【コラボ企画】秋のラノベ祭り投下スレ【withイラスト板】
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#96 [紫陽花→渚坂 さいめ]


Get Blue Into Trouble

⏰:08/11/03 14:50 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#97 [紫陽花→渚坂 さいめ]
時は20XX年。

幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。

そんな風景が当たり前の世界で、一人の少年が一つの運命と出会う。

この物語は、私たちの知らないもう一つの世界の物語である。

⏰:08/11/03 14:51 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#98 [紫陽花→渚坂 さいめ]
―――――――…………

―――――………

ある、どんよりとした曇りの日の正午。

憂鬱に広がる曇り空と、その下に一面に広がる草むらが奏でるコントラストは、名もないドラゴン使いの少年の心を分けもなく曇らせていた。

「うぇー。今日も曇りかぁ……」

口をとがらせながらも、少年は思いっきり背伸びをする。

「疲れたなぁー。さぼちゃおっかなぁー……」

このまま倒れ込んで一日中、雲を眺めていたい。

そんな衝動に駆られるが、仕事を放棄するわけにはいかない。

⏰:08/11/03 14:51 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#99 [紫陽花→渚坂 さいめ]
ドラゴン使いと言っても彼は鑑賞用の小さなドラゴンの仕付け役。

ペットのようにドラゴンを飼うことが流行したこの世界では、彼のようなドラゴン使いが需要のあるものとなっていた。

何十匹の赤い小さなドラゴンたちが逃げないように注意しながら、少年は曇り空を見上げる。

「おい、お前!!」

湿っぽい風がゆったりと辺りを流れた時、空を眺めていた少年は一人の青年に呼び止められた。

⏰:08/11/03 14:52 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#100 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇ!?オイラのこと?」

不意に呼び止められた少年は不思議そうに首を右に傾ける。

それもそのはず。

さっきまでこの草原には自分とドラゴン達しかいなかったのだから。

首を傾げたときに茶色の髪の毛がふわりと揺れ、ビー玉のような澄んだ碧い目をパチパチさせる少年は森を駆け回る小動物のよう。

「そうだ。ここにお前以外に誰がいる」

少年より、はるかに背の高い青年は少年を見下ろしながら話す。

⏰:08/11/03 14:53 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#101 [紫陽花→渚坂 さいめ]
だが不思議なことに、服とも言えぬようなボロ布を身に纏っている少年とは打って変わって、背の高い青年はエプロン姿。

さらに左手には鍋つかみに、お玉。

奇妙な格好をした青年は一歩ずつ、少年の近くまで歩み寄る。

「あの……オイラになんのようですか?」

「うむ。特に用はないのだが、お前 名はなんと申す?」

青年 [jpg/24KB]
⏰:08/11/03 14:54 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#102 [紫陽花→渚坂 さいめ]
チラチラとドラゴンが逃げていないかを気にする少年を無視して、青年は左手に持っていたお玉を少年の目の前に突き出して問う。

「名前?オイラに名前なんて……。オイラはただの、しがないドラゴン使いですから」

困ったように笑う少年を見ながら青年は腕を組み、小さく“そうか”と呟いた。

「名が無いのならば、私がつけてやろう!!そうだなぁ……」

「うぇ!?そんな、オイラに名前なんてもったいないです!!」

慌ててあたふたと手を動かし、精一杯の遠慮を見せたものの、青年の思考は止まることを知らない。

⏰:08/11/03 14:55 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#103 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うーむ……レイン……よし!!今日からお前の名は『ブルー・レインウェル』だ!!」

“ブルー”とはお前の瞳の色から、“レインウェル”は『レイン』つまり、雨のように全てのモノを洗い流せるように、という意味だ。

そう言い切った後、青年は満足そうに鼻を鳴らす。

「ブルー・レインウェル……」

「なんだ、雨は嫌いか?」

自分に与えられた名前を噛みしめるように呟く少年に対し、不服でもあるのか、と言いたさげに青年は眉をひそめる。

⏰:08/11/03 14:56 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#104 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「い、いや!!雨は嫌いじゃないです。むしろ好きです!!」

「ならばレインよ、受け取るがいい。我ながら素晴らしいネーミングセンスだ」

またも満足げに鼻を鳴らし、青年は微笑んだ。

そして、最後に一言。

「神である俺様が名を与えたんだからな!!その名に恥じぬように生きるのだぞ」

「はい!!……って、え?」

⏰:08/11/03 14:57 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#105 [紫陽花→渚坂 さいめ]
勢いよく返事をしたレインだったが、一つ彼の頭には疑問が生まれた。

「あなたって神様なんですか?」

「うむ。言ってなかったか?」

たとえドラゴンが轟こうとも、不死鳥が舞おうとも、神がこの地に降りたったというのは前代未聞の事態。

⏰:08/11/03 14:57 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#106 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇ!!初めて神様見ちゃった……」

レインは碧い瞳をより一層大きく見開き、エプロン姿の青年を食い入るように見つめる。

「そう驚くでない。神などそこら辺にゴロゴロいる」

青年はフンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。

「さて、無断で神界を抜けてきたからギードルの奴が怒って迎えにくるだろうな……」

曇り空を見上げフーっとため息吐き、お玉で頭を掻く青年の表情はその若さに似つかわしくないほど疲れ切ったものだった。

神とはそれほど神経を浪費する役割なのだろう。

⏰:08/11/03 14:58 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#107 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「あの、ギードルとは……?」

