人生の案内板
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#301 [幸]
……。
もしかしてこの子…。
『私もね、前から聞きたかった
ことがあるの。』
『なんだよ…?』
『あなた、本当に弟を殺したの?』
少年は驚いた顔で私を見た。
:09/01/09 17:16 :W53H :lFHCHULI
#302 [幸]
『…だからここにいるんだよ』
『母さんのため…?
笑わすなよ。
弟を殺した方が…『俺が殺したんだよ!!』
少年はそう言い張った。
『ねぇ、正直に話せば?
お母さん、あなたが
行きたくない場所に
行かせる方がより嫌な思いするよ?』
:09/01/09 17:44 :W53H :lFHCHULI
#303 [幸]
私がそう言うと
少年は大粒の涙を流した。
少年の涙はとても綺麗だった。
『あなた、私と一番最初に
会った時、なんて会話したか
覚えてる?
“あの日だけ、弟を叱る
には殺気を感じた”って
言ってたよね?』
:09/01/09 17:47 :W53H :lFHCHULI
#304 [幸]
『…止めろ』
弱々しく少年はそう言ったが
私は話しを続けた。
『本当は、お母さんが
弟さんを殺害して、
あなたはそれを…
『やめろって言ってんだろ!!』
やはり少年でも男だ。
声変わりをしている、
低い声。
その低い声で怒鳴られると
余計に怖い。
:09/01/09 17:50 :W53H :lFHCHULI
#305 [幸]
『…これ以上、母さんを
苦しまないでくれ…
もう十分苦しんだよ。
弟が産まれて、
自分の両親や夫にも
見捨てられ、ボロボロ
になっていく母親を
もう…
見たくないんだ…。
母さんは頑張ったよ。
頑張って子育てしたよ。』
これが優しさというの?
…言うんだよね
この少年にとって…
:09/01/09 17:55 :W53H :lFHCHULI
#306 [幸]
さらに少年は話を続ける。
『…あんたは身近に
そういう人いないだろ?
だから綺麗事が言えるんだよ。
あんたさぁ、“障害者独立支援法”って
知ってる?』
:09/01/09 17:58 :W53H :lFHCHULI
#307 [幸]
授業で聞いたことがあった法律だ。
『障害者のカ―ドを
健常者が悪用して
お金を取らせないようにするために
作られた法律…。』
『表向きはな。
でも実際、全く違うんだよ。』
:09/01/09 18:00 :W53H :lFHCHULI
#308 [幸]
『どういう意味?』
少年は私の顔をじっと見つめた。
『あんたが言う通り
障害者手帳って言うんだけどね、
それを使用禁止とか
言われたら障害者はとても困ってしまうんだよ。』
『例えば?』
:09/01/16 11:46 :W53H :pMK1Q/zQ
#309 [幸]
『ん―、例えば
耳の不自由な人がさぁ
普通に今まで通り
一定の給料を貰って
働いてたとするじゃん?
それがさぁ、給料が減らされて
しまうんだよ。』
私の胸に何か重りが乗ってるみたいな気分だった。
支援っていう法律なのに
全然支援になってないじゃん。
:09/01/16 11:51 :W53H :pMK1Q/zQ
#310 [幸]
『なんで…?』
こんなこと、授業や
参考書などに載ってるはずがない。
私が知るはずない!!
そう思ったが、
『…ニュース見てないの?』
少年にそう言われ、
気づいた。
:09/01/16 11:53 :W53H :pMK1Q/zQ
#311 [幸]
『障害者が働いている
会社に政府はお金を
余分に与えてるんだ。
ここの会社はバリアフリー
だから…みたいな…
だけど今まで通り与えてた
お金が減らされたんだ。
だから給料も減らされて…
今、“この法律を撤廃せよ”って
デモ行進がすごいじゃん?』
授業でやってなくても
テレビや新聞を見れば
分かるんだよ…。
:09/01/16 11:57 :W53H :pMK1Q/zQ
#312 [幸]
ははは…
私は世の中のこと
全然わかってないじゃん。
じゃあ、なんのために
勉強してたの?
受験するため?
じゃあ、今まで勉強してたことは
世の中に全く通用しないってことなの……?
