WHITE★CANDY
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#738 [ぎぶそん]
四人の演奏が終わると、観客席で大きな拍手が起こった。
私も賞賛の意を込めて彼らに手を叩いた。

優平が「有難うございました」と一言添え、四人が小さく頭を下げたところで舞台が暗くなる。

朱色をした照明が舞台を照らすと、夕方の背景をした教室の真ん中に優平と桜子役の子の二人だけがいた。
「星井、良かったね。部活認めてもらえて」
机にもたれかかった桜子役が、足をばたつかせて彼に話しかける。
話の流れではどうやら審査に無事受かったようだ。

「これからはもっと部員集めないとなあ。……で、俺の歌どうだった?」
姿勢を正し、彼が緊張の面持ちで彼女に問いかける。
「うーん、普通?」
あっさりと答え、けらけらと笑う彼女に彼が落胆する。
「嘘だよ、ウ・ソ。すごく良かった。携帯の着信音にしたいから、今度生演奏録音させて?」
彼女がポケットから携帯電話を取りだし、彼に見せる。

そして、二人が至近距離で見つめあう。
彼が切ない声で「桜子……」と呼び、彼女を抱き締めた。
その気持ちに応えるように彼女も「星井……」と呼び、細い腕を強く回した。

⏰:12/04/27 00:40 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#739 [ぎぶそん]
二人が現実に戻ったかのように身体を離すと、F組の生徒全員がステージにやって来た。
一列になり皆で「有難うございました!」と張り上げた声で言い深く頭を下げると、観客席でもう一度彼らに割れんばかりの拍手が沸き起こった。

私も目一杯の力で拍手をしつつも、心の中では複雑な感情を消しきれないでいた。
役の為とは言えども、最後に優平と抱き合った桜子役の女子に嫉妬心が芽生えてしまったのだ。

小学校低学年の時、よく一緒に遊んでいた同じクラスの女の子がいた。その子を家に連れてきたら父がいつも「かわいいかわいい」と褒めていて、私はそこで生まれて初めて焼きもちを妬いたのを覚えている。
あの時依頼だ。こんな気持ちになるなんて。
自分を恥ずかしく思う。たけど、私は本当に彼が好きなんだなと実感する。

⏰:12/04/27 01:02 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#740 [ぎぶそん]
最後のG組のステージ発表の内容もあまり印象に残らないまま終わり、全てのクラスの発表及び今年の文化祭が終わった。

翌日、朝のホームルームでステージ発表の結果が言い渡された。
優勝は優平のいるF組。圧勝と言ってもいいほど票が入っていたという。
二位は、何と私たちB組。準優勝の表彰状が担任の手から委員長の篠崎君に渡された。
元基のいるC組は六位と、箸にも棒にも掛からない結果で終わった。

一限目の体育に合わせて、エリと一緒に体育館まで話しながら移動をする。
「二位になれたのは嬉しいけど、やっぱり優勝じゃないなんて悔しいー!
きっと優平目当ての女子共がF組に票を入れたに違いないわ!」
ステージ発表の結果を悔しがるエリ。
「ううん、私もF組のステージ発表が一番素晴らしかったと思うよ。皆熱演だったしセットも演出も細かく作ってあったし。
何より、主人公とヒロインが物語を通して『成長』していたのが良かった。」
主人公は不真面目な自分を、ヒロインは過去を忘れられない自分を変えたのが後味の良さを覚えた。

⏰:12/04/27 01:30 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#741 [ぎぶそん]
「そんな悠長なこと言って、七瀬玲央奈に優平を取られても知らないよ」
「ナナセレオナ?」
聞き覚えのない名前を、私はエリに聞き返した。
「桜子を演じてた子よ。あの子、グループの子たちと一緒になってよく優平にまとわりついてるから」

七瀬玲央奈。あの子、そんな名前だったんだ。
文化祭一日目も私の存在を無視して優平を誘ってたし、そう考えると彼のことが好きなのかな。
悔しいけど、演劇を見ると彼女は彼の隣が似合ってたな。
細身で顔も整っているし、ライバルになるには避けたい人物である。

その日の放課後、職員室で数学の先生に今日の授業の質問を終えると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「文化祭、お疲れ」
優平だった。

⏰:12/04/27 01:54 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#742 [ぎぶそん]
昨日までパーマだった彼の髪が、普段の真っ直ぐなヘアスタイルに戻っていた。
「良かったら今から屋上で話さない?」
珍しく彼が私を誘ってきた。
「いいよ」
考える間もなく私は即答した。

「俺、先にちょっと吉川先生に用事あるから。悪いけど先に屋上行って待ってて」
プリントを片手に、彼がせわしそうな顔をする。
私は「分かった」と言って頷いた。

数学のノートを持ったまま最上階まで上がり、古びた屋上のドアを開けた。
顔を見上げると、一面どんよりとした曇り空が視界を覆った。
一昨日の文化祭一日目は晴天に恵まれて良かったなと、ほっとした思いが巡る。

