人生の案内板
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#301 [幸]
……。
もしかしてこの子…。



『私もね、前から聞きたかった
ことがあるの。』

『なんだよ…?』


『あなた、本当に弟を殺したの?』



少年は驚いた顔で私を見た。

⏰:09/01/09 17:16 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#302 [幸]
『…だからここにいるんだよ』


『母さんのため…?
笑わすなよ。
弟を殺した方が…『俺が殺したんだよ!!』


少年はそう言い張った。

『ねぇ、正直に話せば?
お母さん、あなたが
行きたくない場所に
行かせる方がより嫌な思いするよ?』

⏰:09/01/09 17:44 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#303 [幸]
私がそう言うと
少年は大粒の涙を流した。


少年の涙はとても綺麗だった。


『あなた、私と一番最初に
会った時、なんて会話したか
覚えてる?

“あの日だけ、弟を叱る
には殺気を感じた”って
言ってたよね?』

⏰:09/01/09 17:47 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#304 [幸]
『…止めろ』


弱々しく少年はそう言ったが
私は話しを続けた。


『本当は、お母さんが
弟さんを殺害して、
あなたはそれを…
『やめろって言ってんだろ!!』



やはり少年でも男だ。
声変わりをしている、
低い声。
その低い声で怒鳴られると
余計に怖い。

⏰:09/01/09 17:50 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#305 [幸]
『…これ以上、母さんを
苦しまないでくれ…
もう十分苦しんだよ。

弟が産まれて、
自分の両親や夫にも
見捨てられ、ボロボロ
になっていく母親を
もう…

見たくないんだ…。
母さんは頑張ったよ。
頑張って子育てしたよ。』



これが優しさというの?
…言うんだよね
この少年にとって…

⏰:09/01/09 17:55 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#306 [幸]
さらに少年は話を続ける。


『…あんたは身近に
そういう人いないだろ?
だから綺麗事が言えるんだよ。


あんたさぁ、“障害者独立支援法”って
知ってる?』

⏰:09/01/09 17:58 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#307 [幸]
授業で聞いたことがあった法律だ。


『障害者のカ―ドを
健常者が悪用して
お金を取らせないようにするために
作られた法律…。』

『表向きはな。
でも実際、全く違うんだよ。』

⏰:09/01/09 18:00 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#308 [幸]
『どういう意味?』




少年は私の顔をじっと見つめた。

『あんたが言う通り
障害者手帳って言うんだけどね、
それを使用禁止とか
言われたら障害者はとても困ってしまうんだよ。』


『例えば?』

⏰:09/01/16 11:46 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#309 [幸]
『ん―、例えば
耳の不自由な人がさぁ
普通に今まで通り
一定の給料を貰って
働いてたとするじゃん?
それがさぁ、給料が減らされて
しまうんだよ。』



私の胸に何か重りが乗ってるみたいな気分だった。


支援っていう法律なのに
全然支援になってないじゃん。

⏰:09/01/16 11:51 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#310 [幸]
『なんで…?』

こんなこと、授業や
参考書などに載ってるはずがない。
私が知るはずない!!


そう思ったが、


『…ニュース見てないの?』


少年にそう言われ、
気づいた。

⏰:09/01/16 11:53 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#311 [幸]
『障害者が働いている
会社に政府はお金を
余分に与えてるんだ。
ここの会社はバリアフリー
だから…みたいな…

だけど今まで通り与えてた
お金が減らされたんだ。
だから給料も減らされて…

今、“この法律を撤廃せよ”って
デモ行進がすごいじゃん?』



授業でやってなくても
テレビや新聞を見れば
分かるんだよ…。

⏰:09/01/16 11:57 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#312 [幸]
ははは…
私は世の中のこと
全然わかってないじゃん。


じゃあ、なんのために
勉強してたの?
受験するため?

じゃあ、今まで勉強してたことは
世の中に全く通用しないってことなの……?

