冷たい彼女
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#401 [ゆーちん]
「問い詰めたりしなかったの?」

「しない。いちいち疑う為に顔を合わせてる訳じゃないもん。」

「ふーん。」

「まぁ、浮気の1つや2つ、男の特権だよ。私はココロが広いの。その前に大事なこともあるでしょ?」

「…何?」

「父ちゃん、信じてたし。」

⏰:08/12/13 17:22 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#402 [ゆーちん]
その言葉があまりにもずっしり胸に響いた。


「束縛もなかったよ。今の若い子はどうして束縛とかするのかな。理解できないわ。」

「何で?」

「束縛は相手を信じてないからするものだし。」

⏰:08/12/13 17:23 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#403 [ゆーちん]
まただ。


母ちゃんの言葉は、えらく重みがあった。


「でもたまには束縛って言うか、わがまま言ってあげないと悲しむ子もいるみたいだけどね。放っておかれてるって勘違いするみたいだし。」

⏰:08/12/13 17:24 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#404 [ゆーちん]
「40手前になっても恋愛ごとは詳しいんですね。」

「当たり前よ!恋愛は人生の永遠のテーマだもん。」


こういう母親だから、いつも自分の息子の恋愛に首を突っ込んでくんだな。

⏰:08/12/13 17:25 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#405 [ゆーちん]
テーマとか、別に勝手に決めてもらってもいいんだけど、俺にあんまり危害加えないで欲しいという本音は…今日は言わないでおこう。


だって今日は、案外、タメになる言葉聞けたし。


母ちゃんもたまには役立つじゃん。


信じるっていう大切さ、かなりわかった気がする。

⏰:08/12/13 17:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#406 [ゆーちん]
礼も何も言わずに、俺は部屋に戻り、制服を脱いだ。


3年間ご苦労だった、我が制服。


私服に着替えてから時計を見た。


どうやら、母ちゃんの話を20分も聞いていたらしく、そろそろ凜を迎えに行く時間となっていた。

⏰:08/12/13 17:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#407 [ゆーちん]
もう一度、居間に行くと母ちゃんは昼ご飯を食べていた。


「貧相な昼飯だな。俺ら今からトメ食堂で美味いもん食って来るわ。」

「あっそ。そりゃようございますね。」

「こんな貧相な昼飯の為に遠恋してたわけじゃないのにーって後悔してる?」

⏰:08/12/13 17:30 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#408 [ゆーちん]
「…全然。こんな貧相な昼飯を食べる事ができる幸せがあるから遠恋しててよかったって思える。」


ちょっと感動した。


母ちゃんにとって、父ちゃんとの日々は何1つ後悔していなくて、俺もそんな風に凜との未来を夢見たいって思えた。

⏰:08/12/13 17:31 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#409 [ゆーちん]
「はぁ…。俺も結婚してぇ。」

「何言ってんのよ。あと10年は許さないからね。」

「…いってきます。」

「あいよ。」


先10年は結婚の許可が降りなかった俺は、杉浦家に向かった。


出迎えてくれたじいちゃんが『卒業おめでとう。』と言ってくれた。

⏰:08/12/13 17:32 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#410 [ゆーちん]
『ありがとう!』なんて話していると、凜が二階から降りて来た。


「仲良しだなぁ、お前ら。」

「心がまとわり付いてるだけ。それじゃあいってきます。」


あんな冷たい事言っといて、トメ食堂まで手を繋いで歩いてくれた凜。


可愛い彼女。

⏰:08/12/13 17:33 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#411 [ゆーちん]
「25歳になった時、貧相な昼飯食べながら、俺との恋愛は後悔はなかったって思えるようになっててね。」

「…ごめん。話が見えない。」

「いいの。こっちの話。」

「独り言なら一人のときに言ってよね。」

「…はい。」

⏰:08/12/13 17:33 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#412 [ゆーちん]
トメ食堂につくと、みんなから『やっと来た!』とか『遅い。』とヤジを飛ばされながら出迎えてもらった。


「凜はこっちー!」


香奈が手招きするテーブルに連れて行かれた凜。


「心はこっち来るなよ。」


そう言った竜の隣に座った俺。

⏰:08/12/13 17:35 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#413 [ゆーちん]
しばらくすると全員が集まったらしく、1番前にトメばあちゃんが立った。


背が小さいのでコンテナの上に登って、トメばあちゃんは話し出した。


「これから、笑って泣いて怒って哀しんで、人生の壁にぶちあたる。そんな時はドーンと素直にぶちあたれ。ぶちあたって怪我したら、いつでも島に帰ってこい。ばあちゃんはここにいる。白飯と豚汁と漬物くらいなら食わせてやる。」