:09/01/16 11:59 :W53H :pMK1Q/zQ
#313 [幸]
『ねぇ。』
少年が話してきた。
『なんで母さんが弟を
殺したと思ったの?』
『…そう思ったから。』
私は一切、警察の人と
話したことを言わなかった。
:09/01/18 11:41 :W53H :D39xBK4k
#314 [幸]
『証拠がないのに?』
『証拠があれば認めるの?』
『世の中そうだろ』
…やはり母親が……
暫く沈黙が続いた。
:09/01/18 11:43 :W53H :D39xBK4k
#315 [幸]
『おい、もうそろそろいいか?』
警察の声で少年は
深々とおじぎをし、
部屋を出て行った。
私たちは、少年がここから去るのを
見てるしかなかった。
:09/01/18 11:46 :W53H :D39xBK4k
#316 [幸]
『先生―…』
隣に立っていた、高城先生に
話をかけた。
『同じ人間なのに
なぜこんなに差があるのですか?』
答えがほしい…
答えが。
:09/01/18 11:48 :W53H :D39xBK4k
#317 [幸]
『簡単だよ。
それはね、平等じゃないからだよ。』
『えっ?』
高城先生は悲しそうに笑った。
丁度そこで運よく
5時間目の始まりの鐘が鳴った。
:09/01/18 11:50 :W53H :D39xBK4k
#318 [幸]
平等……
昔は身分の差別があった。
今は昔よりはそれがなくなった。
でも金持ちとの差が激しい。
それは資本主義社会だから。
じゃあ‘子供’は?
障害者の子供がいると
いないだけで
こんなにも差があるのか?
:09/01/18 11:53 :W53H :D39xBK4k
#319 [幸]
…おかしいね。
子供はみんな同じなのに。
授業なんて受けたくなかった。
授業中、それしか考えなかった。
:09/01/18 11:55 :W53H :D39xBK4k
#320 [幸]
『あっ鮎川!!』
帰り道、小早川君に声をかけられた。
『なに?』
『俺さぁ見ちゃったんだよね。』
:09/01/18 11:57 :W53H :D39xBK4k
#321 [幸]
『何を?』
『あの少年。テレビで
やってた。
障害の弟を殺害したんだろ?
なんでそいつが鮎川に?』
小早川君ならどうするかな?
この難問をあなたなら
解いてくれるのかしら?
:09/01/18 12:00 :W53H :D39xBK4k
#322 [幸]
『障害者なんていなければいいのに…』
小早川君はあまりにも
サラッと言ったから
私は‘もう一回言って’と
言いたくなった。
『…なんで……?』
いなければいい…
つまり、死ねっていうこと?
死ねって、そんなに
サラッと言うもの?
:09/01/18 12:55 :W53H :D39xBK4k
#323 [幸]
『その少年だって
障害者がいるから殺害
したんだろ?
じゃあ、いない方がましだよ。』
私は何も言えなかった。
さらに小早川君の話しは続く。
:09/01/18 12:57 :W53H :D39xBK4k
#324 [幸]
『障害者を支えなければ
いけないじゃん?
俺ら……いや、働いてる人は。
しかも今は障害者の数が
増えてるしね。
真面目に働いてる人は
これから大変になる。
障害者の他に高齢者もいるしね。
負担者を殺害すればいいのに。
そうすれば、不景気の時
障害者も高齢者も苦しまないじゃん?』
小早川君がこういう考えを持ってたんだ…。
:09/01/18 13:00 :W53H :D39xBK4k
#325 [幸]
『そ…それじゃあ
憲法に反する!!
25条の生存権に……』
何か言い返したかった。
そうしなければ
小早川君の言うことを
納得してしまう自分が
怖かったからだ。
:09/01/18 13:03 :W53H :D39xBK4k
#326 [幸]
『綺麗事なんだよ…
憲法に反することとか…
今まで日本はしてきたから。
てか、時には破らなければ
どうにもできないことが
あるだろ?