⏰:09/01/16 11:59 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#313 [幸]
『ねぇ。』


少年が話してきた。

『なんで母さんが弟を
殺したと思ったの?』



『…そう思ったから。』


私は一切、警察の人と
話したことを言わなかった。

⏰:09/01/18 11:41 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#314 [幸]
『証拠がないのに?』



『証拠があれば認めるの?』


『世の中そうだろ』



…やはり母親が……

暫く沈黙が続いた。

⏰:09/01/18 11:43 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#315 [幸]
『おい、もうそろそろいいか?』



警察の声で少年は
深々とおじぎをし、
部屋を出て行った。



私たちは、少年がここから去るのを
見てるしかなかった。

⏰:09/01/18 11:46 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#316 [幸]
『先生―…』


隣に立っていた、高城先生に
話をかけた。


『同じ人間なのに
なぜこんなに差があるのですか?』



答えがほしい…
答えが。

⏰:09/01/18 11:48 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#317 [幸]
『簡単だよ。
それはね、平等じゃないからだよ。』


『えっ?』



高城先生は悲しそうに笑った。



丁度そこで運よく
5時間目の始まりの鐘が鳴った。

⏰:09/01/18 11:50 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#318 [幸]
平等……
昔は身分の差別があった。
今は昔よりはそれがなくなった。



でも金持ちとの差が激しい。
それは資本主義社会だから。


じゃあ‘子供’は?
障害者の子供がいると
いないだけで
こんなにも差があるのか?

⏰:09/01/18 11:53 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#319 [幸]
…おかしいね。
子供はみんな同じなのに。




授業なんて受けたくなかった。
授業中、それしか考えなかった。

⏰:09/01/18 11:55 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#320 [幸]
『あっ鮎川!!』




帰り道、小早川君に声をかけられた。

『なに?』



『俺さぁ見ちゃったんだよね。』

⏰:09/01/18 11:57 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#321 [幸]
『何を?』
『あの少年。テレビで
やってた。
障害の弟を殺害したんだろ?

なんでそいつが鮎川に?』




小早川君ならどうするかな?
この難問をあなたなら
解いてくれるのかしら?

⏰:09/01/18 12:00 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#322 [幸]
『障害者なんていなければいいのに…』



小早川君はあまりにも
サラッと言ったから
私は‘もう一回言って’と
言いたくなった。


『…なんで……?』


いなければいい…
つまり、死ねっていうこと?


死ねって、そんなに
サラッと言うもの?

⏰:09/01/18 12:55 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#323 [幸]
『その少年だって
障害者がいるから殺害
したんだろ?

じゃあ、いない方がましだよ。』



私は何も言えなかった。
さらに小早川君の話しは続く。

⏰:09/01/18 12:57 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#324 [幸]
『障害者を支えなければ
いけないじゃん?
俺ら……いや、働いてる人は。


しかも今は障害者の数が
増えてるしね。
真面目に働いてる人は
これから大変になる。
障害者の他に高齢者もいるしね。

負担者を殺害すればいいのに。

そうすれば、不景気の時
障害者も高齢者も苦しまないじゃん?』




小早川君がこういう考えを持ってたんだ…。

⏰:09/01/18 13:00 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#325 [幸]
『そ…それじゃあ
憲法に反する!!
25条の生存権に……』


何か言い返したかった。
そうしなければ
小早川君の言うことを
納得してしまう自分が
怖かったからだ。

⏰:09/01/18 13:03 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#326 [幸]
『綺麗事なんだよ…
憲法に反することとか…
今まで日本はしてきたから。
てか、時には破らなければ
どうにもできないことが
あるだろ?