⏰:08/12/13 17:36 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#414 [ゆーちん]
帰る場所があるって、こういう事なんだ。


トメばあちゃんの激励はみんなのココロを打っただろう。

⏰:08/12/13 17:37 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#415 [ゆーちん]
「悔いのない人生を送れ。15の子供達の旅に幸あれ。中学卒業おめでとう。はい、かんぱーい!」


トメばあちゃんのシンプルな言葉のあと、みんなも『乾杯!』と続いた。


宴の始まり。


毎年、中学の卒業式のあとはトメ食堂で打ち上げがある。

⏰:08/12/13 17:37 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#416 [ゆーちん]
それがこの島の伝統みたいなもん。


だからこの日ばかりはトメ食堂は貸し切り休業だ。


去年も、一昨年も、そのまた前の卒業生もトメばあちゃんの激励を受けて旅立ったり成長したり。


俺らも明日からその中の1人になるんだ。

⏰:08/12/13 17:39 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#417 [ゆーちん]
●○●○●○●

STOPします

>>2

●○●○●○●

⏰:08/12/13 17:39 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#418 [ゆーちん]
夕方5時まで食って騒いで盛り上がった。


「はーい、お開き!」


トメばあちゃんの声1つで5時になると例外なしに追い出される。


30人が食堂前に出る。


一気に辺りが賑やかになった。


「そんじゃあみんな、またな!」

「バイバーイ。」

⏰:08/12/13 23:11 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#419 [ゆーちん]
みんなそれぞれ散って行く。


凜も美穂や千夏、澪たちとバイバイしていた。


「心。」


香奈は肩越しに俺の名前を呼んだ。


「ん?」

「海行こうぜぇ。」

「賛成。」


近くにいた竜と大輝も賛成。

⏰:08/12/13 23:12 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#420 [ゆーちん]
4人で凜を呼びに行き、俺らは海に向かった。


3年生の後半からは5人でいることがほとんどだった。


きっかけは文化祭と修学旅行。


そういえば修学旅行で撮った写真、早く焼き増ししてんくんねぇかな。


まだ貰ってないのがたくさんある。

⏰:08/12/13 23:13 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#421 [ゆーちん]
でもまぁいつでも貰えるか。


俺ら、たぶんこれからもずっとツルんでいくんだろうし。


海につくと男3人はダッシュした。


寒い潮風が髪を乱した。


靴のまま海の水を踏む。


テンションが上がった。

⏰:08/12/13 23:14 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#422 [ゆーちん]
冷たいだの、やめろだの、たくさん騒いだ。


めちゃくちゃ青春だよ。


薄暗くなった海辺は影が砂浜へと伸びていて、とても印象深い1シーン。


「香奈!」

「ん?」

「この海の向こうにいる本島の彼氏に一言ぉ〜!」


こんなフリ、いつもの香奈なら絶対ノッてくれない。


だけど今日は違った。

⏰:08/12/13 23:14 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#423 [ゆーちん]
今日は特別な日だから、大輝のリクエストにすんなり答えた。


「世界1好きぃーっ!」


香奈の叫びに続いて、大輝も海に向かって叫んだ。


「宝くじが当たりますよーにぃーっ!」

⏰:08/12/13 23:15 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#424 [ゆーちん]
「アハハッ。彼女に向けてじゃねぇのかよ。」

「ただの願望。」

「んじゃ俺も。」


竜も叫んだ。


「将来、子供は3人欲しいぞぉーっ!」


4人で大笑いした。


顔に似合わず、そんな可愛い願いを叫ぶもんだから。

⏰:08/12/13 23:16 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#425 [ゆーちん]
「ギャハハハ!」

「父親キャラでもないくせに。」

「あ?文句あんのかよ。俺は子沢山な家族を夢見てんだよ。」


照れもせずに、向井竜はやりきった感たっぷりで潮風に髪を揺らされていた。


「次、凜か心。」

「んじゃ俺〜。」

⏰:08/12/13 23:16 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#426 [ゆーちん]
腹いっぱい息を吸い込んでいると、大輝は隣で呟いた。


「愛してるよ凜ちゃーん、とかなら別に聞きたくないから。」

「ゲホッ!」

「あら、図星?」

「何でわかんの!」


焦っていると竜までもが、

「そんな愛の言葉は二人っきりのときに囁いてやれ。。」

と文句をつけに来た。


急遽、発言、変更。

⏰:08/12/13 23:17 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#427 [ゆーちん]
考えに考えて結局は、

「いつか江森凜になってねーっ!」

というプロポーズのような言葉。


「うっわ、タチ悪いっつーの。」

「ガッカリだね。」

「2人、うるさい!さぁ凜ちゃんの返事は?」

⏰:08/12/13 23:18 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#428 [ゆーちん]
香奈が笑う隣で、凜は叫んだ。


「やーだよっ!」


その返事に竜と大輝と香奈は大笑いしていた。


「はい、心くん残念でした!」

「ギャハハハ、玉砕!」

「プロポーズ失敗だよ!」


凜も一緒に笑ってた。


「泣いてもいいですかーっ!」

⏰:08/12/13 23:19 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#429 [ゆーちん]
「ダメ!」

「泣くな、玉砕男!」

「アハハハッ!」


これでいい。


凜に断られようがバカにされようが、みんなが笑っていられるなら、それでいい。


いつか笑えないほどカッコいいプロポーズすっから、凜ちゃん待っててよ?