世の中は全て綺麗事じゃ通らないんだよ!!』
…これが…現実か…
私は‘ごめん’と言い
その場から走り去った。
:09/01/18 13:07 :W53H :D39xBK4k
#327 [幸]
想像しなかった。
小早川君があんな事を
言うなんて……
死ねだなんて…。
お腹の中にずうっと
育てられ、生まれたら
障害を持ってたら
殺せ………
なんて勝手なんだよ…
でもそれに対して何も言えない
私はもっと……
:09/01/18 13:10 :W53H :D39xBK4k
#328 [幸]
死角の曲がり角を曲がった時、
走ってたせいか、激しく
ぶつかった。
おでこを触ると
漫画のたんこぶのように
腫れていた。
いったぁ…
涙がでてきた…
なぜだろう。
おでこより胸が痛いのは。
:09/01/18 13:13 :W53H :D39xBK4k
#329 [幸]
‘会うたびに泣いてるね’
そう書かれたノートが
目の前に現れた。
顔を上げてみると
かけるがいた。
恥ずかしくなって
下を向いた。
:09/01/18 13:15 :W53H :D39xBK4k
#330 [幸]
ひょいと、かけるの顔
が現れた。
びっくりして、一歩退いた。
普通人が下向いてる時
覗くかぁ!?
私がそう思っていると、
ノートがでてきた
:09/01/18 13:18 :W53H :D39xBK4k
#331 [幸]
‘すごいたんこぶだね
どうしたね?’
……
あんたのせいだ!!
と、私は乱暴に書いた。
するとかけるは
自分の手提げの袋をあさり、
‘ああ、楽譜かぁ。
いやぁごめん。’
:09/01/18 13:20 :W53H :D39xBK4k
#332 [幸]
と、ノートに書いた。
楽譜……
ピアノ弾けるのかな…?
そう思った。
するとかけるは私の手を掴み、
‘ついて来て’
と口パクで言った。
:09/01/18 13:22 :W53H :D39xBK4k
#333 [幸]
タッタッタッ…
走る音。
私はおどおどしながらも
かけると走った。
なぜか周りのことなど
気にしなかった。
2人だけの世界にいるみたいだった。
:09/01/18 13:25 :W53H :D39xBK4k
#334 [幸]
知らないレストランに入った。
そこは高級感が溢れてた。
すると、40代くらいの
男性が出てきた。
『やあ、かける君。
ん…隣の女の子……
もしや…』
男性は手話をしながら声をだして話した。
:09/01/18 13:27 :W53H :D39xBK4k
#335 [幸]
‘まさか’
かけるは手話でそう言った。
当時、手話もできない私には
なんて言ったのか
全く分からなかった。
『すごいたんこぶだね。
かけるくん、女の子には
優しくしなきゃ。』
そう男性が言った。
‘俺のせいじゃない。’
:09/01/18 13:30 :W53H :D39xBK4k
#336 [幸]
『でも、手当てぐらいは
してきなさいよ。』
‘もうすぐ仕事なんだよ
だからじじさんが代わりに
手当てしてよ’
『そのためにこの子と
一緒に来たのかよ。』
‘まあね、
じゃあ着替えてくる’
:09/01/18 13:32 :W53H :D39xBK4k
#337 [幸]
かけるは楽譜を持って
奥の方に行った。
『やあ、いらっしゃい
さっき手話でね、
かけるに手当てしてって
頼まれたから手当てするか。』
男性はそう言うと
救急箱を取り出し
私のおでこに湿布を貼ってくれた。
:09/01/18 13:34 :W53H :D39xBK4k
#338 [幸]
『じゃあ、これで失礼します。
湿布、ありがとうございました。』
私はそう言うと、
『せっかくだから
かけるのピアノ聞いたら?