世の中は全て綺麗事じゃ通らないんだよ!!』




…これが…現実か…
私は‘ごめん’と言い
その場から走り去った。

⏰:09/01/18 13:07 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#327 [幸]
想像しなかった。
小早川君があんな事を
言うなんて……

死ねだなんて…。



お腹の中にずうっと
育てられ、生まれたら
障害を持ってたら
殺せ………

なんて勝手なんだよ…

でもそれに対して何も言えない
私はもっと……

⏰:09/01/18 13:10 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#328 [幸]
死角の曲がり角を曲がった時、
走ってたせいか、激しく
ぶつかった。




おでこを触ると
漫画のたんこぶのように
腫れていた。

いったぁ…
涙がでてきた…


なぜだろう。
おでこより胸が痛いのは。

⏰:09/01/18 13:13 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#329 [幸]
‘会うたびに泣いてるね’

そう書かれたノートが
目の前に現れた。



顔を上げてみると
かけるがいた。

恥ずかしくなって
下を向いた。

⏰:09/01/18 13:15 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#330 [幸]
ひょいと、かけるの顔
が現れた。


びっくりして、一歩退いた。



普通人が下向いてる時
覗くかぁ!?

私がそう思っていると、
ノートがでてきた

⏰:09/01/18 13:18 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#331 [幸]
‘すごいたんこぶだね
どうしたね?’


……
あんたのせいだ!!


と、私は乱暴に書いた。

するとかけるは
自分の手提げの袋をあさり、

‘ああ、楽譜かぁ。
いやぁごめん。’

⏰:09/01/18 13:20 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#332 [幸]
と、ノートに書いた。



楽譜……
ピアノ弾けるのかな…?

そう思った。
するとかけるは私の手を掴み、

‘ついて来て’
と口パクで言った。

⏰:09/01/18 13:22 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#333 [幸]
タッタッタッ…
走る音。

私はおどおどしながらも
かけると走った。



なぜか周りのことなど
気にしなかった。
2人だけの世界にいるみたいだった。

⏰:09/01/18 13:25 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#334 [幸]
知らないレストランに入った。
そこは高級感が溢れてた。


すると、40代くらいの
男性が出てきた。

『やあ、かける君。
ん…隣の女の子……
もしや…』


男性は手話をしながら声をだして話した。

⏰:09/01/18 13:27 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#335 [幸]
‘まさか’


かけるは手話でそう言った。
当時、手話もできない私には
なんて言ったのか
全く分からなかった。



『すごいたんこぶだね。
かけるくん、女の子には
優しくしなきゃ。』


そう男性が言った。


‘俺のせいじゃない。’

⏰:09/01/18 13:30 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#336 [幸]
『でも、手当てぐらいは
してきなさいよ。』


‘もうすぐ仕事なんだよ
だからじじさんが代わりに
手当てしてよ’


『そのためにこの子と
一緒に来たのかよ。』


‘まあね、
じゃあ着替えてくる’

⏰:09/01/18 13:32 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#337 [幸]
かけるは楽譜を持って
奥の方に行った。


『やあ、いらっしゃい
さっき手話でね、
かけるに手当てしてって
頼まれたから手当てするか。』



男性はそう言うと
救急箱を取り出し
私のおでこに湿布を貼ってくれた。

⏰:09/01/18 13:34 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#338 [幸]
『じゃあ、これで失礼します。
湿布、ありがとうございました。』


私はそう言うと、


『せっかくだから
かけるのピアノ聞いたら?
かけるのピアノは凄いよ〜

それに、俺の楽譜が
あなたに傷を負わし
ちゃったからお詫びに
おごってあげるって。』

と男性が言った。

⏰:09/01/18 13:47 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#339 [幸]
ピアノ……
するとかけるがス―ツ
みたいな洋服を着、
楽譜を持って現れた。




そして優しく、強く
弾いた。

レストランの中にいた客は
ゆっくり、その音楽に
耳をすましていた。


『きれぃ……』



思わず口に出した。

⏰:09/01/18 14:04 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#340 [幸]
『かけるは一時期、
音大にスカウトされたんだ。

でも、小説を書きたいって言って
音大を蹴ったらしいよ。
ちなみにこの曲は
かけるが自分で作曲した…
“耳なしほういち”だよ』



『そうなんですか…』

⏰:09/01/18 14:08 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#341 [幸]
男性がこれしき何も
言わずに仕事をした。


ああ、なんて綺麗なのだろう。

私の濁った心が綺麗に
洗い流されるよいな…



私はずうっとこの曲を聞いていた。

⏰:09/01/18 14:10 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#342 [幸]
『何時まで平気なの?』

