access 〜フロッピーディスクに消えた少女〜
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#31 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
お粥を食べながら、僕は昔、風邪をひいて姉に看病されていたことを思い出していた。
小さい頃、高熱を出した僕に、姉は深夜になってから親戚の目を盗み、試行錯誤しながら一生懸命お粥を作ってくれた。
それが出来上がった時、彼女の手には火傷の後がいくつもできていた。
とても美味しいとは言えない出来ではあったが、僕は姉の心遣いが嬉しかった。
:08/10/26 13:31
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#32 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「彰、あんた、優しくなったね。それに、顔つきも違ってきた」
談話しているうちに、姉にそう言われた。
そうだろうか。
そう思って窓硝子に映る自分の姿をみてみたが、やはり変わらず、死人のような濁った目、生気の感じられない蒼白い顔をしていたので少し落ち込んだ。
:08/10/26 13:32
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#33 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「彼女でもできた?」
姉は期待を孕んだ目で僕をみて訊いてきた。
残念ながら不正解だということを彼女に伝えた。
僕がどうせ女なんて母のように裏切るに決まってる、だから彼女なんてつくらない、と心境を伝えると姉は悲しい顔をした。
:08/10/26 18:10
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#34 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
あまりにも苦しそうな顔をするものだから、僕まで胸が傷んだ。
長い沈黙の後、姉が口を開いた。
「……今更、なんだけどね。私来月に光哉さんと結婚することになったの」
姉は薬指にはめられた指輪を撫でながら言った。
光哉(みつや)とは、姉の婚約者のことである。
:08/10/26 18:11
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#35 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
姉は窓の外に広がる世界の遠くをぼんやりと見つめていた。
「光哉さんはね、小さい頃にご両親を亡くしてから、血縁関係の薄い親戚をたらい回しにされて育ったの」
まるで私達みたいに。
姉は静かに呟いた。
:08/10/26 18:12
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#36 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「けどね、彼は、誰一人として恨んでなんかいなかった。自分を一人残して亡くなったご両親のことも、酷い仕打ちをしてきた親戚のことも、白い目で自分を見てきた世間のことも。それを知らされた時ね、お姉ちゃん、なんだか馬鹿らしくなっちゃった。私達を捨てた、あの二人を恨んでたこと」
そう言って姉は立ち上がり、この後、光哉さんと会う約束があることを告げた。
電話で彼と話す姉は、笑顔が輝いていた。
:08/10/26 18:12
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#37 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
部屋に一人残された僕は何を考えたのか、セーターやらジャンパーやらをしこたま着込み、街を散歩することにした。
部屋の扉を開けると、雪と共に身の千切れそうな冷たい風が僕に吹き付けた。
マフラーに顔を埋める。
熱はまださがっていない。
けれど、だからこそ外の澄んだ空気を吸わなければいけない気がした。
:08/10/26 18:14
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#38 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
熱がさがれば、きっと僕はまた暗い世界へと身を傾けるに違いないから。
*
街を散歩している道中、普段目に止めないようなものが次々と目に入った。
手を繋いで歩く恋人。
両親に抱かれて幸せそうに笑う子供。
街の鮮やかな色彩。
雪のきらめき。
:08/10/26 18:15
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#39 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
姉や光哉さん、竹内芽衣子はこれらをどんな風に感じ、受け止め、記憶しているのだろうかと気になった。
《いつもの僕》なら、これらをまるで悪の手先か何かのように扱っていた。
今の僕は、涙が出そうになるくらい綺麗で尊いものだと感じている。
全く今の僕はおかしい。
いや、きっと風邪のせいなのだろう、風邪とは怖いものだ。
:08/10/26 18:16
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#40 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「こんにちは、彰くん」
竹内芽衣子がドラッグストアのビニール袋を持って現れた。
やあ、竹内さん、と僕は右手を上げて、情けない鼻声と微睡んだ目で挨拶を返した。
「竹内さん、どうしてここに?」
:08/10/26 18:17
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