かけるのピアノは凄いよ〜
それに、俺の楽譜が
あなたに傷を負わし
ちゃったからお詫びに
おごってあげるって。』
と男性が言った。
:09/01/18 13:47 :W53H :D39xBK4k
#339 [幸]
ピアノ……
するとかけるがス―ツ
みたいな洋服を着、
楽譜を持って現れた。
そして優しく、強く
弾いた。
レストランの中にいた客は
ゆっくり、その音楽に
耳をすましていた。
『きれぃ……』
思わず口に出した。
:09/01/18 14:04 :W53H :D39xBK4k
#340 [幸]
『かけるは一時期、
音大にスカウトされたんだ。
でも、小説を書きたいって言って
音大を蹴ったらしいよ。
ちなみにこの曲は
かけるが自分で作曲した…
“耳なしほういち”だよ』
『そうなんですか…』
:09/01/18 14:08 :W53H :D39xBK4k
#341 [幸]
男性がこれしき何も
言わずに仕事をした。
ああ、なんて綺麗なのだろう。
私の濁った心が綺麗に
洗い流されるよいな…
私はずうっとこの曲を聞いていた。
:09/01/18 14:10 :W53H :D39xBK4k
#342 [幸]
『何時まで平気なの?』
男性がそう聞いた。
この声に我に返った。
気がつけば7時を回っていた
『あっ…まぁいいや…』
私はそう言い、
同時にここでご飯を食べたら
帰ろうと思った。
:09/01/18 14:12 :W53H :D39xBK4k
#343 [幸]
『はい、これかけるの
大好きなもの。
ちなみにかけるのおごり。』
そう男性に言われたので
一応男性にお礼を言い
食べた。
:09/01/18 14:15 :W53H :D39xBK4k
#344 [幸]
『やぁかける、ありがとね。
今日はどうしても耳なしほういち
を聞きたいって客から
リクエストされたからね』
私は料理の半分食べ終わると
かけるがやってきた。
‘この時間帯ならなんとか’
:09/01/18 18:04 :W53H :D39xBK4k
#345 [幸]
『でも、もうすぐ大学の
テストじゃないのか?』
‘なんとかなるよ’
かけるは私の隣に座り
‘かなちゃんはいつテストなの?’
とノートに書き、見せた。
:09/01/18 18:07 :W53H :D39xBK4k
#346 [幸]
『私はまだ先だよ』
と言い、書いた。
‘へえ―’
かけるは私の食べてる
残りのご飯を見た。
そして
‘これおいしいだろ?’
と言った。
:09/01/18 18:10 :W53H :D39xBK4k
#347 [幸]
『うん、ありがとね。
なんかおごらせて貰って。』
するとかけるは驚いた顔をした。
そして男性に手話で話しかけた
‘おい、じじさん!!’
『それくらいいいだろ』
男性はそう言いながら笑っていた。
:09/01/18 18:13 :W53H :D39xBK4k
#348 [幸]
『では、今日はありがとうございました。
おいしいご飯に綺麗な音楽。
最高でした。』
私は食べた後、そうお礼した。
『1人で帰るの?
危険だよ。
かける送ってあげなよ。』
男性は手話をしながら
そう言った。
:09/01/18 18:23 :W53H :D39xBK4k
#349 [幸]
‘えっ?なんで俺!?’
『お前が連れてきたんだろ。
借りたものは返すんだよ。』
‘しょうがねぇなあ。’
次にかけるはノートに
‘俺が食べ終わるまで
待ってろ’
と書いた。
:09/01/18 18:25 :W53H :D39xBK4k
#350 [幸]
『そんな、平気だよ』
私はそうノートに書いたが
押しに弱い私はかけるに
送ってもらうことになった。
内心、嬉しかったかも。
:09/01/18 18:27 :W53H :D39xBK4k
#351 [幸]
2人だけでいると
周りの雑音が大きく聞こえる。
“なんで泣いてたの?”
かけるは自分の携帯で
そう打ち、私に見せた。
私は言いたくなかったので
下を向いた。
:09/01/19 12:48 :W53H :stkJuNbg
#352 [幸]
“言いたくない?”
本当にかけるはずるい。
そんな顔で聞かれると
言うしかない。
『13才の少年が障害の弟を
殺害した事件を知ってる?』
と聞いた。
:09/01/19 12:51 :W53H :stkJuNbg
#353 [幸]
“ああ〜あの事件がどうかしたの?”
私は少年のことを話した。
かけるは私が打った文字を
黙って読んだ。
:09/01/19 12:54 :W53H :stkJuNbg
#354 [幸]
“君が泣く必要ないよ
君のせいじゃないから
君は自分がやりたい事をすればいいんだ。”
とても嬉しかったが
私は納得できなかった。
『私ね、夢とかないんだ。
だから人のためになる仕事をしたい…
でもこんな私でも心理学
に興味を持ったの
だから心理学に関わる仕事をしたいんだ。』
:09/01/20 12:54 :W53H :k.nwwmC2
#355 [幸]
するとかけるは私の前に立った。
いつもの優しい顔ではなかった。
見下ろして私を見てたから
余計怖かった。
“かなちゃんは人のために
生きてるの?