⏰:08/12/13 23:20 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#430 [ゆーちん]
ひたすら海で騒いだ後、辺りが真っ暗になって来たので解散。


またな、って言ってバイバイした。


俺は凜を送って行く。


手を繋ぎながら。


「寒い〜。凜ちゃんの手、暖かい。」

「水なんか触ってるからだよ。」


俺の冷たい手を、凜の小さな暖かい手が包んでくれていた。

⏰:08/12/13 23:20 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#431 [ゆーちん]
「あ、心?」

「はぁい?」

「卒業祝いあげる。」

「ん?卒業祝い?」

「…はい。」


目の前に差し出されたのは、鍵。


「鍵?」

「春から私が住む部屋の鍵。あげる。」

⏰:08/12/13 23:21 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#432 [ゆーちん]
冷たい金属が、せっかく凜のおかげで温もりかけていた俺の手に触れた。


「えっ、つーか、これっていわゆる…」

「合い鍵だよー。無くすなよー。」

「ちょっと待って。マジだめだって。」


立ち止まってしまった俺。


凜は笑っていた。


「何がダメ?そんな泣いてちゃ、私が泣かせたみたいに思われるじゃん。」

⏰:08/12/13 23:22 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#433 [ゆーちん]
「凜ちゃんが泣かせたんだよ…。」

「覚えがないなぁ?」

「…ありがと。本当、嬉しい。」


凜が俺の顔を覗き込みながら言った。


「私も嬉しい。鍵一つで泣いてくれるなんてさ。」

⏰:08/12/13 23:22 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#434 [ゆーちん]
凜の笑顔。


凜の手の温もり。


凜の言葉。


そして、鍵の冷たさ。


距離が何だよ。


そんなの、同じ海の上じゃん。


寂しいなんて言ってらんない。


こうやって、いつでも会える機会を与えてくれたんだから、悲しんでちゃバチが当たる。

⏰:08/12/13 23:23 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#435 [ゆーちん]
「引っ越しの日、笑顔で見送ってあげられる気がする。」

「それはよかった。みんなの前で泣かれちゃたまんないもん。」

「寂しくなったら、これでいつでも会いに行っていい?」

「その為の合い鍵なんだけど。」

⏰:08/12/13 23:24 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#436 [ゆーちん]
「凜ちゃんも寂しくなったら、すぐに俺んち来るんだよ?うち、鍵はいつでも開いてるから。」

「アハハッ。知ってる。」


暗くなった道で、軽くキスをした。


軽くだったのに、どんどん止まらなくなった。


「私も卒業祝いちょうだいよ。」

「何も持ってないんだけど。」

⏰:08/12/13 23:24 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#437 [ゆーちん]
「…心が欲しい、っていうリクエストは却下される?」


こうやって、大人っぽい色気を出す凜は本当に同じ歳なのか不思議に思う。


あんな言葉、反則でしょ。


「凜ちゃんち行っていい?」

「…いいよ。」

⏰:08/12/13 23:25 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#438 [ゆーちん]
杉浦家まで凜の手を引っ張って走った。


凜は『走らなくても私、逃げないよ。』って笑ってた。


何だかおかしくて、二人で大笑いしながら走った。


「ただいま〜。」


居間にいるじいちゃんばあちゃんに顔を見せてから、凜の部屋に直行した。

⏰:08/12/13 23:26 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#439 [ゆーちん]
「心ってポーカーフェ‥」


最後まで言い終わる前に俺は凜の言葉を邪魔した。


怖いくらい凜が好き。


怖いくらい凜の匂いが好き。


そんな事思ってると、止まったはずのものが滲んで来た。


唇を離した凜が笑った。

⏰:08/12/13 23:26 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#440 [ゆーちん]
「何でそんな泣き虫なの?」

「知らない。」

「何で今、泣いてんの?」

「幸せだから。怖いくらい。」


俺の頬を撫でる凜の手は小さくて温かかった。


「私は最悪だよ。」

「何で?」

「泣き虫が…移ったから。」

⏰:08/12/13 23:27 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


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