WHITE★CANDY
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#728 [ぎぶそん]
「そっちの人は?」
優平がもう一人いた生徒に投げかけた。
その彼が携帯を動かす手を止める。
「あんたも、俺らと一緒にバンドやらん?」
優平がもう一度彼に問いかける。
「……」
おどおどして黙りこくる生徒。気弱で物静かな性格のようだ。
「んじゃ、やるってことで決まり。じゃあバンド名決めようぜ」
優平が半ば強引に物事を進める。
その後、優平を中心とした話し合いが始まる。
三人共に落ちこぼれということからバンド名は「ハイスクールダスト」に決定した。
教師に生徒の役名は、荻野篤弘。短気を起こしやすい性格の半面、不正は許さない正義感の持ち主。留年経験は二度目で、今年19歳になる。
もう一人の生徒は、川島洋一郎。内気で友達がおらず、携帯のアプリゲームが趣味。病気がちで入退院を繰り返し、出席日数が足らず今年三度目の留年となった。今年20歳とこの中では最年長となる。
:12/04/23 22:01
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#729 [ぎぶそん]
舞台が暗転し、二度目の優平の語りが流れる。
―「こうして俺と篤弘と洋一郎の三人は放課後速やかに補習を済ませ、人が来る気配がほとんどない空き教室で毎日練習に明け暮れた」
再び舞台が明るくなると、薄汚れた教室で三人が楽器を手にしていた。
優平と篤弘役の男子がジャ、ジャと不慣れな感じでギターの音を出す。
洋一郎役の男子は経験者なのか器用な性格なのか、可もなく不可もなくベースの音を出していた。
「……後はドラムだけか。龍河、広報活動はばっちりなんだろうな!?」
篤弘役の男子が野太い声で優平に尋ねる。
「大丈夫。学校のいたるところにドラマー募集のポスター貼ってきたから」
優平が能天気そうな顔をして笑う。
「それ、先公に見つかったらまずいんじゃあねーのか!?この学校に軽音楽部があったら今頃のびのび出来たのになあ……」
落胆する篤弘役。
:12/04/24 21:18
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#730 [ぎぶそん]
「あの……」
その時、教室に一人の男子生徒が入ってきた。
小柄で眼鏡を掛けていて、身体は前屈み気味で小心者そうなタイプだ。
「僕、『ハイスクールダスト』のドラムやりたいんですけど、まだ募集してますか?」
その生徒が低姿勢で尋ねてくる。
三人が慌ててその生徒の元に駆け寄ってきた。
「うんしてるしてる!え、君ドラムやってくれんの?」
優平が落ちつきない態度で尋ね返す。
「僕、小学生の頃からドラムやってるから。この学校でバンド組めるなんて本当に嬉しい。あ、名前は工藤匠って言います。学年は一年です」
物腰の柔らかい匠役が、三人に握手を求めた。
このバンドに最年少のメンバーが加入した。
:12/04/24 21:32
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#731 [ぎぶそん]
―「うわっ、すげー!」
場面転換の後教室にドラムが登場すると、匠役が軟弱そうな見た目と打って変わって豪快な手つきでドラムを叩き始めた。
他の三人がその腕さばきに見とれ続ける。
観客席も感心を寄せる声でざわめいていた。
「お前ら、こんな所で何をしている!」
突然、補習の時にいた白衣を着た教師役が立ち入ってきた。
辺りを目配りして、気づいたように匠役に目にやる。
「君は、一年の工藤匠じゃないか。君みたいな成績優秀な生徒がどうしてこんな奴らとつるんでいるんだ!」
呆れた様子で匠役を怒鳴りつける教師役。
「隠れて練習をしていたのは謝ります。でも先生、僕たちの活動を認めて下さい!」
匠役がイスから立ち上がり、強気な声で哀願をする。
「そ、そうだよ!別に俺ら何も悪いことしてねーじゃん!補習だって最近真面目にやってるだろ?認めろよ!」
篤弘役も反論に出た。
「先生よお……俺、知ってるんだぜ?あんたが五組の田辺と恋仲だってこと。他の先生方が知ったらどう思うかなあ」
優平が教師役の周辺を回り、冷たい声と表情で物申す。
「わ、私をゆする気か!?」
動揺を隠しきれない教師役。
「安心しなよ、黙ってやるから。ただし、二度と俺らのやることに文句をつけるな。それから正式な部を作ることを許可しろ」
優平が教師役を指差しながら、力強い声で喋りあげる。
:12/04/24 22:09
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#732 [ぎぶそん]
「優平、かっこいい!……教師の方は性格悪い上にロリコンだなんて最悪ね」
隣で見ていたエリが耳元で囁いてきた。演劇の内容に専念しているようだ。
私自身も始めは感情移入出来ずにいたものの、舞台上の優平の役柄にすっかり虜になってしまった。
「……分かった、二度と君たちの活動にケチはつけない。でも、正式な部として公認は出来ない。」
変わり果てた姿の教師役が弱々しい声で話しはじめる。
「何でだよ?」
戸惑う篤弘役。
「この学校の決まりなんだ。新しい部活を作るとなると、まず全校生徒と先生方の審査を受けなければならない。そこで過半数の指示を得れば、正式に部として認められる。だから僕に権限はない。許してくれ」
教師役が頭を下げる。
「どうする?龍河」
篤弘役がその場で慌てふためく。
「……分かった。その審査を受ける」
優平が納得した顔で頷いた。
:12/04/24 22:34
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#733 [ぎぶそん]
優平のその台詞の後、舞台が暗黒に染まった。
―「その後、俺たちの審査を受ける日時が決まった。約一ヶ月後、体育館で行われる全校集会の後ステージ上でバンド演奏をする。足りない時間の中、俺たちは必死で練習を繰り返した」