違うだろ。”
胸がズ―ン…と鳴ったみたいだった。
:09/01/20 12:59 :W53H :k.nwwmC2
#356 [幸]
図星だったからだ。
かけるは私の本当の気持ちを
察してくれた。
:09/01/20 13:03 :W53H :k.nwwmC2
#357 [幸]
自分も認めたくはないが
そうだと思った。
でも知られたら無性に
腹が立ってきた。
私の何を知ってるの?
何も知らないくせに…
:09/01/21 17:33 :W53H :M3EENPQc
#358 [幸]
『私の勝手でしょ…
これは私の勝手な生き方なの!!』
知ったような口調で言わないで…
“俺は思ったことをただ…”
かけるは驚いてた。
そりゃそうだよね。
:09/01/21 17:35 :W53H :M3EENPQc
#359 [幸]
『…ごめんなさい。
ここでいいよ。
家近いし。
じゃあ、ありがとう。』
そう言って私は走った。
母さんのため…
私は母さんのためにT大
に行こうとした。
自分の人生なのに…。
:09/01/21 17:38 :W53H :M3EENPQc
#360 [幸]
“人ために生きてるの?”
その言葉が邪魔で仕方なかった。
私のこと何も知らないくせに…
私は暫くそう頭で言い続けてた。
すると、あの少年が脳裏に浮かんだ。
:09/01/21 17:40 :W53H :M3EENPQc
#361 [幸]
あっ…
あの少年も私に言われた時
そう思ったのか…。
何も知らないくせに…
今の私と同じ気持ちだったのね。
:09/01/21 17:42 :W53H :M3EENPQc
#362 [幸]
家に帰っても誰もいない。
ついこの前は母さんが
笑ってたのに。
RRR…
突然、電話が鳴りだした。
その音で、母さんの笑顔が
私の頭から消えた。
:09/01/21 17:45 :W53H :M3EENPQc
#363 [幸]
『もしもし?』
『おう、鮎川か!?』
この声は……
『高城先生?
どうしたんですか?』
『L大に行きたいんだろ?
あそこはお前の嫌いな
生物重視だから勉強しときなさい!!』
:09/01/21 17:47 :W53H :M3EENPQc
#364 [幸]
『高城先生……』
『私もね、鮎川と同じ
夢がなかった。
でも、名の知られてる大学さえ卒業すれば
就職するとき、
就職する範囲が広くなるだろ?
でも、鮎川は夢ができた…。
その夢に向かって頑張りなさい。』
…先生……。
:09/01/21 17:50 :W53H :M3EENPQc
#365 [幸]
『はい、ありがとうございます!!』
私は思わず体を深々と下げた。
『諦めるなよ?』
『はい!おやすみなさい』
生物かぁ〜
頑張ろう!!
:09/01/21 17:52 :W53H :M3EENPQc
#366 [幸]
電話を切って、
早速生物を勉強しようとした。
『かな、電話で頭下げても
相手には見えないよ。』
いきなり父さんが現れた。
:09/01/21 17:53 :W53H :M3EENPQc
#367 [幸]
『いつからいたの?』
『今さっき。
ご飯は?』
あっ……
『ごめん、作ってない。』
『え〜』
:09/01/21 17:55 :W53H :M3EENPQc
#368 [幸]
翌日。
『え〜次の模試のため
この時間に志望校を
記入して。』
HRの時、先生にそう言われ
私は第一志望校をL大にした。
:09/01/21 17:58 :W53H :M3EENPQc
#369 [幸]
『おい鮎川。』
休み時間、担任の先生に呼ばれ
相談室に入った。
『お前の頭ならT大に行ける。
なぜL大なんだ?』
こいつは高城先生みたいに
理解してくれなさそう…。
:09/01/21 18:01 :W53H :M3EENPQc
#370 [幸]
『心理学を学びたいんです。』
でも、一応説明をした。
『心理学ぅ!?
まぁ、あそこは有名だからな。
でも心理学ならT大にもあんだろ。
T大じゃダメなの?』
:09/01/21 18:03 :W53H :M3EENPQc
#371 [幸]
『だってL大の方が有名だもん。』
『あのな!!もし論文で
聞かれたらそう答えるのか?』
『論文?』
『あそこは国語がない
代わりに論文なんだよ。』
えええ!?
:09/01/21 18:05 :W53H :M3EENPQc
#372 [幸]
『調べとけよ。
狙ってんだろ?』
『はい!!』
結構理解してくれるじゃん!!
