daredevil――

⏰:08/11/03 15:20 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#131 [紫陽花→渚坂 さいめ]
アルバートから次の獲物が知らされたのは、月の全く見えない朔の日の夜だった。

「次は“亜神の命”を盗むぞ」

彼は豊かな顎髭を撫でるように触りながら、あたかも「明日遊園地に行こう」と軽々しくデートに誘うような口ぶりで俺を驚かせた。

「んな!?亜神の命じゃて!?」

思わずなまりがでてしまった。

⏰:08/11/03 15:21 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#132 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「亜神の命と言えば……この世界の最大級の宝と言われる宝玉じゃ!!そ、それを盗むんか?」

「嫌なら儂一人で行くが……」

「誰が行かんと言った!!アルバートはいっつも急なんじゃ。パートナーの俺のことも少しは考えんか!!」

落ち着き払ったアルバートは一見大人の態度に見えるが、俺に言わせればただの頑固ジジイ。

それに亜神の命を盗むなんて……

⏰:08/11/03 15:22 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#133 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「どうやって盗むんじゃ?あの城の警備は世界一じゃよ」

俺は酒樽の上に座っているアルバートに近付く。

「もう策はある。明日の昼に城へ潜り込むぞ。ひと暴れするから武器の準備しとけよ」

どうやらこのじいさんは俺を驚かすのが大好きらしい。

「昼って……
白昼堂々と盗みにはいるなんて大胆不敵とゆーか、前代未聞とゆーか……」

驚きを通り越して呆れに近いものを感じているのだが、どうしても体の芯がうずく。

そう、新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせ、美味しそうなデザートを目にした時のように口元は緩みっぱなし。

⏰:08/11/03 15:23 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#134 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「分かった。俺はあんたについて行く」

俺がそう言うとアルバートは満足そうに笑みをこぼした。

俺はこのくそジジイに一生頭が上がらないだろう。

アルバートの言葉に俺の好奇心に探求心は騒ぎっぱなし。


「へへへ、明日が楽しみだ。おら、アルバート!!荷物運ぶから退いてくれ」

二人 [jpg/12KB]
⏰:08/11/03 15:24 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#135 [紫陽花→渚坂 さいめ]
―――――――…………

――――――………

時は20XX年。

幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。

そんな風景が当たり前の世界で、その地を揺るがす事件が起きる。


そして、その世界一の宝玉を盗んだ二人組と、碧い瞳を持つ少年が出会うのはもう少し先の話。

⏰:08/11/03 15:25 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#136 [紫陽花→渚坂 さいめ]


Treacherous Grace

⏰:08/11/03 15:26 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#137 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「どうか神様、もしいらっしゃるのならこの娘に私の命を……」

粉雪が舞い始めた聖なる夜。

俺は小さな教会の中で、途方もないほど小さな神に祈りを捧げる哀れな化け物を見つけた。


その姿は俺は今まで見たことがないぐらいの清らかな空気を作り上げ、信じられないぐらい神々しく、そして儚くて。


教会の一つしかないドアから覗くようにしてその祈りを目にした俺は、無性に神の存在を確かなものへとしたくなった。

⏰:08/11/03 15:26 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#138 [紫陽花→渚坂 さいめ]
彼の祈りを確かなものへ。


ドアの影から見守るようにして自分の胸に十字架をきる。

化け物ののとは違った、俺の自己満足な祈りは果たして神に届いたのだろうか?


そんなことを思っていると、急に化け物は懇願の声を止め何かを閃いたように瞳を見開いていた。

声が小さすぎて何を言っているのかよく聞き取れない。

⏰:08/11/03 15:27 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#139 [紫陽花→渚坂 さいめ]
俺は知らず知らずのうちに身を乗り出してしまっていた。

そうして聞こえた言葉は、

「亜神の命さえあれば……この娘は生き返るかもしれない……」

“亜神の命”それはこの世界の一番の宝。

それ故にその宝には不思議な力が備わっているという。

そう、人を生き返らせるくらい造作もないことだと。

祈り [jpg/13KB]
⏰:08/11/03 15:29 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#140 [紫陽花→渚坂 さいめ]
――――――………

―――――……

時は20XX年。

幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。

そんな風景が当たり前の世界で、一人の化け物が一つの禁忌を犯す。

この化け物が碧い目の少年を裏切るのはもう少し先の話。

⏰:08/11/03 15:30 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#141 [紫陽花→渚坂 さいめ]
Get Blue Into Trouble
>>96-117

This boy is almighty
>>118-125

Enjoy Talking
>>126-128

They are daredevil
>>129-135

Treacherous Grace
>>136-140

全て一つの世界の中で繋がってる話です

次の方どうぞ!!