男性がそう聞いた。
この声に我に返った。

気がつけば7時を回っていた

『あっ…まぁいいや…』


私はそう言い、
同時にここでご飯を食べたら
帰ろうと思った。

⏰:09/01/18 14:12 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#343 [幸]
『はい、これかけるの
大好きなもの。
ちなみにかけるのおごり。』



そう男性に言われたので
一応男性にお礼を言い
食べた。

⏰:09/01/18 14:15 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#344 [幸]
『やぁかける、ありがとね。
今日はどうしても耳なしほういち
を聞きたいって客から
リクエストされたからね』



私は料理の半分食べ終わると
かけるがやってきた。


‘この時間帯ならなんとか’

⏰:09/01/18 18:04 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#345 [幸]
『でも、もうすぐ大学の
テストじゃないのか?』

‘なんとかなるよ’




かけるは私の隣に座り

‘かなちゃんはいつテストなの?’


とノートに書き、見せた。

⏰:09/01/18 18:07 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#346 [幸]
『私はまだ先だよ』

と言い、書いた。



‘へえ―’


かけるは私の食べてる
残りのご飯を見た。
そして

‘これおいしいだろ?’

と言った。

⏰:09/01/18 18:10 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#347 [幸]
『うん、ありがとね。
なんかおごらせて貰って。』



するとかけるは驚いた顔をした。

そして男性に手話で話しかけた

‘おい、じじさん!!’


『それくらいいいだろ』


男性はそう言いながら笑っていた。

⏰:09/01/18 18:13 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#348 [幸]
『では、今日はありがとうございました。

おいしいご飯に綺麗な音楽。
最高でした。』


私は食べた後、そうお礼した。



『1人で帰るの?
危険だよ。
かける送ってあげなよ。』

男性は手話をしながら
そう言った。

⏰:09/01/18 18:23 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#349 [幸]
‘えっ?なんで俺!?’


『お前が連れてきたんだろ。

借りたものは返すんだよ。』


‘しょうがねぇなあ。’


次にかけるはノートに

‘俺が食べ終わるまで
待ってろ’

と書いた。

⏰:09/01/18 18:25 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#350 [幸]
『そんな、平気だよ』


私はそうノートに書いたが
押しに弱い私はかけるに
送ってもらうことになった。




内心、嬉しかったかも。

⏰:09/01/18 18:27 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#351 [幸]
2人だけでいると
周りの雑音が大きく聞こえる。



“なんで泣いてたの?”

かけるは自分の携帯で
そう打ち、私に見せた。

私は言いたくなかったので
下を向いた。

⏰:09/01/19 12:48 📱:W53H 🆔:stkJuNbg


#352 [幸]
“言いたくない?”



本当にかけるはずるい。
そんな顔で聞かれると
言うしかない。


『13才の少年が障害の弟を
殺害した事件を知ってる?』


と聞いた。

⏰:09/01/19 12:51 📱:W53H 🆔:stkJuNbg


#353 [幸]
“ああ〜あの事件がどうかしたの?”


私は少年のことを話した。

かけるは私が打った文字を
黙って読んだ。

⏰:09/01/19 12:54 📱:W53H 🆔:stkJuNbg


#354 [幸]
“君が泣く必要ないよ
君のせいじゃないから

君は自分がやりたい事をすればいいんだ。”



とても嬉しかったが
私は納得できなかった。

『私ね、夢とかないんだ。
だから人のためになる仕事をしたい…

でもこんな私でも心理学
に興味を持ったの
だから心理学に関わる仕事をしたいんだ。』

⏰:09/01/20 12:54 📱:W53H 🆔:k.nwwmC2


#355 [幸]
するとかけるは私の前に立った。

いつもの優しい顔ではなかった。
見下ろして私を見てたから
余計怖かった。




“かなちゃんは人のために
生きてるの?
違うだろ。”


胸がズ―ン…と鳴ったみたいだった。

⏰:09/01/20 12:59 📱:W53H 🆔:k.nwwmC2


#356 [幸]
図星だったからだ。



かけるは私の本当の気持ちを
察してくれた。

⏰:09/01/20 13:03 📱:W53H 🆔:k.nwwmC2


#357 [幸]
自分も認めたくはないが
そうだと思った。



でも知られたら無性に
腹が立ってきた。
私の何を知ってるの?

