人生の案内板
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#830 [わをん◇◇]
膝に手をつきながら顔を上げる。


「けど……間に合ったっ!」

正面にはあの公園。そしてベンチには大嫌いだったあの男。わたしは微笑みながら足を引きずって、隣に座った。

⏰:23/01/06 18:50 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#831 [わをん◇◇]
「あんたさあ、いい加減にしてよね。死んでからもわたしをいじめる気?」

笑ってみせるが、やけに清々(すがすが)しい。孝は静かに正面を見据えつつ、足を組んでいる。馬鹿馬鹿しい。わたしがこんなに一生懸命になるなんて、生きてた時は思ってもいなかった。

⏰:23/01/06 18:50 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#832 [わをん◇◇]
だが、悪い気分ではない。

「今日はいつもみたいに、退かないからね。答えを聞くまで、粘るよ」

ベンチに身を委ねて空を仰げば、隣から声が響く。

⏰:23/01/06 18:50 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#833 [わをん◇◇]
「不思議な気分だ」
「……え?」
「千恵がいなくなってから、たまに千恵を近くに感じる時がある」

 屋上や公園でのことだろうか。

「いまも」
「うん」

⏰:23/01/06 18:51 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#834 [わをん◇◇]
しばらく沈黙が続く。ちいさく息を吐いて次の言葉を待った。

「なぁ、」

孝を横目でみる。孝は相変わらず同じ姿勢を保っている。今日はやけに独り言が多いね。いつもより饒舌ではないか。少し黙った孝にわたしは視線を送り続けた。

⏰:23/01/06 18:51 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#835 [わをん◇◇]
「俺はおまえが嫌いだったよ」


 うん。それはわかっていた。世界は灰色に変わる。悲しみも衝撃もない。でも大丈夫。わたしは、気付いてしまったから。


「……で?」

 気付いたから、違うんだと、いまは信じれる。

⏰:23/01/06 18:51 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#836 [わをん◇◇]
「嫌いだって、思ってた。いや、思い込んでた」

 ほらね、信じることが出来る。


「あの日の延長線、」

孝は、ひとつひとつ言葉を落としていく。きっとわたしの高鳴りは最高潮に違いない。

⏰:23/01/06 18:51 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#837 [わをん◇◇]
「格好悪いって躊躇(ためら)っていたら、後戻りが出来なくなっていた」

⏰:23/01/06 18:51 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#838 [わをん◇◇]
まただ。またあれが来た。気恥ずかしさがこころを埋めていく。一刻も早くここから去りたい衝動に駆られ、少しずつからだが熱を帯びていく。

⏰:23/01/06 18:52 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


#839 [わをん◇◇]
「でも、いまになって俺は、」

 でもね、もう大丈夫。逃げ出したりはしないよ。何より大切なものを見付けたから。

⏰:23/01/06 18:52 📱:Android 🆔:pRdUKMH2


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