優平の語りが聞こえた後舞台が明るくなると、四人がそれぞれ自分の楽器を練習をしていた。
「星井、聞いたよ。今度審査受けるんだって」
桜子役の子がやって来た。彼女はヒロインに相応しい華やかさがある。同性の私でも思わず釘付けになるほどだ。
彼女が優平の近くにある机の上に身を乗せた。
「あまりにも下手っぴな演奏だったら、アタシ投票してやんないよ。じゃ、練習頑張って」
彼女がすぐに机から下り、教室から出ようとする。
背を向ける彼女に、優平が重々しい声で「桜子」と呼び止めた。
その声に振り返る彼女。
「俺、審査の時はお前の為に歌うから」
何か言いたげそうな顔を見せつつも、彼女は無言のまま立ち去った。
:12/04/24 23:05
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#734 [ぎぶそん]
「お前がバンドやろうって言い出したのは、あの子の為?」
桜子役がいなくなって、篤弘役が優平に問いかけた。
「ああ。中学の時に死んだバンドマンの彼氏が忘れられんのだと。だから俺がその記憶塗り替えてやろうと思って」
優平が哀しげに自分のギターを見つめる。
「俺、このメンバーでバンド出来たこと誇りに思うよ。最近身体の調子もいいんだ」
これまで目立った出番がほとんどなかった洋一郎役が口を開いた。
「洋一郎は見た目ワルそうなのに超いい奴だよな」
篤弘役がそう言うと、三人が洋一郎の姿をまじまじと見つめる。
茶色がかった髪の色に、開けられた学ランのボタン。その学ランも、喧嘩でもしたかのようにひどく古びている。
「あ、この髪の色は生まれつきなんだ。ボタンを開けてるのは息が苦しいから。学ラン!?四年も着てればボロボロになるよ!」
洋一郎役のひょうきんな声と仕草で説明をするので、三人に大きな笑いが起こった。
笑いを取ったのが嬉しいのか洋一郎役も続けて笑う。
:12/04/24 23:25
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#735 [ぎぶそん]
匠役も学業ばかりの毎日から抜け出し、自分の好きなことをのびのびとやれる今が楽しいと感想を述べた。
四人が改めて友情を確かめあったところで、舞台の照明が落ちた。
―「そして、審査の日がやって来た」
間もなくして優平の語りが入り、舞台が光に照らされる。
舞台の真ん中には教卓たけがぽつんとあり、そこには朱色のスーツを着た男子生徒が立っていた。
頭に白髪のかつらを被り、口には長い白髭を装飾しており、おそらく校長先生の役かなと思った。
「……えー、私からの話は以上になります。この後皆さんには審査による新部活動発足の是非を決めてもらいます。審査が終わった後、教室に戻ってから所定の用紙に賛成か反対かを記入してください。結果は後日、各ホームルームでお知らせします」
その先生役はしゃがれた声で説明をし終えると、ゆっくりと上手まで立ち退く。
代わる代わるで今度は優平たちがマイクや楽器、音響道具などを持って登場した。
それぞれバンド形式となるように用具をセットし始める。
その間、会場全体に長い沈黙が走る。
:12/04/25 23:57
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#736 [ぎぶそん]
四人が各々自分の楽器の調子を一通り確認した後、ステージ中央に立つ優平がスタンドマイク越しに口を開いた。
「えっと、俺らは新しく軽音楽部設立を希望する者たちです。俺の名前は星井龍河、今年進級出来ず二度目の二年生をやっています。ギターの荻野篤弘も二度、ベースの川島洋一郎も三度この学校を留年しています。
俺らは皆さんから見たらひどい落ちこぼれだと思います。でも、そんな俺らも音楽を通して自分の生き甲斐を感じることが出来ました。ドラムの工藤匠は俺ら三人と違って真面目だけど、音楽やってる今がすごく楽しいと言っています。
この中でも音楽やりたくても部がないからって断念してる人、いると思うんです。この学校には音楽が必要だと思います。
最後に先生方、今まで様々な迷惑を掛けてすみませんでした。俺ら三人、真面目に心を入れかえてこの学校をきちんと卒業します」
今までで一番長い台詞を、感情込めて丁寧に述べる。
皆の心に何か訴えかけてくるようで、彼の思いがこちらにしんみりと伝わってくる。
今またに、優平と役である星井龍河の気持ちが一つになったのだと感じた。
:12/04/26 00:19
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#737 [ぎぶそん]
「それでは聴いて下さい。ハイスクールダストで『サクラプソディー』」
紹介を全て言い終えた後、優平がギターを手に取る。
ドラムの匠役がスティックを叩きながら、「ワン、ツー、」とカウントを取り出した。
「スリー」の声に合わせて、四人が演奏を始める。
「君の好きな季節が 今年もやって来たのに
うかない顔して 涙ぐんで
今でも アイツのことを忘れられないの?
今という現実が美しく淡く燃えている
だからもう 振り返らないで前を見て
君の涙が渇く理由を 僕が見つける だから
この世界が桜色に染まる頃には 僕のところへおいでよ
僕のところへおいでよ」
優平がギターの押さえる指を時々確認しながら、観客席に向かって歌う。
きっと、四人で数えきれない位練習したんだろうなと痛感した。
彼の中性的でまっすぐな歌声が、会場全体を柔らかく包み込む。
前の席に座っている人の中でこの曲を知っているのか自然とそうなっているのか、身体でリズムを取っている人が何人かいた。
隣で見ているエリも、わくわくした表情で曲に合わせて口ずさんでいた。
私も彼らの歌を身体全体で感じる。
:12/04/27 00:02
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