うれしくなった。
:09/01/21 18:07 :W53H :M3EENPQc
#373 [幸]
放課後だった。
ちえみがいつもと違う
雰囲気で私に話しかけたのは…。
『なに?』
私は屋上に呼ばれ
重たい足で登ってきた。
:09/01/21 18:13 :W53H :M3EENPQc
#374 [幸]
『かな…T大に行かないの?
なんで!?あんなに行きたがってたじゃん!?』
『T大より、行きたいと
思った大学があったから…。』
ちえみは何かを言いたさげな表情だった。
:09/01/21 18:15 :W53H :M3EENPQc
#375 [幸]
『ちえみ……?』
『私、かなは羨ましいと思ってた。
いや、嫉妬してた…。
頭いいし、家族仲いいし、運動凄いし…
だから勉強だけは負けたくなかった。
でも、私がどんなに努力しても
かなにはかなわなかった。』
嫉妬………
そんなこと思ってたの?
:09/01/21 18:19 :W53H :M3EENPQc
#376 [幸]
『かなを目標として
今まで勉強してたのに
そのかながランク下げてL大…?
なめてんの?
L大はT大と違って
倍率が低いから入りやすいんだよ。
だからかなならすぐ受かるわ。』
『ちえみはいいよね…。』
言われっぱなしの私じゃない。
言い返してやった。
:09/01/21 18:24 :W53H :M3EENPQc
#377 [幸]
『ちえみは夢があって、
自分の夢のためにT大
を目指して…
でも私は違った。
自分のためにT大を目指してた
わけじゃないの。
でも、ようやく夢見つかったの。
私はその夢のために
L大に行くの。
別に逃げ出したわけじゃないから!!』
ちえみはさらに怒り出した。
:09/01/21 18:28 :W53H :M3EENPQc
#378 [幸]
『私も看護という夢があるわ!!
でもT大を受験する…
私はね、かなと違って
小、中、高ってスライドだったの。
だからT大に入らなきゃいけないの!!』
『でも大学を選ぶにも
最優先したのは小さい頃からの
スライドでしょ?』
外は日が暮れてて
鳥が1羽、速く飛んでいた。
:09/01/21 23:19 :W53H :M3EENPQc
#379 [幸]
『なっ……』
『ちえみはそこまで
看護婦にはなりたいとは
思ってないんじゃないの?』
ここで、こんなところで
友情ってなくなってしまうもんなのかな?
:09/01/21 23:24 :W53H :M3EENPQc
#380 [幸]
かと言って、
ここで私が謝ったら
さっき言ったことが
説得力ないって思われそうだったから
何も言わず去った。
……意見が違うって
大変なんだなぁ。
:09/01/21 23:25 :W53H :M3EENPQc
#381 [幸]
もし、この出来事で
前みたいに話せなくなったら
どうしよう。。。
でもちえみはそんな奴じゃないと思うけど。
かけるも、小早川君も…
なんか最近、ケンカばかりだなぁ。
:09/01/21 23:27 :W53H :M3EENPQc
#382 [幸]
そんなことを考えながら
図書館に行った。
1時間勉強したが、
いつもより集中できなかった。
気晴らしに本を読もうとした。
:09/01/21 23:32 :W53H :M3EENPQc
#383 [幸]
すると“手話”という
文字が見えた。
手話……
手話をできるようになったら
かけると話せる…。
私が振った話のせいで
ケンカになったんだから
私から謝らなきゃ。
:09/01/21 23:33 :W53H :M3EENPQc
#384 [幸]
さっそく席に着き、
やってみた。
おはようございます
こんにちは
さようなら
日常会話をまず覚えよう。
:09/01/21 23:35 :W53H :M3EENPQc
#385 [幸]
私は手話に没頭してしまい、
どんどんページをめくった。
すると、“好き”という文字が目に入った。
こうやって告白するんだなぁ…
と、改めて理解できた。
:09/01/21 23:37 :W53H :M3EENPQc
#386 [幸]
“好き”という言葉は
〜したいという言葉と
同じ動作をする。
へぇ〜…
じゃあもし私がかけるに
告白するとき………
って、私何考えてんだっ!?