何も知らないくせに…

⏰:09/01/21 17:33 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#358 [幸]
『私の勝手でしょ…
これは私の勝手な生き方なの!!』



知ったような口調で言わないで…


“俺は思ったことをただ…”



かけるは驚いてた。
そりゃそうだよね。

⏰:09/01/21 17:35 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#359 [幸]
『…ごめんなさい。
ここでいいよ。
家近いし。
じゃあ、ありがとう。』


そう言って私は走った。

母さんのため…
私は母さんのためにT大
に行こうとした。

自分の人生なのに…。

⏰:09/01/21 17:38 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#360 [幸]
“人ために生きてるの?”


その言葉が邪魔で仕方なかった。




私のこと何も知らないくせに…

私は暫くそう頭で言い続けてた。



すると、あの少年が脳裏に浮かんだ。

⏰:09/01/21 17:40 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#361 [幸]
あっ…
あの少年も私に言われた時
そう思ったのか…。


何も知らないくせに…



今の私と同じ気持ちだったのね。

⏰:09/01/21 17:42 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#362 [幸]
家に帰っても誰もいない。


ついこの前は母さんが
笑ってたのに。




RRR…
突然、電話が鳴りだした。

その音で、母さんの笑顔が
私の頭から消えた。

⏰:09/01/21 17:45 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#363 [幸]
『もしもし?』
『おう、鮎川か!?』


この声は……


『高城先生?
どうしたんですか?』

『L大に行きたいんだろ?
あそこはお前の嫌いな
生物重視だから勉強しときなさい!!』

⏰:09/01/21 17:47 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#364 [幸]
『高城先生……』
『私もね、鮎川と同じ
夢がなかった。

でも、名の知られてる大学さえ卒業すれば
就職するとき、
就職する範囲が広くなるだろ?

でも、鮎川は夢ができた…。
その夢に向かって頑張りなさい。』



…先生……。

⏰:09/01/21 17:50 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#365 [幸]
『はい、ありがとうございます!!』



私は思わず体を深々と下げた。


『諦めるなよ?』
『はい!おやすみなさい』



生物かぁ〜
頑張ろう!!

⏰:09/01/21 17:52 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#366 [幸]
電話を切って、
早速生物を勉強しようとした。



『かな、電話で頭下げても
相手には見えないよ。』
いきなり父さんが現れた。

⏰:09/01/21 17:53 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#367 [幸]
『いつからいたの?』

『今さっき。
ご飯は?』



あっ……
『ごめん、作ってない。』

『え〜』

⏰:09/01/21 17:55 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#368 [幸]
翌日。

『え〜次の模試のため
この時間に志望校を
記入して。』



HRの時、先生にそう言われ
私は第一志望校をL大にした。

⏰:09/01/21 17:58 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#369 [幸]
『おい鮎川。』


休み時間、担任の先生に呼ばれ
相談室に入った。



『お前の頭ならT大に行ける。
なぜL大なんだ?』

こいつは高城先生みたいに
理解してくれなさそう…。

⏰:09/01/21 18:01 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#370 [幸]
『心理学を学びたいんです。』


でも、一応説明をした。


『心理学ぅ!?
まぁ、あそこは有名だからな。
でも心理学ならT大にもあんだろ。
T大じゃダメなの?』

⏰:09/01/21 18:03 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#371 [幸]
『だってL大の方が有名だもん。』


『あのな!!もし論文で
聞かれたらそう答えるのか?』



『論文?』
『あそこは国語がない
代わりに論文なんだよ。』



えええ!?

⏰:09/01/21 18:05 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#372 [幸]
『調べとけよ。
狙ってんだろ?』


『はい!!』



結構理解してくれるじゃん!!