⏰:08/11/03 15:33 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#142 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
タイトルは
『バーチャルワールド』
ジャンル:ファンタジー

使うイラストは以下の通りです
No.5
No.18
No.20
No.47

⏰:08/11/03 15:56 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#143 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
システムオールグリーン。
ユーザーデータ読み込み開始。
アクセス完了。
ログイン。

俺の右手の中で活発にマウスが走る。
リズムを刻むように時折指先が沈み、クリックを促す。
ようこそバーチャルワールドへ。
薄暗い室内とは対照的に明るいパソコンのディスプレイには、壮大な草原の画像の上に歓迎の文字。
ロールプレイングゲームを思わせる音楽と一緒に、俺を迎えてくれた。

⏰:08/11/03 15:57 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#144 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
バーチャルワールド。
今から数年前に発売された新ジャンルのゲーム機だ。
ゲーム機とは言ったものの、その形はまるでヘルメットそのもの。
用途も同じく、頭に被るというものだ。
違うのは、ヘルメットよりも多少深くなっており、実際に被ると目の下の辺りまで隠れてしまう。
この機械で精神をゲーム内に送り、リアルと同じようにゲーム内でも自由に体を動かせるというユニークなもの。
過去に類を見ない新製品に、世界は釘付けになった。
勿論、開発した会社は大儲け。
続々とパソコン用オンラインゲームソフトを作成し、日本は世界へ進出していった。
ゲーム機革命。
コントローラーを持つ時代は終わったのだ。
このゲーム機の登場は、ゲーム界の歴史を変えるには十分過ぎるものだった。
だけど、正直原価十二万円は高い。

⏰:08/11/03 15:58 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#145 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
しかし、実際は本当に精神を送っている訳ではない。
正確には、体を動かす時に脳が出す指令、つまり電気信号というものを受信する機械なのだ。
言わば、高性能受信機。
脳から送られた電気信号は受信機となるヘルメットを通じてパソコン内に送られ、ゲームのキャラを動かす指令となる。
本来、体を動かすための電気信号は受信機に横取りされるため、本体は動かない。
世界が注目するのも無理はない。
実に大発明に相応しい代物だった。

⏰:08/11/03 15:59 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#146 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
だが、ディスプレイを見つめる俺のテンションは素晴らしく低い。
これからゲームをするというのに、気分は滅入る一方だった。
少なくとも、俺はこのゲームをしたい訳ではない。
しなければならないのだ。

今や世界最大の人気を誇るロールプレイングゲーム。
バーチャルワールド専用オンラインゲームソフト。
『カオス・オブ・ドリームズ』
通称、COD。
俺はダウンロード済みで用無しとなったソフトを手に取り、溜め息を吐く。
世界中にいる他のユーザーと仲間になって魔物を討伐したり、時には敵としてプレイヤー同士が戦ったりなど、やりこむ要素はかなり濃い。

⏰:08/11/03 15:59 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#147 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
だが、そんなものには少しの興奮も抱いていない。
俺は楽しむためにゲームをやっているのではない。
もう一度溜め息を落とした俺はソフトを乱暴に放り投げ、パソコンの横の写真に視線を送った。
父と姉。
写真立てに行儀良く収まっている二人の笑顔。
bbs1.ryne.jp/d.php/illust/1144/19
この写真を撮るとき、俺は記念撮影でもないのにと恥ずかしがって断った。
海斗も一緒に写ればいいのにと、俺を肘で突いた姉の姿が目に浮かぶ。
「父さん…姉ちゃん…」
二人の元気な姿は五ヶ月前に失われてしまった。

⏰:08/11/03 16:00 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#148 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
一人暮らしをしていた俺に母からの突然の電話。
意識不明の重体。
検査結果は異常無し。
外傷は無く、眠ったまま目を覚まさないのだと聞かされた。
俺は呆然として受話器を耳に押し付けていた。
血の気と共に、世界の色が失われていくのがわかった。
教えられた病院に着くと、力無く今にも倒れそうな母が待っていてくれた。
頼りなく病室に案内された俺が見たのは、あまりにも信じがたい現実だった。

⏰:08/11/03 16:01 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#149 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
俺は徹底的に原因を探した。
原因不明なんて、納得出来る訳がない。
異常無しなんて、納得出来る訳がない。
俺は二人の行動をごみ箱に捨てたゴミの中身からご飯のメニューの材料に至るまで、完璧に調べあげた。
そして一つの共通点を見つけることに成功した。
意識不明になる数分前までバーチャルワールドをプレイしていた事実が発覚したのだ。

⏰:08/11/03 16:02 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#150 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
父はバーチャルワールド制作会社の社員で、オンラインゲームのイベント管理やバグの対処などをしていた。
姉も父のサポート役として会社に勤めていたのでプレイしていた理由も頷ける。
俺はバーチャルワールドに原因があると睨んだ。
それも、二人共やっていた同じゲーム、カオスオブドリームズに。
信憑性は極めて低い。
たかがゲームだ。
だが、手掛かりはこれしかない。
やらなければならない。
真実を突き止めるのだ、俺が。

⏰:08/11/03 16:03 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


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