:09/01/21 23:38 :W53H :M3EENPQc
#387 [幸]
とりあえず、この本を
借りようと思い、
席を立ったとき
小早川君が私の後ろにいたことに気づいた。
『あっ…鮎川…』
『へっ?』
:09/01/21 23:40 :W53H :M3EENPQc
#388 [幸]
『何してんの?』
『えっ……あっ、そ…』
どうやら私は変な行動をしてたらしい。
私はその本を借り、
小早川君と一緒に帰った。
:09/01/21 23:41 :W53H :M3EENPQc
#389 [幸]
『鮎川!!』
沈黙の中、切り出したのは
小早川君だった。
『この前はごめん!!
俺……』
『違うの…私の方こそ
ごめんなさい…。』
:09/01/21 23:43 :W53H :M3EENPQc
#390 [幸]
『人の意見を勝手に
拒否って…
私の意見が正しいわけじゃないのに。』
そう言って私は歩き出した。
すると小早川君は笑顔で
『これで仲直りだな』
と答えた。
私も笑顔で返事した。
:09/01/21 23:45 :W53H :M3EENPQc
#391 [幸]
『あのさぁ、手話の本を借りて
習得したいの?』
小早川君の突然の質問に驚いた。
でも、なんとか答えた。
『うん、勉強の気晴らしに
手話の本を読んで
日常会話くらいは覚えたいの。』
『なんで?』
『手話で話したいから!!』
:09/01/21 23:48 :W53H :M3EENPQc
#392 [幸]
私は笑顔で言った。
『……誰と?』
小早川君は足を止めて聞いた。
『ん〜私が怪我をした時
ハンカチをくれた人と。』
さすがに本当のことは
言えなかった。
:09/01/21 23:50 :W53H :M3EENPQc
#393 [幸]
『そっかぁ。』
小早川君は再び歩き始めた。
そして、そのまま別れた。
ふと携帯を見てみると、
メールが来ていた。
:09/01/21 23:52 :W53H :M3EENPQc
#394 [幸]
相手はかけるだった。
“今すぐあのレストランに恋。”
うれしかったが
なぜ来いっていう字が恋なんだか。
私は急いでレストランに向かった。
:09/01/21 23:55 :W53H :M3EENPQc
#395 [幸]
『はぁはぁはぁ…。』
レストランの看板には
“準備中”と書いてあった。
私は気にせずに入った。
『やぁ、かなさん。
いらっしゃーい!!』
と、またあの男性がいた。
:09/01/21 23:56 :W53H :M3EENPQc
#396 [幸]
『かけるに呼ばれたんですけど…』
『かけるが聞いてほしいって。』
奥を見ると、かけると
目があった。
その途端、ピアノの演奏が始まった。
:09/01/21 23:59 :W53H :M3EENPQc
#397 [幸]
とても綺麗だった…
イライラしてた気分が
一気に忘れさせてくれる。
かけるのピアノ好きだなぁ。
かけるのピアノは
どこまでも続いていた。
:09/01/22 00:00 :W53H :ORnfeSKs
#398 [幸]
かけるは弾き終わると
私に手話で話しかけてきた。
『‘昨日わごめん!!
このピアノで許して?’だって。』
男性が手話を通訳してくれた。
『平気だよ。
素敵な音楽、ありがと』
かけるは私の口で読んだのか、
ゆっくり笑顔を見せた。
:09/01/22 00:04 :W53H :ORnfeSKs
#399 [幸]
そしてまた手話をした。
『‘家まで送る’だって』
『えっ?いいよ。』
『‘少しぐらい格好つけさせろ’だって。』
『じゃあ、お言葉に甘えて。』
:09/01/22 00:06 :W53H :ORnfeSKs
#400 [幸]
2人でずうっと笑いあってた。
この時間がとても愛しく思えた。
『ごめんね〜。
今日は定休日だったし
かけるがいきなりピアノ
貸してって言うからさ―
ご飯ないの。』
と、男性が言った。
『いいえ、ピアノを
聞くために来たんですから。』
本当はかけると話したかっただけだけど。
:09/01/22 00:11 :W53H :ORnfeSKs
#401 [幸]
『ならよかったぁ。
気をつけてね。』
『はい!!』
『あれ?かなさん、
少し顔、赤くない?』
『そうですか?
走ってきたからだと
思いますよ。』
多分……。
:09/01/22 00:13 :W53H :ORnfeSKs
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