うれしくなった。

⏰:09/01/21 18:07 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#373 [幸]
放課後だった。
ちえみがいつもと違う
雰囲気で私に話しかけたのは…。



『なに?』

私は屋上に呼ばれ
重たい足で登ってきた。

⏰:09/01/21 18:13 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#374 [幸]
『かな…T大に行かないの?
なんで!?あんなに行きたがってたじゃん!?』



『T大より、行きたいと
思った大学があったから…。』


ちえみは何かを言いたさげな表情だった。

⏰:09/01/21 18:15 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#375 [幸]
『ちえみ……?』


『私、かなは羨ましいと思ってた。
いや、嫉妬してた…。

頭いいし、家族仲いいし、運動凄いし…

だから勉強だけは負けたくなかった。
でも、私がどんなに努力しても
かなにはかなわなかった。』


嫉妬………
そんなこと思ってたの?

⏰:09/01/21 18:19 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#376 [幸]
『かなを目標として
今まで勉強してたのに
そのかながランク下げてL大…?
なめてんの?


L大はT大と違って
倍率が低いから入りやすいんだよ。
だからかなならすぐ受かるわ。』



『ちえみはいいよね…。』


言われっぱなしの私じゃない。
言い返してやった。

⏰:09/01/21 18:24 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#377 [幸]
『ちえみは夢があって、
自分の夢のためにT大
を目指して…
でも私は違った。

自分のためにT大を目指してた
わけじゃないの。

でも、ようやく夢見つかったの。
私はその夢のために
L大に行くの。
別に逃げ出したわけじゃないから!!』



ちえみはさらに怒り出した。

⏰:09/01/21 18:28 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#378 [幸]
『私も看護という夢があるわ!!
でもT大を受験する…

私はね、かなと違って
小、中、高ってスライドだったの。

だからT大に入らなきゃいけないの!!』



『でも大学を選ぶにも
最優先したのは小さい頃からの
スライドでしょ?』


外は日が暮れてて
鳥が1羽、速く飛んでいた。

⏰:09/01/21 23:19 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#379 [幸]
『なっ……』
『ちえみはそこまで
看護婦にはなりたいとは
思ってないんじゃないの?』




ここで、こんなところで
友情ってなくなってしまうもんなのかな?

⏰:09/01/21 23:24 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#380 [幸]
かと言って、
ここで私が謝ったら
さっき言ったことが
説得力ないって思われそうだったから

何も言わず去った。




……意見が違うって
大変なんだなぁ。

⏰:09/01/21 23:25 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#381 [幸]
もし、この出来事で
前みたいに話せなくなったら
どうしよう。。。
でもちえみはそんな奴じゃないと思うけど。




かけるも、小早川君も…
なんか最近、ケンカばかりだなぁ。

⏰:09/01/21 23:27 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#382 [幸]
そんなことを考えながら
図書館に行った。



1時間勉強したが、
いつもより集中できなかった。

気晴らしに本を読もうとした。

⏰:09/01/21 23:32 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#383 [幸]
すると“手話”という
文字が見えた。


手話……
手話をできるようになったら
かけると話せる…。



私が振った話のせいで
ケンカになったんだから
私から謝らなきゃ。

⏰:09/01/21 23:33 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#384 [幸]
さっそく席に着き、
やってみた。



おはようございます
こんにちは
さようなら


日常会話をまず覚えよう。

⏰:09/01/21 23:35 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#385 [幸]
私は手話に没頭してしまい、
どんどんページをめくった。



すると、“好き”という文字が目に入った。



こうやって告白するんだなぁ…
と、改めて理解できた。

⏰:09/01/21 23:37 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#386 [幸]
“好き”という言葉は
〜したいという言葉と
同じ動作をする。



へぇ〜…
じゃあもし私がかけるに
告白するとき………


って、私何考えてんだっ!?

