闇の中の光
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#698 [ゆーちん]
荷物は何もない。


萌子は手ぶらでここに来たのだから。


何も持たないその手を、哲夫に握ってもらい、家を飛び出した。


今日は冬らしくない気候だった。


暖かい風が私の背を押す。

⏰:09/01/24 21:45 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#699 [ゆーちん]
康孝の車に乗り込み、後部座席へと座る。


隣には哲夫。


車内は相変わらずうるさくて、首に巻く方でない車のマフラーが低く唸る。


窓の外は、シホのよく知る町並み。


だけど萌子には全く知らない町並み。


この街はシホの生まれた場所だから。

⏰:09/01/24 21:46 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#700 [ゆーちん]
10分もすれば、シホでも萌子でも知らない景色が広がった。


「なぁシホちゃん、こんな事聞いて機嫌悪くしたらごめん。」

「何?」

「どこに住んでたの?」


康孝の質問に、私はひるむ事なく答えた。


すると車内の空気が一転。

⏰:09/01/24 21:50 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#701 [ゆーちん]
何か変な事でも言っただろうか。


哲夫と目が合い、どうしたのかと聞くと苦笑しながら言った。


「駅5つ。」

「え?」

「シホの住んでた場所と、萌子の住んでた場所は、駅5つ隣だって事。」

⏰:09/01/24 21:51 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#702 [ゆーちん]
これには驚いた。


そんなに近かったなんて。


外出なんて滅多になかったから、よその景色を知らない。


家族で出掛ける訳もなく、買い物は近くのスーパー。


援交も学校も付き合ってた彼氏達も、地元か隣街程度。

⏰:09/01/24 21:51 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#703 [ゆーちん]
「そんな…近かったんだ。」

「シホちゃん、いつでも連絡しろ。俺が地元以外の景色いっぱい見せてやっから。」


世間を知らない可哀相な子への同情としての優しさだったとしても、康孝の気遣いは嬉しいものだった。


「うん、ありがとう。」

⏰:09/01/24 21:52 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#704 [ゆーちん]
しばらく走ると康孝が哲夫に声をかけた。


「テッちゃーん、あの倉庫ここら辺だっけ?」

「んー…もう少し先じゃねぇの?」

「わかんねぇし。シホちゃん覚えてる?」

「え?」

「自分がナイフ拾った場所。」

⏰:09/01/24 21:53 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#705 [ゆーちん]
神様が置いてくれた、あのナイフを拾ったのは…どこだったっけ。


もう覚えてないよ。


そもそも、どうやって歩いてったのかもわからない。


「…ごめん。覚えてない。」

「そっか。仕方ねぇ、勘だ!」


そもそも、どうして哲夫はあの場所にナイフを落としたのだろう。

⏰:09/01/24 21:53 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#706 [ゆーちん]
そっと哲夫に聞いてみた。


一応、哲夫だけに聞こえるように声を出したつもりが、車内がうるさいため声を上げなくてはいけない。


自然と康孝の耳にも、声が聞こえてしまったらしい。


「えっ、テッちゃん話してなかったんだ。」

⏰:09/01/24 21:54 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#707 [ゆーちん]
康孝が笑った。


別にそんな複雑な理由がある訳じゃなさそうだ。


だったら聞いてもいいよね?


「そういえば話してなかったな。教えて欲しいか?」


私は頷いた。

⏰:09/01/24 21:55 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


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