人生の案内板

“人ために生きてるの？”

その言葉が邪魔で仕方なかった。

私のこと何も知らないくせに…

私は暫くそう頭で言い続けてた。

すると、あの少年が脳裏に浮かんだ。

あっ…
あの少年も私に言われた時
そう思ったのか…。

何も知らないくせに…

今の私と同じ気持ちだったのね。

家に帰っても誰もいない。

ついこの前は母さんが
笑ってたのに。

ＲＲＲ…
突然、電話が鳴りだした。

その音で、母さんの笑顔が
私の頭から消えた。

『もしもし？』
『おう、鮎川か!?』

この声は……

『高城先生？
どうしたんですか？』

『Ｌ大に行きたいんだろ？
あそこはお前の嫌いな
生物重視だから勉強しときなさい!!』

『高城先生……』
『私もね、鮎川と同じ
夢がなかった。

でも、名の知られてる大学さえ卒業すれば
就職するとき、
就職する範囲が広くなるだろ？

でも、鮎川は夢ができた…。
その夢に向かって頑張りなさい。』

…先生……。

『はい、ありがとうございます!!』

私は思わず体を深々と下げた。

『諦めるなよ？』
『はい！おやすみなさい』

生物かぁ～
頑張ろう!!

電話を切って、
早速生物を勉強しようとした。

『かな、電話で頭下げても
相手には見えないよ。』
いきなり父さんが現れた。

『いつからいたの？』

『今さっき。
ご飯は？』

あっ……
『ごめん、作ってない。』

『え～』

翌日。

『え～次の模試のため
この時間に志望校を
記入して。』

HRの時、先生にそう言われ
私は第一志望校をＬ大にした。

『おい鮎川。』

休み時間、担任の先生に呼ばれ
相談室に入った。

『お前の頭ならＴ大に行ける。
なぜＬ大なんだ？』

こいつは高城先生みたいに
理解してくれなさそう…。

『心理学を学びたいんです。』

でも、一応説明をした。

『心理学ぅ!?
まぁ、あそこは有名だからな。
でも心理学ならＴ大にもあんだろ。
Ｔ大じゃダメなの？』

『だってＬ大の方が有名だもん。』

『あのな!!もし論文で
聞かれたらそう答えるのか？』

『論文？』
『あそこは国語がない
代わりに論文なんだよ。』

えええ!?

『調べとけよ。
狙ってんだろ？』

『はい!!』

結構理解してくれるじゃん!!

うれしくなった。

放課後だった。
ちえみがいつもと違う
雰囲気で私に話しかけたのは…。

『なに？』

私は屋上に呼ばれ
重たい足で登ってきた。

『かな…Ｔ大に行かないの？
なんで!?あんなに行きたがってたじゃん!?』

『Ｔ大より、行きたいと
思った大学があったから…。』

ちえみは何かを言いたさげな表情だった。

『ちえみ……？』

『私、かなは羨ましいと思ってた。
いや、嫉妬してた…。

頭いいし、家族仲いいし、運動凄いし…

だから勉強だけは負けたくなかった。
でも、私がどんなに努力しても
かなにはかなわなかった。』

嫉妬………
そんなこと思ってたの？

『かなを目標として
今まで勉強してたのに
そのかながランク下げてＬ大…？
なめてんの？

Ｌ大はＴ大と違って
倍率が低いから入りやすいんだよ。
だからかなならすぐ受かるわ。』

『ちえみはいいよね…。』

言われっぱなしの私じゃない。
言い返してやった。

『ちえみは夢があって、
自分の夢のためにＴ大
を目指して…
でも私は違った。

自分のためにＴ大を目指してた
わけじゃないの。

でも、ようやく夢見つかったの。
私はその夢のために
Ｌ大に行くの。
別に逃げ出したわけじゃないから!!』

ちえみはさらに怒り出した。

『私も看護という夢があるわ!!
でもＴ大を受験する…

私はね、かなと違って
小、中、高ってスライドだったの。

だからＴ大に入らなきゃいけないの!!』

『でも大学を選ぶにも
最優先したのは小さい頃からの
スライドでしょ？』

外は日が暮れてて
鳥が１羽、速く飛んでいた。

『なっ……』
『ちえみはそこまで
看護婦にはなりたいとは
思ってないんじゃないの？』

ここで、こんなところで
友情ってなくなってしまうもんなのかな？

かと言って、
ここで私が謝ったら
さっき言ったことが
説得力ないって思われそうだったから

何も言わず去った。

……意見が違うって
大変なんだなぁ。

もし、この出来事で
前みたいに話せなくなったら
どうしよう。。。
でもちえみはそんな奴じゃないと思うけど。

かけるも、小早川君も…
なんか最近、ケンカばかりだなぁ。

そんなことを考えながら
図書館に行った。

１時間勉強したが、
いつもより集中できなかった。

気晴らしに本を読もうとした。

すると“手話”という
文字が見えた。

手話……
手話をできるようになったら
かけると話せる…。

私が振った話のせいで
ケンカになったんだから
私から謝らなきゃ。

さっそく席に着き、
やってみた。

おはようございます
こんにちは
さようなら

日常会話をまず覚えよう。

私は手話に没頭してしまい、
どんどんページをめくった。

すると、“好き”という文字が目に入った。

こうやって告白するんだなぁ…
と、改めて理解できた。

“好き”という言葉は
～したいという言葉と
同じ動作をする。

へぇ～…
じゃあもし私がかけるに
告白するとき………

って、私何考えてんだっ!?

とりあえず、この本を
借りようと思い、
席を立ったとき

小早川君が私の後ろにいたことに気づいた。

『あっ…鮎川…』
『へっ？』

『何してんの？』
『えっ……あっ、そ…』

どうやら私は変な行動をしてたらしい。

私はその本を借り、
小早川君と一緒に帰った。

『鮎川!!』

沈黙の中、切り出したのは
小早川君だった。

『この前はごめん!!
俺……』

『違うの…私の方こそ
ごめんなさい…。』

『人の意見を勝手に
拒否って…
私の意見が正しいわけじゃないのに。』

そう言って私は歩き出した。

すると小早川君は笑顔で

『これで仲直りだな』

と答えた。
私も笑顔で返事した。