⏰:09/01/21 23:38 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#387 [幸]
とりあえず、この本を
借りようと思い、
席を立ったとき

小早川君が私の後ろにいたことに気づいた。




『あっ…鮎川…』
『へっ?』

⏰:09/01/21 23:40 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#388 [幸]
『何してんの?』
『えっ……あっ、そ…』


どうやら私は変な行動をしてたらしい。


私はその本を借り、
小早川君と一緒に帰った。

⏰:09/01/21 23:41 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#389 [幸]
『鮎川!!』


沈黙の中、切り出したのは
小早川君だった。



『この前はごめん!!
俺……』

『違うの…私の方こそ
ごめんなさい…。』

⏰:09/01/21 23:43 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#390 [幸]
『人の意見を勝手に
拒否って…
私の意見が正しいわけじゃないのに。』



そう言って私は歩き出した。

すると小早川君は笑顔で

『これで仲直りだな』


と答えた。
私も笑顔で返事した。

⏰:09/01/21 23:45 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#391 [幸]
『あのさぁ、手話の本を借りて
習得したいの?』



小早川君の突然の質問に驚いた。
でも、なんとか答えた。

『うん、勉強の気晴らしに
手話の本を読んで
日常会話くらいは覚えたいの。』


『なんで?』
『手話で話したいから!!』

⏰:09/01/21 23:48 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#392 [幸]
私は笑顔で言った。


『……誰と?』




小早川君は足を止めて聞いた。


『ん〜私が怪我をした時
ハンカチをくれた人と。』



さすがに本当のことは
言えなかった。

⏰:09/01/21 23:50 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#393 [幸]
『そっかぁ。』


小早川君は再び歩き始めた。



そして、そのまま別れた。

ふと携帯を見てみると、
メールが来ていた。

⏰:09/01/21 23:52 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#394 [幸]
相手はかけるだった。



“今すぐあのレストランに恋。”



うれしかったが
なぜ来いっていう字が恋なんだか。

私は急いでレストランに向かった。

⏰:09/01/21 23:55 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#395 [幸]
『はぁはぁはぁ…。』



レストランの看板には
“準備中”と書いてあった。


私は気にせずに入った。


『やぁ、かなさん。
いらっしゃーい!!』

と、またあの男性がいた。

⏰:09/01/21 23:56 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#396 [幸]
『かけるに呼ばれたんですけど…』


『かけるが聞いてほしいって。』




奥を見ると、かけると
目があった。

その途端、ピアノの演奏が始まった。

⏰:09/01/21 23:59 📱:W53H 🆔:M3EENPQc


#397 [幸]
とても綺麗だった…
イライラしてた気分が
一気に忘れさせてくれる。


かけるのピアノ好きだなぁ。




かけるのピアノは
どこまでも続いていた。

⏰:09/01/22 00:00 📱:W53H 🆔:ORnfeSKs


#398 [幸]
かけるは弾き終わると
私に手話で話しかけてきた。



『‘昨日わごめん!!
このピアノで許して?’だって。』

男性が手話を通訳してくれた。



『平気だよ。
素敵な音楽、ありがと』

かけるは私の口で読んだのか、
ゆっくり笑顔を見せた。

⏰:09/01/22 00:04 📱:W53H 🆔:ORnfeSKs


#399 [幸]
そしてまた手話をした。


『‘家まで送る’だって』


『えっ?いいよ。』

『‘少しぐらい格好つけさせろ’だって。』


『じゃあ、お言葉に甘えて。』

⏰:09/01/22 00:06 📱:W53H 🆔:ORnfeSKs


#400 [幸]
2人でずうっと笑いあってた。
この時間がとても愛しく思えた。



『ごめんね〜。
今日は定休日だったし
かけるがいきなりピアノ
貸してって言うからさ―
ご飯ないの。』



と、男性が言った。

『いいえ、ピアノを
聞くために来たんですから。』


本当はかけると話したかっただけだけど。

⏰:09/01/22 00:11 📱:W53H 🆔:ORnfeSKs


#401 [幸]
『ならよかったぁ。
気をつけてね。』


『はい!!』
『あれ?かなさん、
少し顔、赤くない?』


『そうですか?
走ってきたからだと
思いますよ。』



多分……。

⏰:09/01/22 00:13 📱:W53H 🆔:ORnfeSKs


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