差し出がましくないように、言葉を選びながらレインは恐る恐る『神』に問う。

「あぁ、俺の秘書だ。まだ学生なんだが、なかなかキレる奴でな。ほら 生意気にもう俺の居場所を見つけやがった」

青年は曇り空の一点を見つめる。つられてレインも空を仰ぐ。

と、同時に雲の切れ間から人影が。

人影はどんどん高度を下げ、先程まで肉眼では確認できなかった格好や容姿も理解できるほどに近づいてきた。

⏰:08/11/03 14:58 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#108 [紫陽花→渚坂 さいめ]
そして黒い学生服の下に着込んだトレーナーのフードを揺らしながら、青年の秘書役であるギードルはこの地に降り立った。

「神様ここにいらしたのですか!!すぐにお戻りください!!城が城が……!!」

ギードルは蒼白な顔をして青年に話しかける。

レインの存在も気付かないほど焦っている様子を見ると、余程の緊急事態なのだろう。

「落ち着け。なにがあったのだ?」

青年はギードルの肩をつかみ、揺さぶるようにして詳細を問う。

⏰:08/11/03 14:59 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#109 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「申し上げます……城が賊に襲われました。怪我人はおりませんが、神界の安定を司る宝玉“亜神の命”が盗まれました」

それだけ言うと下唇をギリギリと噛み、目を伏せた。

「なるほど、お前が焦るのも無理はない。亜神の命を盗むとは……小賢しい賊め。で、その賊の行方は?」

青年はギードルの肩から手を離し、そのまま右手を顎の下に持っていく。

まるで探偵のようなポーズで考え込む姿は、少なくともレインの目に立派な大人の姿に見えた。

⏰:08/11/03 15:00 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#110 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「正確な位置は掴めませんが、居合わせた燕弥(エンビ)に賊の臭いを覚えさせました」

「よし、でかした。燕弥!!そこに隠れているのだろう?出てこい」

そう言って青年はギードルに向かって叫ぶ。

「あぁーもう!!分かってるよ」

青年が叫ぶのと同時にギードルの後ろからひょっこりと少年が飛び出した。

背格好こそレインと変わらないものの、彼の目は少しつり上がり額に小さな傷。

燕弥 [jpg/36KB]
⏰:08/11/03 15:02 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#111 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「何!?ギードルと賊を追いかければいいの!?」

腕を組み、ギードルを顎で指しながら青年と話す燕弥。

態度こそ大きいものの、それを青年が許しているところを見てみれば、互いの信頼が厚いと言うことだろう。

二人の会話を聞きながらレインはそんなことを考えていた。

「いや、お前はここにいるレインと行ってもらう」

⏰:08/11/03 15:02 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#112 [紫陽花→渚坂 さいめ]
ぼーっとしていた頭を一気に覚ますような青年の思いもかけない言葉に、レインは一瞬言葉を失った。

「うぇ!?ななななんでオイラが……」

わたわたと首を振ってみるものの青年は怪しい笑みを浮かべるばかり。

⏰:08/11/03 15:03 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#113 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「すいません……本来、僕が行くべきなんでしょうけど、僕の全てをかけた事件が時効になりそうなんです……」

申し訳なさそうにギードルは頭を下げた。

「事件?時効?ギードルさんは秘書なんじゃ……」

不思議そうにレインは首を傾げる。

「ギードルは18歳にして、学年トップ、秘書役、警視総監、弁護士とか、色んな肩書きを持ってらっしゃるんですよー」

イヤミったらしく、吐き捨てるように燕弥が説明する。

⏰:08/11/03 15:04 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#114 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇー、スゴい……だからってオイラが行かなくても」

「つべこべ言うな。時は一刻の猶予もないのだ。ギードル!!こいつに服と地図を!!」

レインの抗議も無視して話を進める。

こんな独裁主義者がこの世界の神様だなんて、大丈夫なのだろうか。

レインが青年にそんな不安を感じているとはつゆ知らず、ギードルはレインの着ていたボロ布の服を素早くひっぺかし、どこからか現れた新しい服を着せていく。

⏰:08/11/03 15:04 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#115 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うむ、流石コーディネーターの資格を持つギードルだ。なかなか良いではないか」

青年は自分が仕立てたかのように満足げに鼻を鳴らした。

レインの碧い瞳と同じ色の宝石が埋め込まれたベルトに、ボロ布とは違う上等な布で作られた服。

さっきまでのしがないドラゴン使いとは誰も思うまい。

そして、これもどこから取り出したのか青年は一枚の茶色く変色した地図をレインに差し出す。

レイン [jpg/19KB]
⏰:08/11/03 15:06 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#116 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「これがこの世界の地図だ。レイン。“亜神の命”を取り戻してきてくれ」

初めて見せた青年の誠実な態度に驚きながらもレインは地図を受け取った。

「うぅ……。分かりました……」

「よし、それじゃあ出発だ!!なぁに、この燕弥様が付いてんだ。しっかり案内してやんよ!!」

燕弥はケラケラと笑いながら、バシバシとレインの背中を叩く。

こうして、大きな碧い目を持つ少年の長い長い旅は始まった。

⏰:08/11/03 15:07 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


#117 [紫陽花→渚坂 さいめ]
―――――――…………

―――――………

時は20XX年。

幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。

そんな風景が当たり前の世界で、一人の少年が仲間とともに歩き出した。

この物語は、私たちの知らないもう一つの世界の物語。

⏰:08/11/03 15:07 📱:F905i 🆔:WY17HTaw


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