二日間の文化祭をぼんやりと思い返していると、途中で「お待たせ」と一声掛けて優平がやって来た。
「ステージ発表優勝おめでとう」
第一声に私は昨日の彼の雄姿を褒めた。

⏰:12/04/27 02:14 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#743 [ぎぶそん]
彼が照れ臭そうにする。
「ギターは難しかった?」
一番気になっていることを彼に質問してみた。
「なかなか苦戦した。家に帰ってからも毎日ずっと練習してたし。まあ、バイオリニンに比べたら上達は早かったかな」
夏休み彼の家に遊びに行った時、彼が私の前でバイオリニンを弾いてくれたことを思い出した。
ギターもバイオリニンも、私だったらすぐ挫折してるだろうな。

「七瀬玲央奈さんだっけ。桜子役の子。すごく可愛かったね」
私は本心でありつつも彼に賛同を求めたくない言葉を言ってしまった。

「そうかな?俺、そんなこと一度も思ったことない。
……真希が桜子役だったら良かったのにな―」
「え……?」
惜しむ表情を見せる彼に、どうしていいか戸惑う私。
だけど心の中で彼の言葉の全てが嬉しいと思ってしまう自分は、嫌な人間なのかな。

⏰:12/04/27 02:38 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#744 [ぎぶそん]
【※743 正しくはバイオリンです。大変失礼致しました】

彼が手に持っていた漫画をぱらぱらと捲り始めた。
「ほら見てみて。雰囲気とか性格とか、真希と似てるんだよな」
桜子が載っているページを探し、私の前に差し出した。
真っ直ぐで長い黒い髪に、切れ長の目。原作の桜子は七瀬玲央奈が演じて感じたイメージと違い、飾り気のない落ち着きのある女の子として描かれていた。

「ま、まあ桜子より真希の方が、か、可愛い……けどな!」
彼が急にしどろもどろしだした。そして少し息を落ち着けて、
「昨日の梅原春佳の役、凄く良かったよ。何だっけ?『捕まえて!』って奴、やってみてよ」
と意味ありげな薄笑いを浮かべて指図してきた。
「嫌だ!恥ずかしい!」
私は大きく首を横に振った。
目の前の彼に目を瞑って唇を強調するなんて、顔から火が出る勢いだ。

「残念だなあ。じゃあ俺、そろそろ部活の練習に行くわ」
彼がその場を立ち去りながら手を振る。
私も手を振り返して彼を見送った。

⏰:12/04/27 22:49 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#745 [ぎぶそん]
その日の晩。優平に「可愛い」と言われた喜ばしさを心の中で何度も噛み締めながらも、夕食の席で気丈に振る舞っていた。

「準優勝おめでとう!」
父は生ビール、私と東吾兄はオレンジジュースで乾杯をする。
父が駅前で買ってきてくれた唐揚げを皆で頂く。

「父さんも真希の踊り観たかったなあ」
酔いが回ったのか、顔を真っ赤にした父がいつも以上に饒舌になる。

「東吾兄は『星くずロック』読んだことある?」
呂律の回らない父の話を無視し、テレビ番組を観ている東吾兄に話し掛けた。
「あるよ。部室に全巻あるし」
テレビに視線を向けたまま、私の質問に答える東吾兄。
「何だっけ。サクラ……サクラ……」
私は演劇中に優平が歌っていた曲のタイトルを失念した。
「サクラプソディーのこと?実写化でCDリリースされた時、音楽ランキングで初登場三位だったな。俺は原作のイメージと違うと思ったからあんまり好きじゃないけど」
東吾兄がご飯を口に含みながらもごもごと喋る。

サクラプソディー。私にとってはいい曲だったな。

⏰:12/04/27 23:19 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#746 [ぎぶそん]
夕飯を食べ終え部屋に上がると、私はすかさず机に座りノートパソコンを立ち上げた。
「サクラプソディー」で検索をかけるとトップに公式サイトがあり視聴再生可能の文字が見えたのでアクセスして聴いてみた。

プロモーションビデオの映像の中で、テレビでよく見る若手俳優がギターボーカルの役で歌い上げていた。
意中の彼への贔屓目か、優平の歌声の方が好きだなと感じた。

この歌を聴いてると、もう一度文化祭二日目の情景が甦ってきた。
結果的には二番であっても、エリ以外のクラスメートの女子たちと親しくなれたし私には何にも変えがたい最高の思い出となった。
そして、一度も聴いたことのない優平の歌声も聴くことが出来た。

「この世界が桜色に染まる頃には 僕のところへおいでよ
僕のところへおいでよ」
私は大切な皆のことを思い浮かべながら、文化祭の思い出の曲となるサクラプソディーのサビを口ずさんだ。

Chapter08 END.―

⏰:12/04/27 23:54 📱:Android 🆔:Mg0JTWgc


#747 [ぎぶそん]
Chapter09
「映画オタク」

⏰:12/04/28 00:21 📱:Android 🆔:t4h2WC2g


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