人生の案内板
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#830 [わをん◇◇]
膝に手をつきながら顔を上げる。
「けど……間に合ったっ!」
正面にはあの公園。そしてベンチには大嫌いだったあの男。わたしは微笑みながら足を引きずって、隣に座った。
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#831 [わをん◇◇]
「あんたさあ、いい加減にしてよね。死んでからもわたしをいじめる気?」
笑ってみせるが、やけに清々(すがすが)しい。孝は静かに正面を見据えつつ、足を組んでいる。馬鹿馬鹿しい。わたしがこんなに一生懸命になるなんて、生きてた時は思ってもいなかった。
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#832 [わをん◇◇]
だが、悪い気分ではない。
「今日はいつもみたいに、退かないからね。答えを聞くまで、粘るよ」
ベンチに身を委ねて空を仰げば、隣から声が響く。
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#833 [わをん◇◇]
「不思議な気分だ」
「……え?」
「千恵がいなくなってから、たまに千恵を近くに感じる時がある」
屋上や公園でのことだろうか。
「いまも」
「うん」
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#834 [わをん◇◇]
しばらく沈黙が続く。ちいさく息を吐いて次の言葉を待った。
「なぁ、」
孝を横目でみる。孝は相変わらず同じ姿勢を保っている。今日はやけに独り言が多いね。いつもより饒舌ではないか。少し黙った孝にわたしは視線を送り続けた。
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#835 [わをん◇◇]
「俺はおまえが嫌いだったよ」
うん。それはわかっていた。世界は灰色に変わる。悲しみも衝撃もない。でも大丈夫。わたしは、気付いてしまったから。
「……で?」
気付いたから、違うんだと、いまは信じれる。
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#836 [わをん◇◇]
「嫌いだって、思ってた。いや、思い込んでた」
ほらね、信じることが出来る。
「あの日の延長線、」
孝は、ひとつひとつ言葉を落としていく。きっとわたしの高鳴りは最高潮に違いない。
:23/01/06 18:51 :Android :pRdUKMH2
#837 [わをん◇◇]
「格好悪いって躊躇(ためら)っていたら、後戻りが出来なくなっていた」
:23/01/06 18:51 :Android :pRdUKMH2
#838 [わをん◇◇]
まただ。またあれが来た。気恥ずかしさがこころを埋めていく。一刻も早くここから去りたい衝動に駆られ、少しずつからだが熱を帯びていく。
:23/01/06 18:52 :Android :pRdUKMH2
#839 [わをん◇◇]
「でも、いまになって俺は、」
でもね、もう大丈夫。逃げ出したりはしないよ。何より大切なものを見付けたから。
:23/01/06 18:52 :Android :pRdUKMH2
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